弁護士法人ITJ法律事務所

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         主    文
     原判決を取消す。
     本件(参加事件をも含む)を千葉地方裁判所に差戻す。
         事    実
 被控訴人と控訴人との関係につき、
 控訴代理人は原判決を取消す、被控訴人の請求はこれを棄却する旨の判決を求
め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。
 被控訴代理人は請求原因として原判決事実摘示のとおり述べたから、茲に之を引
用する。
 控訴代理人は本案前の主張として、控訴人Aに対する原判決正本は、郵便送達報
告書によれば、東京都文京区a町b番地になされ昭和三十五年七月二十三日同居人
Bが受領したことになつているが当時、控訴人は右送達場所に住所はなく、控訴人
とBは何ら関係ない者である。従つて原判決の正本は未だ控訴人に送達されていな
いと述べ、本案の主張として請求原因事実は全部否認すると述べた。
 証拠として被控訴代理人は甲第一号証の一、二を提出し、当審に於ける証人C
(第一回)D及び被控訴本人Eの各供述を援用し、乙第一号証は不知、同第二、三
号証は成立を認めると述べ、控訴代理人は乙第一ないし三号証を提出し、当審証人
C(第一回)、Fの各証言、及び当審における控訴人本人尋問の結果を援用し、甲
第一号証の一、二は何れも不知と述べた。
 補助参加人は当審証人Cの証言(第二回)を援用した。
 参加人と被参加人ら(被控訴人、控訴人)との関係につき、
 参加代理人は、参加人と被参加人ら(控訴人竝に被控訴人)との関係に於て、別
紙目録記載の土地建物が参加人の所有であることを確認する旨の判決を求め、請求
原因として次のとおり述べた。
 一、 参加人は本件土地建物(原判決別紙目録記載のもの)を昭和三十五年十月
二十日被控訴人から代金合計百十五万円で買受け即日その旨所有権取得の登記を完
了した。
 二、 本件は千葉地方裁判所昭和三十五年(ワ)第一五三号事件として、同裁判
所において同年九月二十七日本件土地建物が被控訴人の所有であることを確認し、
且つ控訴人は被控訴人に対し、右土地建物につき売買による所有権移転登記手続を
為すべき旨の判決か言渡され、右判決正本は同年十月四日被控訴人及び控訴人双方
に送達されたところ、控訴人から所定期間中に控訴の申立がなく同年十月十八日の
経過により確定した。よつて参加人は前記のとおり右判決により確定した権利を承
継取得したものである。
 三、 参加人が控訴人にたいし控訴人主張の明渡訴訟を提起し審理中であること
は認める。
 控訴代理人は、本案前の主張として、参加人は控訴人にたいし、すでに千葉地方
裁判所昭和三十五年(ワ)第二七五号事件として本件土地建物の明渡を請求してい
る。従つて本件参加の申立は所謂二重訴訟であるから却下を求める。本案につき請
求棄却の判決を求め、答弁として参加人が本件土地建物を被控訴人から買受けた事
実は不知、本件土地建物が参加人名義に所有権取得登記のなされている事実は認め
る、と述べた。
 被控訴代理人は、請求棄却の判決を求め、参加人の主張事実を全部認めると述べ
た。
 証拠として参加代理人は丙第一ないし六号証、第七号証の一ないし五、を提出
し、乙第一号証は不知、同第二、三号証は成立を認めると述べ、控訴代理人は被控
訴人にたいし提出、援用したものと同一の証拠を提出援用した。
         理    由
 職権を以つて本件訴訟の経過について調べると、本件訴訟は昭和三十五年六月二
十九日原裁判所に提出せられ、右訴訟には被告(控訴人)の住所は東京都文京区a
町b番地と記されており、同年七月十四日午前十時と指定された最初の口頭弁論期
日呼出状は訴状副本と共に右控訴人の住所宛に発送せられたところ、不送達となつ
た(記録一五丁)。次で口頭弁論期日は同年七月十九日午前十時と変更せられ、右
期日呼出状は訴状副本と共に前同一の場所に宛て発送せられたところ右訴訟書類は
同年七月十五日午前九時四十分右場所において「同居人B」なる者によつて受領せ
られている(記録一九丁)。しかして昭和三十五年七月十九日午前十時の第一回口
頭弁論期日には控訴人は出頭していなかつたところ、出頭した被控訴人が訴状を陳
述し、裁判官は弁論の終結を宣し、判決言渡期日を同年八月十二日午前十時と指定
した。右判決言渡期日の控訴人にたいする呼出状は前同一場所において同年七月二
十三日午前十時「同居人B」なる者によつて受領せられている(記録二一丁)。次
で同年八月十九日原審裁判官は、弁論を再開し且つ口頭弁論期日を同年九月二十二
日午後一時と指定する旨の決定をし、控訴人にたいする右決定正本竝に期日の呼出
状は同年八月二十三日午前九時三十分前同一場所において「同居人B」なる者によ
つて受領せられている(記録二四丁)、しかして同年九月二十二日午後一時の口頭
弁論期日には控訴人は出頭していなかつたが、出頭している被控訴人において必要
事項を釈明陳述し裁判官は弁論を終結し、判決言渡期日を同年九月二十七日午前十
時と指定した。控訴人にたいする右判決言渡期日呼出状は同年九月二十四日午前九
時前同一場所において「同居人B」なる者によつて受領せられている(記録二六
丁)。しかして同年九月二十七日午前十時の判決言渡期日には被控訴人出頭、控訴
人不出頭にて原判決が言渡され、控訴人にたいする右判決正本は、同年十月四日前
同一場所において「同居人B」なる者によつて受領せられている(記録三三丁)。
 なお、本件控訴状は昭和三十五年十一月二十一日当裁判所に提出せられたが右控
訴状には控訴人の住所として船橋市c町d丁目e番地と記され、訴訟代理人Gにた
いする訴訟委任状の控訴人肩書住所も同所となつている。以上の各事実は記録上明
白なところである。
 そこで右の経過について、原審における、訴状副本、各口頭弁論ないし判決言渡
期日呼出状、判決正本等の控訴人にたいする送達が適法に行われたかどうかを検討
するに、成立に争ない乙第二、三号証、当審証人Cの証言(第一、二回)、同Dの
証言、同Fの証言の一部、当審における被控訴人本人尋問の結果の一部、控訴人本
人尋問の結果を合せると、控訴人は昭和二十一年以来船橋市c町d丁目e番ノf本
件家屋に居住している者であるが、昭和三十一年中数ケ月東京都文京区a町b番地
の日装ストアと称するマーケツトの二階に居住していたことがあり、そのころ住民
票の住所を一時同所に届出たことがあつたけれども再び前記船橋市の住所に戻り同
年五月二十日住民票の住所も右船橋市に移し、爾来引続き同所にて生活し、前記以
外肴町に居住した事実はないこと、被控訴人はHを通し控訴人から本件土地建物を
買受けたと主張し、その所有権取得登記手続請求の訴を提起するため、右物件の所
在地である船橋市c町d丁目e番地に控訴人の夫である訴外Fを訪れ、控訴人の所
在を確めたが、同訴外人から控訴人は居所に居ないと告げられたので、右土地建物
の登記簿に控訴人の住所として記載ぜられている前記東京都文京区a町b番地を控
訴人の住所として訴訟を提起しようと企て、昭和三十五年六月ごろ、同所日装スト
ア一階に青果商を営むBコトB方に赴きその妻Cに合い、同人は控訴人が曽て同所
二階に居住していたことを知つていたところから、同人に向つて、「控訴人にたい
する訴訟について郵便物が裁判所から来たら預つておいてくれ」と依頼し、右Cが
不用意にこれを承諾すると、被控訴人は右B方の表在に「A」と記した紙片を張り
つけ立去つたこと、その後本件訴訟に関する前記訴状副本や期日呼出状、判決正本
等の書類が控訴人に宛て右場所に送達されると、その都度右Bの店において店員が
送達報告書にBの氏名を書き有合せの認印を押し書類を受領し保管したこと、する
と各書類送達の直後被控訴人が右B方に来訪しCから書類を受取り立去つたこと、
右書類中原判決の正本は被控訴人から知人の訴外Dに交付せられ同人において所持
しているが、同人は昭和三十五年十一月一日控訴人にたいし電話で右判決が原裁判
所で言渡されたことや本件土地建物が被控訴人に、同人から更に参加人に売渡され
て所有権移転登記手続がなされていることを告げたので、控訴人は直ちにその夫F
をして登記所に赴かしめ調査し始めて右事実を知り、本件控訴の手続を執つたこ
と、以上の各事実を認めることができる。
 当審における証人Fの証言、被控訴人本人尋問の結果のうち右認定に反する部分
は信用しがたく、甲第一号証の一、二その他の証拠によるも前記認定を左右するこ
とはできない。
 <要旨第一>そうすると、本件訴状副本、期日呼出状、原判決正本等の控訴人にた
いする送達は、控訴人の住所その他適法の場所になされたものでなく、
且つそれらは原審訴訟手続中一も控訴人に了知せられなかつたことが明白である。
従つて原審の口頭弁論手続は訴状の送達のないことは勿論期日の呼出もなく終結さ
れた違溝なものであり、これにもとずく原判決は何等口頭弁論を経ないで為された
違法なものといわざるを得ない。しかし以上の経過によつて為された原判決は、被
控訴人の訴に基づき而も実在する控訴人を名宛人とするものであるから、有効な判
決であることは勿論である。従つて既にその言渡が為された以上、まだ控訴人に対
して法律上判決の送達のないことは以上認定の通りであるが、これに対して控訴人
(被告)から控訴申立を為し得ることは、民訴法第三六六条第一項但書の規定上明
らかである。
 つぎに本件の所謂当事者参加の適否について検討する。
 控訴人は参加人の本件請求は二重起訴にかかる旨主張するけれども、前記参加人
の千葉地方裁判所に提起せられた訴訟は、土地建物の明渡請求の訴であることは控
訴人の主張自体明らかであるところ、本件参加訴訟は土地建物の所有権確認の請求
であるから右は同一訴訟ということを得ず従て参加人の本件訴を不適法となすこと
はできない。
 以上の如くであるから民事訴訟法第三八七条、第三八九条により原判決を取消
し、本件を原裁判所に差戻すべきものとする。
 <要旨第二>なお本件の参加は民訴法第七一条に基づき当審に於て為された所謂当
事者参加であるからその訴訟の構造を所謂三面訴訟と解すると否とに拘
らず、原当事者間の訴訟か有効に繋属する以上此と一体的に裁判せらるべき性質の
ものであるから、本件差戻の対象の中に当然含まれるものと解すべきである。仍て
主文のとおり判決する。
 (裁判長判事 鈴木忠一 判事 谷口茂栄 判事 宮崎富哉)

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