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平成14年(行ケ)第374号 審決取消請求事件(平成14年12月11日口頭
弁論終結)
          判        決
       原      告   矢崎化工株式会社
       訴訟代理人弁理士   山 名 正 彦
       被      告   積水樹脂株式会社
       被      告   タキロン株式会社
       両名訴訟代理人弁理士 小 谷 悦 司
       同          川 瀬 幹 夫
          主        文
      原告の請求を棄却する。
      訴訟費用は原告の負担とする。
          事実及び理由
第1 請求
   特許庁が無効2001-35325号事件について平成14年6月10日に
した審決を取り消す。
第2 当事者間に争いのない事実
 1 特許庁における手続の経緯
   被告らは,意匠に係る物品を「建築構造材用継手」,その形態を別添審決謄
本写し別紙第一「本件登録意匠」欄記載のとおりとする意匠登録第1006603
号の類似意匠登録第1号意匠(平成9年11月26日類似意匠の意匠登録出願(以
下「本件意匠登録出願」という。),平成12年5月12日設定登録,以下「本件
意匠」という。)の意匠権者である。
 原告は,平成13年7月24日,被告らを被請求人として,本件意匠の意匠
登録を無効にすることについて審判を請求した。
 特許庁は,同請求を無効2001-35325号事件として審理した上,平
成14年6月10日に「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その
謄本は,同月20日,原告に送達された。
 2 審決の理由
   審決は,別添審決謄本写し記載のとおり,本件意匠は,①本件意匠登録出願
の願書に添付した図面の記載が相互に一致せず,登録意匠を正確に認識できないの
で,意匠法3条1項柱書の「工業上利用することができる意匠」に該当しないにも
かかわらず誤って登録されたものであり,②出願前に頒布された刊行物である昭和
59年1月印刷の請求人(原告)の「イレクター仕様書」(本訴甲4,審判甲3)
に記載された意匠と類似し,意匠法10条1項(平成10年法律第51号附則4条
2項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前のもの。以下同じ。)に
規定する「自己の登録意匠にのみ類似する意匠」ではないにもかかわらず誤って登
録されたものであるから,同法48条1項1号(上記法律による改正前のもの。以
下同じ。)の規定によりその意匠登録を無効とすべきであるとの請求人(原告)の
主張に対し,本件意匠は,①願書添付図面に記載の6面図(意匠法施行規則3条様
式第6の備考8の規定する「正投影図法により各図同一縮尺で作成した正面図,背
面図,左側面図,右側面図,平面図及び底面図」,以下「6面図」という。)は相
互に一致しており,これらの図面から把握できる形状は特定できるものであり,斜
視図及び使用状態を示す参考図は,誤って記載されたと解釈するのが相当であるか
ら,意匠法3条1項柱書の「工業上利用することができる意匠」に該当しないとい
うことはできず,②上記「イレクター仕様書」7頁5段,右から2個目に商品番号
「J-26」と表記されたジョイントの意匠(以下「引用意匠」という。)に類似
するものと認めることができず,その他,上記「イレクター仕様書」に記載された
いずれの意匠とも類似するものということはできないから,意匠法10条1項に規
定する「自己の登録意匠にのみ類似する意匠」に該当しないとする理由がなく,同
法48条1項1号の規定によって,その登録を無効とすることはできないとした。
第3 原告主張の審決取消事由
   審決は,意匠法3条1項柱書の「工業上利用することができる意匠」該当性
の判断を誤り(取消事由1),かつ,本件意匠と引用意匠の類否判断を誤った(取
消事由2)結果,本件意匠は意匠法10条1項に規定する「自己の登録意匠にのみ
類似する意匠」に該当する旨の誤った判断をしたものであるから,違法として取り
消されるべきである。
 1 取消事由1(意匠法3条1項柱書の「工業上利用することができる意匠」該
当性の判断の誤り)
(1)審決は,「斜視図及び使用状態を示す参考図は,誤って記載されたと解釈
するのが相当である。・・・斜視図は,いわゆる6面図だけでは,その意匠を十分
表現することができないとき必要な図面であり・・・必須図面であるとはいえ
ず・・・したがって,本件意匠登録は,意匠法第3条第1項柱書の『工業上利用す
ることができる意匠』に該当しないということはでき」(審決謄本11頁第1~第
3段落)ないと判断したが,便宜的,恣意的な善解というほかなく,誤りである。
 本件意匠登録出願の審査経過を見ると,意匠法9条1項の規定による拒絶
理由通知(甲2-2)が発せられ,これに対して出願人(被告ら)は,先願意匠に
は類似しない旨を主張した意見書(甲2-3)を提出し,その上で登録査定(甲2
-4)となったのであり,審査官及び出願人は,本件意匠登録出願の願書に添付し
た図面(甲1-1)に記載された意匠を十分見た上で,手続を進めたものである。
斜視図は,願書添付図面の冒頭に掲載され,意匠全体の形態を最も良く表す図面で
ある。したがって,このような出願経過を経た上で,なお残存した図面相互の不一
致は,もはや「誤って記載された」ものと解される範囲を逸脱しているというべき
である。
(2)意匠法24条の「登録意匠の範囲は,願書の記載及び願書に添付した図面
に記載され・・・た意匠に基づいて定めなければならない」との規定について,誤
って記載された意匠ないし必須図面ではない図面に記載した意匠を除く旨の解釈が
成り立つ余地はない。図面は権利書の一部であるから,厳格な記載が要求されると
ころ,本件意匠の意匠公報(甲1-1)の図面冒頭の斜視図と他の6面図とには,
一見して大きく異なる二つの意匠が明確に記載されているのであるから,いずれが
主で,いずれが従ということはできず,二つの意匠について権利を主張することが
可能である。こうした不合理な事態を防止するため,特許庁は,図面に不一致が存
在する場合,意匠法3条1項柱書の「工業上利用することができる意匠」に該当し
ないとの運用を行っている。
(3)意匠登録出願において,願書に添付した図面の記載は,出願人の自己責任
において行われ,被告らが,6面図だけでは「その意匠を十分表現することができ
ないとき」(意匠法施行規則3条様式第6の備考14)に該当すると判断して斜視
図を提出した以上,同斜視図は,必須図面であるといわなければならず,その図面
を誤記したことによる不利益は意匠権者である被告らが甘受すべきである。東京高
裁昭和56年(行ケ)第279号・同62年5月28日判決(甲5)も,「出願に
係る意匠は願書に添付される意匠を記載した図面・・・それ自体によって完結的に
明確に特定されなければならない」と判示しているところである。
 2 取消事由2(本件意匠と引用意匠の類否判断の誤り)
(1)審決は,本件意匠と引用意匠に共通する基本的構成態様及び具体的態様に
ついて,「広く知られたありふれた形態であって・・・看者の注意を惹くところと
なり得ず,その類否判断に及ぼす影響は,微弱なもの」(審決謄本13頁第1段
落)と判断し,他方,差異点,すなわち,「管外径の略1/4幅の帯状をなす平面
部の有無による差異」(同第2段落)について,「管の長手方向に平面部を単に形
成したものでなく・・・略倒Yの字状に表れている点と相俟って,本件登録意匠の
特徴が発揮されており,両意匠を別異のものとする意匠的効果が認められるもので
あり,その類否判断に及ぼす影響は,大きい」(同),「管外径の略1/4幅の帯
状平面部の有無による差異から生じる印象の差異は,一般的には,決して小さいも
のでなく,共通点がこの差異を埋没させてしまうほどに強力な共通の印象をもたら
すものでない限り,両意匠は,意匠全体として異なった印象をもたらす」(同13
頁第3段落),「両意匠における共通点は,その類否判断に及ぼす影響は,微弱な
ものといわざるを得ないのに対し,差異点は,両意匠の類否判断に及ぼす影響が大
きいというべきであり,差異点が共通点を凌駕する両意匠は,結局,類似するもの
とは認めることができない」(同14頁第3段落)と判断したが,誤りである。
  意匠のうちに一般にありふれた周知の形状が含まれている場合には,その
部分は一般の需要者の注意をひくことはないから意匠の要部とはなり得ないとの審
決の類否判断の手法は,物品の形状のみから成る意匠においては相当でない。東京
高裁昭和43年(行ケ)第156号・同46年7月29日判決(甲7)は,「物品
の形状のみから成る意匠の全体的な形態がその意匠に係る基本形態として周知であ
るときでも,全体的な形態が絶対に意匠の要部(最も看者の注意を惹く点)になり
得ないわけでなく,それが周知の形態でない場合に比べて,その重要性の比重が相
対的に低下するに過ぎないと解するのが相当である。・・・全体的な形態のほかに
看者の注意を惹く点がないとすれば,右の全体的な形態がやはり本願意匠の最も看
者の注意を惹く点である」と判示し,また,東京高裁昭和54年(行ケ)第201
号・同56年3月25日判決(甲8)も,「意匠は,その各構成部分を総合した全
体的なまとまりとして,視覚的に看者に印象づけるものであり,ある部分が看者の
注意を特にひく部分かどうかについても,その部分が全体に対しどれだけ影響力を
及ぼしているかを全体的に考究すべきものであることにかんがみると,意匠の類否
判断にあたって,公知ないし周知の構成部分をたやすく除外して類否の判断をする
のは相当でない」と判示している。
  本件意匠に係る物品「建築構造材用継手」の主な需要者は,自ら設計した
いわゆるDIY製品の組み立てを楽しむ一般の消費者であり,このような需要者
は,自ら設計した製品を組み立てるに当たって,建築構造材をどのような態様に何
本連結するかという観点から,適合する継手の種類や意匠を確認して選択する。す
なわち,継手の基本的構成態様及び具体的態様(全体的な形態)のいかんが選択の
決め手であり,看者の視点はそこに注がれ,審決が本件意匠と引用商標の差異点と
して認定した「帯状平面部」(審決謄本12頁[差異点])は,需要者にとって格
別の関心がなく,また,このような「帯状平面部」は,従来から多くの技術分野に
おいて,日常的に,丸棒及び円管等の表面を必要に応じて削除するなどして形成し
てきたものであり,格別創作というほどに目新しいものでもないことを考慮すれ
ば,需要者に注目されるものではないことが明らかである。
したがって,本件意匠と引用意匠に共通する基本的構成態様及び具体的態
様を除外して類否判断すべきではなく,両意匠は要部を共通にするというべきであ
るから,これに反する審決の判断は誤りである。
(2)審決は,「帯状平面部が・・・略倒Yの字状に表れている点と相俟って,
本件登録意匠(注,本件意匠)の特徴が発揮され」(審決謄本13頁第2段落)る
として,上記「帯状平面部」を,意匠の形状要素として過大に評価しており,失当
である。審決が基本的構成態様と認定した「円筒状の管(接合管)を,双方の管の
中心線が略45度に交わる態様に接合したものである点」(同12頁[共通点])
を前提にすれば,「接合管につき,正面,背面及び平面の中心線に沿う部位に,そ
の全長にわたって,管外径の略1/4幅の帯状平面部を形成」(同頁[差異点])
すると,その帯状平面部が略倒Yの字状に表れることは必然の結果であって,何ら
新規の意匠的創作を施したものということはできない。上記「帯状平面部」は,管
外径の略1/4幅を有するとはいえ,各接合管の正面,背面及び平面の中心線に沿
う3箇所の部位にのみ,その全長にわたって3本,各接合管の強度に影響を及ぼさ
ない程度に薄く形成しているものにすぎず,その存在感と視覚的印象は極めて薄弱
なものであり,需要者から見ると,商品選択の視点からは外れて関心がない形状要
素であるから,ほとんど興味をひかず,注目されない。
(3)そうすると,両意匠は,帯状平面部の有無の差異によって需要者に与える
美感を異にするものとはいえず,相互に類似する意匠であるから,本件意匠は,意
匠法10条1項に規定する「自己の登録意匠にのみ類似する意匠」に該当しないと
いうべきである。
第4 被告らの反論
   審決の判断は正当であり,原告主張の取消事由は理由がない。
 1 取消事由1(意匠法3条1項柱書の「工業上利用することができる意匠」該
当性の判断の誤り)について
(1)意匠法施行規則3条様式第6の備考8は,「立体を表す図面は,正投影図
法により各図同一縮尺で作成した正面図,背面図,左側面図,右側面図,平面図及
び底面図をもって一組として記載する」と規定し,斜視図及び使用状態を示す参考
図等は必須図面とされていない。そして,確かに,本件意匠登録出願の願書に添付
した図面において,6面図による意匠と斜視図及び使用状態を示す参考図による意
匠とは不一致であるが,必須図面とされる6面図相互間においては一致しており,
本件意匠は特定できるから,審決の判断に何ら違法はない。
(2)6面図による意匠と斜視図及び使用状態を示す参考図による意匠とが不一
致であることは,判然と読み取ることができる上,我が国において,立体意匠に関
し6面図を必須図面とする運用が長年にわたって採られてきたこと,意匠制度には
訂正審判の制度が存在しないことから,6面図と他の図面とが不一致のまま登録さ
れても,必須図面である6面図によって意匠が特定できる場合には,これによって
特定される意匠が登録意匠であると理解できるものである。
(3)意匠法施行規則3条様式第6の備考14にいう6面図だけでは「その意匠
を十分表現することができないとき」に該当するか否かの判断は,出願人の主観的
な判断によるのではなく,客観的に判断されるべきであり,本件意匠は,6面図の
みによって十分表現することができる以上,斜視図が必須図面となるものではな
い。
 2 取消事由2(本件意匠と引用意匠の類否判断の誤り)について
(1)登録意匠と引用意匠との類否判断においては,登録意匠の登録適格性,す
なわち,公知の引用意匠には見られない看者の注意をひく点が存在するか否かが問
題とされるから,登録意匠と引用意匠とに共通する点がありふれたものであって
も,登録意匠に引用意匠には見られない看者の注意をひく点が存在する結果,両意
匠が,全体観察上,看者に異別の印象を与える場合は,当該登録意匠は,新規な意
匠と判断される。審決は,本件意匠の,C型管及び接合管に帯状平面部を形成した
点について,管の長手方向に平面部を単に形成したものでなく,管外径の略1/4
幅の帯状平面部を正・背面視において,略倒Yの字状に表れている点とあいまっ
て,本件意匠の特徴点が形成されている(審決謄本13頁第2段落)としており,
正当である。意匠を部分に分解すれば,すべて幾何学上のありふれた形態となる
が,それらを組み合わせて全体として新しい意匠が創作されるのである。東京高裁
昭和63年(行ケ)第131号・平成元年3月23日判決(乙5)も,「登録出願
に係るある意匠が意匠法第3条第1項第1,2号に規定された引用意匠に類似する
意匠かどうかを判断するにあたり,当該出願意匠の特徴点を認定する場合において
は,その意匠登録出願当時のその意匠の属する分野における一般的な意匠の傾向や
その普及の程度など意匠出願の背景などを勘案すべきものである。登録出願に係る
意匠の構成のうちで,出願当時において需要者がしばしば目にするようなありふれ
た部分は,看者の注意を惹く箇所とは到底いえないし,そこにいわゆる意匠の要部
があるともいえない」と判示している。
  引用意匠は,ほとんど機能上必然的に決まる形態であり,審決が認定した
共通点は,引用意匠と同じ事項を達成させる場合,採らざるを得ない形態である。
これに対し,審決が認定した差異点は,引用意匠との差別化を図る意匠的工夫であ
り,差異点から生ずる印象の差異から,両意匠は,意匠全体として異なった印象を
もたらすとの審決の判断は正当である。
(2)本件意匠は,引用意匠とは異なり,ソケット部(接合管,C型管)に,そ
の長手方向に帯状平面部を形成することによってアクセントを付与し,正面図に見
られるように接合管とC型管の各側面部に形成した2本の帯状平面部によって倒Y
の字状に表れている点に,全体観察上,看者に異別の印象を与える意匠的効果が生
じている。このような断面円形パイプを接合する短円筒状及びC型状ソケットの側
面部の長手方向に帯状平面部を形成したものは,従来全く存在しなかった特異な構
成である。
第5 当裁判所の判断
 1 取消事由1(意匠法3条1項柱書の「工業上利用することができる意匠」該
当性の判断の誤り)について
(1)本件意匠登録出願の願書(甲2-1)に添付した図面によれば,本件意匠
は,6面図(背面図は正面図と対称であるから省略)では,水平方向の短円管は,
その下底部を中心角にして約120度相当分をスリット状に切除して,下向きにC
字形状のいわゆる「1/3割管」に形成されているが,斜視図及び使用状態を示す
参考図(以下,併せて「斜視図等」という。)では,上記水平方向の短円管は,完
全に閉じた円管として記載され,その間に不一致はあるが,6面図は相互に一致し
ていることが認められる。
  ところで,意匠法6条は,意匠登録出願の願書には,意匠登録を受けよう
とする意匠を記載した図面を添付することを規定し,同施行規則3条は,願書に添
付すべき図面は,様式第6により作成しなければならないとしている。そして,同
規則様式第6は,備考8において,立体を表す図面は,正投影図法により各図同一
縮尺で作成した正面図,背面図,左側面図,右側面図,平面図及び底面図をもって
一組として記載するとし,備考14において,立体を表す図面において,6面図だ
けでは,その意匠を十分表現することができないときは,展開図,断面図,切断部
端面図,拡大図,斜視図その他の必要な図を加え,そのほか意匠の理解を助けるた
め必要があるときは,使用の状態を示した図その他の参考図を加えるとしている。
  上記意匠法及び同施行規則の規定によれば,6面図は,意匠登録出願の願
書に添付することが必要な必須図面であるが,斜視図及び参考図等は,6面図によ
りその意匠を十分表現することができるときは,添付することを要しない図面であ
る。そして,本件意匠は,6面図により十分表現できる意匠であることは,上記の
とおり6面図の記載自体から明らかであるから,斜視図等は,上記規定の趣旨から
すれば,本来,添付することを要しない図面であって,添付すべき場合に該当しな
いのにもかかわらず添付したものといわざるを得ない。したがって,斜視図等の記
載に誤りがあったとしても,必須図面とされる6面図により意匠を十分表現できる
以上,その誤りは,意匠登録を無効とするほど重大なものということはできない。
  原告は,本件意匠登録出願の審査経過に照らし,願書添付の図面相互の不
一致は,もはや「誤って記載された」ものと解される範囲を逸脱していると主張す
る。しかし,願書に添付した図面中の斜視図等の記載が,6面図の記載と一致しな
いが,必須図面である6面図は相互に一致しており,本件意匠は,これにより十分
表現することができることは上記のとおりであり,そうである以上,斜視図等の記
載が誤りであることは明らかであるから,原告主張の出願の経緯や斜視図が願書添
付図面の冒頭に掲載されていることなどを考慮しても,上記判断を左右するもので
はない。
(2)原告は,意匠法24条の「登録意匠の範囲は,願書の記載及び願書に添付
した図面に記載され・・・た意匠に基づいて定めなければならない」との規定につ
いて,誤って記載された意匠ないし必須図面ではない図面に記載した意匠を除く旨
の解釈が成り立つ余地はないと主張するが,本件において,斜視図等の記載が誤り
であることが明らかであることは上記のとおりであるから,斜視図等に記載された
意匠に基づいて本件意匠の範囲を定めることはできず,相互に一致している6面図
の記載に基づいて本件意匠の範囲を定めることが,上記規定に違反するものではな
い。したがって,原告の上記主張も採用することができない。
(3)また,原告は,本件意匠登録出願において,出願人である被告らが,6面
図だけでは「その意匠を十分表現することができないとき」(意匠法施行規則3条
様式第6の備考14)に該当すると判断して斜視図を提出した以上,同斜視図は,
必須図面であり,その図面を誤記したことによる不利益は被告らが甘受すべきであ
るとも主張する。しかし,意匠法施行規則様式第6に上記(1)のとおり規定されてい
る以上,立体を表す図面において,6面図が必須図面であり,斜視図及び参考図等
は,6面図によりその意匠を十分表現することができるときは,添付することを要
しない図面であることが明らかであり,原告の上記主張も採用することができな
い。原告が引用する東京高裁昭和56年(行ケ)第279号・同62年5月28日
判決(甲5)は,意匠の構成上重要な部分について必須図面である6面図相互間に
不一致があり,その違いが明らかな誤記と認められるものでない事案に係るもので
あって,このような場合には,意匠が図面それ自体によって完結的に特定されてい
るといえず,このような特定性を欠く意匠は,意匠法3条1項柱書に規定する「工
業上利用することができる意匠」に該当するものということができないとするが,
本件意匠は,6面図は相互に一致しており,これにより十分表現することができ,
斜視図等の記載が誤りであることが明らかであることは上記のとおりであるから,
事案を異にし,同判決にいう「特定性を欠く意匠」ということはできない。
(4)以上のとおり,本件意匠は,願書添付図面に記載の6面図は相互に一致し
ており,これらの図面から把握できる形状は特定できるものであって,斜視図及び
使用状態を示す参考図は,誤って記載されたと解釈するのが相当であるから,意匠
法3条1項柱書の「工業上利用することができる意匠」に該当しないということは
できないとした審決の判断に,誤りはない。
2 取消事由2(本件意匠と引用意匠の類否判断の誤り)について
(1)審決は,本件意匠と引用意匠の共通点として,基本的構成態様において,
「円形パイプを斜状に接合するための継手であり,全体が,下方(腹部)を開口し
た略Cの字状の管(C型管)の背部に,それよりやや短い円筒状の管(接合管)
を,双方の管の中心線が略45度に交わる態様に接合したものである点」(審決謄
本12頁[共通点]),具体的態様において,「(1)C型管について,その長さ
が,径の略3倍のものである点,(2)接合管について,C型管と同径の円筒状で
あり,その長さが,C型管よりやや短いものとし,C型管の背部の正面視左方略半
分の部分に,略45度の角度で接合している点,(3)C型管と接合管の開先部の
間に,右側面視において,双方の管の中心線に沿って,管壁とほぼ同じ厚さの略直
角二等辺三角形板状のリブを形成している点」(同)を認定する。
  原告は,上記共通点について,「広く知られたありふれた形態であっ
て・・・看者の注意を惹くところとなり得ず,その類否判断に及ぼす影響は,微弱
なもの」(審決謄本13頁第1段落)とする審決の判断は誤りであると主張する。
しかし,両意匠の類否は,看者の注意をひく部分を中心に各部分の看者に与える美
感ないし美的印象を総合考慮し,全体的に観察して決すべき事柄であり,物品の形
状のみから成る意匠において,意匠の構成態様中に広く知られたありふれた形態を
含む場合でも,当該部分が何らの美感ないし美的印象をも与えないというわけでは
ないが,そうでない部分に比して,一般には,類否判断において占める比重は相対
的に小さくなる。上記基本的構成態様及び具体的態様(1)~(3)は,2本のパ
イプを斜めに接合するという,本件意匠及び引用意匠に係る物品に共通する用途,
機能に伴う必然的形状であり,広く知られたありふれた形態であるといわざるを得
ないから,これが「類否判断に及ぼす影響は,微弱なもの」とした審決の判断に誤
りはない。
(2)審決は,本件意匠と引用意匠の差異点として,本件意匠が,具体的態様に
おいて,「C型管につき,その正面及び背面の中心線に沿う部位に,その全長にわ
たって,管外径の略1/4幅の帯状平面部を形成し,接合管につき,正面,背面及
び平面の中心線に沿う部位に,その全長にわたって,管外径略1/4幅の帯状平面
部を形成しており,その帯状平面部が,正・背面視において,略倒Yの字状に表れ
ているのに対し,甲号意匠(注,引用意匠)は,そのような平面部が形成されてい
ない点」(審決謄本12頁[差異点])を認定する。
  原告は,上記差異点について,「管の長手方向に平面部を単に形成したも
のでなく,また,その帯状平面部が,正・背面視において,略倒Yの字状に表れて
いる点と相俟って,本件登録意匠(注,本件意匠)の特徴が発揮されており,両意
匠を別異のものとする意匠的効果が認められるものであり,その類否判断に及ぼす
影響は,大きい」(同13頁第2段落),「管外径の略1/4幅の帯状平面部の有
無による差異から生じる印象の差異は,一般的には,決して小さいものでなく,共
通点がこの差異を埋没させてしまうほどに強力な共通の印象をもたらすものでない
限り,両意匠は,意匠全体として異なった印象をもたらす」(同頁第3段落)とし
た審決の判断は誤りであると主張する。しかし,本件意匠は,C型管につき,その
正面及び背面の中心線の部位に,その全長にわたって,管外径の略1/4幅の帯状
平面部を形成し,接合管につき,正面,背面及び平面の中心線に沿う部位に,その
全長にわたって,管外径の略幅1/4幅の帯状平面を形成したものであるところ,
その帯状平面部が,正・背面視において,略倒Yの字状に表われて,これが引用意
匠にはない美観ないし美的印象を与え,意匠的効果をもたらすことは明らかであ
る。
  原告は,本件意匠に係る物品「建築構造材用継手」の主な需要者は,自ら
設計したいわゆるDIY製品の組み立てを楽しむ一般の消費者であり,このような
需要者は,自ら設計した製品を組み立てるに当たって,建築構造材をどのような態
様に何本連結するかという観点から,適合する継手の種類や意匠を確認して選択す
るから,継手の基本的構成態様及び具体的態様(全体的な形態)のいかんが選択の
決め手であり,看者の視点はそこに注がれると主張する。しかし,「建築構造材用
継手」の需要者が,自らの設計した製品を組み立てるに当たって,適合する継手の
種類や意匠を確認して選択することは原告主張のとおりであるとしても,このこと
は,本件意匠の略倒Yの字状に表れた帯状平面部が,看者に引用意匠にはない美感
ないし美的印象を与え,意匠的効果をもたらすとの上記判断を何ら左右するもので
はない。
(3)原告は,上記差異点は,基本的構成態様を前提に帯状平面部を形成すれ
ば,帯状平面部が略倒Yの字状に表れることは必然の結果であって,何ら新規の意
匠的創作を施したものということはできず,また,各接合管の正面,背面及び平面
の中心線に沿う3箇所の部位にのみ,その全長にわたって3本,各接合管の強度に
影響を及ぼさない程度に薄く形成しているものにすぎず,その存在感と視覚的印象
は極めて薄弱なものであり,需要者から見ると,商品選択の視点からは外れて関心
がない形状要素であるから,ほとんど興味をひかず,注目されないと主張する。し
かし,本件意匠において上記帯状平面部を形成することは,本件意匠に係る物品の
用途,機能に伴う必然的形状とは認められないから,同平面部が略倒Yの字状に表
れることは,同平面部を形成することの必然の結果であるとしても,必然的形状と
いうことはできないし,丸棒や円管等の表面を削除して帯状の平面を形成すること
自体は特に目新しいものではないとしても,本件意匠に係る物品において,本件意
匠の帯状平面部が,正・背面視において,略倒Yの字状に表れるとの構成が,本件
意匠登録出願前に公知であったと認めるに足りる証拠はなく,また,上記帯状平面
部が,各接合管の強度に影響を及ぼさない程度に薄く形成しているものにすぎない
としても,正・背面視において,略倒Yの字状に表れて,これが引用意匠にはない
意匠的効果をもたらすことは上記のとおりであるから,原告の上記主張も採用する
ことができない。
  なお,本件と同一当事者間の当庁平成14年(行ケ)第381号・同15
年1月16日判決は,同事件に係る意匠登録第1062965号の意匠にあって
は,帯状平面部が,管の長手方向に沿って短円形管部に2箇所,C型管部に1箇所
設けられ,単に各外周の一部をごく薄く削り取って形成したような形状にすぎず,
ありふれた手法にすぎないから,看者の注意をひく力がそれほど強いものではない
と判示するものであり(当裁判所に顕著である。),帯状平面部が奏する意匠的効
果において,同平面部が略倒Yの字状に表れる本件とは事案を異にする。
(4)そうすると,本件意匠と引用意匠は,意匠に係る物品は共通しているが,
その形態の共通点は,広く知られたものであって,類否判断に及ぼす影響が微弱な
ものであることは,上記のとおりであるのに対し,差異点がもたらす上記意匠的効
果により,両意匠は,一般需要者に対し全体として異なった美感ないし美的印象を
与えるから,非類似の意匠というべきである。したがって,「両意匠における共通
点は,その類否判断に及ぼす影響は,微弱なものといわざるを得ないのに対し,差
異点は,両意匠の類否判断に及ぼす影響が大きいというべきであり,差異点が共通
点を凌駕する両意匠は,結局,類似するものとは認めることができない」(審決謄
本14頁第3段落)とした上,本件意匠は,意匠法10条1項に規定する「自己の
登録意匠にのみ類似する意匠」に該当しないとする理由はない(同頁5.まとめ)
とした審決の判断に誤りはない。
 3 以上のとおり,原告主張の取消事由は理由がなく,他に審決を取り消すべき
瑕疵は見当たらない。
   よって,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとお
り判決する。
     東京高等裁判所第13民事部
         裁判長裁判官 篠  原  勝  美
    裁判官 岡  本     岳
    裁判官 長  沢  幸  男

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