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平成20年12月25日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成19年(ワ)第18724号損害賠償請求事件
口頭弁論終結日平成20年11月17日
判決
東京都文京区<以下略>
原告株式会社ゼロシステム
訴訟代理人弁護士塩野正視
東京都中野区<以下略>
被告有限会社スタジオライン
訴訟代理人弁護士伊藤真
同清水琢麿
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
被告は,原告に対し,1000万円及びこれに対する平成16年12月1
7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
1事案の要旨
本件は,原告が,別紙著作物目録記載のコンピュータゲームソフトウェ
ア(以下「本件ゲームソフト」という。)は,原告が著作権を有する「映画
の著作物」又は「画像,音楽,プログラム及び脚本を有機的に結合した複合
的著作物」に当たり,被告による別紙被告製品目録記載のコンピュータゲー
ムソフトウェア(以下「被告ゲームソフト」という。)の製作は,本件ゲー
ムソフトの翻案又は本件ゲームソフトの脚本(シナリオ)の翻案に当たる旨
主張して,被告に対し,本件ゲームソフト又はそのシナリオの著作権(翻案
権)侵害の不法行為に基づく損害賠償を求めた事案である。
2争いのない事実
(1)当事者
ア原告は,コンピュータソフトウェアの開発及び販売等を目的とする株
式会社である。
イ被告は,コンピュータゲーム機器に関するソフトウェアの企画,開
発,製作及び販売等を目的とする特例有限会社である。
(2)本件ゲームソフト
ア日本プランテック株式会社(以下「日本プランテック」という。)
は,平成7年8月25日,本件ゲームソフトの販売を開始した。
イ本件ゲームソフトのシナリオは,A(以下「A」という。)によっ
て,同原画は,B(以下「B」という。)によって,同プログラムは原
告によってそれぞれ創作された。なお,Bは,現在,被告(平成9年6
月20日設立)の代表取締役である。
本件ゲームソフトのパッケージ(甲2)の裏面には,「□原作・シナ
リオA」,「□原画B」,「□音楽O.E.L.」,「日本販売
プランテック株式会社」,「日本プランテック/ZEROSYSTEM」との表9
示がある。
(3)被告ゲームソフトの製作・販売
被告は,平成16年12月17日,被告が製作した被告ゲームソフトの
販売を開始した。被告は,その販売に当たり,被告ゲームソフト(タイト
ル「真説猟奇の檻」)は本件ゲームソフト(タイトル「猟奇の檻」)の「
リメイク版」であると広告宣伝した。
3争点
本件の争点は,本件ゲームソフトが「映画の著作物」に当たるかどうか,
また,その著作権が原告に帰属するかどうか(争点1),本件ゲームソフト
が「画像,音楽,プログラム及びシナリオを有機的に結合した複合的著作
物」に当たるかどうか,また,その著作権が原告に帰属するかどうか(争点
2),被告ゲームソフトは本件ゲームソフト又はそのシナリオを翻案したも
のかどうか(争点3),被告が賠償すべき原告の損害額(争点4)である。
第3争点に関する当事者の主張
1争点1(映画の著作物該当性及びその著作権の帰属)について
(1)原告の主張
ア本件ゲームソフトは,映画の著作物に該当する。
すなわち,本件ゲームソフトは,基本的には静止画像を利用している
が,多数の静止画像の連続によって構成され,静止画像の画面ごとに音
楽や台詞を加え,台詞の終了ごとに所定の位置をクリックすること等を
きっかけとして画面が変わり,連続する影像として表示されている。映
画は,静止画像が連続して表示されることにより動的に受け取られるも
のであり,本件ゲームソフトも,多数の静止画像が連続して表示される
点において,映画と本質的な違いはない。
そして,本件ゲームソフトは,連続する影像を鑑賞しつつ,場面の転
換を受けて対応を選択してプレイが成立するものであり,場面の転換が
行われることによってストーリーが組み立てられるという本質的部分に
おいて映画と類似している。
また,本件ゲームソフトは,原画,音楽,シナリオ,プログラム等の
各パーツを総合し,一つのゲームソフト(コンピュータゲームソフトウ
ェア。以下同じ。)として作り上げられたものであり,このように,絵
画や小説などとは異なり,複数の異なる種類の著作物を統合して一つの
世界を作り上げるという製作過程も,映画と同様である。
したがって,本件ゲームソフトは,映画の著作物に該当する。
イ映画の著作物である本件ゲームソフトの著作権は,以下のとおり,原
告に帰属する。
(ア)原告代表者は,百貨店を舞台に,失踪事件が発生し,それを解決
するという流れでゲームを進行させるアダルト向けゲームソフトを製
作するという基本構想を練り,シナリオはA,原画はB,プログラム
等は原告が担当することを決定し,原告代表者が各担当者に指示を出
しながら,本件ゲームソフトを製作した。
本件ゲームソフトの製作経緯は,次のとおりである。
まず,本件ゲームソフトのプログラムは,原告が作成した基本プロ
グラムに各種データやイベントを適宜付加,修正して作成された。
次に,シナリオはプログラムとの親和性が必要なため,Aが,原告
代表者の基本構想を元に,原告代表者と協議しながら,本件ゲームソ
フトのシナリオを作成した。
そして,原告は,Bが紙媒体で作成した原画や,音楽をデジタルデ
ータ化し,コンピュータ画面上で,修正,編集,彩色作業を行うなど
して,原画(画像),音楽,シナリオを統合するプログラミングを行
い,本件ゲームソフトを製作した。
このように本件ゲームソフトは,原告が作成したプログラムが基本
にあって,その範囲でゲームが組み立てられており,しかも,原告
が,舞台設定やゲームの大枠を決め,原画(画像),音楽,シナリ
オ,プログラムの最終的な統括作業を行って映画の著作物である本件
ゲームソフトを完成させたから,その著作者(著作権者)は原告であ
る。
(イ)原告と日本プランテックは,本件ゲームソフトの製作費用につい
てその製作過程においてそれぞれが負担した費用をそれぞれが負担す
ることとした。具体的には,原告がプログラミング(各パーツの統合
作業を含む。)及びシナリオの費用を負担し,日本プランテックが,
原画,音楽の外注費用,パッケージ作成費用,販売諸経費を負担し
た。
そして,原告は,平成7年6月29日,同年7月20日及び同年8
月16日の3回にわたり,Aに対し,本件ゲームソフトのシナリオ作
成費用として合計100万円を支払い,Aから,同シナリオの著作権
を買い取った。
このほか,原告は,本件ゲームソフトのプログラミング費用として
概ね800万円を負担している。
一方で,原告は,日本プランテックに対し,本件ゲームソフト(複
製物)の製作,販売を委託し,日本プランテックは,本件ゲームソフ
トの販売代金から経費等を差し引いた金額(定価の15パーセント相
当額)を原告に入金していた。
(ウ)また,日本プランテックは,Bから,本件ゲームソフトの原画の
著作権を譲り受けた後,原告に対し,同原画の著作権を譲渡した。同
様に,日本プランテックは,本件ゲームソフトの音楽の著作権を取得
して原告に譲渡した。その結果,本件ゲームソフトの原画,音楽,シ
ナリオ及びプログラムの各著作権はいずれも原告に帰属するに至った
ものであり,この点も,映画の著作物である本件ゲームソフトの著作
権が原告に帰属することを裏付けるものである。
さらに,原告は,日本プランテックとの間で,映画の著作物である
本件ゲームソフトについて原告が著作権を有することを合意してい
る。
ウまとめ
以上によれば,本件ゲームソフトは,原告が著作権を有する映画の著
作物である。
(2)被告の反論
ア本件ゲームソフトは,映画の著作物に該当しない。
すなわち,本件ゲームソフトにおいて,動画的な影像は,主人公等が
ビル内のマップ上の通路などを移動する場面のみであり,その場面は,
静止画像で表示されているマップ上において,静止画像で表示されてい
る主人公等のキャラクターが上下左右に移動しているにすぎず,数枚の
静止画像が組み合わされた極めて単純なものである。なお,ショップな
どで登場人物が画面中央部に大きく登場し,会話をする場面もあるが,
その場面も静止画像として表現され,画面の下部に,会話文が順次表示
されているにすぎない。
以上のとおり,本件ゲームソフトの影像は,ごく一部に動画が存する
のみで,ほとんどが静止画像であるから,映画の著作物に該当しない。
イ(ア)本件ゲームソフトの基本構想は,日本プランテックの当時の社員
CとAにより練られたものであり,原告は,この基本構想の立案に関
わっていない。
本件ゲームソフトに原告のプログラムを利用したことは事実である
が,当該プログラムは,プレーヤーの選択に従って,会話文を表示し
たり,画面を展開したりする汎用性を持つものにすぎない。また,シ
ナリオ記載の会話文,説明文,選択肢などの文字表示,原画などの画
像,音楽や効果音などをデジタルデータとして取り込み,修正,編
集,彩色(原画の指示に従って行うCG着色)作業を行い,これらの
デジタルデータをシナリオに従って表示されるようにプログラミング
する作業は,映画の著作物における創作行為ではない。しかも,上記
プログラミングの作業は,原告が日本プランテックからの委託に基づ
いて行ったものにすぎない。
(イ)本件ゲームソフトの製作資金は,原告が負担したものではなく,
日本プランテックが負担したものである。
そして,日本プランテックは,本件ゲームソフトの原画を創作した
Bから,同原画の著作権を,本件ゲームソフトのシナリオ(登場人物
等の設定,ストーリー,ゲーム上で表示される登場人物等の会話文や
選択肢などの原作・シナリオを意味する。)を創作したAから,同シ
ナリオの著作権を譲り受けた後,被告に対し,上記各著作権を譲渡し
た。
なお,Aは,原告から本件ゲームソフトのシナリオの作成費用とし
て100万円の支払を受けた事実はあるが,Aが原告に対し同シナリ
オの著作権自体を譲渡した事実はない。
(ウ)本件ゲームソフトのパッケージの裏面には「日本プランテック/9
ZEROSYSTEM」と表示されているところ(前記第2の2(2)イ),この
表示は,本件ゲームソフトの影像に相当する著作物の著作権は日本プ
ランテックに帰属し,本件ゲームソフトでは原告が著作権を有するプ
ログラムを使用していることを示すものである。原告が映画の著作物
としての本件ゲームソフトの著作権,更には本件ゲームソフトに係る
原画,音楽,シナリオの著作権まで有するとの原告の主張は,上記表
示と矛盾するものである。
また,仮に本件ゲームソフトが映画の著作物であるとすれば,その
映画製作者は,原告ではなく,日本プランテックであり,その著作
者(著作権者)も日本プランテックである。なお,日本プランテック
と原告との間で,原告が本件ゲームソフトの著作権を有する旨の合意
をした事実はない。
2争点2(複合的著作物該当性及びその著作権の帰属)について
(1)原告の主張
ア本件ゲームソフトは,シナリオを中核として各画像や音楽が統合さ
れ,コンピュータプログラムに基づくゲーム上のコマンドを利用するこ
とによって統一的な意図の下にゲームを進行させるゲームソフトであ
る。
したがって,本件ゲームソフトは,画像,音楽,プログラム,シナリ
オ等の著作物の単なる集合体ではなく,それらが有機的に結合し,不可
分一体となって新たなゲームの世界を作り出した複合的著作物に該当す
る。
イ本件ゲームソフトの製作経緯は,前記1(1)イ(ア)のとおりであって,
原告は,本件ゲームソフトの製作に当たり,最終的に画像,音楽,プロ
グラム,シナリオ等の各部分を統合し,一つのゲームソフトを完成させ
たのであるから,複合的著作物としての本件ゲームソフトの著作者(著
作権者)である。
すなわち,ゲームソフトの製作においては,シナリオや原画,音楽が
あるだけではゲームソフトとして完成するものではなく,プログラムと
いう骨組みの中に,それぞれを適宜配置する必要がある。本件ゲームソ
フトにおいても,シナリオそれ自体は小説のようなものであり,ゲーム
としてふさわしいように場面等を設定し,原画(画像)や音楽,クリッ
ク設定等を組み合わせてゲームとしての体裁を整えなければならず,ま
た,原画については,デジタルデータ化に伴って適宜必要な加工を行
い,シナリオの場面に合わせて設定するとともに,台詞を加え,音楽に
ついても,デジタルデータ化して,場面ごとに適切な音楽を設定し,加
工する必要があったが,原告は,それらの統合作業を行い,一つの著作
物(複合的著作物)として完成させた。
また,日本プランテックが本件ゲームソフトの製作のために一定の資
金を拠出していたとしても,前記1(1)イ(ウ)のとおり,原告は,日本プ
ランテックとの間において,原告が本件ゲームソフトの著作権を有する
ことを合意している。
ウまとめ
以上によれば,本件ゲームソフトは,原告が著作権を有する複合的著
作物である。
(2)被告の反論
ア原告が主張する複合的著作物は,いかなる著作物をいうのか,その主
張の趣旨は不明瞭である。
もっとも,仮に原告が,骨格となるプログラムに,シナリオに従っ
て,原画(画像)や音楽などをデジタルデータ化して統合したとして
も,そのことによって原告が主張するような本件ゲームソフトの著作権
を原告が取得したことにはならない。ましてや本件ゲームソフトに係る
原画(画像),音楽,シナリオの各著作権を原告が取得したことにはな
らない。
すなわち,前記1(2)イ(ア)のとおり,会話文,説明文,選択肢などの
文字表示,原画などの画像,音楽や効果音などをデジタルデータとして
取り込み,シナリオに従って表示されるようにプログラミングする作業
は,本件ゲームソフトの影像の創作行為ではない。また,上記プログラ
ミングの作業は,原告が日本プランテックからの委託に基づいて行った
ものにすぎない。
イ前記1(2)イ(イ)のとおり,本件ゲームソフトの製作資金も,原告が負
担したものではなく,日本プランテックが負担したものであり,また,
被告は,日本プランテックから本件ゲームソフトの原画の著作権及びシ
ナリオの著作権を譲り受けている。
3争点3(翻案の有無)について
(1)原告の主張
ア被告ゲームソフトは,映画の著作物又は複合的著作物としての本件ゲ
ームソフトを翻案したものである。
すなわち,被告ゲームソフト(タイトル「真説猟奇の檻」)は,「猟
奇の檻」シリーズの一環として,本件ゲームソフト(タイトル「猟奇の
檻」)のリメイク版として販売されている。
そして,本件ゲームソフト及び被告ゲームソフトは,いずれもロール
プレイング型のアドベンチャーゲームであり,プレイする前提としての
設定条件が重要な意味を持つところ,本件ゲームソフトと被告ゲームソ
フトとを比較すると,別紙対比表のとおり,「1ゲームの設定」,「
2主要登場人物の名称及びキャラクター」,「3主要登場人物の画
像」,「4百貨店内の店舗配置図」,「5百貨店内の店舗の設
定」,「6主要登場人物のゲーム内での出現時間・選択すべき会話
等」が,いずれも同一であるか,ほぼ同一である。もっとも,被告ゲー
ムソフトには,本件ゲームソフトに若干の登場人物や舞台を加えるなど
した部分もあるが,基本的な部分は,同一の設定となっており,名称も
含めて本件ゲームソフトから変更はない。
したがって,被告ゲームソフトは,本件ゲームソフトに依拠して創作
された映画の著作物又は複合的著作物であって,被告ゲームソフトから
本件ゲームソフトの表現上の本質的特徴を直接感得することができるか
ら,被告ゲームソフトは,本件ゲームソフトを翻案したものである。
イ上記アによれば,被告ゲームソフトは,少なくとも本件ゲームソフト
のシナリオを翻案したものである。
(2)被告の反論
ア(ア)原告主張の別紙対比表に対する認否
①「1ゲームの設定」について
被告ゲームソフトの設定が概ね別紙対比表に記載のとおりである
ことは認めるが,本件ゲームソフトの設定については不知。
②「2主要登場人物の名称及びキャラクター」,「3主要登場
人物の画像」について
別紙主要登場人物名称・キャラクター一覧の「海野涼一」は被告
ゲームソフトには存在せず,これに対応する登場人物として「海野
純一」が存在する。「海野純一」のキャラクターは,本件ゲームソ
フトにおける「海野涼一」とは異なり,「警備部で唯一の常識人。
仕事をしない斎藤に変わり,日誌などの雑務の全てを一人でこなし
ている。」とされている。
別紙主要登場人物名称・キャラクター一覧のうち,「海野涼一」
以外の登場人物(11名)が本件ゲームソフト及び被告ゲームソフ
トに存在すること,登場人物の画像が別紙主要登場人物画像一覧の
とおりであることは認める。ただし,被告ゲームソフトの登場人物
は,原告主張の登場人物に限られず,30名程度存在する。
③「4百貨店内の店舗配置図」,「5百貨店内の店舗の設定」
について
別紙店舗配置図のうち,被告ゲームソフトに関する部分は認める
が,本件ゲームソフトに関する部分は否認する。被告ゲームソフト
では,別紙店舗配置図のとおり,各階がAないしTの各ブース(合
計20箇所)に分けて詳細に設定されているが,本件ゲームソフト
では,そのような詳細な設定はされていない。
また,別紙店舗設定一覧のうち,被告ゲームソフトに関する部分
は認めるが,本件ゲームソフトに関する部分は不知。仮に本件ゲー
ムソフトに関する部分についての別紙店舗設定一覧の記載が正しい
とすれば,本件ゲームソフトでは「なし」と記載され,被告ゲーム
ソフトで新たに設けられた施設が9箇所あり,「総帥室」の場所も
変更されていることになり,この点に照らしても,本件ゲームソフ
ト及び被告ゲームソフトにおける場面(場所)設定は相当程度異な
っている。
④「6主要登場人物のゲーム内での出現時間・選択すべき会話
等」について
主要登場人物のゲーム内での出現時間及び選択すべき会話,キャ
ラクター別行動パターンは同一であるとの原告の主張は,否認す
る。ちなみに,本件ゲームソフトの期間設定は7日間であり,被告
ゲームソフトの期間設定9日間よりも2日間短くなっている。
(イ)被告ゲームソフトは,Bが改めて書き直した原画や,Aが新たに
書き下ろして創作したシナリオを用い,被告が独自に作成したプログ
ラムを用いてプログラミングして制作されたものであり,映画の著作
物としての本件ゲームソフトを翻案したものではない。
また,仮に被告ゲームソフトと本件ゲームソフトの間に原画(画
像),シナリオ等の表現上の本質的特徴部分において類似するところ
があったとしても,そのことにより,被告ゲームソフトが映画の著作
物としての本件ゲームソフトの翻案に当たることにはならない。
なぜなら,映画の著作物における表現上の本質的特徴部分とは,カ
メラワークの工夫,モンタージュあるいはカット等の手法,フィルム
編集など視覚的又は視聴覚的表現方法における表現上の本質的特徴部
分をいうのであり,ストーリーや場面展開,登場人物の会話等は,映
画の著作物における表現上の本質的特徴部分ではないからである。
イ上記アのとおり,被告ゲームソフトは,Aが新たに書き下ろして創作
したシナリオを用いるなどして制作されたものであって,本件ゲームソ
フトのシナリオを翻案したものではない。
4争点4(原告の損害額)について
(1)原告の主張
ア被告が被告ゲームソフトを製作,販売した行為は,原告が有する本件
ゲームソフト(映画の著作物又は複合的著作物)又はそのシナリオの著
作権(翻案権)の侵害に当たり,これにより原告が被った損害は,10
00万円を下らない。
イしたがって,原告は,被告に対し,本件ゲームソフト(映画の著作物
又は複合的著作物)又はそのシナリオの著作権(翻案権)侵害の不法行
為に基づく損害賠償として1000万円及びこれに対する不法行為の日
である平成16年12月17日から支払済みまで民法所定の年5分の割
合による遅延損害金の支払を求める。
(2)被告の反論
原告の主張は争う。
第4当裁判所の判断
1争点1(映画の著作物該当性及びその著作権の帰属)について
(1)映画の著作物該当性
ア原告は,本件ゲームソフトは,映画の著作物に該当する旨主張する。
ところで,著作権法10条1項7号は,著作物の例示として「映画の
著作物」を規定し,同法2条3項は,「この法律にいう「映画の著作
物」には,映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる
方法で表現され,かつ,物に固定されている著作物を含むものとす
る。」と規定しているが,他方で,著作権法上,同法2条3項以外に「
映画の著作物」の定義や範囲について定めた規定は存在せず,また,「
映画」自体について定義した規定も存在しない。これらによれば,著作
権法にいう「映画の著作物」は,「映画の効果に類似する視覚的又は視
聴覚的効果を生じさせる方法で表現されていること」,「物に固定され
ていること」,「著作物であること」の要件をすべて満たすものである
と解するのが相当である。
そして,「映画」とは,一般に,「長いフィルム上に連続して撮影し
た多数の静止画像を,映写機で急速に(1秒間15こま以上,普通は2
4こま)順次投影し,眼の残像現象を利用して動きのある画像として見
せるもの。」(広辞苑第六版297頁)を意味することなどに照らすな
らば,「映画の効果に類似する視覚的効果」とは,多数の静止画像を眼
の残像現象を利用して動きのある連続影像として見せる視覚的効果をい
い,また,「映画の効果に類似する視聴覚的効果」とは,連続影像と音
声,背景音楽,効果音等の音との組合せによる視聴覚的効果を意味する
ものと解される。
以上の解釈を前提に,本件ゲームソフトが「映画の著作物」に該当す
るかどうかについて判断する。
イ(ア)前記争いのない事実と弁論の全趣旨によれば,本件ゲームソフト
は,「零式百貨店グループの本店」において15年間に18人が失踪
する事件が発生し,事態を憂慮した零式百貨店の総帥である「零式真
琴」が,内部調査をさせるためにある支店に勤務していた主人公「四
宅邦治」を呼び寄せ,主人公が同本店を舞台として内部調査を行うと
いう内容のアダルト向けの娯楽を目的とした,いわゆるコマンド選択
式マップ移動型アドベンチャーゲームであることが認められる。
そして,原告提出の甲3(原告が本件ゲームソフト及び被告ゲーム
ソフトの各影像の一部を対比して編集したものを,1本のVHSビデ
オテープに録画したもの)によれば,本件ゲームソフトの影像は,多
数の静止画像の組合せによって構成されており,静止画像の画面ごと
に音楽や台詞が加えられ,台詞の終了ごとに所定の位置をクリックす
ること等をきっかけとして画面が変わること,主人公が登場人物と会
話する場面の影像は,画面全体に「総帥室」,「エレツィオーネ厨
房」など百貨店内の特定の場所を示す静止画像が表示されるととも
に,画面上部中央に「零式真琴」などその登場人物の静止画像が表示
され,画面下部に主人公とその登場人物の会話等が順次表示されるこ
とで構成されていること,プレイヤーが画面に表示された複数のコマ
ンドの一つを選択するに従ってストーリーが展開し,コマンドの選び
方によってストーリーが変化することが認められる。
他方で,甲3からは,本件ゲームソフトの影像中に,動きのある連
続影像が存することを認めることはできない。もっとも,甲3には,
設定場面が変わる際に主人公等のキャラクターが静止画像で表示され
ているマップ上を移動する場面があるが,同場面は,本件ゲームソフ
トの影像のものではなく,被告ゲームソフトの影像の一部であると認
められる。
他に本件ゲームソフトの影像中に動きのある連続影像が存すること
を認めるに足りる証拠はない。
(イ)上記(ア)のとおり,本件ゲームソフトの影像は,多数の静止画像
の組合せによって表現されているにとどまり,動きのある連続影像と
して表現されている部分は認められないから,映画の著作物の要件の
うち,「映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる
方法で表現されていること」の要件を充足しない。
したがって,本件ゲームソフトは,映画の著作物に該当するものと
は認められない。
ウこれに対し原告は,①映画は,静止画像が連続して表示されることに
より動的に受け取られるものであり,本件ゲームソフトも,多数の静止
画像が連続して表示される点において,映画と本質的な違いはないこ
と,②本件ゲームソフトは,連続する影像を鑑賞しつつ,場面の転換を
受けて対応を選択してプレイが成立するものであり,場面の転換が行わ
れることによってストーリーが組み立てられるという本質的部分におい
て映画と類似していること,③本件ゲームソフトは,絵画や小説などと
は異なり,複数の異なる種類の著作物を統合して一つの世界を作り上げ
るという製作過程も,映画と同様であることを根拠として挙げて,本件
ゲームソフトは,映画の著作物に該当する旨主張する。
しかし,著作権法にいう映画の著作物に該当するというためには,「
映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現
されていること」が必要であること,「映画の効果に類似する視覚的効
果」とは,多数の静止画像を眼の残像現象を利用して動きのある連続影
像として見せる視覚的効果をいい,また,「映画の効果に類似する視聴
覚的効果」とは,連続影像と音声,背景音楽,効果音等の音との組合せ
による視聴覚的効果を意味するものと解されることは先に検討したとお
りであるところ,原告が根拠として挙げる上記①ないし③の点は,いず
れも本件ゲームソフトが「映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効
果を生じさせる方法で表現されていること」の要件を充足することを基
礎付けるものではなく,原告の上記主張は,独自の見解を前提とするも
のであって,採用することはできない。
(2)小括
以上のとおり,本件ゲームソフトは映画の著作物に該当しないから,本
件ゲームソフトは原告が著作権を有する映画の著作物であるとの原告の主
張は,理由がない。
2争点2(複合的著作物該当性及びその著作権の帰属)について
(1)原告主張の複合的著作物の著作権の帰属
ア原告は,本件ゲームソフトは,画像,音楽,プログラム,シナリオ等
の著作物の単なる集合体ではなく,それらが有機的に結合し,不可分一
体となって新たなゲームの世界を作り出した複合的著作物に該当する旨
主張する。
原告の上記主張の趣旨は必ずしも明瞭ではないが,原告が当初から本
件ゲームソフトが映画の著作物であると主張していたのに対し,被告が
本件ゲームソフトの影像はほとんどが静止画像であって,映画の著作物
に当たらないと争ったため,本件ゲームソフトが複合的著作物であると
の主張を選択的にするに至った本件審理の経過を踏まえると,原告主張
の複合的著作物とは,本件ゲームソフトに係る画像(原画),音楽,プ
ログラム,シナリオ等の各著作物に基づいて新たに創作された,本件ゲ
ームソフトの影像をいうものと解される。
本件ゲームソフトの影像が原画,プログラム,シナリオ等とは別個の
著作物として著作物性を有するかどうかの検討に先立ち,まず,原告の
主張を前提に,本件ゲームソフトの影像の著作権が原告に帰属するかど
うかについて判断する。
イ原告は,①本件ゲームソフトは,原告が作成したプログラムが基本に
あって,その範囲でゲームが組み立てられており,しかも,原告が,舞
台設定やゲームの大枠を決め,原画,音楽をデジタルデータ化し,コン
ピュータ画面上で修正,編集,彩色作業を行うなどして,原画,音楽,
シナリオの最終的な統合作業を行うことにより,本件ゲームソフトを完
成させた,②本件ゲームソフトの製作費用について,原告がプログラミ
ング及びシナリオの費用を負担し,日本プランテックが,原画,音楽の
外注費用,パッケージ作成費用,販売諸経費を負担したが,原告は,日
本プランテックとの間で,本件ゲームソフトについて原告が著作権を有
することを合意した,上記①,②によれば,原告は,本件ゲームソフト
の影像の全体的形成に創作的に寄与した著作者(著作権者)であるか,
あるいは著作権者である旨主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
(ア)原告は,原画,音楽,シナリオの最終的な統合作業を行うことに
より,本件ゲームソフトを完成させたから,本件ゲームソフトの影像
の著作者(著作権者)である旨主張する。
そこで検討するに,前記争いのない事実と弁論の全趣旨を総合すれ
ば,①Aが本件ゲームソフトのシナリオ(登場人物等の設定,ストー
リー,ゲーム上で表示される登場人物等の会話文や選択肢などの原作
・シナリオ)を,B(被告代表者)が本件ゲームソフトの原画を,原
告が本件ゲームソフトのプログラムを創作したこと,②原告は,本件
ゲームソフトの原画,音楽,シナリオ記載の会話文等をデジタルデー
タ化し,これらのデジタルデータを本件ゲームソフトのシナリオに従
ってプログラミングし,プログラムを創作し,本件ゲームソフトを完
成させたことが認められる。
上記認定事実によれば,原告は,本件ゲームソフトのプログラミン
グの過程で,シナリオに従って原画(画像),音楽,会話文等のデジ
タルデータを統合する作業を行ったことが認められるが,上記作業
は,シナリオに従って行われたプログラムの創作行為そのものであ
り,本件ゲームソフトの影像の著作物の創作行為であると認めること
はできない。
すなわち,異なるプログラムによっても,シナリオに従って画面上
に同一の影像を表示することは技術的に可能であり,プログラムの創
作行為そのものが,これとは別個の著作物であるゲームソフトの影像
の創作行為であるということはできない。また,原告代表者の陳述
書(甲9)中には,「「猟奇の檻」の基本骨格は,自分が考えたもの
です。・・・百貨店を舞台に,失踪事件が発生し,それを解決すると
いう流れでゲームを進行させる,アダルトゲームソフトにすると言っ
た事は,私のアイデアです。」との記載部分がある一方で,「ただ,
具体的な雰囲気やイメージ・・・はイラストや音楽,脚本によって肉
付けされるものです。特に今回のソフトでは,脚本担当のゲーム館(
判決注・「ゲーム観」の誤り)と言うか,イメージが主体となってい
る事は間違いありません。」,「その意味では,私の骨格に脚本のA
氏が肉付けしたというもので・・・確かにA氏のゲーム観によるイメ
ージが強いですが,私とて自分の資金を投下しているのですから,グ
ランドデザインを持っていないわけではないのです。また,プログラ
ムの制御という面からも,実際のプレーについてはイメージを持って
いた事になります。」との記載部分があり,上記各記載部分からは,
原告代表者が本件ゲームソフトの基本骨格のアイデアを提供し,プロ
グラムの制御の面からのプレーのイメージを持っていたことをうかが
うことができるにとどまり,画像,文字表示等で画面上に表現される
本件ゲームソフトの影像の具体的な創作行為に原告又は原告代表者が
関与したとまで認めることはできない。他にこれを認めるに足りる証
拠はない。
したがって,原告の上記主張は,採用することができない。
(イ)次に,原告は,本件ゲームソフトの製作費用について,原告がプ
ログラミング及びシナリオの費用を負担し,日本プランテックが,原
画,音楽の外注費用,パッケージ作成費用,販売諸経費を負担した
が,原告は,日本プランテックとの間で,複合的著作物としての本件
ゲームソフトについて原告が著作権を有することを合意した旨主張す
る。
しかし,原告の上記主張を前提としても,原告が負担したのは本件
ゲームソフトの製作費用の一部にすぎないのに,原告と日本プランテ
ックとの間で,本件ゲームソフト(の影像)の著作権が原告に帰属す
ることを合意したとする理由や,その合意が成立した具体的な時期,
経緯等は明らかでないのみならず,本件全証拠によっても,原告主張
の上記合意の事実を認めるに足りない。
したがって,原告の上記主張は,理由がない。
(2)小括
以上によれば,本件ゲームソフトの影像が原告主張の複合的著作物とし
て著作物性を有するかどうかを検討するまでもなく,原告の主張を前提と
してもその著作権が原告に帰属するものとは認められないから,本件ゲー
ムソフトは原告が著作権を有する複合的著作物であるとの原告の主張は,
理由がない。
3争点3(翻案の有無)について
(1)翻案の有無
ア原告は,被告ゲームソフトは,原告が著作権を有する映画の著作物又
は複合的著作物としての本件ゲームソフトを翻案したものである旨主張
する。
しかし,前記1及び2で検討したとおり,本件ゲームソフトは,原告
が著作権を有する映画の著作物又は複合的著作物に該当しないから,こ
れに該当することを前提とする原告の上記主張は,理由がない。
イ次に,原告は,被告ゲームソフトは,原告が著作権を有する本件ゲー
ムソフトのシナリオを翻案したものである旨主張する。
ところで,シナリオ等の言語の著作物の翻案とは,既存の著作物に依
拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的
表現に修正,増減,変更等を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表
現することにより,これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な
特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいうもの
と解するのが相当である(最高裁平成13年6月28日第一小法廷判決
・民集55巻4号837頁参照)。
これを本件についてみるに,本件においては,本件ゲームソフトのシ
ナリオ及び被告ゲームソフトのいずれもが証拠として提出されていな
い。このため本件ゲームソフトのシナリオの具体的内容はいかなるもの
であるのか,同シナリオにおける思想又は感情の表現上の本質的部分は
どこにあるのかについて,本件証拠上,明らかではない。また,原告提
出の甲3に収録されている被告ゲームソフトの場面は9日間にわたるス
トーリーの1日目の一部のものにすぎず,甲3からは,被告ゲームソフ
トの全容がいかなるものであるのか認めることはできず,他に被告ゲー
ムソフトの具体的な内容を認めるに足りる証拠はない。
その結果,本件証拠上,被告ゲームソフトが,本件ゲームソフトのシ
ナリオに依拠し,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具
体的表現に修正,増減,変更等を加えて,新たに思想又は感情を創作的
に表現することにより,これに接する者が本件シナリオの表現上の本質
的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作したものである
ことを認めることができない(なお,原告は,本件口頭弁論の終結後
に,A作成の本件ゲームソフトのシナリオの一部として甲14,15を
提出するが,その証拠説明書には,作成年月日は「平成13年ころ」と
記載されており,本件ゲームソフトの販売の開始(平成7年8月25
日)後のものであることに照らすならば,甲14,15が本件ゲームソ
フトのシナリオの一部といえるかどうか疑わしい。また,仮に甲14,
15が本件ゲームソフトのシナリオの一部の複製物であるとしても,被
告ゲームソフトが提出されていない以上,甲14,15と被告ゲームソ
フトとを対比して,翻案の有無を判断することはできない。)。
したがって,原告が本件ゲームソフトのシナリオの著作権を有するか
どうかを検討するまでもなく,被告ゲームソフトは本件ゲームソフトの
シナリオを翻案したものとは認められないから,原告の上記主張は理由
がない。
(2)小括
以上のとおり,被告ゲームソフトは,本件ゲームソフト又はそのシナリ
オを翻案したとの原告の主張は理由がない。
4結論
以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求は理
由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官大鷹一郎
裁判官関根澄子
裁判官古庄研
(別紙)著作物目録
1タイトル
「猟奇の檻」
2対応機種
PC9801(後にWindows対応)
3発売元
日本プランテック株式会社
4発売日
平成7年8月25日
5ジャンル
恋愛アドベンチャー
6レイティング
18禁
7メディア
5”2HD
(別紙)被告製品目録
1タイトル
「真説猟奇の檻」
2対応機種
Windows98/98SE/Me/2000/XP
3発売元
CALIGULA
4発売日
平成16年12月17日
5ジャンル
恋愛アドベンチャー
6レイティング
18禁
7メディア
DVD−ROM

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