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平成25年3月27日判決言渡
平成24年(行ケ)第10284号審決取消請求事件
平成25年2月18日口頭弁論終結
判決
原告有限会社大長企画
訴訟代理人弁理士熊田和生
被告特許庁長官
指定代理人新留豊
同今村玲英子
同中島庸子
同芦葉松美
主文
1特許庁が不服2009-13517号事件について平成24年6月18日に
した審決を取り消す。
2訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
主文と同旨
第2争いのない事実
1特許庁における手続の経緯
原告は,平成14年10月18日,発明の名称を「強筋肉剤,抗炎症剤」とする
発明について,特許出願(特願2002-303877。優先権主張平成13年1
2月18日,平成14年10月7日。以下「本願」という。)をしたが,平成21
年4月7日付けで拒絶査定がなされたため,同年7月28日付けで拒絶査定に対す
る不服審判請求(不服2009-13517号事件)をするとともに,同日付けで
手続補正をした。特許庁は,平成24年2月29日付けで,平成21年7月28日
付け手続補正に基づく補正を却下するとともに,平成24年2月29日付けで拒絶
理由通知をしたところ,原告は,同年5月7日付けで手続補正をした(以下「本件
補正」という。)。特許庁は,同年6月18日,「本件審判の請求は,成り立たな
い。」との審決をし,その謄本は,同年7月9日,原告に送達された。
2特許請求の範囲
本件補正後の本願の特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである(甲1
2。以下,この発明を「本願発明」という。)。また,本件補正後の本願の特許請
求の範囲,明細書及び図面を総称して,本願明細書ということがある(甲1,甲1
2)。
「【請求項1】A.シムノールまたはシムノール硫酸エステル
B.大豆イソフラボンまたは大豆イソフラボン配糖体
C.クルクミン
のA,BおよびCの成分を含むことを特徴とする強筋肉剤,抗脳梗塞後遺症剤,抗
運動麻痺剤,抗喘息剤,抗視力減退剤,抗機能性心臓障害剤,または,抗痴呆症
剤。」
3審決の理由
(1)別紙審決書写しのとおりである。要するに,本願発明は,その優先権主張の
日前に頒布された刊行物に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をする
ことができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることが
できないというものである。
(2)上記判断に際し,審決が認定した特開2000-103718号公報(甲2。
以下「引用例1」という。)に記載された発明(以下「引用発明」という。)の内
容並びに本願発明と引用発明の一致点及び相違点は,以下のとおりである。
ア引用発明の内容
「シムノールサルフェート及びダイズインを含む組成物であって,環境ホルモン
の排出を著しく促進する組成物。」
イ一致点
両発明は「A.シムノール硫酸エステル,B.大豆イソフラボン配糖体,のA,
およびBの成分を含むことを特徴とする組成物」である点。
ウ相違点
(ア)相違点1
本願発明が成分「C.」として「クルクミン」を含有するのに対し,引用発明は
これを含まない点。
(イ)相違点2
本願発明が「強筋肉剤,抗脳梗塞後遺症剤,抗運動麻痺剤,抗喘息剤,抗視力減
退剤,抗機能性心臓障害剤,または,抗痴呆症剤。」との特定がなされているのに
対し,引用発明が「環境ホルモンの排出を著しく促進する組成物」である点。
第3当事者の主張
1審決の取消事由に係る原告の主張
審決は,相違点1に関する判断の誤り(取消事由1),相違点2に関する判断の
誤り(取消事由2),本願発明の効果に関する判断の誤り(取消事由3)があり,
これらの誤りは結論に影響を及ぼすから,審決は取り消されるべきである。
(1)相違点1に関する判断の誤り(取消事由1)
審決は,相違点1に関し,「引用例1には補血・活血作用を有する生薬の一つと
してウコンが記載され・・・,さらに実施例6において,ウコンエキスと他の補血
・活血作用を有する生薬のエッセンス,並びに津液作用を有する生薬のエッセンス
とを組み合わせて用いることにより,引用発明と同様に,環境ホルモンの排出を著
しく促進することも確認されている・・・。したがって,引用発明の組成物にさら
に組み合わせる生薬としてウコンを選択し,その有効成分であることが周知である
クルクミン・・・を加えることは,当業者が容易になし得たことである。」と判断
した。
しかし,引用例1の実施例6には,「ヘンチクエキス10重量部トウキヒエキ
ス10重量部ウコンエキス10重量部モウトウセイエキス10重量部ツキミ
ソウオイル30重量部オリーブオイル30重量部」が記載されており,この組
成物が環境ホルモン排出促進作用を有しているとしても,ウコンを単独で使用する
ものではなく,ヘンチクエキス,トウキヒエキス,ウコンエキス,モウトウセイエ
キスの4成分からなるから,ウコンを単独で使用した場合にも環境ホルモン排出促
進作用があるということはできない。仮に,4成分の全てに環境ホルモン排出促進
作用があるとしても,4成分の中からウコンを選択して引用発明と組み合わせるに
は動機づけが必要であるが,審決には動機づけについての記載はない。
また,本願発明は,「強筋肉剤,抗脳梗塞後遺症剤,抗運動麻痺剤,抗喘息剤,
抗視力減退剤,抗機能性心臓障害剤,または,抗痴呆症剤。」に関するものであり,
「環境ホルモン」に関する発明ではなく,本願出願当時において「環境ホルモン」
に関する作用と「強筋肉剤,抗脳梗塞後遺症剤,抗運動麻痺剤,抗喘息剤,抗視力
減退剤,抗機能性心臓障害剤,または,抗痴呆症剤。」が同等であるとする根拠は
ない。
したがって,相違点1に関する上記審決の判断は誤りである。
(2)相違点2に関する判断の誤り(取消事由2)
審決は,相違点2に関し,「引用例4~6(判決注:引用例2~4の誤記と認め
る(以下同様。)。また,「引用例2」ないし「引用例4」は,それぞれ,特開2
001-233768号公報(甲3),特表2001-511117号公報(甲
4),特開平11-221048号公報(甲5)である。)には,ダイズインのア
グリコンであるダイゼイン等の大豆イソフラボンがアルツハイマー病・・・,加齢
による認識機能喪失・・・,痴呆・・・,喘息・・・,及び心臓疾患・・・の処置
に有効であることが記載されている。さらに,ダイズインを有効成分とする大豆に
は,脳梗塞後の運動障害(中風脚弱),運動麻痺(四肢不随),及び筋肉の引きつ
りに効果があり,また視力を良くする効果もあることは,いずれも当業者に周知の
事項である」として,「引用発明の組成物の具体的用途として,強筋肉剤,抗脳梗
塞後遺症剤,抗運動麻痺剤,抗喘息剤,抗視力減退剤,抗機能性心臓障害剤,また
は,抗痴呆症剤といったものをさらに特定することは,当業者が格別の創意なくな
し得たことである。」と判断した。
しかし,脳梗塞後の運動障害(中風脚弱),運動麻痺(四肢不随),及び筋肉の
引きつりに対する効果は,強筋肉剤とは異なる効果であり,引用例1には強筋肉剤
の効果に関する記載はない。
また,本願発明は,「A.シムノールまたはシムノール硫酸エステル,B.大豆
イソフラボンまたは大豆イソフラボン配糖体,C.クルクミンのA,BおよびCの
成分を含む」ことを特徴とする3成分に関する発明であるところ,医薬成分を組み
合わせたときにいろいろな問題が生じ(甲13),2つ以上の医薬成分を組み合わ
せたときに,医薬成分のそれぞれが有する医薬効果が発現されないことがあるから,
イソフラボンと他の医薬成分を組み合わせたときに,イソフラボンが有する医薬効
果が必ず発現するかどうかは,実際に使用して初めて確認できる。しかるに,イソ
フラボンがアルツハイマー病,加齢による認識機能喪失,痴呆,喘息,及び心臓疾
患の処置に有効であり,脳梗塞後の運動障害(中風脚弱),運動麻痺(四肢不随),
及び筋肉の引きつりに効果があり,視力を良くする効果があったとしても,「シム
ノールまたはシムノール硫酸エステルとクルクミン」の2成分と組み合わせたとき
に,イソフラボンの効果が発現できるという根拠は示されておらず,イソフラボン
が有する効果が,他の成分と組み合わせたときに必ずしも発現しないことは,引用
例1記載のイソフラボンの医薬効果のうち,「発熱,癒着,糖尿病,虚血性潅流障
害,HIV感染を含む免疫障害,早産,骨粗鬆症,強直性脊椎炎,コレステロール
-脂質レベルの低下,血管形成の調節,他の血管系の作用,アルコール乱用の軽減,
産後の諸疾を治す,筋肉の引きつり,産後の諸風を治す」及び環境ホルモンについ
ては,「シムノールまたはシムノール硫酸エステル,B.大豆イソフラボンまたは
大豆イソフラボン配糖体,C.クルクミンのA,BおよびCの成分を含む」の3成
分からなる本願発明では,効果を確認していないことからも明らかである(甲1
4)。したがって,引用発明の組成物の具体的用途として,強筋肉剤,抗脳梗塞後
遺症剤,抗運動麻痺剤,抗喘息剤,抗視力減退剤,抗機能性心臓障害剤,または,
抗痴呆症剤といったものをさらに特定することは,当業者が格別の創意なくなし得
たとはいえない。
さらに,引用発明に他の公知技術を適用する場合,その組合せについての示唆な
いし動機づけが明らかにされていなければならないところ,引用例1には,引用例
2ないし4及び周知の事項を組み合わせて,本願発明の「強筋肉剤,抗脳梗塞後遺
症剤,抗運動麻痺剤,抗喘息剤,抗視力減退剤,抗機能性心臓障害剤,または,抗
痴呆症剤」とすべき動機づけが示されていない。また,仮に,引用例1に動機づけ
が示されているとしても,本願発明には,本願明細書の段落【0050】,甲8の
参考資料(甲14)記載の顕著な効果があるから,進歩性が認められるべきである。
したがって,相違点2に関する上記審決の判断は誤りである。
(3)本願発明の効果に関する判断の誤り(取消事由3)
審決は,本願明細書の段落【0051】,【0052】記載の効果に関し,「本
願発明の『強筋肉剤,抗脳梗塞後遺症剤,抗運動麻痺剤,抗喘息剤,抗視力減退剤,
抗機能性心臓障害剤,または,抗痴呆症剤』のいずれかの用途に関連する,あるい
は関連すると推測される症状について漠然と,また場合により包括的に,『改善さ
れた』,『治った』などと記載されているにすぎないし,上記の相乗作用を裏付け
るようなものとも認められない。また,これらのことは,審判請求書に添付された
『薬理効果に関するデータ』についても同様である。してみれば,本願発明の効果
は,引用例2~4は及び周知技術から当業者が予測しうる程度のことである。」と
判断した。
しかし,本願の当初の明細書の段落【0023】,【0025】,【0050】
ないし【0052】には,どのような配合の医薬成分を,どのような量投与したと
きにどのような医薬効果が発現したかということが明確に記載されている。また,
甲8の参考資料のデータ(甲14)には,病名,患者の年齢,性別,病名,投与期
間,効果,副作用について具体的に記載され,また,有効でなかった医薬効果につ
いても,たとえば,「血小板減少症,緑内障,狭心症・心不全,アレルギー性疾患,
高血圧,膠原病,不妊症,寝たきり老人」に有効でなかったことも明確に記載され
ている。そして,甲14のデータは本願発明の成分であること,また,投与量も甲
11の参考資料により明確である。
したがって,本願発明の作用効果に関する上記審決の判断は誤りである。
2被告の反論
原告主張の取消事由は,以下のとおり,いずれも理由がなく,審決に取り消され
るべき違法はない。
(1)取消事由1(相違点1に関する判断の誤り)に対し
原告は,①引用例1の実施例6記載の組成物が環境ホルモン排出促進作用を有し
ているとしても,ヘンチクエキス,トウキヒエキス,ウコンエキス,モウトウセイ
エキスの4成分からなるから,ウコンを単独で使用した場合にも環境ホルモン排出
促進作用があるということはできないし,仮に,4成分の全てに環境ホルモン排出
促進作用があるとしても,4成分の中からウコンを選択して引用発明と組み合わせ
るには動機づけが必要であるが,審決には動機づけについての記載はない,②本願
発明は,「環境ホルモン」に関する発明ではなく,本願出願当時において「環境ホ
ルモン」に関する作用と本願発明の「強筋肉剤,抗脳梗塞後遺症剤,抗運動麻痺剤,
抗喘息剤,抗視力減退剤,抗機能性心臓障害剤,または,抗痴呆症剤。」が同等で
あるとする根拠はないとして,相違点1に関する審決の判断は誤りである旨主張す
る。
しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。
ア上記①の主張に対し
引用例1の請求項1には,「津液作用を有する生薬のエッセンス及びその活性成
分から選ばれる1種乃至は2種以上と補血・活血作用を有する生薬のエッセンスか
ら選ばれる1種乃至は2種以上とを含有することを特徴とする,生体活動改善用の
組成物。」が記載され,その具体的態様として,実施例9のダイズイン及びシムノ
ールサルフェートを含む組成物が記載される(甲2の【0033】)。「ダイズイ
ン」は大豆の有効成分であるイソフラボン類であり(甲6),「津液作用を有する
生薬の活性成分」に該当し(甲2の【0008】),シムノール硫酸エステルを表
す「シムノールサルフェート」(scymnolsulfate)は,胆汁アルコールであるシ
ムノールのエステル誘導体であり(乙1の2532頁左欄17~21行,図1),
「補血・活血作用を有する生薬」の有効成分に該当する(甲2の【0009】)。
そして,引用例1の請求項1には,津液作用を有する生薬のエッセンス及びその
活性成分,補血・活血作用を有する生薬のエッセンスをいずれも2種以上,組み合
わせて用いることもできることが記載されるから,同記載に接した当業者であれば,
引用発明に基づき,さらなる組成物を作成するために,引用発明に他の「津液作用
を有する生薬」又は「補血・活血作用を有する生薬」を組み合わせようと思うこと
は自然な発想である。
また,引用例1には,引用発明と同じ健康食品として環境ホルモン排出作用のよ
うな経口での作用が確認された(実施例7)組成物として,ほかに実施例6の組成
物しか記載されておらず,その中に含まれる「津液作用を有する生薬」は,ヘンチ
クエキスとトウキヒエキスの2種類のみ,「補血・活血作用を有する生薬」は,ウ
コンエキスとモウトウセイエキスの2種のみであるから,引用発明との組合せの検
討に当たり,そのうちの一つの有効成分から検討することは,引用例1の記載に接
した当業者であれば,格別の創意工夫なく行い得ることである。
したがって,引用発明にウコンの有効成分であるクルクミンを加えることについ
て,引用例1には十分な動機が存在するといえる。
なお,引用例1には,人体に必要な物質は,補血,活血作用により,血管を通じ
て体内に運ばれ,津液作用により,血管外の組織や漿液においても,能動的に運搬
され,両作用が合わさることによって,必要物質の身体全体への移送・分布が達成
されることが記載され(【0007】),実施例7(【0029】)の記載によれ
ば,「補血・活血作用を有する生薬」であるウコンエキスが,血液からのフタル酸
ジオクチル,すなわち環境ホルモンの排出促進作用を有するといえるから,「ウコ
ンを単独で使用した場合にも環境ホルモン排出促進作用があるということはできな
い」旨の原告の主張も失当である。
イ上記②の主張に対し
審決は,本願発明を「環境ホルモン」に関する発明と認定したものではない。
また,審決は,引用発明として「シムノールサルフェート及びダイズインを含む
組成物であって,環境ホルモンの排出を著しく促進する組成物。」を認定した上で,
「引用発明の組成物の具体的用途として,強筋肉剤,抗脳梗塞後遺症剤,抗運動麻
痺剤,抗喘息剤,抗視力減退剤,抗機能性心臓障害剤,または,抗痴呆症剤といっ
たものをさらに特定することは,当業者が格別の創意なくなし得たことである。」
と判断しており,「環境ホルモン」に関する作用と,「強筋肉剤,抗脳梗塞後遺症
剤,抗運動麻痺剤,抗喘息剤,抗視力減退剤,抗機能性心臓障害剤,または,抗痴
呆症剤」が同等であると認定したものでもない。
ウ以上のとおり,審決に相違点1についての判断の誤りはない。
(2)取消事由2(相違点2に関する判断の誤り)に対し
原告は,①引用例1には強筋肉剤の効果に関する記載はない,②本願発明は,3
成分に関する発明であり,2つ以上の医薬成分を組み合わせたときに,医薬成分の
それぞれが有する医薬効果が発現されないことがあるところ,イソフラボンがアル
ツハイマー病,加齢による認識機能喪失,痴呆,喘息,及び心臓疾患の処置に有効
であり,脳梗塞後の運動障害(中風脚弱),運動麻痺(四肢不随),及び筋肉の引
きつりに効果があり,視力を良くする効果があったとしても,「シムノールまたは
シムノール硫酸エステルとクルクミン」の2成分と組み合わせたときに,イソフラ
ボンの効果が発現できるという根拠は示されていない,③引用発明に他の公知技術
を適用する場合,その組合せについての示唆ないし動機づけが明らかにされていな
ければならないところ,引用例1には,引用例2ないし4及び周知の事項を組み合
わせて,相違点2に係る本願発明の構成とすべき動機づけが示されていないとして,
相違点2に関する審決の判断は誤りである旨主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。
ア上記①の主張に対し
仮に,各引用例に,強筋肉剤に関する記載がなかったとしても,本願発明の他の
用途については,各引用例及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明し得たもの
であるから,審決の結論に影響しない。
また,本願明細書の段落【0004】,【0050】,【0052】の記載から,
本願発明の「強筋肉剤」とは,筋肉疲労回復,筋肉増強等の筋肉に働く薬剤のみな
らず,加齢による歩行不如意,腰痛,手足の痛み,脱肛等の筋肉障害を治療するた
めの薬剤も含み,しかも当該筋肉障害の大部分が脳指令伝達不十分にあることが明
らかである。また,ダイズインを有効成分とする大豆が「筋肉の引きつり」に効果
があることは,当業者に周知の事項である(甲6)。筋肉の「ひきつり」とは,
「けいれん」(痙攣)のことであり(乙2),「けいれん」は「中枢神経系・反射
中枢等の興奮性が異常に亢進したり,あるいは抑制が取り除かれたりした結果おこ
る」ものである(乙3)ところ,脳指令を伝達する中枢神経系の興奮性が異常に亢
進することにより,脳指令伝達が不十分になることは明らかであるから,「筋肉の
引きつり」も,脳指令伝達不十分の筋肉障害に該当するものである。
したがって,ダイズインを有効成分とする大豆が,本願発明にいう強筋肉剤と同
じ治療用途に有効であるといえる。
イ上記②の主張に対し
引用例1の段落【0007】の記載によれば,引用例1において,「補血・活血
作用を有する生薬」が2種以上の場合も,津液作用及び補血作用・活血作用を促進
する物質が共に作用することが前提になっていると解され,引用例1のこのような
記載に接した当業者は,津液作用を有する大豆イソフラボン,及び補血・活血作用
を有するシムノールサルフェートを含む組成物である引用発明に,さらに補血・活
血作用を有するウコンの有効成分であるクルクミンを組み合わせても,それぞれの
生理的作用が発揮されると理解するはずである。
また,大豆イソフラボンを有効成分とする大豆は,古くから漢方薬の原料として
使われてきたものであり(甲6),漢方薬は種々の原料を調合して作られるもので
あるから,配合禁忌(甲13)となる特定の例外的な組合せである場合を除けば,
大豆イソフラボンを他の成分と配合しても,その生理的作用を発揮する蓋然性が高
いものというべきである。そして,漢方(中薬)の辞典(甲6)には,大豆イソフ
ラボンを有効成分とする大豆の配合禁忌について網羅的に記載されているが,大豆
イソフラボンがシムノールサルフェートあるいはクルクミンと配合禁忌であるとは
記載されないから,このような組合せが配合禁忌であると当業者が考える可能性は,
一層低い。そうすると,大豆イソフラボン配糖体,シムノールサルフェート及びク
ルクミンを組み合わせた場合においても,大豆イソフラボン配糖体の生理的作用が
発揮されると,当業者は合理的に予想できる。
なお,原告は,引用例1記載のイソフラボンの医薬効果のうち幾つかが,他の成
分と組み合わせたときに必ずしも発現しないことの主張の根拠として,甲8の参考
資料(甲14)を挙げるが,これは,上記医薬効果を単に確認していないことを示
すにとどまるものである。
ウ上記③の主張に対し
本願優先日前に,ダイズインのアグリコンであるダイゼイン等の大豆イソフラボ
ンがアルツハイマー病,加齢による認識記憶喪失,痴呆,喘息及び心臓疾患の処置
に有効であることが公知であり,ダイズインを有効成分とする大豆には,脳梗塞後
の運動障害,運動麻痺,及び筋肉の引きつりに効果があり,また視力を良くする効
果もあることが周知であることから,ダイズインを含む引用発明の組成物の具体的
用途として,「強筋肉剤,抗脳梗塞後遺症剤,抗運動麻痺剤,抗喘息剤,抗視力減
退剤,抗機能性心臓障害剤,または,抗痴呆症剤」といったものをさらに特定する
ことは,当業者が格別の創意なくなし得ることである。
エしたがって,相違点2についての審決の判断に誤りはない。
(3)取消事由3(本願発明の効果に関する判断の誤り)に対し
原告は,本願の当初の明細書の段落【0023】,【0025】,【0050】
ないし【0052】には,どのような配合の医薬成分を,どのような量投与したと
きにどのような医薬効果が発現したかということが明確に記載され,甲8の参考資
料のデータ(甲14)には,病名,患者の年齢,性別,病名,投与期間,効果,副
作用について具体的に記載され,また,有効でなかった医薬効果についても,明確
に記載されており,甲14のデータが本願発明の成分であること,また,投与量も
甲11の参考資料により明確であるとして,「本願発明の効果は,引用例2~4及
び周知技術から当業者が予測しうる程度のことである。」とした審決は誤りである
旨主張する。
しかし,本願明細書の段落【0050】,【0051】の記載は,引用例及び周
知技術から当業者が予測できた効果と同質な効果について述べているに過ぎず,当
該記載から本願発明が際立って優れた効果を有するとまではいえない。本願明細書
の段落【0052】には,発明の効果が記載されるが,例えば各成分を単独で,あ
るいは二,三の成分を組合せて使用したことによる効果を数値化して比較するなど,
相乗作用を客観的に示す記載は見当たらず,本願明細書でいう相乗作用についても,
本願明細書の記載は憶測の域を出ないものであるから,その程度の作用であれば,
審決で挙げた引用例並びに周知技術から,当業者が合理的に予測できたものという
べきである。
なお,本願明細書の段落【0050】,【0051】の記載は,本願発明の用途
のうち,特に抗視力減退剤,抗痴呆剤,強筋肉剤,抗喘息剤及び抗機能性心臓障害
剤が,本願発明の3成分に基づく用途であることを確認したものとはいえない。す
なわち,本願明細書の実施例4(【0023】)及び実施例6(【0025】)に
は,それぞれ,前者の錠剤には人参末が,また後者のソフトカプセルには人参エキ
スが多量に含まれていることが記載されている。人参が漢方薬として古くから,目
を明らかにし,智を増し,身を軽くして不老延年するといわれ,また近年の知見と
して喘息を止め,さらに心筋栄養障害,冠状動脈硬化,心臓神経症,心力衰弱(こ
れらはいずれも機能性心臓障害であるといえる。)等にも有効であることは,いず
れも当業者に周知の事項である(乙4)。そして,これらの薬効はそれぞれ本願発
明の用途のうち,抗視力減退剤,抗痴呆剤,強筋肉剤,抗喘息剤及び抗機能性心臓
障害剤に対応するものである。そうすると,本願明細書の段落【0050】,【0
051】に示された事例では,実施例4あるいは6の組成物が用いられていること
から,人参末あるいは人参エキスの薬効が発現している蓋然性が高いといえる。
また,甲8の参考資料のデータ(甲14)によっても,本願発明が当業者の予測
を超える顕著な効果を奏するとはいえない。すなわち,甲8には,本願明細書の段
落【0050】ないし【0052】の記載の根拠が,参考資料(甲14)から明ら
かである旨記載されており,甲14には本願明細書の段落【0050】ないし【0
052】の記載に対応するデータが存在するはずであるが,甲14には,クルクミ
ンを含まない薬剤,あるいは第4の成分として人参が含まれる薬剤を投与したと考
えられる患者のデータが多数含まれる一方で,本願発明の3成分からなる薬剤を投
与したと考えられる患者のデータについての記載が見当たらないのであり,甲14
は,本願発明の3成分からなる薬剤を投与した結果を示すものとは認められず,本
願発明の構成に基づく効果を示すものとはいえないし,甲14記載の患者に投与さ
れた薬剤の成分,投与量が甲11に添付された「平成24年4月25日付証明書」
により明確であるともいえない。
さらに,甲14の「効果」の欄の記載は,従来技術と比較し得る客観性に欠ける
とともに,本願発明の用途の少なくとも一部について,有効であることが確認され
ているとはいえない。
第4当裁判所の判断
当裁判所は,原告主張の取消事由2に理由があり,審決を取り消すべきものと判
断する。その理由は以下のとおりである。
1取消事由2(相違点2に関する判断の誤り)について
審決は,相違点2に関し,「引用例4~6には,ダイズインのアグリコンである
ダイゼイン等の大豆イソフラボンがアルツハイマー病・・・,加齢による認識機能
喪失・・・,痴呆・・・,喘息・・・,及び心臓疾患・・・の処置に有効であるこ
とが記載されている。さらに,ダイズインを有効成分とする大豆には,脳梗塞後の
運動障害(中風脚弱),運動麻痺(四肢不随),及び筋肉の引きつりに効果があり,
また視力を良くする効果もあることは,いずれも当業者に周知の事項である」とし
て,「引用発明の組成物の具体的用途として,強筋肉剤,抗脳梗塞後遺症剤,抗運
動麻痺剤,抗喘息剤,抗視力減退剤,抗機能性心臓障害剤,または,抗痴呆症剤と
いったものをさらに特定することは,当業者が格別の創意なくなし得たことであ
る。」と判断した。
これに対し,原告は,①引用例1には強筋肉剤の効果に関する記載はない,②本
願発明は,3成分に関する発明であり,2つ以上の医薬成分を組み合わせたときに,
医薬成分のそれぞれが有する医薬効果が発現されないことがあるところ,イソフラ
ボンがアルツハイマー病,加齢による認識機能喪失,痴呆,喘息,及び心臓疾患の
処置に有効であり,脳梗塞後の運動障害(中風脚弱),運動麻痺(四肢不随),及
び筋肉の引きつりに効果があり,視力を良くする効果があったとしても,「シムノ
ールまたはシムノール硫酸エステルとクルクミン」の2成分と組み合わせたときに,
イソフラボンの効果が発現できるという根拠は示されていない,③引用発明に他の
公知技術を適用する場合,その組合せについての示唆ないし動機づけが明らかにさ
れていなければならないところ,引用例1には,引用例2ないし4及び周知の事項
を組み合わせて,相違点2に係る本願発明の構成とすべき動機づけが示されていな
いとして,相違点2に関する上記審決の判断は誤りである旨主張するので,以下,
検討する。
(1)認定事実
ア本願明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載は,上記第2の2のとおりで
ある。
イ引用例1(甲2)には次の記載がある。
【発明の詳細な説明】【0001】【発明の属する技術分野】本発明は,生体活動
の改善に好適な健康食品や化粧品,医薬品などの組成物に関する。
【0002】【従来の技術】津液作用は,漢方思想に於ける気,血,水の考え方の
内,水に関するものであり,本発明者らにより,消化液,唾液,尿等の体液に関す
る新陳代謝を促進する働きであることが,明らかにされている。この働きは水分を
媒体に行われており,この為,津液作用が美肌作用やアトピー性皮膚炎,湿疹,皮
膚真菌症,色素沈着症,尋常性乾癬,老人性乾皮症,老人性角化腫,火傷などの皮
膚疾患の改善作用,発毛促進作用,発汗促進作用,消化液分泌促進作用,利尿作用,
便通促進作用などの生体活動の改善作用と深く関連していることも明らかにされて
いる。
【0003】又,補血及び活血作用については,酸素,栄養などのエネルギーを中
心とする補給の活性化作用であることが既に知られている。
【0004】上記津液作用を有する物質と補血・活血作用を有する物質と組み合わ
せて,上記生体活動の改善のために投与することは全く行われていなかったし,か
かる組合せによって,生体活動の改善作用が著しく向上することも全く知られてい
なかった。
【0005】一方,上記美肌作用やアトピー性皮膚炎,湿疹,皮膚真菌症,色素沈
着症,尋常性乾癬,老人性乾皮症,老人性角化腫,火傷などの皮膚疾患の改善作用,
発毛促進作用,発汗促進作用,消化液分泌促進作用,利尿作用,便通促進作用等の
生体活動の改善作用については,高齢化,老人化が進んでいる現代に於いては深刻
な問題であり,この更なる改善は大きな問題であり,社会的にも望まれているもの
であった。
【0006】【発明が解決しようとする課題】本発明は,この様な状況を踏まえて
為されたものであり,美肌作用やアトピー性皮膚炎,湿疹,皮膚真菌症,色素沈着
症,尋常性乾癬,老人性乾皮症,老人性角化腫,火傷などの皮膚疾患の改善作用,
発毛促進作用,発汗促進作用,消化液分泌促進作用,利尿作用,便通促進作用等の
生体活動の改善に止まらず,人体機能の発現に関与する物質群の補給システムを中
心とした生体活動の更なる改善手段を提供することを課題とする。
【0007】【課題の解決手段】・・・本発明者らは,中国医学理論の更なる解析
を通じ,血管外の組織や漿液においても能動的な必要物質の運搬が行われているこ
とをつきとめた。即ち,従来の津液作用についての説明は,従来の技術に記述の如
く,体内水分の体外への分泌促進による,必要部分への充分な水分の分配とされて
いたが,今回,新たに,この様な作用は津液作用の副次的作用に過ぎず,真の作用
は目的は体内から体外に向かって形成された水の流れを媒体とした人体機能の発現
に関与する物質の能動的な移送であることを,本発明者らはつきとめた。即ち,か
かる人体機能発現関与物質を中心とした必要物質の身体全体への移送・分布は補血
作用・活血作用のみならず,津液作用が加わって初めて達成されるのである。従っ
て,この2種の作用を促進する物質が共に作用することが,人体の機能発現に重要
であると理解できる。・・・かくの如く,補血・活血作用と津液作用とは,両者が
同時に促進されることが,人体にとって極めて有用であることを見出したのである。
この新しい,知見に基づき,本発明者らは,皮膚疾患の改善作用,発毛促進作用,
発汗促進作用,消化液分泌促進作用,利尿作用,便通改善作用等の従来の津液作用
で期待された生体活動の更なる改善を具現するに止まらず,人体機能の全ての発現
に必要な物質の,人体全体への満足すべき供給促進手段を見出したのである。即ち,
津液作用を有する生薬のエッセンス及びその活性成分から選ばれる1種乃至は2種
以上と補血・活血作用を有する生薬のエッセンスから選ばれる1種乃至は2種以上
とを組み合わせて使用することにより,この様な改善が可能であることを見出し発
明を完成させるに至った。更に加えて,津液作用と補血・活血作用の組合せにより,
生体内に於ける各種生理活性物質のディストリビューションの改善作用も有するこ
とから,上記以外の生体活動の改善作用をも発揮するする事をも見出し,発明を発
展させた。・・・
【0010】(3)本発明の生体活動改善用の組成物
本発明の生体活動改善用の組成物は,上記津液作用を有する生薬のエッセンス及び
その有効成分から選ばれる1種乃至は2種以上と補血・活血作用を有する生薬のエ
ッセンス及びその有効成分から選ばれる1種乃至は2種以上とを含有することを特
徴とする。この2種のエッセンスを組み合わせることにより,美肌作用やアトピー
性皮膚炎,湿疹,皮膚真菌症,色素沈着症,尋常性乾癬,老人性乾皮症,老人性角
化腫,火傷などの皮膚疾患の改善作用,発毛促進作用,発汗促進作用,消化液分泌
促進作用,利尿作用,便通促進作用等の生体活動をより一層改善する作用に優れる
ばかりでなく,難治とされている糖尿病,肝臓病,高血圧等も,人体がそれらの疾
病の改善のために発揮する諸機能の発現に必要な物質を充分に供給することによっ
て,結果としてそれらを改善する作用を有する。更に,生体に有害な環境ホルモン
などの体外への排出を高める作用も有する。環境ホルモンに関しては,現在のとこ
ろ生体側の防御手段がないため,この技術により,かかる生体側の防御が可能にな
るため非常に好適である。これは,上記組合せにより,生体内に於ける各種生理活
性物質のディストリビューションの改善作用を発現するからである。本発明の組成
物としては,化粧料,健康食品,医薬品等が例示でき,これらの内では化粧料と健
康食品が特に好ましい。これは,上記生薬のエッセンスやその有効成分の作用が緩
和で長期間投与することが出来,しかも長期間の投与が好ましいためである。
【0029】<実施例7>実施例6の健康食品の効果をマウスを用いて調べた。即
ち,5週齢のICRマウス(雄性)1群3匹に14
C標識フタル酸ジオクチルを1m
g/Kg(100μCi/Kg)を経口投与し,代謝ケージに入れ,その4時間後
に実施例6の健康食品のカプセル充填前の組成物及びその改変品を10mg/Kg
経口投与し,フタル酸ジオクチル投与後8時間の間に代謝されるフタル酸ジオクチ
ルの量を放射強度として測定した。・・・結果を表11に放射強度の回収率として
示す。これより,本発明の組成物が著しく環境ホルモンであるフタル酸ジオクチル
の排出を促進していることがわかる。これは,血液からのフタル酸ジオクチルの代
謝排泄を活血作用を有する成分が促進し,組織細部にわたったフタル酸ジオクチル
の代謝排泄を津液成分が促進しているからと考えられる。
【0033】<実施例9>下記に示す処方に従って,健康食品を作成した。即ち,
処方成分を良く混練りし,ゼラチンカプセルに100mg充填密封し,健康食品を
得た。このものは,実施例7と同様の検討に於いて73%の放射性回収を得た。
シムノールサルフェート(魚肝の有効成分),10重量部ダイズイン(大豆の
有効成分),20重量部魚肝油70重量部
ウ引用例2ないし4には次の記載がある。
(ア)引用例2(甲3)
【請求項1】式I
【化1】・・・
〔式中,R1
およびR4
は水素であるか,または一緒になって結合を形成しており,
R5
,R6
,R7
およびR8
は,互いに独立に,水素,ヒドロキシ,またはメトキシ
を表し,さらにR7
はグルコシド,ルチノシド,マンノグルコピラノシル,アピオ
シルグルコシドのような糖置換基を表し,R2
およびR3
は,水素,ヒドロキシル,
メトキシ,または
【化2】・・・
(式中R2
’,R3
’,R4
’,R5
’およびR6
’は,互いに独立に,水素,ヒドロ
キシまたはメトキシである。ただしR2
またはR3
が任意に置換されたフェニル環
で表されることを条件とする。)で表される基である。〕で表される化合物および
その製薬上許容される塩の,COX-2,またはCOX-2およびNFκBによっ
て媒介される疾病の治療または予防用の薬剤を製造するための使用。
【請求項5】疾病が,痛み,発熱,炎症,慢性関節リウマチ,変形性関節症,癒着,
心臓血管疾患,アルツハイマー病,敗血症および糖尿病からなる群より選択される,
請求項1~3のいずれか1項に記載の使用。
【発明の詳細な説明】【0001】【発明の属する技術分野】本発明は,シクロオ
キシゲナーゼ-2およびNFκB媒介性疾病,特に関節炎およびアルツハイマー病の治
療に有効なフラボン型化合物を包含する。より詳細には,本発明は,シクロオキシ
ゲナーゼ-2(COX-2)およびNFκBを阻害する方法に関する。
【0002】【従来の技術】プロスタグランジンは,多くの場合ナノモルからピコ
モルまでの濃度範囲において,多方面にさまざまな生物学的効果を生じる極めて強
力な物質である。アラキドン酸の酸化を触媒しプロスタグランジン生合成へと導く
2つの形態のCOX,アイソザイムCOX-1およびCOX-2の発見は,結局,生理学および
病態生理学における上記2つのアイソザイムの役割を明確にするための新たな研究
に帰着した。これらのアイソザイムは,異なる遺伝子制御を有し,明確に異なるプ
ロスタグランジン生合成経路を示すことが明らかになっている。COX-1経路はほと
んどの細胞で構成的に発現している。この経路は,血管ホメオスタシスにおいて急
性の事象を制御し,また正常な胃および腎臓の機能維持に役立つプロスタグランジ
ンを生成するために応答する。COX-2経路は炎症,有糸分裂生起および排卵現象に
関連した誘導メカニズムを伴う。
【0003】プロスタグランジン阻害剤は痛み,発熱,および炎症に対して治療法
を提供し,さらに,たとえば慢性関節リウマチおよび変形性関節症の治療において
有効な治療法である。イブプロフェン,ナプロキセン,およびフェナム酸といった
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は2つのアイソザイムを共に阻害する。構成酵
素COX-1の阻害は,結果として,潰瘍および出血を含む胃腸の副作用を生じ,長期
にわたる治療にともなって腎臓に問題を生じる。誘導酵素COX-2の阻害剤は,COX-1
阻害剤の副作用なしに抗炎症活性をもたらすと考えられる。
【0004】NFκBは慢性炎症性疾患において重要な転写因子である(総説として
NewEnglandJ.Med.336(1997)p.1066参照)。NFκBは関節炎(変形性関節症
および慢性関節リウマチ),喘息,炎症性腸疾患,および他の炎症性疾患のような
疾病において炎症反応を媒介する。
【0005】本発明は,COX-2,NFκB,ならびにCOX-2およびNFκBの両者の生合成
阻害剤であるフラボン化合物を開示する。
【0010】特に好ましい化合物は,フラボン,・・・ダイゼイン(daidzein),ゲ
ニステイン,ゲニスチン(genistin),・・・からなる群より選択される。
【0023】本発明の組成物は,アルツハイマー病,心臓血管疾患,虚血性潅流障
害,炎症性腸疾患,HIV感染を含む免疫障害,敗血症,自己免疫疾患,糖尿病,炎
症性疾患,月経困難症,喘息,早産,癒着とくに骨盤癒着,骨粗鬆症,および強直
性脊椎炎といった,多くの病気または疾病状態の治療に有効であるかも知れない。
(イ)引用例3(甲4)
【特許請求の範囲】1.アルツハイマー型痴呆,または加齢による認識機能喪失を
治療または予防するための医薬品の調製において,ゲニステイン(genistein),
ダイゼイン(daidzein),ビオカニンA(biochaninA),ホルムオノネチン
(formononetin),0-デスメチルアンゴレンシン(0-desmethylangolensin),グ
リシチン(glycitin),およびエコール(equol)からなる群より選択される単離
イソフラボノイドを,ヒト患者の血流中の一過的なイソフラボノイド濃度が,少な
くとも100ナノモル(nanomoles)/Lになるのに十分な量使用すること。
【発明の詳細な説明】アルツハイマー痴呆および認識機能低下を治療および予防す
るためのイソフラボノイド
発明の背景本発明は,加齢に伴う痴呆および認識機能の低下を予防および治療す
るための療法に関する。・・・
発明の概要本発明は,ダイズ,および,その他,クローバーなどの植物の成分で
あるイソフラボノイドを単離したものを,アルツハイマー型痴呆,および加齢に伴
うその他の認識機能低下を治療および予防するために使用することを特徴とする。
・・・
(ウ)引用例4(甲5)
【特許請求の範囲】【請求項1】イソフラボン,リグナン,サポニン,カテキン,
およびフェノール酸から成る群より選ばれた少なくとも2つの植物化学物質で強化
されていることを特徴とする植物体由来の組成物。
【請求項17】前記イソフラボンが,主としてゲニステイン,ダイゼイン,グリシ
テイン,ビオカニンA,ホルムオノネチン,およびこれらの天然修飾体から成る群
より選ばれることを特徴とする請求項1記載の組成物。
【発明の詳細な説明】【0001】【発明の属する技術分野】本発明は,植物体か
ら抽出される組成物,より詳細には,サポノゲニン,サポニン,カテキン,リグナ
ン,フェノール酸,イソフラボンなどの植物化学物質,特に,大豆,亜麻,茶,コ
コアなどの所定のファミリーの植物から抽出される組成物,ならびにこれらの組成
物を栄養補給剤または食品添加剤として使用する方法に関する。
【0006】・・・イソフラボンはまた,単独で,のぼせや骨粗鬆症など,閉経の
開始および持続に関連した種々の症状を軽減または予防する可能性もある。また,
イソフラボンは単独で,心臓疾患などの特定の心血管系疾患の治療,コレステロー
ル-脂質レベルの低下,血管形成の調節,および他の血管系の作用に有効な場合も
ある。更に,イソフラボンは単独で,頭痛,痴呆,炎症,およびアルコール乱用の
軽減,ならびに免疫調節に関連して利用されてきた。
【0017】【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は,イソフラボン,リ
グナン,サポニン,カテキン,および/またはフェノール酸を,栄養補給剤として
またはより伝統的なタイプの食物中の成分として各自が摂取する便利な方法を提供
することである。
エ甲6(中薬大辞典第二巻,805,806頁,「1628コクダイズ」の
項)には次の記載がある。
「〔成分〕比較的豊富なタンパク質,脂肪,炭水化物及びカロチン,ビタミン
B1・B2,ニコチン酸などを含む1
。さらに以下の成分を含む。①イソフラボン類
ダイズインとゲニスチンがある。前者の含有量は0.007%で,加水分解後はダ
イゼインとグルコースになる。後者の含有量は0.01~0.15%で,加水分解
後はゲニステインとグルコースになる2,3
。・・・〔薬効と主治〕血を活かす,水
を利す,風を去る,解毒する,の効能がある。・・・5[食療本草]中風脚弱,産
後の諸疾を治す。・・・心痛,筋肉の引きつり,膝の痛み,脹満を治す。・・・6
[本草拾遺]黒くなるまで炒って,まだ煙の出ている熱いのを酒の中に入れる。風
痺,・・・四肢不随・・・,産後の諸風を治す。食後半両を服用すれば,心胸煩熱,
風熱恍惚を去る,目を明らかにする・・・」
(2)判断
ア上記1(1)イ認定の事実によれば,引用例1記載の発明は,美肌作用やアト
ピー性皮膚炎,湿疹,皮膚真菌症,色素沈着症,尋常性乾癬,老人性乾皮症,老人
性角化腫,火傷などの皮膚疾患の改善作用,発毛促進作用,発汗促進作用,消化液
分泌促進作用,利尿作用,便通促進作用等の生体活動の改善や,人体機能の発現に
関与する物質群の補給システムを中心とした生体活動の更なる改善手段(生体に有
害な環境ホルモンなどの体外への排出を高める作用も含む。)を提供することを課
題とし(【0005】,【0006】,【0010】),体内から体外に向かって
形成された水の流れを媒体とした人体機能の発現に関与する物質の能動的な移送を
真の目的とする津液作用と,酸素,栄養などのエネルギーを中心とする補給の活性
化作用である補血及び活血作用が,同時に促進されることが,人体にとって極めて
有用であることから,津液作用を有する生薬のエッセンス及びその活性成分から選
ばれる1種ないし2種以上と補血・活血作用を有する生薬のエッセンスから選ばれ
る1種ないし2種以上とを組み合わせて使用することにより,上記課題を解決する
ものであること(【0002】ないし【0004】,【0007】)が認められる。
また,引用例1には,実施例においてシムノールサルフェート,ダイズイン等を含
む健康食品で,環境ホルモンの排出が促進されたことが記載される(【0029】,
【0033】)が,アルツハイマー病,加齢による認識記憶喪失,痴呆,喘息,心
臓疾患,運動障害,運動麻痺及び筋肉の引きつり等に対する効果を示唆する記載は
ない。
一方,上記(1)ウ,エ認定の事実によれば,引用例2ないし4には,大豆イソフ
ラボン等が,アルツハイマー病,加齢による認識記憶喪失,痴呆,喘息及び心臓疾
患等に効果があり,甲6には,コクダイズが運動障害,運動麻痺及び筋肉の引きつ
り等に効果があり得ることが開示されているといえる。しかし,引用例2は,COX-
2,NFκB,ならびにCOX-2およびNFκBの両者の生合成阻害剤であるフラボン化合物
を開示するもの,引用例3は,ダイズ,および,その他,クローバーなどの植物の
成分であるイソフラボノイドを単離したものを,アルツハイマー型痴呆,および加
齢に伴うその他の認識機能低下を治療および予防するために使用することを特徴と
する発明を開示するもの,引用例4は,イソフラボン,リグナン,サポニン,カテ
キン,および/またはフェノール酸を,栄養補給剤としてまたはより伝統的なタイ
プの食物中の成分として各自が摂取する便利な方法を提供する発明を開示するもの,
甲6は,コクダイズの成分,薬効等を開示するものであって,いずれも引用例1記
載の上記課題と共通する課題,とりわけ,生体に有害な環境ホルモンなどの体外へ
の排出を高める作用について記載しているとは認められない。
そうすると,引用例1に接した当業者は,引用発明に含まれるダイズインが,環
境ホルモン排出促進ないしこれと関連性のある生理的作用を有することを予期し,
そのような生理的作用を向上させるべく,津液作用を有する生薬のエッセンス及び
その活性成分と補血・活血作用を有する生薬のエッセンスを組み合わせて使用する
ことに想到するとは考えられるが,ダイズインが,環境ホルモン排出促進と関連性
のない生理的作用を有することにまで,容易に想到するとは認められない。そして,
当業者にとって,引用例2ないし4及び甲6に記載されるアルツハイマー病,加齢
による認識記憶喪失,痴呆,喘息,心臓疾患,運動障害,運動麻痺及び筋肉の引き
つり等に対する効果が,環境ホルモン排出促進ないしこれと関連性のある生理的作
用であると認めるに足りる証拠はないから,当業者が,引用例1の記載から,ダイ
ズインが,上記の各効果をも有することに容易に想到すると認めることはできない。
イこれに対し,被告は,ダイズインのアグリコンであるダイゼイン等の大豆イ
ソフラボンがアルツハイマー病,加齢による認識記憶喪失,痴呆,喘息及び心臓疾
患の処置に有効であることが公知であり,ダイズインを有効成分とする大豆には,
脳梗塞後の運動障害,運動麻痺,及び筋肉の引きつりに効果があり,また視力を良
くする効果もあることが周知であることから,ダイズインを含む引用発明の組成物
の具体的用途として,「強筋肉剤,抗脳梗塞後遺症剤,抗運動麻痺剤,抗喘息剤,
抗視力減退剤,抗機能性心臓障害剤,または,抗痴呆症剤」といったものをさらに
特定することは,当業者が格別の創意なくなし得る旨主張する。
しかし,上記のとおり,引用発明は,津液作用を有する生薬のエッセンス及びそ
の活性成分と補血・活血作用を有する生薬のエッセンスとを組み合わせて使用する
ことにより,課題を解決しようとするものであるから,引用例1に接した当業者が,
引用発明の1成分にすぎないダイズインにことさら着目することの動機づけを得る
とはいえない。そうすると,たとえ,引用例2ないし4及び甲6により,大豆イソ
フラボンないし大豆が被告主張の効果を有することが周知ないし公知といえるとし
ても,当業者において,引用発明から出発して,当該周知ないし公知の知見を考慮
する動機づけがあるとはいえず,相違点2に係る本願発明の構成(「強筋肉剤,抗
脳梗塞後遺症剤,抗運動麻痺剤,抗喘息剤,抗視力減退剤,抗機能性心臓障害剤,
または,抗痴呆症剤」)に想到することが容易であるとはいえない(まして,本願
発明は,引用発明の組成物に加えてクルクミンを含むものであるところ,そのよう
な3成分を含む組成物について,強筋肉剤等の用途が容易想到であることの理由も
明らかでない。)。
ウしたがって,引用例1には,引用例2ないし4及び周知の事項を組み合わせ
て,相違点2に係る本願発明の構成とすべき動機づけが示されていないとして,相
違点2に関する上記審決の判断は誤りである旨の原告の主張は理由がある。
2結論
以上のとおり,原告主張の取消事由2には理由があり,その余の争点について判
断するまでもなく,審決には取り消すべき違法がある。
よって,審決を取り消すこととして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官
芝田俊文
裁判官
岡本岳
裁判官
武宮英子

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