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神戸地方裁判所 平成14年7月16日判決 平成13年(わ)第740号,第82
1号,第822号 各職業安定法違反被告事件
主文
被告人両名をそれぞれ懲役1年6月に処する。
被告人両名に対し,この裁判が確定した日から3年間それぞれその刑の執
行を猶予する。
訴訟費用は被告人両名の連帯負担とする。
理由
(罪となるべき事実)
 被告人Aは,有限会社O(代表者取締役被告人B)名義で届出をしている店舗型
性風俗特殊営業である個室マッサージ店「P」を神戸市Q区Ra丁目b番c号所在
のSビル地階において経営するもの,被告人Bは,被告人Aに雇用された同店の責
任者として,それぞれ同店従業員の面接,雇用等全般を統括するものであるが,
第1 被告人Aは,同店従業員の面接等の業務に従事するCと共謀の上,同店で不
特定多数の男客から対価を得て,手淫,口淫などの性交類似行為をするマッサージ
嬢の業務に就かせる目的で,新聞の折り込み広告に「アルバイトレディ大募集 日
給55,000円以上 入店祝金30万円支給」などと従業員募集の広告を掲載し
た上,平成11年12月1日ころ,同区Rd丁目e番f号所在のT内において,前
記広告を見て応募してきたD(当時27歳)に対し,前記Cにおいて,「みんなや
ってるし,簡単な仕事やからすぐに慣れるよ。」,「50万円,それ以上は確実」
などと申し向け,被告人Aにおいて,「前に借金があった女の子がいたんだけど,
2年で2000万円くらい稼いで辞めていったよ。経験なくてもできる仕事やし,
借金なんかすぐ返せるよ。」などと申し向け,さらに,同月8日ころ,前記Sビル
2階所在の「P」営業事務所において,前記Cにおいて,「Dちゃんの都合のいい
日だけ働いてくれたらいいから。月に10日働くだけで50万になるよ。」などと
申し向け,被告人Aにおいて,「前にも話したけど,2年働いて2000万円稼い
だ女の子がいるねんで。Dちゃんくらいの借金やったらすぐ返せるよ。うちの店や
ったら安心やからうちで働き。」などと申し向けて,それぞれ同店のマッサージ嬢
となって前記業務に就くよう勧誘し,もって,公衆道徳上有害な業務に就かせる目
的で労働者を募集した
第2 被告人A及び同Bは,共謀の上,前記業務に就かせる目的で,新聞の折り込
み広告に前同様の従業員募集の広告を掲載した上,平成12年10月11日ころ,
前記「P」営業事務所において,前記広告を見て応募してきたE(当時19歳。)
に対し,被告人Bにおいて,「うちの店は保証給があるから,客が付かなくても1
日15,000円は保証するよ。初めてでも簡単に稼げるから。Eさんの都合のい
い日に好きな時間帯だけ働いてくれたらいいから。旦那さんにも絶対にばれないよ
うにしてあげるから。」などと申し向け,さらに,被告人Aにおいて,同市U区V
g丁目h番i号所在のWj号室に前記Eを連れて行き,同所において,同女に対
し,マッサージ嬢の実技指導をした後,「真面目に働いたら短時間でたくさん稼げ
るで。簡単な仕事やからがんばりよ。1日3万くらいは稼げるわ。」などと申し向
けて,それぞれ同店のマッサージ嬢となって前記業務に就くよう勧誘し,もって,
公衆道徳上有害な業務に就かせる目的で労働者を募集した
第3 被告人Bは,前記業務に就かせる目的で,新聞の折り込み広告に前同様の従
業員募集の広告を掲載した上,平成13年1月17日ころ,前記「P」営業事務所
において,前記広告を見て応募してきたF(当時22歳)に対し,「お客さんが支
払う料金の半分の金をもらえます。」,「すぐに慣れますよ。働いたら借金くらい
すぐに返せるよ。」などと申し向けて,同店のマッサージ嬢になって前記業務に就
くよう勧誘し,もって,公衆道徳上有害な業務に就かせる目的で労働者を募集した
ものである。
(証拠の標目)―括弧内の数字は証拠等関係カード記載の検察官請求証拠番号―
 省略
(補足説明)
 弁護人は,被告人両名が,前記個室マッサージ店「P」を営業するに当たり,兵
庫県公安委員会に対し,風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(以下
「風営法」という。)に基づく届出をし,その届出どおりの接客サービスを実施し
ており,同店での接客サービスは他のいわゆるファッションマッサージ店とほぼ同
様のものであると認識していたから,自己の前記業務が公衆道徳上有害な業務であ
ると認識しておらず,そのような業務に就かせる目的はなかった旨主張し,被告人
両名も当公判廷でこれに沿う供述をする。
 しかしながら,前掲関係各証拠によれば,被告人両名は,前記「P」の経営者又
は店長として,同店において,合計7室の個室を設置し,マッサージ嬢である女性
従業員をして,各個室内で不特定多数の男性客を相手にお互い全裸になった上で手
淫,口淫等の性交類似行為をする業務に従事させていたと認められるところ,前記
業務自体が,婦女の人としての尊厳を害し,社会一般の通常の倫理,道徳観念に反
して社会の善良な風俗を害するという点で,売春との間に実質的な違いは認められ
ないこと,前記業務のような風営法所定の性風俗関連特殊営業は,同法1条所定の
目的に照らすと,同法においても社会一般の道徳観念に反する行為であることが当
然の前提とされており,職業安定法63条が専ら労働者保護を目的とする規定であ
ることをも考慮すると,前記「P」における前記業務の実施自体が風営法所定の規
制に違反しないとしても,前記業務が職業安定法上の「公衆道徳上有害な業務」に
該当しないことにはならないこと等を総合考慮すれば,被告人両名の前記業務が職
業安定法63条2号所定の「公衆道徳上有害な業務」に該当することは明らかとい
うべきである。
 そして,前掲関係各証拠によれば,被告人両名は,経営者又は店長として前記業
務の内容を十分認識していたこと,被告人らは,女性従業員募集の新聞折り込み広
告を掲載する際にも,前記「P」の名称や前記業務内容を全く明らかにせず,「応
募秘密厳守」等と記載する場合もあったこと,前記広告を見た女性が電話で応募し
てきた際には電話では前記業務内容を説明せず,応募女性と直接面接するに至っ
て,初めて前記業務を簡単に説明する等して前記業務に就くよう勧誘していたこと
が認められるところ,これらの事実を総合考慮すると,被告人両名において前記業
務が公衆道徳上有害な業務であると認識していたと認めるに十分であり,これに反
する被告人両名の前記公判供述はいずれも採用できない。
 よって,被告人両名が公衆道徳上有害な業務に就かせる目的で判示の各勧誘行為
に及んだことは優に認められるのであり,弁護人の前記主張は理由がない。
(法令の適用)
 被告人Aの判示第1及び第2の各所為は刑法60条,職業安定法63条2号にそ
れぞれ該当するところ,各所定刑中いずれも懲役刑を選択し,判示第1及び第2の
各罪は刑法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により犯情の
重い判示第1の罪の刑に法定の加重をし,その刑期の範囲内で被告人Aを懲役1年
6月に処し,情状により同法25条1項を適用してこの裁判が確定した日から3年
間その刑の執行を猶予し,被告人Bの判示第2の所為は刑法60条,職業安定法6
3条2号に,判示第3の所為は職業安定法63条2号にそれぞれ該当するところ,
各所定刑中いずれも懲役刑を選択し,判示第2及び第3の各罪は刑法45条前段の
併合罪であるから,同法47条本文,10条により犯情の重い判示第3の罪の刑に
法定の加重をし,その刑期の範囲内で被告人Bを懲役1年6月に処し,情状により
同法25条1項を適用してこの裁判が確定した日から3年間その刑の執行を猶予
し,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項本文,182条により被告人両名に連帯
して負担させることとする。
(量刑の理由)
 本件は,被告人らが,被告人Aの経営する店舗型性風俗特殊営業である個室マッ
サージ店「P」において,不特定多数の男客から対価を得て,手淫,口淫等の性交
類似行為をするマッサージ嬢の業務に就かせる目的で,女性3名をそれぞれ勧誘し
たという各職業安定法違反の事案である。
 被告人両名は,前記「P」の経営者又は店長として,その営業に不可欠なマッサ
ージ嬢を確保するため,前記の業務に就かせる目的で,現実には稼ぐことが極めて
困難な高額の報酬を謳った新聞広告等を度々掲載し,これを見て応募してきた女性
3名に対し,それぞれ判示のとおり,マッサージ嬢として稼働すれば高額の報酬が
得られるなどと言葉巧みに勧誘し,さらには応募女性にそれぞれ実技指導を施す等
して翻意できない状況を作出して,応募女性らに前記マッサージ嬢の業務に就くこ
とを決意させたのであり,その利欲的な動機に酌むべき事情はなく,その犯行態様
は巧妙悪質である。被告人らは,本件が発覚するまでの間,前記女性3名をして,
それぞれ前記「P」でマッサージ嬢の業務に従事させていたのであるが,その中に
は,自己の指名客を増やすため,男客の求めに応じて安易に性行為に至る者もいた
ことに照らすと,被告人らの前記勧誘行為が,公衆道徳上有害な業務を助長し,労
働者個人はもとより社会一般の通常の倫理観念の保持にも多大な悪影響を与えたと
いわざるを得ず,本件犯行の結果は軽視できない。
 以上の諸点に加え,被告人両名が自分たちの行為には有害性がないと主張して今
後も前記「P」の営業に関与することを明言しており,女性従業員を確保するため
に再犯に及ぶおそれも否定できないこと等に照らすと,犯情は悪質であり,被告人
両名の刑事責任はいずれも重いといわざるを得ず,弁護人が主張するように罰金刑
をもって処断すべき事案とは到底認められない。
 他方,被告人両名は,風営法に基づく届出を行う等して前記「P」を営業してい
たこと,判示の各勧誘行為が応募女性の自由意思を奪うほど執拗かつ強制的なもの
ではなかったこと,いずれも前科がないこと,被告人Aにおいては150万円,被
告人Bにおいては50万円の各贖罪寄付を行ったこと,被告人Bには養うべき妻子
がいることなど,被告人両名のために酌むべき事情も認められる。
 そこで,以上の諸事情を考慮し,被告人両名にいずれも主文掲記の刑を科した上
で,今回に限りそれぞれその刑の執行を猶予することとした。
 よって,主文のとおり判決する。
  平成14年7月16日
神戸地方裁判所第1刑事部
裁判長裁判官   杉森研二
   裁判官   橋本 一
   裁判官   林 史高

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