弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を大阪高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人大原篤、同大原健司の上告理由第二点および上告代理人村林隆一の上
告理由第二、(一)、(三)について。
 上告人は訴外D交易株式会社(以下、単に訴外会社という。)に対し自己の商号、
名称として使用していた「E商店ことF」名義の使用を許諾したこと、右許諾は銀
行との当座預金取引および手形行為上の名義使用についてなされたこと、訴外会社
は右許諾に基づき本件各為替手形の引受人欄に右名義で記名押印をしたこと、被上
告人は右各手形の正当な所持人であり、右名義人が引受人であると信頼したことは
原審の確定したところである。原判決は、右のような事実を前提として、上告人は、
商法二三条の規定に基づき、被上告人に対し引受人として本件各為替手形金を支払
う義務を負うとしている。
 しかし、商法二三条にいう営業とは、事業を営むことをいい、単に手形行為をす
ることはこれに含まれないと解すべきところ、前記確定事実によれば、前記許諾は
訴外会社の営業である繊維製品販売業についてなされたものでないことが明らかで
あるのみならず、同条は、他人の氏名商号等を用いて営業をした者(営業主)が第
三者との取引において債務を負担した場合において、その氏名、商号等の使用を許
諾した者に対しても、営業主の右債務につき連帯責任を負担させることを定めたも
のと解されるところ、手形行為の本質にかんがみれば、ある者が氏名、商号等の使
用を許諾した者の名義で手形上に記名押印しても、その者自身としての手形行為が
成立する余地はなく、したがつてその者は手形上の債務を負担することはなく、そ
の名義人がその者と連帯して手形上の債務を負担することもありえないから、この
点からみても、手形行為上自己の氏名商号等を使用することを許諾したにすぎない
者については、同条は適用されないものと解するのが相当である。
 しかるに、原判決は前記のような事実関係のもとにおいて、たやすく上告人につ
いて商法二三条の適用があることを認め、上告人が本件各為替手形につき債務を負
担する原因について進んで審理判断することなく、被上告人の請求を認容している
のであつて、原判決は同条の解釈を誤り、ひいては審理不尽の違法を犯したものと
いうほかなく、この点に関する論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。
 よつて、その他の論旨に対する判断を省略し、民訴法四〇七条に従い、裁判官全
員の一致で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    横   田   正   俊
            裁判官    柏   原   語   六
            裁判官    田   中   二   郎
            裁判官    下   村   三   郎
            裁判官    松   本   正   雄

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