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平成26年4月24日判決言渡
平成25年(ネ)第10110号特許権侵害差止等請求控訴事件
(原審・大阪地裁平成25年(ワ)第2464号事件)
口頭弁論終結日平成26年2月27日
判決
控訴人X
控訴人株式会社ケイジェイシー
控訴人両名訴訟代理人弁護士
牧山美香
同弁理士
佐藤英昭
被控訴人スケーター株式会社
訴訟代理人弁護士鳥山半六
同深坂俊司
同弁理士中野収二
主文
1本件控訴をいずれも棄却する。
2控訴費用は控訴人らの負担とする。
3控訴人Xについて,この判決に対する上告及び上告受理の申立て
のための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2被控訴人は,原判決添付の別紙被告製品目録記載の各製品を製造し,販売し
てはならない。
3被控訴人は,前項の製品を廃棄せよ。
4訴訟費用は,第1審,第2審とも,被控訴人の負担とする。
5仮執行宣言
第2事案の概要
1原審で用いられた略語は,当審でもそのまま用いる。原判決を引用する部分
では,「原告X」とあるのは「控訴人X」と,「原告ケイジェイシー」とあるのは「控
訴人ケイジェイシー」と,「原告ら」とあるのは「控訴人ら」と,「被告」とあるの
は「被控訴人」と読み替える。
2本件特許権を有する控訴人X(原告X)は,被控訴人(被告)による被控訴
人製品の製造販売が本件特許権を侵害するとして,特許法100条1項及び2項に
基づき,控訴人ケイジェイシーは,被控訴人の行為が不正競争防止法2条1項1号
の不正競争に該当するとして,同法3条1項及び2項に基づき,それぞれ,被控訴
人に対して,被控訴人製品の製造販売の差止め及び廃棄を求めた。
原審は,被控訴人製品は本件特許発明の技術的範囲に属さず,また,控訴人商品
の形態は不正競争防止法2条1項1号の商品等表示に該当しないとして,控訴人ら
の請求をいずれも棄却したため,控訴人らがこれを不服として控訴した。
3前提事実は,原判決の「第2事案の概要」の「1前提事実」(原判決2頁
11行目から4頁9行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
4争点
(1)控訴人Xの本件特許権に基づく請求に関する争点
ア被控訴人製品は本件特許発明の技術的範囲に属するか(争点1-1)
イ被控訴人製品は本件特許発明の均等侵害に当たるか(争点1-2)
ウ本件特許に無効理由が存在するか(争点1-3)
(2)控訴人ケイジェイシーの不正競争行為に基づく請求に関する争点
ア控訴人商品の形態は不正競争防止法2条1項1号の商品等表示に当たるか
(争点2-1)
イ控訴人商品の形態は控訴人ケイジェイシーの商品表示として需要者の間に広
く認識されているか(争点2-2)
ウ被控訴人製品の形態は控訴人商品の形態からなる商品表示と類似の商品表示
であるか(争点2-3)
エ被控訴人の行為は控訴人ケイジェイシーの商品と混同を生じさせる行為であ
るか(争点2-4)
第3争点に関する当事者の主張
1当事者の主張は,次のとおり付加訂正する他は,原判決の「第3争点に関
する当事者の主張」(原判決5頁2行目から14頁1行目まで)に記載のとおりであ
るから,これを引用する。
2原判決6頁25行目末尾に,改行の上,次のとおり挿入する。
「そうでなくとも,被控訴人製品の上部筒部と下部筒部の内面のリブは,弾性変
形させることが可能であるシリコンゴム製であって略1mm程度の高さしかないも
のであるから,当該上部筒部と下部筒部の内面のリブと第2箸部材の側面に設けら
れた上部凹溝と下部凹溝との嵌着は,第2箸部材の垂直横方向に回動することによ
り極めて容易に離脱する。さらに,被控訴人製品の上部筒部と下部筒部とは,親指
座と突起によってその上下を挟まれているから,軸方向に摺動不能に固定されてい
る。
したがって,上部筒部と下部筒部を第2箸部材の垂直横方向に回動させたとして
も,上部筒部と下部筒部とは軸方向に固定されたままであるから,位置を調節する
前後において,上部筒部と下部筒部とを固定することができる。この点からも,被
控訴人製品は本件特許発明の構成要件Fの「調節手段」を有するといえる。」
3原判決9頁4行目末尾に,改行の上,次のとおり挿入する。
「本件特許発明の「調整手段」は,人差し指挿入穴の固定位置を上下方向に調整
することを目的とする手段であって,第2箸部材の垂直横方向に回動させることを
含むものではない。」
4原判決9頁22行目末尾に,改行の上,次のとおり挿入する。
「2争点1-2(被控訴人製品は本件特許発明の均等侵害に当たるか)につい

【控訴人Xの主張】
仮に,被控訴人製品の箸先の滑り止め加工が本件特許発明の「パッド」に当たら
ないとしても,①「パッド」は,本件特許発明の本質的部分ではないこと,②「パッ
ド」を被控訴人製品の「固形物を掴み取るための節状の凹凸を設けたもの」に置換
したとしても,使用者が固形物を容易に掴み取れるという同一の作用効果を奏する
ものであり,「パッド」を「箸先の滑り止め加工」に置換することが可能である。し
たがって,被控訴人製品における「箸先の滑り止め加工」部分は,本件特許発明の
「パッド」と均等であるといえる。
【被控訴人の反論】
被控訴人製品は,均等の要件である,非本質的部分であること(均等の第1要件),
置換可能性(均等の第2要件)を欠くから,均等侵害は成立しない。
3争点1-3(本件特許に無効理由が存在するか)について
【被控訴人の主張】
本件特許発明は,乙8の1及び2(実開昭48-88883)に示される親指挿
入穴と人差し指挿入穴に加えて,乙9ないし17に示される周知技術から適宜に選
択した中指挿入穴を付加することにより容易に想到できるものであるから,特許法
29条2項により特許を受けることができないものであって,権利行使することが
できない。
【被控訴人Xの認否】
否認し又は争う。」
5原判決9頁23行目から10頁24行目までを,次のとおり改める。
「4争点2-1(控訴人商品の形態は不正競争防止法2条1項1号の商品等表
示に当たるか)について
【控訴人ケイジェイシーの主張】
以下のとおり,控訴人商品の形態は不正競争防止法2条1項1号の商品等表示に
当たる。
(1)控訴人商品の特徴等
ア控訴人商品の形態
控訴人商品の形態は,以下のとおりである。
a親指を挿入する親指用リングを有する第1箸部材と,
b人差し指及び中指を挿入する2つのリングを有する第2箸部材と,
c第1箸部材及び第2箸部材の上部に配置された装飾
dを有する練習用箸。
イ控訴人商品の形態の特徴部分について
控訴人商品は平成15年から発売されており,現在に至るまで同様の形態(特に
3つのリング)を有する商品はないことからしても,控訴人商品の形態は非常に特
徴的である。
親指,人差し指,中指を箸部材の正しい位置に添わせるという機能を発揮させる
ためには,様々な方法,形態を採用することが可能であり,控訴人商品のような3
つのリングという形態を用いる必然性はない。
同一形状を有する2本の棒状部材から構成される「箸」という極めて単純な形態
の商品カテゴリーにおいて,2本の棒状の部材に比較的大きな3つのリングが付属
させられており,箸部材の上部にもキャラクターが表示された大きな装飾が付属さ
れているという控訴人商品の形態は,通常の「箸」という商品とは異なる特徴的な形
態を有する。控訴人商品の形態は,同種の商品に共通して,必然的,不可避的に採
用せざるを得ないような商品形態ではない。
(2)控訴人商品の形態の周知性
後記5【控訴人ケイジェイシーの主張】のとおり
(3)商品等表示性
以上のとおり,控訴人商品の形態は,必然的,不可避的に採用される形態ではな
く,また,需要者の間に広く認識されていたものであるから,出所表示機能を有す
るに至り,不正競争防止法2条1項1号の商品等表示に当たる。
このことは,仮に控訴人商品の形態が専ら商品の実質的機能を達成するための構
成(形態)であったとしても異なるものではなく,控訴人商品は,商品の形態自体
が特定の出所を表示する二次的意味を有するに至っているから,不正競争防止法2
条1項1号及び同2号の商品等表示に該当する。」
6原判決11頁25行目冒頭の「3」を「5」と,原判決13頁6行目冒頭の
「4」を「6」と,9行目の「前記2」を「前記4」と,15行目冒頭の「5」を
「7」と,21行目の「前記4」を「前記6」と,26行目の「前記4」を「前記
6」とそれぞれ改める。
第4当裁判所の判断
1当裁判所も,原審と同様に,控訴人らの請求はいずれも理由がないものと判
断する。その理由は,次のとおり付加訂正するほかは,原判決14頁10行目から
23頁9行目までに記載のとおりであるから,これを引用する。
2原判決14頁10行目の「争点1」を「争点1-1」と改める。
3原判決19頁23行目から21頁1行目までを次のとおり改める。
「(2)構成要件Fの充足性
ア【特許請求の範囲】の記載
構成要件F「保持ユニットの固定位置を調節する調節手段」は,特許請求の範囲
の文言からして,位置を調節する前においても後においても,保持ユニットを固定
できるものであることが必要であると解すべきである。
イ本件明細書等の記載
本件明細書等には,以下の記載がある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
第2箸部材は,人差し指および中指を挿入する保持ユニットと,保持ユニットの
固定位置を調節する調節手段と,固形物を掴み取る第2パッドとを有する。この保
持ユニットは,人差し指を挿入する人差し指挿入穴と中指を挿入する中指挿入穴と
を有する。第2パッドは,第2箸部材の下端に形成する。
【0015】
調節手段は,第2箸部材に形成した雄ネジを有し,この雄ネジに,保持ユニット
の内側に形成した雌ネジを係合する。
【0016】
あるいは,保持ユニットを支持するために固定溝に弾性結合したゴムパッキンと,
保持ユニットの内側に形成した突出部とで調節手段を構成してもよく,この場合に
は,第2箸部材に複数の固定溝を等しい間隔で設け,突出部をこれら固定溝に係合
し,保持ユニットの固定位置を調節できるように構成してもよい。
【0042】
従って,手の大きさに応じて保持ユニット120を調節できる。手が小さい場合
には,保持ユニット120を上にずらし,親指挿入穴111と人差し指挿入穴12
1との間隔を狭くする。逆に,手が大きい場合には,保持ユニット120を下にず
らし,この間隔を広げる。図4aでは,回転によって保持ユニット120をずらし,
図4bでは,保持ユニット120を所望位置にずらし,次に弾性ゴムパッキン31
0を固定溝133に結合し,これに固定する。
【0043】
上述したように,使用者の手の大きさに応じて第2箸部材130の保持ユニット
120の位置を調節できるため,本発明の練習用箸は誰によっても簡単に使用でき
る。
ウ本件特許発明における「調節手段」の意義
上記「特許請求の範囲」及び「発明の詳細な説明」の各記載によれば,「調節手段」
は,第2箸部材の上下方向における位置の調整を可能とするものであり,位置を調
節する前後において,保持ユニットを固定することができるものでなければならな
いと解される。
なお,「調節手段」のうち前記段落【0015】の係合手段は,前記(1)の従来技
術(段落【0006】及び【図2】)における係合手段と何ら異なる手段は用いられ
ていないと解される。
この点,控訴人らは,「調整手段」が第2箸部材の軸を中心とする回動を可能とす
るものも含むとの主張をする。しかし,前記段落【0042】及び【0043】の
記載からしても,採用の限りではない。」
4原判決21頁23行目の「がたい」を「難い」と改める。
5原判決21頁23行目末尾に,改行の上,次のとおり挿入する。
「2争点1-2(被控訴人製品は本件特許発明の均等侵害に当たるか)について
(1)控訴人らは,当審に至って,被控訴人製品は本件特許発明の均等侵害に当た
る旨の主張をしている。控訴人らがかかる主張を原審で行えなかった事情は何らう
かがわれないから,この主張は,控訴人らが故意又は重大な過失によって時機に後
れて提出したものと認められるし,これによって訴訟の完結を遅延させるものであ
るから,却下する。
(2)念のため,被控訴人製品の箸先の滑り止め加工が,本件特許発明おける「パ
ッド」と均等なものであるかを検討する。この点,本件特許発明における「パッド」
は,箸を使う能力に応じて取り外し可能なものとされており(本件明細書の段落【0
045】及び【0052】),これにより箸の使い方を段階的に学ぶことができる(同
【0010】,【0051】ないし【0054】)との作用効果をも奏するものである。
被控訴人製品の箸先の滑り止め加工は,箸先に一体のものとして形成されており,
これが存在することにより箸の使い方を段階的に学ぶことができるものではなく,
本件特許発明における「パッド」と同一の作用効果を奏するものではないので,置
換可能性はない。また,本件特許発明は,従来技術に「パッド」の存在するものは
なかったことから,「パッド」を付加したことにより特許されたと認められるから(前
記1(1)イ(イ)),「パッド」は本件特許発明の本質的部分ということができる。そう
すると,被控訴人製品の箸先の滑り止め加工は,本件特許発明の「パッド」の均等
物とはいえない。」
6原判決21頁24行目冒頭の「2」を「3」と改める。
7原判決22頁15行目と23頁6行目の「うる」をいずれも「得る」と改め
る。
8原判決23頁9行目末尾に,改行の上,次のとおり挿入する。
「(5)以上に関して,控訴人らは,商品等表示と認められるためには特別顕著性
と形態の周知性があれば足り,このことは当該形態が専ら商品の実質的機能を達成
するためのものであったとしても異ならない旨を主張する。しかし,ある形態が専
ら商品の実質的機能を達成するための構成であると認められる場合には,特段の事
情のない限り,商品等表示に該当すると解することは困難であり,本件では,その
ような特段の事情は存在しないから,控訴人らの主張は採用の限りではない。」
9以上によれば,控訴人らの本件控訴には理由がない。控訴人らはその他縷々
主張するがいずれも採用の限りではない。よって,本件控訴をいずれも棄却するこ
ととして主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官
飯村敏明
裁判官
八木貴美子
裁判官
小田真治

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