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平成17年(行ケ)第10661号特許取消決定取消請求事件
平成19年2月21日判決言渡,平成19年2月7日口頭弁論終結
判決
原告日本ユニカー株式会社
訴訟代理人弁理士河備健二
被告特許庁長官中嶋誠
指定代理人舩岡嘉彦
同井出隆一
同徳永英男
同大場義則
主文
特許庁が異議2003−73535号事件について平成17年
7月7日にした決定を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
主文と同旨
第2当事者間に争いのない事実
1特許庁における手続の経緯
原告は,名称を「水架橋性不飽和アルコキシシラングラフト直鎖状低密度エ
チレン−α−オレフィン共重合体の製造方法および水架橋成形物」とする特許
第3456774号の発明(平成6年11月15日特許出願,平成15年8月
1日設定登録。以下,この出願を「本件出願」といい,その特許を「本件特
許」という。)の特許権者である。
その後,特許異議の申立てがあり,特許庁は,異議2003−73535号
事件として審理した結果,平成17年7月7日,「特許第3456774号の
請求項1ないし4に係る特許を取り消す。」との決定をし,同年8月1日,そ
の謄本を原告に送達した。
2本件出願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の請求項
1ないし4に記載された特許請求の範囲(以下,請求項1ないし4に係る各発
明を「本件発明1」等といい,併せて「本件発明」ということがある。)
【請求項1】密度0.910∼0.935g/ml,メルトインデックス0.
1∼5g/10分の直鎖状低密度エチレン−α−オレフィン共重合体に不飽和
アルコキシシラン,有機過酸化物を配合した後,押出機中で有機過酸化物の分
解温度以上に温度を上げて製造された水架橋性不飽和アルコキシシラングラフ
ト直鎖状低密度エチレン−α−オレフィン共重合体であって,前記直鎖状低密
度エチレン−α−オレフィン共重合体として,比表面積50∼1000m/2
g,平均粒径50∼200μm,細孔直径50∼200Åの無機酸化物多孔体
からなる担体に酸化クロムを含有する重合触媒成分を担持させた重合触媒と,
エチレン80∼98重量部およびα−オレフィン20∼2重量部からなるモノ
マー流体とを,気相流動床反応器中で,30∼105℃の温度,5∼70気圧
の圧力,1.5∼10のGmfの条件で接触させて得た比表面積500∼20
00cm/g,かさ密度0.2∼0.5g/ml,平均粒径0.5∼1.52
mmのグラニュラー状物を使用することを特徴とする水架橋性不飽和アルコキ
シシラングラフト直鎖状低密度エチレン−α−オレフィン共重合体。
【請求項2】直鎖状低密度エチレン−α−オレフィン共重合体,不飽和アル
コキシシランおよび有機過酸化物の他に,シラノール縮合触媒をさらに配合し,
製造したことを特徴とする請求項1記載の水架橋性不飽和アルコキシシラング
ラフト直鎖状低密度エチレン−α−オレフィン共重合体。
【請求項3】請求項1記載の水架橋性不飽和アルコキシシラングラフト直鎖
状低密度エチレン−α−オレフィン共重合体にシラノール縮合触媒を配合し,
押出機より押出し成形物とし,水分に接触させて得られた水架橋成形物。
【請求項4】請求項2記載の水架橋性不飽和アルコキシシラングラフト直鎖
状低密度エチレン−α−オレフィン共重合体を押出機より押出し成形物とし,
水分に接触させて得られた水架橋成形物。
3決定の理由
決定は,別添異議の決定謄本写し記載のとおり,本件発明1ないし4におい
て,発明の構成に欠くことができない事項として,触媒担体及びグラニュラー
状物の平均粒径を特定の範囲に限定しているが,単に平均粒径と記載しただけ
では,いずれの粒度の測定法によるもので,いずれの意味の平均粒径かが一義
的に決まらないから,本件明細書は,①その特許請求の範囲が,特許を受けよ
うとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載した項に区分してい
るとはいえないので,本件特許は,平成6年法律第116号による改正前の特
許法36条5項2号及び6項(以下「旧36条5項2号」,「旧36条6項」
という。)に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであ
り,また,②発明の詳細な説明に,当業者が容易にその実施をすることができ
る程度に,その発明の目的,構成及び効果が記載されているとはいえないので,
本件特許は,上記改正前の特許法36条4項(以下「旧36条4項」とい
う。)に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであると
し,特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則14条の
規定に基づく,特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める
政令(平成7年政令第205号)4条2項の規定によって,本件特許を取り消
した。
第3原告主張の決定取消事由
決定は,本件明細書の記載が,旧36条5項2号及び6項の要件に違反する
と誤って判断し(取消事由1),また,旧36条4項の要件にも違反すると誤
って判断し(取消事由2),本件特許を取り消すとの誤った結論を導いたもの
であって,違法であるから,取り消されるべきである。
1取消事由1(旧36条5項2号及び6項違反の判断の誤り)
()決定は,「本件発明1∼4の特許を受けようとする発明の構成に欠くこと1
ができない事項として,触媒担体及びグラニュラー状物の平均粒径を特定の
範囲に限定している。しかしながら,特許明細書において,この平均粒径に
ついては,数値は記載されてはいるものの,その測定法についてはなんらの
記載もない。平均粒径には・・・長さ平均径,面積長さ平均径,体面積平均
径,重量平均径,面積平均径,体積平均径と様々な種類があり,同一の分布
の粉体の系でもその数値は異なるものとなる。さらに,その平均粒径の計算
の基礎となる,粒度の測定法にも・・・顕微鏡法,コールカウンター,ふる
い分け法,沈降法,沈降分級法,遠心沈降法,慣性力法,電磁波散乱法,そ
の他,多数のものが知られている。したがって,単に平均粒径と記載しただ
けでは,いずれの粒度の測定法によるもので,いずれの意味の平均粒径かは
不明であり一義的に決まるものではない。」(決定謄本3頁第1ないし第5
段落)とし,「そのような不明な限定を含む本件発明1∼4は,その特許請
求の範囲が,特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項の
みを記載した項に区分しているとはいえ」(同頁第6段落)ないと判断した
が,誤りである。
()重合方法の特定2
ア本件明細書の特許請求の範囲請求項1には,「ユニポール法」との明示
の記載はないが,「重合触媒成分を担持させた重合触媒と,・・・モノマ
ー流体とを,気相流動床反応器中で,・・・の条件で接触させて」と記載
されていて,本件発明1に係る重合方法(以下「本件重合方法」とい
う。)が明確に規定されており,本件重合方法は,「ユニポール法」と称
され,当業者間で周知の技術事項であったものである。そして,本件発明
に用いられる重合触媒は,本件重合方法において,気相流動床反応器とい
う特定の重合装置中で用いられるものであり,また,成分物であるグラニ
ュラー状物は,上記特定の重合装置を用いて製造されるものである。
イ本件明細書の発明の詳細な説明には,従来の直鎖状低密度エチレン−α
−オレフィン共重合体の持つ問題点に関して,「・・・不飽和アルコキシ
シランを・・・混合して,樹脂の溶融温度以上で押出機で混練してグラフ
ト反応を進行させようとすると,不飽和アルコキシシランは粘度の低い液
体となり,一部は気体となっているので,樹脂の混練を妨害し,均一なシ
ラングラフト体は得られず,品質の良好な水架橋物は製造できなかっ
た。」(段落【0004】)と述べた上で,本件発明の完成に至る経緯と
して,「本発明者は,・・・直鎖状低密度エチレン−α−オレフィン共重
合体の重合触媒および重合条件を選択して,比表面積が大きく細孔多孔質
のグラニュラー状物として用いることにより,・・・本発明を完成させ
た。」(段落【0007】)と説明しているから,この記載に接した当業
者は,本件発明の特徴が「直鎖状低密度エチレン−α−オレフィン共重合
体の重合触媒および重合条件を選択して,比表面積が大きく細孔多孔質の
グラニュラー状物として用いる」点にあることを一義的に理解することが
できるものである。
そして,「これらの担体,重合触媒成分,重合方法は,・・・特公昭5
0−32110号,同52−45750号,同53−8666号,同56
−18132号,同56−22444号,同61−363号,同61−2
6805号等の公報に詳細に説明されている。この重合方法はユニポール
法と呼ばれ,・・・本発明に用いるグラニュラー状物は,ユニポール法の
装置を用いて,上記の特定条件で製造され得るものである。上記製造条件
を外れると,本発明に使用し得るグラニュラー状物は製造できず望ましく
ない。」(段落【0013】)とも記載されて,本件重合方法(重合触媒,
重合条件)が「ユニポール法」であり,かつ,それに限定される旨が明記
されており,さらに,本件発明に係る「グラニュラー状物」(以下「本件
グラニュラー状物」という。)が「ユニポール法」の装置を用いて製造さ
れ,かつ,それに限定される旨が明記されている。そして,本件明細書の
発明の詳細な説明においては,ユニポール法の気相流動床中で本件グラニ
ュラー状物を調製した具体例のみが,実施例として開示されている(段落
【0022】)。
したがって,本件重合方法は,本件明細書の発明の詳細な説明において,
特定されているものというべきである。
ウ本件重合方法の概要は,例えば,当業界でよく知られた専門誌である昭
和56年5月株式会社プラスチックス・エージ発行「プラスチックスエー
ジ」同年5月号(以下「甲5文献」という。)63頁ないし74頁に掲載
された特別記事「ポリオレフィンの省エネルギー重合プロセスとそれによ
る材料特性−LLDPE,バルク重合法PPを中心に−」(特に65頁
ないし66頁)中で,代表的なプロセスのまず最初の1つとして,「1.
5.1UCC(<UNIPOL>法)」の項で,「ユニポール法」が紹
介されており,本件重合方法が「ユニポール法」であることは,甲5文献
の65頁の表2「各社のLLDPEプロセス比較」において,重合形式が
「気相法」の「流動床」であるとするプロセスが唯一ユニオンカーバイト
社による「<UNIPOL>法」であるとの記載から明らかである。
エ被告は,本件グラニュラー状物が「ユニポール法の装置を用いて,上記
の特定条件で製造され得る」(段落【0013】)と記載されているにす
ぎず,本件グラニュラー状物が「ユニポール法」の製造法に限られるとの
記載はない旨主張する。
しかし,本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0013】の「この重
合方法はユニポール法と呼ばれ,・・・本発明に用いるグラニュラー状物
は,ユニポール法の装置を用いて,上記の特定条件で製造され得るもので
ある。上記製造条件を外れると,本発明に使用し得るグラニュラー状物は
製造できず望ましくない。」との記載を当業者の立場で素直に読めば,そ
こには,本件重合方法が「ユニポール法」と称され,かつ,本件重合方法
に限定されることが明記されているというべきである。したがって,本件
グラニュラー状物が「ユニポール法」の装置を用いる製造法に限られると
の記載はないとする被告の主張は,失当である。
オしたがって,「ユニポール法」との記載が特許請求の範囲にないからと
いって,短絡的に,本件重合方法の記載が「ユニポール法」であると限定
解釈する余地はないとか,「ユニポール法」と付加限定して解釈すべき合
理的根拠もないとかいう被告の主張は,当業者の技術常識を無視した皮相
的な解釈に基づくものであって,失当である。
()平均粒径の測定方法の特定3
ア原告は,取消理由通知に対する特許異議意見書において,参考資料1な
いし4として,本件出願前に頒布された刊行物である1985年(昭和6
0年)ユニオンカーバイド社発行「高密度架橋性ポリエチレンGPEP−
1000」のパンフレット(甲13,以下「甲13文献」という。),同
年同社発行「中密度ポリエチレンGPEP−703Natural
7」のパンフレット(甲14,以下「甲14文献」という。),米国材料
試験協会(ASTM)発行「ANSI/ASTMD1921−63(R
eapproved1975)」(1975年〔昭和50年〕改定)の
「プラスチック材料の粒子径(ふるい分析)標準測定法」(甲15,以下
「甲15文献」という。),日本規格協会発行「JISK0069」の
「化学製品のふるい分け試験方法」(平成4年5月1日改正)を挙げてい
る。このうち,甲13及び甲14各文献には,「粒径の試験方法がAST
MD1921である。」旨記載されており,上記「ASTMD192
1」の粒径の試験方法は,1975年(昭和50年)に再承認されている
方法であることが甲15文献から明らかであり,これが「JISK00
69」の「化学製品のふるい分け試験方法」に対応することは,甲16文
献から明らかである。そして,ポリエチレン樹脂とその製造に用いる触媒
は,共に化学製品であり,ポリエチレン樹脂についての粒径の測定法,及
びポリエチレン樹脂の製造に用いる触媒担体の粒径の測定法が,「ふるい
分け法」で行われることは,周知自明であり,当業者にとって技術常識で
あった。
イ仮に,「ユニポール法」及びそれを前提とする「ふるい分け法」が本件
出願時に周知慣用の技術あるいは技術常識であったと認定されなかったと
しても,特公昭50−32110号公報(甲6,17,以下「甲17公
報」という。)には,「本発明の担持触媒系は,・・・約40∼100メ
ッシュの平均粒度を有する流動床生成物を生成する。」(11頁21欄第
4段落)との記載があるところ,ここにいう「流動床生成物」は,「約4
0∼100メッシュ」(「メッシュ」とは,ふるいの目の大きさを表す単
位であり,長さ1インチについての孔の数を示すものであるから,この場
合は,1インチ当たりに孔の数が約40∼100個であることを意味す
る。)の平均粒度を持つことが示されているから,甲17公報には,生成
されるグラニュラー状物の粒径を「ふるい分け法」で測定することが明記
されているものである。その余の特公昭52−45750号(甲7,18,
以下「甲18公報」という。),同53−8666号(甲8,19,以下
「甲19公報」という。),同56−18132号(甲9,20,以下
「甲20公報」という。),同56−22444号(甲10,21,以下
「甲21公報」という。),同61−363号(甲11,22,以下「甲
22公報」という。),同61−26805号(甲12,23,以下「甲
23公報」という。)においても,「ユニポール法」という特定の重合方
法において,重合に用いられる触媒担体や生成ポリマーであるグラニュラ
ー状物の平均粒径が「ふるい分け法」によって測定されることが明確に記
載されており,あるいは,直接的に記載されていない場合であっても十分
に示唆されているものである。
ウまた,本件明細書では,本件重合方法について,その詳細な作用,機能,
内容までは具体的に紹介されてはいないものの,「ユニポール法」の装置
を用いて製造される場合におけるプラント運転上の技術的な制約,すなわ
ち,流動床におけるプラントエンジニアリング上の特定の寸法の孔を通過
できるか否かによって触媒担体やグラニュラー状物の粒径を管理,制御し
ているといったプラント運転実態に照らすと,それらの粒径は,ふるい分
け法によって測定されたものであることが,当業者の技術常識として明ら
かになる。
エこのように,本件明細書に接した当業者であれば,上記7つの特許公報
の内容を参照しながら,「ユニポール法」の操作の概要,さらには,前記
()イのとおり,本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0013】にお2
いて指摘されている「これらの担体」(以下「本件担体」という。)及び
本件グラニュラー状物の概要について把握することが極めて容易であって,
その結果,このようなユニポール法における特有の操作の下で,本件担体
及び本件グラニュラー状物の粒径がいかなる制約を受けるか,あるいは,
それらの平均粒径はいかなるものを意味し,かつ,いかなる測定法に準拠
するものであるかを,技術常識に属する事項として極めて容易に知ること
ができるのである。
オ以上のとおり,本件発明において,「ふるい分け法」によって平均粒径
を測定することが開示されており,平均粒径の計測方法は,特定されてい
るものである。
カ被告は,甲17ないし甲23公報には,「ユニポール法」の場合に,触
媒担体及びグラニュラー状物の平均粒径が必ず「ふるい分け法」により測
定するとの記載も示唆もなく,自明であるとする根拠もない旨主張する。
しかし,上記のとおり,本件重合方法にあっては,プラント運転面から
生じる技術的な制約から,プラント運転に用いられる担体,重合触媒成分,
生成物等の固体材料の粒径は,すべてふるい分け法によって測定せざるを
得ないことが当業者の技術常識であって,このことは,例えば,甲5文献
の66頁の表4に,「<UNIPOL>法パウダーの粒径分布」が「篩サ
イズ」,すなわち「ふるい分け法」によって測定された形態で表示されて
いることからも明らかである。
したがって,「ユニポール法」という本件重合方法においては,「平均
粒径」という記載のみで,当業者であれば,その粒度の測定法が「ふるい
分け法」であることが明らかであり,一義的に決まるものである。
キ被告は,「平均粒径の定義・意味・測定方法を特定しなければ,平均粒
径の意義は明確でない」と明快に判示した裁判例として,東京高裁平成1
7年3月30日判決・平成16年(行ケ)第290号(以下「別件判決」
という。)を挙げる。
しかし,別件判決は,別な箇所において,「もっとも,明記がない場合
にどのようなものが採用されるかについて当業者間に共通の理解があれば,
特定されているという余地はある。」(「事実及び理由」欄の第5の2
())と判示しており,本件は,正に,同判決が明確に除外した「当業者3
間に共通の理解がある」ケースに相当するものであるから,同判決の趣旨
に照らしても,決定の判断は,明らかに誤りである。
()したがって,「平均粒径」の技術的意義が特定していないから,本件明細4
書の記載が旧36条5項2号及び6項の要件に違反するとした決定の判断は,
明らかに誤りである。
2取消事由2(旧36条4項違反の判断の誤り)
決定は,本件発明1ないし4において,不明な限定を含むから,「発明の詳
細な説明に,当業者が容易にその実施をすることができる程度に,その発明の
目的,構成及び効果が記載されているとはいえない。」(決定謄本3頁第6段
落)と判断したが,前記のとおり,本件発明1ないし4において不明な限定は
ない。
したがって,本件明細書の記載が旧36条4項の要件に違反するとした決定
の判断は,明らかに誤りである。
第4被告の反論
決定の判断に誤りはなく,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
1取消事由1(旧36条5項2号及び6項違反の判断の誤り)について
()重合方法の特定1
ア本件明細書の特許請求の範囲請求項1には,「ユニポール法」との記載
はなく,その特許請求の範囲の「重合触媒成分を担持させた重合触媒と,
・・・モノマー流体とを,気相流動床反応器中で,・・・の条件で接触さ
せて」との本件重合方法の記載は,それ自体で明確であるから,これが
「ユニポール法」であると限定解釈する余地はなく,また,「ユニポール
法」と付加限定して解釈すべき合理的根拠もない。
イまた,本件明細書の発明の詳細な説明には,直鎖状低密度エチレン−α
−オレフィン共重合体として従来使用していたペレット状のものの問題点
を解決するために,本件発明で特定したグラニュラー状物とした点に本件
発明の特徴があることを記載しているのであり,本件グラニュラー状物が
「ユニポール法の装置を用いて,上記の特定条件で製造され得る」(段落
【0022】)と記載されているだけであって,本件グラニュラー状物が
「ユニポール法」の装置を用いる製造法に限られるとの記載はない。
そもそも,本件明細書の発明の詳細な説明及びそこで引用されている文
献等を参酌しても,原告のいう「ユニポール法」がいかなるものをいうの
かさえ明らかではなく,本件重合方法が,「ユニポール法」という特定の
重合方法であることを明らかにするものではない。
ウ原告は,本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0004】,【000
7】,【0013】,【0022】の各記載事項から,本件重合方法が
「ユニポール法」に限られる旨主張する。
しかし,上記記載事項には,特許請求の範囲の記載を裏付ける記載が確
認されているもので,「ユニポール法」に限られるとの記載やこれを示唆
する記載はない。例えば,本件明細書の発明の詳細な説明の段落【000
4】,【0007】には,従来技術の問題点と課題を解決するための手段
が記載されているだけで,「ユニポール法」に関する記載や,これを示唆
する記載はなく,段落【0013】,【0022】には,本件発明の実施
の態様として,特定の特許公報を引用して,これらの重合方法が「ユニポ
ール法」と呼ばれる旨の説明と,それに即した実施例が開示されているに
すぎないもので,本件重合方法が「ユニポール法」に限られる根拠とはな
らない。
エ原告は,甲5文献を例示して,本件明細書の特許請求の範囲請求項1に
は,「ユニポール法」との明示の記載はないが,「重合触媒成分を担持さ
せた重合触媒と,・・・モノマー流体とを,気相流動床反応器中で,・・
・の条件で接触させて」と記載されていて,本件重合方法が明確に規定さ
れており,本件重合方法がユニオンカーバイト社において開発した「ユニ
ポール法」であることは,本件出願時,当業者において技術常識であった
旨主張する。
しかし,甲5文献は,本件出願時である平成6年11月15日より13
年以上前の昭和56年5月の文献であり,しかも,原告の引用した記事は,
三井石油工業特許部の一従業員による特別記事にすぎないのであって,一
般化できるものではないし,その後の急速な技術発展を考慮しただけでも,
これが本件出願時の技術常識といえるものではない。
しかも,原告は,本件重合方法が「ユニポール法」であることは,甲5
文献の65頁の表2「各社のLLDPEプロセス比較」において,重合形
式が「気相法」の「流動床」であるとするプロセスが唯一ユニオンカーバ
イト社によるユニポール法であるとの記載から明らかである旨主張するが,
表2「各社のLLDPEプロセス比較」には,重合形式が「気相法」の
「流動床」であるプロセスとして,ナフサシミー社の方法も含まれるから,
ユニオンカーバイト社によるユニポール法が「気相法」の「流動床」のプ
ロセスとして唯一のものといえるものではない。
オなお,別件判決は,「平均粒径の定義・意味,測定方法を特定しなけれ
ば,平均粒径の意義は明確ではない」と明快に判示している。
()平均粒径の測定方法の特定3
ア原告は,甲13ないし甲16各文献を挙げて,本件出願時,「ふるい分
け法」が当業者間で技術常識であった旨主張する。
しかし,甲13及び甲14各文献の記載からは,これらのパンフレット
の特定の製品の粒径がふるい分け法により測定されたことが理解されるだ
けであって,このことから直ちに,本件発明のグラニュラー状物等の粒径
がふるい分けにより測定されるとはいえない。なぜならば,粒度測定法に
は,さまざまな測定法が存在し,例えば,乙1「表6・3よく利用され
る粒度測定の分類」(455頁)によれば,本件グラニュラー状物の平均
粒径のmm程度の大きさの粒子についてよく利用される測定法は,「計
数」のうちの2種,「ふるい分け」,「沈降速度」のうちの1種,「透過
性」のうちの1種があることが,本件触媒担体の平均粒径の数十から数百
μm程度の大きさのものについては,上記に加え,さらに,「沈降速度」
の2種,「慣性力」の2種,「吸着」の1種ないし2種があることが示さ
れているからである。
また,仮に,甲15文献(米国規格の「ASTMD1921」)及び
甲16文献(日本規格の「JISK0069」)が「粒子径分布を試験
するための一般的な方法」であり,その場合に,粒子径分布が「質量」基
準であるとしても,このことから直ちに平均粒径が「重量平均径」である
と特定されるものでもない。
したがって,甲13ないし甲16各文献をもって,本件発明のグラニュ
ラー状物等の平均粒径がどのようなものかを特定するものとはいえない。
イ原告は,甲17ないし甲23各公報に,「ユニポール法」という特定の
重合方法において,重合に用いられる触媒担体や生成ポリマーであるグラ
ニュラー状物の平均粒径が「ふるい分け法」によって測定されることが明
確に記載されており,あるいは,直接的に記載されていない場合であって
も十分に示唆されている旨主張する。
しかし,本件明細書の発明の詳細な説明には,「これらの担体,重合触
媒成分,重合方法は,・・・に説明されている。この重合方法はユニポー
ル法と呼ばれ,・・・,ユニポール法の装置を用いて,上記の特定条件で
製造され得るものである。」(段落【0013】)などと記載されている
だけで,粒径の測定法さえ記載されていない。また,上記のとおり,甲1
7ないし甲23各公報の記載を参酌したとしても,「ユニポール法」とは
いかなるものであるか明確でない上,仮に,甲17ないし甲23各公報に
記載された重合方法が「ユニポール法」であるとしても,甲第17ないし
甲20,甲22公報には,「ユニポール法」の装置には分配板が存在する
こと,限定されたメッシュの平均粒度のものが得られること及び粒子寸法
をふるい分け部の利用によって制御するための手段を有するものもあるこ
とが,甲21公報には,粒度はふるい分析によって測定することが,甲2
3公報には,その表1に,得られた粒子特性の識別試験結果,ふるい寸法
8,12,20,40,60,100メッシュにおける重量%及び平均粒
度の値が,それぞれ記載されているだけである。これらの証拠には,「ユ
ニポール法」の場合は,触媒担体及びグラニュラー状物の平均粒径は,必
ずふるい分け法により測定するとの記載も示唆もなく,自明であるとする
根拠もない
ウ原告は,「ユニポール法」の装置を用いて製造される場合におけるプラ
ント運転上の技術的な制約に照らすと,それらの粒径は,ふるい分け法に
よって測定されたものであることが,当業者の技術常識として明らかにな
る旨主張する。
しかし,気相流動床反応器において「特定寸法の孔を通過できるか否
か」とは,技術的には触媒担体やグラニュラー状物の個々の粒径が特定寸
法の孔より小さければそこを通過し,大きければ通過できないことをいう
にすぎず,そのことが,触媒担体やグラニュラー状物の粒径をふるい分け
法で測定することに直ちにつながるものではない。平均粒径という大小種
々の粒子を包含する粒子の集合体における粒径を平均した値とは関係ない
ものである。したがって,「特定寸法の孔を通過できるか否か」のプラン
ト運転実態は,この平均粒径をふるい分け法によって測定するとする根拠
にはならず,平均粒径を特定のものとする根拠にもならない。
2取消事由2(旧36条4項違反の判断の誤り)について
本件明細書の記載において不明な限定を含み,旧36条4項の実施可能要件
を充足しないことは,前記1に照らして明らかであるから,決定の判断に原告
主張の誤りはない。
第5当裁判所の判断
1取消事由1(旧36条5項2号及び6項違反の判断の誤り)について
()決定は,本件発明1ないし4において,その発明の構成に欠くことができ1
ない事項として,本件担体及び本件グラニュラー状物の平均粒径を特定の範
囲に限定しているが,単に平均粒径と記載しただけでは,いずれの粒度の測
定法によるもので,いずれの意味の平均粒径かは不明であり一義的に決まる
ものではないとの理由で,「そのような不明な限定を含む本件発明1∼4は,
その特許請求の範囲が,特許を受けようとする発明の構成に欠くことができ
ない事項のみを記載した項に区分しているとはいえ」(決定謄本3頁第6段
落)ないと判断しているのに対し,原告は,重合方法の側面からも,平均粒
径の測定方法の面からも十分に特定されているとして,決定の上記判断が誤
りである旨主張するので,検討する。
()重合方法の特定2
ア「平均粒径」の一般的な意味についてみると,昭和39年2月15日共
立出版株式会社第1刷発行「化学大辞典8縮刷版」(乙3,以下「乙3文
献」という。)の「へいきんりゅうけい平均粒径」の項には,「2種以
上の粒径をもつ粒子群の代表径のことをいう。平均粒径(または平均径)
の表わし方はきわめて数多くあって・・・平均粒径には1)粒子の全個数
から直接的に求める方法・・・と,2)分布関数形から間接的に求める方
法・・・と,3)粒子群の任意の特性値から換算する方法・・・との三つ
がある。したがって平均のとり方によって粒径は著しく異なるのが普通で
あるから注意を要する。平均粒径を考える場合のもう一つの問題は,個々
の粒子の粒径としてどこの長さを使用したかという点である。種々の形状
を有する粒子の大きさを,粒径という一変数で表現するのであるから,測
定の方法や目的に応じて適当な約束をしておく必要がある。これには個々
の粒子について数個所の長さを平均した値を使用する平均径の一群(2軸
平均径など),特殊な定義による一群(定方向径など)のほかに相当直径
と称する一群がある。たとえば,その粒子と同体積の立方体の一辺の長さ
をもって粒径とするものを立方体相当径という。ストークス径も相当直径
の一種であって,その粒子がストークスの法則に従いつつ流体中を沈降す
る速度をuとするとき,同じくuで沈降する同じ密度の球の直径を粒径と
するもので,沈降径ともいう。」との記載がある。
また,昭和54年5月12日丸善株式会社発行「粉体−理論と応用−」
(改訂二版)(乙1,以下「乙1文献」という。)には,「6・2・1粒
度測定法の分類と選択」の見出しの下に,「現在,よく利用されている粒
度測定装置を原理的に分類すると表6・3のようになる。これらの中で原
理的に同じ方法でも後述するようないろいろの装置があり,それぞれ特長
を有しているから,試料の性質,測定の目的,必要な測定精度などについ
て充分検討した上で選定しなければならない。だいたいの粒度を知るため
にはよく行なわれているように適当な目開きのふるいを全通するとか,ふ
るい上残量何%という表現でよいこともあるし,精密な装置で時間をかけ
て詳細な粒度分布を求める必要がないことが多い。一般的な粒度測定法を,
試料の状態,要求される測定精度,試料の粒度範囲などによって分類する
と表6・4のようになる。」(454頁)とした上,表6・3の「測定方
法」欄に,光学顕微鏡,電子顕微鏡,コールターカウンター,光散乱(O
WL),ふるい分け,重力沈降法,遠心沈降法,光透過法等の記載があり,
昭和63年6月10日株式会社テクノシステム発行「最新粉体の材料設
計」(乙2,以下「乙2文献」という。)には,「普通の統計における分
布の平均値と違って粉体で用いる平均径は対象によって変わり,目的に対
して適当な平均径を用いなければ意味がない。すなわち,粒度が概念であ
るのに対して,平均粒子径はその物理的意味が明らかであり,個数,面積,
重量など主として測定法の原理によってきまる値と,粉体の特性の中の何
が関係しているかという現象の意味によって平均径の計算式を選ばねばな
らない。表3.3に個数基準分布に対する平均径の名称と記号と計算式,
それと共通の次元となる面積および重量基準分布の平均粒子径の対照を示
してある。長さ基準分布は数学的に次元をあわせるだけの意味で記載して
あるが,実際に適用できる現象や測定法がないから意味がない。」(10
5頁)とした上,表3.3の「個数基準分布の平均粒子径」の「名称」欄
に,長さ平均径,面積長さ平均径,体面積平均径,重量平均径,面積平均
径,体積平均径との記載がある。
イ上記各記載によれば,決定の指摘するとおり,一般論として,「平均粒
径には・・・長さ平均径,面積長さ平均径,体面積平均径,重量平均径,
面積平均径,体積平均径と様々な種類があり,同一の分布の粉体の系でも
その数値は異なるものとなる。さらに,その平均粒径の計算の基礎となる,
粒度の測定法にも・・・顕微鏡法,コールカウンター,ふるい分け法,沈
降法,沈降分級法,遠心沈降法,慣性力法,電磁波散乱法,その他,多数
のものが知られている。」(決定謄本3頁第3ないし第4段落)ことが認
められるが,例えば,乙1文献において,「これらの中で原理的に同じ方
法でも後述するようないろいろの装置があり,それぞれ特長を有している
から,試料の性質,測定の目的,必要な測定精度などについて充分検討し
た上で選定ししなければならない。」とされているとおり,平均粒径は,
原理,試料の性質,測定の目的,必要な測定精度等によって初めて特定が
可能となるものであり,これらの要因を抜きにして「平均粒径」という用
語自体を議論しても何らの意味もないものであるということができる。
ウ本件においても,本件明細書の特許請求の範囲請求項1において,「平
均粒径」の語は,それ自体,抽象的な用語として存在するものでないこと
は明らかであり,特許請求の範囲の構成要素として,本件発明の技術的思
想を表現するための語句として存在するのであるから,特許請求の範囲の
記載を含む本件明細書の検討を抜きにして,すなわち,当該平均粒径の計
測の前提となる原理,試料の性質,測定の目的,必要な測定精度等を検討
することを抜きにして,「平均粒径」の技術的意義が特定されているか否
かを決することはできない。
より具体的にいうと,本件発明1は,「密度0.910∼0.935g
/ml,メルトインデックス0.1∼5g/10分の直鎖状低密度エチレ
ン−α−オレフィン共重合体に不飽和アルコキシシラン,有機過酸化物を
配合した後,押出機中で有機過酸化物の分解温度以上に温度を上げて製造
された水架橋性不飽和アルコキシシラングラフト直鎖状低密度エチレン−
α−オレフィン共重合体」という物の発明であって,原料となる「直鎖状
低密度エチレン−α−オレフィン共重合体」として,「比表面積50∼1
000m/g,平均粒径50∼200μm,細孔直径50∼200Åの2
無機酸化物多孔体からなる担体に酸化クロムを含有する重合触媒成分を担
持させた重合触媒と,エチレン80∼98重量部およびα−オレフィン2
0∼2重量部からなるモノマー流体とを,気相流動床反応器中で,30∼
105℃の温度,5∼70気圧の圧力,1.5∼10のGmfの条件で接
触させて得た比表面積500∼2000cm/g,かさ密度0.2∼0.2
5g/ml,平均粒径0.5∼1.5mmのグラニュラー状物を使用する
こと」を特徴とするものである。すなわち,本件発明に係る原料の一つで
ある「直鎖状低密度エチレン−α−オレフィン共重合体」を,特定の条件
の下で,本件重合方法を用いてグラニュラー状物とし,所定の反応を経て
「水架橋性不飽和アルコキシシラングラフト直鎖状低密度エチレン−α−
オレフィン共重合体」を製造するというものである。
ここに,本件重合方法である「重合触媒成分を担持させた重合触媒と,
エチレン・・・およびα−オレフィン・・・からなるモノマー流体とを,
気相流動床反応器中で,・・・の条件で接触させて」との記載が,それ自
体で明確であることは,被告も認めるところであるが,本件において問題
とされている「・・・平均粒径50∼200μm・・・の無機酸化物多孔
体からなる担体」及び「・・・平均粒径0.5∼1.5mmのグラニュラ
ー状物」は,本件重合方法に使用される本件担体及び本件グラニュラー状
物の平均粒径を示しているものであるから,本件重合方法がどのような技
術的意義を有するものであるか,平均粒径の測定の前提となる原理,試料
の性質,測定の目的,必要な測定精度等が開示されているかの検討を抜き
にして,本件発明に係る平均粒径を論ずることはできない。
エところが,決定は,「本件発明1∼4の特許を受けようとする発明の構
成に欠くことができない事項として,触媒担体及びグラニュラー状物の平
均粒径を特定の範囲に限定している。しかしながら,特許明細書において,
この平均粒径については,数値は記載されてはいるものの,その測定法に
ついてはなんらの記載もない。」(決定謄本3頁第1ないし第2段落)と
するが,本件明細書において,この平均粒径の測定法についての記載があ
るか否かのみを問題にしており,平均粒径の測定の前提となる原理,試料
の性質,測定の目的,必要な測定精度等の検討は,全くしておらず,それ
にもかかわらず,短絡的に,「平均粒径には・・・長さ平均径,面積長さ
平均径,体面積平均径,重量平均径,面積平均径,体積平均径と様々な種
類があり,同一の分布の粉体の系でもその数値は異なるものとなる。さら
に,その平均粒径の計算の基礎となる,粒度の測定法にも・・・顕微鏡法,
コールカウンター,ふるい分け法,沈降法,沈降分級法,遠心沈降法,慣
性力法,電磁波散乱法,その他,多数のものが知られている。・・・単に
平均粒径と記載しただけでは,いずれの粒度の測定法によるもので,いず
れの意味の平均粒径かは不明であり一義的に決まるものではない。」(同
頁第3ないし第5段落)と結論付けているのみであるから,判断手法にお
いて,そもそも失当であるというほかない。
オ原告は,甲5文献を例示して,本件重合方法がユニオンカーバイト社に
おいて開発した「ユニポール法」であることは,本件出願時,当業者にお
いて技術常識であった旨主張するので,本件重合方法がどのような技術で
あるかについて,甲5文献について検討すると,同文献には次の記載があ
る。
(ア)「1.LLDPEの生い立ち最近のプラスチック関係のニュースを
見ていると,LLDPE(注,直鎖低密度ポリエチレン(Linear
LowDensityPolyethylene)の活字がいや
でも目につくが,その内容は漸く製造を中心とした記事から,物性,加
工,製品に関するものに焦点が移行してきている。この端緒となったの
はUCC(注,ユニオンカーバイド社,以下「ユニオンカーバイト社」
という。)の気相重合法に関する発表(1977年)・・・であり,比
較的最近のことである。特にUCCのそれは従来法に比し,設備費が1
/2,エネルギー使用が1/4ですむという衝撃的なものであった。し
かし,これらの技術は突如として現われたものでなく,HDPEが工業
的に製造されるようになった初期の時代から,既に中密度品ではあるが
商品として市場に出ており,低密度品についても製造技術は保有されて
いた。それがあまり問題にされなかったのは,製造コスト面で当時はそ
れほど有利と言えなかったことと,LDPE,HDPEの量的な優位の
中で,物性,加工性の異なるLLDPEを受入れる素地がなく,市場に
滲透できなかったことによる。それが技術革新によるコストダウン,エ
ネルギーコストの急変,建設費の高騰などで様相が一変し,増設ラッシ
ュに加えてLDPE,HDPE設備の転用が真剣に検討され始めている。
成形加工メーカ一側でも,このような趨勢下,いやでもその特性に合わ
せた加工機械や加工法の開拓,製品開発などに積極的に取組まざるをえ
ず,今や完全に立場は逆転したと言える。」(63頁中欄第2段落)
(イ)「1.2.1触媒効率の向上・・・チーグラー系触媒では,Mg
担体にTi化合物を担持することにより,フィリップス系触媒では担体
の改良と,担持したCr化合物を温水抽出で不活性部分を除去し,担持
量を減らすことにより,それぞれ触媒効率を飛躍的に向上させることが
可能となった。」(64頁左欄第2段落)
(ウ)「1.4LLDPE設備の現状と将来計画表2に製法別の各社の
商業化又は開発中のプロセスを示す。・・・UCCはEXXONに技術
ライセンスしたほか積極的に海外で合弁その他によリプラントの建設を
企てている・・・」(同頁右欄最終段落ないし65頁右欄第1段落)
(エ)「1.5.1UCC(<UNIPOL>法)HDPEの気相重合に
先鞭をつけたのはPHILLIPSで,その特許は1954∼58年に
かけて出願されている。しかし商業化に最初に到達したのはUCCであ
り,1968年8月13,600ton/年の規模で操業を開始した。
・・・流動床を採用しているが,反応熱の除去はガスの顕熱が主体であ
るため,相当量の未反応エチレンを循環する必要がある。上部からの粉
体の飛散を防止するため,特許に現われたリアクタの形状は最近に至る
まで上部を拡大することで対処していた(図4())。これらの問題点a
を同時に解決するものとして.冷却用の熱交をリアクタ内の下部に取付
けたものが出願されている(図4())。」(同欄最終段落ないし66頁b
左欄第1段落)
(オ)「触媒は・・・有機Cr化合物を・・・担持したもののようであるが
・・・二元系のものが特にLLDPE用として出願されていることから,
より低密度化をうるためには,Cr系単独では限界があるように思われ
る。製品の粒度分布,粒子形状,表面状態,低分子量品の多少が粉体流
動性に大きく影響するが,これは触媒の調製法に依存する。UCCはペ
レット化せずにそのまま使用できる製品の開発に注力している。現在市
販されている粉状製品の粒度分布の一例を表4に示す。」(同欄最終段
落ないし右欄第1段落)
(カ)表2には,「各社のLLDPEプロセス比較」の見出しの下に,「気
相法」で「流動床」の重合形式のものとして,UCC及びナフサシミー
が挙げられているが,UCCのプロセスでは,触媒としてCr化合物を
担持する触媒(フィリップス系)であるのに対し,ナフサシミーのプロ
セスでは,触媒としてMg担体にTi化合物を担持する触媒(チーグラ
ー系)であり,また,UCCのプロセスのみが商業生産レベルに達して
いたことが示されており,図4()及び()に,ユニポール法のリアクタab
が示されており,前者は従来法,後者は,リアクタの下部に冷却用熱交
換器を取り付けた改良法である。
カ甲5文献の上記記載によれば,昭和56年5月の時点で,その4年前の
1977年(昭和52年)に,ユニオンカーバイト社が直鎖低密度ポリエ
チレン(LLDPE)の気相重合法に関する発表を行ったこと,その技術
は,従来法に比して設備費及びエネルギー使用を大幅に低減するものであ
ったため,業界に衝撃を与えたこと,ユニオンカーバイト社の上記気相重
合法は,「ユニポール法」と呼ばれており,気相流動床反応器を採用し,
触媒として有機Cr化合物を担持したものを使用していること,ユニポー
ル法と同様に気相流動床反応器による重合法として,ナフサシミー社のも
のがあったが,触媒としてMg担体にTi化合物を担持させたものを使用
しており,また,甲5文献が発行された当時プラントとして稼働する段階
には至っていなかったことが認められる。
そうすると,ユニオンカーバイト社のユニポール法は,昭和56年5月
の時点で,気相流動床反応器により直鎖低密度ポリエチレン(LLDP
E)を工業生産する唯一の方法として,当業者の間において周知となって
いたものというべきである。そして,本件重合方法は,気相流動床反応器
で,有機Cr化合物を担持した触媒担体を使用する,上記周知のユニポー
ル法を重合の原理とするものであったことが認められる。
キなお,被告は,甲5文献は,本件出願時である平成6年11月15日よ
り13年以上前の昭和56年5月の文献であり,しかも,原告の引用した
記事は,三井石油工業特許部の一従業員による特別記事にすぎないのであ
って,一般化できるものではないし,その後の急速な技術発展を考慮した
だけでも,これが本件出願時の技術常識といえるものではないと主張する。
しかし,甲5文献は,ある特定の会社の一従業員による特別記事である
が,その内容は,「ポリオレフィンの省エネルギー重合プロセスとそれに
よる材料特性−LLDPE,バルク重合法PPを中心に−」との表題の
下で,冒頭に,「本稿では紙面の関係から,その中でも進歩の著しいLL
DPEとバルク重合法PPに焦点を当てて紹介することとしたい。」と記
載されているとおり,個人的な技術成果を論じているのではなく,本件発
明の技術分野及びその関連分野におけるポリオレフィンの重合プロセスの
発展の歴史について解説しているものであり,その中で,4年前にユニオ
ンカーバイト社が公表したユニポール法についても述べていることが明ら
かである。
したがって,当該記事の内容は,そもそも,一般的な事項に関するもの
であるから,特別記事にすぎないとか一般化できるものではないとかいう
ことは,問題になり得ないのである。
また,13年以上前の文献であれば,そこに記載されている事実が周知
となるのが通常であり,その後の急速な技術発展があれば,単に陳腐な技
術常識となるだけであって,13年以上前に周知であった技術事項が,本
件出願時に周知でなくなっていることをうかがわせる特段の事情も見当た
らない。
クその他,被告は,本件明細書の特許請求の範囲請求項1の「重合触媒成
分を担持させた重合触媒と,・・・モノマー流体とを,気相流動床反応器
中で,・・・の条件で接触させて」との本件重合方法の記載は,それ自体
で明確であるから,これが「ユニポール法」であると限定解釈する余地は
ないとも主張する。
しかし,上記のとおり,本件重合方法がユニポール法であるかの検討は,
本件重合方法を限定するものではなく,本件重合方法の原理を明らかにす
るためのものであるから,本件重合方法がユニポール法であることが限定
解釈に当たるとする被告の主張は,失当というほかない。
また,被告は,表2「各社のLLDPEプロセス比較」には,重合形式
が「気相法」の「流動床」であるプロセスとして,ナフサシミー社の方法
も含まれるから,ユニオンカーバイト社によるユニポール法が「気相法」
の「流動床」のプロセスとして唯一のものといえるものではない旨主張す
る。
しかし,ここで問題とされているのは,本件重合方法が周知の重合方法
であるユニポール法であるか否かであって,気相流動床反応器を使用した
重合方法がユニポール法以外にあり得たとしても,そのことは,本件重合
方法が気相流動床反応器によるユニポール法の原理を利用したものである
との上記認定を左右するものではない。
()平均粒径の測定方法の特定3
アさらに,本件明細書について検討すると,その発明の詳細な説明には,
次の記載がある。
(ア)「【産業上の利用分野】本発明は,水架橋性不飽和アルコキシシラン
グラフト直鎖状低密度エチレン−α−オレフィン共重合体の製造方法お
よび水架橋成形物に関する。本発明の水架橋成形物は,各種パイプ,ホ
ース,電線ケーブル,シート,フィルム,鋼管複合体,鋼板複合体,発
泡体,テープ,各種成形品,電子部品,機械部品,運動用具等として利
用される。」(段落【0001】)
(イ)「【従来の技術】・・・一つの押出機に,全ての原料(ポリオレフィ
ン系樹脂,不飽和アルコキシシラン,有機過酸化物,酸化防止剤,シラ
ノール縮合触媒,その他の添加剤等)を投入し,これらの成分のすべて
を押出機の胴部の最初の部分で混合し,混合が完了したならば該混合物
を同一押出機の胴部の次の部分で不飽和アルコキシシランがポリオレフ
ィン系樹脂にグラフト縮合を完了するまで加熱し,その後シラン変性ポ
リオレフィン系樹脂と他の添加剤を同一押出機の最後の部分で均一に混
練し,ダイより押出し成形物とする,いわゆる1工程Monosil法
が開発された(特公昭58−25583号公報参照)。この方法は,一
工程であり,コストダウンとなり現在は,この方法により水架橋成形物
が大量に製造されている。主原料としてのポリオレフィン系樹脂として
は,高圧法低密度ポリエチレン,高密度ポリエチレン,中密度ポリエチ
レン,直鎖状低密度エチレン−α−オレフィン共重合体,ポリプロピレ
ン,・・・等各種あり,これらは機械的強度,柔軟性,耐熱性等が異な
るので,それぞれの有利な物性をいかして,特定の用途分野に水架橋成
形物として使用されている。しかしながら,これらの各種ポリオレフィ
ン系樹脂は,溶融温度がそれぞれ異なるため,同一条件で全ての不飽和
アルコキシシラングラフト体が製造できるものではない。中でも,ポリ
プロピレン,高密度ポリエチレン,直鎖状低密度エチレン−α−オレフ
ィン共重合体は,それぞれ溶融温度が約160℃,130℃,120℃
と高く,これらの原料形態であるペレット(直径3∼5mm,高さ3∼
5mmの円柱状体)に,不飽和アルコキシシランを2∼5重量%混合し
て,樹脂の溶融温度以上で押出機で混練してグラフト反応を進行させよ
うとすると,不飽和アルコキシシランは粘度の低い液体となり,一部は
気体となっているので,樹脂の混練を妨害し,均一なシラングラフト体
は得られず,品質の良好な水架橋物は製造できなかった。特に,直鎖状
低密度エチレン−α−オレフィン共重合体は,ポリプロピレン,高密度
ポリエチレンに比較し,価格が低く,柔軟性,耐衝撃性,低温特性にす
ぐれているので,電線ケーブルの被覆材,絶縁材,パイプ用の素材とし
て採用が待ち望まれているが,上記の製造上の制約のため,これを用い
た工業製品は今まで生産されていない。」(段落【0002】ないし
【0005】)
(ウ)「【発明が解決しようとする課題】上記したように,直鎖状低密度エ
チレン−α−オレフィン共重合体は,ペレットの製品形態で市販されて
いるが,これを用いて水架橋成形物をつくることは困難であり,これま
で,これを用いた水架橋成形物は工業的にはつくられていなかった。そ
こで,本発明は,低価格ですぐれた特性を有する直鎖状低密度エチレン
−α−オレフィン共重合体を原料として高品質の水架橋性不飽和シラン
グラフト直鎖状低密度エチレン−α−オレフィン共重合体を製造する方
法,該方法に使用し得る直鎖状低密度エチレン−α−オレフィン共重合
体および前記水架橋性グラフト共重合体から得られる水架橋成形物を提
供することを課題とする。」(段落【0006】)
(エ)「【課題を解決するための手段】本発明者は,直鎖状低密度エチレン
−α−オレフィン共重合体のペレットを用いて,不飽和アルコキシシラ
ンをグラフトした場合,不飽和アルコキシシランがペレットの滑剤とし
て作用し,両者の混練が均一に行われないことに着目し,ペレット形態
ではなく,不飽和アルコキシシランが吸収されやすい形態にすれば良好
な結果が得られることに想到し,検討を重ねたところ,直鎖状低密度エ
チレン−α−オレフィン共重合体の重合触媒および重合条件を選択して,
比表面積が大きく細孔多孔質のグラニュラー状物として用いることによ
り,上記課題が解決できることを見出し,さらに検討を加え本発明を完
成させた。」(段落【0007】)
(オ)「本発明の直鎖状低密度エチレン−α−オレフィン共重合体は,上記
のように,密度0.910∼0.935g/ml,メルトインデックス
0.1∼5g/10分のもので,かつ特定性状のグラニュラー状物の形
態にあるものである。該共重合体は,密度が0.910g/ml未満で
あると耐熱性が劣り,0.935g/mlを越えると柔軟性,可撓性,
低温特性が悪くなり望ましくない。・・・上記グラニュラー状物の製造
に用いられる無機酸化物(担体)としては,シリカ,アルミナ,トリア,
ジルコニアおよびこれと類似のその他の無機酸化物,およびこれら酸化
物の混合物を包含する。また,重合触媒成分としては,酸化クロム,シ
ランで変性したビス(シクロペンタジエニル)クロム(II),マグネ
シウム−チタン複合体等が挙げられる。」(段落【0012】)
(カ)「これらの担体,重合触媒成分,重合方法は,本願出願人が技術導入
したアメリカ合衆国,ユニオンカーバイト社を出願人とする特公昭50
−32110号,同52−45750号,同53−8666号,同56
−18132号,同56−22444号,同61−363号,同61−
26805号等の公報に詳細に説明されている。この重合方法はユニポ
ール法と呼ばれ,本願出願人の川崎工業所内にて操業中のものであり,
本発明に用いるグラニュラー状物は,ユニポール法の装置を用いて,上
記の特定条件で製造され得るものである。上記製造条件を外れると,本
発明に使用し得るグラニュラー状物は製造できず望ましくない。・・・
本発明において用いるグラニュラー状物は,比表面積500∼2000
cm/g,かさ密度0.2∼0.5g/ml,平均粒径0.5∼1.2
5mmのものである。・・・平均粒径が0.5mm未満であると,不飽
和アルコキシシランの吸収がよすぎて,かえって均一なグラフト体が得
られず,1.5mmを越えると,グラニュラー状物の形状が不統一にな
り,均一なグラフト体が得られず,望ましくない。」(段落【001
3】ないし【0014】)
(キ)「実施例1〔グラニュラー状物の調製〕比表面積300m/g,2
平均粒径70μm,細孔直径100Åの多孔質シリカ担体に三酸化クロ
ム,チタン酸テトライソプロピル,(NH)SiF等を担持させた426
重合触媒を用いて,ユニポール法気相流動床中で,エチレン90重量部,
ブテン−110重量部からなるモノマー流体を流動床下方より上方に
向けて流動させ,温度90℃,25気圧,Gmf5の条件で重合し,比
表面積1000cm/g,かさ密度0.4g/ml,平均粒径0.82
mmのグラニュラー状物を得た。これはエチレン−ブテン−1共重合体
からなり,密度は0.920g/ml,メルトインデックスは0.8g
/10分であった。」(段落【0022】)
イ上記記載,特に「本発明に用いるグラニュラー状物(注,本件グラニュ
ラー状物)は,ユニポール法の装置を用いて,上記の特定条件で製造され
得るものである。上記製造条件を外れると,本発明に使用し得るグラニュ
ラー状物は製造できず望ましくない。」(上記ア(カ))との記載によれば,
本件グラニュラー状物は,ユニポール法の装置を用いて,特許請求の範囲
記載の特定条件で製造され,その条件以外では製造できないというのであ
るから,本件重合方法の原理がユニポール法によるものであることは,明
らかである。そして,「ユニポール法」については,「これらの担体,重
合触媒成分,重合方法は,本願出願人が技術導入したアメリカ合衆国,ユ
ニオンカーバイト社を出願人とする特公昭50−32110号,同52−
45750号,同53−8666号,同56−18132号,同56−2
2444号,同61−363号,同61−26805号等の公報に詳細に
説明されている。この重合方法はユニポール法と呼ばれ,本願出願人の川
崎工業所内にて操業中のもの」(同)であるとされている。
ウそこで,本件明細書の発明の詳細な説明に掲載されている「ユニオンカ
ーバイト社を出願人とする特公昭50−32110号,同52−4575
0号,同53−8666号,同56−18132号,同56−22444
号,同61−363号,同61−26805号等の公報」,すなわち,甲
17ないし甲23各公報によって,ユニポール法の「担体,重合触媒成分,
重合方法」を検討する。
(ア)重合方法
甲17公報は,「オレフィン単量体の接触重合に関する」(1頁2欄
下から第4段落)発明であるが,「流動床式反応器でエチレンの如きα
−オレフィンを本発明の触媒で重合することは,次の説明及び本発明の
実施に使用できる流動床式反応器の概略的操作を例示する添付図面を参
照することによつて容易に理解することができる。本発明の触媒を用い
ると,流動床式反応器について以下に記載した条件下で,エチレンホモ
重合体及びエチレンと3∼約8個の炭素原子を含むα−オレフィン・・
・との重合により形成される重合体を製造することができる。また,流
動床式反応器ではランダム共重合体並びに特殊重合体も製造することが
できる。」(8頁16欄第2ないし第4段落)との記載があり,その添
付図面として,甲5文献の図4()と同様の図面(ユニポール法の従来a
法リアクタ)が示されていること,上記図面について,「さて図面を説
明すると,反応器10は反応帯域12及び減速帯域14より成る。反応
帯域12は,補充供給及び再循環ガスの形態で反応帯域を通る重合性及
び変性用ガス状成分の連続流れによって流動化された生成する重合体粒
子と,生成した重合体粒子と,少量の触媒との床を含む。・・・床は,
局部的な“ホットスポット”の形成を防止し又本発明の粉末触媒を反応
帯域に閉じ込め且つ分配させるために帯に粒子を収容していることが必
須である。操作開始に当たっては,ガスの流れを開始させる前に反応帯
域には通常粒子状重合体粒子の底が詰め込まれる。・・・最後に,出発
時の床は所望の粒子の流動床によって置き換えられる。」(9頁17欄
第2段落ないし第4段落),「流動床は,ガスの床への浸透によって作
られる如き恐らくは自由渦巻流れにおける密度の大きいかたまりの生長
性粒子のおよその外観を有する。」(同頁18欄第2段落),「完全な
流動化を確保するために,再循環ガス及び所望ならば補給ガスの一部分
が床より下方・・・で反応器に戻される。その復帰点の上方には床の流
動化を補助するためのガス分配板20がある。」(同頁18欄第4段
落),「分配板20は,反応器の操作において重要な役割を演じる。流
動床は,生長する重合体粒子及び形成された粒子状重合体並びに触媒粒
子を含む。」(10頁19欄第2段落)との記載がある。また,「触媒
種は,無機酸化物担体に付着させた有機金属ビス(シクロペンタジエニ
ル)クロム(Ⅱ)化合物より成る。」(3頁6欄下から第2段落)との記
載がある。
甲18ないし甲23各公報においても,重合方法の原理は,同様であ
ると認められる。
そうすると,ユニポール法は,気相流動床式反応器の反応帯域におい
て,粉末触媒と重合体粒子(エチレン,α−オレフィン)とを流動化の
下で接触して重合反応を行わせるものである。
(イ)担体,重合触媒成分等
①甲17公報には,「本発明に従って無機酸化物担体上で触媒として
使用できるビス(シクロペンタジエニル)クロム(Ⅱ)化合物は,米国
特許第2,870,183号及び同第3,071,605号に開示さ
れる如くして製造し得る。かかる有機金属化合物用の担体として使用
できる無機酸化物物質は,大きい表面積,即ち,約50∼約1,00
0m/gの範囲内の表面積を有する物質である。使用することので2
きる無機酸化物は,シリカ,アルミナ,トリア,ジルコニア及び他の
匹敵する無機酸化物,並びにかかる酸化物の混合物を包含する。」
(4頁7欄下から第3ないし第2段落),「多孔性キャリアに強還元
剤及びシラン変性ビス−(シクロペンタジエニル)クロム(Ⅱ)を付
着させることによって製造される」(8頁16欄最終段落),「本発
明の担持触媒系は,・・・約40∼100メッシュの平均粒度を有す
る流動床生成物を生成する。」(11頁21欄第4段落)との記載が
ある。
②甲18公報には,「シリカ,アルミナ,トリア,ジルコニア及び類
似物の如き多孔質担体のほかに,カーボンブラック,微晶質セルロー
スの如き他の担体,非スルフォン化イオン交換樹脂ならびに同等物が
用いられ得る。」(5頁9欄末行ないし10欄第1段落),「一般に
粉末触媒物質は最大直径で約0.010−0.030in(0.25
−0.33mm)の範囲の粒子径を持つ。」(同欄下から第3段落),
「最大直径0.010in(0.25mm)を有する細分固体触媒物
質を含有するガス流を,重合性オレフィンを収めた反応帯域へ導入し,
その際に該ガス流を内径0.030−0.125in(0.76−3.
2mm)を持つ細長い円筒状帯域を通して該反応領域へ導入し」(同
欄末行ないし6頁11欄第1段落)との記載がある。
③甲19公報には,5頁9欄最終段落ないし10欄第1段落,同頁1
0欄下から第3段落,同欄最終段落ないし6頁11欄第1段落に,上
記②と同様の記載がある。
④甲20公報には,「本発明の方法に使用される触媒は酸化クロム
(CrO)担持触媒であって,一般的には,適当なクロム化合物,3
チタン化合物及びふっ素化合物を乾燥担体に担持させ・・・形成され
るものである。クロル化合物及びチタン化合物は通常はそれらの溶液
より担体上に担持され,またふっ素化合物は通常は担持されたチタン
及びクロム化合物と,活性化工程後に触媒中にCr,Ti及びFの所
望量を与えるような量で,乾式配合される。各化合物が担体上に担持
され,活性化された後に,粉末状の自由流動性の粒状物質を生じ
る。」(4頁7欄第4段落),「本発明の触媒組成物において担体と
して使用し得る無機酸化物物質は,高い表面積,即ち50∼約100
0m/gの範囲内の表面積及び50∼200μの粒度を有する多孔2
質物質である。使用し得る無機酸化物は,シリカ,アルミナ,トリア,
ジルコニア及びその他のこれと類似の無機酸化物,そしてこれらの酸
化物の混合物を包含する。」(5頁9欄第3段落),「第一の実験で
は,0.075重量%のCrと4.4重量%のTiをシリカ担体上に
有する触媒Aを調製した。・・・シリカⅠとⅡはまず270メッシュ
の篩で篩別して53μ以上の直径を有する粒子を除外し,50μより
も小さい平均粒度のものにした。」(14頁27欄第2ないし第3段
落)との記載がある。
⑤甲21公報には,「本発明の好ましい触媒組成物は,上記の弗化物
処理シリカ担体に該触媒組成物の総重量を基にして0.1∼15重量
%の有機クロム化合物を付着させたものである。より好ましい触媒組
成物は,前記担体上に0.5∼10重量%の有機クロム化合物を有す
る。本発明の触媒組成物において担体として使用することのできるシ
リカは,高い表面積即ち50∼1000m/gの範囲内の表面積及2
び25∼200ミクロンの粒度を有する多孔質物質である。」(3頁
5欄第2ないし第3段落),「弗化物処理シリカ担体にクロモセン化
合物を付着させてなるエチレン重合触媒」(5頁10欄第2段落)の
粒度について,「粒度は,ふるい分析によって測定されそして直径の
in単位で表わされた。」(同欄下から第3段落)との記載がある。
⑥甲22公報には,「担体物質は,触媒組成物のその他の成分及び反
応系のその他の活性成分に対して不活性な固体粒状物質である。これ
らの担体物質は,けい素やアルミニウムの酸化物及びモレキュラーシ
ープのような無機物質,そしてポリエチレンの如きオレフイン重合体
のような有機物質を含有する。担体物質は,約10∼250μ,好ま
しくは約50∼150μの平均粒度を有する乾燥紛末の形態で用いら
れる。」(6頁11欄最終段落ないし12欄第1段落)との記載があ
る。
⑦甲23公報には,「担体物質は,触媒組成物の他の成分および反応
系の他の活性成分に付活性な多孔質固体の粒状物質である。これらの
担体物質には,酸化けい素および(又は)酸化アルミニウムの如き無
機物質が包含される。担体物質は,約10∼250μ好ましくは約5
0∼150μの平均粒度を有する乾燥粉末形状で用いられる。」(7
頁13欄下から第2段落),「反応器を操作する際,分配プレート2
0が果たす役割は重要である。流動層には,生長中の粒状ポリマーな
いし形成せるポリマー粒子と触媒粒子が含まれる。ポリマー粒子が熱
く,恐らくは活性状態にあるとき,それが沈降しないようにせねばな
らない。・・・それ故,層の基部において流動化を保持するのに十分
な流量で循環気体を層内に拡散させることは重要である。分配プレー
ト20はこのために役立ち,而してそれはスロット付きの篩プレート,
有孔なプレート,泡鐘型プレート等とすることができる。」(10頁
19欄第2段落)との記載があり,13頁の表Ⅰには,エチレンとブ
テン1とを共重合させた実施例の特性値が示されており,「篩別試験
(重量%)」欄には,「ふるい寸法」として,「8メッシュ」,「1
2メッシュ」,「20メッシュ」,「40メッシュ」,「60メッシ
ュ」,「100メッシュ」における試験結果が示されている。
上記記載,特に,「約40∼100メッシュの平均粒度を有する流動
床生成物を生成する」(甲17公報),「最大直径で約0.010−
0.030in(0.25−0.33mm)の範囲の粒子径」(甲1
8,甲19公報),「シリカⅠとⅡはまず270メッシュの篩で篩別
して53μ以上の直径を有する粒子を除外し」(甲20公報),「粒
度は,ふるい分析によって測定され」(甲21公報),「ふるい寸
法」(甲23公報)によれば,測定方法は「ふるい分け法」であるこ
とが明記されており,甲22公報の「平均粒度を有する乾燥紛末」も
同様であると推認される。
(ウ)上記(ア)及び(イ)の記載によれば,甲17ないし甲23各公報には,触
媒担体と重合生成物の平均粒径は,「ふるい分け法」によって測定され
るものと認められる。そして,甲17ないし甲23各公報に接した当業
者においても,気相流動床式反応器の下で,すなわち,ユニポール法の
装置の下で,触媒担体と重合生成物の平均粒径は,「ふるい分け法」に
よって測定されるものと直ちに理解することができるものである。
エ念のため,甲15ないし甲18各文献をみると,本件出願前に頒布され
た刊行物である甲15文献は,米国材料試験協会(ASTM)発行「AN
SI/ASTMD1921−63(Reapproved197
5)」(1975年〔昭和50年〕改定)であるところ,「プラスチック
材料の粒子径(ふるい分析)標準測定法」との見出しの下で,「本法は,
一般に供給される粉体,グラニュラー体(顆粒体)あるいはペレット体の
形態を有するプラスチック材料の顆粒径の測定を規定する。」と記載され
ている。また,甲16文献は,日本規格協会発行「JISK0069」
であるところ,「化学製品のふるい分け試験方法」との見出しの下で,適
用範囲の欄に,「この規格は,ふるい分けによって粒状又は粉末状の化学
製品のふるい残分及び粒子径分布を試験するための一般的な方法について
規定する。」と記載されている。
そして,甲13及び甲14各文献によると,ユニオンカーバイト社の
「高密度架橋性ポリエチレンGPEP−1000」,「中密度ポリエチレ
ンGPEP−703Natural7」は,その粒径を上記「ANS
I/ASTMD1921−63」に基づいて測定していることが認めら
れる。
以上によると,本件発明に記載されているようなグラニュラー状物の粒
径は,少なくとも,米国及び日本においては,「ふるい分け法」により測
定するのが通常であり,このことは,当業者にとって技術常識であったも
のと認められる。
また,乙1文献の「表6.4粒度測定法の選択の例」には,「粉体」
及び「懸濁液」について,測定の目的,粉体の大小に応じた測定方法が示
されているところ,100μm以上の粗粉体の粉体については,もっぱら
「ふるい分け法」により測定するのが通常であることが示されている。
したがって,甲15ないし甲18各文献によっても,当業者において,
気相流動床式反応器の下で,すなわち,ユニポール法の装置の下で,触媒
担体と重合生成物の平均粒径は,「ふるい分け法」によって測定されるも
のと直ちに理解されることが裏付けられるというべきである。
()その余の被告の主張について4
ア被告は,①甲17ないし甲20,甲22各公報には,流動床式反応器に
分配板が存在し,限定されたメッシュの平均粒度のものが得られ,粒子寸
法をふるい分け部の利用によって制御するための手段を有するものもある
こと,②甲21公報には,粒度はふるい分析によって測定することが,甲
23公報には,その表1に,得られた粒子特性の識別試験結果,ふるい寸
法8,12,20,40,60,100メッシュにおける重量%及び平均
粒度の値が,それぞれ記載されていること,③甲13及び甲14各文献か
らは,これらのパンフレットの特定の製品の粒径がふるい分け法により測
定されたことが理解されるだけであること,④気相流動床反応器において
「特定寸法の孔を通過できるか否か」とは,技術的には触媒担体やグラニ
ュラー状物の個々の粒径が特定寸法の孔より小さければそこを通過し,大
きければ通過できないことを意味することを認めているところ,それにも
かかわらず,直ちに,本件発明の触媒担体及び本件グラニュラー状物の平
均粒径がふるい分けにより測定されるとはいえないことを主張する。
要するに,被告の主張は,本件明細書に,「ふるい分け法」に限るとの
記載がない以上,「ふるい分け法」以外の測定方法が存在し得るから,特
定されていないことをいうものと思われる。
しかし,被告の前提とするところは,前記()イ認定のとおり,一般論2
としての「平均粒径」の特定であり,短絡的に,「単に平均粒径と記載し
ただけでは,いずれの粒度の測定法によるもので,いずれの意味の平均粒
径かは不明であり一義的に決まるものではない。」(決定謄本3頁第5段
落)としているにすぎないのであって,平均粒径の測定の前提となる原理,
試料の性質,測定の目的,必要な測定精度等の検討をした上で特定されて
いないと主張しているわけではない。すなわち,被告は,単に,机上の一
般論として,「ふるい分け法」に限るとの記載がない以上,「ふるい分け
法」以外の測定方法が存在し得るとの趣旨の主張をしているにすぎないの
であるから,失当というほかない。
イ被告は,別件判決が「平均粒径の定義・意味,測定方法を特定しなけれ
ば,平均粒径の意義は明確ではない」と明快に判示していると主張する。
確かに,同判決は,一般的な議論として,「平均粒径の定義・意味,測
定方法を特定しなければ,平均粒径の意義は明確ではない,と認められ
る。」と判示している。しかし,上記記載の後,明細書を検討した上で,
「これらの記載には,平均粒径の定義・意味,その測定方法について特定
もされておらず,また,球状の不活性微粒子の具体的な製品名も挙げられ
ていない。その他,訂正明細書のどこにも,それらを把握する手掛かりと
なる記載はない。そうすると,当業者は,訂正明細書に接しても,その平
均粒径として示された値がどのようなものであるか把握できないことにな
る。もっとも,明記がない場合にどのようなものが採用されるかについて
当業者間に共通の理解があれば,特定はされているという余地はある。し
かし,特許実務においても,上記の各種の平均粒径や測定方法が実際に使
用されており,それぞれの意義や測定方法が明細書に明記されているので
あって(乙第3号証ないし第8号証,第11号証),当業者間に上記のよ
うな共通の理解があるとは認められない。なお,原告も,審判手続では本
件発明の平均粒径が個数平均径であるとしていたのに対し,本訴では体積
平均径であるとしており,その主張は一貫していない。」,「以上のとお
り,平均粒径の定義・意味,その測定方法如何で,その数値は有意に異な
ってくるものであり,しかも,いずれの定義・意味ないし測定方法も実際
に使用されており,当業者間において,(明記がない場合)どれを使用す
るのが通常であるとの共通の認識があったと認めることもできないのであ
るから,訂正明細書においても,それについて定義する必要があるという
べきである。しかるに,前記のとおり,訂正明細書には,それらを特定す
る明示の記載も,その手掛かりとなる記載もないのであるから,仮に,
『球状』の特定の物質から成る不活性微粒子と特定することにより,その
物質及び代表径の意義(球の直径)が把握できるとしても,なお,特定に
欠けることは明らかである。」と判示し,上記事例においては,明細書中
に,「平均粒径」を特定する明示の記載も,その手掛かりとなる記載もな
く,いずれの定義・意味ないし測定方法を使用するのが通常であるとの共
通の認識があったと認めることもできないとしているのである。
一方,本件においては,本件明細書中には「平均粒径」の測定法を特定
するに足りる記載が存在し,しかも,証拠上「ふるい分け法」によるのが
通常であることが示されていることは,前示のとおりである。
()以上検討したところによると,本件重合方法は,本件出願当時に周知のユ5
ニポール法であり,ユニポール法においては,担体及び生成物の「平均粒
径」を「ふるい分け法」によって測定するのが通常であって,本件明細書の
記載に接した当業者であれば,本件発明の「平均粒径」は,「ふるい分け
法」によるものであると理解するのが自然かつ合理的であるというべきであ
る。
したがって,本件明細書の記載が旧36条5項2号及び6項の要件に違反
するとした決定の判断は誤りであって,その誤りが決定の結論に影響を及ぼ
すことは明らかであるから,原告主張の取消事由1には理由がある。
2取消事由2(旧36条4項違反の判断の誤り)について
決定は,本件発明1ないし4において,不明な限定を含むから,発明の詳細
な説明に,当業者が容易にその実施をすることができる程度に,その発明の目
的,構成及び効果が記載されているとはいえないと判断したが,本件発明1な
いし4において不明な限定を含むとはいえないことは前記1に判示のとおりで
あるから,上記判断は,その前提において,失当である。
したがって,本件明細書の記載が旧36条4項の要件に違反するとした決定
の判断は誤りであって,その誤りが決定の結論に影響を及ぼすことは明らかで
あるから,原告主張の取消事由2には理由がある。
3以上によれば,原告主張の取消事由1及び2はいずれも理由があり,決定は
取消しを免れない。
よって,原告の請求は理由があるから,これを認容し,主文のとおり判決す
る。
知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官篠原勝美
裁判官宍戸充
裁判官柴田義明

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