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裁判例


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平成20年10月21日宣告
平成20年第80号,第113号窃盗,道路交通法違反被告事件(わ)
主文
被告人を懲役2年6月に処する。
未決勾留日数中120日をその刑に算入する。
本件公訴事実中,被告人が平成20年2月17日午前9時15分ころ,
a市b先路上において,Aが運転して走行中の自転車前かごに載せてあ
った同人所有に係る現金約8350円及び財布等約27点在中の手提げ
バッグ1個(時価合計約5万1500円相当)をひったくり窃取したと
の点については,被告人は無罪。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,
第1平成20年2月7日午後3時50分ころ,a市c先路上において,同
所に駐車中のB所有又は管理に係る現金約1万3200円及び財布等1
7点積載の第二種原動機付自転車1台(時価合計約21万5600円相
当)を窃取した
第2平成20年2月8日午後1時45分ころ,a市d先路上において,C
(当時71歳)が運転して走行中の自転車の前かごに載せてあった同人
所有又は管理に係る現金約4000円及び国民健康保険退職被保険者証
等17点在中の手提げバッグ1個(時価合計約1万4000円相当)を
ひったくり窃取した
第3平成20年2月8日午後1時50分ころ,a市e先路上において,D
(当時74歳)が運転して走行中の第一種原動機付き自転車の前かごに
載せてあった同人所有又は管理に係る現金約1万8000円及び財布等
12点在中の手提げ袋1個(時価合計約3万5000円相当)をひった
くり窃取した
第4公安委員会の運転免許を受けないで,平成20年3月1日午後6時4
5分ころ,a市f付近道路において,普通乗用自動車を運転した
ものである。
(証拠の標目)省略
(事実認定の補足説明及び一部無罪の理由)
1当事者の主張
検察官は,判示第1ないし第3に係る窃盗被告事件(以下,順に「B事
件」,「C事件」,「D事件」という。)に加え,平成20年3月21日
付け起訴状記載の公訴事実第2の事実,すなわち,「被告人は,平成20
年2月17日午前9時15分ころ,a市b先路上において,Aが運転して
走行中の自転車前かごに載せてあった同人所有に係る現金約8350円及
び財布等約27点在中の手提げバッグ1個(時価合計約5万1500円相
当)をひったくり窃取した」との事実(以下「A事件」という。)につい
ても,被告人が犯人であると主張し,他方,弁護人は,いずれの事件も被
告人は犯人ではない旨主張するので,この点に関する裁判所の判断を述べ
ることとする。
2検討
(1)被告人の公判廷における自白
上記4事件について,いずれもそのころ被害者が被害に遭ったことは
証拠上疑いがない。そして,被告人は,公判廷において,上記4事件を
全て認めている。公判廷という全く任意性に疑いのない状況下で自らに
不利益な事実を認めていること,しかも被告人には累犯前科があり,こ
れらが有罪となれば相当期間服役することは確実である状況にあること
からすると,一般的にはその自白の信用性は高いというべきである。他
方で,被告人は,事実関係について詳細を聞かれると,「調書で述べた
とおりである。」,「覚えていない。」,「答えたくない。」などと,
具体的な供述を避けようとする傾向も見られた。これは自白事件におけ
る供述態度としては不自然ともいえ,被告人が,何らかの事情で身に覚
えのない事件についてもあえて罪を認めようとしている可能性も否定し
きれないところである(なお,このように,供述態度を被告人に有利に
斟酌することは,何ら黙秘権に反するものではない。)。そこで,4事
件について,客観的な証拠関係を踏まえつつ,自白の内容も掘り下げ,
被告人と犯人との結びつきを慎重に検討することとする。
(2)本件の経過
本件の経過は,大要以下のようなものである(年号はいずれも平成2
0年である。)。
①2月7日午後3時50分B事件発生(原付盗)
②2月8日午後1時45分C事件発生(ひったくり)
③2月8日午後1時50分D事件発生(ひったくり)
④2月17日午前9時15分A事件発生(ひったくり)
⑤2月17日B事件の被害品の一部がa市g所在の集会所付近で発

⑥2月18日A事件の被害品の一部がa市hで発見
⑦3月1日B事件の被害品である第二種原動機付自転車(以下「本
件原付」という。)の駐車場所を警察官が張り込み中,被告人によ
る普通乗用自動車(以下「本件自動車」という。)の運転を警察官
が現認し,無免許運転が発覚(判示第4の事実)
⑧3月2日B事件及び無免許運転で被告人を逮捕
⑨3月4日本件自動車内からA事件の被害品であるクレジットカー
ド2枚を発見
⑩3月4日被告人,B事件及びA事件につき申述書を作成
⑪3月5日被告人,C事件及びD事件につき申述書を作成
⑫3月6日B事件,A事件及び無免許運転の引き当たり捜査
⑬3月21日B事件,A事件及び無免許運転の起訴
⑭3月25日C事件及びD事件の引き当たり捜査,両事件の被害品
を発見
⑮4月25日C事件及びD事件の起訴
(3)C事件及びD事件について
C事件及びD事件は,②③のとおり,同じ日の近接した時間帯に相次
いで発生したものである。その態様は,高齢の女性が自転車(②)ない
し原付車両(③)に乗っているところを,犯人がスクータータイプのバ
イクに1人で乗って背後から近付き,前かご内の被害者の手提げバッグ
や手提げ袋をひったくるというもので,その手口に共通性がみられる。
両現場はさほど距離が離れておらず,両事件が同一人物により敢行され
たと考えて矛盾はない。
そして,⑭のとおり,両事件の被害品の大半が同じ場所(a市i町所
在のマンション敷地内側溝)から発見されるなどしているところ,被告
人がその場所を案内するまでは,捜査機関はその事実を把握していなか
った。これは,いわゆる秘密の暴露に当たり,被告人が犯人であること
についての推認が強く働くものである。
加えて,被告人は,捜査段階の取調べにおいて,大要,「同じ日にひ
ったくりを3件続けてしたことがあり,C事件及びD事件はそのうちの
最初の2件である。1件目(C事件)は,市道を本件原付で走行するう
ち,女性が自転車で走っているのを認め,右側後方から近づき,自転車
の前かごを確認した。すると,中にバッグがあったことから,ひったく
ろうと決意し,追い越しざまにバッグをひったくった。2件目(D事
件)は,信号待ちをしている際,女性が前かごにバッグを乗せた状態で
バイクで走行しているのを見て,その後を追いかけ,追い越しざまにバ
ッグをひったくった。その後,I近くのマンション敷地内でバッグの中
身を確認し,現金だけを抜き出し,それ以外のものは全て投棄した。」
などと述べ,公判廷においても同旨の供述をしている。その内容に特段
不自然,不合理な点は見当たらない。
弁護人は,ア当初の逮捕直後に特定人の名前を挙げていたことから
すると,共犯者の存在を否定できず,被害品投棄現場への案内を過大視
できない,イ被害者が述べる犯人の服装や犯行態様が被告人の供述と
一致しない,ウ被告人が犯行場所を案内できていない,エ窃盗の動
機がないなどの点から,被告人が犯人ではないと主張する。
しかしながら,アについては,逮捕直後に別人の名前を挙げていたの
はB事件についてであって,C事件及びD事件については一貫して認め
ている。イについては,各被害者の被害状況に関する供述と,被告人の
述べるそれとの間の食い違いは,着用していたヘルメットの色(黒っぽ
い色かシルバーか)を除きほとんどなく,ヘルメットの色についても,
目撃した状況が極めて短時間における一瞬の出来事に関するものである
ことを考慮すると,その程度の食い違いが生じたとしてもさほど不自然
ではない。ウについては,C事件は,最終的には捜査官の示唆を受ける
までは被害場所を特定できなかったものの,国道j号線から環状線へ通
じる細い道路上であるとの特徴は,当初から説明していて,実際に被害
場所の近くまでは捜査官を案内できており,また,D事件についても,
目印となる施設(kバラ園)の存在は当初から述べ,実際にも被害者の
指示する場所とわずか十数メートル離れた地点まで捜査官を案内できた
のである。これらの事情は,被告人が犯人であることを補強するもので
ある。エについては,被告人はひったくりの目的を「小遣い銭欲しさ」
あるいは「遊びの延長」などと述べており,その理由は一応首肯し得る
ものであって,動機に疑問があるとはいえない。
以上からすると,C事件及びD事件については,被告人が犯したと疑
いなく認められる。
(4)B事件について
次に,B事件について検討するに,被告人は,事件の約3週間後の3
月1日の時点で本件原付を保管していた(⑦)。また,上記のとおり,
被告人の犯行であると疑いなく認められるC事件及びD事件は,いずれ
もB事件の1日後に,本件原付を利用してなされたものと認められる
(①ないし③)が,そうすると,被告人は,遅くともB事件の翌日午後
には,本件原付を所持していたのであり,いわゆる近接所持の論理から,
B事件にも関与していると考えるのが自然である。
そして,被告人は,捜査段階において,当初否認したものの,3月4
日の時点で自白に転じ(⑩),犯行態様として,「本件自動車で走行中,
エンジンキーが差し込まれた状態の本件原付を見て,これを盗んでひっ
たくりに使おうと思った。そこで,近くの駐車場に本件自動車を駐車し,
歩いて本件原付がある場所に戻り,同車両を発進させて集会所の裏側ま
で行った。その後,本件自動車を集会所近くの駐車場に移動させ,自動
車から工具類を取り出し,運転の邪魔になる風防やトランク等を外し,
集会所の隅に置いた。」などと述べている。その内容は具体的で,特段
不自然,不合理なものではなく,被害品の発見状況にも概ね符合してい
る。
弁護人は,オ被告人には原付窃盗の動機がない,カ犯行時点にお
ける本件原付の状況(ヘルメットや紙袋が置かれていた位置等)につい
て,被害者と被告人の供述との間に食い違いがあるなどの点から,被告
人が犯人ではないと主張する。
まず,オについては,上記のとおり,ひったくりの足として利用する
ために原付車両を窃取することは十分考えられ,動機がないとはいえな
い。カについては,確かに被告人と被害者の供述内容に一部食い違いも
あるが,いずれか一方の思い違いということもあり得るものであって,
その食い違いが被告人の自白の根幹を揺るがすとは認められない。
以上からすると,被告人が本件原付を被害現場から持ち去った犯人で
あることが疑いなく認められる。
(5)A事件
次に,A事件について検討する。被告人は,同事件についても犯行状
況を一応述べているものの,その内容には秘密の暴露に相当するものは
含まれていない。被告人は,事件の日にちは,当初の申述書では2月中
旬ころであると述べ,その後,2月中旬ころの日曜日と述べているが,
その日が2月17日であるとは断定しておらず,他にこの点を特定する
有力な証拠はない。他方で,現場引き当たりの際に被告人が述べた犯行
場所と,被害者が述べる犯行場所が,l通りを挟んで南北に約150メ
ートル離れていて,各現場の周囲の状況は相当異なっている。さらに,
被害者は,犯人の特徴として,カーキ色のジャケットを着ていたと供述
しているが,被告人はそのような色の服は持っていないと述べており,
人着の類似性にも一定の疑問が残る。
そして,事件から約2週間後に,被害品であるクレジットカード2枚
が封筒に入った状態で本件自動車内から発見されているが,同自動車は
被告人が知人から借りていたもので,被告人の供述によると,当時,被
告人以外にも複数の人物が同車両を利用する可能性があったというので
あるから,上記事情から被告人と犯人とを直ちに結びつけることはでき
ない。かえって,被告人は,これまでのひったくりでは,クレジットカ
ードがあっても捨てていたと述べており,現に,B事件及びD事件では,
クレジットカードを捨てていることからすると,A事件でクレジットカ
ードを捨てずに上記のように封筒に入れて保管していたというのは被告
人の行動としては不自然な感を否めず,この点に関する合理的な説明も
ない。
被告人は,被害品の一部が投棄されていた場所として,a市hに捜査
官を案内しているが,すぐにはその場所を特定できず,捜査官の示唆に
より(⑥のとおり,捜査官は既に同場所を把握していた。),ようやく
被害品の発見現場の近くを投棄場所として特定しており,その経過から
は,被害品の投棄現場をはっきりとは記憶していなかったことがうかが
える。
このように,A事件については,被告人が犯人であることを結びつけ
る証拠には数多の疑問があり,被告人の公判廷での供述態度を併せ考え
ると,A事件については被告人以外の人物による犯行ではないかとの疑
いを払拭することはできない。
3結論
以上のとおり,B事件,C事件及びD事件については,被告人が犯人で
あると疑いなく認められ,この点に関する弁護人の主張は採用できない。
他方,A事件については,被告人が犯人であると判断するには合理的疑
いが残る。そうすると,A事件については犯罪の証明がないことに帰する
ので,刑事訴訟法336条により被告人に対し無罪の言渡しをする。
(累犯前科)
被告人は,(1)平成14年12月17日松山地方裁判所で窃盗,道路交
通法違反,窃盗未遂の各罪により懲役2年6月に処せられ,平成17年7月
8日その刑の執行を受け終わり,(2)その後犯した詐欺罪により平成18
年8月8日松山地方裁判所で懲役1年6月に処せられ,平成20年1月3日
その刑の執行を受け終わったものであって,これらの事実は検察事務官作成
の前科調書及び(2)の前科に係る調書判決謄本によって認める。
(法令の適用)
被告人の判示第1ないし第3の各所為はいずれも刑法235条に,判示第
4の所為は道路交通法117条の4第2号,64条にそれぞれ該当するとこ
ろ,所定刑中いずれも懲役刑を選択し,前記の各前科があるので刑法59条,
56条1項,57条により各罪につき3犯の加重をし,以上は刑法45条前
段の併合罪であるから,刑法47条本文,10条により刑及び犯情の最も重
い判示第1の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役2年6
月に処し,刑法21条を適用して未決勾留日数中120日をその刑に算入し,
訴訟費用については,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に
負担させないこととする。
(量刑の理由)
本件は,原付車両1台の窃取(判示第1),同窃取に係る原付車両を利用
したひったくり(判示第2,第3),普通乗用自動車の無免許運転(判示第
4)の各事案である。
原付車両の窃取についてみるに,その供述によると,被告人は,路上に駐
車中の鍵がかかっていない原付車両を見るや,ひったくりに利用できると考
え,犯行に及んだもので,動機に酌むべきものはない。運転者が車両から離
れた短時間のうちに犯行を遂げていることからも,大胆で手慣れている様子
がうかがえる。
ひったくり2件についてみるに,いずれも金品目当てのもので,やはり動
機に酌むべきものはない。高齢の女性が自転車や原付車両で走行しているの
を背後から近づき前かごにあるかばんをひったくってそのまま走り去るとい
うもので,その態様は危険かつ悪質である。これまで同種のひったくり犯行
による服役を経験しながら,前刑(これは異種前科に当たる)出所後わずか
1か月余りで今回の犯行に及んでいることからみても,この種事犯に対する
常習性は高い。
これら被害金品の合計は,現金約3万5200円及び物品49点(時価約
26万4600円相当)に上っており,被害は決して小さくない。
無免許運転については,被告人は,これまで1度も運転免許を取得したこ
とがないにもかかわらず,その供述によると,知人から車を借り受け,運転
を繰り返すなかで今回の犯行に至っていることからみても,犯行は常習的で
あり,交通法規に対する遵法精神は欠如しているとみざるを得ない。
以上からすると,その刑責は重い。
そうすると,窃盗の被害品の一部については各被害者の下に返還されてい
ること,被告人が各犯行を認め,上記被害者に対し謝罪と将来の被害弁償の
意向を示すとともに,今後は2度と同じ過ちを繰り返さないと述べているこ
となどを考慮しても,主文の刑に処することは必要にしてやむを得ない。
(求刑懲役3年6月)
平成20年10月21日
松山地方裁判所刑事部
裁判官村越一浩

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