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平成25年3月27日判決言渡
平成24年(行ケ)第10354号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成25年2月18日
判決
原告ジェリジーンメディカルコーポレーション
訴訟代理人弁理士齋藤和則
被告特許庁長官
指定代理人荒木英則
同内藤伸一
同中島庸子
同芦葉松美
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
3この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定め
る。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2009-5175号事件について平成24年6月27日にした審
決を取り消す。
第2前提事実
1特許庁における手続の経緯等
原告は,発明の名称を「老齢関連の軟組織の欠陥の増強と修復」とする発明につ
いて,平成12年11月6日(パリ条約による優先権主張1999年11月5日,
米国)を国際出願日とする特許出願をしたが,平成20年12月4日付けで拒絶査
定を受け,平成21年3月9日,これに対する拒絶査定不服の審判を請求(不服2
009-5175号事件)したところ,特許庁は,平成23年8月25日付けで拒
絶理由を通知し,原告は,平成24年2月28日付けで手続補正書を提出した。特
許庁は,同年6月27日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,
その謄本は,同年7月11日,原告に送達された。
2特許請求の範囲
平成24年2月28日付け補正による補正後の本願の特許請求の範囲の請求項1
の記載は次のとおりである(甲17。以下,この発明を「本願発明」という。)。
【請求項1】生体外で複数の哺乳類の細胞が単離された後に,患者の組織の欠陥補
修や増殖のための医用組成物の調整において生体外で単離された哺乳類の複数の細
胞を使用する方法であって,前記欠陥は,括約筋構造の機能不良,脂肪沈着(セル
ライト)の存在,異常に肥大した傷跡,真皮欠陥,皮下欠陥,筋膜,筋肉,皮欠陥,
皮膚薄弱化,皮膚弛緩,火傷,傷,ヘルニア,靭帯破裂,腱破裂,禿頭,歯周の不
調,歯周の病気,及び胸部組織の欠陥により構成されたグループから選択され,前
記方法は,生体外で単離された哺乳類の複数の細胞から成る組成物を,欠陥の場所
の内部又はそれに接近した場所における組織の中に挿入する,ことを特徴とする方
法。
3審決の理由
(1)別紙審決書写しのとおりである。要するに,本願発明は,本願優先権主張の
日前に頒布された刊行物である特表平11-510069号公報(乙1。以下「引
用例」という。)に記載された発明(以下「引用例発明」という。)に基づいて,
当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから,特許法29条2項
の規定により特許を受けることができず,拒絶すべきものであるというものである。
(2)上記判断に際し,審決が認定した引用例発明の内容並びに本願発明と引用例
発明との一致点及び相違点は,以下のとおりである。
ア引用例発明の内容
「笑いじわ(鼻唇ひだ),口周囲のしわ,眉間の溝,陥没瘢痕,口唇形成不全,
又は光線性頬しわである皮膚欠損の治療のための,細胞懸濁物を使用する方法であ
って,皮膚の欠損部位に治療用注入を行うことを特徴とする方法。」
イ一致点
「生体外で複数の哺乳類の細胞が単離された後に,患者の組織の欠陥補修のため
の医用組成物の調整において生体外で単離された哺乳類の複数の細胞を使用する方
法であって,前記方法は,生体外で単離された哺乳類の複数の細胞から成る組成物
を,欠陥の場所の内部における組織の中に挿入する,ことを特徴とする方法。」
ウ相違点
本願発明では,「欠陥」が「括約筋構造の機能不良,脂肪沈着(セルライト)の
存在,異常に肥大した傷跡,真皮欠陥,皮下欠陥,筋膜,筋肉,皮欠陥,皮膚薄弱
化,皮膚弛緩,火傷,傷,ヘルニア,靭帯破裂,腱破裂,禿頭,歯周の不調,歯周
の病気,及び胸部組織の欠陥により構成されたグループから選択され」るのに対し,
引用例発明では,これらに相当するものが「笑いじわ(鼻唇ひだ),口周囲のしわ,
眉間の溝,陥没瘢痕,口唇形成不全,又は光線性頬しわ」である点。
第3当事者の主張
1取消事由に係る原告の主張
審決には,以下のとおり,本願発明と引用例発明の相違点を看過した誤りがあり,
この誤りは結論に影響を及ぼすものであるから,審決は取り消されるべきである。
(1)審決は,本願発明の細胞は,生体外で単離された複数の細胞であり,継代培
養された細胞ではないのに対し,引用例発明の細胞は,細胞培養物内で継代培養さ
れる必要がある点を相違点として認定せず,看過した誤りがある。
(2)審決は,本願発明は,疾患として「括約筋構造の機能不良,脂肪沈着(セル
ライト)の存在,異常に肥大した傷跡,真皮欠陥,皮下欠陥,筋膜,筋肉,皮欠陥,
皮膚薄弱化,皮膚弛緩,火傷,傷,ヘルニア,靭帯破裂,腱破裂,禿頭,歯周の不
調,歯周の病気,及び胸部組織の欠陥」を特定しているのに対し,引用例発明は,
それが具体的に特定されていない点を相違点として認定せず,看過した誤りがある。
2被告の反論
原告の主張は,以下のとおり,理由がない。
(1)原告は,審決が,本願発明の細胞は,生体外で単離された複数の細胞であり,
継代培養された細胞ではないのに対し,引用例発明の細胞は,細胞培養物内で継代
培養される必要があるとの相違点を看過した旨主張する。
しかし,本願発明では,細胞に関して生体外で単離されることまでは限定される
ものの,単離された細胞を継代培養する場合が除外されたわけではない。また,本
願の発明の詳細な説明においても,発明の実施において,線維母細胞の自家移植の
ために使用される培養について,細胞は単層が得られるまで培養された後にトリプ
シンを用いて消化され,培養媒体中で再懸濁してより大きな培養容器に入れられる
ことが記載され,更に培養が行われる旨が記載されているから(【0055】,
【0056】),本願発明で用いられる細胞には,継代培養によって得られたもの
が含まれているものと解される。
したがって,審決の判断には誤りはない。
(2)原告は,審決が,本願発明は,疾患として「括約筋構造の機能不良,脂肪沈
着(セルライト)の存在,異常に肥大した傷跡,真皮欠陥,皮下欠陥,筋膜,筋肉,
皮欠陥,皮膚薄弱化,皮膚弛緩,火傷,傷,ヘルニア,靭帯破裂,腱破裂,禿頭,
歯周の不調,歯周の病気,及び胸部組織の欠陥」を特定しているのに対し,引用例
発明は,それが具体的に特定されていないとの相違点を看過した旨主張する。
しかし,引用例の特許請求の範囲中,請求項1,2及び5には,「ヒト被験者の
皮下または皮膚組織を長期間増加させる方法」として,「下部隣接皮下または皮膚
組織の増加により改善されやすい欠損を識別」し,「下部隣接組織内に有効量の懸
濁物を注入して,組織を増加させる」ことが記載されるとともに,具体的な欠損と
して「しわ,妊娠線,陥没瘢痕,非外傷性の皮膚の陥没,または口唇の発育不全」
が記載されている。そして,上記「懸濁物」とは,請求項1に記載される「自己の
継代皮膚繊維芽細胞の懸濁物」であるから,上記「方法」は引用例発明をその一態
様として包含したものといえる。
また,上記の欠損のうち「非外傷性の皮膚の陥没」とは,皮膚に外傷はなく,皮
膚が陥没した状態を指すものであるが,皮膚は外側から,表皮,真皮,皮下組織の
3層構造になっているから(乙2),「非外傷性の皮膚の陥没」とは,皮膚に外傷
はなく,表皮,真皮,皮下組織のうち,少なくともいずれか一の部分が陥没した状
態を指すものといえる。そして,「陥没」とは「おちこむこと」,又は「表面にく
ぼみができること」を指す語であるから(乙3),引用例の「非外傷性の皮膚の陥
没」とは,皮膚に外傷はなく,表皮,真皮,皮下組織のうち,少なくともいずれか
一の部分において,おちこんだり,くぼみができた状態を指すものといえる。そし
て,皮膚においておちこんだり,くぼみができた状態とは,皮膚の何かが欠けて足
りない状態にあたり,これは欠陥といえる状態であるといえるから,「非外傷性の
皮膚の陥没」は,皮膚に外傷はなく,表皮,真皮,皮下組織のうち,少なくともい
ずれか一の部分に欠陥がある状態にあたり(乙3),これは真皮欠陥,皮下欠陥,
皮欠陥のいずれかにあたるものといえる。
さらに,皮膚において,おちこんだり,くぼみができた場合,その部位の皮膚は
薄くなっているといえ,薄いのであれば弱くなっていることが当然にあるものとい
えるから,「非外傷性の皮膚の陥没」には,皮膚薄弱化が含まれるといえる。そし
て,このような「非外傷性の皮膚の陥没」を治療しようとすることは,上記のとお
り,引用例に記載されており,また当業者にとって自明の課題であるといえる。
したがって,「非外傷性の皮膚の陥没」の治療という当業者に自明の課題を解決
するために,引用例発明の“細胞懸濁物を皮膚の欠損部位に治療用注入する方法”
を「非外傷性の皮膚の陥没」に適用することは,当業者が容易になし得ることとい
え,本願発明における真皮欠陥,皮下欠陥,皮欠陥,又は皮膚薄弱化は,このよう
な「非外傷性の皮膚の陥没」に該当するものである。
なお,引用例発明はしわ等に対して治療効果を示すことを明らかにしており,非
外傷性の皮膚の陥没に対しても同様に効果を示すことが期待できるものといえるか
ら,「非外傷性の皮膚の陥没」が治療されるという点は当業者の予測の範囲内にあ
るものといえ,本願発明が引用例発明からみて格別優れた作用を示すともいえない。
よって,審決の判断には誤りはない。
第4当裁判所の判断
当裁判所は,以下のとおり,原告主張の取消事由には理由がないものと判断する。
1原告は,審決が,本願発明の細胞は,生体外で単離された複数の細胞であり,
継代培養された細胞ではないのに対し,引用例発明の細胞は,細胞培養物内で継代
培養される必要があるとの相違点を看過した旨主張する。
しかし,本願発明は,上記第2の2のとおりのものであって,使用する細胞は,
「生体外で単離された哺乳類の複数の細胞」である。そして,その細胞の培養履歴
については特定がないので,継代培養されたものもされていないものも含むと解す
るべきである。
したがって,原告の主張は,その前提を誤っており,採用できない。
2原告は,審決が,本願発明は,疾患として「括約筋構造の機能不良,脂肪沈
着(セルライト)の存在,異常に肥大した傷跡,真皮欠陥,皮下欠陥,筋膜,筋肉,
皮欠陥,皮膚薄弱化,皮膚弛緩,火傷,傷,ヘルニア,靭帯破裂,腱破裂,禿頭,
歯周の不調,歯周の病気,及び胸部組織の欠陥」を特定しているのに対し,引用例
発明は,それが具体的に特定されていないとの相違点を看過した旨主張する。
しかし,審決の認定した本願発明と引用例発明との相違点は,上記第2の3の
(2)ウのとおりであり,欠陥(欠損)に関する相違点は認定されているから,原告
の主張は失当である。
なお,引用例には,引用例発明における治療の対象である「笑いじわ(鼻唇ひ
だ),口周囲のしわ,眉間の溝,陥没瘢痕,口唇形成不全,及び光線性頬しわ」と
いう欠損以外に,「非外傷性の皮膚の陥没」に対しても,下部隣接組織内に懸濁物
(すなわち,自己の皮膚繊維芽細胞)を注入して修復できることが記載されている
(特許請求の範囲第1,2,5項)。ここで,技術常識及び「陥没」の語義(乙
3)からして,「非外傷性の皮膚の陥没」は,皮膚に外傷はなく,表皮,真皮,皮
下組織のうち少なくともいずれかに欠陥がある状態やその部位の皮膚が薄くなって
いることを意味すると,当業者には理解できるから,本願発明における補修の対象
である「真皮欠損,皮下欠損」,「皮欠損,皮膚薄弱化」に該当するということが
できる。そうすると,引用例には,本願発明における補修の対象となる欠陥につい
ても記載されているといえるから,「本願発明における真皮欠陥,皮下欠陥,皮欠
陥,又は皮膚薄弱化のいずれかに該当する『非外傷性の皮膚の陥没』を改善するた
め,しわ,陥没瘢痕,及び口唇の発育不全にかえて,『非外傷性の皮膚の陥没』に
対して引用例発明を用いてみることは,当業者にとり格別困難な事項とはいえない。
そして,引用例発明はしわ等に対して治療効果を示すことを明らかにしており,非
外傷性の皮膚の陥没に対しても同様に効果を示すことが期待できるものといえると
ころ,本願発明が引用例発明からみて格別優れた作用を示すことは明らかにされて
いない。」とした審決の相違点に関する判断にも誤りは認められない。
したがって,いずれにしても,原告の上記主張は失当である。
第5結論
以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がないから,審決に取り消さ
れるべき違法はない。
よって,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官
芝田俊文
裁判官
岡本岳
裁判官
武宮英子

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