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裁判例


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主文
原告らの請求をいずれも棄却する。1
訴訟費用は,原告らの負担とする。2
事実及び理由
第1請求
第17号事件1
公正取引委員会平成○年(判)第○号私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法
律に基づく課徴金納付命令審判事件について,被告が平成20年7月24日付けで原告
株式会社P1に対してした審決を取り消す。(原告P1)
第23号事件2
公正取引委員会平成○年(判)第○号私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法
律に基づく課徴金納付命令審判事件について,被告が平成20年7月24日付けで原告
P2株式会社に対してした審決を取り消す。(原告P2)
第29号事件3
公正取引委員会平成○年(判)第○号私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法
律に基づく課徴金納付命令審判事件について,被告が平成20年7月24日付けで原告
P3株式会社に対してした審決を取り消す。(原告P3)
第31号事件4
公正取引委員会平成○年(判)第○号私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法
律に基づく課徴金納付命令審判事件について,被告が平成20年7月24日付けで原告
P4株式会社に対してした審決を取り消す。(原告P4)
第2事案の概要等
本件は,被告において,財団法人P5公社が,東京都の区域のうち区部及(公社)
び島しょ部を除く区域において,平成9年10月1日から平成12年(多摩地区)
9月27日までの間に発注した土木工事について,原告ら(ただ(本件対象期間)
し,原告P2については吸収合併前のP6株式会社)を含む33社が私的独占の禁
止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律(平成17年法律35
号)附則2条の規定によりなお従前の例によることとされる同法による改正前の私
的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律3条に違反する不当(独占禁止法)
な取引制限を行ったとして,上記33社のうち原告らを含む30社に対して課徴金
の納付を命じる審決をしたところ,原告らがこれを不服として,本件(本件審決)
審決の取消しを求める事案である。
第3前提事実
1当事者等
原告らは,肩書き住所地に本店を置き,いずれも建設業法の規定に基づき国(1)
(ゼネ土交通大臣の許可を受け,国内の広い地域において総合的に建設業を営む者
であり,多摩地区において営業所を置くなどして事業活動を行っている。コン)
原告P4は,平成17年3月31日,P7株式会社に営業を譲渡した上,解(2)
散を決議し,現在,清算手続中である(弁論の全趣旨)。
原告P2は,もと「P8株式会社」の商号であったが,平成15年4月1日にP
6株式会社を吸収合併した上,商号を現商号とした(弁論の全趣旨)。(P6)
公社は,東京都並びに八王子市,青梅市,町田市,α,β及びγ(当時の市(3)
町名)により,昭和36年7月20日に設立された財団法人であり,多摩地区に所
在する市町村から委託を受けるなどして,多摩地区において公共下水道の建設等の
都市基盤整備事業を行う者である(査共60)。
2公社の工事発注方法
(1)(本件公社は,本件対象期間,多摩地区において別紙1記載の72件の工事
を発注した(査共328,463。以下の説明は,いずれも本件対象期間各工事)
におけるものである。)。
公社は,予定価格が500万円以上である工事を発注する際には,指名競争(2)
入札の方法によって発注業者を選定した。
工事の発注に当たっては,まず「工事発注予定表」をもって発注する工事の件名,
概要,格付け等を公示し,入札に参加を希望する事業者は,公社に工事希望票を提
出し,これを提出する者の中から入札に参加する事業者又はJVの構成員となるべ
き者が選定された。
公社は,入札に参加する指名業者の選定について,その契約規程10条によって
「P5公社工事請負指名業者選定基準」を定めており,これによると,経営状況や
技術力を元に業者の適格性の判定を行い,適格性ありと判定された者の中から指名
業者の選定を行うものとされ(査供436,438,439,464から466),
事業者が入札に参加するためには,その資格を有する事業者として公社に登録され
た者であることが必要とされた。実務的には,東京都財務局が作成している建設工
事等競争入札参加有資格者名簿(査供469,470)に基づいて入札参加資格及
びその格付けが判定されていた。
公社は,上記名簿に基づいて,事業者を工種区分ごとにAからEまでのラン(3)
クを用いて格付けし(。格付けは東京都財務局の上記名簿に従ったも事業者ランク
のである。また,ランク毎に更に順位が付されている。),他方,発注する工事を,
その予定価格の額を基礎とし,これに施工技術の難易性を勘案して,AからEまで
の工事及び共同施工方式により施工する工事に格付けし,原則としてその工事のラ
ンクに対応する格付けを有する事業者を入札に参加する事業者として指名した。
工事を発注する場合は,1社のみに請け負わせる場合と,(4)(単独施工方式)
共同企業体に請け負わせる場合がある。単独施工方式の(JV)(共同施工方式)
場合は,予定価格が原則として2億6000万円未満の工事とされ,それ以上の予
定価格の工事は原則として共同施工方式の工事とされた。共同施工方式の工事は,
AAランク,ABランク,ACランクに格付けされ,順にいずれもAランクの2社,
AランクとBランクの2社,AランクとCランクの2社のJVにより施工されるも
のとされた。工事の格付けの基礎とされる予定価格は,5億6000万円以上はA
Aランク,3億円以上5億6000万円未満はABランク,2億6000万円以上
3億円未満はACランクとされ,1億7000万円以上2億6000万円未満はA
ランクの単独施工工事とされたが,中には工事内容等を勘案して当該工事の本来の
ランクよりも上位のランクに格付けされる工事があった。
単独施工工事の指名競争入札の参加者は,発注する工事のランクに対応する事業
者ランクに格付けされた者の中から指名することを基本とし,共同施工工事につい
(JVのメイン)ては,事業者ランクがAである者をJVの構成員のうちの代表者
として指名し,事業者ランクがB又はCの者をJVのメイン以外のJVの構成員
として指名することを基本とし,指名を受けたJVのメインとJV(JVのサブ)
のサブにJVを結成させ,当該JVを指名競争入札の参加者としていた。
AAランクに格付けした共同施工工事については,JVのメインとJVのサブを
区別せずに,事業者ランクがAの者の中から指名することを基本とし,指名を受け
た者同士にJVを結成させ,当該JVを指名競争入札の参加者としていた(査共6
4,436,438,439,466から470)。
入札に参加する事業者の選定は,公社の指名業者選定委員会によって行われ,(5)
単独施工工事については10社が,共同施工工事についてはメインの業者10社,
サブの業者10社がそれぞれ指名され,まれに工事希望表を提出する業者が10社
に満たない場合は,いわゆる逆指名を行うこともあった。その選定の際に考慮され
る要素で重要なものは,工事の規模,工法の難易度であるが,公社は,地元建設業
者の育成を図りつつ,当該工事の技術的困難性に応じた選定を行っており,選定す
る事業者の活動の拠点,格付け,工事希望票の提出回数,指名回数及び受注回数,
公社発注の工事の現在施工状況等も総合的に勘案していた。特に,地元業者は優先
的に指名をされ,Aランクと位置づけられる工事についてもその直下のBランクの
地元業者が指名される例もあった(査共367から436,438から441,4
64から466,469,470,審共9)。
入札に参加する事業者又はJVの構成員となるべき者が指名されると,単独(6)
施工工事の場合は,指名された事業者に対する現場説明会が行われ,共同施工工事
の場合には,JV結成についての説明会,入札参加者によるJV結成の届出,現場
説明会が行われた。その後入札が行われ,落札者との間で契約が締結された(査共
436,438,439)。公社は,入札に当たって予定価格を設定しているとこ
ろ,平成13年9月以前は,予定価格は事前に公表されておらず,各入札参加者の
入札価格の全部が予定価格に達しない場合には,その場で3回まで入札を行うこと
としていた。また,公社は最低制限価格を定め,これを予定価格の8割としていた。
これを下回る価格で入札した者は失格とし,最低制限価格以上の価格で入札した者
の中で最も低い価格で入札した者を落札者としていた(査共5,6,8,54,5
6,65から71,91,328,436)。
なお,JVを結成して公社の指名競争入札に参加する場合には,通常,JVのメ
インが入札価格を決定していた(査共56,62,66,77,83,85から9
3,153)。
3本件対象期間に入札に参加した業者
本件対象期間中に公社から入札参加資格者として登録を受けていたゼネコン(1)
は,別紙2記載の34社のうち,原告P2及びP9を除く32社とP6及び株式会
社P10の合計34社並びに別紙3記載のゼネコン46社(P10)(34社)
であり,いずれもAランクに格付けされていた。(その他のゼネコン46社)
34社のうち,原告P2及び同P4を除いて,組織の変更や商号の変更等がある
ものは以下のとおりである(査供1,9から51,53,弁論の全趣旨)。
P11は,もと「株式会社P12」の商号であったが,平成16年4月1日ア
に会社分割の方法により建設業に関する一切の営業を他社へ譲渡し,現商号に変更
し,建設業を廃業する旨を届け出た。
P13は,平成18年8月1日,株式会社P14に営業の大半を譲渡した上,イ
同年9月30日,解散を決議し,現在清算手続中である。
P15は,もと「P16株式会社」の商号であったが,平成11年10月1ウ
日にP17株式会社を吸収合併して,「P18株式会社」に商号を変更し,さらに,
平成14年4月1日に現商号に変更した。
P19は,もと「P20株式会社」の商号であったが,平成15年7月1日エ
に現商号に変更した。
P21は,もと「P22株式会社」の商号であったが,平成14年10月1オ
日に「P23株式会社」に商号変更した上,平成16年4月1日に株式会社P24
を吸収合併し,現商号に変更した。
P25は,もと「P26株式会社」の商号であったが,平成18年10月1カ
日に株式会社P27を吸収合併し,現商号に変更した。
P9は,もと「P28株式会社」の商号であったが,平成19年10月1日キ
にゼネコンである株式会社P10を吸収合併した上,現商号に変更した。
本件対象期間中に,公社が実施する入札に参加したゼネコン以外の地元業者(2)
は,別紙4の165社であり,このうち,本件対象期間において,公社の入札参加
資格を有する者としての登録を受け,土木工事のうち下水道工事の工種区分におけ
るランクがAとして格付けされていた業者は74社であった(査共328,367
から435,469,470)。
本件対象期間中に公社が発注したAランクに属する各工事,入札日,予定価(3)
格,落札金額,工事の格付,各工事の入札に参加した業者は,別紙1のとおりであ
る(査共367から435,442から463)。
課徴金納付命令及び本件審決4
被告は,平成13年12月14日,本件対象期間中に本件各工事を行ったゼ(1)
ネコンのうち,34社が,独占禁止法3条に違反する行為をしたとして課徴金納付
を命じた。34社はこれを不服として,審判手続の開始を請求した。被告は,審判
手続を開始した上,P29を除く33社が,公社が行う指名競争入札に(33社)
おいて,基本合意に基づいて受注予定者を決定し,受注予定者が落札できるように
協力したとして,その行為が,同法2条6項の不当な取引制限に当たり,同法3条
に違反し,同法7条の2第1項の役務の対価に係るものであるとして,33社のう
ち,売上額を認めることができないとされたP30,P9及びP31を除く別紙5
記載の30社に対して,同別紙「課徴金額」欄記載の課徴金の納付を命ずる本件審
決をした。
原告らが納付を命じられた課徴金額は,以下のとおりである。(2)
原告P11927万円
原告P41382万円
原告P24321万円
原告P31461万円
5原告らが受注した工事
(1)(番号7の物件)別紙1番号7の物件
公社は,番号7の物件について,ABランクの共同施工工事として,平成10年
4月23日付け工事発注予定表により入札予定を公表し,10組のJVの構成員と
なるべき事業者を指名して,同年5月25日に入札を実施した。
番号7の物件の予定価格,入札者,予定価格との差額,落札率は,別紙6−1の
とおりであり,JV結成後のメインは,33社のうち2社(原告P1及びP32),
P29,その他のゼネコン4社及び地元業者3社であり,原告P1・株式会社P3
3JVがこれを落札した(査共328,370,463,464)。(P33)
(2)(番号10の物件)別紙1番号10の物件
公社は,番号10の物件について,ABランクの共同施工工事として,平成10
年4月16日付け工事発注予定表により入札予定を公表し,10組のJVの構成員
となるべき事業者を指名して,同年5月26日に入札を実施した。
番号10の物件の予定価格,入札者,予定価格との差額,落札率は,別紙6−2
のとおりであり,JV結成後のメインは,33社のうち3社(P4,P3及びP2
1。なお,P21の本件対象期間中の商号は「P22株式会社」である。),その
他のゼネコン4社及び地元業者3社であり,原告P4・P34JVがこれを落札し
た(査共328,373,463,464)。
(3)(番号13の物件)別紙1番号13の物件
公社は,番号13の物件について,AAランクの共同施工工事として,平成10
年5月21日付け工事発注予定表により入札予定を公表し,10組のJVの構成員
となるべき事業者を指名して,同年6月22日に入札を実施した。
番号10の物件の予定価格,入札者,予定価格との差額,落札率は,別紙6−3
のとおりであり,JV結成後のメインは,33社のうち3社(P6,P35及びP
36)及びその他のゼネコン7社であり,P6・P15(当時の商号は「P16株
式会社」である。)JVが落札した(査共328,376,463,464)。
(4)(番号22の物件)別紙1番号22の物件
公社は,番号22の物件について,ABランクの共同施工工事として,平成10
年8月6日付け工事発注予定表により入札予定を公表し,10組のJVの構成員と
なるべき事業者を指名して,同年9月14日に入札を実施した。
番号10の物件の予定価格,入札者,予定価格との差額,落札率は,別紙6−4
のとおりであり,JV結成後のメインは,33社のうち4社(原告P3,P19,
P37及びP32),その他のゼネコン4社及び地元業者2社であり,原告P3・
P38株式会社JVが落札した(査共328,385,463,464)。(P38)
第4被告が認定した事実の概要
被告が認定した事実の概要は,以下のとおりである。
1背景事情
多摩地区に営業所を置くゼネコンは,これらの営業所において土木工事を担(1)
当する営業責任者をメンバーとするP39と称する組織に参加していたが,同会は,
公正取引委員会が平成4年5月15日に同会の会員を含む埼玉県発注の土木工事の
入札参加者に対して勧告を行った(いわゆるP40事件)のを機に解散した。しか
し,P39の解散後も,旧会員らのほか,解散後に多摩地区に進出したゼネコンや
多摩地区に営業所を置かずに事業活動を行っているゼネコンの営業担当者を含めて,
恒例的に懇親会が開催され,ゼネコン各社の営業担当者の名簿が作成されていた。
P39存続当時,名簿に掲載されているゼネコンの間では,工事の入札に当(2)
たって,受注意欲を持つ者や,発注される工事との関連性を持つ者がある場合には,
当該受注意欲や関連性を尊重することによって競争を避けることが望ましいとの認
識が存しており,受注を希望する者の間の話し合いが難航した場合には,同会の会
長等の役員が調整に当たっていたが,同会の解散後においても,多摩地区において
事業活動を行うゼネコン各社は,上記と同じ認識を有していた。
2本件基本合意
以上のような背景の下,33社は,遅くとも平成9年10月1日以降,公社(1)
(本発注の土木工事について,受注価格の低落防止を図るため,以下の内容の合意
をしていた。件基本合意)
公社から指名競争入札の参加者として指名を受けた場合(自社が構成員であa
るJVが指名を受けた場合を含む。)には,当該工事若しくは当該工事の施工場所
との関連性が強い者,若しくはJV又は当該工事についての受注の希望を表明する
者,若しくはJVが1名のときは,その者を受注予定者とし,受注(受注希望者)
希望者が複数のときは,それぞれの者の当該工事又は当該工事の施工場所との関連
性等の事情を勘案して,受注希望者間の話し合いにより受注予定者を決定(条件)
する。
受注すべき価格は,受注予定者が定め,受注予定者以外の者は,受注予定者b
がその定めた価格で受注できるように協力する。
本件基本合意の内容及び具体的実施方法(2)
33社のうち受注希望者は,工事の発注が予測された時点,あるいは公社がア
入札の執行を公示(入札参加希望者を公募)した時点で,33社に属する他の会社,
P29あるいはその他のゼネコン及び多摩地区における有力者に対し(協力会社)
て,自社が受注を希望していること又は自社が条件を有していることを必要に応じ
てアピールしていた。この有力者はP35のP41等である。受注希望者は,アピ
ールの方法の一つとして,地図に工事予定箇所及び近隣における自社の施工実績等
を記入した資料又は予定工事に関連する設計業務等に係る資料が利用さ(PR紙)
れることがあり,特に,P41等に相談する際に条件を有することをアピールする
ための手段として,しばしば用いられていた。
受注希望者が33社に属する他の事業者にアピールをした場合において,当イ
該事業者も受注希望を表明したときは,アピールをした者とアピールを受けた者の
間で,いずれの者の条件が強いかについて話し合いを行っていた。アピールを受け
た他の事業者すべてが受注希望を表明しなかったときは,この段階すなわち入札指
名の前の段階で,受注希望者が1社に絞り込まれていた。
受注希望者は,アピールに代えて,又はこれと併せて,33社に属する他のウ
事業者並びに協力会社に対して,公社に工事希望票を提出するよう依頼していた。
この依頼は,33社に属する他の事業者並びに協力会社に入札に参加して自社の受
注に協力してほしいという趣旨で行われるものであるが,同時に,当該入札の参加
者のうち,自社の受注への協力を見込めるゼネコンが占める割合を多くすることに
より,自社が受注できる可能性を高めることも目的としていた。
受注希望者は,公社の指名により入札参加者が確定した以降において,必要エ
に応じて,相指名業者に対して,改めて,自社が受注を希望していること又は自社
が条件を有していることをアピールし,自社が受注できるよう入札での協力を依頼
していた。この依頼は,現場説明会のために相指名業者がそろった際に口頭で行わ
れたり,個別訪問又は電話により行われたりしていた。この時点で,ほかにも受注
希望者がいる場合には,受注希望者の間でいずれの条件が強いかを話し合うことに
より,受注予定者が決定されていた。
条件は,具体的には,①当該工事が過去に自社が施工した工事の継続工事でオ
あること,②自社と特別な関係にある建設コンサルタント業者が当該(ダミコン)
工事の調査又は設計の入札に参加していること,③当該工事の施工場所又はその近
隣で施工実績があること,④当該工事の施工場所の近隣に自社の資材置場や営業所
等の施設があること,⑤自社又は関連会社が当該工事の施工場所の地権者であるこ
と(賃借権者であること,施工場所の近隣の土地の所有権者であることを含む。)
等である。これらの条件の中では,自社が施工した工事の継続工事であることや当
該工事の施工場所の地権者であることがそれ以外の条件よりも強い条件であり,そ
の他の条件については強さの順序が明確ではなく,受注希望者間で条件の強弱につ
いて話し合いが行われ,その結果,受注予定者が決められていた。
受注予定者が決定された場合には,受注予定者が33社に属する他の事業者カ
並びに協力会社のうち相指名業者となった者に対して,入札価格を連絡し,連絡を
受けたこれらの者は,受注予定者の入札価格より高い価格で入札していた。また,
相指名業者となったこれらの者は,経験的に,発注工事と同等の過去の工事の入札
結果等を勘案して積算することにより予定価格を推計できることから,受注予定者
から入札価格の連絡がなくても,受注予定者の受注を妨げないであろう価格で入札
していた。場合によっては,相指名業者が自社の入札価格を受注予定者に連絡し,
受注予定者が異議を述べなければそのままの価格で入札するということもあった。
また,公社は,予定価格を下回る入札がなかった場合には,入札日において3回
まで入札を行っているため,受注予定者は,3回分の入札価格を連絡することがあ
った。
3個別物件の受注調整の状況
33社は,本件基本合意に基づき,本件各工事のうち31物件について,必要に
応じて,業界の有力者の助言を得るなどして,受注予定者を決定し,さらに,受注
予定者は,指名競争入札の参加者として指名を受けた33社に属する他の事業者及
び協力会社の協力を得て受注した。
原告らに関する番号7,10,13,22の物件に関する落札までの状況は以下
のとおりである。
番号7の物件(1)
原告P1は,公社が番号7の物件の入札予定を公表した後,P32並びに協ア
力会社であるP29,P42,P43(当時の商号は「P44株式会社」)及びP
45に対して,工事希望票の提出を依頼した。依頼を受けたゼネコン各社は,原告
P1が同物件の受注を希望していることを認識した上で,工事希望票を提出した。
公社が指名を行った後,原告P1は,番号7の物件の施工場所近くに本社がある
P33とJVを組んだ。
原告P1は,入札までに,指名を受けた上記の会社に対して,自社が番号7イ
の物件の受注を希望している旨を伝え,また,指名を受けた上記の各社及び地元業
者との間で,入札価格の連絡・確認をし,指名を受けた上記の各社は,原告P1・
P33JVが番号7の物件の受注を希望していることを認識し,それに異議を唱え
ず,原告P1・P33JVの入札価格よりも高い価格で入札した。なお,原告P1
は,地元業者をメインとする3組のJVに対しても依頼をしており,その入札価格
は原告P1・P33JVの入札価格を上回り,この結果,原告P1・P33JVが
落札した。
番号10の物件(2)
原告P4は,番号10の物件の施工場所近隣において八王子市発注の下水道ア
工事を実施した実績があるため,同物件の受注を希望していた。同原告は,公社が
番号10の物件の設計作業を発注した後,P41に対して,自社が同物件の受注を
希望している旨を伝えた。また,同原告は,公社が同物件の入札予定を公表した後,
P21並びにいずれも協力会社であるP46,P47及びP48に対して,工事希
望票の提出を依頼し,依頼を受けた上記各社は,原告P4が同物件の受注を希望し
ていることを認識した上で,工事希望票を提出した。
原告P4は,入札までに,指名を受けたP21及び協力会社に対して,自社イ
が番号10の物件の受注を希望している旨を伝え,入札価格の連絡・確認をした。
指名を受けたゼネコン各社は,以上の過程で原告P4・P34JVが番号10の物
件の受注を希望していることを認識し,それに異議を唱えなかったが,いずれも地
元業者であるP49及びP50からは,受注を希望する旨原告P4に意思表明がさ
れた。
指名を受けたP21及び協力会社のうちJVのメイン5社は,予定価格を上ウ
回る価格で入札し,P48は,予定価格を下回る価格であるが,いずれも原告P4
・P34JVの入札価格よりも高い価格で入札した。
原告P4・P34JVは,P49・P51JV及びP50・P52JVが番号1
0の物件の受注を希望していることが予想されたことから,予定価格の80パーセ
ントである最低制限価格を200円上回る価格で入札した。しかし,上記2つのJ
Vを含む地元業者をメインとする3つのJVは,同原告の予想に反して予定価格近
辺の価格で入札をし,原告P4・P34JVが番号10の物件を落札した。
番号13の物件(3)
P6(原告P2に吸収合併された。)は,番号13の物件の施工場所近隣にア
おいて施工実績があることなどから,同物件の受注を希望しており,P41に対し
て,自社が受注を希望している旨を伝えた。また,P6は,公社が同物件の入札予
定を公表した後,P36及びP53並びにいずれも協力会社であるP54及びP5
5に対して,工事希望票の提出を依頼した。上記各社は,P6が同物件の受注を希
望していることを認識した上で,工事希望票を提出した。
公社が指名を行った後,P6は,P15とJVを組み,入札までに,指名をイ
受けたJVのメイン各社に対して,自社が番号13の物件の受注を希望している旨
を伝え,また,指名を受けたJVのメイン各社との間で,入札価格の連絡・確認を
した。指名を受けたゼネコン各社は,以上の過程でP6・P15JVが番号13の
物件の受注を希望していることを認識し,それに異議を唱えず,P6・P15JV
の入札価格よりも高い価格で入札した結果,同JVが落札した。
番号22の物件(4)
原告P3は,番号22の物件の施工場所が自社の営業所に近いため,同物件ア
の受注を希望し,協力会社であるP56に対して,番号22の物件の受注を希望し
ている旨を伝えた。また,同原告は,P37並びにいずれも協力会社であるP57
及びP55に対して,工事希望票の提出を依頼した。依頼を受けた上記各社は,原
告P3が同物件の受注を希望していることを認識した上で,工事希望票を提出した。
公社が指名を行った後,原告P3は,P38とJVを組み,入札までに,指イ
名を受けたP32並びにいずれも協力会社であるP55及びP56との間で,入札
価格の連絡・確認をした。指名を受けたゼネコン各社は,以上の過程で原告P3・
P38JVが番号22の物件の受注を希望していることを認識し,それに異議を唱
えず,原告P3との間で入札価格の連絡・確認をしたとおり,原告P3・P38J
Vの入札価格よりも高い価格で入札した。
なお,地元業者をメインとする2組のJVの入札価格は,原告P3・P38JV
の入札価格を上回った。この結果,入札価格が予定価格を下回ったのは原告P3・
P38JVのみであり,同JVが同物件を落札した。
第5争点及び当事者の主張
1本件基本合意の存在について
(被告の主張)
本件基本合意(1)
33社は,遅くとも平成9年10月1日以降,公社発注の土木工事について,ア
受注価格の低落防止を図るため,本件基本合意をした。
不当な取引制限における「意思の連絡」の意義イ
原告らは,本件基本合意に関し,合意の成立時期や場所,合意の参加者,意思の
連絡方法,受注予定者の調整や決定の方法,合意違反の場合の制裁等が定まってお
らず,また,これが合意参加者に周知された事実はなく,このような合意は存在し
ないと主張する。
しかし,本件基本合意における受注予定者の決定の方法や本件基本合意の具体的
な実施方法は,本件審決が認定するとおり,明確性を欠くものではない。
また,独占禁止法2条6項が定める「不当な取引制限」の要件である「他の事業
者と共同して」とは,事業者が相互に意思の連絡を取り合い,互いの事業活動を拘
束し,又は遂行することを意味するが,合意した競争制限行為を互いに認識,認容
してこれに歩調を合わせるという意思が形成されることで足り,このような意思の
形成が明示されたものである必要はない。また,このような意思が形成されるに至
った経過について日時,場所等をもって具体的に特定されることまでを必要とする
ものではないし,合意に違反した場合の制裁が定められていないとしても,そのこ
とは不当な取引制限に当たらないことの根拠となるものでもない。
その他のゼネコン46社については,一部の者が,受注予定者とされた違反ウ
行為者からの協力依頼に応じて受注予定者の受注に協力しているのみであって,本
件対象期間中,公社発注の特定土木工事でその他のゼネコン46社が本件基本合意
に基づいて落札・受注したと認められる物件はなく,他に,その他のゼネコン46
社が,自社が受注意欲や関連性を有するときは33社に属する他の事業者が協力す
べきことについて相互に認識・認容していたことを認めるに足りる証拠はない。
また,P29は,番号46の物件を受注しており,他方で番号7,19,27,
39,58,64及び71の各物件について,他の受注予定者が受注できるように
協力しているが,P29が受注した番号46の物件について,33社に属する他の
事業者は入札に参加していないので,同社が本件基本合意に基づいて同物件の受注
予定者に決定され,33社に属する他の事業者の協力を得て同物件を受注したとは
認められない。
(原告らの主張)
本件基本合意が存在しないこと(1)
本件では,合意の当事者とされている33社の間で,受注調整の方法が具体的に
定められ,定められた内容が33社に周知され,33社がそれぞれ了承して相互に
拘束力を生じるような合意が成立したことを内容とする合意文書は存在せず,その
旨を各社の担当者等が述べた供述調書も存在しない。
しかも,被告が主張する本件基本合意は,合意の参加者が特定しておらず,参加
者とそうでない者とを区別する根拠が不明である上,受注予定者の調整に関する各
業者間の連絡方法,決定方法など具体的な受注調整の基準や方法等の重要な要素も
定められていない。しかも,違反に対する制裁的措置が定められたともされていな
いから,合意の当事者に対する拘束力があったとはいえない上,合意のルールが事
業者に周知されていた事実も存在しない。すなわち,被告が主張する本件基本合意
が,合意として存在した事実は認められないというべきである。
(原告P3の主張)
33社の合意に基づいて特定の物件に関する受注予定者が決まったというのであ
れば,そのことが33社のすべて,少なくとも当該物件の入札に参加した33社に
属する全社に連絡され,了承を受けるはずであるが,そのような事実はない。した
がって,個別の物件の入札参加者のうち誰かが受注予定者となることを了承し,落
札に協力したという事実があっても,そのことは基本合意の存在を裏付けるもので
はない。
その他の46社との関係(2)
本件審決は,違反行為者33社が本件基本合意の当事者であり,その他のゼネコ
ン46社は本件基本合意の当事者ではないとするが,33社と46社との行為態様
には差がなく,その他のゼネコン46社のうち24社の担当者は,33社の担当者
と同様の供述をしているのであるから,その他のゼネコン46社が本件基本合意の
当事者とは認められないとすれば,33社も本件基本合意の当事者と認めることは
できないというべきである。
本件審決は,その他のゼネコン46社が本件対象期間中に公社発注の土木工事を
受注していないことを指摘するが,本件対象期間中の受注実績は,本件基本合意の
参加者であったかどうかと関連性を有するものではない。
また,本件審決は,その他のゼネコン46社は,①他の33社が受注意欲や関連
性を有するときは自社が協力すべきことを相互に認識・認容していたが,②自社が
受注意欲や関連性を有するときは他の33社が協力すべきことの認識がなかったと
しているところ,談合とは貸し借りの世界であって,相互に協力するからこそ談合
が成立するのであるから,一方が他方に協力するのみで,協力されることがないと
いうようなことは経験則上あり得ず,本件審決の認定は誤っている。
(原告P3の主張)
本件審決は,P29が受注した番号46の物件については33社に属する他の事
業者が入札に参加していないから,受注予定者に決定された33社に属する他の事
業者の協力によって受注したと認められないとして,P29を本件基本合意の当事
者から除外しているが,入札参加者のなかに33社が含まれるかどうかは偶然の事
柄であり,そのことによって合意の参加者かどうかが決まるというのは,不合理,
不可解である
2競争の実質的制限
)(被告の主張
競争の実質的制限とは,競争自体が減少して,特定の事業者又は事業者集団(1)
が,その意思である程度自由に価格,品質,数量,その他各般の条件を左右するこ
とによって,市場を支配することができる状態をもたらすことをいう。
本件基本合意による競争の実質的制限(2)
多摩地区において事業活動を行う協力会社46社は,33社とともに,入札ア
に当たって,条件又は受注希望を有する者がある場合には,当該条件又は受注希望
を尊重することによって,33社を含むゼネコン同士で競争を避けることが望まし
いとの認識を有していた。そして,34物件について,入札参加者のうちゼネコン
が占める割合を多くすることも目的として,受注予定者とされた違反行為者からの
依頼等に応じて工事希望票を公社に提出した上,入札参加者として指名された場合
は,受注予定者から入札価格の連絡・確認を受け,又はそのような連絡がされなく
とも,受注予定者が受注できるよう受注予定者よりも高い価格で入札することによ
って,受注予定者が受注できるよう協力していた。
他方,地元業者のうち,入札参加資格の登録を受け,土木工事のうち下水道工事
の工種区分におけるランクがAとして格付けされていたのは74社であるから,基
本合意の当事者及び協力事業者の割合は,Aランクの業者のうち51.9パーセン
トを占めることとなる。なお,協力会社のうち下水道工事について公社からAラン
クの格付を受けている者は35社であり,これを基礎に上記の割合を算定しても,
47.9パーセントとなる。
本件対象期間中の公社発注の土木工事72物件のうち,本件基本合意によりイ
競争制限効果が具体的に生じたと認めることができる物件は31物件あり,その落
札金額の合計は本件各工事72物件についての合計200億7575万4000円
に対して113億0914万1000円(56.3パーセント)を占める。この3
1物件の全体に占める割合等を工事格付別にみると規模の大きい工事ほど33社が
落札した件数の割合が高い上,落札金額でみるとその割合はより高くなっている。
地元業者を含め,公社発注の土木工事の入札に参加する業者は,いわゆる指ウ
名稼ぎのために,受注を希望しない場合であっても工事希望票を提出して指名を受
けることが少なくないこと,番号6の物件のように,受注予定者の有する条件につ
いて地元業者も認識し得る物件があったこと,番号11の物件のように,地元業者
が受注予定者の要請によりJVを組むことにより,受注の恩恵にあずかることがあ
ったことに照らせば,地元業者は,33社とともに入札に参加する場合であっても,
常に落札を目指して本件基本合意によって受注予定者とされた者に対して競争を挑
んでくるとは限らず,受注予定者の依頼に応じて協力したり,自主的に高めの価格
で入札して,競争を回避することがある程度期待できる状況にあった。
実際にも,本件対象期間中少なくとも20物件についてそのような行動がみられ
る。すなわち,少なくとも8物件については,受注予定者とされた違反行為者から
の協力依頼に応じて,受注予定者の入札価格よりも高い価格で入札して受注予定者
が受注できるよう協力している。また,そのような依頼が認められない場合であっ
ても,少なくとも12物件について,地元業者が予定価格を超える価格あるいは予
定価格に近い価格で入札しており,地元業者は,非ゼネコンであっても,予定価格
の推計を比較的容易かつ正確に行うことができると考えられるから,上記のような
入札行動の多くは,ゼネコンとの競争を回避したものと推認される。
33社は,本件対象期間中に入札を実施した公社発注の土木工事72物件のエ
うち,31物件について,本件基本合意に基づき,必要に応じて業界の有力者の助
言を得るなどして,受注予定者を決定し,さらに,受注予定者は,指名競争入札の
参加者として指名を受けた33社に属する他の事業者並びに協力会社の協力を得て
これを落札受注している。
以上のとおり,基本合意の当事者及び協力者の数が市場への全参加者数のうオ
ち相当程度を占めていた上,地元業者が多数いたとはいえ,その協力や競争回避も
ある程度期待できる状況にあり,上記のような実際の落札状況も考え併せると,本
件基本合意によって公社発注の土木工事の市場における競争自体が減少して,本件
基本合意の当事者である33社がその意思で,ある程度自由に受注予定者及び価格
を左右することができる状態がもたらされていたと認めるに十分である。
(原告らの主張)
競争の実質的制限とは,特定の事業者又は事業者集団がその意思で,市場を(1)
支配することができる状態をもたらすことである。
しかし,本件基本合意の参加者及び協力者の数は,全競争事業者のうち51.9
パーセントないし47.9パーセントしか占めていない。また,本件各工事72物
件中競争制限的効果が生じた物件の数は31件で,代金額の合計は,全工事代金額
の56.3パーセントにすぎない。すなわち,本件審決の認定によっても,入札に
よる競争の結果,72物件中41物件,金額ベースで44.7パーセントの物件で
競争制限的効果は生じていないとされるのであるから,このような33社及び協力
者が全事業者に占める割合や,実際に受注した工事金額の割合をみても,33社や
協力者が市場を支配する状態,あるいはある程度自由に受注予定者及び価格を左右
することができる状態にあったとはいえない。
(原告P1の主張)
本件審決が競争制限効果が生じたと認定した31物件から,本件と関連する八王
子市及び日野市の住民訴訟において競争制限効果が否定された別紙1の番号2,2
9,56,64及び65の5物件を除けば,26物件にしかならず,その割合は3
6.1パーセントにすぎない。また,地元業者が競合して指名されている物件は6
0件であるが,そのうち地元業者が落札した物件は32物件にのぼる。これらの事
実は,入札に参加する地元業者の数が多く,侮ることのできない競争力を有してい
ることを示しており,本件基本合意によって市場を支配する状況がもたらされ,当
該市場の競争が実質的に制限されたなどと評価することは不可能である。
(原告P3の主張)
Bランクの事業者もAランクの工事を指名される場合があり,また,JVのメイ
ンでなく,サブとなっても,それがJVの一員となった以上,メインの言うとおり
になるとは限らないから,地元業者のうち,Aクラスでない者もすべて競争業者と
して数えるべきである。そうすると競争業者は165社となるから,33社と協力
会社の事業者数が,本件対象期間中の全入札参加有資格者に占める割合は32パー
セントにしかならない。このような割合の事業者が,市場の価格,数量などをある
程度自由にすることなど不可能である。
(原告P2の主張)
受注件数は,入札市場が1件1件の入札の集合体であることから,入札市場をどれだ
け支配し得たかを見る上で直裁的であり,入札制限の状況を正確に反映するものである
から,具体的競争制限効果が生じたか否かを見る際に着目すべきは受注の件数である。
受注金額を判断の基礎とすると当該入札市場をどれだけ支配しているかを正確に把握で
きないから,これを判断の基礎とするのは相当でない。これを本件についてみると,本
件では,合意当事者が,市場全体の4割程度の物件しか受注できておらず,合意により
コントロールできなかった物件が6割程度もあるということになるから,競争制限効果
が生じていないことは明らかである。
地元業者の協力・競争回避について(2)
競争入札市場は,1件1件の入札の集合体であり,入札参加者のうちの1社ア
だけが競争を仕掛けた場合でも,直ちに競争制限状態が崩壊するという性質を有し,
合意による相互拘束がされていない事業者が相当程度の頻度で入札に参加する場合
には,合意当事者だけで受注調整を行っても当該入札市場の競争を実質的に制限す
ることはできない。
本件では,72件中アウトサイダーである地元業者(競争業者)が入札に参加し
ていないものは12件であって約16パーセントに過ぎない。このような状況で3
3社が市場を支配することはできない。
(原告P2の主張)。
アウトサイダーの競争回避的状況が見込める場合には,一部の事業者の合意によ
って市場における競争を実質的に制限するものと評価できる場合もあり得るが,ア
ウトサイダーの競争回避的状況がある程度期待できるというだけで,合意の当事者
である事業者だけで市場における競争を実質的に制限するものと評価することは不
当である。
本件審決は,地元業者の協力,競争回避の認められる根拠として,①いわゆイ
る指名稼ぎのために,受注を希望しない場合であっても工事希望票を提出して指名
を受けることが少なくないこと,②地元業者も受注予定者の有する条件について認
識しうる物件があったこと,③地元業者が受注予定者の要請によりJVを組むこと
により,受注の恩恵にあずかることがあったことを挙げている。
しかし,①についてはこれを裏付ける証拠は提出されておらず,かえって指名を
受けた地元業者は受注を目指して競争を挑んできているのが通常である上,地元業
者が指名回数だけを稼ぐためだけに,入札価格を積算する手間をかけるとは考えに
くい。②は地元業者が競争を挑んでこない理由とはならないし,③についてもこれ
を裏付ける証拠はなく,もともと共同施工工事についてはJVを地元業者と組むこ
とが予定されているから,ある物件で地元業者がゼネコンとJVを組むことを期待
して競争が回避されるという事実は認めることができない。
実際にも,地元業者は,72物件のうち少なくとも60物件について33社に対
して競争を挑み,32物件を受注しており,地元業者は,採算を度外視しても低価
格競争をしかけてきているのが実態である。
なお,本件審決は,72物件中8物件について受注予定者からの協力依頼に応じ
て受注に協力したとしているが,そのことを裏付ける証拠はない。
また,本件審決は,地元業者が12物件について予定価格を超える価格あるいは
予定価格に近い価格で入札したとして,このような入札行動の多くは,ゼネコンとの
競争を回避したものと推認できるとしているが,予定価格は公社が算定した価格であっ
て,各業者が独自の積算の結果として予定価格を超え,あるいはこれに近い価格で入札
することは十分にあり得ることであるから,上記のような推認は成り立たない。現に,
地元業者が落札した物件については,受注調整が行われたものとはされていないが,
そうした物件でも,落札率99パーセントを超えるものは17件あり,97パーセ
ントを超える物件は21件に及んでおり,更に受注した地元業者が1回目の入札に
おいては予定価格を超える金額で入札している例があることにも留意すべきである。
3個別物件について
番号7の物件(1)
(原告P1の主張)
原告P1の当時のP58営業所長であったP59の供述調書には,その着任ア
(平成10年4月1日)のころには,P1が「本命」つまり受注予定者であること
があらかた決まっていたこと,指名業者から地元業者を排除し,P60と相談して,
希望表を出してもらうゼネコンを選定したことが記載されている。
しかし,同人の着任のころには,番号7の物件は未だ公示もされておらず,同原
告が受注を希望すべきような工事なのか否かを検討する段階にはなく,希望表の提
出はおろか,指名されるか否かも分からない段階であった。しかも,昭和58年以
来平成10年4月までの約15年間で,同原告が受注した公社発注の工事はわずか
2件だけであって,指名されても受注できる可能性はきわめて低いと判断できる時
期であるから,このような時期に同原告が受注予定者であることがあらかた決まっ
ていたなどということはあり得ない。また,番号7の物件は,ACランクの共同企
業体工事であり,Cランク業者と共同企業体を組むことになれば,地元業者と組む
ことになるのであって,「地元業者を排除する」などあり得ないことである。P5
9の供述は,以上のとおり客観的事実と明白に相違する点があるほか,他の従業員
との供述の食い違い等他にも不自然な点がある。
P59は,その供述調書が作成される1年前に原告P1を懲戒解雇されており,
同原告に対する反感や悪感情を背景として事実に反する供述をしたものであって,
同人の供述は信用することができない。
34社のうち,番号7の物件につき工事希望票を提出したのは7社であるが,イ
原告P1を除いた6社のうち,担当者の供述調書が提出されているのはP29とP
32の2社分しかなく,そのいずれにも同物件に関して同原告との間で受注調整に
関する明確な合意がされたとする供述は記載されていない。また,同物件に関して
指名を受けたその他のゼネコン4社及び地元業者3社のうち,担当者の供述調書が
提出されているのはP43(旧P44),P42だけであるが,P43の担当者の
供述調書には原告P1について述べる部分はない。また,P42の担当者の供述調
書には,同原告のJVから入札金額の連絡を受け,受注できるように協力している
旨の記載があるが,他の複数の物件に関しても同文の記載がされている上,入札金
額の連絡を何時,誰から,どのような方法で受けたのか,どのような協力をしたの
かについて具体的な記載は全くなく,信用性がない。
(被告の主張)
番号7の物件を原告P1が落札受注するに至る経過は,本件審決が認定したア
事実の概要のとおりであり,同原告は,本件基本合意に基づいてP32,協力会社
であるP29,P42,P43(当時の商号は「P44株式会社」)及びP45に
工事希望票の提出を依頼し,入札までに指名を受けたゼネコン各社に対して自社が
番号7の物件の受注を希望している旨を伝え,また,指名を受けたゼネコン各社及
び地元業者との間で,入札価格の連絡・確認をし,その協力を得て,同物件を落札
・受注したものである。
原告P1は,P59が,同物件が未だ公示もされていない時期から同社が受イ
注予定者であることがあらかた決まっていたと供述していることから,同人の供述
には信用性がないと主張する。しかし,P59は,前所長であるP61が,番号7
の物件について長年営業活動を行っていたもので,P61は,P5公社か東京都の
OBであり,P1が発注官庁から情報を入手するために雇い入れた人間であると述
べており,前任のP61が,同物件の公示に先立って,情報収集の上,営業活動を
行うなどした結果,同原告が他のゼネコンから受注予定者と認識されていたとして
も不自然なことではない。
また,同原告は,P59が,地元業者を指名業者から排除し,ゼネコンの受注を
容易にするために,工事希望表を出してもらうゼネコンを選定したと供述している
ことについて,番号7の物件がACランクの共同企業体工事であってCランクの地
元業者とJVを組むことから,地元業者を排除するなどあり得ず,同供述は信用で
きないと主張する。しかし,P59は,公社が工事希望型指名競争入札を採用して
いることから,それをゼネコンが逆用して,指名業者をAランク業者のゼネコンで
固め地元業者を排除しゼネコンが容易に受注する方法として,工事希望票の提出依
頼を行うと述べているのであるから,同人の供述に不自然な点はない。
なお,本件審決の上記(1)の認定は,P59の供述のみを根拠としたものではない
ことに留意すべきである。
(2)番号10の物件
(原告P4の主張)
同物件の入札に参加した地元業者は3社であり,これら3社が落札に協力したこ
とを認めるに足りる証拠はなく,原告P4の落札率は失格ぎりぎりの80パーセン
トである。本件審決では,入札に参加した地元業者3社が予定価格に近い価格で入
札していることから,地元業者が競争的行動をとったものとは認められないとして
いるが,地元業者は入札日直前まで競争的行動をとり,中でもP50・P52JV
は,最後まで受注の意思を表明していた。原告P4は,このような競争があったか
らこそ赤字覚悟で失格ぎりぎりの予定価格の80パーセントで入札したものであり,
このような落札率となったのはまさに競争の結果というべきである。
なお,本件審決では,別紙1の番号1,4及び19の物件について競争制限的効
果が具体的に生じたと認めることはできないとしているところ,番号10の物件に
おける入札で,上記3物件と異なる重要な要素は地元業者の入札率(上記3物件で
は80パーセント前後)である。しかし,入札の時点まで他の業者が受注意欲を示
して入札に臨む行動を取っている場合は,現に競争が行われているというべきであ
るから,競争の制限があったか否かを入札率だけでみるのは誤りであり,競争の制
限の有無はこのような入札までの経過全体から判断すべきである。同原告が,番号
10の物件について,上記のような失格ぎりぎりの価格で入札したのは,そのよう
な競争が行われていたからであり,同物件については競争制限的効果は具体的に生
じていない。しかも,原告P4は,このような落札率でいわば赤字受注をしている
のであるから,不当な利益を保持させないという課徴金制度の趣旨からは,あえて
課徴金を課すまでもないというべきである。
(被告の主張)
番号10の物件を原告P4が落札・受注するに至る経過は,本件審決が認定ア
した事実の概要のとおりであり,同原告は,本件基本合意に基づいてP21,協力
会社であるP46,P47及びP48に対して,工事希望票の提出を依頼し,入札
までに指名を受けた上記各社に対して自社が番号10の物件の受注を希望している
旨を伝え,また,指名を受けた上記各社との間で,入札価格の連絡・確認をし,そ
の協力を得て,同物件を落札・受注したものである。地元業者であるP49及びP
50からは,受注を希望する旨原告P4に意思表明がされたが,上記2社を含む地
元業者をメインとする3組のJVは,予定価格近辺の価格で入札したから,地元業
者はいずれも競争的行動をとったものとは認められない。
原告P4は,地元業者3社をメインとするJVが入札日直前まで競争的行動イ
をとり,中でもP50・P52JVは,最後まで受注の意思を表明していたこと,
同原告の落札率が80パーセントであることを根拠に,番号10の物件については
競争制限的な効果は生じていないと主張する。しかし,基本合意の当事者間で受注
予定者が決定されたことにより競争単位が減少したものについては,原則として,
競争単位の減少それ自体をもって上記の競争制限効果が具体的に生じたことになる
というべきである。しかも,非ゼネコンである地元業者であっても,本件各工事の
予定価格の推計を比較的容易かつ正確に行うことができると考えられるところ,地
元業者をメインとする3つのJVの入札価格は,いずれも予定価格の近辺の価格
(このうち2つのJVは予定価格を超えるおよそ落札の可能性のない価格で入札し
ていた。)となっているから,このような入札行動は,同原告との競争を回避した
ものというべきである。したがって,同原告の落札率が低いことは,競争制限的な
効果が生じていないことを根拠づけるものではない。
番号13の物件について(3)
(被告の主張)
番号13の物件をP6が落札・受注するに至る経過は,本件審決が認定した事実
の概要のとおりであり,同物件の入札参加者がすべて本件基本合意の当事者又は協
力者で占められており,本件基本合意に基づいてP6・P15JVが受注予定者に
決定され,その協力によって,同物件を落札したものである。
番号22の物件について(4)
(原告P3の主張)
原告P3は,番号22の物件について熱心に営業をしていたが,他の入札参加J
Vと個別に談合したり,入札価額についての打ち合わせ等をした事実はなく,同原
告が受注調整を行ったことはない。営業活動を行っていることを直ちに受注調整行
為と判断することには論理の飛躍がある。なお,公社は,入札に参加する資格を有
する業者でも,公社の工事を受注して施工している場合や,他の物件の参加者とし
て指名を受けている場合は入札の執行が終わるまで指名をしない扱いとしているこ
とから,他の事業者に対して当該物件に対する受注意欲を示すことは,他の事業者
に対して落札すべき物件について選択の機会を与えるという重要な役割を果たして
いる。
また,有利な価格で当該物件を落札するためには,他社の動向を把握し,その営
業活動に関する情報を得る必要があるのであり,これを受注調整行為ということは
できない。
なお,地元業者をメインとする2組のJVの入札価格が予定価格を上回っている
が,入札前には工事予定価額は全く未知のものであるから,上記事実は,個別談合
の存在を推認させるものではなく,番号22の物件の受注調整状況に関する本件審
決の認定を裏付ける実質的証拠はない。
(被告の主張)
番号22の物件を原告P3が落札・受注するに至る経過は,本件審決が認定ア
した事実の概要のとおりであり,同原告は,本件基本合意に基づいてP56に対し
て,同物件の受注を希望している旨を伝え,P37,P57及びP55に対して,
工事希望票の提出を依頼し,入札までに,指名を受けたP32並びにP55及びP
56との間で,入札価格の連絡・確認をした上,指名を受けたゼネコン各社の協力
を得て同物件を落札・受注したものである。
原告P3は,番号22の物件の受注調整状況に関する本件審決の認定を裏付イ
ける実質的証拠がないと主張する。
しかし,同原告のP62支店P63営業所所長は,他のゼネコンに対して折に触
れて同物件について一所懸命営業しているという話はしていると思うし,他のゼネ
コンから問い合わせがあったと記憶している旨を述べており,このような情報交換
が行われていたことは,受注希望者間の話し合いにより受注予定者を決定するとの
内容を含む本件基本合意に基づく受注調整行為が行われていたことを示すものであ
る上,P32の担当者は記憶がないとしながらも協力要請があれば協力をしたと思
うと述べている。また,P32との関係では,入札価格の連絡・確認をした事実を
強くうかがわせる証拠も存在し,地元業者をメインとする2組のJVの入札価格は
予定価格を上回っているから,競争を回避していたと認定できる。したがって,原
告P3・P38JVは,本件基本合意及びこれに基づいた受注調整の下でそれまで
と同様に粛々と入札及び落札を行ったと判断されたとしても,何ら不合理なことで
はない。そして,番号22の物件の受注調整状況に関する本件審決の認定を裏付け
る明確な証拠が存在することは,既に述べたとおりである。
4課徴金の算定について
(被告の主張)
原告らが違反行為の実行行為としての事業活動を行った日から同事業活動がなく
なる日までの期間(平成9年10月1日から平成12年9月27日まで)の違反行
為における売上額を,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律施行令の一
部を改正する政令(平成17年政令第318号)による改正前の私的独占の禁止及
び公正取引の確保に関する法律施行令6条の規定により算定(独占禁止法施行令)
すると,別紙7の契約金額欄記載の金額(契約期間内に契約金額が変更されていな
い場合は契約金額,変更されている場合は最終変更後の契約金額にJVの出資比率
を乗じた額)のとおりとなる(P6を構成員とするJVが落札・受注した番号13
の物件に係る同社の売上額は,独占禁止法7条の2第5項により,原告P2の売上
額とみなされる。)。したがって,原告らが納付しなければならない課徴金の額は,
同法7条の2第5項によって上記契約金額に100分の6を乗じた額となる。
第6当裁判所の判断
1本件基本合意について
33社及びその他のゼネコン46社で多摩地区において公社が発注した物(1)ア
件の受注業務を担当していた多くの者は,工事の入札に当たって,受注意欲を持ち,
発注される工事との関連性を持つ事業者がある場合には,事業者と当該工事との関
連性を尊重することによって競争を避けることが望ましい,あるいはそれが慣行で
あるとの認識を有し,受注を希望する者の間の話し合いやP35のP41の助言な
どによって受注予定者を決め,入札に当たっては受注予定者が落札することに協力
していたこと,受注予定者の決定については,本件審決案が認定するような受注希
望者の有する条件が考慮され,受注希望者同士の話し合いがまとまらない場合は,
業界の有力者であるP35のP41等の助言を得て受注調整がされていたこと,受
注予定者は,入札に参加する業者に33社及びその他のゼネコン46社が入るよう
に,これらの業者に公社に対する工事希望票の提出を依頼し,入札参加者が指名さ
れた後は,入札参加者のうち,33社及び協力会社に属する者に入札金額を連絡し,
あるいはそのような連絡をしないまでも,これらの事業者が受注予定者の入札金額
を上回ると考えられる価格で入札して,受注予定者が落札できるように協力してい
たことの全部又は一部の事実を述べ(査共3から6,8,54,56,58,62,
66から75,77から81,84から86,89から93,98,99,102
から106,110,113から115,135から156,158から160,
162から189,191から196,201から212,232,233,23
5から241,243から246,248,249,251,289,290,2
92から297,322から325,349から352,354,358,364
から366),またこれらの供述の一部を裏付ける証拠(査共2,9から53,65,
121から134,252から289,298から321)も提出されている。また,
33社が,本件対象期間中,本件各物件をそれぞれ落札,受注したことは「第3
前提事実」3の(3)のとおりである。
原告P1の関係では,同社の本件当時のP58営業所長であったP59の供イ
述調書(査共72),P58営業所に勤務していた従業員であるP60の供述調書
(査共162),原告P4の関係では,同社のP64営業所課長であったP65の供
述調書(査共5,171,172),原告P2の関係では,平成6年7月までP6
のP66営業所の副所長,平成9年7月から同営業所長であったP67の供述調書
(査共135,136)が存在し,これらの供述調書には,それぞれ審決案の認定に
沿う供述が記載され,これを裏付ける資料も添付されている。
原告P3の関係では,同社のP62支店P63営業所長であったP68の供述調
書(査共352,353)が提出されているところ,同人は,本件基本合意の存在
を直接裏付ける供述をしておらず,他のゼネコンに対して工事希望票の提出や同社
の落札に対する協力を依頼したり入札価格の調整をしたことはないと述べている。
しかし,同人の供述とは異なり,同原告から工事希望票の提出依頼や入札価格の連
絡を受けていずれもこれに協力したこと,逆に同原告に工事希望票の提出を依頼し
たことを述べる他のゼネコン担当者の供述も少なからず存在する(査共62,81,
93,145,238,241)。
審決の本件基本合意に関する事実の認定は,以上のような各証拠からすると,ウ
合理的なものというべきである(なお,原告P3に関する受注調整や落札に至る経
過に関する証拠については,後記3の(4)に述べるとおりである。)。
(2)原告らの主張について
原告らは,本件基本合意について,その存在を証する文書が存在しないこと,ア
合意の参加者が特定しておらず,参加者とそうでない者とを区別する根拠が不明で
ある上,受注予定者の調整に関する各業者間の連絡方法,決定方法など具体的な受
注調整の基準や方法等の重要な要素も定められていないこと,違反に対する制裁的
措置が定められたともされていないから,合意の当事者に対する拘束力があったと
はいえない上,合意のルールが事業者に周知されていた事実も存在しないこと等を
主張して,本件基本合意がされたことはないと主張する。
確かに,本件基本合意は,文書化され,あるいは合意の参加者が一堂に会する等
して定められたものではなく,その当事者が誰なのかを明確にする基準があるとは
認められない。また,受注調整の方法及び基準,受注予定者の決定の手続,各ゼネ
コン間の連絡方法,違反に対する制裁等のルールが具体的に定められているとはい
えず,その存在や内容について何らかの周知措置が執られたとも認められない。し
たがって,本件基本合意は,契約のように法的な拘束力を持つ合意とはいえない(関
係者の多くは,多摩地区で営業活動をするゼネコンの間の慣行と称している。)。
しかし,上掲各証拠によると,このような慣行は,受注調整や入札に際しての協
力につき,本件審決案が認定するような内容のものとして存在していたことは明ら
かである。しかも,多摩地区で営業活動をするゼネコンの担当者の間では,先任の
者からの引継などによって広く知られていた上,33社においてこれを尊重し,遵
守すべきものとされ,現実にも,これが尊重され,遵守されて受注調整のルールと
して有効に機能し,受注予定者がこのルールに従って33社に属する他の事業者及
び協力会社の協力を得て,希望の物件を落札していたことが認められる。したがっ
て,独占禁止法の不当な取引制限の有無を判断するに際して,このようなゼネコン
間の受注調整及び公社発注の物件の入札に際して有効に機能している慣行を,本件
対象期間中にこれに基づいて公社発注の土木工事を落札・受注した33社の基本的
な合意であったと認めることはなんら不当なものではない。
原告らは,33社とその他のゼネコン46社との行為態様には差がないから,イ
その他のゼネコン46社(原告P3については,そのほかにP29を含む。)が本件
基本合意の当事者でないのであれば,33社も本件基本合意の当事者とはいえない
と主張する。
しかし,33社について本件基本合意を認めるに足りる実質的な証拠が存在する
ことは前記のとおりである。本件審決は,その他のゼネコン46社については本件
対象期間中に本件基本合意に基づいて落札・受注したと認められる物件がないこと
から,自社が受注意欲や関連性を有するときは33社に属する他の事業者が協力す
ることについての認識,認容を認めるに足りる証拠がなく,また,P29は別紙1
の番号46の物件を落札,受注しているが,33社に属する他の事業者が入札に参
加していないためにその協力を得て同物件を受注したとは認められず,そうすると,
その他のゼネコン46社と同様に自社が受注意欲や関連性を有するときは33社に
属する他の事業者が協力することについての認識,認容を認めるに足りる証拠がな
いとしたものにすぎない。したがって,本件審決が,その他のゼネコン46社及び
P29を本件基本合意の当事者と認めなかったことは,原告らも含む33社が,本
件基本合意の当事者ではないことの根拠となるものではない。
2本件基本合意と不当な取引制限
公社は,予定価格が500万円以上の工事の発注に当たり,公募型の入札制(1)
度を採用し,入札参加資格を有する事業者をAからEのランクを用いて格付けし,
他方,発注する工事を,その予定価格の額を基礎とし,これに施工技術の難易性を
勘案して,AからEまでの工事及び共同施工方式により施工する工事に格付けし,
通常その工事のランクに対応する格付けを有する事業者を入札指名したこと,入札
に参加する事業者の選定は,公社の指名業者選定委員会によって行われ,単独施工
工事については10社が,共同施工工事についてはメインの業者10社,サブの業
者10社が指名され,その指名,選定に当たっては,工事の規模,工法の難易度,
選定する事業者の活動の拠点,格付け,工事希望票の提出回数,指名回数及び受注
回数,公社発注の工事の現在施工状況等も総合的に勘案していたことは前記のとお
りである。
このような制度は,発注する工事を的確に遂行する意思と能力を有する事業者の
全員が落札,受注を目指して互いに競争するためのものであるから,落札する意思
を持たない者が落札する意思を有している者を排除して入札に参加すること,受注
(落札)予定者を予め調整することは,それ自体が入札制度の目的に反し,一般的
に正当な競争を阻害するものである。
「第3前提事実」3のとおり,本件対象期間において,33社,協力会社(2)
47社の合計80社は公社から入札参加有資格者として登録を受けていたが,公社
が実施する入札に参加した上記以外の地元業者は165社であり,このうち,公社
の入札参加資格を有する者としての登録を受け,土木工事のうち下水道工事の工種
区分におけるランクがAとして格付けされていた業者は74社である。そうすると,
33社と協力会社の数は,本件対象期間における公社の入札にAのランクで参加す
る資格を有する事業者全体の51.9パーセントを占めることになる。
(33+46+1)÷(33+46+1+74)=0.519
また,協力会社46社のうち下水道工事について公社からAランクに格付けされ
ていた業者は35社であるから,下水道工事について上記と同じ割合を算定すると
47.9パーセントとなる。
(33+35)÷(33+35+74)=0.479
したがって,本件対象期間における公社が発注するAランクの工事に関して,3
3社及び協力会社が総事業者に占める割合は過半を超え,下水道工事についても半
分近くを占めていたことになる。もっとも,公社は,地元業者保護の観点から,A
ランクの工事につきBランクに格付けされる地元業者が工事希望票を提出してきた
場合には,Bランクに格付けされる業者を指名することがあったが,そのような例
は少なく,そのような例を考慮しても33社及び協力会社が競争業者を含めた全事
業者に占める割合は相当程度に及ぶことに変わりはない。現実にも,別紙1のとお
り,本件各物件で共同施工工事とされた物件のうち,JVのメインとして,あるい
はAAランクの工事に入札指名を受けた業者の割合は,大方の物件で33社を含む
ゼネコンが過半を占め,その割合はランクが上になる程高くなり,特にAAランク
の格付けの工事について入札指名を受けた者すべてが33社及び協力会社で占めら
れている。また,単独施工工事においても,指名業者の過半以上を33社及び協力
会社が占めている例は少なくなく,そうでない場合も33社及び協力会社の中から
複数の業者が指名を受けている。
また,本件各物件72件のうち,本件審決において競争制限効果が生じたと(3)
認められた物件は31件あり(前掲各証拠によると,この認定は合理的である。),
その落札金額合計113億0914万1000円は,本件各物件の落札金額合計2
00億7575万4000円のうち56.3パーセントを占めている。しかも,こ
れを工事の格付け毎の落札件数,落札率,落札金額及びその割合をみると下表のと
おりであって,格付けが高い物件ほど33社の落札件数,落札金額が全体に占める
割合は高いものとなっている。
工事の格付件数(件)落札金額(千円)
全体33社落札割合%全体33社落札割合%
AA11981.85,132,5004,802,20093.6
AB151280.04,876,4843,979,64181.6
AC16531.34,192,0221,376,30032.8
A30516.75,874,7481,151,00019.6
本件基本合意は,受注予定者を定めた上,落札する意思を持たない者がこれ(4)
を有する者を排除して入札に参加することによって競争者の数を限定し,入札に参
加した受注予定者以外の33社に属する者及び協力会社が,受注予定者が対象の物
件を落札することに協力するというものであるから,それ自体が入札制度における
競争を阻害するものである。
しかも,前記(2)及び(3)のとおり,33社と協力会社の数が本件対象期間におけ
る公社の入札にAのランクで参加する資格を有する事業者全体に占める割合,競争
制限効果が生じたと認められる件数及びその落札金額の割合は,いずれも相当程度
高いのであるから,本件基本合意は,公社が発注する本件各工事の入札による競争
を実質的に制限するものということができる。
原告らは,競争の実質的制限とは,特定の事業者又は事業者集団がその意思(5)
で,市場を支配することができる状態をもたらすことであるとした上,①33社及
びその協力者の数が全事業者に占める割合や本件審決が競争制限効果が生じたとす
る物件の数や入札金額,②地元業者が入札に参加し,33社などと競争をしている
こと等を根拠として,本件基本合意によって市場支配がされ,競争の実質的制限が
されたとはいえないと主張している。以下,これらの点について検討する。
33社及びその協力者が全事業者の占める割合と競争の実質的制限ア
原告らは,本件基本合意の参加者及び協力者の数は,全競争事業者のうち5(ア)
1.9パーセントないし47.9パーセントしか占めておらず,本件審決の認定に
よっても,本件各工事72物件中競争制限的効果が生じた物件の数は31件で,そ
の入札金額の合計は全工事の入札金額の56.3パーセントにすぎないから,33
社や協力者が市場を支配する状態,あるいはある程度自由に受注予定者及び価格を
左右することができる状態にあったとはいえないと主張する。
しかし,独占禁止法2条6項が定める競争の実質的な制限とは,競争自体が(イ)
減少して,特定の事業者又は事業者集団が,その意思である程度自由に価格,品質,
数量,その他の各般の条件を左右することによって市場を支配することを意味して
おり,ここにいう市場の支配は,特定の事業者又は事業者集団が,その意思だけで
自由に価格,品質,数量その他の各般の条件を左右できる状態にまで至っているこ
とを必要とするものではない。
本件基本合意は,予め受注予定者を決めて33社に属する他の事業者,協力会社
が受注予定者の落札,受注に協力することを内容とするものであって,その合意の
執行は,真に落札を目的とする者を入札市場から排除し,受注予定者以外の違反行
為者及びその協力者が入札に参加して,受注予定者の落札に協力するものとなるか
ら,本来されるべき入札参加者全員による競争は,受注予定者と地元業者のみの競
争に限定されることとなり,原則として,そのこと自体が入札における正当な競争
を阻害するものであることは前記のとおりである。
そして,33社及び協力会社の数は,全事業者のほぼ半数に達しており,本件各
物件の入札参加者をみても,共同施工工事とされた物件のうち,JVのメインとし
ての入札指名を受けた業者の割合は,大方の物件で33社とその協力者が過半を占
め,その割合は工事のランクが上になるほど高くなり,特にAAランクの格付けの
工事について入札指名を受けた者は,すべて33社及び協力会社に属する者で占め
られているから,後記イのとおり,地元業者が競争を回避することがある程度期待
できる状況にあったことも考えると,本件基本合意は,本件対象期間における公社
発注工事の入札市場における競争を実質的に制限するものであることは明らかであ
る。
そのことは,前記2の(3)のような競争制限効果が生じたと認められる物件の数や
落札金額にも裏付けられている。
なお,原告P3は,Bランクの事業者もAランクの工事を指名される場合が(ウ)
あり,また,JVのメインでなく,サブとなっても,それがJVの一員となった以
上,メインの言うとおりになるとは限らないから,地元業者のうち,Aクラスでな
い者もすべて競争業者として数えるべきであるとして,違反行為者数等が全事業者
に占める割合は32パーセントにしかならないと主張する。
しかし,公社は,入札参加資格を満たす者として登録している有資格者及び発注
する土木工事を,それぞれAからEのランクに格付けしているところ,Aランクの
単独施工工事,ACランク及びABランクの共同施工工事のメイン及びAAランク
の共同施工工事には,通常Aランクに格付けされた事業者が指名され(査共436,
438,439),Bランクに格付けされる地元業者が上記工事に指名を受けるの
は少数の例にとどまっており,Aランクに位置づけられる工事について33社及び
協力会社が占める割合が相当程度に達することは前記のとおりである。また,Aラ
ンクの共同施工工事のサブにBランク以下の事業者が指名される場合に,JVのサ
ブがJVのメインの意向に反した入札行動を取ることは考えにくく,実際にそのよ
うな事例があったことを窺うに足りる証拠はない。
そうすると,この点に関する原告P3の主張は採用できない。
また,原告P2は,受注金額に比して,受注件数が入札制限の状況を正確に反映す
るとした上,具体的競争制限効果が生じたか否かを見る際に着目すべきは受注件数で
あって,受注金額を判断の基礎とすることは相当ではない旨を主張する。確かに,1
件又は少数の物件の落札金額が飛び抜けて多額なため,落札金額によって競争の制限
効果を検討することが不相当な事情がある場合には,同原告の主張にも理はあるが,
本件ではそのような物件は見当たらず,受注件数だけに着目すべき事情があるとはい
えない。
さらに,原告P1は,本件審決が競争制限効果が生じたと認定した31物件から,
本件と関連する八王子市及び日野市の住民訴訟の判決で競争制限効果が否定された
5物件を除けば,26物件にしかならず,その割合は36.1パーセントにすぎな
いと主張するが,31物件について競争制限効果が生じたものと認められることは
前記のとおりであるから,同原告の主張は採用できない。
地元業者の協力・競争回避についてイ
原告らは,本件各物件72件中60件の物件についてアウトサイダーである(ア)
地元業者(競争業者)が入札に参加して競争を仕掛けているから,このような市場
において合意当事者だけでは入札市場の競争を実質的に制限することはできないと
主張する。
地元業者の入札行動に関する本件審決の認定の概要は,以下のようなもので(イ)
ある。
①公社が,工事の入札回数を勘案していることから,地元業者を含め,公社発注
の土木工事の入札に参加する業者は,いわゆる指名稼ぎのために,受注を希望しな
い場合であっても工事希望票を提出して指名を受けることが少なくないこと,②受
注予定者の有する条件について地元業者を認識し得る物件があったこと,③地元業
者が受注予定者の要請によってJVを組むことにより,受注の恩恵にあずかること
があったことに照らせば,地元業者が常に落札を目指して受注予定者に対して競争
を挑んでくるとは限らず,受注予定者の依頼に応じて協力したり,自主的に高めの
価格で入札して競争を回避することがある程度期待できる状況にあったと認められ
る。実際にも20の物件で地元業者にそのような行動が見られた。
原告らは,本件審決の上記認定について,①についてはこれを認めるべき証(ウ)
拠がなく,②については地元業者が競争を回避する理由とはならない,③について
もこれを裏付ける証拠はなく,共同施工工事はJVを組むことが必要であって,地
元業者がJVの一員となることは当然予定されているから,ある物件で地元業者が
ゼネコンとJVを組むことを期待して競争を回避するということはないとし,地元
業者は,72物件のうち少なくとも60物件について33社に対して競争を挑み,
32物件を受注しており,採算を度外視しても低価格競争をしかけてきているのが
実態であると主張する。
しかし,公社が入札に参加する業者を指名する際に,工事希望票の提出回(エ)①
数を考慮要素としていることは「第3前提事実」2の(5)に記載のとおりであり,
公社でこの事務を担当していたP69は,公社の入札に参加する業者は,入札指名
に関して工事希望票の提出回数が考慮されていることを知っており,受注を希望し
ない場合でも指名稼ぎのために工事希望票を提出して指名を受けることが少なくな
いと供述し(査共439),ゼネコンの担当者も実際に指名稼ぎのために工事希望票
を提出した経験を供述している(査共79,91,176,203,327,352
等)。このような証拠からすると,地元業者が受注を希望していない場合でも,指
名稼ぎのために工事希望票を提出することがあると認定できるから,この点に関す
る本件審決の認定には合理性が認められる。
この点,平成13年4月から平成14年8月まで公社において多摩地区の公②
共下水道の建設等にかかる工事の発注業務を担当していたP70は,受注意欲のな
い者が工事希望票を提出することは考えられないと供述し(審共1),株式会社P
71のP72本店営業副本部長であるP73は,審判手続における参考人審尋にお
いて,受注を希望しないのに形だけ指名を申し込むというようなことはなく,他社
がそのようなことをするということも聞いたことがない旨を供述し,更にP74株
式会社土木部長のP75も,その陳述書(審共8の4)及び審決手続における参考
人審尋において,入札において競争を回避することはしないという趣旨に理解でき
る供述をしている。
しかし,受注予定者が入札対象の物件に対していわば強い条件を持つ場合は,地
元業者がそれを尊重して競争を回避することはあり得ることであり,また,公社の
発注する共同施工工事において33社とJVを組む可能性があることは,地元業者
が競争を回避することの動機となり得るものである。
また,入札参加者に地元業者がいる場合に,受注予定者とその地元業者との間で
話し合いが行われ,調整が行われていたことを示す証拠(査共66,67,72,9
8,166,173,182)がある。さらに,地元業者は,12物件(別紙1の番
号9,10,22,29,40,42,50,51,56,58,59,65の各
物件)で予定価格を超える価格あるいは予定価格に近い価格で入札しているところ
(査共328,463),これら工事は,通常の建設業者であれば,公刊されてい
る積算資料及びソフトウェアを用いることによって予定価格の推計を比較的正確に
行うことができるものであるから,地元業者が競争を回避したためにこのような価
格での入札をしたものと推認することも,不合理であるとはいえない。
そして,P70の供述は,発注者側から本件対象期間以後の経験を述べるもので
あり,P73及びP75は,いずれも本件対象期間に多摩地区の営業を担当してい
なかったというのであるから,本件対象期間における地元業者の入札行動を認定す
る上ではその証明力に限界がある。また,上記3名が述べるように,地元業者の中
に指名稼ぎのための工事希望票を提出することはせず,指名されて後に競争を回避
することをしない業者がいても不自然ではないが,そのことは必ずしも本件審決の
認定と矛盾するものとはいえない。
そうすると,地元業者が,もともと落札の意欲を持たないまま指名を受け,ある
いは受注予定者の依頼に応じる等の事情によって,高めの価格で入札することをあ
る程度期待することができる状況があり,現にそのような事例も存在しているとい
うことができるから,本件審決の前記(イ)の認定は合理的なものといえる。
なお,地元業者が,個別の物件について33社に対して競争をしかけてくる③
例があることは原告らが主張するとおりと思われるが,そのような事例があるとし
ても,そのことは上記認定を左右するものではない。
次に,原告らは,地元業者が72物件のうち少なくとも60物件について3(オ)
3社に対して競争を挑み,32物件を受注していることを根拠に本件基本合意によ
る競争の実質的制限は生じていないとし,原告P2は,アウトサイダー(地元業者)
の競争回避的状況がある程度期待できるというだけで,合意の当事者である事業者
によって市場における競争を実質的に制限するものと評価することは不当であると
主張する。
しかし,入札に参加した地元業者が落札を希望し,競争の結果本件基本合意によ
って受注予定者とされた者が落札ができない物件が生じているとしても,そのこと
が直ちに本件基本合意が競争制限効果を有していないことの根拠となるものとはい
えない。なお,この点の事情について,P41は,以下のように供述している(査共
。98)
「ゼネコン側と地元側の折衝は,簡単に申せば,話し合いということですが,やは
り,双方は当該物件についての関連性など種々条件を提示し合って,結局,例えば,
一方が下請けに入るとの条件で決着を図るといった仕方も採られ,最終的には,本
命業者として一本化が図られるパターンです。ただ,ゼネコン側の意思としては,
地元業者との混合入札参加物件のケースは,地元側が強いとの判断もありまして,
喧嘩までして取ろうということにはならず,地元業者側が強く受注意欲を示せば,
何らかの条件で譲ったり,あるいは,降りるということにならざるを得ません。そ
れは,ゼネコン側は経費面で地元業者に勝てませんので,叩き合いに持って行った
としても落札できませんし,もし落札できたとしても得にならないからです。」
このように,本件基本合意によっても,地元業者との競争を避けられない事例が
あることは認められるが,上記のとおり,本件基本合意は,一般的に受注意欲を持
たない受注予定者以外の33社に属する者及び協力会社に工事希望票を提出させる
などして競争者の範囲を限定するものである上,もともと落札の意欲を持たない地
元業者が入札に参加する場合もあるという事情も考えると,地元業者が受注予定者
の依頼に応じてくれることをある程度期待することができるという程度でも,公庫
発注物件の入札における競争を実質的に制限するものと認めるのが相当というべき
である。
個別の物件について3
番号7の物件(原告P1関係)(1)
本件審決が番号7の物件に関して認定した事実は,前記「第4被告が認定ア
した事実の概要」3の(1)のとおりである。
原告P1の本件当時のP58営業所長であったP59は,ほぼ本件審決が認定し
た事実に沿う供述をしており(査共72),平成8年6月から平成11年4月ころま
で,同原告P58営業所に勤務していたP60も,概括的にはP59の供述を裏付
ける供述をしている(査共162)。また,番号7の物件の相指名業者となったP4
2のP76(査共150)は,原告P1・P33JVから入札金額の連絡を受けて同
JVが受注できるように協力したことを述べ,P29のP77営業所長であったP
78(査共144)及びP32営業本部P79営業所長であったP80(査共14
5)も,原告P1が同物件を落札することに協力したことを少なくとも否定してい
ない。
このような証拠からすると,本件審決の番号7の物件に関する認定には合理性が
認められるというべきである。
原告P1は,P59の供述のうち,①番号7の物件が未だ公示もされていイ(ア)
ない時期から同社が受注予定者であることがあらかた決まっていたとする部分及び
②地元業者を指名業者から排除し,ゼネコンの受注を容易にするために工事希望表
を出してもらうゼネコンを選定したとする部分は客観的事実に反し,同人の供述は
信用できないと主張する。
しかし,同人は,前任のP61が同物件が公示される前から営業活動をし,これ
に関する情報を入手していたことを示唆する供述をし,P60も以前に同物件付近
で公社発注の工事を実施した実績があることから,他社に比較して有利な条件を持
っていたことから受注のための営業努力をしていた物件であることを述べているほ
か,33社や協力会社の営業担当者の多くが公社発注の工事の実施前からダミコン
や業界の新聞によって情報収集をしていたことも述べているから,上記①の供述部
分が客観的な事実に矛盾するとはいえない。また,受注予定者が33社に属する他
の事業者及び協力会社に対して工事希望票の提出を依頼するのは,競争相手となる
可能性のある地元業者を入札参加者から排除するためであって,上記②の部分は客
観的な事実に合致するものである。
また,同原告は,P78(査共144)及びP80(査共145)の供述調書(イ)
は,いずれも番号7の物件に関して同原告との間で受注調整に関する明確な合意が
されたことは述べられておらず,P76の供述(査共150)には,具体性がなく,
他の複数の物件に関してほぼ同文の記載が繰り返されているだけであるから,信用
性がないと主張する。しかし,前記のとおりの同人らの調書の内容に照らすと,そ
の指摘のような点だけで上記各供述調書が実質的証拠に該当しないとはいえない。
なお,原告P1は,33社及びP29のうち,工事希望票を提出したのは7(ウ)
社(同原告を除けば6社)であるが,そのうち担当者の供述調書が提出されているの
は2社分しかない,相指名となったその他のゼネコンに属する4社及び地元業者3
社のうち,担当者の供述調書が提出されているのは2社分しかなく,そのうちの1
社(P43)の担当者の供述調書には同原告について述べる部分がないことを指摘し
ている。しかし,このような点を考慮しても,前記のような証拠からすると,本件
審決の原告P1に関する認定が不合理なものとはいえない。
番号10の物件(原告P4関係)(2)
本件審決が番号10の物件に関して認定した事実は,前記「第4被告が認ア
定した事実の概要」3の(2)のとおりである。
原告P4のP64営業所課長であったP65は,ほぼ本件審決の認定に沿っイ
た供述をしており(査共5),同物件の相指名業者となったP57P81支店P82
営業所長であったP83は,P65から頼まれて工事希望票を提出し,指名を受け
た後も原告P4・P34JVが落札できるように協力して札入れをしている旨を述
べている(査共93)。
このような証拠からすると,本件審決の番号10の物件に関する認定には合理性
が認められるというべきである。
原告P4は,番号10の物件の入札には,地元業者3社が参加し,この3ウ(ア)
社が入札の時点まで受注意欲を示して入札に臨む行動を取っていたことから,同原
告は,落札率80パーセントという失格ぎりぎりの価格で入札したものであるとこ
ろ,競争の制限があったか否かは,上記のような入札までの経過全体から判断すべ
きであって,同原告の落札率は,番号10の物件についてまさに競争が行われてい
たことを示しており,同物件については競争制限的効果は具体的に生じていないこ
と,また,同原告は,このような落札率でいわば赤字受注をしているのであるから,
不当な利益を保持させないという課徴金制度の趣旨からは,あえて課徴金を課すま
でもないことを主張する。
確かに,番号10の物件の入札に参加した地元業者であるP49・P51J(イ)
V及びP50・P52JVは,同物件の受注を希望する意思を原告P4に表明して
いたことが認められる。しかし,別紙6−2のとおり,地元業者を構成員とするJ
Vのうち2社は予定価格を上回る価格で,残りの1社は予定価格に近い価格(予定
価格の99.05パーセントの価格)で入札しており,その入札価格は,上記物件
の入札に参加した33社及び協力会社を構成員とするJVの入札価格より高い価格
か,それに相当する価格となっている。このような入札結果からは,地元業者3社
を構成員とするJVは,最終的にはいずれも原告P4からの要請を受け,原告P4
・P34JVとの競争を回避したことを推定させる。したがって,同原告による同
物件の落札率が失格ぎりぎりの80パーセントであったとしても,同原告を除く入
札参加者全員が競争を回避していることになるから,番号10の物件では競争制限
効果が生じていることは明らかというほかない。
課徴金の納付命令は,不当な取引制限又は商品又は商品供給量の制限による(ウ)
経済的利得を国が徴収し,違反行為者がそれを保持し得ないようにすることによっ
て,社会的公正を確保するとともに,違反行為の抑止を図り,不当な取引制限等の
禁止規定の実効性を確保するために執られる行政上の措置であり,不当な利得の剥
奪にとどまらない複合的な趣旨及び目的を持つ。しかも,その金額は,画一的な基
準によって,不当な利得の有無及びその額とは一応切り離して機械的に算出される
ものとされているから,不当な利得の発生の有無及びその多寡を問わずに,不当な
取引制限等によって競争制限効果が発生したものについて命じられるべきもの,す
なわち,不当な取引制限等によって不当な利益を得ることができなかったというよ
うな場合にも,適用されるものと解される。
なお,このような課徴金制度の適用も,同制度が不当な取引制限等の禁止規定の
実効性を確保するという趣旨,目的を有することからすれば,一定の合理性がある
というべきである。
したがって,番号10の物件について,課徴金を課すまでもないとする同原告の
主張は採用できない。
番号13の物件(原告P2関係)(3)
本件審決が番号13の物件に関して認定した事実は,前記「第4被告が認ア
定した事実の概要」3の(3)のとおりである。
P6のP66営業所長であったP67は,ほぼ本件審決の認定に沿った供述イ
をしている(査共136)。また,同物件の相指名業者となったP55のP84支店
P85営業所長であったP86(査供62),P53P87営業所長であったP8
8(査供84),P54P89営業所長であったP90(査供92),P36P9
1営業所長であったP92(査供164)は,いずれも依頼を受けて番号13の物
件について工事希望票を提出したと供述し(ただし,P90は,P6からの依頼な
のかP93(上記物件について本命であったが,後に辞退したという。)からの依
頼であったのかは定かでないとしている。),また,P86,P90及びP92は,
指名後にP6から入札価格の連絡を受けて入札したと述べている。P94P95営
業所に勤務していたP96(査供74),P46P97支社P98営業所長であっ
たP99(査供75)及びP8P100営業所長であったP101(査供156)
も,同物件についての具体的な記憶を述べるものではないが,P6・P16JVが
同物件を落札するように協力した可能性が高いことを示す供述をしている。
このような証拠からすると,本件審決の番号10の物件に関する認定には合理性
が認められるというべきである。
番号22の物件(原告P3関係)(4)
本件審決が番号22の物件に関して認定した事実は,前記「第4被告が認ア
定した事実の概要」3の(4)のとおりである。
原告P3のP62支店P63営業所所長であったP68は,①番号22の物イ
件に関して,営業所に近く,工事場所の状況も把握し近隣の状況もよく分かってい
る物件であったため,前々から熱心に営業活動をしていた物件であり,他のゼネコ
ンに対しても折に触れて受注意欲を示していたこと,②他社から同物件に関する同
原告の受注意欲の問い合わせがあったこと,③結果的に受注意欲を示したことによ
って他社が工事希望票を提出したことがあるかも知れないこと,しかし,④工事希
望票の提出を他社に依頼した覚えはないこと,⑤他社との間で入札価格を連絡・調
整したり,他社から同原告の入札価格を尋ねられたりしたことはなく,番号22の
物件を同原告が落札したのは正当な競争の結果であることを供述している(査供3
52,353)。
しかし,P55P84支店P85営業所所長であったP86(査供62),P3
7P102支店P103営業所長であったP104(査供81),P57P81支
店P82営業所長であったP83(査供93),P56P105支店P106営業
所長であったP107(査供241)は,いずれも原告P3からの依頼によって工
事希望票を提出し,原告P3・P38JVが番号22の物件を落札できるように協
力したことを述べている(なお,P86及びP107は,同原告から入札額の連絡
があったとしている。)。また,P32営業本部P79営業所長であったP80も,
原告P3から受注に協力して欲しい旨の依頼があったかは覚えていないが,そのよ
うな依頼があれば,受注意欲のない物件であったことから協力していると供述して
いる(査供145)。
そして,33社の間で本件基本合意が存在し,協力会社が33社の受注に協力す
るものとされていたことは前記認定のとおりであるから,P86,P104,P8
3,P107及びP80の上記各供述は多摩地区におけるゼネコンの入札や受注を
巡る状況に合致するものである上,これに反する証拠はP68の前記供述のみであ
って,他にその信用性に疑いを差し挟むべき証拠はないから,番号22の物件に関
する本件審決の認定には合理性が認められるというべきである。
課徴金の算定について4
以上のとおりであるから,原告P1は番号7の物件に関し,原告P4は番号10
の物件に関し,原告P2は番号13の物件に関し,原告P3は番号22の物件に関
し,それぞれその受注価格に影響がある不当な取引制限をしたものというべきであ
る。そこで,その実行期間における売上額を独占禁止法施行令6条の規定により算
定すると,別紙5の売上金額欄記載の金額と認められる(弁論の全趣旨)から,原
告らが納付しなければならない課徴金の額は,本件審決が命じた額となる。
第7結論
よって,原告らの請求をいずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第3特別部
裁判長裁判官一宮なほみ
裁判官杉山正己
裁判官加藤謙一
裁判官田川直之
裁判官石垣陽介

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