弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1 被告は,原告らに対し,それぞれ3358万1473円及びこれに対する平成10
年1月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は,これを4分し,その3を被告の負担とし,その余を原告らの負担
とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
被告は,原告らに対し,それぞれ4381万0967円及びこれに対する平成1
0年1月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は,被告の開設しているC病院(以下「被告病院」という。)で胃内視鏡検
査を受ける予定であった亡E(以下「亡E」という。)が,同検査の前処置として,
塩酸リドカインを含有する経口表面麻酔剤(商品名キシロカインビスカス)を嚥
下し,抗不安剤であるジアゼパム注射液(商品名セルシン注射液)をブドウ糖
液で希釈した液体の静脈内注射,及び,鎮痙剤である臭化ブチルスコポラミン
を含有する注射液(商品名ブスコパン注射液)の静脈内注射を受けたところ,
その注射終了直後(内視鏡挿入前)に,頻脈,心室細動,呼吸停止等の症状を
呈し,上記各薬剤の投与から約6時間後に死亡したことについて,亡Eの遺族
である原告らが,被告に対し,債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償を
請求した事案である。
1 争いのない事実並びに証拠(甲1,2,4,6,8,9,10,17,18,乙1,2,
3,4の(3),6,10,11,12,29,30,証人Fの証言(第1,2回),G大学法医
学教室に対する調査嘱託の結果(平成11年11月25日到着分))及び弁論の
全趣旨により認められる事実
(1) 当事者
ア 亡E(昭和49年8月8日生)は,平成10年1月28日午後4時40分,被
告病院で死亡した(死亡当時23歳)。亡Eは,平成9年3月に大学を卒業
後,同年4月から死亡時まで,H株式会社において事務及び営業の仕事
をしていた。
イ 原告Aは亡Eの父であり,同Bは亡Eの母である(争いがない)。
ウ 被告は,北九州市内において,被告病院を開設している社会福祉法人
である(争いがない)。
(2) 本件の診療経過
ア 平成10年1月16日
(ア) 亡Eは,平成10年1月16日,同年の正月明けころから食後に心 窩
部痛,腹痛があるとの訴えで,被告病院の内科を受診し,内科医長のF
医師(以下「F医師」という。)の診察を受けた。
(イ) 亡Eに対する問診等の結果としてカルテに記載されている事項は,概
ね以下のとおりである。
身長150センチメートル,体重44キログラム。
血圧105/60mmHg,脈拍59/分,体温36.5度。
吐き気,下痢,咳はいずれもない。
便通は一,二日に1回。
月経は順調で,最終月経は1週間前に終了した。
(ウ) F医師の触診及び観察によれば,亡Eの心窩部と下腹部に圧痛が認
められ,腹部は平坦で軟らかく,腫瘤は触知されなかった。結膜には貧
血や黄疸の異常は認められず,頚部にもリンパ節腫脹や甲状腺腫の
異常は認められなかった。また,下肢に浮腫はなかった。
(エ) F医師は,同日,急性ウイルス性胃腸炎の疑いと診断し,消化管運 
動改善剤であるドンペリドン(商品名ナウゼリン),H2受容体拮抗剤 で
あるシメチジン(商品名タガメット)各4日分(いずれも内服薬)を処方し
た。
イ 同年1月24日
亡Eは,同年1月24日,前回(同月16日)に処方された薬を服用したが
症状が変わらない,発熱はない,との訴えで,被告病院の内科を受診し,I
医師(以下「I医師」という。)の診察を受けた。
I医師は,同年1月28日に胃内視鏡検査を行うこととし,ナウゼリン及び
タガメット各5日分を処方した。
亡Eは,血液検査(生化学,免疫血清学,血計)のための採血を受け
た。
ウ 同年1月28日
亡Eは,同年1月28日午前9時30分ころ,被告病院の内科に行き,胃
内視鏡検査のための前処置を受けた。なお,看護婦の処置は,いずれも
F医師の指示に基づいて行われた。
(ア) 午前10時30分より少し前
亡Eは,午前10時30分より少し前に,内視鏡室の入口前の前室で,
胃粘膜の付着粘液や気泡を除去する目的で,重曹・プロナーゼが加わ
ったガスコンドロップ希釈液を飲用した。
(イ) 午前10時30分ころ
亡Eは,午前10時30分ころ,内視鏡室内のベッドに臥床のうえ,咽
喉部の麻酔の目的で,100ミリリットル中に塩酸リドカイン2グラムを含
有するリドカイン製剤(商品名キシロカインビスカス。以下「キシロカイ
ン」という。)3ミリリットルを口内に含み,数分後に嚥下した。
F医師は,亡Eに対し,「まだ治らないそうですね。薬は全部飲んだけ
ど治らないのですね。」などと問いかけ,亡Eから胃の痛みが続いてい
るとの回答を得たうえで,触診により,心窩部に圧痛が認められるもの
の,へそ周囲や初診時に認められた下腹部の圧痛が認められず,腫瘤
が触知されないことを確認した。
その後,動脈血酸素飽和度を測定するため,亡Eの左手人差し指に
パルスオキシメーターが装着された。この時点で,血中酸素飽和度は9
8パーセントであった。
(ウ) 午前10時40分ころ
看護婦は,午前10時40分ころ,翼状針を用いて,亡Eの右腕静脈
内に,1管(1ミリリットル)にジアゼパム5ミリグラムを含有するジアゼパ
ム注射液(商品名セルシン注射液。以下「セルシン」という。)1管を,20
パーセントブドウ糖液20ミリリットルで希釈した液(以下「セルシン希釈
液」という。)の4分の3程度を,約1分30秒かけて注射した。
続けて,看護婦は,1管(1ミリリットル)に臭化ブチルスコポラミン20
ミリグラムを含有する臭化ブチルスコポラミン製剤(商品名ブスコパン注
射液。以下「ブスコパン」という。)1管を,約30秒かけて,翼状針から静
脈内に注射した。
さらに続けて,看護婦は,翼状針の接続チューブに残留しているブス
コパン(約0.3ないし0.4ミリリットル)を押し出すため,セルシン希釈液
の残量(約5ミリリットル)のうち,約2ミリリットルを静脈内に注射した。
(エ) 亡Eの容態急変及び蘇生措置
a 亡Eは,翼状針の抜針後,看護婦の指示により,ベッドの上で左側
臥位になり,亡Eの口にマウスピースが装着されたが,亡Eは,翼状
針の抜針から5ないし15秒経過後,「気分が悪い,苦しい。」と訴え
た。
その際,パルスオキシメーターの脈拍数は毎分150を示してい
た。
b F医師は,すぐに看護婦に血管確保を命じ,また,院内携帯電話を
かけて,I医師に応援を求めた。I医師は呼出後10ないし15秒で内視
鏡室に到着した。
この時点で,パルスオキシメーターの脈拍数は毎分180にまで上
昇し,左ぎょう骨動脈にて触知できる脈は微弱であった。
c F医師は,亡Eの容態急変後約20ないし30秒以内に,循環血液量
を増加させる目的で,左前腕に乳酸リンゲル液(ラクテック)500ミリ
リットルの点滴を開始した。その後,右上肢からも乳酸リンゲル液の
点滴を開始した。
d 亡Eの自発呼吸は大きくはっきりしており,パルスオキシメーターの
血中酸素飽和度は98ないし99パーセントを示していたが,意識が
消失し,そ径部にも脈を触知できなくなり,心音聴取不能になったた
め,I医師が来室後30秒以内の時点で,I医師の判断により,心マッ
サージが開始された。
e 亡Eに心電図モニターが装着されたが,モニター上は心室細動であ
った。
亡Eの自発呼吸が弱くなったため,F医師は,エアウェーを挿入し,
酸素投与を開始した。
I医師は,心室細動を改善するため,エピネフリン(ボスミン1ミリグ
ラム/A)1管を側注した。
カウンターショックが300ジュールより開始されたが,心停止とな
り,自発心拍が出なくなったため,再び心マッサージが行われた。
自発呼吸がさらに減少したため,アンビューバックによる人工呼吸
(酸素全開)が開始された。
さらに,亡Eに対し,エピネフリン1ないし2管の側注が繰り返され,
炭酸水素ナトリウム(メイロン250ミリリットル)の滴下,コハク酸メチ
ルプレドニゾロン(ソル・メドロール500ミリグラム/V)1000ミリグラ
ムの側注,グルコン酸カルシウム(カルチコール5ミリリットル/A)2
管の側注の処置がされた。
J院長を含む内科医5名,外科医3名にて心肺蘇生が行われた
が,心マッサージ中は強い拍動をそ径部に触知するものの,心マッサ
ージを止めると触知できなくなり,また,カウンターショックを掛けると
心電図モニターの波形が平坦な波形になり,心マッサージを続けると
心室細動が出現するといった状態が繰り返された。
f 午前10時45分ころ(ショック後5ないし10分後),K副院長が気管内
挿管を実施した。
挿管前より,亡Eの口からは,ピンク状の泡沫痰が排出されていた
が,挿入後次第にその量が増えたため,コハク酸メチルプレドニゾロ
ン500ミリグラムを挿管チューブより注入し,泡沫痰の吸引を繰り返
しながら,アンビューバックによる人工呼吸が継続された。
また,気管内挿管前後に,エピネフリン1ミリグラムが心腔内に投
与されたが,モニター上有意な波形の変化は見られず,心室細動の
ままであったため,心マッサージが継続された。
(オ) 開胸術の施行
a 亡Eは,午前11時10分ころ,心肺蘇生をされながら,内視鏡室の隣
にある救急処置室に搬送された。搬送中は対光反射があった。
b K副院長は,午前11時20分,開胸術を施行し,直ちに直接心マッ
サージを開始した。
呼吸をアンビューバックによる強制換気で確保しながら,エピネフリ
ンを心腔内に投与し,グルコン酸カルシウム,炭酸水素ナトリウム,
ステロイド,硫酸アトロピン等の側注がなされ,心臓に対する直接の
カウンターバージョンが試みられたが,一度も心室の有効な収縮が
出現せず,心筋にわずかな細動様の動きが認められるのみであっ
た。
c 午後0時20分から午後2時50分までは,5分毎にエピネフリン1な
いし2アンプルの心腔内投与が続けられた。
午後0時過ぎから死亡までの間,多量のピンク状の泡沫痰を気管
内挿管チューブより排出し,吸引しながら,アンビューバックによる人
工換気が続けられ,開胸心マッサージも続けられた。
(カ) 亡Eの死亡
午後4時40分,心筋に認められていたわずかな細動様の動きがなく
なったため,家族の了解を得て亡Eの死亡確認が行われた。
(3) 亡Eの死体解剖等について
亡Eの遺体は,平成10年1月29日午前10時,G大学法医学解剖室にお
いて,L医師により解剖に付された。
L医師は,亡Eの死因について,平成11年1月17日付け「被疑者氏名F
に対する業務上過失致死被疑事件についての鑑定書」と題する書面(甲1
7)において,キシロカイン,セルシン及びブスコパンによるショックと考える
のが妥当であるが,投与後のショック発現までの経過時間から,キシロカイ
ンの可能性は低く,ブスコパン又は(及び)セルシンによるショックで死亡した
可能性が高いと思われる旨を記載している。
(4) 本件の胃内視鏡検査の前処置において投与された薬剤について
ア キシロカイン
キシロカインビスカスとは,100ミリリットル中に塩酸リドカイン2グラム
を含有する液体状の経口表面麻酔剤である。
キシロカインの添付文書(乙11)によれば,一般に成人に対し,1回5な
いし15ミリリットル(塩酸リドカインとして100ないし300ミリグラム)を1日
1ないし3回経口的に投与し,また,内視鏡検査のための麻酔としては,
徐々に嚥下して使用することとされている。
キシロカインは,添付文書によれば,同剤又はアニリド系局所麻酔剤に
対し過敏症の既往歴のある患者に対して禁忌であり,副作用として,まれ
に(0.1パーセント未満)ショックや中毒症状があらわれることがあるとさ
れており,そのため,注意事項として,局所麻酔剤の使用に際しては,常
時,直ちに救急処置のとれる準備が望ましいこと,副作用を完全に防止す
る方法はないが,ショック又は中毒症状をできるだけ避けるために,患者
の全身状態の観察を十分に行うこと,できるだけ必要最少量の投与にと
どめること,血圧降下,顔面蒼白,脈拍の異常,呼吸抑制等があらわれた
場合には,直ちに投与を中止し,適切な処置を行うことなどが指摘されて
いる。
イ ブスコパン
ブスコパン注射液とは,1管(1ミリリットル)中に臭化ブチルスコポラミン
20ミリグラムを含有する液状の鎮痙剤である。
ブスコパンの添付文書(平成9年5月に改訂されたもの。乙4の(3))によ
れば,一般に成人に対し,1回2分の1ないし1管(臭化ブチルスコポラミン
として10ないし20ミリグラム)を静脈内又は皮下,筋肉内に注射すること
とされている。そして,同文書には,適用上の注意として,静脈内注射にあ
たっては患者の状態を観察しながらゆっくり注射すること,と記載されてい
る。
ブスコパンは,添付文書によれば,同薬剤に対し過敏症の既往歴のあ
る患者,出血性大腸炎の患者,緑内障患者,前立腺肥大による排尿障害
のある患者,重篤な心疾患患者,麻痺性イレウスの患者には禁忌,細菌
性下痢の患者には原則禁忌であり,前立腺肥大のある患者,うっ血性心
不全のある患者,不整脈のある患者,潰瘍性大腸炎の患者,甲状腺機能
亢進症の患者,高温環境にある患者に対しては慎重に投与する必要性
があり,また,ブスコパンの副作用として,まれに(0.1パーセント未満)シ
ョック症状があらわれることがあるので観察を十分に行い,悪心・嘔吐,悪
寒,皮膚蒼白,血圧低下等があらわれた場合には,投与を中止し,適切
な処置を行う必要があるとされている。
そして,上記禁忌に該当することなどにより,胃内視鏡検査の前投薬と
してブスコパンを使用できない被検者に対しては,グルカゴン等のホルモ
ン剤を投与する方法が採られている。
ウ セルシン
セルシン注射液とは,1管(1ミリリットル)中にジアゼパム5ミリグラムを
含有する液状の抗不安剤,鎮静剤であり,胃内視鏡検査においては,意
識下鎮静法(医師と被検者との間で意思疎通ができるが,検査後は被検
者に軽い健忘がもたらされるような浅い鎮静状態で検査を実施する方
法。)を実施する際に投与されるものである。
セルシンの添付文書(乙12)によれば,一般に成人に対し,初回2ミリリ
ットル(ジアゼパムとして10ミリグラム)を,静脈内又は筋肉内にできるだ
け緩徐に注射し,以後必要に応じて3ないし4時間ごとに注射し,また,静
脈内に注射する場合には,なるべく太い静脈を選んで,できるだけ緩徐に
(2分間以上の時間をかけて)注射することとされている。
セルシンは,添付文書によれば,心障害,肝障害,腎障害のある患者,
脳に気質的障害のある患者,乳児・幼児,高齢者,衰弱患者,高度重症
患者,呼吸予備力の制限されている患者に対しては慎重に投与する必要
があるとされている。また,副作用として,舌根の沈下による上気道閉塞
(0.1ないし5パーセント未満の確率),慢性気管支炎等の呼吸器疾患に
用いた場合の呼吸抑制(頻度不明),循環性ショック(頻度不明),血圧低
下(0.1ないし5パーセント未満)頻脈,徐脈,失神(0.1パーセント未満)
などの副作用があらわれることがあるとされており,そのため,観察を十
分に行い,異常が認められた場合には投与を中止するなど適切な処置を
行う必要があるとされている。
2 争点に関する当事者の主張
(1) 亡Eの死因について
原告らの主張)
亡Eの死因は,キシロカイン,セルシン及びブスコパンのうち1つ又は2つ
以上の薬剤によるショックである。
もっとも,本件において,上記3種類の薬剤を順に投与し,最後にセルシ
ンを投与した直後にショック症状が発生していること,日本消化器内視鏡学
会偶発症対策委員会の調査において,セルシンの投与による死亡例が多く
報告されていることに照らせば,上記3種類の薬剤のうち,ショックを発生さ
せた可能性が最も高いのはセルシンであり,セルシン単独,又は,セルシン
と他の薬剤との相互作用により,ショックが発生した可能性が高い。
(被告の主張)
亡Eの死因は,キシロカイン,セルシン及びブスコパンのうち1つ又は2つ
以上の薬剤によるショックであるとされ,それ以上の特定はできないから,起
因薬剤がセルシンであるとは断定できない。むしろ,本件においては,ブスコ
パンやキシロカインがショックの起因薬剤である可能性に比べ,セルシンが
起因薬剤である可能性は低い。
すなわち,ブスコパンは,末梢神経抑制を主作用とし,副作用として血圧
低下等のショックの出現の可能性があるから,亡Eに発現した頻脈や心室細
動を主とするショック症状の起因薬剤であると考えることができる。また,キ
シロカインも副作用として血圧降下,脈拍異常,呼吸抑制のショックの出現
の可能性があるから,亡Eに生じたショック症状の起因薬剤であると考えるこ
とができる。これに対し,セルシンは,脳脊髄への中枢神経抑制を主作用と
し,副作用として呼吸抑制のショックの出現の可能性があるが,亡Eに発現
したショック症状は頻脈であり,自発呼吸はその後もしばらく続いていたので
あるから,セルシンによるショックであるとは考えにくい。
(2) F医師の過失―その1―(不必要な前投薬の投与について)
(原告らの主張)
ア 前投薬の投与について
本件は,治療の前段階である検査の段階,中でも検査の前処置の段階
での投薬により発生した事故であり,手術や病気治療のための投薬によ
り発生した医療事故に比し,投薬の必要性や緊急性が極めて乏しいもの
であった。また,本件事故当時においては,既に前投薬(キシロカイン,ブ
スコパン,セルシン等)の薬物ショックにより死に至る重篤な結果を生ぜし
める危険性が認識されていた。したがって,内視鏡検査の前処置として,
キシロカイン,ブスコパン,セルシン等の薬剤を使用すべきではないとする
のが,本件事故当時の医療水準であった。
それにもかかわらず,F医師は,亡Eに対し,漫然と上記各薬剤を投与
した過失がある。
イ セルシンの投与について
特に,セルシン等の鎮静剤の投与による薬物ショック等の偶発症発生
の危険性は周知されており,鎮静剤がなくても上部消化管内視鏡検査は
十分可能なのであるから,医師は原則として鎮静剤の投与を回避する義
務がある。すなわち,セルシンは,患者の不安や不快感の軽減等の利益
があるが,薬物ショック発生の危険性と比較すれば,それを投与する必要
性はない。
本件において,亡Eは,上部消化管内視鏡検査を受けるに際してセル
シンの投与を必要とするほどの不安をもっていたわけではないから,F医
師は,薬物ショックの発生の危険を冒してまでセルシンを投与すべきでは
なかったにもかかわらず,漫然とセルシンを投与した過失がある。
(被告の主張)
ア 前投薬の投与について
被告病院では,胃内視鏡検査の前処置として,①6時間以上の絶飲
食,②ガスコンドロップ5ないし10ミリリットルの服用,③ブスコパン1ない
し2管の筋肉注射又は静脈内注射,④キシロカインビスカス5ないし10ミ
リリットルの服用,⑤不安感や内視鏡検査中に起こる心因的反応(内視鏡
挿入時及び検査中の挿入に伴う強い嘔吐反射)及び自律神経反応(咽頭
及び上部食道筋の強い収縮)の強い患者に対し,セルシン5ないし10ミリ
リットルの筋肉注射又は静脈内注射を行うこととしている。したがって,キ
シロカイン,ブスコパン及びセルシンの投与は,胃内視鏡検査の前処置と
して一般的なものであり,何ら過失はない。
胃内視鏡検査において,キシロカインによる咽頭麻酔を行わない方法
を採用する医師はおらず,胃内視鏡検査において不可欠な前投薬であ
る。
また,ブスコパンを投与しなければ,胃の収縮運動を抑えることができ
ないため,これも胃内視鏡検査において不可欠な前投薬である。
イ セルシンの投与について
セルシンは,胃内視鏡検査において不可欠のものではなく,意識下鎮
静法を目的とした前処置のときに使用されるものであるが,適量のセルシ
ンの投与は一般的に承認された医療行為である。
すなわち,胃内視鏡検査は苦痛を伴い,特に若年者ほど,前記の心因
的反応及び自律神経反応が強く,また初めての被検者はさらに強い不安
を伴い,上記反応が相乗的に出現しやすいため,検査に伴う不安・苦痛を
取り除いて内視鏡検査を行うことが重要であるというべきであるが,これ
に対し,セルシン等のベンゾジアゼピン系薬剤を投与した場合の内視鏡
検査死亡例は0.0009パーセントと極めて稀であるから,苦痛を緩和す
る利益の方が大きい。
本件においては,亡Eには,強い不安や心因的反応,自律神経反応が
予想されたため,セルシンを投与した。
(3) F医師の過失―その2―(ブスコパン及びセルシンの投与方法について)
(原告らの主張)
ア ブスコパンの静脈内注射及び投与量
内視鏡検査の前措置としてブスコパンを注射するについては,本来筋
肉注射で必要かつ十分であったにもかかわらず,F医師は,ショック症状
が生じやすい静脈内注射を漫然と実施し,また,ブスコパンを適量より多く
投与した過失がある。
イ セルシンとブドウ糖との混合・希釈投与,セルシンとブスコパンの連続投
与(ほぼ同時の投与)について
セルシンを投与するに当たっては,他の注射液と混合又は希釈して使
用してはならないとされている。
しかしながら,F医師は,看護婦をして,①セルシンをブドウ糖液で希釈
して使用し,②セルシン希釈液を注射した直後にブスコパンを注射し,さら
にその直後にセルシン希釈液で接続チューブ内に残存するブスコパンを
押し出して,いずれも神経抑制作用をもつセルシンとブスコパンをほぼ同
時に静脈内に注入することで混合して使用した。
ウ セルシン及びブスコパンの注入速度
(ア) セルシンを投与するに当たっては,疾患の種類,症状の程度,年齢
及 び体重等を考慮して,一般成人には初回2ミリリットル(ジアゼパム
として10ミリグラム)を静脈内又は筋肉内にできるだけ緩徐に注射し,
また,静脈内に注射する場合には,なるべく太い静脈を選んで,できる
だけ緩徐に(2分以上の時間をかけて)注射する必要があるとされてい
る。亡Eは,一般成人より小柄であったから,セルシン1管(5ミリグラム)
の4分の3程度の量であっても,2分間以上の時間をかけて注射すべき
であった。
それにもかかわらず,F医師は,上記義務に反し,看護婦をして,セ
ルシン1管(5ミリグラム)と20パーセントブドウ糖液20ミリリットルの混
合液の約4分の3(15ミリリットル)を,1分30秒程度という短い時間で
静脈内注射した。
(イ) ブスコパンの静脈内注射を実施する場合には,仮に健康状態に問題
がないことが明らかな場合でも,患者の状態を観察しながらゆっくり注
射すべきであったのに,F医師は,看護婦をして,亡Eの状態の観察を
怠り,漫然と一気に注射をさせた。
(被告の主張)
ア ブスコパンの静脈内注射及び投与量について
内視鏡検査の前処置としては,ブスコパン1ないし2管を筋肉注射又は
静脈内注射することとされており,静脈内注射は広く一般的な医療行為と
して容認されている。また,セルシンは,静脈内注射が原則的用法である
ところ,引き続き,ブスコパンを投与する場合,ブスコパンの筋肉内注射を
すると,患者に新たな痛みを与えることになるため,翼状針を用いて血管
を確保し,両薬剤を静脈内注射するのが合理的である。
イ セルシンとブドウ糖との混合・希釈投与,セルシンとブスコパンの連続投
与(ほぼ同時の投与)について
ブスコパンとセルシンの併用は,一般に承認された用法であり,併用に
より,各薬剤の神経抑制作用が相加的又は相乗的に増幅されることはな
い。すなわち,ブスコパンは,抗コリン剤に分類され,自律神経に属する副
交感神経の働きを抑制するものであり,この投与により,胃腸の運動が抑
制され,消化管の検査に適した状態となる。セルシンは,中枢神経抑制剤
に分類され,眠気,注意力,反射運動能力等の低下をもたらし,ブスコパ
ンとは異なる働きをする。
セルシン注射液の添付文書において禁止行為とされている「他の注射
液との混合」とは,投与前の混合を指し,本件のようにブスコパンとセルシ
ンを経時的に投与したことによる,いわゆる血管内混合は,同書にいう混
合には当たらない。
また,セルシンをブドウ糖液で希釈したものを患者に投与したことによっ
て,副作用を生じた症状の報告はなく,何ら危険性のないものである。た
だ,混合・希釈により,白濁が生じること,血管痛を惹起することがあると
いうにとどまる。
ウ その他,本件における前投薬の使用薬剤・使用量・投与の順序・方法は
いずれも適切である。
(4) F医師の過失―その3―(問診及び観察義務違反について)
(原告らの主張)
ア 劇薬指定を受けているブスコパンの投与によって薬物ショック症状を発
症する場合があることは広く周知されているから,ブスコパン注射液の添
付文書にも記載されているとおり,ブスコパンの投与前には,問診,観察
により以下の事項を確認して,投与すべきか否かを判断し,投与する場合
には適切な投与方法を講じる注意義務がある。
(ア) ブスコパンを投与してはならない緑内障,前立腺肥大による排尿障
害,心疾患,麻痺性イレウス,ブスコパンに対する過敏性の既往症とい
った禁忌症の有無を問診により確認すべきであった。
(イ) ブスコパンを慎重に投与すべき場合にあたる前立腺肥大,うっ血性心
不全,不整脈,潰瘍性大腸炎,甲状腺機能亢進症,高温環境といった
疾患の有無を問診により確認すべきであった。
(ウ) 本人や家族にアレルギー(気管支喘息,発疹,鼻炎等)を起こしやす
い体質の者がいるか否かを問診し,出血,脱水症状,長期間の絶食,
発熱等の有無といった現在の健康状態を十分に確認すべきであった。
そして,本人又は家族にアレルギー体質の者がいる場合には投与をし
ないか,投与するにしても慎重に行うべきであったし,健康状態が不良
であることが認められた場合には,本件のような検査目的の場合には
ブスコパンの投与を見送り,健康状態が回復するまで検査を延期すべ
きであった。
イ また,セルシンの添付文書には問診そのものについての記載はないが,
禁忌や慎重投与の記載があることからすれば,問診を十分に行い,セル
シンを投与すべきか否かを判断し,投与する場合には適切な投与方法を
講じる注意義務がある。
ウ F医師は,上記各義務を怠り,問診,観察を全くせずに,あるいは問診票
の作成さえしないような極めて不十分な問診,観察のみで漫然とブスコパ
ンやセルシンを投与した過失がある。
特に,亡Eの場合は,原因が明らかでない胃腸の不調を訴えていたの
であり,その原因が潰瘍性大腸炎であることも考えられたのであるから,
問診,観察を注意深く行った上で投与を実施するか否かや投与方法を検
討すべきであったのに,このような配慮が全くなされなかった。
(被告の主張)
亡Eは,初診以来,出血や下血(潰瘍性大腸炎では血便や粘液便が見ら
れる。)の訴えがなく,長時間の絶食を示す体重の変化も認められなかっ
た。発熱もなく,脱水を示唆する所見も全くなかった。妊娠の可能性は,初診
時に否定されている。
また,F医師は,問診において,特に指摘できるような病気をしたことがな
いとの返事を得ており,このため,緑内障,心疾患(心不全や不整脈),甲状
腺疾患は否定でき,また,アレルギー体質ではないと判断した。また,3回の
診察で,心疾患を示唆する所見はなかった。
1日ないし2日に1回の排便はあったとのことで,イレウスでないことは明
らかである。
亡Eは,胃内視鏡検査を初めて受けたものであるから,ブスコパンに対す
る過敏症の認知は不可能であった。
(5) F医師の過失―その4―(セルシン投与の説明義務について)
(原告らの主張)
ア 仮に,セルシン等の鎮静剤を投与しての内視鏡検査が許される場合で
も,医師は,患者に対し,自ら行おうとする鎮静下での内視鏡検査で使用
する薬剤の名称,効果,副作用や偶発症の危険性(呼吸抑制や薬物ショ
ック),当該薬剤を使用する利点(不安や不快感の軽減),医療水準として
確立され,かつ,選択可能な他の検査方法(意識下での内視鏡検査)など
の事項を,患者が検査方法を選択できる程度に説明し,患者の同意を得
たうえで施行する義務を負う。
F医師は,上記説明義務を怠り,亡Eに対して全く説明を行わなかった
ため,亡Eは,より安全な検査方法であるセルシンを使用しない意識下で
の検査方法を選択する機会を奪われ,セルシンの投与を受け,その結果
死に至らしめられた。
イ F医師が鎮静剤の危険性及び意識下での検査方法の存在を説明してい
たなら,亡Eはセルシンの投与による鎮静下での検査をあえて希望するは
ずはなかったというべきであるから,F医師の説明義務違反と死亡の結果
との間の因果関係も認められる。
(被告の主張)
ア 現時点の日本のインフォームド・コンセントの水準では,極めて低い確率
のリスクについては,説明することによっていたずらに患者を不安に陥ら
せるから,説明する必要がない。
本件においては,胃内視鏡検査は,健康診断でなされるほど一般的で
安全性が高く,また,すべての薬剤は,薬物ショックを引き起こす可能性
があるものの,薬物ショックによる死亡の可能性は極めて低いから,前投
薬(キシロカイン・セルシン・ブスコパン)の薬物ショック症状すべてを説明
する必要はなく,F医師がこれらの説明をしなかったことに何ら過失はな
い。
また,仮に,F医師が前投薬による薬物ショックの可能性について説明
をしていたとしても,亡Eが前投薬の投与を拒否したはずだという事情や
理由は見出し難いから,前投薬による副作用を説明しなかったことをもっ
て,F医師に説明義務違反があったとはいえない。
イ 仮に,F医師に説明義務違反ないし説明不十分があったとしても,これと
亡Eの死亡との間に因果関係はない。
すなわち,亡Eの死亡との間で直接的な因果関係が認められる原因行
為は,説明義務違反ではなくて,キシロカイン,セルシン及びブスコパンの
投与自体である。そして,本件でとられた上記前投薬の処置は,医療水準
に従った適切な行為であり,それ自体適法であるから,結局,亡Eの死亡
という結果について,医師に過失責任はない。
(6) 亡Eの死亡の予見可能性について
(原告らの主張)
ア 本件事故の発生した平成10年1月当時,上部消化管内視鏡検査にお
けるセルシン等の前投薬の薬物ショックによる死亡例が報告されていたか
ら,同検査の前投薬であるキシロカイン,セルシン,ブスコパン等の投与
により,死亡の可能性を生ぜしめる重篤な偶発症(薬物ショック)が発症す
ることは,標準的な臨床医にとって一般的知見になっていたというべきで
ある。
したがって,F医師は,亡Eが上記前投薬の薬物ショックにより死亡する
可能性を当然に予見し得たというべきである。
なお,亡Eが一般人に比べて高い確率で薬物ショックを起こし死亡する
ことが予見できなかったとしても,亡Eの死亡の予見可能性がないとはい
えない。
イ 亡Eは,胸腺リンパ体質ではなかった。
(被告の主張)
ア 投薬により発生する心室細動(心機能停止)やアナフィラキシーショック
の出現については,医学上予測不可能な領域にあるため,予見可能性は
ない。
そのため,上記のような副作用に対して最も重要なことは,被検者を注
意深く観察し,万が一副作用が出現した場合には,それに素早く対応する
ことである。
被告病院では,常時,被検者1名につき,日本消化器内視鏡学会認定
消化器内視鏡技師でもある看護士2名(M,N)が応対し,1人が医師を介
助し,1人が被検者を観察,介護する役割を果たしていた。そして,すべて
の被検者に脈拍と血中酸素濃度を測定するためのパルスオキシメーター
を装着して被検者の変調の早期発見に努めていた。また,内視鏡室に
は,セルシンの拮抗剤であるフルマゼニルが常備され,酸素投与には天
井から2ラインが確保され,心電図モニター,血圧モニターが常備され,さ
らには,救急時に対処するための気管内挿管も常備されていた。
本件において,被告病院では,このような万全の体制の下で注意深い
観察を行い,極めて早くショックに対応し,万全の救急医療を施したにもか
かわらず,超急性の心室細動とアナフィラキシーショックのために,亡Eを
救命できなかったものであり,亡Eの死亡の予見可能性及び結果回避可
能性はなかった。
イ ブスコパンの添付文書によれば,まれにショック症状が現れることがある
ので,観察を十分に行うこととされ,ショック症状として,悪心・嘔吐,悪
寒,皮膚蒼白,血圧低下等が記載されているものの,この記載からは,ア
ナフィラキシーショック(劇症型アレルギー反応)や心室細動(心機能停
止)の出現を読みとることはできない。
セルシンやブスコパンによる薬物ショック症例は,極めて少なく,副作用
の少ない安全な薬剤であると一般に認知されている。また,ブスコパンも
セルシンも,高齢者への投与は慎重であることとされており,前投薬と高
齢者の死亡例との間の相関関係は有意であるが,若年者の死亡例との
相関関係は皆無に近いというべきである。そして,亡Eは,初めて胃内視
鏡検査を受けたものであり,薬物ショック発生の蓋然性を裏付ける具体的
な医学情報は存在しなかった。
そうすると,23歳の健康な女性である亡Eに重篤な偶発症を招来する
ことはないと考えるのが一般的であり,F医師には,亡Eの死亡という結果
発生の予見可能性はなかった。
ウ 本件においては,亡Eが胸腺リンパ体質であったために,セルシンやブ
スコパンに異常に反応して突然死した可能性があるから,F医師におい
て,このような事情による亡Eの死亡の予見可能性はないというべきであ
る。
すなわち,胸腺リンパ体質とは,胸腺の肥大やリンパ節の腫大と,また
これとは逆に,副腎や心臓等の形成不全を呈す身体的特徴を有し,種々
のストレスや急激な刺激に対し,心臓等の循環器が過敏な生体反応を示
したり,緊張亢進状態に陥ったりする体質であるが,亡Eの胸腺は約30グ
ラムであり,年齢に比して明らかに重く,また,副腎は左約4.1グラム,右
約4.3グラムと明らかに軽いので,亡Eは胸腺リンパ体質である可能性
があり,そのため,セルシンやブスコパンに異常に反応して突然死した可
能性がある。
(7) 損害について
(原告らの主張)
ア 亡Eの損害
① 逸失利益  4766万3335円
亡Eは,大学卒の死亡当時23歳の会社員であったから,賃金センサ
ス女子労働者大学卒の全年齢平均賃金297万0400円を基礎収入と
し,生活費控除割合を3割,就労可能年数を44年間とし,新ホフマン係
数(22.923)により中間利息を控除して算出すると,亡Eの逸失利益
は4766万3335円になる。
計算式 297万0400円×(1-0.3)×22.923=4766万3335円(円未満切捨
て)
② 死亡慰謝料 3000万円
③ 葬祭費等   215万8600円
④ 弁護士費用  780万円
イ 原告らの相続
上記(ア)(①ないし④)の合計8762万1935円につき,原告らは法 定
相続分に従い,各2分の1である4381万0967円(円未満切捨て)をそ
れぞれ取得した。
ウ 合計    各4381万0967円
エ よって,原告らは,被告に対し,債務不履行又は不法行為に基づく損害
賠償として,それぞれ4381万0967円及びこれに対する亡Eの死亡の日
である平成10年1月28日から支払済みまで民法所定の年5分の割合に
よる遅延損害金の支払を求める。
(被告の主張)
損害については争う。
第3 当裁判所の判断
1 亡Eの死因について
(1) 亡Eの解剖所見においては,ショックに伴う多臓器不全によると思われる
疾病のほかには器質的疾病が認められなかったとされているところ(甲1
7),解剖医であるL医師は,亡Eの死因について,キシロカイン,セルシン及
びブスコパンによるショックと考えるのが妥当であるが,投与後のショック発
現までの経過時間から,キシロカインの可能性は低く,ブスコパン又は(及
び)セルシンによるショックで死亡した可能性が高いと思われると判断し,ま
た,本件事件において鑑定を行ったO大学医学部のP教授は,亡Eに発現し
た症状は,アナフィラキシーショックにおける循環器症状に酷似している旨を
指摘している。
そこで,亡Eの死亡が,薬物によるショック,中でも,アナフィラキシーショッ
クによる死亡であるか否か,アナフィラキシーショックによる死亡である場合
には,その起因物質が何であるか,を検討する必要がある。
ア 証拠(乙7,8)によれば,アナフィラキシーショックとは,特定の原因抗原
により惹起される急速な全身性のI型アレルギー反応であること,アナフィ
ラキシーショックは,その発生機序により,①起因物質がIgE抗体と結合
し,IgE受容体が架橋されたことにより活性化された細胞から化学伝達物
質(ヒスタミン,ロイコトリエン等)が遊離し,これらの化学伝達物質が,血
管拡張,血管透過性の亢進,気道平滑筋の収縮などを引き起こすことに
よる「狭義のアナフィラキシー」と,②起因物質がIgE抗体を介さずに化学
伝達物質を遊離することにより引き起こされる「アナフィラキシー様反応」
とに分類されること,アナフィラキシーショックは,通常,起因物質摂取後5
ないし10分後くらいに始まり,最も早い場合は30秒以内に始まると解さ
れること,その臨床症状としては,呼吸困難,チアノーゼ,血圧低下,中心
静脈圧の低下,頻脈,尿量減少,失神等がみられること,アナフィラキシ
ーショックによる死亡は,初期の1ないし2時間に起こり,喉頭浮腫や不整
脈による心停止が死因となる場合が多いこと,アナフィラキシーショックの
主な原因薬物として,抗コリン剤(ブスコパン等の鎮痙剤),局所麻酔剤
(キシロカイン等),全身麻酔剤,抗生物質,解熱・鎮痛・消炎剤などがあ
ると指摘されていること,が認められる。
本件において,亡Eが,前投薬であるキシロカインを嚥下し,その約10
分後に,翼状針により,セルシン希釈液,続いてブスコパン,さらに続いて
セルシン希釈液の静脈内注射を受けたところ,翼状針の抜針後5ないし1
5秒後には苦しいなどと訴えて頻脈や心室細動を引き起こし,意識も消失
し,心マッサージ等の処置を受けるに至り,また,容態急変から5分経過し
たころには呼吸困難に陥り人工呼吸を受けるに至ったことは,前記認定の
とおりであるところ,上記前投薬(キシロカイン,セルシン,ブスコパン)の
投与から亡Eの容態急変までの時間と亡Eに発現した上記症状は,いず
れも上記のアナフィラキシーショックの臨床症状と共通しているというべき
であるから,亡Eの死因は,前投薬によるアナフィラキシーショックによるも
のと解するのが相当である。
イ そして,前記認定のとおり,ブスコパン等の鎮痙剤やキシロカイン等の局
所麻酔剤がアナフィラキシーショックの主な原因薬物であると指摘されて
いることに加え,キシロカインの添付文書(乙11)においては,キシロカイ
ンの投与により,まれにショックがあらわれることがあるので,血圧降下,
顔面蒼白,脈拍の異常,呼吸抑制等があらわれた場合には,直ちに投与
を中止し,適切な処置を行う必要がある旨が指摘され,ブスコパンの添付
文書(乙4の(3))においては,ブスコパンの投与により,まれにショック症状
があらわれることがあるので観察を十分に行い,悪心・嘔吐,悪寒,皮膚
蒼白,血圧低下等があらわれた場合には,投与を中止し,適切な処置を
行う必要がある旨が指摘され,さらに,セルシンの添付文書(乙12)にお
いても,セルシンの投与により,循環性ショック,血圧低下,頻脈,失神等
があらわれることがあるため,観察を十分に行い,異常が認められた場合
には投与を中止するなど適切な処置を行う必要がある旨が指摘されてい
るところ,各添付文書において指摘されている上記症状は,いずれも,ア
ナフィラキシーショックの前記臨床症状と共通しているというべきであるこ
とを併せて考慮すれば,亡Eの死因であるアナフィラキシーショックの起因
物質は,キシロカイン,セルシン及びブスコパンのうち1つ又は2つ以上の
薬剤であると解すべきである。
(2) この点,被告は,セルシンの副作用としては呼吸抑制が挙げられていると
ころ,亡Eの自発呼吸は頻脈発生後もしばらく続いていたため,キシロカイン
やブスコパンによるショックの可能性に比べて,セルシンによるショックの可
能性は低い旨を主張する。
前記認定によれば,前投薬投与後,亡Eに最初に発現した症状は,気分
不良,頻脈及び心室細動であり,呼吸抑制ではない。しかしながら,セルシ
ンの添付文書(乙12)によれば,セルシンの副作用としては,慢性気管支炎
等の呼吸器疾患に用いた場合には,呼吸抑制(頻度不明)が現れることが
ある旨指摘されているものの,頻度は不明ながら,循環性ショックが現れる
ことがあり,また,0.1パーセント未満の確率で頻脈の症状が現れることが
あるとの指摘もされているものであるから,セルシンによるアナフィラキシー
ショックの可能性を否定することはできないというべきである。
(3) また,L医師は,亡Eの死因について,前投薬投与後のショック発現までの
経過時間から考慮して,キシロカインによるショックである可能性が低い旨を
指摘しているが(甲17),本件のキシロカイン投与後ショック発現までの時間
は約10分間であり,アナフィラキシーショックが最も早い場合は起因物質摂
取後30秒以内に始まるが,通常は5ないし10分後くらいに始まると考えら
れていることと矛盾がないこと,キシロカインがアナフィラキシーショックの主
な原因薬物の1つであると指摘されていることに照らせば,キシロカインによ
るショックである可能性も否定することはできないというべきである。
(4) 以上によれば,亡Eの死因は,キシロカイン,セルシン及びブスコパンのう
ち1つ又は2つ以上の薬剤によるアナフィラキシーショックであると解するの
が相当である。
2 前投薬の投与の必要性について
原告らは,本件前投薬(キシロカイン,ブスコパン,セルシン)が,そもそも,
不必要又は投与すべきではない薬剤であるとして,F医師が前投薬を投与した
ことに過失があると主張する。
(1) キシロカイン及びブスコパンの投与について
証拠(甲18,乙7,16,鑑定の結果)によれば,胃(上部消化管)内視鏡
検査の前処置としては,①胃粘膜の付着粘液や気泡の除去の目的で,ガス
コン・ドロップ2ミリリットルの飲用,②咽喉部の粘膜表面麻酔の目的で,キシ
ロカイン・ビスカス5ミリリットル程度によるうがい若しくは飲用,③平滑筋弛
緩,胃腸管運動抑制と各種の外分泌(唾液,胃液,腸液等)を抑制する目的
で,鎮痙剤であるブスコパン(臭化ブチルスコポラミンとして10ないし20ミリ
グラム)の筋肉注射又は静脈内注射が行われるのが一般的であること,キ
シロカインやブスコパンを投与しないでも内視鏡検査自体を行うことは可能
であるが,これらを投与しない場合は,咽頭麻酔がないことによる被検者の
苦痛の増強や内視鏡検査時間の延長の可能性があり,また,ブスコパンの
分泌抑制作用が働かないことにより,唾液・胃液の呼吸器への誤飲による
気管支炎・肺炎の発生や,病変見落としの危険性の増大の可能性があるこ
と,が認められる。そうすると,胃内視鏡検査を安全,適切に行う上で,同検
査の前処置として咽喉部の局所麻酔剤であるキシロカイン及び鎮痙剤であ
るブスコパンを投与する必要性は認められるというべきである。
もっとも,前記認定のとおり,キシロカインは,同薬剤やアニリド系局所麻
酔剤に対し過敏症の既往歴のある患者には禁忌であり,キシロカインの副
作用として,少ない頻度ではあるがショックや中毒症状があらわれる可能性
があるものであり,また,ブスコパンは,同薬剤に対し過敏症の既往歴のあ
る患者のほか,出血性大腸炎の患者,緑内障患者,前立腺肥大による排尿
障害のある患者,重篤な心疾患患者,麻痺性イレウスの患者には禁忌,細
菌性下痢の患者には原則禁忌であり,前立腺肥大のある患者,うっ血性心
不全のある患者,不整脈のある患者,潰瘍性大腸炎の患者,甲状腺機能亢
進症の患者,高温環境にある患者に対しては慎重に投与する必要性があ
り,ブスコパンの副作用としてショックが現れる可能性もあり,ブスコパンを使
用できない被検者に対してはグルカゴン等のホルモン剤を投与する方法が
採られているものであるから,キシロカイン及びブスコパンを使用するに当た
り,後述のとおり,問診や観察によって,これらの薬剤の適応の有無を判断
するとともに,これらの薬剤を投与することにより発現する可能性のある副
作用やショック症状の内容や頻度を説明し,被検者の同意を得たうえで投与
する必要があるというべきである。
(2) セルシンの投与について
前記認定及び証拠(甲18,乙7,16,19)によれば,内視鏡検査におい
ては,セルシン等を投与する意識下鎮静法(医師と被検者との間で意思疎
通ができるが,検査後は被検者に軽い健忘がもたらされるような浅い鎮静状
態で検査を実施する方法。)とセルシン等を投与しないで実施する検査方法
が存在すること,意識下鎮静法の長所として,①被検者の不安,疼痛,不快
感を軽減させ,嘔吐反射を抑制することができる,②医師が,被検者の諸動
作や苦痛の声に邪魔されないので,内視鏡に集中することができ,見逃しの
ない質の高い検査が可能となる,③被検者は,過度の苦痛に対しては防御
反応を示し,医者の無理な操作を警告することができる,などの点が挙げら
れるが,他方で,短所として,①被検者の反応が乏しいので,偶発症(特に
消化管穿孔)の察知が遅れがちになる,②セルシン等の鎮静剤の投与によ
り,呼吸抑制,血圧低下,徐脈,不整脈など,呼吸器系及び循環器系への
副作用があらわれる危険性がある,③鎮静剤の影響がなくなるまで被検者
の観察を行う必要があるためリカバリー室や看護士の配置が必要になる,
④被検者がなかなか帰宅できない,⑤使用する鎮静剤の拮抗薬を投与する
場合には,検査に要する費用が高くなる,などの点が挙げられていること,
上部消化管の内視鏡検査や内視鏡的治療について,原則として全件に意
識下鎮静法を行う医師も存在するが,他方で,内視鏡的食道静脈瘤硬化療
法(EIS)や内視鏡的粘膜切除術(EMR)などの内視鏡的治療に対しては意
識下鎮静法を行い,観察や診断を目的とする一般内視鏡検査の場合には
意識下鎮静法を行わない医師や,一般内視鏡検査の場合には,緊張や嘔
吐反射の強い被検者や特に被検者が希望する場合にのみ意識下鎮静法を
行う医師も存在すること,セルシンは,心障害,肝障害,腎障害のある患者,
脳に気質的障害のある患者,乳児・幼児,高齢者,衰弱患者,高度重症患
者,呼吸予備力の制限されている患者に対しては慎重に投与する必要があ
り,副作用として,舌根の沈下による上気道閉塞(0.1ないし5パーセント未
満の確率),慢性気管支炎等の呼吸器疾患に用いた場合の呼吸抑制(頻度
不明),循環性ショック(頻度不明),血圧低下(0.1ないし5パーセント未満)
頻脈,徐脈,失神(0.1パーセント未満)などの副作用があらわれる可能性
があること,が認められる。
上記の事情を総合考慮すれば,観察や診断を目的とする一般胃内視鏡
検査を行うに際しては,被検者の不安,疼痛,不快感を軽減させ,嘔吐反射
を抑制することができるなどの意識下鎮静法の長所に鑑みれば,セルシン
等を投与して行う同法の実施が不必要,不適切なものであるとはいえない
が,同法を実施することが必要不可欠であるとまではいえないものと認めら
れるから,同法の実施としてセルシンを投与するに当たっては,後述のとお
り,問診や観察により被検者に対するセルシンの適応の有無を慎重に判断
するとともに,被検者に対しては,セルシンを投与することによる利点のみな
らず,一般胃内視鏡検査の内容や所要時間,セルシンの投与が必要不可
欠ではなく,これを投与しない検査方法が存在すること,セルシンの投与に
より発現する可能性のある副作用やショック症状の内容や頻度等を説明し
たうえで,これを使用することについての許諾の意思を確認し,被検者の同
意を得て,投与する必要があると解すべきである。
(3) 以上によれば,本件前投薬が投与されたことにつき,そもそも,前投薬が
不必要又は投与すべきではない薬剤であったとの原告らの主張は,これを
採用することができないというべきである。
3 ブスコパン及びセルシンの投与方法について
(1) ブスコパンの静脈内注射及び投与量について
原告らは,ブスコパンを静脈内注射したという注射方法及びブスコパン1
管(臭化ブチルスコポラミンとして20ミリグラム)を投与したという投与量に誤
りがある旨を主張する。
しかしながら,ブスコパンの添付文書に,一般に成人に対し,1回2分の1
ないし1管(臭化ブチルスコポラミンとして10ないし20ミリグラム)を,静脈内
又は皮下,筋肉内に投与することと記載されており,また,臨床的にもブスコ
パンの静脈内注射は一般的に行われていると認められる(乙7,16,19)か
ら,原告らの上記主張を採用することはできないというべきである。
(3) セルシンとブドウ糖との混合・希釈投与,セルシンとブスコパンの連続投与
(ほぼ同時の投与)について
ア 原告らは,本件において,セルシンをブドウ糖液で希釈したことが,セル
シンと他の注射液との混合又は希釈を禁止する使用法に違反した旨を主
張する。
武田薬品工業株式会社の回答(乙24の(1),(2))によれば,セルシンを
ブドウ糖液で希釈することは,セルシンの添付文書において禁止事項とさ
れている「混合又は希釈」に該当すること,これらを混合することにより,
白濁,沈殿等が生じ,有効成分であるジアゼパムの結晶が析出して血管
痛,血栓性静脈炎を惹起することがある旨を指摘する報告が存在するこ
とが認められるが,他方で,セルシンをブドウ糖液で希釈したことにより副
作用が生じた症例は報告されていないことが認められるから,セルシンを
ブドウ糖液で希釈して投与することは,セルシンの使用法に反するもので
はあるが,アナフィラキシーショック等の薬物ショックを誘引する原因にな
るとは認められないというべきである。そして,セルシンの効き目には個人
差があり,被検者にとって最適な投与量を調整する必要があるところ,1ミ
リリットル(1管)のセルシンの原液ではその調整が困難であるため,ブド
ウ糖液で希釈して体積を増加させたうえで徐々に注射し,適量を投与する
方法を採る旨のF医師の証言(証人F)にも合理性が認められるというべき
である。
これらの事情を考慮すれば,セルシンをブドウ糖液で希釈して投与した
というF医師の投与方法について,過失があるとは認められないと解する
のが相当である。
イ 原告らは,セルシンとブスコパンを連続してほぼ同時に投与したことが,
他の注射液と混合又は希釈して使用してはならないというセルシンの使用
法に違反する旨を主張する。
本件において,亡Eの右腕静脈内に,翼状針で,セルシン希釈液の4分
の3程度が注射され,続けて,ブスコパン1管が注射され,さらに続けて,
翼状針に残留しているブスコパンを押し出すため,セルシン希釈量の残量
の一部が注射されたことは,前記認定のとおりであるところ,セルシンの
添付文書(乙12)には,使用上の注意事項として,「(4)配合変化 他の注
射液と混合又は希釈して使用しないこと。」と記載されているが,セルシン
とブスコパンを翼状針を用いて連続的に投与することで薬剤の配合変化
が生じるとの事実を裏付ける客観的証拠は存在せず,かえって,セルシン
の製造発売元である武田薬品工業株式会社から,添付文書記載の「混
合」とは,投与前の薬剤の混合を意味し,連続投与により血管内で混合さ
れることを意味しない旨の回答がなされていること(乙24の(1),(2))に照
らせば,薬剤の配合変化の観点からは,本件のセルシンとブスコパンの
連続投与は,セルシンの使用法に違反したものであると認めることはでき
ないというべきである。
そして,セルシンとブスコパンを併用した場合に,両薬剤の作用が増強
したり,相乗作用があるとの事実は,これを認めるに足りる証拠がないか
ら,本件のセルシンとブスコパンの連続投与は,両薬剤の併用による効
果・作用の観点からも,使用法に違反したものであると認めることができな
いというべきである。
(3) セルシンとブスコパンの注入速度について
ア 原告らは,セルシン希釈液を約1分30秒間かけて注射したことが,でき
るだけ緩徐に注射すべきとされるセルシンの使用法に違反する旨を主張
する。
しかしながら,セルシンの添付文書(乙12)によれば,同剤の成人に対
する一般的な使用量は,セルシン2ミリリットル(ジアゼパムとして10ミリグ
ラム)であり,用法として,静脈内に注射する場合には,なるべく太い静脈
を選んで,できるだけ緩徐に(2分間以上の時間をかけて)注射することと
記載されているから,本件のように,セルシン1ミリリットル(ジアゼパムと
して5ミリグラム)とブドウ糖液の希釈液の4分の3程度を約1分30秒間か
けて注射したことは,添付文書記載の使用法に違反したものとは認めるこ
とができないというべきである。
イ また,原告らは,ブスコパンを約30秒間かけて注射したことが,患者の
状態を観察しながらゆっくり注射することとされているブスコパンの添付文
書記載の使用法に違反している旨を主張する。
しかしながら,本件のようにブスコパン1ミリリットルを約30秒間かけて
注射したことは,添付文書に記載されている「静脈内注射にあたっては患
者の状態を観察しながらゆっくり注射すること」の文意に照らし,明らかに
反する速度であるとは認められないというべきであり,また,亡Eが「気分
が悪い,苦しい。」と訴えたのは,翼状針の抜針から5ないし15秒経過後
であって,ブスコパンの注射中ではないから,F医師や看護婦が亡Eの状
態の観察を怠って漫然と注射したものとも認めることができないというべき
である。そうすると,ブスコパンの注入速度が添付文書記載の使用法に違
反しているものとは認めることができない。
(4) したがって,原告らのブスコパンとセルシンの投与方法に関する上記主張
は,いずれも採用することができないと解するのが相当である。
なお,その他,本件全証拠によっても,亡Eに対して投与された前投薬(キ
シロカイン,ブスコパン,セルシン)の投与量,投与の順序及び方法につい
て,被告に過失があるものとは認めることができないというべきである。
4 問診,観察義務違反及び説明義務違反の主張について
原告らは,F医師が,胃内視鏡検査を実施するに当たり,問診及び観察を行
わず,又は,極めて不十分な問診及び観察のみで漫然と前投薬であるブスコ
パンやセルシンを投与したこと(問診,観察義務違反),及び,セルシンを投与
するにつき,その利点や副作用の危険性等を説明し,患者の同意を得る義務
を怠ったこと(説明義務)を主張するが,本件は,亡Eの死因が胃内視鏡検査
の前投薬であるキシロカイン,ブスコパン及びセルシンのうち1つ又は2つ以上
の薬剤によるアナフィラキシーショックであると認められ,それ以上に起因薬剤
の特定ができない事案であるから,当裁判所は,原告らの主張を,F医師が胃
内視鏡検査の実施及び前投薬の投与に当たって行うべき問診,観察義務及び
説明義務に違反したことを内容とするものと理解したうえで,以下,これを判断
することとする。
(1) 胃内視鏡検査における問診,観察義務及び説明義務の根拠
ア 一般に,医師は,患者の自覚症状を問診し,触診等の観察を行うととも
に,必要な検査を行うなどの過程を経て,当該患者の疾病の有無,内容,
程度等を確定的に診断し,適切な治療方針を決定して治療行為を行うこ
とが期待されているところ,検査は,適切な治療行為という医療の最も重
要な目的のためのデータ収集手段の1つ,すなわち治療行為の前提に位
置づけられるものである。
そして,内視鏡を用いる医療行為は,内視鏡的乳頭括約筋切開術(ES
T),内視鏡的粘膜切除術(EMR),内視鏡的食道静脈瘤硬化療法(EIS)
等の「内視鏡的治療」と,内視鏡による観察,生検,内視鏡的逆行性膵胆
管造影(ERCP)等の「内視鏡的検査」に大別されるが(甲25,26),本件
で亡Eに対して行われる予定であったものは,内視鏡的検査の中でも,内
視鏡による観察や診断のみを目的とした一般胃内視鏡検査であった。
このような位置づけに鑑みれば,観察や診断のみを目的とした一般胃
内視鏡検査は,患者の疾病を発見するために極めて重要な役割を果たし
ていることは否定できないものの,治療行為そのものや,内視鏡によるそ
の他の医療行為との比較においては,一般的に,その実施の必要性や緊
急性が必ずしも高くはないというべきである。そのうえ,本件のような胃内
視鏡検査における前投薬は,検査そのものではなく,検査を迅速かつ適
切に行うための前処置であって,その投与の必要性や緊急性は,検査の
実施に必要不可欠な前投薬を除いては,検査そのものの実施の必要性
や緊急性と比べても,より低いというべきである。
イ ところで,胃内視鏡検査は,消化管の粘膜面を直視することができるた
め,造影剤を用いて行う消化管検査では観察できない粘膜の色調の変化
や微小病変の発見が可能になるという特徴を有しているものの,他方で,
同検査は,長時間(6時間以上)の絶飲食を経て,前投薬(キシロカイン,
ブスコパンのほか,場合によってはセルシン等)を投与し,咽頭部から直
径10ミリメートル前後の内視鏡を挿入するという,身体に対する侵襲を伴
い,被検者に少なからぬ不安や精神的苦痛を与えるものであるばかり
か,極めて低い確率ではあるが,前投薬によるショック等の重篤な副作用
の発生や,内視鏡の挿入による出血,穿孔など,身体及び生命に対する
重篤な障害を与える危険性すらあることが知られている(甲18,乙7)。
ウ 以上の事情に鑑みれば,医師は,胃内視鏡検査の実施の当否及び同
検査を実施する場合の前投薬の適応の有無を判断するについては,必
要不可欠な投薬治療や手術等の治療行為そのものを行う場合に比べ,よ
り慎重に検討する必要があるというべきである。すなわち,医師は,被検
者に対し,問診や観察,より安全な他の検査等を実施し,それらによって
得られた情報に基づいて,胃内視鏡検査を実施する必要性・緊急性や前
投薬を投与する目的・効果・必要性と,同検査の実施により予測される被
検者の肉体的,精神的な苦痛の程度や同検査の実施や前投薬の投与に
より生じうる危険の内容・頻度などとを具体的に比較衡量し,そのうえで,
胃内視鏡検査の実施の当否や各前投薬の適応の有無を判断する必要が
あるというべきである(問診,観察義務)。
また,胃内視鏡検査の実施や前投薬の投与の必要性,緊急性が,治
療行為そのものに比較して必ずしも高くはないことや,発生する確率が極
めて低いとはいえ,同検査の実施及び前投薬の投与により生命,身体に
対する重篤な障害を与える危険性があることに鑑みれば,医師は,胃内
視鏡検査を実施すべきであると判断した場合であっても,当該被検者に
対し,上記のような医師の検討内容等を説明したうえで,同検査を受ける
か否か,及び,各前投薬の投与を受けるか否かについて,被検者自身に
選択させる(同意を得る)必要があるというべきである(説明義務)。特に,
後述のとおり,危険発生を予見したり,結果を回避することが必ずしも確
実,容易ではなく,通常期待される問診や観察義務を尽くしたとしても,そ
の予見や結果の回避には困難を伴う本件のような場合にあっては,医師
としては,極めて慎重に,問診,観察義務を尽くすべきことに加えて,被検
者に対する上記の説明義務を尽くし,検査を受けることについての被検者
の同意を得ることによって初めて,結果発生についての責任を免れること
ができるものと解すべきであって,実施の必要性や緊急性が必ずしも高く
ない検査にあっては,医師の説明に基づく被検者の同意の重要性は,決
して軽視し得るものではないと思料する。
エ なお,この点につき,被告は,極めて低い確率のリスクについては,説明
することによりいたずらに患者を不安に陥らせるため,説明する必要がな
い旨を主張する。
しかしながら,被検者を不安に陥らせないために医師が採るべき措置
は,検査の実施や前投薬の投与により生じうる危険の内容を告知しない
ことではなく,被検者に対し,発生しうる危険の内容を告知したうえで,さら
に,危険の発生する頻度や,医師が問診や観察によって可能な限り危険
の発生を回避する方法を検討したことを具体的かつ詳細に説明すること
であるというべきである。また,医師がこのように説明することにより,被検
者が当該検査の受診や前投薬の投与を許諾するか否かを選択するな
ど,被検者の自由意思を尊重することができるのである。
したがって,被告の上記主張を採用することはできない。
(2) 胃内視鏡検査において要求される問診,観察義務及び説明義務の内容
ア 問診,観察義務の内容
胃内視鏡検査を実施の当否及び前投薬の適応の有無を検討するため
に,医師に対して要求される問診,観察義務の具体的内容について判断
する。
(ア) 胃内視鏡検査の禁忌
証拠(甲18)によれば,一般的に,高度の心疾患,呼吸機能障害の
ある患者,高熱患者,その他重篤な内臓疾患患者や咽喉部疾患患者,
内視鏡の挿入を拒絶する者などに対しては,胃内視鏡検査を実施すべ
きでないと解されていること,及び,検査当日の朝の体の具合,例え
ば,かぜ,咽頭痛,頭痛,激しい咳嗽,発熱,腹痛,下痢,便秘,動悸,
めまいなどがあれば前処置に工夫を要し,場合によっては内視鏡検査
を中止し,延期する必要もあると解されていることが認められる。
(イ) 前投薬の禁忌
前投薬のうち,キシロカインは,前記認定及び証拠(甲18)によれ
ば,キシロカイン又はアニリド系局所麻酔剤に対し過敏症の既往歴の
ある患者に対して禁忌であり,副作用としては,まれに(0.1パーセント
未満)ショックや中毒症状があらわれることがあること,キシロカイン等
の表面麻酔剤に対する過敏症の既往歴のある者に対しては,同薬剤を
使用しないで胃内視鏡検査を実施すべきである旨を指摘する医師が存
在することが認められる。
ブスコパンについては,前記認定及び証拠(甲18,乙7)によれば,
ブスコパンに対し過敏症の既往歴のある患者,出血性大腸炎の患者,
緑内障患者,前立腺肥大による排尿障害のある患者,重篤な心疾患患
者,麻痺性イレウスの患者には禁忌,細菌性下痢の患者には原則禁忌
であり,前立腺肥大のある患者,うっ血性心不全のある患者,不整脈の
ある患者,潰瘍性大腸炎の患者,甲状腺機能亢進症の患者,高温環
境にある患者に対しては慎重に投与する必要性があり,ブスコパンの
副作用としては,まれに(0.1パーセント未満)ショック症状があらわれ
ることがあるので観察を十分に行い,悪心・嘔吐,悪寒,皮膚蒼白,血
圧低下等があらわれた場合には,投与を中止し,適切な処置を行う必
要があること,胃内視鏡検査を実施するに際し,禁忌等によりブスコパ
ンを使用できない者に対しては,グルカゴン等のホルモン剤を投与する
という代替手段が存在することが認められる。
また,セルシンは,心障害,肝障害,腎障害のある患者,脳に気質的
障害のある患者,乳児・幼児,高齢者,衰弱患者,高度重症患者,呼吸
予備力の制限されている患者に対しては慎重に投与する必要があり,
副作用としては,舌根の沈下による上気道閉塞(0.1ないし5パーセン
ト未満の確率),慢性気管支炎等の呼吸器疾患に用いた場合の呼吸抑
制(頻度不明),循環性ショック(頻度不明),血圧低下(0.1ないし5パ
ーセント未満)頻脈,徐脈,失神(0.1パーセント未満)などの副作用が
あらわれることがあるとされていること,観察や診断を目的とする一般
内視鏡検査を行うに際しては,セルシン等を投与する意識下鎮静法を
行うことが必須であるとはいえないことは,前記認定のとおりである。
そして,平成3年8月にブスコパンの輸入元の日本ベーリンガーイン
ゲルハイム株式会社と発売元の田辺製薬株式会社が作成した「鎮痙剤
ブスコパン注射液のお知らせ」と題する書面(甲4)には,ショック等の副
作用を未然に防ぐために,同薬剤投与前に十分に問診を行う必要があ
るとして,①禁忌症(緑内障・前立腺肥大・心疾患・麻痺性イレウス・同
薬剤に対する過敏症の既往)の有無の確認,②慎重投与疾患(不整
脈・潰瘍性大腸炎・甲状腺機能亢進症)の有無の確認,③本人やその
家族がアレルギー(気管支喘息,発疹,鼻炎等)を起こしやすい体質か
否かの確認,④現在の健康状態(出血,脱水症状,長期間の絶食,発
熱等の有無)の観察を行い,検査目的の場合は,健康状態が不良であ
れば,回復するまで検査を延期する必要がある旨が記載されている。
(ウ) 前記の事情を総合考慮すれば,医師は,問診,観察義務として,胃
内視鏡検査実施時までに,被検者に問診票を記入させたり口頭で問診
するなどの方法により,①被検者が胃内視鏡検査の禁忌症,各薬剤の
禁忌症や慎重投与疾患に該当するか否かの確認,②本人や家族がア
レルギー(気管支喘息,発疹,鼻炎等)を起こしやすい体質か否かの確
認を行い,また,同検査実施当日には問診や医師の観察により,③被
検者の検査当日の健康状態(出血,脱水症状,長期間の絶食,発熱等
の有無)を確認する義務を負うというべきである。
そして,問診は,医学的専門知識を欠く一般人に対してなされるもの
であり,質問の趣旨が理解されなかったり,的確な応答がなされなかっ
たりする危険性があるものであるから,医師は,上記問診をするに当た
っては,単に概括的,抽象的に被検査者に質問をするだけでは足りず,
被検者から的確な応答を得られるよう,個別的で具体的な質問方法で
行う義務を負うというべきである。
イ 問診,観察に基づいて採るべき措置及び説明義務の内容
(ア) キシロカイン及びブスコパンについて
前記の問診及び観察を実施することにより,被検者がキシロカイン又
はブスコパンの禁忌症に該当することが判明した場合は,医師は当該
薬剤を投与してはならないというべきである。
また,被検者がブスコパンの原則禁忌疾患や慎重投与疾患に該当
することが判明した場合,及び,被検者やその家族がアレルギーを起こ
しやすい体質であることや,被検者の検査当日の健康状態が不良であ
ることが判明した場合は,医師は,必要に応じて各疾患の専門医に相
談するなどしてその疾患や症状の内容・程度等を正確に把握し,ブスコ
パンやキシロカインを投与する必要性や,ブスコパンの場合には代替
手段であるグルカゴンの適応の有無も考慮して,ブスコパンやキシロカ
インの投与を止めるか,投与するかを慎重に決定する必要があるという
べきである。そして,上記各症状に該当するにもかかわらず各薬剤を投
与する場合には,それらを投与する目的・効果・必要性や,それらを投
与することにより発現する可能性のある副作用やショック症状の内容や
頻度等を説明し,被検者の同意を得たうえで,投与する義務を負うとい
うべきである。
さらに,上記のいずれにも該当せず,医師がキシロカインやブスコパ
ンを投与することが可能であると判断した場合であっても,内視鏡検査
の前投薬による死亡例が報告されていること(甲25,乙18),アナフィ
ラキシーショックは特定の原因抗原により惹起される急速な全身性のI
型アレルギー反応であるから,当該薬剤の禁忌症や慎重投与疾患等
に該当せず,被検者や家族がアレルギーを起こしやすい体質ではない
場合でも発現する可能性があり得ると解されることに鑑みれば,医師
は,キシロカインやブスコパンを投与する目的・効果・必要性や,それら
を投与することにより発現する可能性のある副作用やショック症状の内
容や頻度等を説明し,被検者の同意を得たうえで,投与する義務を負う
というべきである。
(イ) セルシンについて
これに対し,セルシンの投与については,そもそも,本件のような観
察・診断目的の一般胃内視鏡検査においてセルシンの投与が必要不
可欠であるとはいえないことに鑑みれば,被検者がセルシンの慎重投
与疾患に該当することが判明した場合のみならず,被検者やその家族
がアレルギーを起こしやすい体質であることや,検査当日の健康状態
が不良であることが判明した場合には,医師は,セルシンを投与しては
ならないというべきである。
そして,被検者が上記のいずれにも該当せず,医師がセルシンを投
与することが可能であると判断した場合であっても,医師は,セルシン
を投与することによる利点(目的,効果,必要性)だけではなく,一般胃
内視鏡検査の内容や所要時間,同検査を実施するに当たってセルシン
の投与が必要不可欠ではなく,これを投与しない検査方法が存在する
こと,セルシンを投与することにより発現する可能性のある副作用やシ
ョック症状の内容や頻度等を説明したうえで,被検者に対してこれを使
用することについての許諾の意思を確認し,被検者の同意を得て,セル
シンを投与する義務を負うというべきである。
(ウ)胃内視鏡検査の実施について
なお,そもそも,被検者が,前記の胃内視鏡検査の禁忌(高度の心
疾患,呼吸機能障害のある患者,高熱患者,その他重篤な内臓疾患患
者や咽喉部疾患患者,又は,内視鏡の挿入を拒絶する者)に該当する
場合は,医師は,同検査を実施すべきではないというべきである。
さらに,前記各前投薬のいずれか又は全部を投与しないことにより,
胃内視鏡検査を安全,適切に実施することが困難であると見込まれる
場合,検査当日の体調が悪く,予測される被検者の肉体的,精神的な
苦痛の程度や前投薬の投与により副作用が発生する危険性の程度
が,同検査を実施する必要性を上回ると判断される場合や,前記の説
明により,被検者が同検査の実施を拒否した場合には,医師は,同検
査自体を延期又は取りやめる義務を負うというべきである。
(3) 胃内視鏡検査の前投薬による死亡の予見可能性について
医師が負うべき問診,観察義務及びこれらに基づいて医師が採るべき措
置並びに説明義務の内容は前記のとおりであるが,被告の主張するとおり,
前投薬のアナフィラキシーショックにより亡Eが死亡することについて予見可
能性がない場合には,被告が問診,観察義務違反及び説明義務違反による
責任を負わないと解される余地があるので,予見可能性の点について判断
する。
ア 前投薬によるアナフィラキシーショック発生の予見可能性について
(ア) 被告は,本件の前投薬(キシロカイン,セルシン,ブスコパン)による
アナフィラキシーショック発生の可能性を予見することは不可能であっ
た,あるいは,前投薬によるアナフィラキシーショックにより被検者が死
亡する可能性を予見することは不可能であった旨を主張する。
しかしながら,キシロカイン,セルシン及びブスコパンが,いずれも,
その添付文書等において,副作用としてショック症状やアナフィラキシー
ショックの前記臨床症状と共通する症状があらわれる危険性があること
を指摘されている薬剤であること,ブスコパンやキシロカインが,いずれ
もアナフィラキシーショックの主な原因薬剤として指摘されている薬剤で
あることは前記認定のとおりであるから,キシロカイン,セルシン及びブ
スコパンが,いずれも,極めて低い確率ではあるものの,アナフィラキシ
ーショックの副作用を有するものであることは,本件事故の発生した平
成10年1月当時の一般の医師における医療上の知見であったというべ
きである。
さらに,前記認定によれば,アナフィラキシーショックによる死亡は,
最初の徴候が発現してから数分ないし数時間以内に起こるものである
というべきであり,これに,昭和58年から昭和62年までの集計に基づく
「消化器内視鏡の偶発症に関する全国アンケート調査報告」(昭和63
年学会報告,平成元年公刊物出版。甲25)において,上部消化器内視
鏡の前投薬による死亡例が40件報告されていること,昭和63年から
平成4年までの集計に基づく「消化器内視鏡関連の偶発症に関する第
2回全国調査報告」(平成7年公刊物出版。乙18)において,一般内視
鏡(内視鏡的逆行性膵胆管造影(ERCP),硬化療法などの検査や処
置を含む。)の前処置による死亡例が129件報告され,その死因は,ア
ナフィラキシー,低酸素血症による心肺不全,誤飲性肺炎などである旨
が指摘されていることを併せて考慮すれば,キシロカイン,セルシン及
びブスコパンを投与して,アナフィラキシーショックが発現した場合,最
初の徴候の発現から数時間以内で死亡するに至るという結果が発生す
る可能性があることも,平成10年1月当時の一般の医師における医療
上の知見であったというべきである。
そうすると,キシロカイン,ブスコパン及びセルシンを被検者に投与す
ることにより,アナフィラキシーショックが発現し,その後数時間以内で
死亡するに至るという結果が発生する可能性があることは,本件事故
当時の一般の医師における医療上の知見であったというべきであり,
予見可能性が認められるものと解するのが相当である。
そして,F医師自身も,本件事故当時,セルシン等の前投薬により,
呼吸抑制やショック等の重篤な偶発症が起こり得ることを知っていた旨
を証言していること(証人F)に照らせば,F医師は,本件事故当時,被
検者に前投薬を投与することにより,アナフィラキシーショックが発現す
ることがあり,その場合,数時間以内で死亡するに至るという結果が発
生する可能性があることについては,認識を有していたものというべき
である。
(イ) この点,被告は,セルシンやブスコパンは,高齢者に対しては慎重に
投与する必要があるが,これらの薬剤の副作用と若年者の死亡との相
関関係はない旨を主張しており,証拠(甲6,18,26,27,乙18,24
の(2))によれば,統計上,内視鏡検査の前処置による死亡例における
患者の年齢は,中高年層が圧倒的に多く,30歳未満の若年者の死亡
例は,消化器内視鏡関連の偶発症に関する第2回全国調査報告にお
いて1例報告されているにすぎないことが認められる。
しかしながら,これらの統計は,いずれも内視鏡検査総数の年齢分
布が明らかにされていないため,若年層に対する検査実施件数が中高
年層のそれに比較して少ないことに起因して上記結果が導き出された
可能性を否定することができず,若年者にショック等が発生しにくいとい
う事実を裏付けることはできないというべきであり,また,アナフィラキシ
ーショックの発生機序に照らせば,中高年層に比べ,若年層にアナフィ
ラキシーショックが発生しにくいという根拠を見出すことはできないという
べきであるから,被告の上記主張を採用することはできない。
(ウ) なお,被告は,前投薬によるアナフィラキシーショックの出現は,医学
上予測不可能な領域にあるため,被告病院において万全の体制等が
採られていたものであるとして,予見可能性や結果回避可能性がなか
った旨を主張する。
前記認定及び証拠(乙3,6,10)によれば,被告の主張するとおり,
被告病院においては,胃内視鏡検査を実施するに当たり,万全の救命
措置体制が整えられており,本件において亡Eにパルスオキシメーター
が装着されたことや亡Eの容態が急変した後に行われた救命措置,心
肺蘇生措置はいずれも適正な処置であったことが認められるというべき
であるが,このような万全の救命措置体制が採られているのは,胃内
視鏡検査やその前投薬により,重篤な偶発症が発生することがあり得
るためにほかならないのであって,このような体制が採られていたことを
もって,本件の予見可能性や結果回避可能性がなかったことを肯定す
る根拠にはならないというべきであり,被告の上記主張を採用すること
はできない。
イ 問診,観察義務及び説明義務と,アナフィラキシーショックによる死亡の
予見可能性及び結果回避可能性との関係について
アナフィラキシーショックは,特定の原因抗原により惹起される急速な全
身性のI型アレルギー反応であるから,客観的には当該被検者に対する
前投薬の投与の適応が肯定される場合,すなわち,客観的にみて,被検
者が前投薬の禁忌症や慎重投与疾患等に該当せず,被検者やその家族
がアレルギーを起こしやすい体質ではなく,被検者の健康状態が不良で
ない場合であっても,当該被検者がアナフィラキシーショックにより死亡す
る可能性があったものと認め得る余地がある(被告も,予見可能性を否定
する理由として,亡Eが初めて胃内視鏡検査を受けたものであったから,
薬物ショック発生の蓋然性を裏付ける具体的な医学情報が存在しなかっ
た旨を主張しているところである。)。そこで,このような場合,アナフィラキ
シーショックにより当該被検者が死亡することについて,予見可能性又は
結果回避可能性がなかったとして,医師が責任を負わないというべきかが
問題となる。
前判示のとおり,医師に要求される問診,観察義務の内容が,禁忌症
や慎重投与疾患の有無のほか,アレルギー体質の有無や検査当日の健
康状態など,副作用の発生を抑止するために可能な限り広範囲にわたる
ものであり,これにより被検者に対する具体的かつ詳細な情報を収集する
ことができることに鑑みれば,これらの問診,観察義務が尽くされていれ
ば,前投薬の投与によるアナフィラキシーショックを含む副作用の発生を
予見できる可能性を全く否定することはできないというべきであり,また,
胃内視鏡検査の実施や前投薬の投与の必要性や緊急性が治療行為そ
のものに比較して必ずしも高くはなく,かえって,胃内視鏡検査や前投薬
の投与による危険性があることに鑑みれば,医師は,何らかの副作用の
発生の可能性があると判断した場合には,前投薬の投与を取りやめた
り,場合によっては検査自体を実施しないことで被検者の死亡の結果を回
避することが十分可能であるといえるから,医師に要求される問診,観察
義務を実際には尽くしていなかった場合にあっては,予見可能性又は結
果回避可能性がなかったことを口実にして結果発生に関する責任を安易
に否定すべきではないと解すべきであり,被検者が問診及び観察を尽くし
ても発見することができない特異体質等の個人的素因を有していたこと
や,医師が問診,観察義務及び説明義務を尽くし,被検者の同意を得たう
えで前投薬を投与したにもかかわらず,重篤な障害,死亡等の結果が生
じてしまったものであることなどの特段の事情が立証されない限り,上記
予見可能性及び結果回避可能性がなかったことを理由にその責任を否定
されることはないと解するのが相当である。
ウ 鑑定人の見解について
なお,P教授は,本件のような結果の発症を予見することとは,当該患
者が本件のような結果を発症する確率が一般の患者の場合に比べて高
いという根拠を挙げることができることをいう,との見解を述べたうえで,本
件では結果発生の予見可能性がなかった旨を述べているが(鑑定の結
果),ある結果発生の予見可能性とは,一般の患者に比べて結果発生の
確率が高い場合のみに限定されるものではなく,本件事故当時の一般の
医師における医療上の知見として,一般的に本件のような結果の発生を
予見することができる場合で,かつ,当該患者(被検者)に本件のような結
果が発生することを予見することができる場合に認められるものであると
いうべきであるから,上記見解を採用することはできない。
エ 特異体質(胸腺リンパ体質)の有無について
被告は,亡Eが,胸腺の肥大と副腎の形成不全を呈する胸腺リンパ体
質という特異体質であったため,セルシンやブスコパンに異常に反応して
突然死した可能性があるとして,亡Eの死亡の予見可能性はなかった旨
を主張する。
解剖所見(甲17)によれば,亡Eの胸腺は,大きさ約9.0×4.0,9.0
×4.0×0.6センチメートル,重量約30グラムであり,亡Eの副腎は,大
きさ左約5.3×2.8×0.8センチメートル,右約5.8×3.0×0.4セン
チメートル,重量左約4.1グラム,右約4.3グラムであったことが認めら
れるところ,被告病院のJ院長は,その意見書(乙32)において,「小児血
液病学Ⅱ」(新小児医学大系第23巻B。乙22)によれば20歳から29歳
の女性の胸腺の平均値が24.89±0.97グラム(平均値±標準偏差)で
あると記載されているから,亡Eの胸腺は1388万人に1人という極めて
稀な確率の肥大胸腺であること,「副腎皮質機能病理学における性差の
意義」(笹野伸昭ほか著。乙32)によれば体重40ないし49.9キログラム
の成人女性の副腎重量の比体重百分率の平均値は0.0243±0.000
9グラムであるから,亡Eの副腎比体重百分率0.018876(体重44.5
キログラム)は,十億人に1人以下という極めて稀な確率であることを指摘
している。
しかしながら,「胸腺に関する研究」(柴田衛敏著。甲22)によれば,20
歳から29歳までの女性のうち,重量10グラム未満と50グラム以上を除
いた293例の胸腺の平均重量は,24.60±9.34グラムであることが認
められ,亡Eの胸腺の重量は,平均値よりやや重いものの,1標準偏差の
範囲内であったと解されること,「現代日本人の臓器計測値昭和60(198
5)年~平成3(1991)年」(日本法医学会課題調査委員会。甲23)によ
れば,21歳から25歳の日本人女性の副腎の平均重量は,左5.9±1.
92グラム(62例),右5.5±1.61グラム(58例)であることが認められ,
亡Eの副腎の重量は,平均値よりかなり軽いものの,1標準偏差の範囲内
であったと解されること,解剖所見(甲17)によれば,亡Eの副腎は左右と
も硬度が普通であり,皮質及び髄質に著変が認められず,肉眼的にも病
的所見が認められなかったこと,さらに,L医師の回答書(甲19)によれ
ば,亡Eの副腎皮質の平均幅が約0.75ミリメートルであり,皮質の萎縮
を疑うべき値ではないこと,球状層,束状層及び網状層の細胞に萎縮を
含めた著変が認められなかったこと,髄質の細胞にも萎縮を含めた著変
が認められなかったことが認められるから,亡Eが,胸腺の肥大や副腎の
形成不全を呈する胸腺リンパ体質という特異体質であったとまでは推認
することができないというべきであり,被告の主張を採用することはできな
い。
なお,仮に,亡Eに胸腺の肥大や副腎の機能異常(形成不全)が認めら
れるとしても,証拠(甲24)によれば,原因不明の突然死例の中には,肥
大胸腺の者や副腎の機能異常のものが存在するものの,肥大胸腺や副
腎の機能異常という体質が突然死の原因となるとの因果関係を立証する
報告例が存在しないことが認められ,他にこの因果関係を推認するに足り
る証拠はないから,胸腺の肥大や副腎の機能異常が,突然死を引き起こ
す原因であるとは認めることができないというべきである。
したがって,亡Eが胸腺リンパ体質であったため,亡Eの死亡の予見可
能性がなかったとの被告の主張を採用することはできない。
(4) 本件について
ア 前記認定及び証拠(乙1,2,証人F)によれば,本件胃内視鏡検査実施
までの間に,F医師又は被告病院の医師,看護婦が行った問診及び観察
は,以下のとおりであると認められる。
(ア) 平成10年1月16日(初診日)
同年1月16日は,亡Eの血圧,脈拍,体重,体温が測定され,F医師
の問診により,最終月経が1週間前に終了したこと,便通が一,二日に
1回であること及び自覚症状(食後に心窩部痛,腹痛があること,吐き
気,下痢,咳はいずれもないこと)を聞き,F医師の触診及び観察によ
り,心窩部と下腹部に圧痛が認められ,腹部は平坦で軟らかく,腫瘤が
触知されないこと,結膜には貧血や黄疸の異常が認められないこと,頚
部にもリンパ節腫脹や甲状腺腫の異常が認められないこと,下肢に浮
腫がないこと,を確認した。
(イ) 同年1月24日
同年1月24日は,亡Eの血圧,脈拍,体重が測定され,I医師の問診
により,同年1月16日に処方された薬(ナウゼリン,タガメット)を服用し
たが変わらないこと,発熱はないことを確認した。
(ウ) 同年1月28日(胃内視鏡検査日)
亡Eの血圧,脈拍,体重が測定された。
F医師は,同年1月24日に行われた採血に基づく血液検査報告書,
生化学検査報告書,蛋白分画報告書に目を通し,好中球(状好中球,
分葉好中球)の合計が76パーセントとやや高いため,体内のどこかに
若干の炎症の可能性があると判断したが,それ以外には,血液検査の
所見上は異常がないと判断した。
F医師は,亡Eがキシロカインを嚥下した後,亡Eに対し,「まだ治らな
いそうですね。薬は全部飲んだけど治らないのですね。」などと問いか
け,亡Eから胃の痛みが続いているとの回答を得た。そして,触診によ
り,心窩部に圧痛を認めるも,へそ周囲や初診時に認められた下腹部
の圧痛は認められず,腫瘤を触知しないことを確認した。
また,F医師は,同日,亡Eが胃内視鏡検査を受けるのが初めてであ
ることを聞いた。
イ この点,F医師は,その証人尋問において,同年1月16日に,亡Eに対
し,過去に重大な病気を起こしたことがないかという質問をした旨を証言
するが,この事実を客観的に裏付ける証拠が存在しないことや,それ以外
の問診事項は診療録に明確に記載されていることに照らし,F医師の証言
中,上記証言部分は信用することができないというべきである。
ウ(ア) 前記事実関係に鑑みれば,F医師は,初診日から胃内視鏡検査を実
 施するまでの間に,前記各前投薬の禁忌症及び慎重投与疾患に該
当するか否か,特に,キシロカイン等の局所麻酔剤やブスコパン等の
鎮痙剤に対し過敏症の既往症があるか否か,出血性大腸炎,心疾患,
うっ血性心不全,不整脈,潰瘍性大腸炎,脳の気質的障害の罹患の有
無のほか,本人や家族がアレルギー(気管支喘息,発疹,鼻炎等)を起
こしやすい体質か否かなどについて,具体的な問診を行わなかったも
のと認められる。また,胃内視鏡検査当日の健康状態については,「ま
だ治らないそうですね。薬は全部飲んだけど治らないのですね。」などと
問いかけ,亡Eから胃の痛みが続いているとの回答を得たうえで,触診
により,心窩部に圧痛があり,へそ周囲や初診時に認められた下腹部
の圧痛がないこと,腫瘤を触知しないことを確認し,血液検査の結果を
確認したものの,それ以外の当日の体調,すなわち,咽頭痛,頭痛,激
しい咳嗽,発熱,下痢,便秘,動悸,めまいの有無等について問診を行
わなかったものと認められる。
そうすると,本件において,F医師は,胃内視鏡検査の実施の当否や
前投薬の適応の有無を判断するために必要となる問診,観察義務を怠
り,不十分な問診,観察の結果に基づいて胃内視鏡検査のための前投
薬(キシロカイン,ブスコパン,セルシン)を漫然と投与したものであっ
て,前投薬の適否を十分に検討しなかったために前投薬の適応につい
ての判断を誤ったものということができる(なお,咳や便通については,
初診日に問診がなされているところであるが,本件の検査は初診日か
ら10日以上経過した後になされているから,検査当日の状況について
再度確認すべきであり,発熱についても,変動が激しいものであるか
ら,検査当日の状況を確認すべきであったというべきである。)。
さらに,前投薬(キシロカイン,ブスコパン,セルシン)を投与するに際
し,前判示のような説明を何ら行わず,亡Eから何ら同意を得なかった
こと,及び,セルシンの投与について亡Eに選択の機会が与えられず,
F医師の判断で投与されたことが認められるから,F医師は,前記説明
義務をも怠ったものといわざるを得ない。
(イ) この点,被告は,F医師が平成10年1月16日に,過去に重大な病気
を起こしたことがないかという質問をした際に,亡Eから特に指摘できる
ような病気をしたことがないとの返事を得たため,緑内障,心疾患(心不
全や不整脈),甲状腺疾患は否定でき,アレルギー体質ではないと判
断した旨を主張する。
しかしながら,仮に,F医師と亡Eとの間で,上記のような問答がなさ
れていたとしても,医学的専門知識を有しない亡Eが,自主的に,胃内
視鏡検査の実施及び前投薬の投与の当否を判断するに当たり必要と
される病歴を選別して上記疾患の有無を回答することは,極めて困難
であるというべきであるから,上記のように,過去に重大な病気を起こし
たことがないか,という程度の概括的かつ抽象的な質問をしただけで
は,F医師の問診義務が尽くされたものとは認めることができないという
べきである。
(5) 問診,観察義務違反及び説明義務違反と亡Eの死亡との間の因果関係
F医師は,胃内視鏡検査の実施の当否や前投薬の適応の有無を判断す
るために必要となる問診,観察を行うことにより,前投薬の投与による副作
用やアナフィラキシーショックの発現する可能性を発見できる機会を有して
いたにもかかわらず,問診,観察義務を怠ったため,このような機会を自ら
放棄し,極めて不十分な問診,観察の結果に基づいて漫然と前投薬(キシロ
カイン,ブスコパン,セルシン)を投与し,前投薬の適否を十分に検討しなか
ったために前投薬についての適応判断を誤ったものであること,また,F医師
が前投薬の副作用の内容やセルシンの投与が必要不可欠ではないことな
どについて説明をすることにより,胃内視鏡検査や前投薬の投与を受けるこ
とについて亡Eに選択の機会が与えられ,亡Eが胃内視鏡検査の実施を拒
絶した可能性や,上記前投薬の投与,なかでも,セルシンの投与を拒絶した
可能性は十分あったにもかかわらず,F医師が説明義務を怠ったため,亡E
の上記選択の機会が奪われたことについては,前判示のとおりである。
したがって,F医師が問診,観察を怠ったことにより,F医師が前投薬の適
応判断を誤り,さらに,F医師が前投薬の説明及び亡Eの同意を得ることを
怠ったことにより,F医師の前投薬の適応判断の誤りを是正する機会が奪わ
れ,その結果,上記前投薬のうち1つ又は2つ以上の薬剤によるアナフィラ
キシーショックにより亡Eが死亡するに至ったというべきであるから,F医師の
問診,観察義務違反及び説明義務違反と亡Eの死亡との間には因果関係
が認められると解するのが相当である。
(6) 以上によれば,被告は,被告病院の医師であるF医師が問診,観察義務
及び説明義務を怠ったことに基づく過失により,亡Eを死亡させるに至らしめ
たものであるから,亡Eの死亡による損害を賠償する義務を負うものというべ
きである。
5 損害について
(1) 亡Eの損害  5986万2947円
ア 逸失利益   3986万2947円
亡Eは,死亡当時23歳の会社員であった。したがって,亡Eの逸失利益
については,平成10年賃金センサス女子労働者大学卒の全年齢平均賃
金451万3800円を基礎収入とし,生活費控除割合を5割とし,就労可能
期間を67歳までの44年間とし,5パーセントのライプニッツ方式により中
間利息を控除して算出するのが相当である。
そうすると,亡Eの逸失利益は,以下の計算式のとおり,3986万294
7円(円未満切捨て)となる。
(計算式)451万3800円×(1-0.5)×17.6627=3986万2947円(円未満切捨て)
イ 死亡慰謝料  2000万円
以上の認定事実及び本件にあらわれた諸事情を総合考慮すれば,亡
Eの被った精神的苦痛に対する慰謝料は2000万円をもって相当である
と判断する。
ウ 相続
本件において,亡Eが被った損害は,5986万2947円であるところ,前
記認定によれば,原告らは亡Eの損害賠償請求権を法定相続分各2分の
1の割合で相続したと解されるから,原告らが相続により取得した損害賠
償請求権は,それぞれ2993万1473円(円未満切捨て)となる。
(2) 葬儀関係費用   各65万円
証拠(甲11の(1),(2),12)によれば,原告らは,亡Eの葬儀関係費用とし
て合計215万8600円を支出したものと認められるところ,本件事件と相当
因果関係のある損害としては,130万円と認めるのが相当である。そうする
と,原告らの葬儀関係費用に関する損害は,それぞれ65万円となる。
(3) 弁護士費用   各300万円
本件事件と相当因果関係のある弁護士費用として,それぞれ300万円と
認めるのが相当である。
(4) 損害額合計  各3358万1473円
以上合計すると,原告らの損害額の合計は,それぞれ3358万1473円
となる。
6 結論
以上によれば,原告らの請求は,それぞれ3358万1473円及びこれに対
する亡Eの死亡の日である平成10年1月28日から支払済みまで民法所定の
年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが,その余
はいずれも理由がない。
なお,仮執行免脱宣言の申立てについては,相当でないからこれを付さない
こととする。
 (口頭弁論終結日 平成14年9月27日)
福岡地方裁判所小倉支部第3民事部
     裁判長裁判官杉 本 正 樹
        裁判官田 村 政 巳
        裁判官山 田 真依子

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