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裁判例


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平成19年1月31日判決言渡
平成14年(行ウ)第3号県営北方住宅建設費差止・返還請求事件〔甲事件〕
平成15年(行ウ)第28号県営北方住宅設計委託料返還請求事件〔乙事件〕
口頭弁論終結日平成18年10月18日
主文
1原告らの請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
1甲事件
(1)被告知事は,県営北方住宅中北ブロック建設事業(基本設計委託料合計1
億1550万円を除く)に関して,80億円を超えて,公金を支出し,契約
を締結若しくは履行し,債務その他の義務を負担してはならない。
(2)ア被告知事は,被告A及び被告Bに対し,連帯して3465万円を支払え
と請求せよ。
イ被告知事は,被告A及び被告Dに対し,連帯して8085万円を支払え
と請求せよ。
(3)ア被告知事が,県営北方住宅中北ブロック建設事業の基本計画策定委託料
相当を返還していない関係職員に対して,損害賠償命令を発しないことは
違法であることを確認する。
イ被告A,被告B及び被告Cは,岐阜県に対し,連帯して500万円及び
これに対する被告A及び被告Bについては平成14年2月15日から,被
告Cについては同月16日から,各支払済みまで年5分の割合による金員
を支払え。
2乙事件
(1)被告A及び被告Bは,岐阜県に対し,連帯して3465万円及びこれに対
する平成13年12月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支
払え。
(2)被告A及び被告Dは,岐阜県に対し,連帯して8085万円及びこれに対
する平成14年7月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払
え。
第2事案の概要
甲事件は,岐阜県の住民である原告(選定当事者)ら及び選定者らが,(1)
被告知事に対し,県営北方住宅中北ブロック建設事業(建替事業)(以下「本
件事業」という)に関し,基本設計委託料合計1億1550万円を除き,80
億円を超える公金を支出することの差止め等を求め,(2)被告知事に対し,本
件事業に関し,基本設計委託料として公金1億1550万円を支出したことが
違法であると主張して,岐阜県に代位して,支出当時の知事個人及びこれらの
支出につき専決権限を有していた岐阜県職員個人に対し,各支出額を岐阜県に
支払うよう請求することを求め,(3)本件事業に関し,基本計画策定委託料と
して公金500万円を支出したことが違法であると主張して,①被告知事が,
支出当時の知事個人及びこれらの支出につき専決権限を有していた岐阜県職員
個人に対し,損害賠償請求をしないことが違法であることの確認を求め,②支
出当時の知事個人及びこれらの支出につき専決権限を有していた岐阜県職員個
人に対し,支出額500万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から各支払
済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を岐阜県に返還することを
求めた事案である。
乙事件は,原告ら及び選定者らが,本件事業に関し,基本設計委託料として
公金1億1550万円を支出したことが違法であるとして,支出当時の知事個
人及びこれらの支出につき専決権限を有していた岐阜県職員個人に対し,合計
1億1550万円及びうち3465万円については支出の日である平成13年
12月21日から,うち8085万円については支出の日である平成14年7
月30日から,各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を岐
阜県に返還することを求めた事案である。
1前提となる事実(証拠の記載がない事実は当事者間に争いがない)
(1)当事者
ア原告ら及び選定者らは,いずれも各肩書住所地に居住する岐阜県民で
ある。
イ被告知事は,岐阜県の執行機関である。
ウ被告Aは,後記本件公金支出1ないし3の当時,岐阜県知事の職に
あった者である。
エ被告Bは,後記本件公金支出1についての支出命令当時及び同支出2
の当時,岐阜県基盤整備部都市整備局住宅課長(以下「住宅課長」とい
う)の職にあった者である。
オ被告Dは,後記本件公金支出3の当時,住宅課長の職にあった者であ
る。
カ被告Cは,後記本件公金支出1についての支出負担行為当時,住宅課
長の職にあった者である。
(2)本件事業の経緯及び概要
ア建替前の県営北方住宅(以下「旧県営北方住宅」という)は,老朽化
が進んでいたため,平成2年ころから,建替事業が検討されるように
なった。旧県営北方住宅は,南,中,北のそれぞれのブロックに分かれ
ていた。岐阜県は,平成5年5月,旧県営北方住宅全体としての建替事
業案である「北方住宅再生計画策定報告書」を作成した後,まず,南ブ
ロックの建替事業から行うこととした。南ブロックの建替事業は,平成
7年度から始められ,平成12年に終了した。次に,岐阜県は,中ブ
ロックの建替事業を検討し始め,当時の岐阜県知事(以下,単に「岐阜
県知事」という)は,中ブロックの建替事業を進めるに当たっての基本
方針の策定及びモデルプランを作成するため,株式会社Fアトリエ(以
下「Fアトリエ」という)に基本計画の策定を委託することとし,平成
12年6月15日,Fアトリエとの間で,北方住宅中ブロック再生・活
用調査に関する業務委託契約(以下「本件第1契約」という)を締結し
た。Fアトリエが平成13年2月28日に本件第1契約に係る業務を完
了させると,岐阜県は,「北方住宅北ブロック再生・活用調査報告
書」を作成した。この段階で,岐阜県は,中ブロックの建替だけでなく,
北ブロックも一体として建替を行うよう計画変更をし,この報告書は,
本件事業である中北ブロックの建替事業の基本計画として作成した。
(甲10,24,乙38,41,45)
イ岐阜県知事は,平成13年8月16日,本件事業について,国へ補助
金の交付申請を行い,同日,補助金の交付決定を受けた。(甲4の1な
いし8)
ウ岐阜県知事は,平成13年8月28日,Fアトリエ,株式会社G建築
事務所(以下「G設計」という),H設計株式会社(以下「H設計」と
いう),株式会社I建築事務所(以下「I建築」という)によって構成
される共同企業体(以下「JV」という)との間で,本件事業の基本設
計に関する業務委託契約を締結した(以下「本件第2契約」という)。
岐阜県は,平成14年5月,上記北ブロック再生・活用調査報告書を基
礎として設計を発展させ,本件事業の基本設計となる「北方住宅北ブ
ロック基本設計報告書」を作成した。(甲7,乙17,期間を変更乙2
4,25ないし28,39)。
エ本件事業の基本設計の内容は以下のとおりである。(乙39)
(ア)敷地面積6万2891平方メートル
(イ)戸数
Aブロックは278戸,Bブロックは173戸,Cブロックは169
戸の合計620戸
(ウ)床面積
aバルコニー,共用廊下,共用階段,自転車駐車場,ピロティ等を
含めたいわゆる施工面積
(a)住戸部分(バルコニーを含む)5万4233.55平方メート

(b)公共空間1502.55平方メートル
(c)共用空間(共用廊下,共用階段,エレベーターロビー,自転車
駐車場,機械室,ピロティ,コーナー部分を含む)1万8812.
19平方メートル
(d)合計7万4548.29平方メートル
b共用廊下,バルコニー,外部階段を含まない面積
(a)住戸部分(バルコニーを除く)4万6145.70平方メート

(b)その他(エレベーターロビー,自転車駐車場,機械室等を含
む)3426.30平方メートル
(c)公共空間923.40平方メートル
(d)コーナー部437.40平方メートル
(e)道路等1239.30平方メートル
(f)合計5万2172.10平方メートル
(エ)階数及び住戸階数
Aブロックは10階,Bブロックは5階,7階,Cブロックは5階,
7階
(オ)建築費(かっこ内は共通経費率17パーセント,消費税5パーセン
トを含んだもの)
a住宅本体建築費
79億2020万円(97億2996万5700円)
b付属施設建築費
1億8180万円(2億2334万1300円)
c外構建築費
9億3220万円(11億4520万7700円)
d合計
90億3420万円(110億9851万4700円)
(3)公金の支出
ア岐阜県知事は,平成13年4月2日,本件第1契約に係る基本計画策
定委託料として,500万円を支出した(以下「本件公金支出1」とい
う)。上記500万円の支出負担行為の専決権者は被告Cであり,支出
命令の専決権者は被告Bであった。(乙38,40,41,45ないし
47,50,弁論の全趣旨)
イ岐阜県知事は,本件第2契約に係る中北ブロックの基本設計委託料と
して,平成13年12月21日に3465万円(以下「本件公金支出
2」という)を支出し,平成14年7月30日に8085万円(以下
「本件公金支出3」という)を支出した。上記基本設計料総額1億15
50万円について,支出負担行為の専決権者は都市整備局長Eであり,
支出命令の専決権者は,3465万円については被告Bであり,残額8
085万円については被告Dであった。(乙11,16,21,29,
32,40,弁論の全趣旨)
(4)監査請求
原告らは,平成13年11月9日,地方自治法242条1項に基づき,岐
阜県監査委員に対し,本件事業に関し,①締結された随意契約が違法である
として無効確認,②基本設計委託料1億1550万円の支出の差止め,③現
計画の本体工事費のうちの30億円の支出の差止め,④本体工事費が110
億円でない場合は45万円/坪を超える額の支出の差止め,をそれぞれ求め
て住民監査請求(以下「本件監査請求1」という)をしたが,同監査委員は,
平成14年1月7日,上記③及び④の差止めについては,現在予算計上もさ
れていないから「相当の確実さをもって予測される」とはいえないとして却
下し,上記①及び②については,随意契約には合理的な理由があり,また,
岐阜県会計規則にも違反しないとして棄却した。(甲1)
さらに,原告らは,平成13年11月28日,岐阜県監査委員に対し,本
件公金支出2及び3は違法で無効かつ委託の目的を逸脱した契約に対する根
拠を欠く支出であるとして,支出当時の知事及び専決権限を有していた岐阜
県職員に対し,500万円の返還を求める監査請求(以下「本件監査請求
2」という)を行ったが,同監査委員は,平成14年1月7日,随意契約に
は合理的理由があるとして棄却した。(甲2)
(5)本訴提起
原告らは,本件監査請求1及び2の結果を不服として,平成14年2月
4日,甲事件の訴えを提起した。
なお,原告らは,上記提訴の当初は,甲事件の請求の趣旨(2)について,
平成14年法律第4号による改正前の地方自治法242条の2第1項1号に
基づき,被告知事に対し,基本設計委託料1億1550万円につき支出の差
止めを求めていたところ,訴訟係属中に当該支出が行われたため,平成15
年10月1日の第14回口頭弁論期日において,同年7月11日付け請求の
変更の申立書で平成14年法律第4号による改正後の地方自治法242条の
2第1項4号の請求に訴えを変更し,さらに,平成14年法律第4号による
改正前の規定に基づき乙事件の訴えを追加的に提起した。
2争点及び争点に対する当事者の主張
別紙のとおり
第3当裁判所の判断
1争点1(1)(監査請求前置)について
(1)被告知事は,監査請求前置の要件を満たすためには,当該監査請求におけ
る監査委員の監査の時点で,違法又は不当についての実体的判断による予防
の機会が与えられることが必要であるところ,本件監査請求1③及び④につ
いては,監査委員は実体的判断をせず,却下しているのであるから,請求の
趣旨1項については,監査請求前置の要件を欠いている旨主張する。しかし,
監査委員がこれを不適法であるとして却下したとしても,客観的に住民が適
法な住民監査請求をしているときは,当該住民は,適法な住民監査請求を経
たものとして,直ちに住民訴訟を提起することができる(最高裁第三小法廷
平成10年12月18日判決・民集52巻9号2039頁参照)のであるか
ら,本件においても客観的に住民が適法な住民監査請求をしていたか否かに
ついて,以下検討する。
被告知事は,原告ら主張の公金の支出につき,歳出予算の成立もない監
査請求時においては,相当な確実性を判断することは困難であり,上記監
査委員の判断は適法である旨主張するが,上記前提となる事実及び証拠
(甲4の1ないし8)によれば,岐阜県知事は,平成13年8月16日,
本件事業について,国へ補助金の交付申請を行った際,整備戸数,整備面
積,建築費等を記載した書面を提出し,同日,補助金の交付決定を受けて
いること,上記申請前に,本件事業の建設予定地の地盤調査が行われてい
ること,岐阜県知事は,本件事業に関し,平成12年6月15日,Fアト
リエと本件第1契約を,平成13年8月28日,JVとの間で本件第2契
約を締結していること,岐阜県は,本件事業に関し,基本設計業務委託仕
様書を作成しており,建設概要,業務の内容,業務要領等が詳細に規定さ
れ,設計の条件として,建築費は約110億円程度であることを規定して
いること,さらに,岐阜県は,本件事業について基本計画を作成し,具体
的な計画条件を記載していることが認められることからすれば,監査請求
時において予算の計上等がされていなかったとしても,本件事業に関して
公金が支出される可能性は,単に漠然と存在するというにとどまるもので
はなく,相当程度の客観的,具体的な可能性があるものといえるから,
「当該行為がなされることが相当の確実さをもつて予測される場合」(地
方自治法242条1項)に当たるものと認められる。
よって,本件監査請求1③及び④は客観的に適法であったというべきで
あるから,原告らは,適法な住民監査請求を経たものとして,直ちに住民
訴訟を提起することができるので,被告知事の上記主張は採用できない。
(2)また,被告知事は,基本設計と実施設計では,支出負担行為者である専決
権者は異なっており,基本設計に財務会計上の違法事実が存在すればこれに
後続する実施設計及び建築工事にも必然的に財務会計上の違法事実が存在す
ることとなるものではなく,対象に同一性がない旨主張するが,本件監査請
求1③及び④では,基本設計段階の行為だけでなく,実施設計段階の行為も
含め,包括的に本件事業に関する一定額以上の本体建築費の支出の差止めを
求めているのに対し,本件訴訟においても,同様に,基本設計及び実施設計
段階の行為を含め,包括的に本件事業に対する一定額以上の公金の支出の差
止めを求めているところ,いずれも,本件事業に対する公金支出の違法性を
問題としているのであるから,対象に同一性があると認められ,被告知事の
上記主張は採用できない。
2争点1(2)(請求の趣旨の変更)について
被告知事は,請求の趣旨(2)ア及びイへの変更は,平成14年法律第4号に
よる改正前の地方自治法に基づいていないから法適用の誤りがある旨主張する
ので,以下検討する。
平成14年法律第4号附則4条は,同法による改正後の地方自治法242条
の2,242条の3及び243条の2の規定は,施行日以後に提起される同法
242条の2第1項の訴訟について適用し,施行日の前日までに提起された上
記改正前の地方自治法242条の2の規定による同条第1項の訴訟については,
なお従前の例による旨定めている。本件においては,上記前提となる事実のと
おり,原告らは,訴えの変更により,請求の趣旨(2)ア及びイへの変更を行っ
ているところ,訴えの交換的変更は,変更後の請求についての新訴の提起と従
前の請求についての訴えの取下げを併せて行うものと考えられるので,原告ら
は上記改正後の地方自治法242条の2第1項により新たに訴えを提起したも
のと考えられるから,平成14年法律第4号附則4条にいう施行日以後に提起
される訴訟に該当するとみることができる。したがって,法適用の誤りがある
とはいえず,被告知事の上記主張は採用できない。
3争点2(1)ア(公営住宅法,本件条例の趣旨・目的を著しく逸脱)について
(1)上記前提となる事実及び以下に摘示する証拠によれば,次の各事実が認
められる。
ア岐阜県は,昭和40年から45年にかけて,約10ヘクタールの敷地
に1074戸の旧県営北方住宅を建設した。旧県営北方住宅は,北方町
の面積の約1.8パーセント,世帯数の約21パーセント,人口の約1
8パーセントを占めていた。旧県営北方住宅が建設された当時は,住宅
の絶対的戸数が不足し,狭小住宅が大量に建設された時代であり,旧県
営北方住宅もすべて1戸当たり40平方メートル以下の住宅であった。
しかし,旧県営北方住宅は,4人家族の標準世帯の場合,国が定める最
低居住水準未満の住宅であったこと,狭小で間取りが古く,近年の生活
様式に対応できていないこと,高齢化問題のみならず少子化問題等,近
年の社会情勢の変化があること,建築後の経過年数が長いため,構造や
内外装,設備等,建物の物理的な老朽化が進行していることから,物理
的・社会的両面の耐用年限が生じていた。そのため,平成2年ころから,
旧県営北方住宅の建替が検討されるようになった。(甲21,乙2,3
8,41)
イ岐阜県は,平成2年9月,旧県営北方住宅居住者だけでなく,周辺住民
も含めて,北方住宅再生計画に対する意向調査を行った後,平成4年10
月,旧県営北方住宅居住者に限って,北方住宅再生計画に対する意向調査
を行った。そして,その調査結果等を踏まえ,旧県営北方住宅全体の建替
事業計画として,平成5年5月に「北方住宅再生計画策定報告書」を作成
した。(甲21,乙20)
ウ旧県営北方住宅の建替は,まず,南ブロックから進められ,平成12
年3月に430戸からなる住宅団地として完成し,同年4月から供用が
開始された。南ブロックの建替事業に当たり,熊本アートポリス構想を
コーディネートした建築家であり,Fアトリエの代表者であるFに設計者
の選定を依頼した。その結果,Fがコーディネーターとして全体調整を行
い,女性の持つ優しさ,感性,アイデアを活かした住まいづくり・街づ
くりを推進する観点から,国内外で活躍中の4名の女性建築家と1名の
女性造園設計士により,基本設計が行われた。さらに,実施設計に当
たっては,岐阜の地域特性,気候風土を反映させるとともに,県内の設
計事務所の情報発信,研さんの機会として県内の設計事務所との共同事
業方式をとり,県内の設計事務所等の協力を得ながら進められた。(甲
21,乙2,38,39,41)
エ南ブロックの建替が完了すると,引き続いて,中ブロックの建替が検討
されたが,平成5年に基本計画を策定した後,入居者の高齢化・環境の変
化,国の建替からストック活用への方針の変化等が生じており,今後の整
備方針を策定する上で再度調査し,検討する必要が生じてきたため,平成
12年6月ころ,中ブロックについて,今後の整備方針を策定し,モデル
プランを作成することとした。それに当たり,岐阜県知事は,平成12年
6月15日,Fアトリエとの間で,①実態調査等(住民の意向調査,周辺
地域の状況調査,再生計画における基本的要件の検討),②再生計画の策
定(中ブロック設計コンセプトの確立,高齢化団地実施に向けての検討,
環境共生団地実現に向けての検討,建替とリフォームの設定,町施設及び
建築情報センターとの調整方針といった基本方針の策定及び建替について
全体配置図,リフォームについては,タイプ別に実施計画時の指針となる
モデルプランの作成といったモデルプランの作成)を委託の内容とする本
件第1契約を締結した。岐阜県は,Fアトリエの本件第1契約に基づく調
査結果や平成13年2月の県営北方住宅再生計画及び入居者意識調査等を
踏まえ,中北ブロックの基本計画としての位置づけとしての「北方住宅
北ブロック再生・活用調査報告書」を作成した。(乙38,41,45)。
この再生・活用調査報告書では,中ブロックの建替について,当初は,
西側の18棟については全面的に建て替え,建設年代の比較的新しい昭和
44年から45年に建てられた東側の11棟については,既存のストック
の活用という観点から,構造体を残して改修することが計画されていた。
しかし,東側の11棟について調査したところ,耐震性能が劣り,被害を
防ぐため相当な補強が必要であることが判明したため,既存のストック活
用と建替との費用対効果を比較した結果,建替を行う方が経済的かつ適切
であるという結論となった。そこで,中ブロックについては,全面的に建
て替えることとなり,建物の配置等が検討されることとなったが,その際,
老朽化の進んでいた北ブロックを一体として建替を行えば,配置計画の面
でより柔軟に対応できることから,当初の計画には含まれていなかった北
ブロックの敷地も含めて中・北ブロック一体として建替計画が進められる
ようになった。さらに,この再生・活用調査報告書では,中北ブロックは
A,B,Cの3つの住棟ブロックで構成しているが,南ブロックでの経験
をさらに3次元的,立体的に発展させた方法を提案し,南ブロックでは,
住棟ごとに1人の女性建築家がデザインしたが,中北ブロックでは,21
人の建築家などが参加し,各住棟の10戸程度の区画単位で住戸内部の設
計と住戸の直接外部に面する部分の設計を行うこととし,コーディネータ
ーが全体のフレームワークの提供等を行うという構想がされた。(甲10,
24,乙38,41)
オ本件事業の基本設計業務者を選定するに当たり,平成13年5月29
日,15名の者に対し,北方住宅中北ブロック基本設計共同設計候補者
選定プロポーザル(書類審査方式)についての書類の提出を依頼したと
ころ,同月6月5日,9名が参加を表明し,同月12日,書類を提出し
た。同月19日,Fを委員長,岐阜県美術館長を副委員長とし,他5名の
委員を構成員とした選定委員会が開催され,それによって,G設計,H
設計,I建築が本件事業の基本設計者として選定された。そして,岐阜
県知事は,平成13年8月28日,G設計,H設計,I建築にFアトリエ
を含んだ共同企業体であるJVとの間で,本件第2契約を締結した。
カ岐阜県は,平成14年5月,「北方住宅北ブロック基本設計報告書」
を作成した。その計画によれば,再生活用調査報告のときと同様,中北
ブロックはA,B,Cの3つの住棟ブロックで構成し,21人の建築家
などが参加し,各住棟の10戸程度の区画単位で設計を担当することと
なった。そして,構造・設備も含めた全体計画・全体調整をJVが受け
持つ形でプロジェクトを進行させることとなった。また,高齢者社会に
向けて,すべての住宅を高齢者対応とするとともに,あらゆる年齢層に
とっての居住性を追求した住宅の供給が望まれると考え,高齢者専用の
特別な住居ではなく,加齢による身体機能低下や障害が生じた場合にも
住み続けられるために,長寿社会対応住宅として整備することとされた。
また,構造計画としては,構造形式はメガ・フレーム方式を採用してデ
ザインの自由度を高め,構造材料は通常の鉄筋コンクリート造が65年
程度の耐用年数であるのに対し,200年程度の耐用年数のあるプレキ
ャスト・プレストレストコンクリート部材を使用することによって,建
物の耐久性を向上させ,長い耐用年数を持つようにし,社会的変化や技
術的変化,居住者の価値観等の変化による住宅の可変性や持続性が確保
できるようにし,構造方法は,Aブロックについては免震構造を取り付
け,地震などに強い県営住宅を建築することとした。(甲36の3,乙
39,59)
(2)ア原告らは,本件事業における建築費(以下「本件建築費」という)が
過剰かつ異常に高額なものであり,公営住宅法,本件条例の趣旨・目的
を著しく逸脱し,違法である旨主張するので,この点について,以下検
討する。
公営住宅法は,国及び地方公共団体が協力して,健康で文化的な生活
を営むに足りる住宅を整備し,これを住宅に困窮する低額所得者に対し
て低廉な家賃で賃貸し,又は転貸することにより,国民生活の安定と社
会福祉の増進に寄与することを目的とし,本件条例1条は,公営住宅法
の趣旨,目的等が県営住宅に適用されることを規定しているところ,健
康で文化的な生活を営むに足りる住宅を整備し,国民生活の安定と社会
福祉の増進といった,公営住宅法及び本件条例の目的を実現するために
どのような県営住宅を整備すべきかは,その時代の社会情勢及びその後
の社会の変動,地域の特殊事情,地域住民の意向,地方公共団体の財政
状況等を考慮した政策的判断に基づいて決められるべきものであり,具
体的にどのような目的や理念をもって,どの程度の規模の,どのような
設備及び施設を備えた県営住宅を建築し,また,どの程度の予算を支出
するかは,主として行政庁の専門的・技術的知識に基づく政策的判断に
基づく裁量に委ねられているものと解するのが相当である。したがって,
民間の住宅や他の県営住宅等の建築費と比較してそれが多少他の住宅よ
り高額というだけではなく,行政庁の判断として社会通念上著しく不相
当であると認められる程度に著しく高額であるなどして,合理性を有す
る判断として許容される限度を超えていると認められるときに限り,裁
量権の逸脱又は濫用があるものとして違法となるというべきである。
イそこで,本件建築費の額について上記裁量権の逸脱又は濫用があると
いえるかについて,以下検討する。
まず,原告らは,本件建築費の坪単価は民間住宅及び国家公務員宿舎
の建築費の坪単価に比して異常に高額であり違法である旨主張する。
上記前提となる事実によれば,外構及び付属施設を除いた住宅本体建
築費は97億2996万5700円であること,バルコニーを含む住居
部分の面積は5万4233.55平方メートル,バルコニーを除く住居
部分の面積は4万6145.70平方メートルであり,バルコニー面積
は8087.85平方メートル(5万4233.55平方メートル−4
万6145.70平方メートル=8087.85平方メートル)であり,
バルコニー面積の3分の1である2695.95平方メートル(808
7.85平方メートル÷3=2695.95平方メートル)を含む住戸
部分の床面積は約4万8842平方メートル(1坪を3.306平方メ
ートルとして,約1万4773.74坪)であることが認められるとこ
ろ,これをもとに本件事業における建築費の坪単価を算定すると,97
億2996万5700円÷1万4773.74坪=65万8599円と
なる。そして,国家公務員宿舎(香川県坂出第二住宅)と近郊の中・高
層の民間住宅の建築費の坪単価を比較した調査結果(甲25の5)によ
れば,国家公務員宿舎は44万3000円であるのに対し,それと比較
された,民間住宅は44万3000円ないし48万9000円程度であ
ること,建設会社に対するアンケート調査の結果(甲29)によれば,
民間の賃貸住宅の建築費の坪単価は37万2000円ないし85万90
00円程度のものがあること,そのうち8割は40万円から60万円程
度の間にあることが認められるところ,これら調査結果の坪単価の算定
の基礎となる床面積や工事費の範囲は必ずしも一律ではないため単純に
比較することはできないとしても,民間住宅においても坪単価が85万
円程度のものがあることからすれば,上記65万8599円という坪単
価は必ずしも著しく高額とはいえないこと,国家公務員宿舎の坪単価が
44万3000円程度であり,民間住宅の坪単価も40万円から60万
円であることが多いとしても,上記認定事実及び証拠(甲36の3ない
し5)によれば,本件事業は,高齢者に対応しつつ,長期的に利用可能
となるような県営住宅の建築を目指していること,そのために長寿社会
に対応した住宅の建築を計画していること,構造としては,構造形式に
ついては設計の自由度が大きくなるメガ・フレーム形式を,構造材料に
ついては耐久性のあるプレキャスト・プレスレストコンクリートを,構
造方法については,Aブロックについて地震安全性が高い免震構造を採
用することを計画しているが,これらは従来のノーマル・フレーム形式,
通常の鉄筋コンクリート,従来の構造である耐震構造よりコスト増とな
るものであることが認められるのであるから,このような計画の県営住
宅の坪単価が国家公務員宿舎や民間住宅に比して1.1倍ないし1.5
倍程度のものであるとしても,行政庁の判断として社会通念上著しく不
相当であると認められる程度に著しく高額であるとまではいえない。
よって,原告らの上記主張は理由がない。
ウまた,原告らは,本件事業における一戸当たりの建築費が他の公営住
宅の一戸当たりの建築費に比して異常に高額であり違法である旨主張す
る。
上記前提となる事実によれば,外構及び付属施設を除いた住宅本体建
築費は97億2996万5700円であること,本件事業の建設予定数
は620戸であることが認められるところ,これをもとに一戸当たりの
建築費を算定すると,97億2996万5700円÷620戸=156
9万3493円となる。そして,公営住宅整備事業調査の結果(甲31
の3)によれば,160戸ないし460戸程度の規模の公営住宅の1戸
当たりの建築費の平均値は1001万円程度であることが認められるが,
全体的に見れば,700万円程度のものから2800万円程度のものま
でがあることが認められるので,これらを併せ考慮すると,上記の15
69万3493円という1戸当たりの事業費は,必ずしも行政庁の判断
として社会通念上著しく不相当であると認められる程度に著しく高額で
あるとまではいえない。よって,原告らの上記主張は理由がない。
(3)さらに,原告らは,平成8年の公営住宅法の改正によって,耐用年数経過
後の住宅の用途廃止あるいは廃棄処分も可能になり,また,民間の賃貸住宅
を借り上げることが可能となったのであるから,この改正の趣旨・目的に従
えば,建替は幾つかの選択肢の一つに過ぎなくなったのであるから,建替の
方針自体が公営住宅法,本件条例の趣旨・目的を著しく逸脱し,違法である
旨主張する。しかしながら,上記改正前から,譲渡処分や用途廃止の規定は
存在していたこと,民間の賃貸住宅の借上げが可能となったとしても,それ
を選択するのか建替を選択するのかは,上記のとおり,主として行政庁の専
門技術的又は政策的な判断に基づく裁量に委ねられており,行政庁の判断と
して社会通念上著しく不相当であり,合理性を有する判断として許容される
限度を超えていると認められるときに限り,裁量権の逸脱又は濫用があるも
のとして違法となるというべきである。
そして,上記認定事実によれば,中ブロックの建替については,当初は,
建設年代の比較的新しい昭和44年から45年に建てられた東側の11棟に
ついては構造体を残して改修することが計画されていたこと,しかし,その
後の調査の結果,耐震性能が劣っており,被害を防ぐため相当な補強が必要
であることが判明したため,既存のストック活用と建替との費用対効果を比
較した結果,建替を行う方が経済的かつ適切であるという結論となったこと
が認められるのであるから,岐阜県知事としては,本件事業をなすに当たっ
て,建替を選択すべきなのか,改修にとどめるべきなのかを十分調査,検討
した上で,費用対効果の面で上記のとおり建替を選択したものといえるとこ
ろ,その判断が社会通念上著しく不相当であり,合理性を有する判断として
許容される限度を超えているといえるような事情は何ら見当たらないのであ
るから,裁量権の逸脱又は濫用があるとはいえない。よって,原告らの上記
主張は理由がない。
なお,原告らは,公営住宅法の改正により,地方公共団体において確保が
必要とされているのは,障害者住宅や高齢者世帯に対する住宅や病気がちの
人に対する住宅,中高年の単身世帯の住宅となったのであるから,芸術性を
重視した建築ではなく,機能性や居住性を最も重視した建築をすべきであり,
本件事業のように,前述した芸術性を重視した意図の下に,県営住宅の建替
を行うことは,上記公営住宅法改正の趣旨・目的を著しく逸脱し,違法であ
る旨主張するが,上記認定事実によれば,本件事業においては,高齢者社会
に向けて,すべての住宅を高齢者対応とするとともに,あらゆる年齢層に
とっての居住性を追求した住宅の供給が望まれると考え,高齢者専用の特別
な住居ではなく,加齢による身体機能低下や障害が生じた場合にも住み続け
られるために,長寿社会対応住宅として整備しようとしていることが認めら
れ,高齢者等に配慮した機能性についても十分考慮されているといえるので
あるから,原告らの上記主張は理由がない。
4争点2(1)イ(地方自治法2条14項,地方財政法4条1項違反)について
原告らは,岐阜県の著しい財政悪化のために,経費節減や事業見直しを
行っている近年において,本件事業において高額な建築費を支出することは
地方自治法2条14項,地方財政法4条1項に違反する旨主張するので,こ
の点について検討する。
普通地方公共団体は,事務を処理するに当たっては,最小の経費で最大の
効果を挙げるようにする義務があり(地方自治法2条14項),経費はその
目的を達成するために必要かつ最小の限度を超えて支出してはならないとさ
れている(地方財政法4条1項)が,最大の効果を挙げるために何をもって
必要かつ最小の限度とするは,事務の目的,支出時の経済状態,地域住民の
生活の水準等の諸般の事情を総合的に判断し,社会通念に従って決定される
べきものであるから,第一次的には,行政庁の社会的,政策的又は経済的見
地からする裁量に委ねられているものと解すべきである。したがって,上記
規定は,地方公共団体がその事務を処理するに当たって準拠すべき一般的,
抽象的な指針を定めた規定にすぎず,具体的な公金の支出が社会通念上著し
く不相当な点があるなどして,合理性を有する判断として許容される限度を
超えていると認められるときに限り,裁量権の逸脱又は濫用があるものとし
て違法となるというべきである。
そこで,これを本件についてみると,上記のとおり,本件建築費の額は合理
的な裁量権の範囲内のものであると認められるので,その支出に社会通念上著
しく不相当な点があるなどして,合理性を有する判断として許容される限度を
超えているとはいえず,地方自治法2条14項,地方財政法4条1項に違反し
ているとは認められない。よって,原告らの上記主張は理由がない。
5争点2(1)ウ(地方自治法2条12項,同条16項違反)について
(1)普通地方公共団体は,地方公共団体に関する法令の規定を,地方自治の本
旨に基づいて,かつ,国と地方公共団体との適切な役割分担を踏まえて,こ
れを解釈し,及び運用する義務を有し(地方自治法2条12項),また,法
令及び条例に違反してその事務を処理してはならないとされている(同条1
6項)が,具体的事案に応じて法令の規定をどのように解釈運用するかは,
第一次的には,行政庁の社会的,政策的又は経済的見地に基づき判断される
裁量に委ねられているものと解すべきであるから,上記規定も,地方公共団
体が法令を解釈運用するに当たって準拠すべき一般的,抽象的な指針を定め
た規定にすぎず,具体的な公金の支出が社会通念上著しく不相当な点がある
などして,合理性を有する判断として許容される限度を超えていると認めら
れるときに限り,裁量権の逸脱又は濫用があるものとして違法となるという
べきである。
(2)そして,原告らは,公営住宅法及び本件条例について芸術性を重視した
意図の下に,高額な建築費を支出することになる本件事業を行うことがで
きると解釈し,運用することは,地方自治法2条12項の規定に違反し,
公営住宅法及び本件条例に基づく本件事業について,上記意図に基づき設
計,建築をすることは,同条16項の規定に違反する旨主張するが,原告
らとしては,納税者の許容しうる範囲の経費で達成する限り,県営住宅に
おいて,芸術性・独自性・作品性をも備えること自体を否定しているので
はないのであるから,本件においては,高額な建築費の支出が地方自治法
2条12項又は同条16項に違反する旨主張していると解されるところ,
上記のとおり,本件建築費の額は合理性を有する判断として許容されるも
のであると認められるので,公営住宅法及び本件条例の解釈運用に何ら違
法性は認められないし,また公営住宅法及び本件条例に違反して事務を処
理したとも認められない。よって,原告らの上記主張は理由がない。
6争点2(1)エ(地方自治法2条16項,同条17項,岐阜県会計規則141
条違反)について
(1)ア原告らは,岐阜県知事が随意契約をすることができる事情があるとき
には当たらないにもかかわらず,本件第1契約及び第2契約を締結した
ことが地方自治法2条16項,同条17項に違反し,違法である旨主張
するので,この点について,以下検討する。
イ同法234条1項,同条2項は,地方公共団体が締結する契約は一般
競争入札の方法によることを原則とし,随意契約は,政令で定める場合
に該当するときに限りこれによることができると規定し,同法施行令1
67条の2第1項は,随意契約によることができる場合を列挙し,その
2号は,「その性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき」と
規定している。そして,「その性質又は目的が競争入札に適しないもの
をするとき」とは,不動産の買入れ又は借入れに関する契約のように当
該契約の目的物の性質から契約の相手方がおのずから特定の者に限定さ
れてしまう場合や契約の締結を秘密にすることが当該契約の目的を達成
する上で必要とされる場合など,当該契約の性質又は目的に照らして競
争入札の方法による契約の締結が不可能又は著しく困難というべき場合
がこれに該当することは疑いがないが,必ずしもこのような場合に限定
されるものではなく,競争入札の方法によること自体が不可能又は著し
く困難とはいえないが,不特定多数の者の参加を求め競争原理に基づい
て契約の相手方を決定することが必ずしも適当ではなく,当該契約自体
では多少とも価格の有利性を犠牲にする結果になるとしても,普通地方
公共団体において当該契約の目的,内容に照らしそれに相応する資力,
信用,技術,経験等を有する相手方を選定しその者との間で契約の締結
をするという方法をとるのが当該契約の性質に照らし又はその目的を究
極的に達成する上でより妥当であり,ひいては当該普通地方公共団体の
利益の増進につながると合理的に判断される場合も同項2号に掲げる場
合に該当するものと解すべきである(最高裁第二小法廷昭和62年3月
20日判決・民集41巻2号189頁参照)。
そして,上記認定事実及び証拠(乙4ないし10,42)によれば,
旧県営北方住宅は,北方町の面積の約1.8パーセント,世帯数の約2
1パーセント,人口の約18パーセントを占めており,旧県営北方住宅
の建替事業は,北方町全体としてのまちづくりの観点の要素が強く,町
全体としての総合的な設計が必要とされ,十分な経験を活かした創造性
や専門性が求められるものであること,Fアトリエの代表者であるFは,
南ブロックの建替事業において,総合コーディネーターとして実施設計
や工事管理業務を行っていたこと,Fは,それぞれの業務について確実に
契約を履行していたこと,南ブロックの建替事業については,完成後,
雑誌で複数取り上げられており,一定の評価があること,本件第1契約
は,旧県営北方住宅一体として平成5年5月に策定された北方住宅再生
計画策定報告書をもとに進められた,旧県営北方住宅の建替事業の一部
である中ブロックの建替事業に当たって,基本設計の前提となる再生・
活用調査業務を委託しようとするもので,南ブロックの建替事業との一
体性が求められており,それを実現するためには,南ブロックの建替事
業を経験した者が行うのがふさわしいことが認められるのであるから,
本件第1契約をなすに当たっては,その目的,内容に照らしそれに相応
する資力,信用,技術,経験等を有する相手方としてFアトリエを選定し,
その者との間で契約の締結をするという方法をとるのが,当該契約の性
質に照らし又はその目的を究極的に達成する上でより妥当であり,ひい
ては当該普通地方公共団体の利益の増進につながると合理的に判断され
る場合に当たるといえる。よって,本件第1契約は,「その性質又は目
的が競争入札に適しないものをするとき」に当たると認められるから,
岐阜県知事が,Fアトリエと随意契約の方式によって本件第1契約を締結
したことは,同法234条2項に反せず,違法ではない。
さらに,上記前提となる事実及び認定事実によれば,本件第2契約は,
中北ブロックの基本設計業務の委託であること,Fアトリエは,南ブロッ
クの建替事業のコーディネーター及び基本設計の前提となる再生・活用
調査業務を行っており,旧県営北方住宅の建替事業の設計業務について
実績があること,中北ブロックでは,21人の建築家を参加させ,各住
棟の10戸程度の区画単位で設計を担当することとなったことが認めら
れ,十分な実績と経験があるFアトリエに基本設計業務を委託することが,
当該契約の性質に照らし又はその目的を究極的に達成する上でより妥当
であり,ひいては当該普通地方公共団体の利益の増進につながると合理
的に判断される場合に当たるといえる。また,上記認定事実によれば,
G設計,H設計,I建築は書類審査方式により,Fが委員長を務める選定
委員会によって選定されているが,岐阜県特有の地域事情を活かした県
営住宅を建築するには,地域事情に熟知した地元建築家に基本設計業務
を担当させるのがふさわしいこと,Fアトリエと協働して基本設計業務を
適切に行うには,Fアトリエの代表者であるFが選定委員会の委員長とし
て設計者らの理念及び能力等を判断するのがふさわしいのであるから,F
が委員長を務める選定委員会によって地元設計事務所のG設計,H設計,
I建築が選任され,それら3社とFを加えたJVとの間で本件第2契約を
締結することは,当該契約の性質に照らし又はその目的を究極的に達成
する上でより妥当であり,ひいては当該普通地方公共団体の利益の増進
につながると合理的に判断される場合に当たるといえる。よって,本件
第2契約は,「その性質又は目的が競争入札に適しないものをすると
き」に当たると認められるから,岐阜県知事が,JVとの間で随意契約
の方式によって本件第2契約を締結したことは,同法234条2項に反
せず,違法ではない。
ウ以上から,本件第1契約及び第2契約を随意契約の方法によって締結
したことが違法であるとはいえず,原告らの上記主張は理由がない。
(2)原告らは,本件第1契約及び第2契約において,2人以上の者から見積書
を徴しておらず,岐阜県会計規則141条に反する旨主張する。
しかし,岐阜県会計規則141条1項本文は,「随意契約を締結しようと
するときは,契約の内容その他見積もりに必要な事項を示して,二人以上
(契約の相手方が特定の者に限定されるときその他特別の理由がある場合に
あっては一人)の者から見積書を提出させなければならない」旨規定し,同
規則取扱要領第141条関係1項(二)は,「契約の相手方が特定のものに
限定されるときその他特別の理由がある場合」とは,「その性質又は目的が
競争入札に適しないものをするとき」である旨規定している(甲13)とこ
ろ,上記のとおり,本件第1契約及び第2契約は,「その性質又は目的が競
争入札に適しないものをするとき」に当たるといえるのであるから,同規則
141条1項本文かっこ書き「契約の相手方が特定の者に限定されるときそ
の他特別の理由がある場合にあっては一人」に該当する。よって,2人以上
の者から見積書を徴しなかったとしても,同規則141条に反するとは認め
られず,原告らの上記主張は理由がない。
7結論
以上の次第であるから,原告らの請求はいずれも理由がないからこれを棄却
することとして,主文のとおり判決する。
岐阜地方裁判所民事第2部
裁判長裁判官西尾進
裁判官日比野幹
裁判官田中一美

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