弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人西辻孝吉の被上告人熊本国税局長に対する上告理由について
 論旨は、要するに、本件審査決定通知書に附記された理由は不備であるにもかか
わらずこれを不備であるとはいえないとした原審の判断は、判例の趣旨に反し、昭
和三七年法律第六七号による改正前の法人税法(昭和二二年法律第二八号)三五条
五項の解釈適用を誤つたものである、というのである。
 所論の法人税法の規定が審査決定の通知書に理由を附記しなければならないとし
ているのは、決定機関の判断を慎重ならしめるとともに審査決定が審査機関の恣意
に流れることのないようにその公正を保障するためであると解されるから、その理
由としては、請求人の不服の事由に対応してその結論に到達した過程を明らかにし
なければならないものである(最高裁昭和三六年(オ)第四〇九号同三七年一二月
二六日第二小法廷判決・民集一六巻一二号二五五七頁参照)。
 本件についてこれをみるに、原審が適法に確定した事実関係によれば、昭和二六
事業年度分についての上告人の審査請求の不服事由は、(1)上告会社設立当時訴外
Dが出資したのは本件山林の全部ではなく、間伐予定の原木三五五〇石のみであつ
て、その余は当該事業年度中訴外Dの所有のままであつた、(2)原処分での認定額
を超える仕入れ及び経費があり、これに伴つて所得額は減少すべきものである、と
いうものであつて、審査決定通知書に附記された理由は、(1)については「法人設
立に際しての楮畑山出資関係についての貴法人の主張は認められません。」、(2)
については仕入れについての上告人の主張の一部は認容することができるが、その
余及び経費についての主張は認容し難い、との趣旨であり、また、昭和二九事業年
度分についての上告人の不服事由は、原処分を超える仕入れ及び経費があつたので、
これに見合つて所得は原処分認定額より減少すべきである、というものであつて、
審査決定に附記された理由は「仕入れ洩れについては一部真実と認められますが、
支払代金の出所が不明であり、財産増減法によつて判定した所得金額でありますか
ら所得額には影響ありません。」、「経費洩れについては、原処分で四五五、五〇
〇円を認めてあり、それ以上であることの理由がありません。」というものであつ
たというのであり、右審査決定通知書に附記された理由は、簡潔に過ぎ必ずしも十
全なものであるとはいえないが、前記理由附記についての法の要請を必要最少限度
はみたしているものといえないことはなく、これをもつて不備であるということは
できない。これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができる。原判決
に所論の違法はなく、所論引用の判例は、事案を異にし本件に適切でない。論旨は、
採用することができない。
 上告代理人西辻孝吉の被上告人熊本東税務署長に対する第一次的請求についての
上告理由第一点及び第二点について
 原審が適法に確定した事実関係によれば、上告人は昭和二六事業年度分以降青色
申告書提出の承認を受けていたところ、熊本税務署長は、昭和三二年一月二三日上
告人の昭和二六事業年度分の確定申告に係る所得金額、法人税額につき再更正処分
(以下「本件再更正処分」という。)を、同年三月八日昭和二九事業年度分の確定
申告に係る所得金額、法人税額につき更正処分(以下「本件更正処分」という。)
をして、それぞれそのころ上告人に通知したが、右通知書には理由の附記を全く欠
いていたものであり、また、右再更正処分及び更正処分は推計によりされたもので
ある、というのであつて、これによつてみれば本件再更正処分及び本件更正処分に
は取消原因たる瑕疵があつたことが明らかである。しかしながら、原審が適法に確
定した事実によれば、熊本税務署長は、昭和三二年五月八日付をもつて上告人が昭
和三二年法律第二八号による改正前の法人税法(昭和二二年法律第二八号)二五条
七項三号に該当するものとして青色申告書提出承認を昭和二六事業年度に遡つて取
り消し、その旨を上告人に通知したというのであり、このような青色申告書提出承
認の遡及取消処分がされたときは、同法上その遡及時以降に提出された青色申告書
は青色申告書以外の申告書とみなされるところ、その法意は、従来適法に青色申告
ができるものとしてこれに対し特別に法が認めていた法律上の効果が右取消処分に
よつて遡及的に消滅し、これをいわゆる白色申告の場合と全く同一に取り扱う趣旨
であると解するのが相当であるから、本件再更正処分及び本件更正処分につき処分
当時存在していた前記瑕疵も、右青色申告書提出承認取消処分によつて治癒された
ものというべきである(なお、昭和三四年法律第八〇号による改正前の法人税法に
おいては青色申告書提出承認の取消処分の通知書に理由を附記することは要求され
ていなかつたものであるから、右取消処分の通知書に具体的理由の附記がなかつた
からといつて右取消処分が違法となるものではない。また、上告人の帳簿書類にそ
の真実性を疑うに足りる不実の記載があつたとの原審の事実認定は、原判決挙示の
証拠関係に照らし是認することができ、その過程に所論の違法は認められない。ま
た、本件青色申告書提出承認の取消処分が本件再更正処分及び本件更正処分ののち
にされたとの一事によつて右取消処分が違法になるものとはいえない。したがつて、
所論のように右取消処分が無効であるということはできない。)。これと同旨の原
審の判断は正当であり、原判決に所論の違法はない。所論引用の判例は、事案を異
にし本件に適切でない。論旨は、採用することができない。
 同第三点について
 上告会社は設立と同時に訴外Dより本件山林全部を取得したものであるとした原
審の認定判断が正当として是認することができるものであることは、後記被上告人
熊本東税務署長に対する予備的請求についての上告理由について判示するとおりで
ある。したがつて、所論のように訴外Dがその後の年度において本件山林を上告人
に譲渡したものとしてこれに基づく所得税を申告納付していたとしても、それは右
所得税の申告納付が誤りであつたというにとどまり、そのことの故に上記認定事実
に基づいてされた本件再更正処分及び本件更正処分が違法となる理由はない(なお、
訴外Dの納付した所得税は同訴外人が本件山林を上告会社に譲渡したことにより同
訴外人について生じた個人所得に対して課税されるものであり、本件再更正処分及
び本件更正処分による上告会社に対する法人税の課税は上告会社の本件山林の伐採
木の売上及び本件山林の譲渡(交換)により上告会社について生じた法人所得に対
するものであつて、それぞれ課税対象を異にするのであるから、所論の二重課税の
問題は生じない。)。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
 上告代理人西辻孝吉の被上告人熊本東税務署長に対する予備的請求についての上
告理由について
 上告会社は設立と同時に訴外Dから本件山林全部を取得したものであるとした原
審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、
原判決に所論の違法はない(なお、原判決一九枚目表一〇行目に「原審及び当審証
人E」とあるのは「原審証人E」の誤記と認める。また、本訴の経過に照らし、被
上告人熊本東税務署長は本件山林のEの持分の取得に関し会社設立前訴外Dがこれ
を取得し設立と同時に上告会社が右部分を含めて本件山林全部を取得した旨の主張
をもしていたものと解しえないわけではないから、所論の弁論主義違背の問題は生
じない。)。論旨は、採用することができない。
 よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官
全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    藤   崎   萬   里
            裁判官    団   藤   重   光
            裁判官    本   山       亨
            裁判官    戸   田       弘
            裁判官    中   村   治   朗

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