弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を高松高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人中村詩朗の上告理由について
 一 本件訴訟は、上告人が被上告人に対し、有限会社D地所(以下「D地所」と
いう。)が振り出し、被上告人及びEが裏書した金額四五〇万円の約束手形(以下
「本件手形」という。)の手形権利者として、右手形金及び手形法所定の利息の支
払を求めるものであるところ、原審は、(1) 本件手形は、有限会社Fファイナン
ス(以下「Fファイナンス」という。)が平成三年一〇月二日にD地所に対し弁済
期を同四年一〇月一日として貸し付けた元本六〇〇〇万円に対する同年七月二日か
ら同年一〇月一日までの利息の支払のために振り出されたものであること、(2) 
しかし、D地所はFファイナンスに対し、右利息が発生する前の同年二月一二日に
右貸金元本の全額を弁済したため、右期間の利息は発生しなかったこと、(3) 上
告人は、本件手形を取得した当時、それが未発生の利息の支払のために振り出され
たものであることを知っていたことを認定した上、被上告人が主張した手形法一七
条ただし書のいわゆる悪意の抗弁を認め、上告人の請求を棄却すべきものと判断し
た。
 二 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は次のと
おりである。
 手形所持人が、手形を取得する際に、当該手形が貸金債権の未発生の利息の支払
のために振り出されたものであることを知っていても、貸金債権の約定利息は時の
経過により発生するのが通常であるから、貸金債権の元本が弁済期前に弁済され利
息が発生しないであろうことを知っていたなど特段の事情がない限り、手形法一七
条ただし書にいう「債務者ヲ害スルコトヲ知リテ手形ヲ取得シタルトキ」には当た
らないものというべきである。
 そうすると、上告人が本件手形を取得するに当たり、それが未発生の利息債権の
支払のために振り出されたものであることを知っていたことのみから、前記悪意の
抗弁を認めた原審の判断には、手形法一七条ただし書の解釈適用を誤った違法があ
るものというべきであり、右違法が原判決の結論に影響を及ぼすことは明らかであ
る。論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、本件については、前記
特段の事情の有無等について更に審理を尽くさせる必要があるので、これを原審に
差し戻すこととする。
 よって、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判
決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    中   島   敏 次 郎
            裁判官    大   西   勝   也
            裁判官    根   岸   重   治
            裁判官    河   合   伸   一

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