弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を東京高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 被告人本人の上告趣意は、憲法違反を主張する点もあるが、実質はすべて単なる
法令違反の主張であつて、刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。
 しかしながら、職権によつて調査すると、原判決が、本件交差点を「交通整理の
行なわれていない交差点で左右の見とおしのきかないもの」に該当するとした判断
は、これを是認することができるが、右のような交差点においては、いかなる場合
にも道路交通法四二条により当然に徐行すべきであるとした判断は、これをただち
に是認し難いものと考える。すなわち、右のような交差点であつても、その車両の
進行している道路が同法三六条により優先道路の指定を受けているとき、またはそ
の幅員が明らかに広いため、同条により優先通行権の認められているときには、直
ちに停止することができるような速度(同法二条二〇号)にまで減速する義務があ
るとは解し難い(昭和四二年(あ)第二一一号同四三年七月一六日第三小法廷判決
参照)。
 これを本件についてみると、原判決の認定するところによれば、被告人の進行し
ていた道路は、幅員約七メートルの歩車道の区別のない舗装道路であり、これと交
差する道路は、幅員六・四ないし五・八メートルの同じく歩車道の区別のない舗装
道路であつたというのである。また、第一審証人Aの尋問の際、提出され、本件記
録に編綴されている被告人作成の見取図で、同証人も現場の状況と大体一致する旨
供述しているもの(二通)によれば、被告人の進路と交差する左方(西側)の道路
は先方で幅員が約四メートルになつている事実もうかがわれるのである。そして、
これらの状況からみて、本件交差点は、被告人の進路のほうが明らかに広いと認め
られることになり、同法四二条の徐行義務が免除される場合にあたる可能性が全く
存しないわけではない。
 しかるに、この関係の事実を確定することなく、交通整理の行なわれていない交
差点で左右の見とおしのきかないものにおいては、いかなる場合にも当然に徐行義
務があるとし、第一審判決を維持した原判決には、法令の解釈適用をあやまつた結
果審理を尽くさなかつた違法があり、これを破棄しなければ著しく正義に反するも
のと認める。
 よつて、刑訴法四一一条一号により、原判決を破棄し、さらに審理を尽くさせる
ため、同法四一三条本文により本件を原裁判所に差し戻すこととし、裁判官全員一
致の意見で主文のとおり判決する。
 検察官 山本清二郎公判出席
  昭和四三年一一月一五日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    奥   野   健   一
            裁判官    草   鹿   浅 之 介
            裁判官    城   戸   芳   彦
            裁判官    石   田   和   外
            裁判官    色   川   幸 太 郎

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