弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成16年12月8日宣告
平成14年(わ)第551号
            主      文                 
被告人A1を懲役3年に,同B1を懲役2年6月にそれぞれ処する。
被告人両名に対し,未決勾留日数中各100日をそれぞれその刑に算入する。
訴訟費用は全部被告人両名の連帯負担とする。
            理      由                 
(罪となるべき事実)
 被告人A1は,本件犯行当時千葉県木更津市ab番地に事務所を置くC1漁業協
同組合(以下「組合」という。)の代表理事組合長として,組合の業務全般を統括
し,組合資産の売却に際し組合を代表して売買契約を締結し売買代金を収受する業
務に従事していたもの,被告人B1は,不動産売買及び仲介等を目的とする株式会
社D1の代表取締役であるが,被告人両名は,組合所有の同市cd番所在の雑種地
(面積10万3514平方メートル。以下「本件土地」という。)を株式会社E1
(以下「E1」という。)及び株式会社F1(以下「F1」という。)を共同買主
として代金23億9569万円で売り渡すに当たり,売買代金のうち2億円を領得
しようと企て,共謀の上,平成11年4月12日,同県勝浦市ef番地所在のE1
事務所において,本件土地売買代金の一部として,E1から金額8000万円の小
切手1通を,F1から金額1億2000万円の小切手1通をそれぞれ被告人B1が
受け取り,これを同被告人を介して被告人A1が組合のため業務上預かり保管中,
そのころ,同市内において,上記小切手2通を被告人らの用途に充てるため,ほし
いままに着服して横領した。
(事実認定に関する補足説明)
第1 争点
 被告人A1は,本件当時組合の代表理事組合長であり,被告人B1は,本件当時
不動産売買及び仲介等を目的とする株式会社D1(以下「D1」という。)の代表
取締役であったところ,平成11年4月,被告人A1は,組合を代表して,被告人
B1の仲介により,かつて千葉県から払下げを受けた本件土地をE1及びF1(以
下,両社を総称して「G1」という。)に対し両社を共同買主として売り渡したこ
と,その際,組合が,共同買主E1及びF1に対し,本件土地を代金21億956
9万円で売り渡す旨の同月8日付け土地売買契約書(仲介人D1)が作成されたほ
か,同月12日付けで,売主をH1株式会社(代表取締役I。以下「H1」とい
う。),買主をE1及びF1とし,実際には本件土地の売買に伴って組合からG1
に所有権が移転した本件土地上の建物,テニスコート等(以下,これらを「上物」
ということがある。)を代金2億円で売り渡す旨の虚偽の売買契約書(立会人D
1)が作成され,上物の売買代金とされた2億円は,G1から,金額8000万円
(E1分)及び金額1億2000万円(F1分)の2通の小切手により被告人B1
に交付されたが,上記2億円は組合に入金されることなく,その一部が後
記Jセンター(以下「直売センター」という。)の建設に関連する未払工事代金等
の清算等に充てられ,その余を被告人B1が取得したことは,関係証拠から明らか
であり,弁護人ら及び被告人らもかかる外形的事実はおおむね争っていない。
 本件の争点は,詰まるところ,本件土地の売買代金は,23億9569万円であ
るのか21億9569万円であるのか(以下,これらの金額をそれぞれ「約24億
円」,「約22億円」ということがある。),換言すれば,上記2億円が本件土地
の売買代金の一部であるのかどうか,という点に尽き,検察官の主張は,要する
に,G1との間では本件土地の売買代金を約24億円とする旨の合意が成立したに
もかかわらず,被告人A1及び同B1は,被告人A1がかかわって業者に建設させ
た直売センターに係る長年にわたる未払工事代金等の支払資金等を捻出するため
に,上記売買代金を分割し,そのうちの2億円について上物の売買契約書を作成し
てこれを隠匿したもので,本件土地の売買代金は約24億円であるというものであ
り,弁護人ら及び被告人らの主張は,要するに,本件土地の売買代金は約22億円
であり,上記2億円は,被告人B1がG1から本件土地の開発に関連して受けた業
務委託契約に係る報酬であって,本件土地の売買代金の一部ではないというもので
ある。
 そして,被告人A1については,直売センターに関連する未払工事代金等を清算
するため,組合に対しては本件土地の売買代金を坪7万円で総額約22億円と発表
しながら,売買契約書を二つに分けて本件土地の売買代金の一部である2億円を裏
に回し,同金員で上記未払工事代金等を支払うなどした旨事実を認めた内容の検察
官調書があり(乙2ないし乙8等),被告人B1についても,被告人A1から,上
記未払工事代金等を清算するため,組合の理事たちに話さなくて済むように売買代
金の中から2億円くらいを捻出してほしい旨依頼され,同被告人に教示されて本件
土地の上物を対象物件として2億円の売買契約書を作成した旨事実を認めた内容の
検察官調書がある(乙11,乙12,乙25)が,当公判廷においては,被告人両
名とも,被告人A1が上記未払工事代金等の処理を被告人B1に依頼し,同被告人
がこれをG1側に依頼したことは認めつつも,本件土地の売買代金は坪7万円であ
り,2億円は本件土地の売買代金の一部ではない旨の供述をし,さらに,被告人A
1は,上物の売買契約書の存在は知らなかったとも供述している。
第2 当裁判所が認定した事実
 関係証拠によれば,以下の事実が認められる。
1 被告人A1の組合における地位及び被告人B1が本件土地の開発にかかわるよ
うになった経緯等
(1)被告人A1は,昭和49年ころ組合の理事になり,昭和56年ころから平成1
3年3月本件を契機に辞任するまで組合の組合長(代表理事)の地位にあった。
(2)平成元年3月23日,組合は,千葉県から合計6億円余りで本件土地を含む木
更津市内の3筆の土地(埋立地)合計14万平方メートル余り(以下これら3筆の
土地を「埋立地」と総称する。)の払下げを受けた。ただし,その際,払下げから
10年間これらの土地について使用収益を目的とする権利を設定し又は移転しては
ならないものとされた。
(3)被告人B1は,不動産取引仲介業等に従事していた平成三,四年ころ本件土地
の開発の動きを知り,これにかかわるようになった(なお,同被告人は,平成五,
六年ころD1を設立した。)。
2 K株式会社及び株式会社Oの本件土地開発参入並びに直売センターの建設とこ
れに関連する未払工事代金等の発生等
(1)直売センター建設に至る経緯等
ア 平成2年5月ころまでに,K株式会社L支社長の肩書きを持つ亡M及び元木更
津海上保安署の職員で組合とも職務上の接触の多かった亡Nから埋立地の開発の申
入れがあった(Nは,平成2年5月30日株式会社O(代表取締役N,取締役M
等。以下「O」という。)を設立した)。被告人A1は,組合との取引実績のない
KやOに本件土地の開発をさせるためには,Kからのりの直売センターを組合に提
供させるのがよいと考え,同月19日組合理事会(以下,単に「理事会」という。
なお,証拠上「役員会」とあるのは理事会である。)にその旨諮ったところ,同日
の理事会において,Kの支援の下にNの紹介する土地に千葉県君津郡g町(当時)
にあった組合ののり直売所を移転するとともに,同人に組合のいわゆる看板を有料
で使用させて同所で鮮魚類の販売をさせることを可決し,ここに,直売センター
(後に「Jセンター」の名称が付された。)の建設が決定した。
イ 上記理事会の決定を受けて,同年6月29日,Kと組合は,Kが直売センター
を建設して組合に賃貸する旨の合意書を作成し,その一方で,Mは,同年8月,被
告人A1に対し,埋立地の開発の過程で設立する新会社の株主として同被告人を優
遇するよう取り計らう旨及び埋立地に建設する予定のショッピングセンター内のテ
ナントの出店について同被告人を最優先順位として特別待遇する旨の文書を差し入
れた。
(2)直売センターに関連する未払工事代金等の発生及びこれに対する被告人A1の
対応
ア 直売センター建設工事の発注状況
 直売センターは,千葉県君津郡g町h(当時)のP夫妻の所有地上に建設される
ことになり,平成3年4月ころ完成したが,被告人A1は,いずれも発注者を明確
にしないまま,平成2年秋ころ,以前から組合の工事を受注していたQ株式会社
(以下「Q」という。)に対し直売センターの看板の基礎工事を依頼するととも
に,Qの当時の千葉営業所g作業所工事主任Rに上記看板の製作を担当する業者の
紹介を依頼し,平成3年春ころ,S株式会社(以下「S」という。)に直売センタ
ーの緑化工事を依頼した。また,直売センターの建物については,平成2年10月
ころ,KがT株式会社(以下「T」という。)にその建設を発注した。なお,上記
看板の製作はU等が担当することになった。
イ Qに対する組合による保証の経緯
 Qにおいては,上記のような受注経緯から,発注者は組合であると理解していた
ところ,平成3年初めころ,工事請負業者に対する説明会の席上で,被告人A1が
発注者はOになる旨告げたため,Oによる工事代金の支払に不安を抱いて,同被告
人に組合が保証人となることを求め,同被告人は,理事会に諮ることなく,その場
でこれを承諾し,その旨の契約書を作成した。そして,同年7月10日付けで,O
とQとの間で前記看板の基礎補強工事の契約書が作成されたが,その際にも,被告
人A1は,理事会に諮ることなく組合がOの保証人となることを承諾した。
ウ 直売センターに関連する工事代金等の支払状況
 直売センターに係る各工事代金は,T分が追加工事等を含めて4350万714
8円,Q分が7725万円,S分が938万8450円,U分が349万5800
円であったが,直売センターの建設工事中にKが事実上倒産し,Kによる本件土地
の開発事業を引き継いだOにも資力がなかったため,これらの工事代金について
は,その一部が支払われたのみで,そのほとんどが支払われず,関係業者から,上
記受注経緯から組合が支払ってくれるよう強く求められたため,被告人A1は,理
事会に諮ることなく,組合からOの口座に,平成3年3月11日に500万円,同
月28日に3000万円(合計3500万円)をそれぞれ振り込ませたほか,同月
11日ころから平成4年4月ころまでの間に,K及びこれを引き継いだOが支払う
べき工事代金,資材代金,直売センターオープン行事費用等合計7826万794
9円を組合から各業者に支払わせた(これらの立替払の中には,Uに対する看板工
事代金349万5800円,Tに対する直売センターの追加工事代金1063万7
148円も含まれていた。)。
 なお,Mは,組合あてに,平成3年3月25日付けで,直売センターに関する施
設,その他の費用を負担することを確約する旨の確約書を提出し,被告人A1は,
平成3年4月1日開催の理事会において,直売センターの建設費はK及びO側が全
額負担することが決定している旨説明して理事会の了承を得たが,そのころには前
記のとおり既にOに対する送金や立替払が発生していた。
エ 直売センターの契約関係
 直売センターの建物は平成3年4月に完成したところ(保存登記は平成4年3月
25日),直売センターは,当初はP夫妻からOが土地を賃借し,その上にKが建
物を建設する計画であったが,Oにおいて土地賃借に伴う保証金3000万円を準
備できなかったため,これに換えて,直売センターの建物をP夫妻の共有名義で登
記し,OがこれをP夫妻から賃借することとなった。そして,平成3年5月11日
付けで,賃貸人をP夫妻,賃借人をO,賃借人の連帯保証人を組合とする建物賃貸
借契約書が作成されたが,被告人A1は,組合が連帯保証人となることを理事会に
諮ることはしなかった。また,同契約書には,OはP夫妻に対し保証金として30
00万円(ただし,11年目から毎年10パーセントを償却する。)を差し入れる
ものと記載されたが,建物をP夫妻の共有名義で登記したことにより,上記保証金
は現実にはP夫妻に交付されていなかった。なお,その後,Oは賃料の支払を滞り
がちであったことから,P夫妻の依頼を受けた不動産業者V(経営者V´)の要請
により,平成6年2月1日組合が上記建物の賃借人となり,被告人A1がその連帯
保証人となった。
(3)常例検査を契機とする組合による保証等の発覚とその後の対応
ア 常例検査を契機とする組合による保証等の発覚
 平成4年4月ころまでに,組合がOに送金した金額及びOのために(Kが発注
し,Oが引き継いだ工事代金等を含む。)直売センターの工事関係業者等に立替払
した金額は,合計7826万7949円に上っていたところ,同年行われた千葉県
の組合に対する常例検査により,直売センターの利用関係に関する契約書がないこ
とのほか,Oに対する未収金の早急回収等を指摘され,さらに,平成5年10月1
5日に実施された同県の組合に対する常例検査の結果,K及びOと組合との間で締
結した直売センターに係る合意書及び確約書について,理事会に諮るよう指摘され
たことから,同年11月27日に開催された理事会において,各種契約書,合意書
等が理事らに示され,直売センターの建物の賃料の支払債務及び看板基礎工事代金
の支払債務について組合が保証人となっていることが明るみに出た。そして,理事
会に諮ることなくそのような重要な契約の締結等を行っていた被告人A1に対する
批判が噴出し,同被告人は,組合に損失を負わせないようにこれらを適切に解決し
なければならない立場に置かれることとなった(なお,同年の常例検査結果に基づ
く正式な指導は,同年12月22日付け書面でなされているが,同年1
1月11日ころ組合において事実上検査結果を聴取しており,上記理事会の検討は
これに基づいてなされたものである。)。
イ Oに対する未収金の回収等
 そこで,組合とK及びOとの間の契約関係,合意書等の整理が行われるととも
に,以下のとおり,上記未収金の回収等がなされた。
① 平成5年5月13日 Oから1500万円入金
資金:本件土地の開発に参入しようとしていた業者の一つである有限会社W(以下
「W」という)が,同年3月30日に組合に入金していた5000万円のうち15
00万円が払い出されて,同年5月13日,これがNからOの口座に入金され,組
合に返済された。なお,同年8月ころWとの間で紛議が生じ,その後同月27日,
有限会社X(代表取締役Y。以下「X」という)からOに2000万円が送金され
ているところ,その後もWとの間で紛議が続いていた様子はうかがわれないことな
どから,上記2000万円はWに対する上記1500万円の返済等に充てられたも
のと推測される。
 ② 同年12月22日 Oから2100万円入金
資金:同月21日,XからOの口座に2100万円が送金され,これによりOから
組合に返済された。
 ③ 平成6年1月26日 Oから1226万7949円入金
資金:被告人A1の依頼により同月25日Zが組合から1400万円の融資を受
け,同日そのうち1386万7949円が同人からOの口座に送金されて,これに
よりOから組合に1226万7949円が返済された。
 ④ 同年2月1日ころ Oから直売センターの建物賃借保証金3000万円を取

 前記(2)エ記載のとおりOに替わって組合が直売センターの建物の賃借人となり,
OがP夫妻に預けたとされている保証金を組合がOから譲り受け,これを組合の資
産として計上したものであるが,前記(2)エ記載のとおり保証金は現実には差し入れ
られておらず,上記保証金3000万円は架空の資産である(保証金が差し入れら
れていなかったことは,平成12年末ころ,組合が保証金の返還請求をしたことか
ら明らかになった。)。
 以上により,組合との関係においては,帳簿上は,組合のOに対する未収金は全
部回収した形になったが,いずれもO自身の資金によるものではないため,これら
は,上記保証金を除き,他の者に対する債務として存続することとなった。
ウ Qに対する工事代金の一部支払
 被告人A1が組合の理事会に諮ることなくQに対し看板基礎工事代金の支払債務
について組合を保証人としていた問題については,平成7年3月31日ころ,組合
がOから直売センターの看板を看板基礎補強工事代金を含む工事代金の半額417
1万5000円で購入し,その代金をOからQに支払う形を取って,保証債務を免
除された。これによって,OのQに対する残債務は4171万5000円になっ
た。なお,これについては,組合においてその回収に全面的に協力することとなっ
た。
エ O関係の残債務
 このようにして,千葉県から指摘された事項は,すべて組合としては解決した形
となったが,上記ウ記載のとおりQに対して支払われた工事代金の半額を除けば,
Oの債務は,一部について債権者が変更になったのみで依然として返済されておら
ず,この時点で,直売センターに関連するO関係の債務は以下のとおり,総額1億
0610万3450円となった。このうちZに対する借入金については,これは実
質的に同人に対する被告人A1自身の債務であるとともに,Zに組合に対する多額
の債務を負担させたものであり,また,その余のO関係の債務については,直売セ
ンターの建設に自らかかわり,業者に対し発注者が組合であるかのように思わせた
ことなどの経緯から,依然としていずれも同被告人において解決しなければならな
いことに変わりはなかった。
① Qに対する工事残代金 4171万5000円
② Sに対する工事残代金  938万8450円
③ Xに対する借入金  4100万円(前記イ①,②の合計)
④ Zに対する借入金     1400万円
3 G1への売却以前の本件土地の開発に関するその他の動向
(1)O,K及びW以外にも,株式会社A2(平成5年4月30日商号変更以前は,
株式会社A2´。代表取締役B2。以下「A2」という),C2株式会社(以下
「C2」という。),Q,X,D2株式会社等の業者が開発に名乗りを上げ,組合
は,平成8年7月ころ,「埋立地有効利用推進会議」を設けて,業者から開発計画
を聴取するなどするとともに,同年11月に組合員に対し埋立地の利用方法につい
てアンケート調査をし,平成9年3月には,売却又は賃貸によりその活用を進める
旨埋立地の利用について組合の方針を確定した。
(2)そのような中で,組合は,同年7月本件土地について鑑定を依頼し,更地価格
26億9136万4000円との評価を得て,被告人A1もそのころこれを了知し
た。
4 G1への本件土地の売却経緯等
(1)G1への売却決定経緯
 E1及びF1の各代表取締役であるE2は,平成10年春ころ被告人B1から本
件土地購入の打診を受けたが,ホテル用地としては広すぎると考えて断り,その話
は一旦立ち消えになっていたところ,同年8月ころ,再度同被告人から本件土地を
坪8万円で購入しないかと勧められ,同被告人の案内で現地を見た上,組合が売主
であるのでホテルの排水について組合の同意を改めて得る必要がないことも考慮し
て,温浴施設(スパ)及びホテルの用地として,同金額で購入することを社内で決
定した。しかし,その後もE2は同金額での買受意思を同被告人に明示することな
く,売買代金等の減額を図り,同被告人に対し,同被告人の手数料を通常の半分以
下の3000万円に減額させた上,購入に向けて手続を進めるよう依頼した。その
後,E2は,組合事務所に被告人A1を訪問して本件土地を購入する旨を伝える一
方,被告人B1を介して売買代金の減額を求めた。被告人A1は,地元の一流企業
による本件土地の購入を喜び,売買代金減額の要求を受け入れて,表向きは坪7万
円とした上,O関係の債務の清算等の資金2億円を加えた合計約24億円で売却す
ることとし,被告人B1において,E2に対し,坪7万円でよいが2
億円を加えてほしい旨求めて,その了解を得た。そこで,同年9月12日,組合の
役員総代長会議でF1総支配人であったF2が本件土地の利用計画を説明するとと
もに,坪7万円で購入したい旨を表明し,同年10月17日,組合の臨時総会で本
件土地を坪7万円でG1に売却することが決定された。
 なお,被告人B1や組合側がG1側に対し売買代金とは別にリベートや協力金と
して2億円を要求したことはなかった。
(2)H1名義の契約書が作成された経緯
 その後,被告人両名は,上記2億円の受領方法について相談し,売主をH1,売
買の対象物件を本件土地の上物とした上,2億円の売買契約書を別途作成すること
とし,被告人B1において,E2に対し「本件土地の代金は坪7万円に2億円足し
てもらった24億円弱で間違いないが,形の上で契約書を二つにして,坪7万円の
土地売買契約書と代金2億円の上物の売買契約書に分けてほしいということであ
る」旨説明して,同人の了解を得た。
 そして,平成11年4月8日ころ,本件土地に関する同日付の前記土地売買契約
書が作成され,当日G1から組合に対し21億9569万円が支払われ,その際,
組合からG1に対し,本件土地上に存在する建物,樹木及び全施設が本件土地の購
入者に帰属することを確認する旨の確認書が差し入れられた。
 次いで,同月12日ころ,同日付で上物に関する前記売買契約書が作成され,当
日,G1から被告人B1に金額1億2000万円及び同8000万円の2通の小切
手が交付され,これについては,H1名で領収証がG1側に交付された。
 なお,Iは被告人B1の知人であり,H1は当時事実上倒産して実働していなか
ったが,同被告人がH1の実印等を保管していた。
5 2億円によるO関係の債務の清算等
 G1から上物の売買代金という名目で振り出された合計2億円の小切手2通を受
領した被告人B1は,同年4月12日,そのうち1億1784万0630円を4通
の銀行振出の自己あて小切手にした上,そのころ,以下のとおり小切手を交付し,
あるいは組合の被告人A1及びZ名義の各普通預金口座に入金した。
① Qへの支払     4171万5000円
② Sへの支払      938万円
③ Xへの支払    5016万3800円
 前記4100万円のほか,その利息及び後日用立てた50万円を含む金額である
(ただし,若干計算間違いがある。)。
④ 被告人A1の口座への入金  235万2000円
⑤ Zの口座への入金    1422万9830円
 被告人A1分とZ分は,合計金額1658万1830円の小切手により入金され
ている。
 なお,A2のB2は,捜査段階において,被告人A1がA2に本件土地の開発を
ゆだねる旨約束していたにもかかわらず本件土地をG1に売却することになったこ
とに憤慨してそれまで投下した多額の資本の穴埋めを要求したところ,同被告人か
ら被告人B1を紹介され,同被告人から2600万円を受け取った旨供述し,被告
人A1も捜査段階においてこれとよく符合する供述をしていたところ,いずれも当
公判廷において,被告人B1は,B2に2600万円の架空の領収証を作成しても
らったもので,同人に上記金員を交付してはいない旨供述し,被告人A1もB2に
対する上記金員の交付を否定する供述をしているほか,B2も被告人B1の上記供
述と同旨の証言をしている。しかし,B2が受け取ってもいない多額の金員を受け
取ったなどと事実と異なる供述をすべき理由はなく,被告人A1が捜査段階におい
て2600万円を支払うに至った経緯を含めてB2の捜査段階における供述とよく
符合する供述をしていたことをも考えると,B2の捜査段階における上記供述は信
用性が高いということができ,B2に2600万円が支払われたと認められるが,
上記2億円の使途に関する捜査結果に照らすと,これが上記2億円か
ら支払われたかどうかは明らかでない。
第3 説明及び当裁判所の判断
1 被告人両名の各検察官調書の任意性等
(1)被告人A1の各検察官調書の任意性
 被告人A1の各検察官調書は,いずれもG2検察官の取調べに係るものであると
ころ,弁護人らは,同被告人は,腰痛があるにもかかわらず,取調べ中10時間以
上にわたって不動の着座姿勢を取らされ,身動き一つできない身体の拘束を強いら
れ,服用していた薬の副作用で口が渇くため口を動かしただけでも「口を動かす
な」と怒鳴り付けられて威迫されたほか,検察官の言うことに「はい」と言うよう
強要されたなどととし,逮捕前に作成された同被告人の各検察官調書(乙2ないし
乙8)には任意性がない旨主張し(平成15年5月13日付け意見書),同被告人
においてこれに沿う供述もしている。
 しかしながら,同被告人は,任意捜査による取調べの後,平成14年3月4日に
逮捕され,同月6日に勾留されたところ,弁護人らが任意性を争っているのは平成
13年3月22日付け供述調書1通(乙8)及び平成14年2月6日付け供述調書
6通(乙2ないし乙7)であって,いずれも任意捜査の段階のものである上,平成
13年3月22日の取調べは,午後3時ころから午後6時ころまでの3時間くらい
であったというのであり(G2検察官の証言によれば,午後2時30分ころから午
後4時ころ),そのような短時間の初めての取調べにおいて任意性に影響を及ぼす
ような取調べが行われたとは考えにくい。また,同被告人は,逮捕後は事件に関す
る供述調書への署名を拒否する一方で,事件と関係がないと思った供述調書にのみ
署名をし,逮捕後の検察官調書の内容についても大体納得できる旨当公判廷で供述
しているのであって,そうすると,同被告人は,逮捕後は取調べに対し自己の意思
を通すことができていたことは明らかであり,それにもかかわらず任意捜査の段階
では任意性に影響を及ぼすような取調べが行われたとも考えにくい。加えて,同被
告人は,平成13年3月22日の取調べの後被告人B1に紹介された
弁護士に相談をした際,同弁護士から真実でないものに署名をしてはならない旨厳
しく注意されており,平成14年2月6日の取調べの際には,供述調書に署名する
ことの意味を十分認識していたことをも考えると,同日付けの検察官調書はもとよ
り,これと同旨の平成13年3月22日付けの検察官調書についても,その任意性
に疑いを差し挟む余地はない。
 なお,取調べの際,G2検察官において,同被告人の尊大な言動を注意し,質問
に対し直接答えるように注意し,長時間にわたり説諭したことなどは認められるも
のの,いずれも任意性に疑いを生じさせるものとはいえない。
(2)被告人B1の検察官調書の任意性等
 被告人B1が署名した検察官調書は,身上関係の供述調書を除くと,いずれも任
意捜査の段階に作成された平成14年1月28日付け供述調書1通(乙25)及び
同年2月4日付け供述調書3通(乙11,乙12,乙26)のみである(同年3月
4日逮捕)ところ,弁護人らは,検察官は,同被告人の供述が自己の意に反すると
怒鳴りまくり,机をたたき,署名に際しては,ワープロの画面を見ながら聞き取れ
ないほどの速度で読み聞けをし,同被告人において内容を確認できないまま最終丁
のみを同被告人に示して署名させたほか,同被告人には,乙11,乙12及び乙2
5の各検察官調書について署名をした記憶がないなどと主張している。
 しかしながら,供述調書の署名に関する同被告人の供述は,署名したページに数
行にわたって同被告人の言った内容が書いてあったのを確認して署名したにもかか
わらず,乙11,乙12及び乙25の各供述調書の最終丁は別の機会に署名しある
いは署名しろと言われたものと同じ内容であるとか,署名したときには空白になっ
ていた部分に書き加えられているなどというものであり,それ自体甚だ合理性を欠
き,その供述内容も不合理な変遷が多い上,同被告人は,同年2月4日に複数の調
書に署名した記憶はないなど署名の数自体に照らして明らかに事実に反する供述も
している。このような明らかに不合理な供述を基礎とする取調べ状況に関する同被
告人の供述は到底信用できず,他に,同被告人の前記供述調書の任意性ないし証拠
能力に疑いを抱かせる事情はうかがわれない。
2 本件土地の売買代金額
(1)各関係者の供述
ア E2は,捜査段階において,「被告人B1から坪8万円で買わないかとの話が
あり,社内で購入を決定した後減額交渉をした結果,坪7万円プラス2億円という
ことになり,平成11年になってからと思うが,被告人B1が,代金のうち2億円
分を上物の代金ということにして契約書を二つにしてほしいと言い出し,同被告人
は,さらに,「漁協の債務を整理するのに2億円を使う。漁協の債権者をH1にま
とめて,形の上でH1が売ることにしているだけですから。あの土地の代金は坪7
万円に2億円足してもらった24億円弱で間違いないが,形の上で契約書を二つに
して,坪7万円の土地売買契約書と代金2億円の上物の売買契約書に分けてほしい
ということなんです」などと説明した」旨,また,「G1としては,組合所有の約
3万坪の埋立地を約24億円で購入しただけのことです。組合側から,いろいろ債
務がらみで問題があるということで,24億円のうちの2億円を組合に直接入金し
ないで支払ってもらいたいという申し出であったことから,G1が好意としてその
ような取り計らいに応じただけのことであり,2億円は,約3万坪の埋立地の売買
代金約24億円の中の2億円に間違いない」旨,本件土地の売買代金
は約24億円である旨明確に供述している。もっとも,E2は,当公判廷において
は,自己の直接の関与を後退させるとともに,事実経過についてはおおむね同様の
供述をしながら,「2億円が土地代かどうかは微妙かなと思う」旨供述している。
イ 被告人B1は,捜査段階においては,「E2に坪8万円で本件土地の購入を持
ち掛け,E2に値切られて被告人A1と相談した結果,組合には表向き坪7万円と
発表し,売買代金は,これにO等の債務の支払資金2億円を加えた約24億円とす
ることになり,E2もこれを了承した。そして,被告人A1と相談した結果,総額
約24億円の売買代金のうち2億円を裏に回すために,組合向けの坪7万円の売買
契約書と2億円の売買代金の売買契約書に分けることに決めた」旨供述していた
(乙11)が,当公判廷においては,「平成10年9月12日にG1のF2が組合
の役員総代長会議で坪単価を発表するまでは,購入価格が坪7万円ということは知
らなかった。平成11年初めころ,被告人A1から,「業者が支払をしてなくて組
合が使っている施設があるので,これを何とかしたい」という話があったが,この
話は,本件土地の購入とセットの話ではなく,いつまでにということも言われてい
ない。E2の性格から契約までにいろんな条件を付けると商談が破談になる可能性
が大きいと思い,このことはG1の方には話さず,同年3月初めころ,再度被告人
A1から3億円強の半分くらいの残債務の整理の話があったときに,G
1の本件土地の購入は動かないと判断し,そのことをG1の専務(以下,単に「専
務」という。)に伝えた」旨,2億円は,本件土地の売買代金が決定した後に,こ
れとは別に支払われることになったものであるとの趣旨の供述をしている。
ウ 被告人A1も,捜査段階においては,「当初坪8万円で購入を持ち掛けたが,
値切られ,早く債務を片付けてしまいたかったので,被告人B1と相談して,坪7
万円に裏に回す2億円を加えた総額約24億円でE2に持ち掛けることにした。実
際には総額約24億円で売却したのに,表向きは総額約22億円で売却したことに
し,売却代金の一部である2億円を裏でもらい,それで私やOの債務を支払ったり
した」旨供述していた(乙6)が,当公判廷においては,「平成10年9月ころ,
業者に来てもらって事業概要,坪単価等を用紙に記載してもらった際,初めてG1
の坪単価が7万円であることを知った。話が壊れたらG1のような優秀な企業はも
う出てこないだろうという思いが強かったので,私から売却希望価格を被告人B1
に伝えたことはない。平成11年1月にG1から5億円の内金の入金があり,もう
売買をキャンセルされることはないだろうと考えて,同年の一,二月ころ,Nが支
払うべき債務の処理を被告人B1に頼んだ。同年3月初めころ,再度被告人B1に
頼み,その際,金額を聞かれて,1億5000万円程度だと言った。被告人B1
は,専務と相談してみると言った。そのとき,上物を土地と別に売却す
るという話はしていない。上物の売買契約書があることは知らなかった」などと供
述している。
(2)検討
ア 被告人A1にとって,自ら直接関与して建設させた直売センターに関連する多
額の未払工事代金の存在等が,組合及び組合長である同被告人自身の信用を失いか
ねない大きな問題であったことは明らかであり,Oにおいて工事代金の支払を滞ら
せ,組合によるその立替払等が始まっていた平成4年1月24日の理事会におい
て,既に,同被告人が,本件土地の開発については,直売センターの建設費3億円
の出費を条件としている旨説明し,同年12月8日の理事会において,同被告人
が,業者の一つであるC2がOの未収金を肩代わりすることもあると説明している
ことからすれば,同被告人が本件土地の開発の機会に直売センター絡みのO関係の
債務を清算しようと考えていたことは明らかである。しかも,同年の千葉県の常例
検査でOに対する未収金の早期回収等を指摘され,これを受けて平成5年2月19
日に組合においてOに対し同月28日までに組合による立替金を返済するよう請求
し,さらに,同年度末までにこれを支払う旨の同年5月11日付け念書を組合に差
し入れさせるなどしたものの,もともと資金のないOから回収することなどでき
ず,結局,前記のようにXやZに依頼して得た資金により組合の立替金とし
てはこれを解消させたが,これは,単に組合の経理上の解決にすぎず,清算を要す
るOの債務としては依然として存続していたのであり,第三者に不良債権を押し付
け,あるいは債務を負担させたことにより,同被告人において解決すべき必要性は
一層強くなったとさえいうことができる。同被告人自身,当公判廷で,本件土地を
処分する機会に整理しなければならないということだったと供述しているように,
本件土地の売却の機会をおいて他にこれを清算する方法はなかったのであるから,
本件土地のG1への売却に際し,それと未払債務の清算がセットではなかったと
か,被告人A1が売買代金が決定した後2か月くらいしてから初めて上記未払債務
の清算を持ち出したなどということは,到底考えられない。加えて,文書の性質及
び記載されている発言者の言葉に照らし極めて信用性が高いと認められる平成12
年度第6回理事会議事録によれば,平成13年3月21日開催の同理事会におい
て,被告人A1は,「21億で売買しようよ。その代わり,その裏で売店なんかの
債務が滞っているからそのものを解消してもらいたいと社長に言ったんだよ。そし
たら都合7万円ではなく8万円になるよと話したことがある。」旨説明し
たことが明らかである(被告人A1は,当公判廷において,発言の趣旨が異なるか
のような供述をしているが,同議事録の記載の正確性に疑いはない。)。売買代金
は約24億円であったが,O関係の債務の清算等に充てるため,被告人両名で相談
の上,表向きは売買代金は約22億円として,実際の売買代金のうちの2億円を裏
に回すことにし,被告人B1においてその旨E2に話して了解を得た旨の被告人両
名の捜査段階における供述は,被告人両名の間でその供述内容が一致しているだけ
でなく,売買交渉の相手方であるE2が捜査,公判を通じて供述するところともほ
ぼ一致している上,上記議事録の記載ともよく符合しているのであって,極めて信
用性が高いということができる。
 これに対し,被告人B1は,当公判廷において,前記のほか,弁護人の質問に対
し,「被告人A1から債務整理の話を聞いて専務に伝えた」と供述しつつ,「専務
には,近隣対策費を捻出するに当たって協力してもらいたいと言った」とも供述
し,さらに,検察官の質問に対し,「専務には組合が借りて使っている直売センタ
ーの工事代金だということを伝えた」旨供述しており,同被告人の公判供述は,そ
もそも同被告人が専務に対しどのように言ったのか甚だあいまいである。また,同
被告人の公判供述によれば,G1側は,坪7万円,総額約22億円で本件土地を購
入できると思っていたところ,契約直前になって,急きょ1億5000万円くらい
もの予定外の多額の支出を要請されながら,特段の異を唱えることなくこれを了承
し,その上,求められてもいないのに,自発的に5000万円を上乗せして2億円
を提供することを申し出たというのであって,これは余りに不合理であるというほ
かない。しかも,同被告人は,G1側が5000万円を上乗せした理由として,専
務から「小湊の方で大分損失が出ているのは知っているからこれで帳尻を合わせる
ように」と言われた旨供述するが,同被告人は,他方において,G1か
らの本件土地売買の仲介料が3000万円になった経緯について,「一般的には仲
介手数料は3パーセントだが,E2から「先にあげるからこの金額で手を打ちなさ
いよ」と言われてこれに同意した」旨供述しているから,通常の半額以下の報酬額
を提示したG1側が,要求もされないのに合計すれば通常の報酬額を超えることに
なる多額の報酬を支払うことにしたというのも不合理極まりない。そのほかにも,
同被告人の公判供述には,2億円分の売買契約書の売主名義人にD1以外の会社,
更にはH1を使うことになった経緯や上物の売買という方法を採った経緯等につい
ても不合理な点が多い。
 被告人A1も,当公判廷において,前記のほか,平成11年4月12日付けの上
物の売買契約書について,第31回公判期日においては,「事件後弁護士同席の場
で被告人B1から見せてもらった。その際同被告人に「こういうものがあれば役員
会でも話ができた」と言った」旨供述しつつ,第32回公判期日においては,「同
契約書を見て何も感じなかった」旨明らかに矛盾する供述をしている上,後者につ
いては,いかに被告人A1の言うように既にG1が買い受けたものであったとして
も,何のためにこのようなことをするのかという疑問すら抱かなかったというの
は,甚だ不自然というほかない。
 また,弁護人らは,2億円は被告人B1がG1から本件土地の開発に関連して受
けた業務委託契約に係る報酬である旨主張するが,本件土地は,地元の漁業協同組
合が売主であることから,ホテル経営に通常伴う排水等に関連する漁業補償等の問
題は,その点についての利害を有する当該組合自体から売買交渉の過程で出てくる
筋合いのものであって,これを土地の売買と別途に解決する必要性は考えられない
(当時F1総支配人であったF2も,当公判廷において,ホテルの建設に対する組
合からの反対は考えられなかった旨供述している。)。そして,本件土地売買交渉
の過程で特別にそのような漁業補償等の問題が出ていた形跡はなく,G1におい
て,2億円もの多額の報酬を支払って被告人B1に解決を依頼しなければならない
ような問題があったことは全くうかがわれない。また,同被告人は,上記2億円か
ら少なくとも1億2000万円近い金額をO関係の債務の支払に充てており,上記
2億円が同被告人がG1から受けた業務の報酬であるとすれば,このような同被告
人の行動は不可解というほかない。弁護人らの主張に沿うかのような土地売買仲介
等に伴う業務委託に関する同被告人の供述も一般論の域を出ず,本件土
地の売買に関しては具体性を欠いており,弁護人らの上記主張の論拠となるもので
はない。弁護人らの上記主張は採用の限りではない。
 以上のほか,QのH2が,捜査段階において,看板工事代金の残金の支払に関
し,被告人両名から本件土地をG1に売却した代金の一部で支払うと聞いた旨供述
していることなどをも総合すると,前記4(1)記載のとおり,被告人B1からG1の
E2に坪8万円の売買代金の提示があり,E2において減額を求めた結果,被告人
両名において表向きの売買代金は坪7万円(約22億円)とした上,O関係の債務
の清算等のため2億円を上乗せさせることとし,その旨被告人B1を介してE2に
提示してその承諾を得たこと,契約書については,被告人両名において,本件土地
を対象物件とする売買代金約22億円の売買契約書のほか,上物を対象物件とする
売買代金2億円の架空の売買契約書の2通の売買契約書を作成することとし,その
旨E2の承諾を得た上,約22億円の売買契約書を作成した数日後に2億円の売買
契約書を作成したことが認められ,これに反する被告人両名の当公判廷における各
供述はいずれも不合理であって信用できない。
イ そこで,上記売買代金決定経緯に照らし,前記2億円が本件土地の売買代金の
一部であるのか,本件土地を取得するための売買代金とは別の負担であるのかを検
討する。
 この点については,売買契約書の記載内容のほか,①G1において2億円を支払
うこととなった経緯及びそこに表れた当事者の意思,②売主である組合の意思決定
内容,③本件土地の客観的価格等を総合して判断すべきものと考えられる。
 組合は,平成10年10月17日の臨時総会において本件土地をG1に対し坪7
万円(総額約22億円)で売却する旨の決定をしているから,組合における本件土
地売却の意思決定が代金坪7万円(総額約22億円)として行われたことは明らか
であるが,組合による上記決定は,被告人A1においてG1から別途2億円が支払
われることを秘匿した上でなされた,いわばかしのあるものであり,他の事情を考
慮することなく,売買契約書の記載内容と上記臨時総会の決定のみから形式的に判
断して,本件土地の売買代金が約22億円であったということはできない。
 上記売買交渉経緯によれば,もともと本件土地の売買に当たり,売主側において
リベート等の付加的な金員の支払を求めたという事情はなく,むしろ,2億円の支
払は売買代金そのものの決定過程で出てきたものである上,組合の代表者である被
告人A1の意識は,売買代金の一部を裏に回す,すなわち実質的に売買代金の一部
であるものを正規の売買契約書上には出さず,組合には入金しないというものであ
り,同被告人は,被告人B1を介して買主であるG1側にも売買代金としては約2
4億円に変わりはない旨説明していたところであって,売買契約当事者双方の代表
者の意思は,売買代金は約24億円であるというものであったと認められる。ま
た,鑑定による本件土地の客観的価格が平成9年7月時点で26億9000万円余
りであったことは当時被告人A1においてもこれを認識しており,当初G1側に提
示した売買代金が坪8万円(総額約25億円)であったことは,同鑑定結果を踏ま
えたものと考えられる。
 そうすると,実質的に見て,本件土地の売買代金は売買契約書記載の約22億円
に前記2億円を加えた約24億円であったと解するのが相当である。
3 業務上横領罪の成否
 以上検討したところによれば,被告人両名は,本件土地の売買代金の一部として
被告人B1が受領し,被告人A1が同B1を介して保管していた合計2億円の小切
手2通を,組合において支払うべき義務のないOの債務の支払等に充てるため,組
合に入金せず着服したもので,これが業務上横領罪に該当することは明らかであ
る。
(法令の適用)
罰条(被告人両名)
 刑法60条,253条(ただし,被告人B1については,「業務上」の身分がな
いので,同法65条2項により通常の刑である刑法252条の刑を科す。)
未決勾留日数の本刑算入(被告人両名)
刑法21条
訴訟費用の処理(被告人両名)
刑事訴訟法181条1項本文,182条(連帯負担)
(量刑の理由)
 本件は,漁業協同組合の組合長と不動産業者が共謀の上,組合所有の不動産の売
却に際し,売買代金の一部である額面合計2億円の小切手2通を自己らの用途に充
てるため着服して横領したという業務上横領の事案である。
 横領額は,2億円と巨額であり,これが健全であるべき組合の財政を大きく害す
るものであることは明らかである。また,被告人らは,買主側関係者らと結託して
組合の理事及び組合員らに対し上記2億円の授受を隠匿し,実際には約24億円で
売却しながら,約22億円で売却したように装って犯行の発覚を免れようとしたも
ので,犯行の態様は巧妙かつ悪質である。
 被告人A1は,千葉県から払下げを受けた本件土地を含む埋立地を利用して地域
の活性化,組合業務の拡充等を計画していたところ,その開発に名乗りを上げたK
及びOに本件土地の開発を任せようと考え,従来組合との取引関係がなかったKに
組合への貢献の実績を作って組合の承認を取り付けるため,K及びOに組合ののり
の直売センターを建設させてこれを組合に提供させることとし,自ら工事の発注等
にかかわったが,工事途中でKが事実上倒産し,直売センターの建設を引き継いだ
Oも工事代金を支払う資力がなかったため,理事会の承認を得ることなく,組合を
Oの保証人とし,組合の資金をOに送金し,あるいはOのため工事関係業者等に立
替払をした。このようにして,同被告人は,自ら理事会の承認を経ない多額の組合
の債務を発生させ,あるいは多額の組合資金を流出させたため,本件土地の開発の
際に組合に損失を生じさせないようにこれを清算するほかなくなり,急きょ買い主
として浮上したG1に本件土地を売却することが決定したことから,本件犯行に及
んだものである。同被告人は,当初は組合のための本件土地の有効利用を図ったも
のと思われるが,その過程で,KのMとの間で,同被告人をMが将来
設立する会社の株主として優遇するとともに,テナントの出店募集に際し同被告人
を特別に優遇する旨の念書の差入れを受けたほか,Yの証言や同人が作成したメモ
によれば,同被告人は,Kが事実上倒産した後も本件土地の開発等に絡んで経済的
利益を得ようともくろんでいたことが認められ,そのような利権を得たいとの利欲
的心情や長年組合長を務めるうちに染みついたおごりなどが,理事会に諮ることな
く,独断でK及びOに本件土地の開発をさせ,その後の対応をも誤ることにつなが
ったものと考えられる。そして,直売センターに関連する未払工事代金等の発生が
発覚すれば,自らの利権をももくろんで独断で本件土地の利用を進めた結果である
として,組合内でその責任を追及されるのは必至であり,場合によっては組合長の
地位をも失いかねないことから,同被告人は,これを理事会に公表することなく内
々にその解消を図ろうとしたもので,千葉県の常例検査によってこれが発覚し,組
合の経理上は問題点を解消させた後も,関係業者との間では何ら問題が解決されて
いなかったため,これを放置すれば,従来から組合と取引のある業者の組合に対す
る信頼が大きく損なわれ,ひいては組合内における同被告人自身の立
場も危うくなるであろうことは明白であった。このようにして,同被告人は,自ら
の責任において上記未払工事代金等の問題を解決せざるを得ない立場に追い込まれ
ていたもので,本件犯行は,自らの独断と利権を得ようとしたもくろみの失敗によ
り危うくなった同被告人自身の組合における地位や立場を守るという個人的利益を
図ろうとしたものということができ,同被告人の犯行の動機に酌むべきものは乏し
いといわざるを得ない。
 また,被告人A1は,被告人B1に本件土地の開発に関する仲介を依頼するに際
し,O関係の債務の清算等を依頼するとともに,同被告人とその方法を具体的に検
討し,同被告人に指示して横領した小切手をもって各業者への支払をさせたもの
で,本件犯行の首謀者である上,実質的にはともかく,法的には自己の債務であっ
たZからの1400万円の借入金を横領した金員で返済しており,その意味で多額
の経済的利益も得たものである。しかるに,被告人A1は,いまだに全く組合に対
する被害弁償をしていない。
 加えて,被告人A1は,組合長として,組合のために行動すべき立場にありなが
ら,自己の保身のために,本来組合において支払うべき義務のない債務の支払のた
め組合財産を領得したものであって,本件犯行は,組合及び組合員に対する著しい
背信行為である。しかるに,同被告人は,捜査段階においては,自らの責任を認め
るとともに,増長していた旨反省の情を示していたものの,公判廷においては,自
己の責任を免れることにのみ汲々とし,不合理な弁解を重ねており,甚だ遺憾とい
うほかない。
 以上の諸点に照らすと,同被告人の刑事責任は重く,同被告人が長年組合のため
に貢献してきたこと,本件土地の開発自体は地元及び組合の利益を図ろうとしたも
のであり,組合が直売センターの利用により現に利益を受けていることを考える
と,道義的にその未払工事代金等を組合において清算しなければならないとの同被
告人の考えも,全く理解できないわけではなく,実質的に個人的な経済的利得があ
ったとはいい難いこと,70歳の今日に至るまで前科がないこと,組合長を辞任し
たほか,新聞報道されるなどして一定の社会的制裁を受けていることなど同被告人
のため酌むべき事情を十分考慮しても,主文の実刑は免れない。
 次に,被告人B1は,仲介業者として本件土地の売買による手数料のほか,本件
犯行の工作等の報酬を目当てに本件犯行に加担したものと認められ,その利欲的動
機に酌むべきものはない。
 同被告人は,被告人A1の依頼によるものではあるが,本件土地売買代金の一部
である2億円の隠匿工作を行った上,額面合計2億円の小切手を受け取り,これを
領得して関係業者等に対する支払をしたもので,実行行為そのもの及び重要な準備
工作を担当しており,果たした役割は重要である。また,被告人B1は,本件犯行
により数千万円(A2に対する2600万円の交付がなければ約8000万円,こ
れがあれば五千数百万円)もの極めて大きな利得を得ながら,いまだに全く組合に
対する被害弁償をしていない。加えて,同被告人もまた,公判廷おいて甚だ不合理
な弁解を弄しており,反省の情は全く認められない。
 そうすると,同被告人の刑事責任も重く,同被告人に対しては,横領罪の刑が科
されること,従的立場にあったこと,53歳の今日に至るまで前科がないことなど
同被告人のため酌むべき事情を十分考慮しても,主文の実刑は免れない。
(求刑 被告人A1につき懲役5年,同B1につき懲役4年)
  平成16年12月20日
    千葉地方裁判所刑事第1部                     
         裁 判 官   金谷 暁    

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛