弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
原判決を取消す。
控訴人の本件訴えを却下する。
訴訟費用は、第一、二審とも控訴人の負担とする。
       事   実
一 控訴人は「原判決を取消す。控訴人が、被控訴人が控訴人に対し昭和五九年一
月二六日になした同年二月一日付けで中国電気通信局局長室調査役勤務を命ずる旨
の勤務命令に従う雇用契約上の義務を負わないことを確認する。訴訟費用は、第
一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は「本件控訴を
棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。
二 当事者双方の主張は、次に付加するほかは原判決事実摘示のとおりであるか
ら、これを引用する。
1 被控訴人の本案前の主張
 被控訴人は、昭和六三年八月三日控訴人を解雇し、控訴人は、右解雇により既に
被控訴人の従業員たる地位を喪失したのであるから、右解雇に無効原因の存しない
以上、本件訴えの利益はもはや存在しないといわなければならない。
2 被控訴人の主張に対する控訴人の反論
(一) 被控訴人は、控訴人に対する隔絶扱いをやめず、質問書にも回答せず、担
当業務を与えず、経済的にも締め付けを強化し、それでもなお自発的に辞職しなか
った控訴人に対し、昭和六三年七月二六日本件第一審判決がなされるやこれを奇貨
として、時を移さず同年八月三日、予告なく即日解雇の発令をした。
 右解雇の辞令書には、解雇事由として勤務成績不良、担当職務に必要な適格性を
欠くことを掲げているが、右は本件配転命令が有効であるとの前提に立って、中国
電気通信局局長室調査役の職位にあっての控訴人の「勤務成績」及び「その職務に
必要な適格性」を問題とするものであり、本訴において本件配転命令の無効が確認
されれば本件解雇の理由がなくなることは明らかである。仮にそうでないとして
も、本件解雇は解雇権の濫用として無効である。
(二) 控訴人は、被控訴人のとった右措置に対して、とりあえず昭和六三年八月
三〇日広島地方裁判所に対して地位保全仮処分の申請をするとともに、更に解雇の
無効の確認を求める本案訴訟の提起の準備をしつつあるが、当審において本訴につ
いての原判決が取り消され、本件配転命令の無効が確認されれば、本件解雇は右解
雇無効確認訴訟の結果をまたず無効となる。
 一方、本件訴訟とは別個に控訴人の提起した解雇無効確認訴訟において本件解雇
の無効が確認されたとしても、本訴において控訴人が求めている本件配転命令の無
効は確認されないから、解雇無効確認訴訟だけでは、右配転命令によって控訴人の
被った不利益は回復されない。
 したがって、本件解雇がなされた後であっても、本件訴えの利益は失われないと
いわなければならない。
三 証拠関係(省略)
       理   由
一 控訴人が昭和三四年四月被控訴人の前身である日本電信電話公社(以下、公社
という。)に入社し、昭和五八年一月からは広島中央電報局長として勤務していた
もので、当時公社の設けていた管理職ランクのうちEランク(副参与一級)であっ
たこと、公社は、昭和五九年一月二六日控訴人に対し、同年二月一日付けで中国電
気通信局局長室調査役としての勤務を命ずる旨の配置転換を命じた(以下、本件配
転命令という。)こと、その後右中国電気通信局局長室調査役の職位は公社の民営
化に伴い中国総支社調査役と改称され、被控訴人は昭和六〇年四月一日控訴人に対
し、同改称にそった発令を行ったが、右中国総支社調査役の職位は、更にその後の
組織改正によって中国総支社担当部長と改称されるに至ったことは、いずれも当事
者間に争いがなく、控訴人は、昭和六〇年五月八日広島地方裁判所に対し、本件配
転命令の無効を理由として、「控訴人が、被控訴人が控訴人に対し昭和五九年一月
二六日になした同年二月一日付けで中国電気通信局局長室調査役勤務を命ずる旨の
勤務命令に従う雇用契約上の義務を負わないことを確認する。」旨の判決を求める
本件訴えを提起したところ、同裁判所は、昭和六三年七月二六日控訴人敗訴の判決
を言い渡したことは本件記録上明らかであり、また、いずれも成立に争いのない甲
第九七号証及び同第九八号証によれば、控訴人は同年八月三日被控訴人会社社員就
業規則六五条一項一号(勤務成績がよくないとき)及び同項五号(その他その職務
に必要な適格性を欠くとき)に該当するものとして、被控訴人会社から解雇された
こと(解雇の事実及びその日時は、当事者間に争いがない。)が認められる。
二 被控訴人は、本件訴えの利益を争うので、先ずこの点について判断する。
1 雇用契約ないし労働契約(以下、雇用契約という。)の存否そのものについて
は労働者と使用者との間には争いがないが、当該雇用契約の内容たる労働の種類、
態様、場所、労働時間等雇用契約の内容の一部又はそれから派生する法律関係ない
しは権利義務関係につき労働者と使用者との間に争いがあり、労働者において使用
者の主張どおりの労働の種類、態様、場所、労働時間等にしたがう場合において
は、労働者が法律上の不利益を受けるときは、当該労働者は、当該雇用契約の内容
又は派生的な法律関係のみについて確認を求める法律上の利益を有するものと解さ
れる。
2 しかして、確認の訴えは、原則として、現在の権利ないし法律関係の存否の確
認を求める場合にのみ許されるのであるから、労働者が雇用契約の内容たる労働の
種類、態様、場所、労働時間等についての確認を求める訴えを提起した後、退職、
定年等によって雇用契約上の地位を失うに至ったときは、当該訴えは、確認の利益
を喪失したものというべきである。また、上記の訴えにおいて確認される権利ない
し法律関係は、あくまで雇用契約の内容の一部についての権利ないし法律関係又は
雇用契約より派生する権利ないし法律関係にすぎないのであるから、たとい当該訴
訟において労働者の主張どおりの雇用契約の内容又は派生的法律関係であることを
確認する旨の判決が確定した場合であっても、当該確定判決は、当該労働者とその
使用者との間の雇用契約が有効に現存することをその論理的前提とするものとはい
え、このこと自体は当該訴訟の請求の目的ではないから、該判決は当該雇用契約に
基づく労働者たる地位が有効に存在することまでを既判力をもって確定するもので
はない。
 それ故、本件の如く、控訴人の求めるところの「控訴人は本件配転命令に従う雇
用契約上の義務を負わないことを確認する」旨の判決が確定する前に被控訴人が控
訴人を解雇し、その雇用契約上の地位を争うに至った場合には、仮に本訴におい
て、被控訴人がなした解雇が無効であり、したがって、控訴人は被控訴人に対し雇
用契約上の地位を有する旨を先決問題として判断した上控訴人の求めるとおりの判
決がなされ、それがそのまま確定した場合であっても、前説示のとおり、本訴にお
いては控訴人の雇用契約上の地位の存否については訴訟物とはなってはいないか
ら、あらかじめ中間確認の訴えによって先決問題である控訴人の被控訴人に対する
雇用契約上の地位の存在について確認しておかない限り、この点についての既判力
は生じておらず、したがって、別訴によって控訴人の被控訴人に対する雇用契約上
の地位の存否の確認を求める訴えを提起することは妨げられないし、当該別訴にお
いて控訴人と被控訴人との間には雇用関係が存在しない旨の判決が確定した場合に
は、現在の権利ないし法律関係の確定を目的とするという確認訴訟の性質上、せっ
かく本訴において控訴人が本件配転命令に従う雇用契約上の義務を負わない旨の確
定判決を得ても、後訴によりその実効性を喪失するおそれがあるものといわなけれ
ばならない。
3 したがって、本件の如く、被控訴人の従業員たる控訴人が使用者たる被控訴人
の命ずる勤務命令に従う雇用契約上の義務の不存在の確認を求める訴えを提起する
場合において、既に又は訴え提起後事実審における口頭弁論の終結前に、使用者と
労働者との間において先決問題である雇用契約の存否それ自体につき法律上の紛争
が生じた場合には、当該雇用契約の存在自体の確認を求める訴え(中間確認の訴え
を含む。)とともにするのでなければ、本訴のような使用者の命ずる勤務命令に従
う雇用契約上の義務不存在確認の訴えは、即時確定の利益を欠くといわなければな
らない。
4 本件訴え提起後、被控訴人が控訴人を解雇したことは前認定のとおりであり、
当裁判所の示唆にもかかわらず、控訴人が訴えを変更する等して、控訴人が被控訴
人に対し雇用契約上の地位を有することを確認する旨の訴えを追加して提起してい
ないことは記録上明らかである。
 したがって、控訴人の本件訴えは確認の利益を欠くものといわなければならな
い。
三 そうすると、控訴人の本件訴えはその余の点について判断するまでもなく不適
法であって、これを適法として本案判決をした原判決は結局不当であるから、これ
を取り消して本件訴えを却下することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法九
六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 篠清 宇佐見隆男 矢延正平)

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