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平成17年(行ケ)第10560号審決取消請求事件(平成18年5月23日口
頭弁論終結)
判決
原告エルジー電子株式会社
訴訟代理人弁理士山川政樹
同黒川弘朗
同紺野正幸
同西山修
同山川茂樹
同東森秀朋
被告特許庁長官中嶋誠
指定代理人瀧廣往
同下中義之
同立川功
同大場義則
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30
日と定める。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2001-15106号事件について平成17年2月21日に
した審決を取り消す。
第2当事者間に争いがない事実
1特許庁における手続の経緯
原告は,平成11年11月22日,発明の名称を「自己発光素子の駆動装置
及び方法」とする特許出願(特願平11-331096号,優先権主張199
8年〔平成10年〕11月20日〔以下「本件優先日」という。〕・大韓民
国)をしたが,平成13年5月7日付けで拒絶査定を受けたので,同年8月2
7日,拒絶査定に対する不服の審判を請求し,同年9月13日付けで,特許請
求の範囲について手続補正(以下「本件手続補正」という。)をした。
特許庁は,これを不服2001-15106号事件として審理し,平成17
年2月21日,本件手続補正を却下した上,「本件審判の請求は,成り立たな
い。」との審決をし,その謄本は,同年3月8日,原告に送達された。
2平成12年12月13日付け手続補正書により補正された明細書(甲3,以
下,願書に添付した明細書〔甲2〕と併せ,「本件明細書」という。)の特許
請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下「本願発明」という。)の要旨
外部光を検出する光信号変換部とディスプレイ装置を備えた自己発光素子の
駆動装置において,
前記ディスプレイ装置を使用しているかどうかを表す信号及び前記光信号変
換部から変換した信号によって,駆動電流/電圧に対応する複数の駆動モード
のうち現在の外部光の照度に最も適した一つの駆動モードを選択した後,それ
に従う駆動モード制御信号を出力する制御部と;
前記制御部から出力した駆動モード制御信号によって,前記ディスプレイ装
置に印加される駆動電流/電圧を同時に変化させ,前記ディスプレイ装置の発
光輝度を自動的に調節するとともに,電力消耗を最適に設定する駆動部と
を含むことを特徴とする自己発光素子の駆動装置。
3審決の理由
()審決は,別添審決謄本写し記載のとおり,本件手続補正を却下した上,本1
願発明が,実願平5-6030号〔実開平6-60830号〕のCD-RO
M(甲5,以下「引用例」という。)に記載された発明(以下「引用発明」
という。)及び周知の技術手段に基づいて容易に発明をすることができたも
のであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない
とした。
()審決が認定した,本願発明と引用発明との一致点及び相違点は,それぞれ2
次のとおりである(審決謄本16頁最終段落)。
ア一致点
「外部光を検出する光信号変換部とディスプレイ装置を備えた自己発光
素子の駆動装置」において,「前記ディスプレイ装置に印加される駆動電
流」を「変化させ」,「前記ディスプレイ装置の発光輝度を自動的に調節
する」「駆動部」を含む「自己発光素子の駆動装置」である点
イ相違点
(ア)相違点1
本願発明では「前記ディスプレイ装置を使用しているかどうかを表す
信号及び前記光信号変換部から変換した信号によって,駆動電流/電圧
に対応する複数の駆動モードのうち現在の外部光の照度に最も適した一
つの駆動モードを選択した後,それに従う駆動モード制御信号を出力す
る制御部」を含み,「前記制御部から出力した駆動モード制御信号によ
って」調節をするのに対し,刊行物1(注,引用例)にはこのような記
載がされていない点。
(イ)相違点2
本願発明では駆動電流,電圧を「同時に」変化させているのに対し,
刊行物1(注,引用例)にはこのような記載がされていない点。
(ウ)相違点3
本願発明では「電力消耗を最適に設定する」のに対し,刊行物1(注,
引用例)にはこのような記載がされていない点。
第3原告主張の審決取消事由
審決は,本願発明及び引用発明を誤解して,その一致点を誤って認定し(取
消事由1),相違点1についての認定判断を誤った(取消事由2)結果,本願
発明の進歩性を誤って否定したものであって,違法であるから,取り消される
べきである。
1取消事由1(一致点の認定の誤り)
()審決は,本願発明の「自己発光素子」が,引用例の「LED(注,発光ダ1
イオード)7」に相当するとしたが,誤りである。
ア本願発明の「自己発光素子」は,本件明細書の記載から明らかなとおり,
それ自体への駆動信号で表示するための素子,すなわち,ディスプレイす
るための素子である。それに対し,引用例の「LED7」は,物理的実態
としては自己発光素子であるが,表示のための液晶表示板を照明する照明
用の素子にすぎず,ディスプレイするための素子ではない。したがって,
本願発明にいう「自己発光素子」と引用発明にいう「LED7」は,全く
別のものであり,審決は,全く別のものを対応すると誤った認定をしてい
る。
イ本件明細書の冒頭部分の段落【0001】,【0002】及び【000
5】等の記載から,本願発明の「自己発光素子」が,ディスプレイするた
めの素子であり,それ以外の,例えば,照明用の素子でないことが理解で
きるし,本件明細書全体を通じ,ディスプレイ以外の目的で自己発光素子
を使用する趣旨の記載がないのであるから,当業者は,請求項の記載を含
めて,本件明細書全体として見た場合に,本願発明の「自己発光素子」は
ディスプレイするための素子であると理解し,それ以外の用途があると認
識する可能性は全くない。
ウ被告は,特許請求の範囲の記載において,本願発明の「自己発光素子」
についての具体的な限定がないから,本願発明の「自己発光素子」は,デ
ィスプレイするための素子とはいえないと主張する。
確かに,本願発明の特許請求の範囲では,自己発光素子をディスプレイ
するための素子と具体的に限定していないが,本件明細書の発明の詳細な
説明の記載を参酌すれば,本願発明の「自己発光素子」が,ディスプレイ
するための素子であることが明らかであり,それ以外の意味に解釈する可
能性は全くない。被告の主張は,特許請求の範囲には,それに関する実施
例に記載されているあらゆる限定事項をすべて書き込むべきであるという
前提に立っているといえるが,そのようなことは現実的ではなく,特許請
求の範囲のそれぞれの請求項は,当業者が,その有している技術常識を考
慮して発明を特定できるように記載すれば足りる。特許発明の技術的範囲
の解釈に関する規定ではあるが,特許法70条は,1項で,「特許発明の
技術的範囲は,願書に添付した特許請求の範囲の記載に基づいて定めなけ
ればならない。」と規定し,2項で,「前項の場合においては,願書に添
付した明細書の記載及び図面を考慮して,特許請求の範囲に記載された用
語の意義を解釈するものとする。」と規定しており,この考え方は,出願
中の発明を特定するためにも用いられるべきである。
()審決は,本願発明の「駆動部」が,引用例の「調光部31」に相当すると2
したが,誤りである。
本願発明の「駆動部」は,ディスプレイするための自己発光素子を,選択
された駆動モードに従って駆動するためのもの,すなわち,ディスプレイさ
せるものであるのに対して,引用例の「調光部31」は,照明光を単純に明
るくしたり暗くしたりしているにすぎず,ディスプレイさせるものではない。
()審決は,本願発明の「自己発光素子の駆動装置」が,引用例の「照度測定3
部30,液晶表示板4,LED7及び調光部31を含む部分」に相当すると
したが,誤りである。
本願発明は,ディスプレイするための素子として自己発光素子を用いたも
のであるから,本願発明の「自己発光素子の駆動装置」は,ディスプレイす
るために素子を駆動すると同時に,周囲光に応じてその駆動モードを選択し
て変えるようにしたものであり,周囲光に応じて選択された駆動モードに従
ってディスプレイ表示するものである。これに対し,引用発明は,ディスプ
レイを行うのは液晶表示板で,図示も説明もされていない駆動部で液晶表示
板が駆動されていて,調光部は,その液晶表示板を照明する明るさを調節す
るものであって,液晶表示板を駆動するものではないから,引用例の「照度
測定部30,液晶表示板4,LED7及び調光部31を含む部分」は,本願
発明の「自己発光素子の駆動装置」ではあり得ない。
()審決は,本願発明の「ディスプレイ装置」が,引用例の「液晶表示板4と4
LED7とを含む表示のための部分」に相当するとしたが,両者は,「ディ
スプレイするための部分」という意味では対応しているが,本願発明のもの
は,自己発光素子を使用したディスプレイであるのに対し,引用例のものは,
それ自体では発光することのないディスプレイであり,両者は相違する。
()引用例においては,ディスプレイするための自己発光素子を用いていない5
ので,引用例には,「外部光を検出する光信号変換部とディスプレイ装置を
備えた自己発光素子の駆動装置」が記載されておらず,また,「駆動電流」
を「変化させ」ること,「前記ディスプレイ装置の発光輝度を自動的に調節
する」「駆動部」,及び「自己発光素子の駆動装置」も記載されていない。
すなわち,本願発明と引用例とで,一致する点がない。審決は,本願発明と,
引用例とをどちらも誤解して,比較している。
2取消事由2(相違点1についての認定判断の誤り)
()相違点1について,審決は,「装置を使用しているかどうかを表す信号を1
用いて表示制御を行うことは,例えば刊行物2(注,特開平4-33198
2号公報,甲6,以下「甲6公報」という。),刊行物4(注,特開平4-
90656号公報,甲8,以下「甲8公報」という。)にも記載され,周知
である。」(審決謄本17頁第1段落)とし,相違点1に係る本願発明の構
成に想到することは容易であるとしたが,誤りである。
甲6公報及び甲8公報には,ディスプレイ装置を使用しているかどうかで
表示状態を変えるようにすること自体は記載されているが,甲6公報では,
使用していないときにCRTの画面を暗くし,使用しているとき明るくする
ことが記載されているにすぎず,また,甲8公報には,引用例と同様,LE
Dなどのバックライトの明るさを調節していることが記載されているにすぎ
ないから,甲6公報及び甲8公報には,本願発明のように,「前記ディスプ
レイ装置を使用しているかどうかを表す信号及び前記光信号変換部から変換
した信号によって,駆動電流/電圧に対応する駆動モードのうち現在の外部
光の照度に最も適した一つの駆動モードを選択した後,それに従う駆動モー
ド制御信号を出力する」構成は記載されておらず,甲6公報及び甲8公報に
記載された技術手段を引用発明に適用しても,単純に画面を明るくしたり暗
くしたりすることを,その画面を備えた装置を使用しているかどうかで行う
ことが推測できるだけであり,本願発明のように,最適の駆動モードを選択
してその駆動モードでディスプレイすることを推測できる可能性はない。
()また,相違点1について,審決は,「輝度に対応する複数の段階のうち現2
在の外部の明るさに最も適した一つの段階を選択した後,それに従う制御を
行うことは,例えば刊行物4(注,甲8公報),刊行物5(注,登録実用新
案第3026220号公報,甲9,以下「甲9公報」という。)にも示され,
周知である。」(審決謄本17頁第1段落)として,相違点1に係る本願発
明の構成に想到することは容易であるとしたが,誤りである。
審決記載の「それに従う制御」とは,何を意味するか不明であるが,甲8
公報では,単に,LCD(液晶表示板)を照明しているバックライトの明る
さを「適正輝度」に調節することが記載されているだけであって,ディスプ
レイの駆動そのものとは全く無関係であり,本願発明の「それに従う駆動モ
ード制御信号を出力する」構成に関しては全く記載されておらず,また,甲
9公報に記載されているのは表示装置であるものの,道路工事用の表示装置
であって,本願発明のエレクトロニクスの技術分野とは技術分野が異なると
いうべきである。
()本願発明は,自己発光素子の駆動装置であり,最も特徴とする部分は,デ3
ィスプレイするための自己発光素子を駆動させるための駆動モードをあらか
じめいくつか用意しておき,周囲の明るさに応じて,いずれかの駆動モード
を選択するようにした部分である。これに対し,引用例に記載されているの
は,液晶表示板を使用した表示装置であって,単純に,その液晶表示板を照
明するLEDの明るさを周囲の明るさに応じて変える技術であって,液晶表
示板を駆動させる駆動装置が,周囲の明るさに応じて制御されることは,一
切記載されず,本願発明にいう駆動装置はまったく記載されていない。引用
例に記載されている,周囲の明るさに応じて画面を見やすくし,電力消耗を
少なくしようとする技術は,ディスプレイのための駆動状態は一切変えずに,
バックライトの明るさだけを変えるもので,本件明細書(段落【0005】
~【0007】)に従来技術として説明されているものである。
すなわち,本願発明と引用発明とは,根本的に技術的思想が異なるもので
あり,引用発明に,本願発明の特徴が一切記載されていない何らかの他の周
知技術を組み合わせても,本願発明の構成に想到することは容易とはいえな
い。
第4被告の反論
審決の認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
1取消事由1(一致点の認定の誤り)について
()原告は,本願発明の「自己発光素子」は,ディスプレイするためのもので1
あるのに対して,引用例の「LED7」は表示のための液晶表示板を照明す
る照明用の素子にすぎない旨主張する。
しかし,引用例の「LED7」も,自己発光素子であることは明らかであ
り,審決は,引用例に記載されたLEDが自己発光素子であるという意味で,
引用例の「LED7」が本願発明の「自己発光素子」に相当するとしたので
あって,審決に誤りはない。原告は,本願発明の自己発光素子は,それ自体
への駆動信号で表示,すなわち,ディスプレイするための素子であると主張
するが,本願発明の特許請求の範囲には,「自己発光素子」についての具体
的な限定はなく,自己発光素子が,それ自体への駆動信号で表示,すなわち,
ディスプレイするための素子であると記載されていないのであるから,原告
の主張は,特許請求の範囲の記載に基づくものではなく,根拠がない。
()原告は,本願発明の「駆動部」は,引用例の「調光部31」に相当しない2
と主張する。
しかし,引用例の調光部31は,ディスプレイするための自己発光素子
(LED)を駆動するものであり,この点で,本願発明の「駆動部」に相当
するものであり,「制御部から出力した駆動モード制御信号によって」調節
をする点については,審決は相違点として指摘をしているところであるから,
審決に誤りはない。
()原告は,本願発明の「自己発光素子の駆動装置」は,引用例の「照度測定3
部30,液晶表示板4,LED7及び調光部31を含む部分」に相当しない
と主張する。
しかし,本願発明の特許請求の範囲には,「自己発光素子」についての具
体的な限定はなく,ディスプレイするための素子として自己発光素子を用い
たものであると記載されていないので,それを前提とする原告の主張は,特
許請求の範囲の記載に基づくものではなく,根拠がない。そして,引用発明
は,照度測定部30,液晶表示板4,LED7及び調光部31を用い,ディ
スプレイするために自己発光素子のLEDを駆動するものであり,周囲光に
応じてその駆動状態を変えるものであるから,審決に誤りはない。
2取消事由2(相違点1についての認定判断の誤り)について
()原告は,相違点1についての審決の認定判断を争い,甲6公報及び甲8公1
報に記載された技術手段を引用発明に適用しても,単純に画面を明るくした
り暗くしたりすることをその画面を備えた装置を使用しているかどうかで行
うことが推測できるだけであって,本願発明のように最適の駆動モードを選
択してその駆動モードでディスプレイすることを推測できる可能性はない旨
主張する。
しかし,本願発明において,「複数の駆動モードのうち現在の外部光の照
度に最も適した一つの駆動モードを選択」と記載されているが,「最も適し
た一つの駆動モード」について具体的な限定はされていないのであり,単純
に画面を明るくしたり暗くしたりすることも,「最も適した一つの駆動モー
ド」の選択であるということができる。
()原告は,相違点1についての審決の認定判断を争い,甲8公報では,単に2
バックライトの明るさを調整しているにすぎず,ディスプレイの駆動そのも
のとは全く無関係であり,甲9公報に記載されているのは表示装置であるも
のの,道路工事用の表示装置であって,本願発明のエレクトロニクスの技術
分野とは技術分野が異なると主張する。
しかし,甲8公報には,LED又はバックライトの輝度の制御を行うこと
が開示されており,これがディスプレイの駆動に関係することは明らかであ
る。
また,甲9公報については,表示装置について記載されていることは原告
も認めているところであり,表示装置に関するものである点で,本願発明,
引用発明等と技術分野が共通するものである。甲9公報に記載された表示装
置がエレクトロニクス技術を用いていることも明らかであるが,そもそも本
願発明においては,技術分野について具体的な限定はされていないのであり,
技術分野が異なるとの原告の主張は,根拠がない。
第5当裁判所の判断
1取消事由1(一致点の認定の誤り)について
()原告は,審決が,「刊行物1(注,引用例)に記載された照度測定部30,1
液晶表示板4とLED7とを含む表示のための部分,LED7,調光部31
は,それぞれ本願発明の『光信号変換部』,『ディスプレイ装置』,『自己
発光素子』,『駆動部』に相当し,刊行物1に記載された発明(注,引用発
明)の,照度測定部30,液晶表示板4,LED7及び調光部31を含む部
分は,本願発明の『自己発光素子の駆動装置』に相当する。」(審決謄本1
6頁第2段落)と認定したことを争うので,以下,検討する。
()引用例(甲5)には,以下の記載がある。2
ア「【産業上の利用分野】本考案(注,引用発明)は,液晶表示板をバッ
クライト照明する液晶表示装置に関する。」(段落【0001】)
イ「【従来の技術】一般に,OA機器,時計,血圧計,給湯器,その他各
種装置,機器の表示装置に用いられる液晶表示装置は,表示部を内部から
照明し,表示文字の視認性の向上を図っている。このような液晶表示装置
のバックライト方式としては,表示部全体を均一に照明する必要があるこ
とから,導光板,EL(エレクトロルミネッセンス),光ファイバ等を用
いたフラットパネル型発光体を光源としている。導光板はアクリル樹脂等
の光透過性に優れた透明樹脂からなり,LED(発光ダイオード)から出
射した光をその一端面より導光板内に導き,表面から出光させることによ
り面照明を得るものである。LEDは一般の白熱電球と比較して消費電力
が著しく少なく(20mW/1個),また高輝度,長寿命で,赤色以外に
緑色,黄色等各種の発光色のものが手軽に入手できることから液晶表示装
置の照明用光源として好適である。ELは,外部からの刺激(電界,電子
線等)により硫化亜鉛(ZnS)のような蛍光体を発光させ,面照明を得
るものである。そして,光ファイバは,多数の光ファイバを束ねてその一
端面を光源からの光を入射する光入射面とし,他端面を光出射面とし,こ
れにより面照明の実現化を図っている。」(段落【0002】)
ウ「本考案は上記したような従来の問題点および要望に鑑みてなされたも
ので,その目的とするところは,周囲の明るさに応じて表示部の明るさを
自動的に調整することができ,昼間,夜間の区別なく常に良好な表示部の
視認性を確保し得るようにした液晶表示装置を提供することにある。」
(段落【0004】)
エ「【実施例】以下,本考案を図面に示す実施例に基づいて詳細に説明す
る。図1は本考案に係る液晶表示装置の一実施例を示す外観斜視図,図2
は同装置の断面図,図3は主要構成部材の斜視図,図4はホルダーの断面
図である。本実施例は液晶表示装置1を給湯器のリモコン装置に適用した
ものである。液晶表示装置1は,矩形薄箱型に形成され上面中央に開口部
3を有するケース2と,開口部3に臨んでケース2内に収納配置された液
晶表示板4と,液晶表示板4の表面を保護する透明板もしくは乳白色の透
光性を有する光拡散板からなる表面板5と,液晶表示板4の裏面側に配設
された導光板6と,導光板6およびLED7を保持するホルダー8と,ケ
ース2の内底面に沿って配設され導光板6の後方に位置する基板9と,液
晶表示板4およびLED7の電源部10と,ケース2の上面に配設された
複数個の操作スイッチ11等を備えている。」(段落【0007】)
オ「前記基板9は,前記液晶駆動用IC,トランジスタ等の各種電子部品
26を含む液晶駆動用回路と,LED7の定電流回路を有し,前記電源部
10にリード線27によって電気的に接続されている。定電流回路はLE
D7の温度に対する補償を行なうものである。すなわち,温度によってダ
イオード電圧が変化すると,電源電圧一定のため電流が変化し,LED7
の輝度も変化する。これを防止するためFETトランジスタをLED7と
直列に組み込んで定電流回路を形成している。特に,ダイオード電圧が3
V,4.5V,6Vと低い場合に有効とされる。
さらに,液晶表示装置1はケース2の外側で液晶表示板4近傍の明るさ
を測定する照度測定部30(図1)と,この照度測定部30の測定値に基
づき前記LED7の点灯状況(明るさ,色等)を調整する調光部31(図
5)を備え,これらによって自動調光装置を構成している。照度測定部3
0としてはCdSセル等の各種光導電セルが用いられ,液晶表示板4に近
接してケース2の表面に露呈している。CdSセル30は光が当たると電
気抵抗が下がる特性を有し,周囲の照度検出に適している。調光部31は
前記基板9に設けられており,CdS30の出力電圧に比例してLED7
への電流を増大させる。
図6は明るさと,CdSセル30の抵抗値と,LED7の輝度の関係を
示す図である。蛍光灯の点灯等により室内が明るくなると,CdSセル3
0の抵抗が下がり,これに反比例してLED7の輝度が高くなる。このよ
うにCdSセル30によって室内の明るさを検出し,それに応じて調光部
31によりLED7の輝度を自動的に調整すると,液晶表示板4の表示部
を周囲の明るさに合った明るさとすることができる。したがって,室内の
明るさに応じてその都度液晶表示板4のコントラストをマニュアルで調整
する必要がなく,常に良好な視認性を確保することができる。」(段落
【0011】~【0013】)
カ「【考案の効果】以上説明したように本考案に係る液晶表示装置は,液
晶表示板近傍の照度を測定する照度測定部と,この照度測定部の測定値に
基づき液晶表示板をバック照明する光源の輝度,色等の点灯状況を調整す
る調光部とを設けたので,液晶表示板の表示部を周囲の明るさ応じて最適
ママ
明るさとすることができる。したがって,視認性を向上させることができ,
またマニュアルで輝度調整する必要がなく,取扱いが簡単である。」(段
落【0018】)
上記によれば,引用例には,周囲の照度を検出する照度測定部と,LED
(発光ダイオード)7及び液晶表示板から構成される液晶表示装置を備えた
LEDの調光装置において,液晶表示装置を構成するLED7に印加される
電流を変化させ,表示を周囲の照度に合った明るさにするための液晶表示装
置を構成するLED7の発光輝度を自動的に調整する調光部を含むLEDの
調光装置が記載されており,LED7は,液晶表示板のバックライトとして,
すなわち,液晶表示板を照明するものとして使用されている。
()原告は,まず,本願発明の「自己発光素子」は,それ自体への駆動信号で3
表示する素子,すなわち,ディスプレイするための素子であるのに対し,引
用例の「LED7」は,物理的実態として見た場合は自己発光素子であるが,
表示のための液晶表示板を照明する照明用の素子にすぎず,ディスプレイす
るための素子ではないと主張する。
ア原告の上記主張は,要するに,本願発明の「自己発光素子」は,ディス
プレイ,すなわち,表示そのものを行う素子に限られ,照明のための素子
を含まないのに対し,引用例の「LED7」は,自己発光素子であるが,
照明のための素子で,表示そのものを行う素子でないので,本願発明の
「自己発光素子」と引用例の「LED7」が相違することをいうものと解
される。
本願発明の特許請求の範囲の記載によれば,本願発明において,「駆動
部」が,「ディスプレイ装置に印加される駆動電流/電圧を同時に変化さ
せ」ることにより,「前記ディスプレイ装置の発光輝度を自動的に調節す
る」ことが認められ,本願発明が,「自己発光素子の駆動装置」に係る発
明であることを併せ考えると,本願発明において,駆動部が,駆動電流/
電圧を変化させてディスプレイ装置に備えられた自己発光素子の発光輝度
を変化させることによって,ディスプレイ装置の発光輝度が調節されるも
のであることが理解できる。
しかしながら,本願発明において,ディスプレイ装置が自己発光素子を
備えるという構成を有することは認められるものの,ディスプレイ装置に
おいて,自己発光素子がどのような機能を果たしているか,すなわち,自
己発光素子そのものが表示を行っているのか,自己発光素子が液晶のバッ
クライトとして用いられているか等についての明示的な限定はないといわ
ざるを得ない。
イ他方,ディスプレイに液晶を用いる場合,液晶は,自己発光素子でなく
受光型の素子であるので,液晶を用いるディスプレイ装置の輝度を同装置
に設けられたバックライトにより制御することは,甲6公報の「例えば,
図3に示すように,操作者有無の検知を超音波センサ11により,そして,
情報の表示をバックライト付き液晶パネル14によって行い,操作者有無
によって液晶パネル14やバックライト16への電源供給をCPUからの
制御によって制御するように表示装置を構成することも可能である。図3
のような構成であると,特にポータブル型のバッテリ電源による液晶パネ
ル型表示装置の場合,不要な電力消費を避けることができ有効である。」
(段落【0015】)との記載や本件明細書の従来の技術欄の記載(段落
【0004】~【0006】)にもあるように,本件優先日当時,周知の
技術であり,また,バックライトに自己発光素子が用いられることも周知
の技術である。
このように液晶と自己発光素子からなるバックライトとで構成されたデ
ィスプレイ装置が周知の技術であったことに照らすと,ディスプレイ装置
で用いられている自己発光素子の機能について限定を付さずに,自己発光
素子の輝度を変化させて,ディスプレイ装置の輝度を変化させるとの記載
があるとき,これに接した当業者は,その自己発光素子は,表示のために
使用されている場合だけでなく,液晶のバックライトとして照明のために
用いられている素子も含むものであると自然に理解することができるとこ
ろである。
ウここで,本願発明の特許請求の範囲の記載(前記第2の2)をみると,
本願発明の自己発光素子について,その果たしている機能には,何ら限定
がなく,かつ,本願発明において,自己発光素子が液晶のバックライトと
して照明のために用いられる場合を含むと解しても,文言的にも技術的に
も,矛盾,抵触するところは,全くないのであって,本件優先日当時にお
ける上記技術水準の下において,駆動部が,駆動電流/電圧を変化させて
ディスプレイ装置に備えられた表示そのものを行う自己発光素子の発光輝
度を変化させることによって,ディスプレイ装置の発光輝度が調節される
もののみならず,駆動部が,駆動電流/電圧を変化させて,ディスプレイ
装置においてバックライトとして照明のために用いられている自己発光素
子の発光輝度を変化させることによって,ディスプレイ装置の発光輝度を
変化させるものも本願発明の構成に含まれると自然に理解することができ
るものである。
そうすると,本願発明の特許請求の範囲の記載に従えば,本願発明に
おける「自己発光素子」は,自己発光素子そのもので表示を行う素子に限
られず,ディスプレイ装置においてバックライトとして照明のために使用
されている素子をも含むと解するのが相当である。
エ原告は,本願発明の特許請求の範囲の記載においては,自己発光素子が
ディスプレイするためのものと具体的に限定していないが,本件明細書の
発明の詳細な説明の記載を参酌すれば,本願発明の「自己発光素子」が,
ディスプレイするための素子であることが明らかであると主張する。
しかしながら,発明の要旨は,願書に添付した明細書の特許請求の範囲
の記載に基づいて認定されなければならず,特許請求の範囲の記載の技術
的意義が一義的に明確に理解することができない場合や,一見してその記
載が誤記であることが明細書の発明の詳細な説明の記載に照らして明らか
であるなどといった特段の事情が存在しない限り,明細書の発明の詳細な
説明の記載を参酌して発明の要旨を認定することは許されない。本件にお
いては,上記のとおり,本願発明の特許請求の範囲の記載から,本願発明
における自己発光素子は,表示そのものを行う素子である場合も,ディス
プレイ装置において液晶のバックライトとして用いられる素子である場合
も含むものして理解するのが相当であり,その技術的意義が不明確である
ということができる場合ではなく,他に特段の事情も見いだせないから,
原告の主張は,採用できない。
原告は,また,被告の主張は,特許請求の範囲には,それに関する実施
例に記載されているあらゆる限定事項をすべて書き込むべきであるという
前提に立っているといえるが,そのようなことは現実的ではなく,特許請
求の範囲のそれぞれの請求項は,当業者が,その有している技術常識を考
慮して発明を特定できるように記載すれば足りるとし,特許法70条2項
の趣旨を出願系にも類推適用すべきである旨主張する。しかし,特許請求
の範囲のそれぞれの請求項につき,当業者が,その有している技術常識を
考慮して発明を特定できるように記載したからといって,直ちに,進歩性
が認められることになるのではなく,当業者が公知技術に基づいて容易に
発明をすることができたものとはいえない特許請求の範囲となっていなけ
れば,特許を受けることはできないのである。また,特許法70条2項は,
特許発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて定めるられるこ
とを前提とした上で,特許請求の範囲に記載された個々の用語の意義の解
釈について規定したものであって,この規定により,発明の詳細な説明中
には記載されているが特許請求の範囲には記載されていない事項を特許請
求の範囲に記載されているものと解釈することが容認されるものでないこ
とはいまでもないから,同規定の趣旨を出願系にも類推適用すべき旨の原
告の主張は,独自の見解というほかはなく,採用の限りではない。
オしたがって,本願発明の「自己発光素子」は,表示そのものを行う素子
に限られ,バックライトとして使用される素子を含まないことを前提とす
る原告の主張は,採用することができず,引用発明の「LED7」を本願
発明の「自己発光素子」に対応させた審決に誤りはない。
()原告は,本願発明の「駆動部」は,ディスプレイするための自己発光素子4
を,選択された駆動モードに従って駆動するためのもの,すなわち,ディス
プレイさせるものであるのに対して,引用例の「調光部31」は,照明光を
単純に明るくしたり暗くしたりしているにすぎず,ディスプレイさせる駆動
部ではないと主張する。
しかし,本願発明の自己発光素子は,原告主張のものに限定されないこと
は,上記()のとおりであるから,上記主張は前提を欠く。そして,引用例3
の調光部31は,ディスプレイ装置にバックライトとして用いられている自
己発光素子であるLED7の輝度を変化させることで,ディスプレイ装置の
発光輝度を変化させるものであることは,上記()のとおりであって,本願2
発明の駆動部と同様の機能を果たしているのであり,これらを対応させた審
決に誤りはない。
()原告は,本願発明の「自己発光素子の駆動装置」は,ディスプレイするた5
めに素子を駆動すると同時に,周囲光に応じてその駆動モードを選択して変
えるようにしたものであり,周囲光に応じて選択された駆動モードに従って
ディスプレイ表示するものであるのに対し,引用発明は,ディスプレイを行
うのは液晶表示板で,図示も説明もされていない駆動部で液晶表示板が駆動
されていて,調光部は,その液晶表示板を照明する明るさを調節するもので
あって,液晶表示板を駆動するものではなく,引用例の「照度測定部30,
液晶表示板4,LED7及び調光部31を含む部分」は,本願発明の「自己
発光素子の駆動装置」ではあり得ないので,これを対応するとした審決は誤
りであると主張し,また,本願発明の「ディスプレイ装置」と引用発明の
「液晶表示板4とLED7とを含む表示のための部分」は,「ディスプレイ
するための部分」という意味では対応しているが,本願発明のものは,自己
発光素子を使用したディスプレイであるのに対し,引用発明のものは,それ
自体では発光することのないディスプレイであるので,両者は相違すると主
張する。
しかし,原告の上記主張のうち,本願発明の自己発光素子が,表示そのも
のを行う素子に限られることを前提とする主張は,前記のとおり,その前提
を欠く。また,本願発明の自己発光素子は,表示そのものを行うための素子
に限られないのであるから,本願発明の「ディスプレイ装置」は,自己発光
素子が表示そのものを行うディスプレイ装置に限らず,照明のために自己発
光素子が使用されるディスプレイ装置も含むものであると解され,本願発明
におけるディスプレイ装置について,自己発光素子が表示そのものを行うデ
ィスプレイ装置に限ることを前提とする原告の主張もその前提を欠く。そし
て,審決は,「本願発明では『前記ディスプレイ装置を使用しているかどう
かを表す信号及び前記光信号変換部から変換した信号によって,駆動電流/
電圧に対応する複数の駆動モードのうち現在の外部光の照度に最も適した一
つの駆動モードを選択した後,それに従う駆動モード制御信号を出力する制
御部』を含み,『前記制御部から出力した駆動モード制御信号によって』調
節をするのに対し,刊行物1(注,引用例)にはこのような記載がされてい
ない点。」(審決謄本16頁最終段落)を相違点1として認定しているので
あり,審決に原告主張の誤りはない。
その他,原告は,引用例においては,ディスプレイのための自己発光素子
を用いていないことを理由として,本願発明と引用例とで,一致する点がな
い旨の主張もするが,上記説示に照らし採用できない。
()以上によれば,審決の一致点の認定に誤りはなく,原告主張の取消事由16
は,理由がない。
2取消事由2(相違点1についての認定判断の誤り)について
()原告は,相違点1について,審決が,「装置を使用しているかどうかを表1
す信号を用いて表示制御を行うことは,例えば刊行物2(注,甲6公報),
刊行物4(注,甲8公報)にも記載され,周知である。また,輝度に対応す
る複数の段階のうち現在の外部の明るさに最も適した一つの段階を選択した
後,それに従う制御を行うことは,例えば刊行物4(注,甲8公報),刊行
物5(注,甲9公報)にも示され,周知である。ここで,輝度が駆動電流,
電圧に対応することは明らかである。そうすると,刊行物1(注,引用例)
に記載された発明にこのような周知の技術手段を適用し,相違点1のように
することは当業者が適宜に行いうることである。」(審決謄本17頁第1段
落及び第2段落)とした認定判断を誤りであると主張する。
()そこで,まず,上記各刊行物の記載について検討する。2
ア甲6公報には,以下の記載がある。
(ア)「【産業上の利用分野】本発明は表示制御方法及びその装置に関し,
特に,操作者の有無に従って動作する表示制御方法及びその装置に関
する。」(段落【0001】)
(イ)「図1は本発明の代表的な実施例である表示装置の構成を示すブロッ
ク図である。図1において,本実施例の表示装置は,情報を表示する
CRT1,CRTドライバ2,CPU3,CRTドライバ及びCPU
3にクロックを供給するクロック4,操作者の有無を検知する赤外線
センサ5,タイマ6,及び,タイマリセットスイッチ9で構成される。
さらに,CRTドライバ2は装置外部からのビデオ信号を受信してク
ロック4からクロック供給を受けながら所定のタイミングでCRT1
上にビーム走査を行うビーム走査部8と,CPU3からの制御信号に
基づいてCRT1の輝度の切り替え(高輝度←→低輝度)を行うよう
ビーム走査部8を制御する輝度コントローラ7で構成される。
次に,以上のような構成の表示装置が実行するCRT輝度制御につい
て図2に示すフローチャートを参照して説明する。ここでは,操作者
が電源をオンにしてすでに装置を操作していることを前提とする。そ
して,装置操作中はCRTの輝度は高輝度表示となっているものとす
る。
まず,ステップS1では赤外線センサ5が操作者の存在をモニタする。
ここで,操作者が装置の前にいる限りは,CRT輝度制御処理はステ
ップS1で待ち状態となる。しかし操作者が装置の前を離れると,赤
外線センサ5は操作者がいなくなったことを検知し,処理はステップ
S2に進み,タイマ6がスタートする。続いて処理はステップS3で
一定の時間待ちに入る。ここで,一定時間内に操作者が装置の前に戻
ってくれば,赤外線センサ5がこれを検知して処理はステップS10
に進んでタイマ6をリセットし,処理はステップS1に戻る。これに
対して,一定時間経過しても操作者が装置の前に戻ってこない場合,
処理はステップS4に進む。
ステップS4ではこれを受けて,CPU4がCRT表示輝度を低輝度
にするよう制御信号を輝度コントローラ7に発信する。ステップS5
ではCPU4からの制御信号を受けて輝度コントローラ7はCRT走
査部8にCRT表示輝度を低輝度にするよう制御しCRT1は低輝度
表示となる。続いて処理はステップS6に進み,タイマ6のリセット
待ち状態となる。」(段落【0009】~【0012】)
(ウ)「なお,本実施例では操作者有無を赤外線センサによって検知し,情
報の表示をCRTを用いて行い,そして,操作者有無によってCRT
の表示輝度を切り替える場合について説明したが,本発明はこれに限
定されるものではない。例えば,図3に示すように,操作者有無の検
知を超音波センサ11により,そして,情報の表示をバックライト付
き液晶パネル14によって行い,操作者有無によって液晶パネル14
やバックライト16への電源供給をCPUからの制御によって制御す
るように表示装置を構成することも可能である。図3のような構成で
あると,特にポータブル型のバッテリ電源による液晶パネル型表示装
置の場合,不要な電力消費を避けることができ有効である。」(段落
【0015】)
イ甲8公報には,以下の記載がある。
(ア)「[産業上の利用分野]本発明は,LCD,LED等で構成されてい
る表示部あるいは操作部を有するファクシミリ装置に関する。」(1頁
右下欄第3段落)
(イ)「また,本発明は,LEDまたはバックライト付LCDで構成される
操作部を有するファクシミリ装置の設置場所が暗いときには,LEDま
たはバックライトの輝度を下げるので,電力の無駄使いを少なくするこ
とができる。さらに,本発明は,LEDまたはバックライト付LCDで
構成される操作部を有するファクシミリ装置が所定の動作をしていない
待機状態のときに,LEDやバックライトの輝度を下げるので電力の無
駄使いを少なくすることができる。」(2頁左下欄第3段落~第4段
落)
(ウ)「第5図は,本発明によるファクシミリ装置の他の実施例を示すブロ
ック図である。この実施例は,操作部OPと,光量計測部21と,記憶
部30aと,CPU40aと,輝度制御部51とを有する。操作部OP
は,ファクシミリ装置を操作するためのスイッチ類や,ファクシミリ装
置の動作状態を示すLED11を有するものである。光量測定部21は,
ファクシミリ装置の使用環境の明るさ(光量)を常に測定するものであ
る。記憶部30aは,第7図に示す輝度制御テーブルが格納されている
ものである。輝度制御テーブルは,ファクシミリ装置の設置場所の周囲
が暗くなるに従ってLED11の輝度が下がるように,ファクシミリ装
置の周囲の明るさとLEDの輝度とを対応させたテーブルである。CP
U40aは,ファクシミリ装置の各部を制御するものである。例えば,
光量測定部21から入力された測定値に基づいて,記憶部30aからL
ED11の適正輝度を検索するものである。また,CPU40aは,フ
ァクシミリ装置が所定の動作をしているか否か,すなわちファクシミリ
装置が所定の動作をしていない待機状態を判断するものである。ここで,
適正輝度とは,ファクシミリ装置の設置場所の周囲がある明るさのとき
に,LEDが点灯していることをオペレータが充分認識できる程度の輝
度をいう。また,所定の動作とは,ファクシミリ装置が送受信する動作
と,オペレータに対してメッセージを表示する動作と,警報を発する動
作とをいう。輝度制御部51は,CPU40aからの指令に応じてLE
D11の輝度を制御するものである。例えば,LED11の輝度をCP
U40aから入力された適正輝度にするように制御するものである。ま
た,輝度制御部51は,ファクシミリ装置が待機状態であるとCPU4
0aが判断したときには,ファクシミリ装置が所定の動作をしていると
きよりLED11の輝度を下げるものである。光量測定部21と記憶部
30aとCPU40aと輝度制御部51とは,ファクシミリ装置の設置
場所の周囲が暗くなるに従ってLED11の輝度を下げる輝度制御手段
の一例である。また,記憶部30aとCPU40aと輝度制御部51と
は,ファクシミリ装置が使用されていない待機状態のときに,LED1
1の輝度を下げる輝度制御手段の一例である。」(3頁右下欄第3段落
~4頁右上欄最終段落)
(エ)「第7図は,第6図のグラフに基づいて作成した明るさ-LED輝度
対応テーブルである。この明るさ一輝度対応テーブルは,ファクシミリ
装置の設置場所の周囲における光量がI,I,I,……Inと暗く123
なるに従ってLED11の輝度もB,B,B……Bnと低くなるこ123
とを示している。」(4頁左下欄第3段落~第4段落)
(オ)「第8図(2)は,ファクシミリ装置が所定の動作をしていない待機
状態のときに,LEDIIの輝度を下げる動作を示すフローチャートで
ある。まず,CPU40aが,ファクシミリ装置が待機中であると判断
したならば(S10),CPU40aからの指令により輝度制御部51
がLEDllの輝度を下げる(S11),これによって,ファクシミリ
装置の待機状態のときの電力の無駄使いを少なくすることができる。」
(5頁左上欄第4段落~同右上欄第1段落)
(カ)「さらに,ファクシミリ装置の設置場所の周囲が暗くなったときに,
第5図に示す操作部におけるLED11の輝度を下げる代わりに,バッ
クライト付LCDのバックライトの輝度を下げてもよい。」(5頁左下
欄第2段落)
ウ甲9公報には,以下の記載がある。
(ア)「【考案の属する技術分野】本考案は道路工事現場等に設置されて道
路工事や通行規制等に関する内容を表示する表示装置に関する。」(段
落【0001】)
(イ)「図1において,表示装置は基台1とその上に立設された本体2から
なり,基台1には必要に応じてキャスター3等を設けて,移動できるよ
うにすることができる。前記本体2には,その前面部にLED表示パネ
ル部4を設け,内部に前記LED表示パネル部4での表示を制御する制
御手段5を設けている。」(段落【0008】)
(ウ)「図2を参照して,前記LED表示パネル部4での表示を制御する制
御手段5を説明する。制御手段5は,ICカード11やROMカード1
2からなるデジタル記憶部材10と,ICカード読出回路21及びRO
Mカード読出回路22からなる読出回路20と,前記LED表示パネル
部4を駆動させる駆動回路30と,前記読出回路20に読み出し指令を
出すと共に前記駆動回路30に表示指令を出す表示制御回路40とを有
している。また制御手段5に対して運転の開始や停止を行うスイッチ等
を含む操作部6が前記本体2の裏面側等に取付けられている。また前記
LED表示パネル部4の照度を切り換える切り換え手段7が本体2の一
部に設けられている。該切り換え手段7は,例えば駆動回路30を介し
てLED表示パネル部4に加わる電圧を切り換えるようにして行うこと
ができる。これによって昼間はLED表示パネル部4による照度を強く
し,夜は照度を弱くすることで,昼夜とも明瞭な表示を行うことができ
る。また明るさを検出するセンサと組み合わせて,周囲の明るさによっ
て自動的に数段階に切り換わるようにしてもよい。」(段落【000
9】)
()以上によれば,甲6公報には,CRTを用いた表示装置やパネル型液晶表3
示装置において,操作者が装置の前にいるかどうかを自動的に検知し,操作
者がいる場合には高輝度とし,操作者が装置の前におらず,機器が使用状態
にないといえる場合には低輝度として,不要な電力消費を避ける技術が開示
され(上記()ア),甲8公報には,ファクシミリ装置が待機状態であり,2
機器が使用状態にないといえる場合に,ファクシミリ装置の表示部,操作部
にあるLEDの輝度を下げて,電力消費を避ける技術が開示されている(上
記()イ(ア),(イ)及び(オ))ことが明らかである。そうすると,表示装置を有2
する機器において,機器の使用状態を検知し,それに基づく信号を用いて,
表示装置の輝度を最適なものに変化させる技術は,本件優先日当時,周知の
ものであったといえるのであるから,当業者が,上記周知の技術手段に基づ
いて,ディスプレイ装置を使用しているかどうかを表す信号に基づき,最適
な駆動モードを選択し,それに従う駆動モード制御信号を出力するという,
本願発明の構成に想到することは容易であったといわざるを得ない。
原告は,甲6公報及び甲8公報に記載された技術手段を引用発明に適用し
ても,単純に画面を明るくしたり暗くしたりすることを,その画面を備えた
装置を使用しているかどうかで行うことが推測できるだけであり,本願発明
のように,最適の駆動モードを選択してその駆動モードでディスプレイする
ことを推測できる可能性はないと主張する。しかし,相違点1に係る本願発
明の構成は,機能・特性等により特定したいわゆる機能的クレームであって,
最適の駆動モードの選択について具体的な限定を何らしていないのであるか
ら,機器の使用状態を検知し,それに基づく信号を用いて,表示装置の輝度
を変化させることは,正に,本願発明にいう,「ディスプレイ装置を使用し
ているかどうかを表す信号・・・によって,最も適した一つの駆動モードを
選択」することに含まれるものであるといえるのであるから,原告の主張は
理由がない。
()また,甲8公報には,ファクシミリ装置の周囲の明るさとその表示部,操4
作部にあるLEDの輝度やバックライト付きLCDのバックライトの輝度と
を対応させ,周囲が暗くなった場合にそれらの輝度を下げる技術が開示され
(上記()イ),甲9公報には,周囲の明るさに応じてLED表示パネル部2
の照度を切り替え,昼は照度を強くする技術が開示されている(上記()2
ウ)。これら外部の照度に応じ,表示装置における適切な輝度を選択すると
いう表示装置についての周知の技術に基づけば外部光の照度に最も適した
一つの駆動モードを選択した後,それに従う駆動モード制御信号を出力する
制御部を有し,前記制御部から出力した駆動モード制御信号によって調節を
するという,相違点1に係る本願発明の構成に想到することは,当業者にと
って容易であったというべきである。
原告は,甲8公報では,単に,LCD(液晶表示板)を照明しているバッ
クライトの明るさを「適正輝度」に調節することが記載されているだけであ
って,ディスプレイの駆動そのものとは全く無関係であり,本願発明の「そ
れに従う駆動モード制御信号を出力する」構成に関しては全く記載されてお
らず,甲9公報に記載されているのは表示装置であるものの,道路工事用の
表示装置であって,本願発明のエレクトロニクスの技術分野とは技術分野が
異なると主張する。
しかし,液晶のバックライトの輝度を変化させることも,上記のとおり,
本願発明において,ディスプレイ装置の駆動ということができるし,甲9公
報には,道路工事用表示装置が記載されているが,そこには,同装置におけ
る,LEDという自己発光素子を使用した表示に係る技術が記載されている
のであって,これは,本願発明と正に技術分野を同じくするものであり,技
術分野が異なることをいう原告の主張も理由がない。
()原告は,本願発明の最も特徴とする部分は,ディスプレイするための自己5
発光素子を駆動させるための駆動モードをあらかじめいくつか用意しておき,
周囲の明るさに応じて,いずれかの駆動モードを選択するようにした部分で
あるとして,本願発明と引用発明とは,根本的に技術的思想が異なるもので
あり,引用発明に,本願発明の特徴が一切記載されていない何らかの他の周
知技術を組み合わせても,本願発明の構成に想到することは容易とはいえな
い旨主張する。
しかし,原告の上記主張は,本願発明の自己発光素子は,自己発光素子そ
のもので表示を行う素子に限ることを前提とするものであるが,そのように
解することができないことは前記のとおりであり,原告の上記主張は,前提
を欠くものであり,採用できない。
()以上によれば,相違点1についての審決の認定判断に誤りはなく,原告主6
張の取消事由2は,理由がない。
3以上によれば,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,他に審決を取り
消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決
する。
知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官篠原勝美
裁判官宍戸充
裁判官柴田義明

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