弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中被告人に関する分を破棄する。
     被告人を懲役八年に処する。
         理    由
 弁護人内藤惣一、同水上孝正の共同控訴趣意は同人等共同作成名義の控訴趣意書
と題する末尾添附の書面記載の通りである。これに対し当裁判所は次の通り判断す
る。
 <要旨第一>第一点 刑法第二百三十八条の窃盗が逮捕を免れるため暴行脅迫を加
えたという準強盗罪の成立には犯人が少くとも窃盗の実行行為に着手し
たことを要するのである。しかして窃盗の目的で他人の家に侵入してもこれだ<要旨
第二>けでは窃盗の実行着手ではない。其の着手というがためには侵入後金品物色の
行為がなければならない。原判決が認定した事実は被告人は昭和二十四
年一月二十九日午後十一時頃判示のような事情から窃盗の目的で判示A方に赴き同
家北側の窓に足を掛け屋根に登り屋根伝いに二階南側の雨戸の開いていた箇所から
同居宅に侵入した折柄同家二階六疊間に就寝中の前記Aが其の物音に目覚めて起き
上り飛び掛つて来たので其の逮捕を免れる為矢庭に同人を力委せに突き倒して其の
後頭部を後方の障子に打ちつけ因つて同人をして右シヨックに因る心臓麻痺のため
即死するに至らしめたのである。而して右事実(死因の点を包含する)は記録並び
に原審の取調べた証拠(殊に死因については鑑定書)によつても誤認がないのであ
る。なお被害者に所論のように心臓病患があつたとしても右事情は普通あり得る事
情であるから被告人の行為の因果関係を中断することはない。故に因果関係中断に
関する論旨は理由ないのであるが右の様にA方に侵入しただけでは未だ窃盗の実行
行為の着手とは認められない。従つて右事実は準強盗でなく従つてAを現場で死に
致しても強盗致死罪の成立がない。単に傷害致死罪の成立があるだけである。しか
るに原制決が右事実に対し刑法第二百三十八条、第二百四十条後段の規定を適用し
たのは擬律錯誤の違法があつて右違法は判決に影響あること明白である。
 原判決はこの点に於て破棄を免れない。故に刑の量定論旨に対する説明は省略す
る。
 上述のように原判決は破棄を免れないが事件は当裁判所に於いて原裁到所で取調
べた証拠で直ちに裁判することができるから刑事訴訟法第三百九十七条第四百条に
より自ら裁判する。
 原判決の認定した事実を法律に照すと被告人の傷害致死の所為は刑法第二百五条
第一項に該当するから其の刑期範囲内で被告人を懲役八年に処すべきものとする。
 住居侵入の点は公訴の提起ないものと認めるからこの点については法律の適用を
しない。
 仍つて主文の通り判決する。
 (裁判長判事 吉田常次郎 判事 保持道信 判事 鈴木勇)

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