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主文
1 本件控訴を棄却する。
2 差戻前及び後の控訴審並びに上告審の訴訟費用は控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 控訴の趣旨
(1)原判決を取り消す。
(2)被控訴人株式会社誠和は,仙台市に対し,6億2037万2199円及びこ
れに対する平成6年3月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払
え。
(3)被控訴人株式会社菅喜は,仙台市に対し,3億7222万3319円及びこ
れに対する平成6年3月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払
え。
(4)被控訴人株式会社誠和建設は,仙台市に対し,1億2407万4439円及
びこれに対する平成6年3月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支
払え。
(5)訴訟費用は,被控訴人らの負担とする。
2 控訴の趣旨に対する答弁
 主文同旨
第2 事案の概要
1 仙台市(以下「市」という。)の住民である控訴人らが,市が被控訴人らから
大年寺山公園予定地を買収したことについて,売買契約が公序良俗に反し,又は錯
誤により無効であるとして,地方自治法(以下「法」という。)242条の2第1
項4号に基づき,市に代位して,被控訴人らに対し,不当利得として各代金相当額
及び遅延損害金の返還を求めて訴えを提起したところ,原審は,監査請求が監査請
求期間を徒過しているとして,原判決により訴えを却下した。控訴人らが原判決に
対し控訴したところ,控訴審は,期間徒過に正当な理由があるとして,原判決を取
り消したが,被控訴人らがこれに対し上告したところ,上告審は,正当な理由の有
無は,監査請求が市の平成2年度及び同3年度の各決算説明書が一般の閲覧に供さ
れた時期から相当期間内に行われたか否かで判断すべきとして,控訴審判決を破棄
して仙台高等裁判所に差し戻した。本件は,この差戻後の控訴審である。
 なお,原審においては,控訴人らは,株式会社アルバックスジャパンも被告とし
て訴えを提起していたが,原判決により訴えが却下され,差戻前の控訴審が控訴を
棄却しこれが確定したため,原判決も確定している。
2 「争いのない事実等」及び「争点及び争点に関する当事者の主張の骨子」は,
次のとおり付加するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第二 事案の概要」
中の「二 争いのない事実等」及び「三 争点及び争点に関する当事者の主張の骨
子」(原判決8頁4行目から34頁8行目まで)のうち被告株式会社アルバックス
ジャパンに関する部分(原判決10頁6行目から11頁11行目まで,27頁4行
目から34頁3行目まで)を除くものと同一であるから,これを引用する。
(1)控訴人らの主張
 平成2年度及び同3年度の予算説明書及び決算説明書は約7㎝と分厚いものであ
り,住民がその中から不正な契約や代金を拾い出すことは至難である。
 しかも,これら資料に基づき単純に割り算をすれば,大年寺山公園用地の売買代
金は1㎡当たり約17万円になるが,およそその付近の土地の価格が低廉で1㎡当
たり十数万円になる土地がないというわけではなく,「事業費」の中には造成費も
含まれるから,より詳細に細かな土地の特定ができなければ,最判平成2年6月5
日(民集44巻4号719頁)が判示する「住民監査請求は,その対象とする財務
会計上の行為又は怠る事実を他の事項から区別し,特定して認識できるように個別
的,具体的に摘示し,また,右行為等が複数である場合には,その行為等の性質,
目的等に照らしこれらを一体とみてその違法又は不当性を判断するのを相当とする
場合を除き,各行為等を他の行為等と区別し,特定して認識できるように個別的,
具体的に摘示してしなければならない。」旨の基準に従った監査請求をする程度に
は,その存在及び内容を知ることができない。
(2)被控訴人らの主張
 大年寺山公園用地の売買を住民が知り得る状態になったのは,遅くても市議会に
おいて予算及び決算の報告が審議され,その審議の対象となった予算説明書及び決
算説明書が一般の閲覧に供され,本件土地一及び本件土地二が不動産登記簿及び公
用財産台帳に記載されて閲覧が可能になった時である。
 そして,大年寺山公園整備事業都市計画案が縦覧に供されたのが平成2年11月
6日であり,本件土地一及び本件土地二について市へ所有権移転登記が経由された
のが,それぞれ同3年3月26日及び同年12月9日であり,同2年度及び同3年
度の各決算説明書が一般の閲覧に供されるようになったのが,それぞれ同3年11
月18日ころ及び同4年11月11日ころである。したがって,本件監査請求は,
これらの日から少なくとも1年以上経過して行われたものであるから,相当の期間
内に行われたとは到底いえず,法242条2項所定の「正当な理由」は存在しな
い。
第3 当裁判所の判断
1 法242条2項本文は,普通地方公共団体の執行機関,職員の財務会計上の行
為は,たとえそれが違法,不当なものであったとしても,いつまでも監査請求ない
し住民訴訟の対象となり得るものとしておくことが法的安定性を損ない好ましくな
いとして,監査請求の期間を定めている。しかし,当該行為が普通地方公共団体の
住民に隠れて秘密裡にされ,1年を経過してから初めて明らかになった場合等にも
その趣旨を貫くのは相当でないことから,同項ただし書は,「正当な理由」がある
ときは,例外として,行為のあった日又は終わった日から1年を経過した後であっ
ても,普通地方公共団体の住民が監査請求をすることができるようにしているので
ある。したがって,上記のように当該行為が秘密裡にされた場合には,同項ただし
書にいう正当な理由の有無は,特段の事情のない限り,普通地方公共団体の住民が
相当の注意力をもって調査を尽くしても客観的にみて当該行為を知ることができた
かどうか,また,当該行為を知ることができたと解される時から相当な期間内に監
査請求をしたかどうかによって判断すべきものである。そして,当該行為が秘密裡
にされた場合に限らず,普通地方公共団体の住民が相当の注意力をもって調査を尽
くしても客観的にみて監査請求をするに足りる程度に当該行為の存在又は内容を知
ることができなかった場合には,上記の趣旨を貫くのは相当でないというべきであ
る。したがって,そのような場合には,上記正当な理由の有無は,特段の事情のな
い限り,普通地方公共団体の住民が相当の注意力をもって調査すれば客観的にみて
上記の程度に当該行為の存在及び内容を知ることができたと解される時から相当な
期間内に監査請求をしたかどうかによって判断すべきものである(以上につき,差
戻前上告審判決参照)。
2 これを本件についてみると,前記「争いのない事実等」に関係証拠(甲1~
4,6~11,12の1及び2,13,14,16,55の1~4,乙1~3,4
の1~5,5の1~4,6の1~3,7の1~5,23,36の1,37の2,4
2,43,45の1及び2,47,48,54~57,原審における証人Aの証
言,調査嘱託の結果)及び弁論の全趣旨を総合すれば,次の事実が認められる。
(1)市は,昭和45年ころ,史跡景勝の丘陵地帯である大年寺山を公園として整
備する大年寺山公園計画を有していた。市は,同63年11月11日以降数回にわ
たり,公園予定地の地権者を対象とした同計画の説明会を開催し,平成2年11月
16日,大年寺山公園について公園区域面積を変更する旨を決定して告示するとと
もに,本件土地一及び本件土地二を含む買収予定区域を明示した都市計画案を縦覧
に供し,同年12月14日,大年寺山公園整備事業の認可を受けた。
(2)市は,不動産鑑定士による鑑定評価及び市公有財産価格審査委員会の審査を
経て売買価格を決定した上,平成3年3月13日,被控訴人らから,大年寺山公園
整備事業の公園用地として,本件土地一を1㎡当たり17万円の価格で買い受ける
旨の本件契約一を締結した。本件土地一について,同月26日,本件契約一を原因
とする被控訴人らから市への共有者全員持分全部移転の登記がされ,同月30日,
閲覧が可能であった市土地台帳にも登録された。市は,同月29日,被控訴人らに
対し,平成2年度予算の執行としてその売買代金を支払った。また,市は,同様の
手続を経た上,平成3年12月2日,被控訴人らから,大年寺山公園整備事業の公
園用地として,本件土地二を1㎡当たり18万0700円の価格で買い受ける旨の
本件契約二を締結した。本件土地二について,同月9日,本件契約二を原因とする
被控訴人らから市への共有者全員持分全部移転の登記がされ,同4年9月30日,
市土地台帳にも登録された。市は,同3年12月25日,被控訴人らに対し,平成
3年度予算の執行としてその売買代金を支払った。
 本件土地一の上記売買価格は,同年3月1日時点における正常価格の約3倍から
4.7倍であり,本件土地二の上記売買価格は,同年11月1日時点における正常
価格の約4.9倍であった。
(3)大年寺山公園整備事業については,市の平成2年度予算説明書には,一般会
計の歳出の部の土木費(款),公園造成費(項)の「説明」欄に「単独事業,風致公
園,大年寺山公園」との記載がある。同年度決算説明書には,一般会計の歳出の部の
土木費(款),公園造成費(項)の「説明」欄に「補助事業,風致公園,大年寺山公
園」との,公共用地先行取得事業会計の歳出の部の公共用地先行取得事業の「事業
費」欄に「大年寺山公園5294.1㎡,900,000千円」との記載がある。
同3年度予算説明書には,一般会計の歳出の部の土木費(款),公園造成費(項)の
「説明」欄に「補助事業,特殊公園,大年寺山公園」との記載がある。同年度決算
説明書には,一般会計の歳出の部の土木費(款),公園造成費(項)の「説明」欄に
「補助事業,特殊公園,大年寺山公園」との記載があり,大年寺山公園に係る歳出
に関して一部別会計に移された分につき,公共用地先行取得事業会計の歳入の部の
公共用地先行取得事業収入(款),財産収入(項),財産売払収入(目),土地建
物(節)に「大年寺山公園1435.6㎡,249,208千円」との記載があ
る。上記各予算説明書及び決算説明書は,いずれも一般の閲覧に供されたものであ
るが,平成2年度及び同3年度の各決算説明書は,それぞれ,同3年11月及び同
4年11月に発行され,同3年11月18日及び同4年11月11日に市総務局総
務部市政情報室に送付され,同室は,そのころ,これらを市政情報センターに備え
置いて,一般市民の閲覧に供した。
(4)市議会議員Aは,市が行った別の用地取得について調査をしていた際,大年
寺山公園用地の買収について問題があるとの情報を得,市から各年度ごとの各購入
土地の所在,地積,単価等に関する資料の提出を受けて調査したところ,本件契約
一及び本件契約二の売買価格に間題があると考え,平成5年9月20日に開かれた
市議会の一般質問において,大年寺山公園に係る平成2年度及び同3年度の取得用
地の売買価格が同4年度のそれの4倍に近い異常な高値であったことについて質問
をした。市は,上記売買価格に疑問を持ち,調査中であることを明らかにした。翌
21日,上記質疑の内容が新聞で報道された。その新聞記事には,市は,同2年度
において大年寺山公園用地として仙台市太白区aの土地約9400㎡を1㎡当たり
平均17万円で購入し,同3年度において同様に同所の土地約1万2900㎡を1
㎡当たり平均18万円で購入したこと,市は,平成5年3月,それまで依頼してい
た不動産鑑定士とは別の不動産鑑定士に依頼して改めて取得予定地の鑑定評価を
し,平成4年度において約1万㎡の土地を1㎡当たり4万7747円で購入したこ
と,市は,同2年度及び同3年度当時の鑑定内容や購入に至ったいきさつなどを調
査していることなどが記載されていた。
(5)控訴人らは,平成5年10月8日,市情報公開条例に基づき,大年寺山公園
用地の売買契約書等の開示請求を行い,同月22日,請求に係る文書のうち土地の
所在,地番,地積及び代金額部分が非開示とされ,その余の部分が開示された。控
訴人らは,同年11月10日ころまで,公図,登記簿謄本等を閲覧するなどして,
疑義のある売買契約がされた土地の地番等を特定する作業を行い,同月25日,本
件土地一及び本件土地二の取得に関し,代金額を正当な価額に是正し,市の被った
損害を賠償させる等の適切な措置を講ずることを求める本件監査請求をした。監査
委員は,同6年1月20日,控訴人らに対し,本件各契約における売買価格が不当
に高額であるおそれがあるものの,その立証,確定をし得ないので措置の勧告をす
るまでには至らず,これに代えて,市長に対し監査結果に基づく意見を提出した旨
を通知した。
3 以上の認定事実によれば,本件監査請求は,本件土地一及び本件土地二の売買
価格が不当に高額であるとしてされたものであるところ,本件契約一及び本契約二
の詳細に関しては,大年寺山公園整備事業都市計画案の縦覧並びに本件土地一及び
本件土地二につき市への所有権移転登記及び市土地台帳への登録が平成3年3月3
0日及び同年9月30日にそれぞれされており,平成2年度及び同3年度の各予算
説明書及び決算説明書に大年寺山公園用地取得のための事業費に関する記載があ
り,さらに,上記各決算説明書の記載によれば,大年寺山公園用地の各年度の売買
価格の平均値が1㎡当たり約17万円であったことが明らかとなっていたというべ
きである。そうすると,上記各決算説明書が一般の閲覧に供されて市の住民がその
内容を了知することができるようになった平成3年11月18日ころ及び同4年1
1月11日ころには,市の住民が上記各書類を相当の注意力をもって調査するなら
ば,客観的にみて本件契約一及び本件契約二の締結又は代金の支出について監査請
求をするに足りる程度にその存在及び内容を知ることができたというべきである
(以上につき,差戻前上告審判決参照。民事訴訟法325条3項により,当裁判所
は,この上告審判決の破棄理由とした事実上及び法律上の判断に拘束されるので,
これに反する控訴人らの主張は採用できない。付言するに,控訴人らは「事業費」
には「造成費」も含まれる旨主張するが,各決算説明書に記載されているのは公共
用地先行取得事業の事業費であるから,造成費が含まれることはなく,控訴人らが
引用する最判平成2年6月5日も,本件において,個々の土地ごとの売買価格を確
定しなければ,監査請求の対象が不特定であるとする趣旨とは解されない。)。
 したがって,本件監査請求の適法性は,特段の事情がない限り,本件契約一及び
本件契約二につき,それぞれ,この平成3年11月18日ころ及び同4年11月1
1日ころから相当な期間内にされたか否かにより判断することになるが,同5年1
1月25日にされた本件監査請求は,本件契約一については,前記基準日である同
3年11月18日ころから2年余を経過し,本件契約二についても,基準日である
同4年11月11日ころから1年余を経過した日にされたことが明らかであり,特
段の事情も認められない本件においては,本件監査請求には法242条2項ただし
書所定の正当な理由があるとは認められない。
4 よって,控訴人らが提起した本訴は,適法な監査請求を経ておらず不適法であ
って,これと同旨の原判決は正当であり,本件控訴は理由がないから,これを棄却
することとし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法67条
1項,2項,61条,65条1項を適用して,主文のとおり判決する。
仙台高等裁判所第三民事部
裁判長裁判官  石 井 彦 壽
裁判官  浦 木 厚 利
裁判官  畑   一 郎

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