弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を名古屋高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人松本正雄、同畠山保雄、同田島孝、同明石守正、同山本荒大の上告理
由について
 原審は、(1) 訴外D株式会社は、さきに三重県知事から四日市市内a海水浴場
地先公有水面二〇万余坪につき公有水面埋立法(昭和四八年法律第八四号による改
正前のもの。以下同じ。)二条による埋立の免許を得ていたが、その埋立権(以下
「本件埋立権」という。)を訴外E株式会社に譲渡し、昭和二〇年六月二日三重県
知事から同法一六条による譲渡の許可を受けた、(2) Eは、本件埋立権に基づき
本件土砂区域三万七五八四坪にその所有にかかる土砂を投入し、そのうち約三万坪
については平均満潮位を越える高さまで埋め立て、ほぼ陸地状をなすに至つたが、
護岸堤防等の施設はなく、埋立工事は未完成のままこれを中止した、(3) Eは、
昭和二三年頃産業設備営団に対する債務の代物弁済として、本件埋立権及び本件土
砂区域に所在する投入土砂(以下「本件土砂」という。)を含む同社F造船所の財
産の一切を譲渡し、翌二四年一一月一日産業設備営団は、上告人に対し右の財産一
切を代金一三五〇万円で売り渡した、しかし、これらの埋立権の譲渡については公
有水面埋立法一六条の許可を受けていなかつた、(4) 本件埋立権は、竣功期限を
徒過したため昭和二九年四月五日限りで失効した、(5) 三重県知事は、昭和三二
年一一月二日被上告人に対し、本件土砂区域を含む二〇万七〇〇〇余坪の公有水面
の埋立免許を与え、被上告人は、埋立工事を完成して昭和三七年二月一六日三重県
知事から公有水面埋立法二二条の竣功認可を受けた、右工事は、本件土砂区域につ
いては、その全般にわたつて一メートルないし五メートルの高さに盛り土をして陸
地として完成させたものである、(6) そして被上告人は、埋立地の一部を訴外G
電力株式会社に、その余を被上告人補助参加人に売り渡した、以上のとおり認定し
たうえ、(一) 公有水面はその地盤を含めて国の所有に属するものであるところ、
埋立のため公有水面に土砂を投入したときは、その土砂は量の多少にかかわらず不
動産である公有水面の地盤の従としてこれに附合した物というべきであり、かつ、
それは地盤の構成部分となつて独立の権利の対象となりえないものであるから、右
土砂は民法二四二条本文の規定により投入とともに地盤所有者たる国の所有に帰す
るのであつて、本件土砂を投入したEに埋立権があつても同条但書の適用の余地は
なく、Eは本件土砂の所有権を有しないから、前記Eの財産の転々譲渡に伴つて上
告人が本件土砂の所有権を取得したものとはいえない、(二) また、仮にEに本件
土砂の所有権が認められるとしても、その所有権は埋立権とは別個にこれを取引の
対象とすることはできず、ただ埋立権の移転とともにのみ移転すべきものであるが、
Eから産業設備営団へ、同営団から上告人への本件埋立権の譲渡についてはいずれ
も公有水面埋立法一六条の許可を受けていないから、本件埋立権はEにとどまり、
これに随伴すべき本件土砂もまた同社の所有のままであつて、上告人が本件土砂の
所有権を取得したものとはいえない、(三) そして上告人の本訴請求は、上告人が
本件土砂の所有権を取得したことを前提とするものであるが、この前提が認められ
ない以上いずれも失当である、としてこれを排斥している。
 しかしながら、(一) 公有水面を埋め立てるため土砂を投入した場合でも、未だ
埋立地が造成されず公有水面の状態にある段階においては、右の土砂は公有水面の
地盤と結合しこれと一体化したものとしてその価値に格別の増加をもたらすもので
はないのが通常であり、また、埋立地が造成されてもそれが公有水面に復元される
ことなく土地として存続すべきことが確定されるまでは、なお右の土砂は公有水面
埋立法三五条一項に定める原状回復義務の対象となりうるものと考えられること等
に照らすと、右の土砂は、その投入によつて直ちに公有水面の地盤に附合して国の
所有となることはなく、原則として、埋立権者が右の土砂を利用して埋立工事を完
成し竣功認可を受けたときに、公有水面埋立法二四条の規定により埋立地の所有権
を取得するのに伴い、民法二四二条の不動産の附合の規定によつて直接右の土砂の
所有権をも取得するまでは、独立した動産としての存在を失わないものと解するの
が相当である。そして、(二) 右の投入土砂の所有権は、埋立権の存否及び帰属と
はかかわりのないものであるから、その所有者は、埋立権とは別にこれを譲渡する
ことができるものと解すべきである。しかるに原判決は、右と異なる見解に立つて
上告人の本件土砂に対する所有権の取得を否定したものであつて、ひつきよう、原
判決には不動産の附合及び所有権に関する民法の規定の解釈を誤つた違法があるも
のというべく、右違法が判決に影響を及ぼすことは明らかである。論旨は理由があ
り、原判決は破棄を免れない。そして、本件においては、被上告人が埋立工事を完
成して竣功認可を受け埋立地の所有権を取得しているところ、その前に上告人が本
件土砂の所有権を失つているか否か、また、右竣功認可のときまで上告人が本件土
砂の所有権を有していたとすれば、竣功認可のときに上告人が右所有権を失い、被
上告人が埋立地の所有権を取得するについて、被上告人に法律上の原因があるか否
か等について、さらに審理を尽くさせる必要があるから、これを原審に差し戻すの
が相当である。
 よつて、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判
決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    本   山       亨
            裁判官    団   藤   重   光
            裁判官    藤   崎   萬   里
            裁判官    中   村   治   朗
            裁判官    谷   口   正   孝

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