弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主   文
1 被告らは,原告に対し,連帯して110万円及びこれに対する平成12年11月28
日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は,これを5分し,その1を被告らの,その余を原告の負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
1 被告株式会社a新聞社及び被告bは,原告に対し,別紙1謝罪広告文記載の謝罪
広告を,別紙2謝罪広告目録記載の週刊誌及び各新聞の広告欄に,各1回掲載せ
よ。
2 被告らは,原告に対し,各自1000万円及びこれに対する平成12年11月28日
から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は,原告が,被告株式会社a新聞社(以下「被告会社」という。)が出版する週
刊誌において,原告の商法を批判する記事が掲載され,これによって原告の名誉
が毀損されたとして,被告会社,週刊誌の編集長及び記事の執筆者に対し,不法
行為に基づく損害賠償の支払及び謝罪広告の掲載を求めた事案である。
1 争いのない事実ないし証拠により容易に認められる事実
(1) 当事者
ア 原告は,鍵,錠前類,セキュリティー商品,鍵製作機械等の販売及び修理等
のフランチャイズ事業を営む株式会社である(甲第3号証)。
イ 被告会社は,新聞・書籍の出版等を目的とする株式会社であり,週刊誌「週
刊a」を出版している。
 被告bは,週刊誌「週刊a」の編集長であり,同週刊誌の編集方針及び掲載
記事の内容・選択につき決定権限を有する者である。被告bと被告会社との間
には雇用関係がある。
 被告cは,被告会社から委託を受けた記者であり,後述する本件記事を取
材・執筆した者である。
(2) 問題となる記事(甲第2号証)
 被告会社は,平成12年11月28日販売の週刊誌「週刊a」12月8日号の記事
において,「カギ屋ビジネス」関連の記事として,「チェーン店加盟者たちの怒りが
爆発『甘い言葉にだまされた』」との見出しの下に3ページにわたる記事を掲載し
(以下「本件記事」という。),同週刊誌を全国に販売した。
 本件記事中には,別紙3記載の①ないし⑩の各記述が存在する(以下,これら
の記述を「本件記述①」などという。また,本件記述①ないし⑩を総称して「本件
各記述」という。)。
(3) 原告は,本件記事が公共の利害に関係し,もっぱら公益を図る目的にでたも
のであっても,本件記述②,④ないし⑦が原告の社会的評価を低下させる主要
な部分であり,被告側において真実の証明をすべき対象になると主張している。
2 争点
(1) 本件記事により原告が特定され,原告の名誉が毀損されたか否か。
(2) 本件各記述が公共の利害に関する事実に係るものか,またその目的がもっぱ
ら公益を図ることにあったか否か。
(3) 本件記述②,④ないし⑦の摘示事実はその重要な部分において真実であると
いえるか,又は,上記事実を真実であると信じることにつき相当の理由があると
いえるか否か。
(4) 不法行為が成立する場合には,その損害額及び名誉を回復するのに適当な
手段の要否
3 争点に対する当事者の主張
(1) 本件記事により原告が特定され,原告の名誉が毀損されたか否か。
ア 原告の特定性
(原告の主張)
(ア) 原告は,「X」「Y」の名称で鍵と錠をベースとしたセキュリティー事業を展開
し,福岡市に本社を置いて,全国に直営店14店舗,フランチャイズ店115
店舗を擁する創業25年の株式会社である。そして,マスコミにおいても鍵
業界のフランチャイズ本部として取り上げられるのは常に原告である。ま
た,本件記事が掲載された直後に,読者から原告を中傷する文書が原告宛
に送付されてきた。
 したがって,「九州に本社がある大手のチェーン店」という記述(本件記述
④の一部)を一般の読者が見たとき,想起するのは原告であるので,本件
記事により原告が特定される。
(イ) また,原告は,昭和51年に創業し,平成12年度の本部の売上高は約2
1億円,加盟店の売上高は約29億円であり,平成12年末時点の店舗数
は,直営店が16,加盟店は107となっている。鍵のフランチャイズのチェー
ン展開をしているのは原告のみであり,その店舗数や売上高からみて,原
告が鍵のフランチャイズチェーン店の「業界最大手」である。
 したがって,フランチャイズチェーンの業界関係者,原告や同業他社の加
盟店等の関係者にとっては,鍵業界で「九州に本社がある大手のチェーン
店」といえばすぐに原告を想起するのであり,本件記事により原告が特定さ
れる。
(被告らの主張)
 ある表現が他人の名誉を毀損するというためには,一般読者が記事を読
んで,その記事自体から,当該記事が誰に関するものであるか特定される
ことが必要である。本件記事は,「九州に本社がある大手のチェーン店」と
匿名にしており,この記載だけでは,一般読者は記事から原告を特定する
ことはできない。
イ 本件記事の名誉毀損性
(原告の主張)
 本件記事を全体的に考察し,かつ,一般読者を基準とすれば,原告に対す
る苦情が国民生活センターに多数寄せられており,原告が「甘い言葉でだま
す」「もうけ最優先主義」の鍵のフランチャイズチェーン店であるとの印象を一
般読者に与えるものであるから,本件記事により原告の社会的評価は低下さ
せられた。
(被告らの主張)
 本件記事は,原告が「甘い言葉でだます」「もうけ最優先主義」の鍵のフラン
チャイズチェーン店であると主張しているのではなく,原告については,国民生
活センターへの苦情も含めて苦情が少なくないこと,及び,原告のチェーン店
加盟者の不満,苦情を紹介しているものである。これにより,原告の名誉が毀
損されるものではない。
(2) 本件各記述が公共の利害に関する事実に係るものか,またその目的がもっぱ
ら公益を図ることにあったか否か。
(被告らの主張)
 本件記事は,昨今鍵の交換などのビジネスが注目されているところ,鍵のフラ
ンチャイズチェーン店に関し,高額の指導料を取って簡単な講習で開業させ,後
の面倒をみないなどのチェーン店加盟者からの不満,苦情が増えていることを紹
介して,鍵のビジネス一般について問題提起をしたものであり,公共の利害に関
する事実に係り,もっぱら公益を図る目的で報道されたものである。
(原告の主張)
 本件記事の内容は,極端な誇張ないし蔑視的表現がみられ,原告を一方的に
誹謗するものとなっているので,読者に対する注意喚起又は問題提起を意図し
ていたとはいえないから,本件記事に公益目的性はない。
(3) 本件記述②,④ないし⑦の摘示事実はその重要な部分において真実であると
いえるか,又は,上記事実を真実であると信じることにつき相当の理由があると
いえるか否か。
ア 本件記述②について
(被告らの主張)
(ア) 本件記述②は,本件記事中の位置及びその表現自体からみて,原告に
対するものとはいえず,鍵のフランチャイズチェーン店に関する一般論であ
る。 
 よって,同記述自体が原告の名誉を毀損することはないから,同記述は
真実証明の対象とはならない。
(イ) 仮に本件記述②が真実証明の対象になるとしても,原告は,国民生活セ
ンターが同記述のような回答をした事実はあることを認めているのであるか
ら,原告に対して加盟店の不満,苦情は存在したのであり,本件記述②は
真実である。
(ウ) また,被告cは,フランチャイズチェーン店の加盟者,元加盟者及び関係
者だけではなく,別の業者からの裏付け取材もし,原告からも取材をした。
さらに,被告cは,国民生活センターからも取材し,鍵のフランチャイズチェ
ーン店に関する苦情相談が増えており全国から寄せられていることの説明
を担当者から受けた。以上の取材を踏まえて,被告cは本件記事を執筆し
た。
 したがって,仮に,原告に対する不満,苦情が少なくないというのが真実で
ないとしても,被告cには当該事実を真実だと信ずべき相当な理由があっ
た。
(原告の主張)
(ア) 本件記述②は,「苦情が共通しているようだ。」というのであるから,原告
に対してもかかる苦情が寄せられた事実が存在するかどうかは真実証明の
対象となる。
 そして,国民生活センターに対する,原告に関する相談は,約2年間で1
件であり,その内容も単なる問い合わせにすぎず苦情ではないことから,本
件記述②は虚偽である。
(イ) また,被告cには当該事実を真実だと信ずべき相当な理由もなかった。
イ 本件記述④
(被告らの主張) 
(ア) 本件記事は,鍵のビジネス全般について問題提起をしたものであるとこ
ろ,本件記述④は,「東京都に本社がある大手チェーン店」に対する「Aさ
ん」「Bさん」の具体的な苦情の紹介の後に続く部分であり,同記述は,原告
については国民生活センターへの苦情のみならず,加盟者,関係者等から
の苦情も少なくないということを読者に伝えるものである。すなわち,同セン
ターへの苦情が少なくないということだけが独立して真実証明の対象になる
わけではなく,同センターに対する原告に関する苦情の件数は真実証明の
対象にはならない。
 そして,被告cは,原告に対する加盟者,関係者等の複数の苦情を取材
し,国民生活センターへの苦情も確認していたのであるから,同センターへ
の苦情のみならず,加盟者,関係者等からの苦情も少なくないということは
真実である。
(イ) また,上記のとおり,被告cは,原告については,加盟者,関係者等の複
数の苦情を取材し,国民生活センターへの苦情も確認したのであるから,
仮に,原告に対する不満,苦情が少なくないということが真実でないとして
も,被告cには当該事実を真実だと信ずべき相当な理由があった。
(原告の主張)
(ア) 本件記述④は,「少なくないという」という談話形式で,その記述に対応す
る主語が直接には記載されていないが,本件記述②で「国民生活センター
によると」という同センターの談話が紹介された後に本件記述④が登場して
いること,しかも,「国民生活センターに寄せられているのは,なにもこの業
者だけではない」という表現が本件記述④の冒頭に掲載されていることから
すれば,一般の読者が普通の注意をもって本件記述④を読めば,同センタ
ーの談話が紹介された記事と受け取る。
 しかし,国民生活センターは,本件記述④に関しては,周知の事実である
場合や犯罪に関係がある場合を除いて,特定の業者名を挙げたり示唆す
ることはしないと回答した。
 したがって,国民生活センターに対して原告に関する苦情が寄せられたと
の本件記述④は虚偽である。
(イ) 本件記述④は,「(原告に対する苦情も)少なくない」というのであるから,
国民生活センターに対する原告に関する苦情の有無及びその件数は真実
証明の対象となる。
 しかし,国民生活センターの回答結果によると,原告に関する相談受付件
数は,平成10年1月1日から平成12年11月30日までの間に1件であっ
た。また,その相談事例(内容)も,「もうかるからと勧められ合鍵複製機の
リース契約をしたが,飛び込みなので不安になった。信用できる業者か。」と
いうものであった。すなわち,原告に対する相談は,平成10年1月から約2
年間で1件にすぎず,その内容も単なる問い合わせにすぎなかった。
 したがって,国民生活センターに対する原告に関する苦情はなかったので
あるから,本件記述④は虚偽である。
(ウ) また,被告cには当該事実を真実だと信ずべき相当な理由もなかった。
ウ 本件記述⑤
(被告らの主張)
(ア) 上記のとおり,真実証明の対象は,原告に対して加盟店の不満,苦情が
存在するということである。そして,本件記述⑤は,原告の加盟者Cから直
接取材した内容であって,原告に対して加盟店からの不満,苦情が存在し
たのであり,本件記述⑤は真実である。
(イ) また,上記のとおり,被告cは,原告については,加盟者,関係者等の複
数の苦情を取材し,国民生活センターへの苦情も確認した。したがって,仮
に,不満,苦情の内容それ自体が真実証明の対象であるとしても,その内
容は真実であり,少なくとも真実と信ずべき相当な理由があった。
(原告の主張)
(ア) 原告はこれまで本件記述⑤のような苦情を加盟店から受けたことは全く
ない。したがって,本件記述⑤は虚偽である。
(イ) また,被告cには当該事実を真実だと信ずべき相当な理由もなかった。
エ 本件記述⑥
(被告らの主張)
(ア) 上記のとおり,真実証明の対象は,原告に対して加盟店の不満,苦情が
存在するということである。そして,本件記述⑥の「このチェーン店の関係
者」とは,過去に原告のフランチャイズチェーン店の仕事に携わっていた者
を指し,本件記述⑥は,被告cがその関係者から直接取材した内容である
から,原告に対する不満,苦情が存在したのであり,本件記述⑥は真実で
ある。
(イ) また,被告cは,原告については,加盟者,関係者等の複数の苦情を取
材し,国民生活センターへの苦情も確認した。したがって,仮に,不満,苦情
の内容それ自体が真実証明の対象であるとしても,その内容は真実であ
り,少なくとも真実と信ずべき相当な理由があった。
(原告の主張)
(ア) 原告はこれまで本件記述⑥のような苦情を加盟店から受けたことは全く
ない。したがって,本件記述⑥は虚偽である。
(イ) また,被告cには当該事実を真実だと信ずべき相当な理由もなかった。
オ 本件記述⑦
(被告らの主張)
(ア) 上記のとおり,真実証明の対象は,原告に対して加盟店の不満,苦情が
存在するということである。本件記述⑦は,原告の説明会資料にあった開
業時に必要な工事の見積表を,鍵関連部材の問屋・卸売業を営む業者に
みてもらい,意見を求めた際の当該業者の応答を記述したものである。
 したがって,原告が加盟店に売る工具の額は市価より3割程度高いという
不満,苦情があったのであり,本件記述⑦は真実である。
(イ) また,被告cは,原告については,加盟者,関係者等の複数の苦情を取
材し,国民生活センターへの苦情も確認した。したがって,仮に,不満,苦情
の内容それ自体が真実証明の対象であるとしても,その内容は真実であ
り,少なくとも真実と信ずべき相当な理由があった。
(原告の主張)
(ア) 原告はこれまで本件記述⑦のような苦情を加盟店から受けたことは全く
ない。したがって,本件記述⑦は虚偽である。
(イ) また,被告cには当該事実を真実だと信ずべき相当な理由もなかった。
(4) 不法行為が成立する場合には,その損害額及び名誉を回復するのに適当な
手段の要否 
ア 損害額
(原告の主張)
 原告は,本件記事により名誉及び信用を毀損され,甚大な無形の損害を被
ったが,これを金銭に評価すると800万円を下らない。また,原告は,本訴の
提起追行を原告訴訟代理人に委任したが,その弁護士費用は200万円が相
当である。
(被告らの主張)
 争う。
イ 名誉を回復するのに適当な手段の要否 
(原告の主張)
 週刊誌「週刊a」は発行部数が多く,その社会的影響力は極めて大きい。本
件記事が掲載された「週刊a」が全国に販売された直後の平成12年12月3日
ころ,本件記事のコピーに「ボッタクリ カギチェーン!」という中傷文書を添付
した,差出人匿名の郵便物が原告の熊本本部に送りつけられてきた。このよう
に,本件記事の社会的反響は極めて大きく,被告らの原告に対する名誉毀損
は極めて深刻であり,金銭賠償のみでは慰謝しきれないものがある。よって,
原状回復措置として,第1,1のとおりの謝罪広告の掲載が不可欠である
(被告らの主張)
 争う。
第3 争点に対する当裁判所の判断
1 争点(1)(本件記事の名誉毀損性)について
(1) 証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
ア 原告は,「Y」「X」フランチャイズチェーン本部としてのフランチャイズチェーン
店の募集,指導及び管理等を業務内容としている(甲第3号証)。
 平成12年当時,原告の売上高は,直営店・加盟店併せて39億0200万円
であり,出店状況は,直営店16店,加盟店107店だった(甲第9号証)。
 原告は,「X」「Y」を商標登録しており,原告店舗や原告が使用する車両に
も,同商標が大きく印刷されている(甲第9,21号証)。
 原告は,平成12年当時,社団法人日本フランチャイズチェーン協会の正会
員だった(甲第12号証)。原告代表者は,同協会の平成13年度理事及び九
州支部長を務めていた(甲第14号証)。
イ 原告は鍵ビジネスのフランチャイズオーナーであり,d株式会社は鍵ビジネス
の代理店オーナーである(甲第17号証)。フランチャイズ契約は,本部が加盟
店に対しビジネスが成功するノウハウを一式パッケージにして提供するシステ
ムであるのに対して,代理店契約は,本部が代理店に対しそのビジネスで扱
う商品やサービスの販売権を提供するだけのシステムである(甲第17号証)。
dは,平成12年当時,社団法人日本フランチャイズチェーン協会の賛助会員
だった(甲第12号証)。
ウ 同年12月3日ころ,原告熊本本部に,「ボッタクリ カギチェーン!」と書かれ
たビラと週刊aから抜粋した本件記事が同封された封筒が郵送された(甲第8
号証)。
エ 平成12年12月28日,NHK列島リレー「あなたのカギあけます・新米カギ師
44才の昼と夜」と題する番組において,原告加盟店の活動風景がドキュメント
風に放映された(甲第10号証)。
 平成13年1月11日,RKB毎日放送「探検!九州(九州の元気印企業)」と
題する番組において,原告加盟店の取材風景がVTR放映され,さらに原告加
盟店オーナーと原告営業部部長が番組に出演し,開錠作業の実演及び解説
などをした(甲第11号証)。 
(2) 原告の特定性
 この点,被告らは,本件記事は「九州に本社がある大手のチェーン店」と匿名
にしているから,一般読者は本件記事から原告を特定できないと主張する。
 しかしながら,上記(1)のとおり,原告の直営店・販売店は約120店であること,
原告以外にフランチャイズ類似の形態で鍵ビジネスの全国展開を行っているの
はdだけであり,dの本社は東京であるのに対し,原告の本社は九州であること,
原告の商標「Y」と「X」が広く使用されていること,原告がテレビ番組の取材を受
けることが多いこと,本件記事発表後原告を中傷するビラが原告宛に送られてき
たことなどを考慮すれば,本件記事発表当時,業界関係者のみならず,一般の
読者も「九州に本社がある大手のチェーン店」という記述を読めば,原告を想起
するといえるので,被告らの主張には理由がない。
 したがって,本件記事により原告が特定される。
(3) 本件記事の名誉毀損性
ア 本件記述②及び④
 本件記述②には,鍵のフランチャイズチェーン店に関する加盟店からの苦情
相談が国民生活センターに全国から寄せられていること,その苦情に共通し
ているのは,簡単にできるビジネス,高額の指導料を取る,簡単な講習で開業
させる,後の面倒はみないといったものであることという事実が摘示されてい
る。
 また,本件記述④には,原告に関しても国民生活センターに寄せられている
苦情が少なくないという事実が摘示されている。
 これらの記述を読めば,一般の読者は,原告が,高額の指導料を取ったにも
かかわらず後の面倒をみないので,加盟店から多くの苦情が寄せられている
ような悪徳業者であるとの印象を受けるから,本件記述②及び④は原告の社
会的評価を低下させているといえる。
イ 本件記述⑤
 同記述には,原告加盟店のCが,開業するには資金がかかり,開業後は売
上が伸びず,経営が圧迫されていること,原告が加盟店に要求した店舗の広
さが広すぎること,講習は最初の2か月間行われただけであると述べたという
事実が摘示されている。
 そして,本件記述⑤の発信源である加盟店の名前が匿名であり,苦情の信
ぴょう性が実名で陳述された場合に劣ることはあるとしても,本件記述⑤は,
「月々の営業日誌をめくる」「開業費用として借金して4000万円を工面した」
など陳述が具体的であり,さらに「生き地獄です」という刺激的な表現があるこ
とに照らせば,一般の読者が本件記述⑤を読めば,原告が,加盟店を犠牲に
して本部の利益を最優先するような会社であるとの印象を受けるから,本件記
述⑤は原告の社会的評価を低下させているといえる。
ウ 本件記述⑥及び⑦
 本件記述⑥には,原告の関係者が,原告は加盟店に高額で工具を売りつけ
ると述べたこと,本件記述⑦には,別の鍵業者が原告の工具見積りより3割安
く同程度の工具を手配できると述べたという事実が摘示されている。
 そして,本件記述⑥の発信源である関係者の名前が匿名であるとしても,同
記述は,30万円ほどで買えるものを45万円で売りつけるなど外部の者には
わからない内情が具体的に記載されていること,本件記述⑦が別の業者の見
積りを載せていることからすれば,一般の読者が本件記述⑥及び⑦を読め
ば,原告が,加盟店を犠牲にして本部の利益を最優先するような会社であると
の印象を受けるから,本件記述⑥及び⑦は原告の社会的評価を低下させて
いるといえる。
エ この点,被告らは,本件記事は,原告が「甘い言葉でだます」「もうけ最優先
主義」の鍵のフランチャイズチェーン店であると主張しているのではなく,原告
については,国民生活センターへの苦情も含めて苦情が少なくないこと,及
び,原告のチェーン店の加盟者の不満,苦情を紹介しているだけであり,原告
の名誉は毀損されないと主張するが,本件記事は,一般的に加盟者の苦情
が存在すると伝えているのではなく,A,Cなど具体的な加盟者の存在を前提
として,その者が苦情を告げているという体裁をとっていること,本件記述①が
大見出しで「甘い言葉にだまされた」と記載していることからすれば,一般の読
者が本件記事を読めば,単に苦情が存在するだけでなく,その苦情の内容が
真実であるとの印象を受け,一般の読者がそのような印象を受ければ,原告
の社会的評価は低下するから,被告らの主張には理由がない。
2 争点(2)(本件記事の公共性,公益性)について
 証拠(乙第6号証,被告cの本人尋問の結果)及び弁論の全趣旨によれば,本件
記事は,ピッキング被害による需要増などで注目を集めている鍵ビジネスをめぐ
り,開業前の説明と実体が乖離していることに疑問をもっている加盟店がいること
を紹介し,読者に注意喚起を促したものであることが認められ,これは社会的関心
の高い事実であるといえるから,公共の利害に関する事実につき,公益目的をもっ
て執筆されたものと認められる。
3 争点(3)(本件記事の真実性,真実相当性)について
 上記1,2によると,本件記述②,④ないし⑦は,原告の社会的評価を低下させる
ものであるが,いずれも公共の利害に関する事実に係り,もっぱら公益を図る目的
にでたものであるから,摘示された事実が真実であることが証明されたときは違法
性がなく,不法行為は成立せず,仮に真実であることが証明されない場合でも,行
為者においてその事実を真実と信ずるについて相当な理由があるときは,故意又
は過失がなく,不法行為は成立しない。
 そして,その真実性を証明すべき事実の範囲については,記事に掲載された事
実のすべてについて細大もらさず真実であることの証明を要するものではなく,そ
の主要な部分において,あるいは大筋において真実であることが証明されれば足
りると解される。
 以下,この観点から,本件記述②,④ないし⑦の真実性について,検討する。
(1) 本件記述②及び④について
ア 証拠(甲第4号証,30号証,乙第6号証,証人eの証言及び被告cの本人尋
問の結果)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(ア) 被告cの取材活動
 被告cは,平成12年10月25日ころ,国民生活センターに電話取材し,同
センターの職員に対し,鍵のフランチャイズチェーン店について苦情がきて
いないか尋ねた。
 被告cは,同センターから,鍵のフランチャイズチェーン店に関し苦情相談
が増えており全国から寄せられていること,その中には業界の最大手や大
手業者に対する苦情もあること,簡単にできるビジネスといったうたい文句
が共通しており,高額の指導料をとって後の面倒はみない,との苦情が共
通しているとの説明を受けた。その際具体例として,①月50万円以上儲か
るとの説明を受けたがうそだった,②代理店になれば月80万円の売上を保
証すると言われたが,月20ないし30万円の売上しかない,③代理店契約
で200万円支払ったが儲からない,④鍵の技術を習得したいと思った,講
習会の受講料が600万円と言われ,犯罪をしない旨の書類に拇印の押印
を求められ,不安になった,という説明が挙げられた。
 被告cは,国民生活センターからの取材に基づいて,本件記述②及び④
を執筆した。
(イ) 原告の裏付調査
 原告常勤顧問法務担当eは,本件記事が発表された後,国民生活センタ
ーに,原告に苦情が寄せられているか否か電話で確認した。同センター消
費者情報部fは,平成12年11月29日電話で,同月30日eの訪問を受け
て,同人に対し,「取材は受けた。」「周知の事実であるとか,犯罪に関係あ
るとかの場合を除いて特定の名前を出すようなことはしない。」と答えた。
 eは,ほかの苦情処理機関にも問い合わせたところ,九州通産局及び福
岡市消費者生活センターは,鍵について業者からの相談はないと答えた。
(ウ) 国民生活センターに寄せられた苦情
 国民生活センターは,平成13年6月26日,弁護士法23条の2に基づく
照会(発第01の0845号)に対し,原告について,平成10年1月1日から
平成12年11月30日までにデータ入力された件数は1件であること,相談
事例は,「もうかるからと勧められ合鍵複製機のリース契約をしたが飛び込
みなので不安になった。信用できる業者か。」というものだったと回答した
(乙第3号証の1ないし3)。
 また,同センターは,平成14年7月1日,弁護士法23条の2に基づく照会
(平成14年福弁照第01-574号)に対し,同センターは被告cの取材に対
して,「業界最大手」という表現を用いたり,原告の社名を挙げて,苦情の有
無など言っていないと回答した(甲第32,33号証)。
(エ) 集団訴訟
 原告の加盟店だったg,h開発株式会社,i及びjは,平成14年4月24日,
福岡地方裁判所に,原告の過大な勧誘を信じ契約したが売上が伸びなか
ったとして,原告に総額約1億1000万円の損害賠償を求める訴えを提起し
た(乙第16,17号証)。
イ 本件記述②について
(ア) 摘示事実
 本件記述②は,鍵のフランチャイズチェーン店に関する苦情相談が増えて
いる,苦情の内容は,高額の指導料をとって後の面倒をみないというもので
あるという事実を摘示するものである。
(イ) 真実性
 上記ア(ア)のとおり,国民生活センターには,鍵のフランチャイズチェーン
店に関して4件の苦情相談が寄せられていたこと,同苦情相談の内④を除
けば,鍵のビジネスを始めたが思ったより売上が上がらないなど,おおむね
フランチャイズチェーン本部の経営手法に対する苦情であったことが認めら
れる。
 したがって,本件記述②の重要部分について真実であるとの証明があっ
たといえる。
 よって,本件記述②については,被告らは不法行為責任を負わないものと
いうべきである。
ウ 本件記述④について
(ア) 摘示事実
 本件記述④は,原告に関しても,国民生活センターに苦情が少なからず
寄せられているという事実を摘示するものである。
(イ) 真実性
 上記ア(ウ)のとおり,平成10年1月1日から平成12年11月30日まで国民
生活センターに対する原告に関する相談は約2年間で1件であったこと,そ
の相談の内容も単なる問い合わせにすぎず苦情ではないことから,本件記
述④の重要部分について真実であるとの証明がされたとはいえない。
 この点につき,被告らは,国民生活センターに対する原告に関する苦情の
件数は真実証明の対象にならないと主張するが,本件記述④を読めば,一
般の読者は,国民生活センターに対して原告に関する苦情が多数寄せられ
ているとの印象を受けるのであるから,同センターに対する原告に関する苦
情の件数は重要な事実といえるのであり,被告の主張には理由がない。
(ウ) 真実と信じるにつき相当の理由
 また,上記ア(イ)のとおり,国民生活センターは周知の事実である場合や
犯罪に関係する場合を除いて,問い合わせに対して,(苦情が出された業
者の)特定の名前を出すことはしないことからすれば,被告cは同センター
に原告に関する苦情が寄せられているか否かを正確に知ることはそもそも
できなかったこと,原告に関する相談は約2年間で1件だったこと,被告cの
供述ないし陳述書によれば,同人は同センターの女性職員から聞いた苦情
の内容のうち,1件はフランチャイズチェーンについての苦情ではないし,残
りの3件は代理店契約によるカギ業者についてのものであることからすれ
ば,同センターに寄せられている苦情が原告に対するものではないことは
容易に判明したこと,及び,国民生活センター以外の苦情処理機関は原告
に関する苦情を受けておらず,被告cが他の機関に問い合わせていれば原
告に関する苦情が寄せられていないことが容易に判明したことに照らせば,
被告cが(ア)の事実を真実であると信じることについて相当な理由があったと
認めることもできない。
(エ) 以上によれば,本件記述④については,その摘示事実が真実であること
も,また,これを真実であると信じるについて相当の理由があったことも認
められないから,被告らは不法行為責任を負うものと認めるべきである。
(2) 本件記述⑤について
ア 証拠(甲第25,28ないし30号証,乙第1,2,6号証,証人g及びkの各証言
及び被告cの本人尋問の結果)及び弁論の全趣旨によれば以下の事実が認
められる。
(ア) 原告のフランチャイズ契約
 フランチャイズ契約書2条3項及び4条2項において,加盟店には,原告の
開催する定例技術研修会及び定例販売促進セミナーを受ける義務がある
旨定められている(乙第7号証)。定例技術研修会は毎年2月と10月の年2
回,販売促進セミナーは毎年7月の年1回開催されている。また,原告は,
上記定例の研修以外にも,加盟店からの技術面・営業面の問い合わせに
対し,専門のスタッフが日常的にアドバイスできる体制をとっている(甲第2
5,29号証)。
(イ) g(以下「g」という。)の原告に対する不満,苦情
a gは,平成11年3月15日ころ,テレビの取材番組を見て原告に問い合
わせをした(甲第22,28号証)。
 原告東京本部営業部課長kは,同月31日,gが資料請求をしたので,
会社経歴書,業務内容を説明した書類をgに送付した。
b gは,同年4月24日,東京都市ヶ谷で開かれた説明会に参加した。同説
明会では,加盟店の売上実績を示す資料(甲第23号証),収支概算表,
新聞・雑誌の関連記事などが配られた。
 売上推移表には,売上が良い加盟店も悪い加盟店もすべて記載されて
いた(甲第23号証,g・168項)。
 同説明会では,原告営業本部長lが,上記資料を用いて,会社経歴,具
体的な仕事の内容,一般の鍵業者との違いなどの説明をした。lは,売上
実績については,上記売上推移表(甲第23号証)を示し,売上実績のあ
る加盟店とない加盟店の生のデータを示し,その違いについて説明し
た。
 説明会で配布された雑誌記事(乙第9号証)には,加盟店は開業後約3
か月で軌道にのり,月商280ないし300万円は可能で,開業資金も5年
以内,東京都内なら2年以内で回収できるとの記載があったが,他方,売
上をいかに伸ばすかは営業努力次第であること,各加盟店の具体的な
努力,原告代表者自ら104番に電話を何回もかけて原告の知名度を高
める営業努力を重ねたことなどの記載があった。
c gは,平成11年6月,日立製作所を退社し(g26項),同年7月5日,原
告とフランチャイズ契約を締結した(甲第28号証,乙第7号証)。
 gは,平成11年7月5日から2か月間の開業技術講習を受け,同年11
月末ころ,原告長住店をオープンした(g・44項)。
 gが原告に対して開店時に支払った加盟金,預り保証金などは2673
万2300円であり(乙第11号証),そのほか,gは,店内改装費用として1
300ないし1400万円を支出し,結局,開業資金として合計約4000万
円費やした(g・66項)。
d gは,平成11年7月5日から2か月間の開業技術講習を受けた後,平成
13年の契約解除に至るまで,一度も定例技術研修会や定例販売促進セ
ミナーに参加しなかった。
 gは,平成13年11月,原告とのフランチャイズ契約を解約した(g・3
項)。
(ウ) 被告cの取材活動
a 被告cは,平成12年10月11日,原告のチェーン店関係者らに取材を始
めた。被告cは,最初に取材した,九州在住の原告のチェーン店関係者
(以下,「丙」という。)から,月に売上がどの店でも最低200万円はある
ような説明を原告の本部がするが,実際はかなり難しいこと,仕入れや商
品購入の費用・在庫も負担になること,本部から仕入れると市価の1.5
倍から2倍はすること,原告は人の弱みにつけこむことなど,本件記述⑥
のような話を聞いた。
 そして,丙は,cに対し,本件記述⑤で登場するCを紹介した。
b 被告cは,同年10月18日,九州でCが営む店において,約2時間,取材
をした。Cは,被告cに対し,月の売上が250万円と言われたのに,毎月
100万円台が大半であること,内装工事の業者は本部の指定であり,工
事代金が普通の業者の1.5倍もかかること,今は辞めるに辞められず
生き地獄であること,出店コストが4000万円というのは高すぎること,店
舗も20坪が目安というのは広すぎること,出店前に講習が2か月あるが
現場で通用する技術を身につけるには1年間は必要であることなど,本
件記述⑤のような説明をした。
c 被告cは,原告が加盟店に購入させている機器等が本当に相場より高い
のか確かめるために,鍵と錠の専門店用機械・工具・鍵材料及び防犯装
置類製造卸販売を行っている株式会社の代表者や甲に,原告の見積書
(乙第1,2号証)を見てもらったところ,同じものなら3割安く手配できるな
ど,本件記述⑦のような回答を聞いた。
d その後,被告cは,原告に対し,約3回電話取材を行った。被告cは,原
告常勤顧問eから,1回目の電話で,原告会社の概要を聞き,2回目の電
話で,加盟店から批判の声が上がっていることを話し,そのことについて
の意見を求めた。被告cが,質問事項をまとめてFAXで送ったところ(甲
第27号証),eは,国民生活センターに送られている苦情は知らないと答
えた。
 eは,被告cに対し,資料等をもとにして詳しく説明したいので,原告本
部まで来社してほしい旨依頼したが,被告cは,忙しいからという理由で
断った(甲第30号証)。
e 被告cは,それ以外にも日本特殊技能開発センターに対しても取材を行
うなど,約1か月半にわたる取材を終えた後,同年10月下旬から11月
初めにかけて本件記事の執筆を行った。
 被告cは,本件記事を執筆中,Cからgを紹介されたが連絡がつかず,
本件訴え提起後,gから取材をした。
イ 摘示事実
 本件記述⑤は,原告が,売上が一月250万円ある旨を約束・保証したにも
かかわらず,実際の売上が100万円台前半しかないこと,講習が最初の2か
月間しかないことという事実を摘示するものである。
 この点,被告らは,本件記述⑤が摘示した事実は,原告に対して加盟店の
不満,苦情が存在することであると主張する。しかしながら,本件記述⑤に
は,「月々の営業日誌をめくる」「開業費用として借金して4000万円を工面し
た」など具体的な陳述があること,さらに「生き地獄です」という刺激的な表現
があることに照らせば,一般の読者が同記述を読めば,原告が,加盟店を犠
牲にして本部の利益を最優先するような会社であるとの印象を受けるから,本
件記述⑤が摘示した事実は,加盟店の不満,苦情が存在することだけではな
く,まさに不満,苦情の内容であるので,被告らの主張には理由がない。
ウ 真実性
(ア) 真実性を証明する証拠方法について
 原告は,本件記述⑤には,Cという特定の加盟店の発言内容が摘示され
ているのであるから,ほかの加盟店である証人gの証言をもって真実性の
立証に代えることはできないし,被告cが摘示事実が真実であると信じたこ
とが相当であると認めることもできないと主張する。 しかしながら,本件記
事は原告に対する加盟店からの苦情が少なくないという印象を与えるもの
であること,本件記述⑤に摘示された苦情(売上が当初の説明より少ない,
開業後のサポートがないということ)は,Cを含めた原告加盟店全体に共通
するものであることからすれば,本件記述⑤の真実性を証明する証拠方法
としてCの供述・証言に拘泥する必要はなく,本件においては,Cと同じ,原
告加盟店であるgの証言をもって,本件記述⑤の真実性を証明できると解さ
れる。
(イ) 売上が当初の説明より少ないことについて
 上記アによれば,原告が説明会のときに配布した売上推移表(甲第23号
証)には,売上が良い加盟店も悪い加盟店もすべて記載されていたこと,同
説明会のときに配布された資料には,売上をいかに伸ばすかは営業努力
次第である旨記載があったことが認められる。
 したがって,原告が一月250万円の売上がある旨を約束・保証したとの点
について真実であるとの証明がされたとはいえない。
(ウ) 開業後のサポートがないことについて
 上記アによれば,原告は定例技術研修会及び定例販売促進セミナーを定
期的に開催していたこと,研修会等,専門の原告スタッフが日常的にアドバ
イスできる体制をとっていることが認められる。
 したがって,原告が開業後のサポートをしないという点について真実であ
るとの証明がされたとはいえない。
(エ) したがって,本件記述⑤について真実性の証明があったとはいえない。
エ 相当な理由
 また,上記ア(ウ)dのとおり,eが被告cに対し資料等をもとにして詳しく説明す
るので原告本部まで来社してほしいと申し出たにもかかわらず,被告cは上記
申出を断ったところ,被告cが同申出を受けて原告本部に来社しeから直接説
明を聞けば誤解が溶けた可能性もあったことから,被告cは慎重な裏付取材
を怠ったといえるのであり,被告cが上記イの事実を真実であると信じたことに
つき相当な理由があったと認めることもできない。
オ 以上によれば,本件記述⑤については,その摘示事実が真実であることも,
また,これを真実であると信じるについて相当の理由があったことも認められ
ないから,被告らは不法行為責任を負うものと認めるべきである。
(3) 本件記述⑥及び⑦について
ア 証拠(甲第18,19,20,25号証,乙第5号証,証人mの証言及び被告cの
本人尋問の結果)及び弁論の全趣旨によれば以下の事実が認められる。
(ア) 原告の販売する機械等の価格
a 平成12年7月15日に配られた説明会資料によると,原告に加盟して開
業する際必要な費用として,車載用機械FC-15は49万9000円,FC
-5は67万8000円,店舗用機械マトリックスSLXは54万円だった(乙
第1号証)。
 一方,鍵関連部材の問屋・卸売販売業のo株式会社の見積によると,J
M-550の単価は28万円,エコドリル2000コードの単価は38万800
0円だった(乙第5号証)。
 なお,平成13年9月に開催された鍵屋リンクスという会社の展示会の
チラシによると,マトリックスSLXが同展示会で39万8000円で販売され
ていたが,これは大阪展示会開催記念セールにおけるセール特価であ
り,限定数5台であった(乙第5号証)。
b FC-15(キーマシン)について
(a) FC-15は合鍵複製機である。o製のJM-550と構造自体は同じ
である。
(b) しかし,原告は,ダイヤルガイドを付加して注文するので,購入価格
は,原告の仕入先である株式会社n製の一般仕様のFC-15より,さ
らに2万5000円程度高くなる。
(c) また,FC-15にはモーターにコンデンサー(電圧を調整する機械)
が付いているが,o製のJM-550にはコンデンサーは付いていない。
 原告は,モーターにコンデンサーを付けるよう特注しているので,これ
により購入価格は,n製の一般仕様のFC-15より3万円程度高くな
る。
(d) さらに,FC-15は,カギを挟む部分が4面バイスになっているが,o
製のJM-550は2面バイスである。
 4面バイスを装備したときの購入価格は,2面バイスを装備したとき
に比べて,3ないし4万円高くなる。
(e) また,FC-15は,キーブックを含めた価格になっているが,o製のJ
M-550にはキーブックが含まれていない。
 キーブックの値段は2万8000円くらいである。
(f) そして,FC-15には,原告オリジナルの資料である特殊合カギ資料
が付いている(甲第36号証)。
c FC-5(コードマシン)について
(a) コードマシンとは,カギを紛失した依頼者に対し新たなカギを作る機
械である。o製のJM-650とほぼ同じ機械である。
(b) FC-5には,コードブック(鍵のコードナンバーが記載されたもの)と
サンプルキーが付いているが,o製のコードマシンJM-650の価格に
は,コードブック等が含まれておらず,機械単体のみの価格となってい
る。
 FC-5には,上記コードブック等が付くことにより,購入価格は,一般
仕様のものより,約10万円高くなる。
d マトリックスSLXについて
(a) マトリックスSLXは,特殊な鍵の複製を行う機械である。o製のエコド
リル2000とほぼ同じ機械である。
(b) マトリックスSLXには,原告が特注した刃先が付いており,エコドリル
2000はコンピューター制御になっているなどの違いがあり,両者の価
格を単純に比較することはできない。
e nは,カギ関連部材の大手メーカーであり,全国で60ないし70パーセン
トのシェアをもっている。nの製品は,業界で最も品質が良いといわれて
いる。
 以上のように,原告が特注したn製品には,一般仕様のものに比べ,様々
な特殊機能が付加されている(甲第18ないし20号証)。
(イ) 被告cの取材活動
 被告cは,平成13年11月16日,oを訪問し,o代表者pに対し,原告の見
積書(乙第1号証)を見てもらい,機械・工具の価格について意見を求めた。
 pは,被告cに対し,原告の見積書にあるキーマシンのFC-15は,oの見
積書にあるJM-550とほぼ同等の製品であり,両者の性能はほぼ同じで
あること,また,原告の見積書にあるFC-5型は,oの見積書にあるJA-0
01とほぼ同等の製品であることを説明した。さらに,同人は,原告の見積
書にあるマトリックスSLXは,oの見積書にあるエコドリル2000に該当する
製品で,エコドリルの方が性能が高く,上位機種であると説明した(乙第5号
証)。
 被告cは,原告の見積書とoの見積書を比較して,ほぼ同じ性能の機械に
ついてoの販売価格の方が3割以上安いことを確認した。
イ 摘示した事実
 本件記述⑥及び⑦は,加盟店が原告から購入する工具,機械がほかの店
より高額であるという事実を摘示するものである。
ウ 真実性
 上記のとおり,原告が販売する機械等はoが販売する機械等よりも約3割ほ
ど価格が高いことが認められるが,原告が販売する機械は細部の仕様が上
位のものであったり,コードブックなど付加価値があったのであり,原告が販売
する機械等の価格を単純にoが販売する機械等と比較するのは相当ではない
ことから,原告が販売する機械等の価格が不当に高いということはできない。
 したがって,本件記述⑥及び⑦について真実性の証明があったとはいえな
い。
エ 相当な理由
 また,上記(2)ア(ウ)dのとおり,被告cは,eに直接事情を聞くことを怠ったので
あり,eから直接説明を聞けば誤解が溶けた可能性もあったことから,被告c
は慎重な裏付取材を怠ったというべきであり,被告cが上記イの事実を真実で
あると信じたことにつき相当な理由があったと認めることもできない。
オ 以上によれば,本件記述⑥及び⑦については,その摘示事実が真実である
ことも,また,これを真実であると信じるについて相当の理由があったことも認
められないから,被告らは不法行為責任を負うものと認めるべきである。
4 争点(4)(賠償額等)について
(1) 前項において検討したところによると,本件記事はほぼその全体において,慎
重な裏付取材を欠いた取材活動により得られた情報をもとに,原告が,加盟店を
犠牲にして儲けていることを批判する内容の記事が記述されているのであり,原
告の社会的信用を毀損するものとなっているといえる。
 しかしながら,反面,本件記事は,業界トップの企業である原告の営むフランチ
ャイズチェーンシステムの問題点を指摘する意図のもとに掲載されたものであ
り,ことさらに虚偽の事実を摘示したものといえないこと,原告の名前を匿名で出
すなどの配慮もしていることなどに照らせば,原告の社会的信用に対するダメー
ジもさほど甚大であるとはいえない。これらに加え,「週刊a」が全国紙であり発行
部数も多いことなど本件に現れた諸般の事情を併せ考慮すると,本件において
被告らが賠償すべき慰謝料は100万円と認めるのが相当である。
 また,弁論の全趣旨によれば,原告が本訴の提起・追行を原告訴訟代理人に
依頼したことが明らかであるところ,被告らの不法行為と因果関係がある弁護士
費用としては10万円をもって相当と認められる。
(2) 次に謝罪広告の掲載について判断するに,謝罪広告は,その性質上,名誉回
復のためにその必要性が特に高い場合に限って命ずるのを相当とする措置であ
ると解すべきところ,本件記事が原告の社会的信用に対してさほど甚大なダメー
ジを与えたとはいえないことは前記のとおりであるから,損害賠償の支払に加え
て,謝罪広告の掲載を必要とするまではいえない。
第4 結論
 以上により,原告の請求は,被告らに対し各自110万円及びこれに対する平成1
2年11月28日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支
払を求める限度で理由があるからこれを認容することとし,その余は理由がないか
らこれを棄却することし,訴訟費用の負担については民事訴訟法64条本文を,仮
執行宣言については同法259条1項をそれぞれ適用して,主文のとおり判決す
る。
 福岡地方裁判所第6民事部
裁判長裁判官杉  山  正  士
裁判官  武  野  康  代
裁判官上  野     弦

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