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平成30年11月22日判決言渡
平成30年(ネ)第10047号不正競争行為差止請求控訴事件(原審:さいたま
地方裁判所川越支部・平成27年(ワ)第565号)
口頭弁論終結日平成30年9月20日
判決
控訴人(第1審原告)株式会社オーベイオート
同訴訟代理人弁護士寺島哲
備藤拓也
被控訴人(第1審被告)欧米自動車株式会社
同訴訟代理人弁護士山田宰
桐山直之
高田怜奈
主文
1本件控訴を棄却する。
2控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2被控訴人は,別紙顧客情報目録記載の者に対し,面会を求め,電話をし又は
郵便物を送付するなどして,中古自動車及びその部品等の売買契約,その締結
方の勧誘,又は自動車の修理・整備等の請負契約の締結,その締結方の勧誘,
及びこれらに付随する営業行為をしてはならない。
3被控訴人は,中古自動車及びその部品等の売買契約の締結をしようとし,又
は自動車の修理・整備等の請負契約を締結しようとして,被控訴人宛来店或い
は電話,メールその他の手段で連絡をしてくる別紙顧客情報目録記載の者に対
し,中古自動車及びその部品等の売買契約の締結,その締結方の勧誘,又は自
動車の修理・整備等の請負契約の締結,その締結方の勧誘,及びこれらに付随
する営業行為をしてはならない。
4被控訴人は,その営業において「OHBEI」という標章を使用してはなら
ない。
5被控訴人は,別紙顧客情報目録記載の顧客名簿の写しを廃棄せよ。
6被控訴人は,HDD,SSD,CD-ROM,DVD-ROM,USBメモ
リ等の電磁的記録媒体に記録された別紙顧客情報目録記載の情報を削除せよ。
7被控訴人は,控訴人に対し,2000万円及びこれに対する平成27年9月
17日から支払済みまで年6パーセントの割合による金員を支払え。
8訴訟費用は,第1,2審を通じて,被控訴人の負担とする。
第2事案の概要(略語は特に断らない限り原判決の例による。)
1事案の要旨
本件は,控訴人が,控訴人の元従業員らが設立した会社である被控訴人に対
し,被控訴人は,控訴人の元従業員らが在職中に控訴人代表者に無断で持ち出
した控訴人の顧客情報からなる営業秘密を使用して営業行為を行っており,ま
た,控訴人の周知な標章又は営業表示である「OHBEI」,「OHBEIA
UTO」及び「OHBEI-AUTO」(以下,これらを総称して「本件控訴
人表示」という。)と同一又は類似の「OHBEI」との標章を店舗外看板に
掲げる等して控訴人の営業と混同させる行為を行っていると主張して,不正競
争防止法2条1項1号,同項4号,同法3条に基づき,①別紙顧客情報目録記
載の者に対する営業行為の差止め,②別紙顧客情報目録記載の情報の廃棄等,
③「OHBEI」という標章の使用の差止めを求めるとともに,④被控訴人の
上記各不正競争行為によって損害を被ったと主張して,同法4条に基づき,2
000万円(原審での請求額6053万1984円を当審において減縮した。)
の損害賠償金の支払及びこれに対する不法行為の日以後である平成27年9月
17日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで商事法定利率年6パーセント
の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
原判決は,被控訴人による営業秘密不正取得行為及び周知表示混同惹起行為
があったと認めることができないとして,控訴人の請求をいずれも棄却した。
そこで,控訴人は,原判決を不服として,本件控訴を提起した。
2前提事実
後記(1)及び(2)のとおり改めるほかは,原判決「事実及び理由」「第2事
案の概要」1(2頁23行目から4頁5行目まで)に記載のとおりであるから,
これを引用する。
(1)原判決3頁2行目の「川越市」の後に「大字」を加える。
(2)原判決3頁26行目の「一覧」の後に「表」を加える。
3争点及び争点に関する当事者の主張
本件の争点は,(1)被控訴人による営業秘密不正取得行為の有無,(2)被控訴
人による周知表示混同惹起行為の有無,(3)控訴人の損害及びその額であるとこ
ろ,各争点に関する当事者双方の主張の要旨は,次のとおりである。
(1)争点(1)(被控訴人による営業秘密不正取得行為の有無)について
(控訴人の主張)
ア控訴人が保有する顧客名簿の営業秘密該当性
控訴人は,ブロードリーフのサーバーで「得意先・車両自由検索一覧表
(得意先)」との名称のフォームで管理されていた顧客情報であって,別
紙顧客情報目録記載の顧客名簿(以下「本件顧客名簿」)を保有している。
本件顧客名簿は,控訴人代表者であるAが,控訴人の前身といえる欧米
自動車工業株式会社からその営業を譲り受ける際に,多額の費用を支払っ
て買い受けた同社の顧客に関する情報に,その後,控訴人が自ら多額の広
告費等をかけて新規に開拓した顧客に関する情報を加えた,業務上有用な
ものである。
また,本件顧客名簿は,ブロードリーフのサーバーに保存され,これに
アクセスするにはパスワード等を入力する必要があった。このように,本
件顧客名簿は,秘密として管理されていた上に,公然と知られたものでは
ない。
したがって,本件顧客名簿は不正競争防止法2条6項の営業秘密に該当
する。
イ元従業員らによる不正取得行為
(ア)元従業員らは,平成25年6月ころ,控訴人設置のパソコンのパスワ
ードを無断で変更し,Aが本件顧客名簿にアクセスすることができない
ようにした。その上で,平成26年2月14日,同月21日,同年4月
14日,同月16日,同月19日(当審における追加主張)及び同月2
5日に,本件顧客名簿にアクセスし,その情報を印刷して持ち出した。
元従業員らは,業務遂行のためにアクセスしたにすぎないと主張する
が,同人らは,平成26年2月中旬ころには,控訴人の業務をほとんど
していなかった。仮に業務上確認する必要があったとしても,パソコン
で確認すれば足りるのであるから,複数回にわたって本件顧客名簿の全
てを印刷する必要はない。
(イ)また,元従業員らは,平成26年2月14日,本件顧客名簿をPDF
化して持ち出した。被控訴人は,情報を画面に表示するだけでPDF出
力との履歴が残ると主張するが,ブロードリーフのシステムでは,PD
F出力をすることなく,顧客情報や車両情報を画面上で閲覧できるから,
わざわざ「PDF出力」というボタンを押すという行為自体,通常業務
では考えられない不自然なものである。したがって,元従業員らがPD
F出力をしたのは,PDF化した情報を他の記録媒体等に保存するため
であったことが強く推認される。
(ウ)Aは,平成25年7月以降,控訴人の経営再建のための方策を模索し
ており,Bに対し,十分な金額が提示されるのであれば,Bらが引き合
わせるスポンサー候補者に事業譲渡をしてもよいと伝えていた。しかし,
当該スポンサー候補者の提示額が安く,Aが事業譲渡を断ったことから,
これを知ったBらは,控訴人から事業譲渡を受けることが難しいと判断
し,独立を見越して,控訴人設置のパソコンのパスワードを開示しなく
なった上,Aに無断で被控訴人を設立した。このように,平成26年2
月中旬の時点で,元従業員らが控訴人の顧客情報などを取得する必要性
があったことは明らかである。
そして,被控訴人は,上記のようにして持ち出した本件顧客名簿を使
用して営業行為を行っている。
ウしたがって,被控訴人の上記行為は,不正競争防止法2条1項4号の不
正競争行為に当たる。
(被控訴人の主張)
ア本件顧客名簿が営業秘密に該当するとの主張について
控訴人事務所内に設置されていたパソコンにはパスワードが設定されて
いたものの,Aを含め,控訴人の従業員らは,皆パスワードを知っており,
ダイレクトメールの送付等業務上の必要がある場合には,顧客の情報にア
クセスすることができた。また,従業員らは,自分の従業員コードでブロ
ードリーフのサーバーにログインした後,そのままログインした状態にし
ておくことがたびたびあり,その間,他の従業員がその状態を利用して作
業するのが常態であった。
このように,本件顧客名簿は,秘密として管理されていなかったから,
不正競争防止法2条6項の営業秘密に当たらない。
イ元従業員らによる不正取得行為に関する主張について
控訴人は,平成26年4月30日まで,通常業務を行っていた。同年2
月14日,同月21日,同年4月14日,同月16日及び同月25日にさ
れた控訴人の顧客情報の印刷は,控訴人の通常業務の一環として行われた
ものである。控訴人は,元従業員らが控訴人の顧客情報をPDF化して持
ち出したとも主張するが,元従業員らはこれを持ち出していない。ブロー
ドリーフのシステムでは,顧客情報等のデータをパソコンで確認するとP
DF出力という履歴が残るから,かかる履歴があるからといって,直ちに
顧客情報が「PDF化されて持ち出された」ことにはならない。
なお,元従業員らは,まだ控訴人において稼働していた平成26年4月
19日に,控訴人の顧客情報を利用して,元従業員らが担当していた顧客
250人分(元従業員1人につき30人)の情報をラベルシールに印刷し
た上で,被控訴人開業の挨拶状の宛名として貼付し発送したが,これはA
の承諾を得て行ったものである。
(2)争点(2)(被控訴人による周知表示混同惹起行為の有無)について
(控訴人の主張)
ア(ア)控訴人は,予てから「OHBEIAUTO」を屋号として使用する
とともに,本件控訴人表示を店舗外看板,名刺,封筒,自動車整備士の
ツナギ,社用車,広告等に使用していた。
(イ)控訴人のような自動車・自動車部品・自動車用品,自動車用機械工具
の輸出入業並びに販売を業とする会社は,川越市及び隣接する上尾市で
も多くない。また,控訴人の顧客は営業所のある地域だけでなく,近隣
地域にも多い。さらに,従前の顧客が複数回繰り返し来店して固定され
た顧客となっていく業種でもある。
「オーベイオート」,「OHBEI-AUTOS」との名称は,控訴
人が平成16年4月に欧米自動車工業株式会社から営業を譲り受ける以
前から同社において長年使用されて営業に用いられており,控訴人が営
業を譲り受けた際の営業譲渡契約においても,以後控訴人がこれらの名
称を引き継いで表示することが譲渡代金に含まれている旨が明示されて
いた。これを受けて,控訴人は,自社の広告などにも,「OHBEIA
UTO」,「OHBEI」との表示を用いてきた。
(ウ)以上のとおり,本件控訴人表示は,川越市及び上尾市において,控訴
人の業務に係る標章又は営業表示として周知のものである。
イ被控訴人は,本件控訴人表示と同一又は類似の標章である「OHBEI」
を,被控訴人の店舗外看板,封筒,名刺,従業員のツナギ,顧客に頒布す
るステッカー,社用車のほか,自社のメールアドレスに使用している。
この被控訴人の行為は,顧客に対し,あたかも控訴人と連続性を有する
営業であるかのように装い,控訴人の営業と混同を生じさせるものである
から,不正競争防止法2条1項1号の不正競争行為に当たる。
(被控訴人の主張)
ア(ア)控訴人が,「OHBEI」という標章を店舗外看板,名刺,封筒,社
用車等に使用していたこと,「OHBEI-AUTO」という標章を使
用していたことは認める。
しかし,控訴人が「OHBEIAUTO」という標章を使用してい
たことは否認する。また,被控訴人の従業員らが控訴人に在籍していた
当時,「OHBEI」との記載があるツナギはなかった。
(イ)「OHBEI」という表示は,字体や形状に特色がなく,埼玉県内で
も所沢市の他の業者が「OHBEICARS」との営業表示を使用し
ている。このように,「OHBEI」という表示は汎用されており,控
訴人を表すものとして需要者の間に広く認識され,周知されているとは
いえない。
イ被控訴人は,店舗を開店した平成26年7月から,店舗外看板,ツナギ,
封筒,名刺,社用車及び自社のメールアドレスに「OHBEI」という文
字を使用していたことがあった。
しかし,被控訴人は,平成28年3月ころに,当該店舗外看板を撤去し
たほか,社用車については同年7月ころに,ツナギについては平成29年
6月ころに,それぞれ「OHBEI」という文字の使用を止めた。
また,被控訴人は,平成29年9月に,店舗を上尾市から川越市に移転
した際,店舗外看板を「欧米自動車」と表記するようにした。さらに,海
外との取引における被控訴人の表記を,「OHBEIJIDOSHA」
から「OubeiCo.,Ltd」に変更したし,メールアドレス及び
ホームページのURLも,「oubei」を用いるものに変更済みである。
このように,被控訴人は,現在,「OHBEI」という標章を使用して
いない。
ウ日本における外国車の輸入先は,専らヨーロッパやアメリカ,すなわち
「欧米」であるから,外国車を取り扱っている業者であれば,これをロー
マ字で「OHBEI」と表記することは何ら特別なことではない。
また,被控訴人は,海外とも取引をしており,自社のローマ字表記は,
必然的に「OHBEIJIDOSHACO.LTD.」とせざるを得
なかった。
したがって,仮に被控訴人による「OHBEI」の使用が不正競争防止
法2条1項1号の不正競争に当たるとしても,これは普通名称を普通に用
いられる方法で使用又は表示するものにすぎず,同法19条1項1号に当
たる。
(3)争点(3)(控訴人の損害及びその額)について
(控訴人の主張)
控訴人の売上げは,平成26年3月期において約2億9000万円であっ
たが,平成27年3月期にはその10分の1にも満たない約2800万円に
まで激減し,経常利益が6305万0809円から,251万8825円に
減少した。
控訴人は,被控訴人の上記各不正競争行為によって,経常利益の減少分6
053万1984円の損害を被った。
(被控訴人の主張)
控訴人における売上げの減少は,被控訴人の不正競争行為によるものでは
ない。控訴人は,従業員8名を雇用して営業していたが,平成26年3月2
9日,全ての従業員に対して解雇予告をし,その頃から積極的な営業をして
いなかった。また,控訴人は,同年6月から,(住所省略)に店舗を移転し
て営業を再開したが,取り扱っている車種,台数はかつてとは同等ではなく,
従業員も雇用せず,控訴人代表者が一人で営業をしていたものであった。し
たがって,人的,物的に以前と同程度の営業ができるはずはなく,その売上
げが減少するのは当然のことである。
第3当裁判所の判断
1当裁判所も,控訴人の請求はいずれも理由がないものと判断する。その理由
は,以下のとおりである。
2認定事実
後記(1)及び(2)のとおり改めるほかは,原判決「事実及び理由」「第3当
裁判所の判断」「1認定事実」(7頁15行目から12頁11行目まで)に
記載のとおりであるから,これを引用する。
(1)原判決11頁13行目冒頭の「及び同年4月25日」を「,同年4月19
日及び同月25日」と改める。
(2)原判決12頁10行目の「商号として表示し」を「営業表示として使用し」
と改める。
3争点(1)(被控訴人による営業秘密不正取得行為の有無)について
(1)事案に鑑み,まず,元従業員らによる不正取得行為の有無について検討す
る。
ア(ア)控訴人は,元従業員らが,平成26年2月14日,同月21日,同年
4月14日,同月16日,同月19日及び同月25日に,本件顧客名簿
にアクセスし,これを印刷して持ち出したと主張する。
そこで検討するに,引用に係る原判決第3,1(12)のとおり,ブロー
ドリーフのサーバーのログに,平成26年2月14日,同月21日,同
年4月19日及び同月25日付けで,操作内容を「『自由検索一覧(得
意先)』の印刷を行いました。」とする履歴,同年4月14日及び同月
16日付けで,操作内容を「『自由検索一覧(車両)』の印刷を行いま
した。」とする履歴,同年2月14日付けで,操作内容を「『自由検索
一覧(得意先)』のPDF出力を行いました。」とする履歴がそれぞれ
記録されていることが認められる。
しかし,同(11)のとおり,元従業員らは,平成26年4月末ころまで,
残務整理のほか,通常業務を行っていたと認められるところ,顧客から
の問い合わせに対応したり,顧客に対する通知をしたりするために,ブ
ロードリーフのサーバーに保存されている顧客情報にアクセスし,得意
先や車両に関する事項に基づいて検索操作をすることは,控訴人の業務
を遂行するために通常行われる行為であるというべきであるから,得意
先や車両に関する事項に基づいて検索操作がされ,その検索結果の一覧
が印刷されたとか,PDF形式で出力されたとの一事をもって,当該各
行為が不正に営業秘密を取得する行為であると断ずることはできない。
また,元従業員らが,これらの機会に印刷した書類等を社外に持ち出し
たことを認めるに足りる的確な証拠も見当たらない。
(イ)この点に関連して,控訴人は,ブロードリーフのシステムでは,PD
F出力をすることなく,顧客情報や車両情報を閲覧することができるか
ら,わざわざ「PDF出力」をしたのは,他の記録媒体等に保存するた
めであったと主張する。
しかし,情報処理システムにおいて,他の記録媒体等にデータを保存
したり,複製したりすることを目的としてPDF形式で出力する場合が
あることは否定できないものの,PDF形式で出力する目的がそれに限
定されるものでないことは明らかである。
そして,ブロードリーフのシステムに関し,被控訴人関係者は,氏名
と電話番号程度の簡単な顧客情報だけであれば,PDF出力することな
く画面上で確認できるものの,住所,車両の登録番号,車種,車検時期
及び検査履歴等を見るためには,PDF形式で出力しなければならない
と陳述している(乙27)ところ,この陳述の信用性を否定し,ブロー
ドリーフのシステムにおいては,他の記録媒体等に保存する場合以外に,
PDF形式で出力することが予定されていなかったと認めるに足りる証
拠はない。
したがって,この点についての控訴人の主張を採用することはできな
い。
(ウ)以上によれば,元従業員らの上記各行為が,不正な取得行為に当たる
ということはできない。
イ次に,元従業員らが,平成26年4月19日に,控訴人の顧客情報を利
用して,顧客250人分について,ラベルシールに印刷した上で,被控訴
人開業の挨拶状の宛名として貼付し発送した行為について検討する。
乙2の2(15~16頁)によれば,平成26年4月8日に行われたA
とBの話合いにおいて,既に両者が別々に事業を行うこととし,そのため
に,それぞれが懇意にしている顧客に案内状を送付することを視野に入れ
た話合いがされていることがうかがわれるところ,引用に係る原判決第3,
1(11)のとおり,AとBが同月16日に話合いをした際,Aは,Bに対し,
元従業員らが懇意にしている顧客をAが引き継ぐことは無理であるとして
(乙3の2・4頁),元従業員らが,各自が懇意にしている顧客に被控訴
人開業の挨拶のダイレクトメールを発送するために,控訴人の顧客情報の
一部を使用することに関し,Aの顧客と重複しても構わないとした上で,
「大人のマナーで行こうよ」などと述べ,さらに,Bが「じゃあ,社長も,
そういう,それは了承してくれるっていうことで,いいわけですね。」と
尋ねたのに対し,「はがきを出すのはな。」と答えている(同5頁)。
そうすると,上記の会話によれば,Aは,元従業員らが懇意にしていた
顧客については,従業員らが被控訴人開業の挨拶のダイレクトメールを発
送する目的で控訴人の顧客情報を使用することを承諾したと認めるのが相
当である。
そして,その後,平成26年4月19日に元従業員らが控訴人の顧客情
報から選別してラベルシールに印刷した顧客の中に,元従業員らが懇意に
していた顧客以外の者が含まれていたと認めるに足りる証拠はない(なお,
元従業員らが印刷した顧客数は250名程度であったところ,元従業員ら
が合計8名であり,控訴人の設立以前から勤務していたことを考慮すると,
この数が過度に多いとまでいえず,元従業員らが懇意にしていた顧客に限
定して印刷したことと矛盾しない。)し,BがA用の顧客リストをAの机
の上に置いておいた(被控訴人代表者本人)のに対し,Aが顧客の数が少
ないとか,Aの客が入っていないなどといった異議を述べたことをうかが
わせる証拠はない。
したがって,元従業員らの上記行為についても,不正な取得行為に当た
るということはできない。
(2)以上によれば,その余の点について認定,判断するまでもなく,被控訴人
による営業秘密不正取得行為に基づく請求は理由がない。
4争点(2)(被控訴人による周知表示混同惹起行為の有無)について
(1)控訴人は,本件控訴人表示は,川越市及び上尾市において,控訴人の業務
に係る標章又は営業表示として周知のものであると主張する。
アそこで検討するに,引用に係る原判決第3,1(1)及び(2)のとおり,控
訴人は,平成16年4月1日,欧米自動車工業株式会社から,同社川越支
店に係る営業を譲り受け,その際,「オーベイオート」及び「OHBEI
-AUTOS」の名称を控訴人に係る営業において引き続き使用すること
が合意されたこと,控訴人は,同日ころから,旧本店所在地において,「O
HBEI」,「OHBEI-AUTOS」,「OHBEIAUTO」の
標章を店舗外看板等に掲げる等して,営業を開始したことが認められる。
特に,旧本店所在地の店舗においては,道路に面した外壁に意匠化された
「OHBEI」とのかなり大きな標章が掲げられていた(甲4)。もっと
も,当該標章の使用期間を認めるに足りる的確な証拠はない。
また,控訴人は,「OHBEI-AUTO」との表示がされた封筒を使
用していたことが認められるが(甲5),その具体的な使用時期や使用態
様,枚数などを認めるに足りる的確な証拠は見当たらない。
イ平成26年3月期(平成25年4月1日から平成26年3月31日まで)
における控訴人の売上高は,2億9374万0593円であった(甲11)。
なお,引用に係る原判決第3,1(15)のとおり,平成29年4月19日
の時点において,川越市内では,旧本店所在地のままとなっている控訴人
を含め,13の営業所で輸入車の販売が行われているとされているところ,
川越市及び上尾市における控訴人の市場占有率等上記地域において控訴人
が占める地位を認めるに足りる的確な証拠は見当たらない。
ウ次に,広告宣伝の状況についてみると,同(3)のとおり,控訴人は,自社
の宣伝,顧客誘引の方法として,インターネットを利用したり,川越市の
商工会議所等にチラシを配布したりしていたことが認められる。しかし,
控訴人のホームページや当該チラシにおいて,本件控訴人表示がどのよう
に用いられていたのかなど,その具体的な態様は明らかでない上に,ホー
ムページの開設時期や開設期間,チラシの配布時期や枚数についても,こ
れを認めるに足りる証拠はない。
エなお,控訴人は,自動車の販売業及び修理業は,従前の顧客が複数回繰
り返し来店して固定された顧客となっていく業種でもあると主張するとこ
ろ,仮にそのようなことがいえるとしても,それは控訴人と取引関係のな
い新規の顧客に対し,本件控訴人表示を認知してもらうことがより困難に
なるということにほかならないから,本件控訴人表示が周知性を有するこ
とを積極的に肯定する事情とはいい難い。
オ以上のとおり,控訴人は,平成16年ころから,本件控訴人表示を使用
しており,特に,旧本店所在地の店舗においては,道路に面した外壁に意
匠化された「OHBEI」とのかなり大きな標章が掲げられていたことが
認められるものの,それ以外の具体的な使用態様を認めるに足りる的確な
証拠は見当たらない。また,川越市及び上尾市において控訴人が占める地
位や広告宣伝の具体的態様についても,これを認めるに足りる的確な証拠
はない。
そうすると,本件に現れたその余の事情を考慮しても,本件控訴人表示
が,川越市及び上尾市において周知のものであると認めるに足りないとい
うべきである。
(2)したがって,その余の点について認定,判断するまでもなく,被控訴人に
よる周知表示混同惹起行為に基づく請求は理由がない。
第4結論
以上によれば,その余の点について認定,判断するまでもなく,控訴人の請求
をいずれも棄却した原判決は相当であり,本件控訴は理由がないからこれを棄却
することとし,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官
鶴岡稔彦
裁判官
高橋彩
裁判官
間明宏充

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