弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
被告は,原告に対し,500万円及びこれに対する平成20年12月3日か
ら支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
1本件は,原告が,被告に対し,後記本件別途工事の請負契約に基づき,残代
金500万円及び引渡しの日の翌日である平成20年12月3日から支払済み
まで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
2争いのない事実等(証拠等を掲げたもののほかは当事者間に争いがない。)
(1)当事者
原告及び被告は,いずれも電気工事業等を目的とする会社である。
(2)ア平成20年5月12日,原告は,被告から,次の工事(以下「本件本
体工事」という。)を代金4150万円で請け負った。
(ア)工事件名X増築の電機設備工事
(イ)工事場所秋田市a町b丁目c
(ウ)工期平成20年5月15日~平成20年12月1日
イ平成20年12月20日ころ,原告と被告との間で,本件本体工事の
追加工事である別途電機設備工事(以下「本件別途工事」という。)を
代金1213万9040円で,被告が原告に注文し,原告が請け負う旨
の同年11月30日付けの注文書・注文請書が取り交わされている。
ウ本件別途工事には,①株式会社A(以下「A」という。)を元請,
被告を下請,原告を孫請とするもの(以下「本件別途工事①」という。)
と,②B株式会社(以下「B」という。)を元請,株式会社C(以下
「C」という。)一次下請,被告を二次下請,原告を三次下請とする
リースを利用して監視カメラ等を設置するもの(以下「本件別途工事②」
という。)とがあった。(弁論の全趣旨)
エ原告は,同年12月2日までに,本件別途工事を完成させ,同日,被
告に対し,引き渡した。(弁論の全趣旨)
オ被告は,原告に対し,平成21年2月末までに,本件別途工事の代金
として,合計713万9040円のみを支払った。(弁論の全趣旨)
3争点及び争点に関する当事者の主張
通謀虚偽表示又は心裡留保無効の抗弁の成否
(1)被告の主張
被告は,経費の付け替えのため,原告に依頼して,実体のない500万
円の架空の領収証を発行してもらった。注文書,注文請書に記載された工
事代金額1213万9040円の中には,上記空の工事費500万円が含
まれており,被告が原告に事前に送付した書面からも明らかなとおり,原
告も,そのことを承諾の上で,注文書・注文請書を取り交わした。
したがって,本件別途契約の代金につき713万9040円を超える部分
(500万円)の合意は,民法94条1項又は同法93条但書により無効
である。
(2)原告の主張
本件別途工事の代金について作成された書面の中で最も遅く作成された
のは,注文書・注文請書であって,それらには代金につき1213万90
40円と記載されているのであるから,原被告間で合意された請負金額の
立証はこれで十分である。これを覆すに足りる被告の主張立証はない。
第3当裁判所の判断
1認定事実
前示争いのない事実等に,証拠(甲2,甲3,甲7の1・2,甲8の1・2,
甲9,甲10,甲17,甲18,乙1~乙12,原告代表者D,被告代表者E
及び弁論の全趣旨を総合すると,次の事実が認められ,括弧内の証拠中この認
定に反する部分は採用することができず,他にこの認定を左右するに足りる証
拠はない。
(1)本件別途工事の完成まで
ア本件本体工事受注後,原告は,有限会社F(以下「F」という。)の
Gを現場代理人として現場に常駐させた。現場には,Gのほか,Aの現
場監督も常駐し,GとAの現場監督とで,施主からの要望を聞いて,本件
別途工事についても施工した。
イ被告代表者Eは,時々,現場の様子を見に行っていたため,平成20
年7月ころには,本件別途工事の存在自体については知っていたものの,
その詳細については原告側から報告はなく把握していなかった。
ウ同年11月中旬ころ,本件別途工事が完成した。
(2)本件別途工事完成から被告の下請受注の承諾まで
ア同月20日ころ,原告は,被告に対し,本件別途工事について,12
14万7678円とする見積書を送付した。
イそれに対して,被告代表者Eは,原告側が工事完成前に詳細な説明を
せず,完成後に見積書を送付してきたことを不快に感ずるとともに,見
積金額が法外であるとも思い,原告代表者Dに対してクレームを述べた。
ウそうしたところ,同月28日ころ,原告は,被告に対し,本件別途工
事について,903万7463円とする追加工事納品書を送付した上で,
本件本体工事は被告の下請で施工したので,本件別途工事についても同
様の形にしてほしいと懇請してきたが,被告代表者Eはこれを拒否した。
エ同月29日ころ,原告は,被告に対し,本件本体工事につき957万
3810円(消費税別),本件別途工事につき920万8000円(消
費税別)の合計1878万1810円(消費税込みで1972万090
0円)の請求書を送付した。
オ同年12月2日,本件本体工事及び本件別途工事の完成検査が行われ
た。
カ同月3日の慰労会の際,被告代表者Eは,原告代表者Dに対し,本件
別途工事①について,Aと原告との間に下請として入ること(既にGが
Aとの間で交渉・決定済みの504万円で受注すること)を承諾した。
キ同月4日,被告は,本件別途工事①につき,504万円でAから受注
する旨の同月1日付け注文請書に記名押印した。
クまた,同月4日,Gは,本件別途工事②につき,被告のCからの受注
額に関し,合計328万6670円とする被告名義の見積書を作成し,
被告に送付して了承を得た上で,C側に提出した。
ケその後,BとCが上記金額の各6%を手数料として取得することとな
り,被告の本件別途工事②の受注額は最終的に289万2269円とな
った。
(3)架空の領収証の発行
アその後,被告代表者Eは,原告代表者Dに対し,被告の経費のためと
して,500万円の架空の領収証の発行を電話で依頼し,原告代表者D
はこれを了承した。
イ同月15日,被告代表者Eが原告の事務所に訪れ,原告代表者Dは,
被告代表者Eに対し,X電気工事内金名目で500万円を受領した旨の
領収書を交付した。
その際,被告代表者Eは,原告代表者Dに対し,架空の500万円を
売上として計上することにより,原告が負担することになる5%の消費
税分25万円を交付した。
(4)その後,被告代表者Eは,原告代表者Dに対し,次の内容の本件本体工
事及び本件別途工事の代金支払に関する書面を送付した。
ア本件別途工事①の原告に対する支払
480万円×90%×1.05=453万6000円
イ本件別途工事②の原告に対する支払
313万0162円×88%×90%×1.05=260万3040円
ウア,イの補足説明
(ア)ア,イの90%は10%を被告の手数料とする趣旨
(イ)イの88%はBとCに各6%の手数料が発生する趣旨
エ原告から被告への請求書の送付依頼
(ア)同年11月30日付けのもの
a本件本体工事内金500万円同年12月15日済
b本件本体工事代残金1005万2500円
c本件別途工事①代金453万6000円
(イ)平成21年1月15日までに
本件別途工事②代金260万3040円
オ支払日
(ア)本件本体工事代残金(エ(ア)b),本件別途工事①代金(エ(ア)
c)平成20年12月24日
(イ)本件別途工事②代金(エ(イ))平成21年1月16日
カ後日,本件別途工事について,代金を500万円(エ(ア)a),45
3万6000円(エ(ア)c),260万3040円(エ(イ))の合計1
213万9040円とする平成20年11月30日付けの注文書を送付
する。
(5)その後の同年12月20日ころ,前示争いのない事実等(2)イ記載のと
おり,原被告間で注文書・注文請書が取り交わされるとともに,原告は,
被告に対し,前記(4)エ(ア)と同じ費目・金額で請求書を送付した。
(6)その後の経緯
ア同月25日までに,被告は,原告に対し,前記(4)オ(ア)のとおり,
本件本体工事残代金1005万2500円と本件別途工事①代金453
万6000円を支払った。
イ平成21年1月31日,原告は,被告に対し,本件別途工事の残代金
として773万5440円を請求した。
ウ同年2月23日,被告代表者Eは,原告代表者Dに対し,次の内容の
書面を送付し,260万3040円の請求書に改めるよう指示した。
(ア)本件別途工事の内訳
a本件別途工事①分453万6000円12/24送金済み
b本件別途工事②分260万3040円未収分
c依頼分500万円12/15受領済み
(イ)(ア)cに関しては,被告代表者Eが原告代表者Dに25万円を手
渡して,500万円を受領したものであり,残金は(ア)bの分のみ
のはずである。
もし,(ア)cの依頼分を勘違いしているのであれば,25万円を
返金してもらいたい。そうすれば,500万円の領収書を返還する。
その場合,本件別途工事の注文書は1213万9040円から50
0万円を引いて713万9040円となる。
エその後,原告は,被告に対し,被告の指示どおり訂正した請求書を送
付し,それを受けて,平成21年2月27日,被告は,原告に対し,2
60万3040円を支払った。
オ同年7月29日,原告は,被告に対し,本件訴えを提起した。
2以下の事情によれば,原告と被告とは,本件別途工事の代金につき1213
万9040円とする意思がないのに,正規の代金である713万9040円に
500万円を上乗せして1213万9040円とする意思があるもののように
仮装することを合意した(虚偽表示),又は被告は,本件別途工事の代金につ
き713万9040円を超える金額とする意思がないのに,500万円が上乗
せされた1213万9040円とする注文書に金額を知りつつ押印(心裡留保)
し,原告は,その当時,その注文について被告の真意によるものでないことを
知り,又は容易に知り得たと認めるのが相当であるから,本件別途契約の代金
につき713万9040円を超える部分(500万円)の合意は,民法94条
1項又は同法93条但書により無効である。
(1)前示認定事実(3)ア,イのとおり,原告代表者Dが,被告代表者Eから
被告の経費のためと依頼されて500万円の架空の領収証の発行に応じる
とともに,架空の500万円を売上として計上することにより,原告が負
担することとなる5%の消費税分25万円を受領していること
(2)その後,原被告間で注文書・注文請書が取り交わされる前に,前示認定
事実(4),(5)のとおり,被告代表者Eから原告代表者Dに対して,本件
別途工事①の代金が453万6000円,本件別途工事②の代金が260
万3040円であること,これらに架空の領収証の発行に係る500万円
を加えた1213万9040円の注文書を後日送付する趣旨の記載された
書面が送付されており,原告は,被告に対して,上記書面で指示されたと
おりの費目・金額で請求書を送付していること
(3)前示認定事実(2)キ,ケのとおり,本件別途工事の被告の受注額が合計
793万2269円であり,原告への再下請価格はそれを下回るのが通常
であるところ,1213万9040円とすると被告の受注額を約420万
円も上回ることになり,不可解である。
しかも,前示認定事実(2)イ,ウのとおり,被告は,当初,本件別途工
事について,元請と原告との間に下請として入ることを拒んでいたところ,
原告から懇請されて下請として入ることを了承した経緯があるのであって,
工事完成後の金額交渉であることからしても,被告の方が契約交渉上優位
な立場にあったことは明らかである。それにもかかわらず,上記金額で被
告が応ずるのは不自然である。
また,原告は,本件別途工事について,当初こそ1215万円弱の見積
書を被告に送付したものの,被告から拒否されたため,全く同一費目で9
03万円弱と大幅に減額した納品書を送付しており,原告がいったんこの
金額を提示した以上,被告がこの金額を上回る金額で了承するとは考えに
くい。
(4)行為の当否はともかく,被告の主張する経費の付け替え(法人税の不正
申告)という動機自体は了解可能なものであること,証拠(乙7,被告代
表者E)によれば,原被告間の本件別途工事代金を巡るやり取りの当時,
Aには信用不安の風評があったことが認められ,これによれば,原告にと
って,支払を確保するため被告に原告と元請との間に下請に入ってもらう
必要性は高かったと考えられること
3原告の主張について
(1)原告は,①被告にあてた当初の見積書の内容が1215万円弱であり,
被告の主張する714万円弱の工事代金額では500万円もの値引きとな
り,採算が取れずあり得ない,②本件本体工事及び本件別途工事を通じ
て原告が支払った直接工事費は4517万円強であり,これと注文書・注
文請書に記載された契約金額の合計額5364万円弱との差額である84
7万円弱は現場管理費と一般管理費分となるが,仮に被告の主張するとお
り契約金額が500万円少ないとすると現場管理費分すら全部は賄われな
いことになるのであって,そのような金額で原告が受注するはずがない,
③500万円を架空計上することによって原告の所得が増え,法人税等
も増えることになるのであって,原告が損失を被らないためには,消費税
分のみならず,その分も交付する必要があるところ,その交付はないから
原告が架空計上に協力するはずがないなどと主張する。
(2)しかしながら,前記2において指摘したとおり,原告は,本件別途工事
について,当初こそ1215万円弱の見積書を被告に送付したものの,被
告から拒否されたため,全く同一費目で903万円弱と大幅に減額した納
品書を送付していること,原告にとって支払を確保するため被告に原告と
元請との間に下請に入ってもらう必要性は高かったと考えられることに,
被告の主張する契約金額でも直接工事費は賄われており,現場管理費分も
相応の部分賄われることになること,実際に法人税が課されるか,課され
たとしてどの程度になるかは益金・損金の状況によることを合わせ考慮す
れば,原告が被告の架空計上の要請に協力し,実際には500万円少ない
金額で受注したとしても強ち不合理とはいえないのであって,(1)の原告
の主張は,前記2の当裁判所の判断を覆すに足りるものではない。
4以上の次第であるから,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主
文のとおり判決する。
秋田地方裁判所民事第一部
裁判官佐藤久貴

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