弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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○ 主文
一 被控訴人立川市長Aに対する控訴につき
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人らの負担とする。
二 被控訴人Aに対する控訴につき
原判決(被控訴人Aに関する部分)を取り消す。
本件を東京地方裁判所に差し戻す。
○ 事実
一 控訴人らは、「原判決を取り消す。本件を東京地方裁判所に差し戻す。」との
判決を求め、被控訴人らは、控訴棄却の判決を求めた。
二 当事者双方の主張及び証拠関係は、主張として、控訴人らにおいて、「一 被
控訴人立川市長Aに対する訴えについて。
1 本件各処分は、立川市長の公金支出を完成させる行為であつて、公金支出と一
体不可分である。2 本件各処分は、立川市の公有財産である道路施設の管理状態
変更を目的とするものであるから、管理状態変更に伴い当然に立川市の負担となる
道路の維持管理の出費即ち財務会計上の処理を目的とする行為である。3 従つ
て、本件各処分が道路法に基づく道路行政上の処分であることに拘泥するあまり、
本件各処分の持つ財務会計上の処理を目的とした側面を見落すべきではない。二 
被控訴人Aに対する訴えについて。1 地方自治法第二四二条の二の住民訴訟にお
いて、当該監査請求が監査前置主義を充足するかどうかは、監査の理由として主張
された事由と住民訴訟で主張されている請求の原因に掲げられた事由との間に、実
質的同一性が認められるか否かによつて決せられるのであつて、監査請求において
求められた措置請求と、住民訴訟において求められている請求の趣旨との同一性で
はない。本件において、控訴人らが、立川市の被控訴人Aに対する損害賠償の代位
請求をする要件として監査請求の対象となつていたか否か問題とされるべきは、行
政機関の違法行為即ち被控訴人Aが立川市長としてなした公金支出若しくはその前
提たる本件道路建設工事請負契約の締結であつて、立川市が、右公金支出により被
つた損害の賠償を被控訴人Aに求めるべきである旨の主張即ち措置請求ではない。
従つて、この旨の主張がないことをもつて、監査前置主義の要件を具備していない
と帰結するのは誤りである。2 本件監査請求は、形式的な表現の上からは、本件
道路建設工事請負契約や工事代金の支払いなどの公金支出について問題としていな
いもののようである。しかし、それが、本件道路建設の違法不当性を主張し、道路
の原状回復を求めていることの全趣旨からすれば、本件監査請求の対象は、被控訴
人Aが立川市長としてなした本件道路建設工事に伴う一連の行為であつて、右請負
契約の締結や公金支出も当然にその中に含まれているのであり、少なくとも黙示的
に含まれているといわなければならず、敢えて本件監査請求から右を除外している
と認めるべき事情は存しない(なお、被控訴人立川市長が本件工事代金三五〇〇万
円のうち残金二四五〇万円を支出したのは、本件監査請求の後である昭和五三年五
月一五日である。)。3 かりに、本件監査請求の対象に、右公金支出の点が含ま
れていないとしても、地方自治法第二四二条の二第一項の監査前置主義は、限定的
に解釈すべきではなく、監査請求にかかる行為若しくは事実から派生し、またはこ
れを前提として後続することが必然的に予測されるすべての行為若しくは事実につ
いて住民訴訟を提起できると解すべきところ、本件監査請求においては、本件道路
建設工事の違法性が主張されているのであるから、右工事から当然に派生する本件
道路建設工事請負契約の履行である公金支出について住民訴訟が提起できないいわ
れはない。4 かりに、本件監査請求中の控訴人らの措置請求が本件監査請求の対
象であるとしても、措置請求中の本件道路の原状回復は、当然に公金支出の原状回
復としての被控訴人Aに対する損害賠償請求を包含し、若しくは損害賠償請求が派
生することを予測しているものであるから、本件訴えが監査前置主義に反するとこ
ろのないことは明らかである。5 かりに、本件損害賠償請求について、監査請求
を経由していなかつたとしても、その瑕疵は、次のとおり治癒された。即ち、控訴
人らは、昭和五六年三月七日付で立川市監査委員に対し、本件道路延長工事費違法
支出について監査請求をなし、立川市が立川市長である被控訴人Aに対して損害賠
償請求をするよう勧告を求め、かつ、立川市の被つた損害を補填するために必要な
措置をとるよう請求した(以下「新監査請求」という。)。なお、これを受けた立
川市監査委員は、この新監査請求を却下(実質は「棄却」)する旨決定し、控訴人
らに通知した。ところで、新監査請求は、違憲、違法な本件公金支出により立川市
が被つた損害について、同市が被控訴人Aに対して賠償請求できるにもかかわら
ず、新監査請求時にも被控訴人立川市長がその請求権の行使を怠つている事実を対
象としたものであるから、このような怠る事実を改めるために必要な措置を講ずべ
きことを求める監査請求には、地方自治法第二四二条第二項の適用はないと解すべ
きである(最高裁昭和五三年六月二三日第三小法廷判決参照)。」と述べ、被控訴
人らにおいて、「控訴人ら主張の一の1ないし3(ただし2の末尾括弧内を除く)
及び二の1ないし4をいずれも争う。同二の5につき、立川市長の株式会社高松建
設に対する工事代金支払いは、昭和五三年三月八日と同年五月一五日の二回で完了
しているところ、地方自治法第二四二条第二項によれば、監査請求は「当該行為の
あつた日、又は終わつた日から一年を経過したとぎは、これをすることができな
い。」とされ、控訴人らが新監査請求をした昭和五六年三月七日は、本件工事代金
の支払完了日の同五三年五月一五日から優に一年以上経過しており、もはや監査請
求をすることは許されない。」と述べ、証拠として、控訴人らにおいて、甲第一四
号証(写し)、第一五号証の一、二を提出し、被控訴人らにおいて、甲第一四号証
の原本の存在及び成立を認め、第一五号証の一、二の成立を認めると述べたほか
は、原判決の事実摘示と同一(ただし、原判決三枚目表一〇行目の「昭和五三年三
月三一日」を「昭和五三年五月一五日」に改める。)であるから、これをここに引
用する。
○ 理由
一 当裁判所は、控訴人らの被控訴人立川市長Aに対する本訴請求を却下するのが
正当であるが、被控訴人Aに対する本訴請求を却下したのは不当であると判断する
ものであり、その理由は、前者については、原判決の理由説示と同一であるからこ
れを引用することとし、後者については、次に附加、訂正、削除するほかは原判決
の理由説示と同一であるから、これをここに引用する。
1 原判決一五枚目裏九行目の「道路の現状」を「本件道路の原状」に改め、同一
〇行目の「本件」の下に「道路」を加える。
2 同一六枚目表二行目の「もとより」から同一七枚目裏二行目までを次のとおり
訂正する。
しかしながら、地方自治法第二四二条の二のいわゆる住民訴訟とその訴提起の適法
要件として前置されるべき同法第二四二条の監査請求とは、その対象において彼比
同一性があることを要するところ、監査請求の対象は、そこで求められている措置
の内容ないし類型によつてではなく、普通地方公共団体の長その他による違法不当
な行為又は怠る事実にかかる監査請求の趣旨、理由によつて特定されるべきもので
あり(ただし、求められている措置の内容ないし類型は、この特定のための一助と
なることはあり得る。)、他方、住民訴訟の対象は、その請求の趣旨、原因によつ
て特定されること勿論であつて、この両者の同一性とは、住民訴訟の前記の目的に
照らし、厳格、形式的な同一性ではなく、実質的な同一性があれば足りると解する
のが相当である。
ところで、本件の監査請求は、たしかに形式的にみれば、前記のとおり、本件道路
の建設工事請負契約の締結やこれに関する立川市の公金支出に触れておらず、まし
てや、立川市が右公金支出により被つた損害の賠償を立川市長の被控訴人Aに求め
るべき旨の措置請求も見出せないのみならず、厳格にみれば、本件道路の「原状回
復」というも、それはいわば物理的なものを志向するにあることが、弁論の全趣旨
によつてうかがわれるのである。しかし、それであるからといつて、前記監査請求
の申立者記載の「趣旨」「理由」を、その「要求」と共に全体として、法的な、即
ち、前記目的をもつ住民訴訟の前提としての監査請求という観点から眺めるとき、
そこに、本件道路の建設工事請負契約の締結やこれに関する立川市の公金支出の違
法性の主張が包含されていないとみるのはいささか厳格で形式的にすぎるものとい
うべく、少なくとも実質的にはこれらの主張をも含意していると解するのが相当で
あるといわなければならない。さればこそ、前掲甲第六号証によれば、この監査請
求に対し、立川市監査委員は、これを棄却する理由中で、附記としながらも、「当
該工事にかかる工事請負契約並びに予算の執行は、それぞれ適正に事務処理されて
いるので申し添える。」として、右の点につき自ら監査を経たことを明らかにして
いるのである。
そうである以上、本件訴訟は、その対象が、立川市が、違憲違法な本件道路の建設
工事請負契約の締結に由来する工事代金の支払いのため公金を支出したことにより
被つた損害の賠償を、立川市長の被控訴人Aに求めるにあるのであるから、本件監
査請求の対象と少なくとも実質的同一性を失わず、しかもすでに監査請求を経たも
のというべきである。
従つて、爾余の点の判断をまつまでもなく、被控訴人Aに対する本訴請求を、監査
請求を経由していないとの一事によつて却下することは許されない。
二 以上のとおり、原判決中控訴人らの被控訴人立川市長Aに対する本訴請求を却
下した部分は相当であるから本件控訴を棄却することとし、被控訴人Aに対する本
訴請求を却下した部分は失当であるから、原判決を取り消して東京地方裁判所に差
し戻すこととし、訴訟費用は、前者につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第九
五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 林 信一 高野耕一 相良甲子彦)

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