弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件申立を棄却する。
         理    由
 本件は、当裁判所が刑訴法四一四条、三八六条一項三号により申立人の上告を棄
却した決定に対し、申立人から標題を特別抗告とする不服申立がされたものである
が、最高裁判所のした上告棄却決定に対して特別抗告をすることは許されず、右決
定の内容に誤のあることを発見した場合に限り同法四一四条、三八六条二項により
異議の申立をすることができるものと解すべきである(昭和三六年(す)第一九一
号同年七月五日第二小法廷決定・刑集一五巻七号一〇五一頁)から、申立人の真意
は、当裁判所の許容する右異議の申立をしたものと認めるのが相当である。
 本件異議申立の理由について
 しかし、当裁判所は前記決定の内容に誤のあることを発見しないので、所論は理
由がない。
 よつて、同法四一四条、三八六条二項、三八五条二項、四二六条一項により、裁
判官団藤重光の補足意見があるほか、裁判官全員一致の意見で主文のとおり決定す
る。
 裁判官団藤重光の補足意見は、次のとおりである。
 最高裁判所のした上告棄却決定に対してはその内容に誤のあることを発見したと
きにかぎり刑訴法四一四条、三八六条二項により異議申立が許されるというのが、
当裁判所の判例になつている。ここで同法三八六条二項の準用をみとめることが正
当かどうかについては、疑問がないではない。けだし、この規定は、控訴裁判所の
決定に対して最高裁判所への抗告を許すことは最高裁判所の負担を増大させるから
適当でないというのが、その立法趣旨とするところであつて、これを上告審に準用
することは性質に反するというべきだからである(団藤・新刑事訴訟法綱要・七訂
版・五七三頁参照)。しかし、ひるがえつて考えれば、刑訴法は上告裁判所がその
判決の内容に誤のあることを発見した場合について訂正の判決の制度をみとめてい
るのであつて(同法四一五条)、これと同趣旨の制度は、上告裁判所がした上告棄
却決定の内容に誤のあることを発見した場合にも、適当な要件のもとに、これをみ
とめる必要があると思われる。これは刑訴法の規定するところではないが、最高裁
判所は、その憲法上の地位から考えて(ことに憲法七七条参照)、この種の場合に
必要な制度を創設する固有の権限を有するものというべきである。上記の判例は、
同法三八六条二項の準用(同法四一四条)という方便を用いることによつて、実は
かような権限を行使し、一種の訂正の決定の制度を創設したものと解する。同法三
八六条二項の準用によつて三日という提起期間(同法四二二条)や執行停止の効力
(同法四二五条)なども抗告に代る異議申立の場合と同様とされるが(ただし、な
お、同法四一五条三項参照)、上告裁判所が上告棄却決定の内容に誤のあることを
発見した場合にかぎつて許される点でこれと異る。また、この制度は上訴に代るも
のではないから、原決定に関与した裁判官が訂正の決定をするのについて職務の執
行から除斥されるものでないことも(同法二〇条七号参照)、当然である。この制
度は、すでに法廷慣行として定着している。わたくしは、以上のような理解のもと
に、判旨に完全に同調するものである。
  昭和五〇年七月一〇日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    団   藤   重   光
            裁判官    藤   林   益   三
            裁判官    下   田   武   三
            裁判官    岸       盛   一
            裁判官    岸   上   康   夫

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