弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     当審における未決勾留日数中一八〇日を本刑に算入する。
         理    由
 弁護人内山成樹の上告趣意のうち、判例違反をいう点は、所論引用の各判例は所
論のいうような趣旨まで判示したものではないから、所論は、前提を欠き、その余
は、違憲をいう点を含め、その実質は事実誤認、単なる法令違反の主張であり、被
告人本人の上告趣意は、事実誤認、単なる法令違反、量刑不当の主張であって、い
ずれも刑訴法四〇五条の上告理由に当たらない。
 所論にかんがみ、被告人の尿の鑑定書の証拠能力にっき、職権で判断する。
一 原判決の認定によれば、本件捜査の経過は、次のとおりである。
 1 平成五年三月一一日午前三時一〇分ころ、同僚とともにパトカーで警ら中の
警視庁a警察署A巡査は、東京都港区内の国道上で、信号が青色に変わったのに発
進しない普通乗用自動車(以下「本件自動車」という。)を認め、運転者が寝てい
るか酒を飲んでいるのではないかという疑いを持ち、パトカーの赤色灯を点灯した
上、後方からマイクで停止を呼び掛けた。すると、本件自動車がその直後に発進し
たため、A巡査らが、サイレンを鳴らし、マイクで停止を求めながら追跡したとこ
ろ、本件自動車は、約二・七キロメートルにわたって走行した後停止した。
 2 A巡査が、本件自動車を運転していた被告人に対し職務質問を開始したとこ
ろ、被告人が免許証を携帯していないことが分かり、さらに、照会の結果被告人に
覚せい剤の前歴五件を含む九件の前歴のあることが判明した。そして、A巡査は、
被告人のしゃべり方が普通と異なっていたことや、停止を求められながら逃走した
ことなども考え合わせて、覚せい剤所持の嫌疑を抱き、被告人に対し約二〇分間に
わたり所持品や本件自動車内を調べたいなどと説得したものの、被告人がこれに応
じようとしなかったため、a警察署に連絡を取り、覚せい剤事犯捜査の係官の応援
を求めた。
 3 五分ないし一〇分後、部下とともに駆けつけたa警察署B巡査部長は、A巡
査からそれまでの状況を聞き、皮膚が荒れ、目が充血するなどしている被告人の様
子も見て、覚せい剤使用の状態にあるのではないかとの疑いを持ち、被告人を捜査
用の自動車に乗車させ、同車内でA巡査が行ったのと同様の説得を続けた。そうす
るうち、窓から本件自動車内をのぞくなどしていた警察官から、車内に白い粉状の
物があるという報告があったため、B巡査部長が、被告人に対し、検査したいので
立ち会ってほしいと求めたところ、被告人は、「あれは砂糖ですよ。見てください
よ。」などと答えたので、同巡査部長が、被告人を本件自動車のそばに立たせた上、
自ら車内に乗り込み、床の上に散らばっている白い結晶状の物にっいて予試験を実
施したが、覚せい剤は検出されなかった。
 4 その直後、B巡査部長は、被告人に対し、「車を取りあえず調べるぞ。これ
じゃあ、どうしても納得がいかない。」などと告げ、他の警察官に対しては、「相
手は承諾しているから、車の中をもう一回よく見ろ。」などと指示した。そこで、
A巡査ら警察官四名が、懐中電灯等を用い、座席の背もたれを前に倒し、シートを
前後に動かすなどして、本件自動車の内部を丹念に調べたところ、運転席下の床の
上に白い結晶状の粉末の入ったビニール袋一袋が発見された。なお、被告人は、A
巡査らが車内を調べる間、その様子を眺めていたが、異議を述べたり口出しをした
りすることはなかった。
 5 B巡査部長は、被告人に対し、「物も出たことだから本署へ行ってもらうよ。」
などと同行を求め、被告人もこれに素直に応じたので、被告人をa警察署まで任意
同行した上、同署内で覚せい剤の予試験を実施し、覚せい剤反応が出たのを確認し
て、被告人を覚せい剤所持の現行犯人として逮捕した。
 6 被告人は、同署留置場で就寝した後、同日午前九時三〇分ころから取調べを
受けていたが、しばらくして尿の提出を求められ、午前一一時一〇分ころ、同署内
で尿を提出した。その間、被告人は、尿の提出を拒否したり、抵抗するようなこと
はなく、警察官の指示に素直に協力する態度をとっていた。
二 以上の経過に照らして検討すると、警察官が本件自動車内を調べた行為は、被
告人の承諾がない限り、職務質問に付随して行う所持品検査として許容される限度
を超えたものというべきところ、右行為に対し被告人の任意の承諾はなかったとす
る原判断に誤りがあるとは認められないから、右行為が違法であることは否定し難
いが、警察官は、停止の求めを無視して自動車で逃走するなどの不審な挙動を示し
た被告人にっいて、覚せい剤の所持又は使用の嫌疑があり、その所持品を検査する
必要性緊急性が認められる状況の下で、覚せい剤の存在する可能性の高い本件自動
車内を調べたものであり、また、被告人は、これに対し明示的に異議を唱えるなど
の言動を示していないのであって、これらの事情に徴すると、右違法の程度は大き
いとはいえない。
  次に、本件採尿手続にっいてみると、右のとおり、警察官が本件自動車内を調
べた行為が違法である以上、右行為に基づき発見された覚せい剤の所持を被疑事実
とする本件現行与逮捕手続は違法であり、さらに、本件採尿手続も、右一連の違法
な手続によりもたらされた状態を直接利用し、これに引き続いて行われたものであ
るから、違法性を帯びるといわざるを得ないが、被告人は、その後の警察署への同
行には任意に応じており、また、採尿手続自体も、何らの強制も加えられることな
く、被告人の自由な意思による応諾に基づいて行われているのであって、前記のと
おり、警察官が本件自動車内を調べた行為の違法の程度が大きいとはいえないこと
をも併せ勘案すると、右採尿手続の違法は、いまだ重大とはいえず、これによって
得られた証拠を被告人の罪証に供することが違法捜査抑制の見地から相当でないと
は認められないから、被告人の尿の鑑定書の証拠能力は、これを肯定することがで
きると解するのが相当であり(最高裁昭和五一年(あ)第八六五号同五三年九月七
日第一小法廷判決。刑集三二巻六号一六七二頁参照)、右と同旨に出た原判断は、
正当である。
 よって、刑訴法四一四条、三八六条一項三号、刑法二一条により、裁判官全員一
致の意見で、主文のとおり決定する。
  平成七年五月三〇日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    園   部   逸   夫
            裁判官    可   部   恒   雄
            裁判官    大   野   正   男
            裁判官    千   種   秀   夫
            裁判官    尾   崎   行   信

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