弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人宮本佐文の上告理由第一の一について。
 原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)の確定した事実関係によ
れば、訴外Dは、昭和三六年九月頃上告会社に入社して以来経理事務を担当し、そ
の職務として上告会社の手形振出に関する資金計画を立案し、手形の振出を必要と
するときはその旨を代表取締役であるEに報告してその指示ないし承認を受け、上
告会社の取引銀行から購入した手形用紙に所要事項を記入し、また上告会社名、社
長名のゴム印等を押捺して、右Eがその名下にみずから保管する代表取締役印を押
捺すれば手形として完成する状態にしたうえ、これをEに提出し、Eにおいて代表
取締役印を押捺してこれを他に交付することになつていたもので、右の手形作成に
用いられる代表取締役印以外の印章、文字印、手形用紙等はDが経理事務担当者と
して保管し自由にこれを使用することができ、また、手形記入帳には手形発行の際
みずから記入することを職務内容としていたものであるところ、同人は、右職務に
従事中の昭和四〇年一〇月頃、知人の訴外Fの依頼を受け、Eに無断で、職務上の
地位を濫用して、会社が取引銀行から購入していた手形用紙にその保管にかかる前
記印章等を押捺し、会社にあつたあり合わせの上告会社取締役印を押捺して本件手
形の偽造を完成し、これをFに交付したというのである。
 右事実関係のもとにおいては、同人が本件手形を偽造、交付した行為は、上告会
社の被用者としての職務執行行為そのものではないが、その職務内容に密接に関連
していて、行為の外形から観察してあたかも被用者の職務の範囲内の行為に属する
とみることができるのであるから、その行為は、上告会社の「事業ノ執行ニ付キ」
なされたものと解して妨げないものというべきである。そして、手形が会社の代表
者自身の手によつて他に交付されることなく、その補助者である会社の被用者を通
じて他に交付されることはしばしばありうることであるから、前記事実関係が存在
するかぎり、手形の実際の交付行為がDの日常の職務内容になつていたかどうか、
また同人の事務分掌として定められていたかどうかは、右の結論を左右するもので
はない。されば、これと同旨に出て、本件手形の偽造、交付行為をもつて上告会社
の事業の執行につきなされたものと解した原判決に所論の違法はない。論旨は採用
できない。
 同第一の二について。
 原判決の確定した事業関係によれば、被上告人は、本件手形の受取人である訴外
Gから手形割引の依頼を受け、重大な過失なく本件手形が真正に振り出されたもの
と信じて、Gに対しその割引金として三〇万円を交付したというのであり、Dの本
件手形の偽造行為と被上告人の割引金名下による右三〇万円の出捐との間に相当因
果関係の存在すること原判示のとおりであるから、被上告人は、Dの使用者である
上告会社に対して民法七一五条に基づく損害賠償請求権を取得したものと解すべき
であつて、右手形の裏書人であるGその他の者において本件手形が偽造手形である
ことを知つていたとしても、そのような事実は被上告人の損害賠償請求権の取得に
なんら消長を来たすものではない。それゆえ、これと同旨の原審の判断は正当であ
り、原判決に所論の違法はない。論旨は、独自の見解によつて原判決の判断を非難
するものにすぎず、採用できない。
 同第一の三(イ)ないし(ハ)について。
 対価を支払つて偽造手形を取得した手形所持人は、その出捐と手形偽造行為との
間に相当因果関係が認められるかぎり、その出捐額を通常の損害として手形偽造者
に対し、また民法七一五条の規定によりその使用者に対し、ただちに損害賠償請求
権を行使することができ、被害者である偽造手形の所持人がその前者に対し手形法
上遡求権を有することはなんら右損害発生の障害となるものではなく、遡求権の行
使によつて手形金の支払を受けたときは、損害賠償債権がその限度で消滅すること
となるにすぎないものと解するのが相当である。それゆえ、同旨に出た原審の判断
は正当であり、論旨は採用できない。
 同第一の三(ニ)について。
 被上告人が、原審において、被上告人はGに対し本件手形の割引金として三〇万
円を支払つたことにより同額の損害を蒙つた旨主張したことは、所論のとおりであ
り、原審は、被上告人の右主張を採用した結果、その主張にそう第一審判決の認定
判断を引用して被上告人の請求を認容すべきものとしたのであるから、原判決に所
論の違法はない。論旨は採用できない。
 同第二について。
 所論の点に関する原審の事実認定は、原判決の挙示する証拠関係(ただし、原判
決六枚目第四行に「乙第五号証」とあるのは、「甲第五号証」の誤記と認める。)
に照らして是認できないものではなく、その判断の過程に所論の違法はない。また、
原審は、所論一五万円の金員は本件手形金の内入弁済金の趣旨で授受されたもので
はない旨を判示しているから、訴外Hによる所論合計一五万円の手形金の支払が不
能になつたかどうかを確定しないまま上告人の主張を排斥したからといつて、原判
決に所論理由齟齬の違法があるとはいえない。論旨はすべて採用できない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文の
とおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    長   部   謹   吾
            裁判官    松   田   二   郎
            裁判官    岩   田       誠
            裁判官    大   隅   健 一 郎

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