弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
      1 本件控訴を棄却する。
      2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
 1 控訴人
  (1) 原判決を取り消す。
  (2) 被控訴人らは,控訴人に対し,1740万6300円及びこれに対する平成11年6
月1日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
  (3) 訴訟費用は第1,2審とも被控訴人らの負担とする。
 2 被控訴人ら
   主文同旨
第2 事案の概要
 1 本件は,不動産賃貸業を営む控訴人が,税理士であった亡Aの相続人である被控
訴人らに対し,税務顧問契約等の債務不履行に基づく損害賠償として,1740万6
300円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成11年6月1日から支払
済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案であ
る。
   原審は,控訴人の請求をいずれも棄却した。そこで,これを不服とする控訴人(1審
原告)が,本件控訴に及んだ。
 2 本件に関する当事者双方の主張は,次項に控訴人の当審における補充主張を付
加するほかは,原判決事実摘示のとおりであるから,これを引用する。
 3 控訴人の当審における補充主張
  (1) 被控訴人らは,Aの事務員であるBは,控訴人名義の第三銀行の預金通帳を見
せてもらえなかったと主張する。しかし,総勘定元帳(甲10)をみると,8月以降
毎月第三カード,住友クレジットのクレジットカードによる控訴人預金口座からの
自動引落分の記帳が見受けられるのであり,これらの取引は預金通帳を見なけ
ればわからないはずである。しかも,クレジットカード使用による引落分には,営
業に関係なく経費として計上し得ないものも含まれていたにもかかわらず,一括
して交際費として計上している例が多く,極めて杜撰な処理が行われている。ま
た,同じく総勘定元帳(甲10)の11月12日の欄には,第三銀行からの借入に
対する支払利息の自動引落2件の記帳があるが,支払利息に関する取引こそ,
まさに預金通帳を見なければ知り得ない性質のものである。
    したがって,原審におけるAの供述の信用性は根底から覆されるといわざるを得
ない。
  (2) 控訴人の賃料はほとんど全て普通預金への振込の形をとっていたのであり,控
訴人は,賃料収入一覧表(甲2の1ないし3)を作成し,Bは,これをもとにして総
勘定元帳の現金勘定に売上高として記帳していた。ところが,この記帳は極めて
杜撰な計算によって行われている。一例を挙げると,平成4年1月分の賃料収入
一覧表の合計額は911万6220円(甲2の1の1,2の1の2)となるが,これに
対応する総勘定元帳(甲10)の1月31日の売上高(店舗No1~3,アパートNo
1~3,Eプラザの7件)の合計額は875万8730円となり,金額が一致しない。
同様に,平成4年2月分も甲2の1の1及び2の1の2の合計額は906万5820
円であるのに,これに対応する甲10の合計額は874万1220円となっており,
やはり一致しない。つまり,単純な集計さえ正確に行われていないのである。ま
た,総勘定元帳(甲12)の現金勘定の期首における店主貸7000万円という実
態とかけ離れた記帳がされていることや,同元帳の現金勘定において,1月24
日から同月28日にかけて現金勘定ではあり得ない多額のマイナス残高が発生
していたりすることなど,およそ常識では考えられない会計処理が行われてお
り,全く総勘定元帳の態をなしていない。これらの事実も税務調査時に調査担当
者は当然把握していたものと考えられる。そうすると,専従者給与の否認の直接
の理由が現金出納帳を備えていなかったことにあるとしても,現金出納帳に代わ
る総勘定元帳の記帳が著しく信頼性を欠いていたことも重視されたものと考えら
れる。言い換えれば,総勘定元帳さえ正確に作成されていれば,たとえ現金出
納帳がなくても否認という事態を招くことはなかったとも考えられる。その意味で
Aの責任は重大であり,債務不履行責任を免れない。
  (3) 原判決は,請求原因(原判決引用)(4)①の固定資産税の計上ミス,③の建物の
取得価額の誤算による減価償却費の過小算定等に基づく修正申告に関する損
害は,控訴人が必要な資料をAに提出しなかったことによるものと推測されると
認定しているが,事実に反する。
    平成7年の修正申告の内容は,控訴人の個人用不動産と事業用不動産とを区別
せずに合算したか,あるいは課税時期,支払時期を区別せず必要な決算修正を
しなかったことによる固定資産税の過大計上分を修正したもので,Aらの初歩的
ミスによるものである。
    また,平成9年の修正申告のうち,加算税4万4000円の分は,平成7年と同様
固定資産税の過大計上分から,これもAらの単純ミスによる減価償却費の過少
計上分を控除した差額の過大計上分に基づくものであり,これもAらの初歩的ミ
スによるものである。平成9年の修正申告のうち,加算税27万円の分は,交際
費,旅費交通費の二重計上に基づくものであり,これもAらの単純ミスによるもの
である。
    原判決は,これらのミスについて,過誤が訂正又は修正されたことによって税額
が増加したときは,税法上正当な結果が回復されたにすぎないから損害はない
と認定しているが,これは全くの誤解である。控訴人は,これらの修正申告に基
づいて増額された本税たる追加納税分に加えて,国税通則法65条による10パ
ーセントの過少申告加算税及び延滞税の支払を余儀なくされたものである。
第3 当裁判所の判断
 1 当裁判所も,原判決と同様に,控訴人の請求をいずれも棄却すべきであると判断
するが,その理由は,以下のとおり付加・訂正するほかは,原判決理由説示のとお
りであるから,これを引用する。
  (1) 原判決6頁4行目末尾に,次のとおり付加する。
   「控訴人は,Aが受け取っていた平成7年分の決算書類作成報酬の48万円という
金額は,個人営業者の決算料としてはかなり高額であるし,平成5年分,6年分
の30万円が平成7年に大幅に増額されていることは,Aの報酬に実質的には顧
問報酬,記帳代行報酬も含まれていることを強く窺わせるものである旨主張する
が,弁論の全趣旨によれば,控訴人の平成7年度の所得金額は3666万3637
円であり,税理士会の顧問報酬等早見表(乙6)によれば,依頼者の所得金額
が3000万円以上5000万円未満で税務顧問を依頼されている場合における
決算書類作成報酬の最高額は76万円であるから,Aが受け取っていた平成7
年分の決算書類作成報酬48万円が,個人営業者の決算料としては高額である
とはいえず,実質的に顧問報酬,記帳代行報酬を含んでいるとみることはできな
い。また,控訴人の所得金額からすれば,平成7年に報酬額が増額されたことも
不思議ではなく,そのことが直ちにAの報酬が実質的に顧問報酬,記帳代行報
酬を含んでいることを意味するものでもない。」
  (2) 原判決6頁13行目に「現金出納手帳」とあるのを,「現金出納帳」と改める。
  (3) 原判決6頁18行目末尾に,次のとおり付加する。
   「控訴人は,平成4年以前から控訴人の白色申告に関わっていて控訴人の会計処
理について熟知していたBは,白色申告時には現金出納帳なしで決算を行って
いたのであるから青色申告となってからも現金出納帳なしで決算を行うことが可
能であり,それ故Bは控訴人に対して強く現金出納帳の作成を求めなかった旨
主張するが,A及びBは,それぞれ原審及び当審において,現金出納帳を記載
するよう控訴人に指導したことを明確に供述している。そして,青色申告は法律
に基づいて帳簿を作成するところに白色申告との最大の違いがあるのであり,
白色申告から青色申告への切替にあたって税理士がその説明をしないことは通
常考えがたいことである(原審証人C)ことからすると,その指導を受けなかった
という控訴人の供述(甲3,控訴人本人)は直ちに信用できず,ほかに上記認定
(原判決引用)を左右する証拠もない。」
  (4) 原判決6頁25行目に「総勘定元帳」とあるのを,「集計表(ただし,A会計事務所
で作成され,「総勘定元帳」と表紙に記載されているもの。以下「集計表」とい
う。)」と改める。
  (5) 原判決7頁1行目の「これを作成した」から同頁2行目末尾までを,次のとおり改
める。
   「決算書類や申告書を作成するために必要な集計表をBに作成させ,これに基づ
いて申告書を作成したにすぎないのであり,Aに総勘定元帳や集計表を作成す
べき義務があったというわけではない。」
  (6) 原判決7頁16行目冒頭から23行目までを削除する。
  (7) 原判決8頁6行目,7行目に「総勘定元帳」とあるのを,「集計表」と各改める。
  (8) 原判決8頁18行目冒頭から9頁3行目末尾までを,次のとおり改める。
  「(3) なるほどBが作成した集計表(甲4ないし6)には,控訴人が当審における補充
主張(2),(3)も含め縷々主張するように,① 固定資産税の計上ミス,② 旅
費,交通費及び交際費の重複計上,③ 建物の取得価額の誤算による減価
償却費の過小算定など,単純ミスといわれてもやむを得ない誤りがあることは
認められる。しかしながら,上記(原判決引用)のごとく,Aは控訴人から決算
書類の代行等を受任していたにすぎず,本来は控訴人が作成した総勘定元
帳に基づいて決算書類を作成すれば足りるところ,控訴人が総勘定元帳を作
成しないために,義務なくして,上記集計表を特別に作成したものである。
     もっとも,義務なくして集計表を作成したとしても,同行為は一種の事務管理とい
えるのであるから,善良なる管理者の注意義務をもって,集計表を作成しなけ
ればならない。しかし,控訴人は,AやBが求める預金通帳をすべて提示する
ことすらしなかったことから,Aの事務員であるBが,控訴人から提示を受けた
不十分な資料をもとに上記集計表を作成せざるを得ない状況であったし,提
出された資料の正確性についても立証がない以上,上記控訴人が指摘する
誤りは控訴人がBに提供した一覧表等の基礎資料自体の誤りによるものであ
る可能性を否定できない。したがって,上記の状況の下では,Bは控訴人から
提供される資料を基に細心の注意を払って集計表を作成していたと推認する
ことができ,上記集計表の作成についてBあるいはAに善良なる管理者の注
意義務違反はないものと認められる。
     したがって,平成7年ないし9年の修正申告について,Aに債務不履行があると
は認められないから,これに関する控訴人の請求は理由がない。
   (4) なお,控訴人は,控訴人はAに必要な預金通帳は見せていた旨を主張する(控
訴人の当審における補充主張(1))が,Bが作成した集計表は,振り込まれる
賃料等明らかに現金勘定科目に記載されるはずがないものについても現金
勘定科目に記載されているものであり,ベテラン事務員であるBが,控訴人か
ら預金通帳の提示を受けながらこれを作成したとはにわかに信じがたいもの
である。そして,A及びBは,それぞれ原審及び当審において,控訴人から預
金通帳全部の提示を受けていない旨を明確に供述しているところ,控訴人が
指摘するクレジットカードや支払利息の自動引落については,Bが述べるよう
に,控訴人から提供される一覧表により記載することも可能である(当審証人
B)から,控訴人がAに必要な預金通帳をすべて見せてはいなかったものと推
認することができるものである。控訴人の事務員であるDは,カード支払表等
の一覧表を作成したことはない旨の陳述書(甲14)を提出しているが,控訴人
が,預金通帳を提示しさえすれば足りる賃料の入金状況について,入金日の
記載すらされていない一覧表(甲2の1の1,2の1の2,2の2,2の3)を税務
申告のためにわざわざ作成していることからすると,控訴人としては預金通帳
をすべて提示したくなかった事情があることが窺われるのであり,上記Dの供
述を信用することはできない。」
 2 よって,原判決は相当であり,本件控訴は理由がないから,これを棄却することとし
て,主文のとおり判決する。
       名古屋高等裁判所民事第3部
            裁判長裁判官   青   山   邦   夫
               裁判官   藤   田       敏
               裁判官   榊   原   信   次

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