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平成26年4月17日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成25年(ワ)第18665号損害賠償請求事件
口頭弁論終結日平成26年2月18日
判決
東京都港区<以下略>
原告レアック・ジャパン株式会社
同訴訟代理人弁護士田口育男
同補佐人弁理士八木佳子
広島県東広島市<以下略>
被告株式会社大創産業
同訴訟代理人弁護士山田延廣
藤井裕
寺本佳代
工藤勇行
東京都中央区<以下略>
被告補助参加人プラスワン株式会社
同訴訟代理人弁護士野末寿一
坂野史子
主文
原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
被告は,原告に対し,4752万円及びこれに対する平成25年8月23
日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,原告が,別紙被告商品目録記載1~6の各商品(以下「被告商品
1」,「被告商品2」などといい,「被告各商品」と総称する。)を販売す
る被告に対し,①被告各商品の形態は,周知の商品等表示である別紙原告
商品目録記載1~6の各商品(以下「原告商品1」,「原告商品2」などと
いい,「原告各商品」と総称する。)の形態と類似でありその販売は不正競
争防止法2条1項1号の不正競争行為に当たり,②被告各商品は原告各商
品の形態を模倣した商品でありその販売は同項3号の不正競争行為に当たり,
③被告による被告各商品の販売は原告の法的保護に値する営業活動上の利
益を侵害するもので一般不法行為に当たるとして,不正競争防止法4条又は
民法709条に基づく損害賠償金及びこれに対する不正競争行為ないし不法
行為の後の日である平成25年8月23日(訴状送達日の翌日)から支払済
みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
1争いのない事実等(弁論の全趣旨により容易に認定することができる事実
を含む。)
(1)当事者
原告は,プラスチック製容器の企画,デザイン,製造,輸入,販売等を
目的とする株式会社である。
被告は,日用雑貨等の卸売業及び小売業等を目的とする株式会社である。
被告補助参加人は,物品の製造,販売等を目的とする株式会社である
(以下,被告と被告補助参加人を併せて「被告ら」という。)。
(2)原告各商品
原告は,原告各商品及び別紙原告商品目録記載7の商品(以下「原告商
品7」という。)を製造販売している。
(3)被告各商品
被告補助参加人は被告各商品及び別紙被告商品目録記載7の商品(以下
「被告商品7」という。)を製造して被告に販売し,被告は被告商品1~
7を一般消費者に1個当たり100円(税抜価格)で販売している。
2争点及び争点に関する当事者の主張
本件の争点は,(1)原告各商品の形態が原告の商品等表示として周知とい
えるか(争点1-1),(2)原告各商品の形態と被告各商品の形態が類似す
るか(争点1-2),(3)被告各商品が原告各商品の形態を模倣した商品と
いえるか(争点2),(4)被告各商品の販売が原告の法的保護に値する営業
活動上の利益を侵害するか(争点3),(5)被告の賠償すべき損害額(争点
4)である。
(1)争点1-1(原告各商品の形態の商品等表示性及び周知性)について
(原告の主張)
ア原告各商品の形態の特徴
原告各商品は,同一の機能・用途を有する従来品とは顕著に異なる次
のとおりの特徴的形態を備え,その独特な形状から高い自他識別力を発
揮している。それぞれの商品の形態は次のとおりである。
(ア)原告商品1
a割った生卵を収容する略半球体状の収容部と,
b前記収容部の口部の一端に一体的に設けられ,前記収容部の口部
を部分的に塞ぐ蓋部材と,を備え,
c前記蓋部材が,前記収容部に対してヒンジ状に取り付けられ,さ
らに前記蓋部材には,複数の水切り孔が設けられており,
dさらに,前記収容部および蓋部材が樹脂製であり,
e前記収容部および蓋部材が橙色である
ことを特徴とする半熟卵作成具。
(イ)原告商品2
a切断されたレモンを包含する略半球体状のレモン包含体を備え,
前記レモン包含体は,
bレモンの入出を可能とする切欠き部と,
c搾ったレモン果汁を排出する孔部と,
を少なくとも有し,
dさらに前記レモン包含体が,可撓性を有する材質からなり,
e前記レモン包含体が黄緑色である
ことを特徴とするレモン搾り具。
(ウ)原告商品3
a複数の突起が少なくとも一方側面より立設された略円形・平面状
の平面体を備え,前記平面体は,
b水抜き用の複数の貫通した孔部を有し,
cさらに前記平面体が,可撓性を有する合成樹脂材質からなり,
dさらに前記平面体が濃いピンク色である
ことを特徴とするベジタブルブラシ。
(エ)原告商品4
a底面に複数の穴を有する断面略凹状の本体部を備え,
前記本体部は,
b前記底面が略円弧状に構成され,
cさらに前記複数の穴が網目状に設けられ,
d前記本体部が高強度な合成樹脂製であり,
e前記本体部が赤色である
ことを特徴とするニンニク圧砕具。
(オ)原告商品5
aオムレツ作成に要する原材料を収容する木の葉形状の容器体を備
える略細長楕円形状のオムレツ作成具であって,
b前記容器体の開口端の略中央部分を折り曲げ,前記開口端を,係
止手段を介して閉開するようになっており,
cさらに前記容器体が黄色である
ことを特徴とするオムレツ作成具。
(カ)原告商品6
a上端部に開閉口部を有する有天筒状の本体部と,
b前記本体部の下端部に周設され,前記本体部の下端部との間で,
包装袋の一端部を開封して形成された開口部を嵌合して前記包装袋
の開口部を閉じるよう構成された嵌合部材とを有し,
前記本体部の前記開閉口部が,
c開口具合の異なる少なくとも2種類以上の開閉口部からなる
d前記本体部が白色,赤色,ピンク色,橙色,緑色,黄色のいずれ
かであり,
e前記嵌合部材が白色,赤色,ピンク色,橙色,緑色,黄色のいず
れかである
ことを特徴とする乾麺類収容具。
イ原告各商品は,「簡単・便利なキッチンアイテム」の集合体で,ユニ
ークな形態・形状を有するアイデア商品であり,カラフル,コンパクト
でデザイン性が高く,値段も手頃であり,このようなアイデア商品及び
その品揃えは原告各商品が初めてであり,他に類似品や競合品は存在し
なかった。また,原告商品1~5及び原告商品7は,統一されたパッケ
ージで集合展示がされ,売場やカタログを見ればシリーズ商品であるこ
とが分かる。原告各商品は,パッケージ方法や販売方法も相まって一連
の商品群として自他識別力を有する。
ウ原告各商品の形態の周知性
(ア)原告各商品の販売
a原告は,平成23年3月に原告商品6を発売し,同年7月に原告
商品1~5及び原告商品7を「TATSUYAIDEAKIT
CHEN」のシリーズ名で発売した。原告各商品は,その特徴的形
態が需要者間に広く認識され,またたく間にベストセラー商品とな
った。原告各商品は,イオン,西友等の大型量販店を含む全国約2,
800の店舗で販売されている。
(イ)原告各商品の宣伝広告は次のとおりである。
a公式ウェブサイト
平成23年8月1日から,「TATSUYAIDEAKIT
CHEN」の公式ウェブサイトにおいて,原告各商品の商品情報及
び使用方法を,動画を用いて明快かつ丁寧に紹介している。平成2
5年10月11日現在のウェブサイトの総閲覧数は,ユニークユー
ザー数213,890,訪問数228,966,ページビュー35
7,288と相当な数に上り,原告各商品の特徴的形態は全国の需
要者に広く認識されている。
b生協のチラシへの掲載(原告商品1)
(a)日本生活協同組合連合会「キャロット」
2012年41号6,000部平成24年12月18日から掲載
2012年45号7,000部平成25年1月15日から掲載
2012年52号5,650部平成24年12月18日から掲載
2013年11号4,000部平成24年12月18日から掲載
2013年18号2,500部平成24年12月18日から掲載
(b)コープCSネット
981245号
981310号1,000部平成25年5月20日から掲載
(c)コープきんき「くらしのパートナー」
2012年52号1,500部平成25年3月6日より掲載
2013年21号1,500部平成25年8月7日より掲載
c各マスメディアで取り上げられた実績
簡単・便利に楽しく料理ができるおしゃれなアイデア商品として,
別紙「各マスメディアで取り上げられた実績」のとおり,全国的に
著名なテレビ番組,日本経済新聞,大手出版社が刊行する著名な雑
誌等で頻繁に取り上げられ,その特徴的な形態が広く周知されるに
至った。
エ原告各商品の形態は前記ア及びイのとおり高い自他識別力を有するも
ので,原告各商品は前記ウのとおり幅広く販売され,マスメディア等に
取り上げられたから,原告各商品の形態は,遅くとも平成23年9月末
日の時点で商品等表示として周知性を獲得した。
(被告らの主張)
ア原告の主張する原告各商品の形態は,商品の形態を離れた商品のアイ
デアや,商品の形態に関連していても抽象的な特徴にすぎないから,た
とい原告各商品が長期間販売されるなどしても,これらの形態が原告の
商品等表示となることはない。
イ原告の主張する形態が原告の商品等表示として周知性を獲得したとは
いえない。
(2)争点1-2(形態の類似性)について
(原告の主張)
ア被告各商品は,平成24年12月頃から販売されている。
イ被告各商品の形態は,次のとおり,原告各商品の形態と類似している。
(ア)原告商品1と被告商品1の形態は,前記(1)(原告の主張)ア(ア)
a~dの点で一致する。
(イ)原告商品2と被告商品2の形態は,(1)(原告の主張)ア(イ)a~
dの点で一致する。
(ウ)原告商品3と被告商品3の形態は,(1)(原告の主張)ア(ウ)a~
cの点で一致する。
(エ)原告商品4と被告商品4の形態は,(1)(原告の主張)ア(エ)a~
dの点で一致する。
(オ)被告商品5の特徴的形態は,「aオムレツ作成に要する原材料
を収容する二つの容器体を備える略細長楕円形状のオムレツ作成具で
あって,b前記二つの容器体同士がヒンジ状に連結され,前記二つ
の容器体のそれぞれの開口端を向かい合わせて閉じることができるよ
う構成されていることを特徴とするオムレツ作成具。」というもので
ある。
前記(1)(原告の主張)ア(オ)のとおり,原告商品5は,従来のフラ
イパンに代わる簡単・便利なアイデア商品として独自の形態を有する
商品であるところ,略中央部を縦方向に折り畳んで使用する略細長楕
円形状の容器であるという大きな特徴点があり,この点は被告商品5
と一致する。
(カ)原告商品6と被告商品6の形態は,(1)(原告の主張)ア(カ)a~
cの点で一致する。
ウ混同のおそれ
前記イのとおり原告各商品と被告各商品の形態は類似し,さらに,原
告商品7と被告商品7の形態も類似している。
原告商品1~7と被告商品1~7は,形態のみならず,商品のライン
ナップ,カラフルな色彩,パッケージ方法,商品名称,販売方法,使用
説明の内容等についても類似しているから,このような点からも,需要
者が原告の商品と混同するおそれがある。
エよって,被告による被告各商品の販売は,不正競争防止法2条1項1
号の不正競争行為に当たる。
(被告らの主張)
原告各商品と被告各商品の形態には,後記(3)(被告らの主張)アのとお
りの相違点があり,類似とはいえない。また,形態が類似でない以上,混
同のおそれはない。
(3)争点2(形態模倣の有無)について
(原告の主張)
ア原告各商品の形態
(ア)原告商品1
a基本的形態
前記(1)(原告の主張)ア(ア)a~dのとおりである。
b具体的形態
①蓋部材は,略半円板状部分と,開口の略中心部に位置するよ
うにこの略半円板状部分と連続的に設けられた小径半円板状部分と,
を備え,②蓋部材の略半円板状部分の円弧状の部分には,収容部
の開口縁に嵌合する嵌合溝が設けられ,③蓋部材に設けられた水
切り孔は,殆どが円形で等間隔に設けられ,部分的に縦長形状のも
のが蓋部材の上方突端部付近に設けられ,④収容部と蓋部材とは
一体成形されており,直径は約100mm,深さは約50mmであ
り,⑤収容部と蓋部材との間に連結部が形成され,この連結部で
折り返すことにより,蓋部材が収容部に対してヒンジ状に取り付け
られた構成とされ,⑥樹脂製の収容部と蓋部材の色はオレンジ色
である。
(イ)原告商品2
a基本的形態
前記(1)(原告の主張)ア(イ)a~dのとおりである。
b具体的形態
①切欠き部は縦長の略長方形であり,②孔部は,略半球体状
のレモン包含体の下端から突設された略円錐状の突出部の先端に設
けられ,③シリコンレモン搾り全体のおおよその大きさは,縦1
00mm,横80mm,奥行50mmであり,④可撓性を有する
材質はシリコン樹脂で,シリコン樹脂の色は黄緑色である。
(ウ)原告商品3
a基本的形態
前記(1)(原告の主張)ア(ウ)a~cのとおりである。
b具体的形態
①複数の突起が立設された平面体の背面中央に環状の指サック
が設けられ,②平面体の複数の貫通した孔部は,未使用時にフッ
クなどに掛けるための直径約7mmの一つの孔と,排水用の直径約
2mmの9つの孔からなり,③平面体より立設された突起は,高
さが約5mmであり,等間隔置きに平面体の上面に設けられ,④
ベジタブルブラシ全体のおおよその大きさは,直径が100mm,
奥行が40mmであり,⑤可撓性を有する材質はエラストマーで,
エラストマーの色はピンク色である。
(エ)原告商品4
a基本的形態
前記(1)(原告の主張)ア(エ)a~dのとおりである。
b具体的形態
①本体部は,平面視において略円形であり,外形の直径が約8
0mm,略凹状の部分の直径が約45mm,略凹状の部分の上端か
ら下端までの深さ方向の距離が約40mmであり,正面視において
略長方形であり,②本体部の底面の穴は,それぞれが正六角形で
あり,この穴が底面内にハニカム構造状に配設され,各穴の大きさ
は,外接円の直径が約4mmであり,③本体部を構成する合成樹
脂材質はAS樹脂で,AS樹脂の色は赤透明色である。
(オ)原告商品5
a基本的形態
前記(1)(原告の主張)ア(オ)aに加え,前記容器体の開口端の略
中央部分を縦長方向に半分に折り曲げ,前記開口端を,係止手段を
介して閉じるようになっており,閉じた際に,平面視が略細長楕円
形状である。
b具体的形態
①係止手段は,貫通穴とこの貫通穴に嵌る突起部の一対からな
り,容器体の上端部と下端部にそれぞれ一対設けられ,②容器体
と係止手段とは,一体的に樹脂成形にて成形されており材質はシリ
コン樹脂であり,③全体の大きさは,横が約170mm,縦が約
85mm,奥行が約35mmであり,④シリコン樹脂の色は黄色
である。
(カ)原告商品6
a基本的形態
前記(1)(原告の主張)ア(カ)a~cのとおりである。
b具体的形態
①本体部の形状は,平面視において直径80mm程度の略円形
であり,高さが40mm程度であり,正面視において略逆テーパー
状であり,②嵌合部材は,幅15mm程度,厚みが4mm程度の
帯状で,本体部の外周縁に嵌合するように設けられ,③2種の開
閉口部は,口部から取り出される乾麺の分量(100gと150
g)に対応した大きさであり,④それぞれの開閉口部には,開閉
口部を封止する封止体がヒンジ状に連結され,⑤材質は,ポリプ
ロピレンであり,ポリプロピレンの色は,白色,赤色,ピンク色,
橙色,緑色,黄色のいずれかであり,本体部と嵌合部材の色は同色
である。
イ実質的同一性及び依拠性
(ア)従来品には見られない原告各商品の特徴的形態は,上記アの形態
のうち,需要者の最も目に付きやすい基本的形態に表れているところ,
その特徴的形態(基本的形態)について,原告各商品と被告各商品は
共通している。被告らが指摘する部分的な相違点は,原告各商品の骨
格をなす特徴的形態に影響を与えないささいな改変にすぎず,実質的
同一性は否定されない。
(イ)原告各商品と被告各商品の形態が実質的に同一であるのみならず,
原告商品1~5と同じシリーズを構成する原告商品7の形態と被告商
品7の形態も実質的に同一であること,商品に添付された説明書まで
似通っていることなどに照らせば,被告各商品は原告各商品に依拠し
て製作されたことが明らかである。
(ウ)被告らの行為は原告が資金・労力を投下して築いた開発成果にた
だ乗りするものであり,新商品の開発者やデザイナーを保護するとい
う不正競争防止法2条1項3号の趣旨に照らしても,許容されるべき
ものではない。
ウよって,被告による被告各商品の販売は,不正競争防止法2条1項3
号の不正競争行為に当たる。
(被告らの主張)
ア原告商品1と被告商品1は,蓋部の形状,水切り孔の形状及び配置,
蓋部材の突部の有無,把持部の有無並びに収容部の底面の形状の点が,
原告商品2と被告商品2は,突出部の配置,切り欠き部から観察した形
状,側面側から観察した形状及び底面の模様の有無の点が,原告商品3
と被告商品3は,平面体の形状,ブラシの設置位置,指サックの有無,
孔部の配置及び孔部の大きさと個数の点が,原告商品4と被告商品4は,
本体部の形状,把持部の有無,上面側から観察した形状及び側面側から
観察した形状の点が,原告商品5と被告商品5は,容器体の素材と構成,
係止手段の構成,閉じた際の底部,開口端側から観察した形状及び閉じ
た際に側面側から観察した形状の点が,原告商品6と被告商品6は,本
体部の形状,嵌合部材の形状と構成及び本体部と嵌合部材の色の点がそ
れぞれ相違する。
これらの相違点に照らせば,原告各商品の形態と被告各商品の形態は
実質的に同一であるとはいえない。
イよって,被告による被告各商品の販売は,不正競争防止法2条1項3
号の不正競争行為に当たらない。
(4)争点3(法的保護に値する営業活動上の利益の侵害の有無)について
(原告の主張)
被告は,原告各商品及び原告商品7の一連の商品について,形状及び色
合い,シリーズ商品としての組合せ,包装及び陳列等の販売方法並びに説
明書を模倣している。このように商品開発コストをかけることなく,原告
各商品の形態及び販売方法等を模倣し,原告各商品の1個当たりの販売価
格の約5分の1である1個100円という極めて低廉な価格で被告各商品
を全国的に販売したため,原告各商品の売上げは大幅に減少した。
被告による被告各商品の販売は,公正かつ自由な競争原理によるべき取
引社会において,著しく不公正な手段を用いて原告の法的保護に値する営
業活動上の利益を侵害するものであり,一般不法行為が成立する。
(被告らの主張)
形態を模倣した商品の販売に対する保護は不正競争防止法2条1項3号
により図られており,これに該当しない以上,一般不法行為には当たらな
い。
(5)争点4(被告の賠償すべき損害額)について
(原告の主張)
ア逸失利益4320万円
被告の国内における店舗は約3000店であり,被告各商品の販売開
始時である平成24年12月から平成25年6月末日までの間,少なく
とも各商品について各店舗で24個販売されたから,被告が販売した商
品個数は43万2000個である。
被告の行為がなければ原告は原告各商品を上記期間内に同一個数を販
売できた。原告各商品の1個当たりの粗利は100円である。
よって,原告の逸失利益は4320万円であり,原告は,前記(2)若し
くは(3)のとおりの不正競争行為又は前記(4)のとおりの不法行為により,
同額の損害を被った。
イ弁護士費用432万円
(被告らの主張)
争う。
第3当裁判所の判断
1争点1-1(原告各商品の形態の商品等表示性及び周知性)について
(1)原告は,原告各商品の形態は他の同種商品には見られない特徴を有する
ものであり,平成23年9月末日までに原告の商品等表示として周知性を
獲得したと主張する。
ア不正競争防止法2条1項1号が,他人の周知な商品等表示と同一又は
類似の商品等表示を使用することを不正競争行為と定めた趣旨は,周知
な商品等表示の有する出所表示機能を保護するため,周知な商品等表示
に化体された他人の営業上の信用を自己のものと誤認混同させて顧客を
獲得する行為を防止することにより,事業者間の公正な競争を確保する
ことにある。商品の形態は,本来商品の出所を表示する目的を有するも
のではないから,このような商品の形態が同号にいう「商品等表示」に
該当するためには,商品の形態が外観上他の同種商品とは異なる顕著な
特徴を有しており,かつ,その形態が特定の事業者によって長期間独占
的に使用され,又は短期間であっても強力な宣伝広告を伴って使用され
ることなどにより,需要者においてその形態を有する商品が特定の事業
者の出所を表示するものとして周知になっていることを要すると解され
る。
イこれを本件についてみると,後掲各証拠(以下,枝番号のある証拠に
ついて枝番号を記載しない場合はすべての枝番号を含む。)及び弁論の
全趣旨によれば次の事実が認められる。
(ア)原告各商品の発売(甲1~6の各1,22,28,29,46~
51の各1)
原告は,平成23年3月頃に原告商品6を発売した。また,同年7
月頃に原告商品1~5及び7を,台所用品のシリーズとして「TAT
SUYAIDEAKITCHEN」というシリーズ名称で,包装
に広く知られたシェフである川越達也の顔写真及び「TATSUYA
/IDEA/KITCHEN」の標章を付した上,発売した。
原告各商品は,全国の大手量販店,食品スーパーマーケット及びホ
ームセンターを含む2700を超える店舗で取り扱われている。
原告各商品は,電子レンジを用いて半熟卵を作ること(原告商品
1),手でレモンを搾ること(同2),野菜を洗浄すること(同3),
ニンニクをみじん切りにすること(同4),電子レンジを用いてオム
レツを作ること(同5)及び開封したパスタの袋にかぶせて所定の量
のパスタを取り出せるようにすること(同6)を目的とする台所用品
であり,それぞれの機能を発揮させるとともに,カラフルかつコンパ
クトなものとしてデザインされている。
(イ)原告各商品についての宣伝広告等(甲30~45)
a平成23年8月から,「TATSUYAIDEAKITCH
EN」の公式ウェブサイトを開設し,原告商品1~5及び7の紹介,
動画による使用方法の説明等を掲載している。
b平成24年12月18日以降,生協のチラシに原告商品1及び5
が掲載され,組合員等に配布された。
c平成23年12月以降,別紙「各マスメディアに取り上げられた
実績」のうち「備考」欄に証拠番号の記載があるものについて,
「媒体名」欄記載の媒体に,「掲載日」欄記載の日に,「商品名」
記載のとおりの原告各商品に関する記事及び写真が掲載された。
ウ以上を前提に検討すると,原告各商品の発売時から原告が周知の商品
等表示性を獲得したと主張する平成23年9月末日までの原告各商品の
販売期間は,原告商品6については約半年,その余の商品については約
2か月であるにとどまり,原告が長期間独占的に原告各商品の形態を使
用していたとはいえない。また,原告の主張するチラシ掲載や雑誌掲載
等の多くは平成23年9月末日より後のものであり,同日までのウェブ
サイトの閲覧者数等も明らかではないから,これらは同日までに周知の
商品等表示性を獲得したとの原告の主張を裏付けるには足りない。さら
に,被告が被告各商品の販売を開始したとされる平成24年12月まで
の宣伝広告等の実績及び原告の主張するウェブサイトの閲覧者数を考慮
するとしても,まず,原告各商品のうちマスメディアに取り上げられた
のは原告商品1,5及び6のみであるというのであるから(別紙「各マ
スメディアに取り上げられた実績」参照),原告商品2~4については
その形態が周知であると認めることはできない。また,原告商品1が雑
誌に取り上げられたのは1回のみであり(甲42),周知性を認めるこ
とは困難である。さらに,原告商品6は平成23年12月から平成24
年11月までの間に7回,原告商品5は同年3月から8月までの間に4
回,それぞれ雑誌に取り上げられているが,いすれも他社の商品が同一
頁で紹介されていること,パスタの保存やオムレツの作成の簡易化とい
う機能面を重視した記事となっていること(甲33~42)からすれば,
読者に対してこれら商品の形態を印象付けるものとは解し難い。これに
加え,これらの雑誌の発行部数は明らかにされていないこと,原告が上
記ウェブサイト以外に原告各商品の宣伝広告を行ったとの立証がないこ
とを勘案すると,原告各商品の形態が客観的に他の同種商品とは異なる
顕著な特徴を有しているとしても,平成23年9月末日ないし被告各商
品の販売開始までの間に,原告の商品等表示として周知になったと認め
ることはできない。
(2)さらに,原告各商品の形態と被告各商品の形態の類似性について検討し
ても,後記2(1)イ及びウにおいて認定判断するとおり,原告各商品と被告
各商品の形態には明らかな相違点が複数あり,需要者に対し異なる印象を
与えるものである。したがって,原告各商品と被告各商品の形態が類似す
るということはできない。
(3)よって,その余の点を判断するまでもなく,不正競争防止法2条1項1
号に基づく原告の請求は理由がない。
2争点2(形態模倣の有無)について
(1)原告は,被告各商品は原告各商品の形態を模倣した商品であると主張す
る。
ア商品の形態とは,需要者が通常の用法に従った使用に際して知覚によ
って認識することができる商品の外部及び内部の形状並びにその形状に
結合した模様,色彩,光沢及び質感をいい(不正競争防止法2条4項),
模倣とは,他人の商品の形態に依拠して,これと実質的に同一の形態の
商品を作り出すことをいう(同条5項)。そして,同条1項3号が他人
の商品の形態を模倣することを不正競争行為と定めたのは,先行者が商
品形態の開発のために投下した費用・労力の回収を可能にすることによ
り,事業者間の公正な競争を確保するためであると解される。このよう
な同号の趣旨に照らし,問題とされている商品の形態と他人の商品の形
態との間に需要者に識別可能な相違点がある場合には,その相違点がわ
ずかな改変に基づくもので,商品の全体的形態に与える変化が乏しく,
商品全体から見てささいな相違にとどまると評価されるときは格別,そ
うでない限り模倣に当たらないというべきである。
イ前記争いのない事実等,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,原告
各商品及び被告各商品の形態は別紙商品対比図のとおりであることが認
められ,これらを対比すると次のとおりである。
(ア)原告商品1と被告商品1(甲9,10,乙1)
両商品は半熟卵作成具であり,その形態は,①割った生卵を収容
する略半球体状の収容部と,②収容部の口部の一端に一体的に設け
られ,収容部の口部を部分的に塞ぐ蓋部材とを備え,③蓋部材が前
記収容部に対してヒンジ状に取り付けられ,④蓋部材には複数の水
切り孔が設けられており,⑤収容部及び蓋部材が樹脂製であるとい
う点で共通する。
他方,両商品の形態は,少なくとも,a蓋部材の形状(略半円板
状か略円板状であるか。なお,前者が原告各商品のもの,後者が被告
各商品のものである。以下同じ。),b水切り孔の形状及び配置
(ほとんどが円形で略半円板状の蓋部材の周縁部を中心に略U字状に
等間隔に配置されているか,ほとんどが面取りされた長方形で蓋部材
の略半分に略半円形状に平行に3段に配置されているか),c蓋部
材の突部の有無(湯きりの際に蓋を抑えるための小径の半円板状の突
部が開口部の中心部付近に設けられているか否か),d把持部の有
無(収容部の開口部の周縁部に二つの小径の半円板状の把持部が設け
られていないか,設けられているか),e収容部の底面の形状(平
面で脚部が設けられていないか,球面状で底面側に略三角板状の5つ
の脚部が設けられているか)の点で相違する。
(イ)原告商品2と被告商品2(甲11,12,乙2)
両商品はレモン搾り具であり,その形態は,①切断されたレモン
を包含する略半球状のレモン包含体を備え,②レモン包含体はレモ
ンの入出を可能とする切り欠き部と,③搾ったレモン果汁を排出す
る孔部が開口された略円錐状の突出部とを有し,④レモン包含体が
可撓性を有する材質からなるという点で共通する。
他方,両商品の形態は,少なくとも,a突出部の配置(レモン包
含体の側面部に底面に対して水平方向に設けられているか,レモン包
含体の底面の中央部に底面に対して垂直方向に設けられているか),
b切り欠き部から観察した形状(切り欠き部の側から観察すると涙
形であるか,円形であるか),c側面側から観察した形状(半円形
又は涙形を半分に切断した形状であるか,キノコ形であるか),d
底面の模様の有無(レモン包含体の底面にレモンの断面の模様が凹凸
で描かれているか否か)の点で相違する。
(ウ)原告商品3と被告商品3(甲13,14,乙3)
両商品はベジタブルブラシであり,その形態は,①複数の突起が
立設された略円形・平面状の平面体を備え,②平面体は水抜き用の
複数の貫通した孔部を有し,③平面体が可撓性を有する合成樹脂材
質からなる点で共通する。
他方,両商品の形態は,少なくとも,a平面体の形状(円板状か,
ペイズリー形か),bブラシの設置位置(平面体の片面か,両面
か),c平面体の背面中央の円筒状の指サックの有無(指サックが
設けられているか,存在しないか),d孔部の配置(平面体の周縁
付近に複数設けられているか,平面体の全体に略等間隔で配置されて
いるか),e孔部の大きさと個数(小さい穴9個と大きい穴1個で
あるか,等しい大きさの穴12個であるか)の点で相違する。
(エ)原告商品4と被告商品4(甲15,16,乙4)
両商品はニンニク圧砕具であり,その形態は,①底面に複数の穴
を有する断面略凹状の本体部を備え,②本体部は底面が略円弧状に構
成され,さらに複数の穴が網目状に設けられ,③本体部が高強度な
合成樹脂製である点で共通する。
他方,両商品の形態は,少なくとも,a本体部の形状(ドーナツ
状か,皿状か),b把持部の有無(本体部に二つの突出した把持部
を備えていないか,備えているか),c上面側から観察した形状
(円形か,舟形か),d側面側から観察した形状(略長方形状か,
皿状か)の点で相違する。
(オ)原告商品5と被告商品5(甲17,18,乙5)
両商品の形態は,①原材料を収容する容器体を有し,②容器体
の開口端を長手方向に折り曲げ,開口端を係止手段を介して閉じて使
用するオムレツ作成具であるという点で共通する。
他方,両商品の形態は,少なくとも,a容器体の素材と構成(柔
らかいシリコンからなる中央に折り目を設けた周縁部を有する木の葉
形の部材一つからなるか,容易に変形しないポリプロピレン製のバナ
ナ形の底部材と蓋部材からなり,両部材が略円筒状の連結部によって
摺動自在に連結されているか),b係止手段の構成(容器体の周縁
部の四隅に設けられた円形の穴とこれに対応する凸部からなるか,容
器体の両部材の中央部に突出して設けられた一組の係合部材からなる
か),c閉じた際の底部(係止手段側が上方に折り目が底面に位置
する構成となっているか,係止手段が側面に底部材が底面に位置し底
部材には略長方形板状の4つの脚部が設けられているか),d開口
端側から観察した形状(木の葉形か,二つのバナナ形の部材が対向し
て配置されているか),e閉じた際に側面側から観察した形状(舟
形か,上下に二分割された略長方形に脚部が突出した形であるか)の
点で相違する。
(カ)原告商品6と被告商品6(甲19,20,乙6)
両商品は乾麺類収容具であり,その形態は,①上端部に開閉口部
を有する有天筒状の本体部と,②本体部の下端部に周設され,本体
部の下端部との間で,乾麺の包装袋の一端部を開封して形成された開
口部を固定して包装袋の開口部を閉じるよう構成された嵌合部材とを
有し,③本体部の開閉口部が開口する面積の異なる2種の開閉口部
からなる点で共通する。
他方,両商品の形態は,少なくとも,a本体部の形状(上端部側
に向かって直径が徐々に拡大して広がっていく略スカート形であるか,
直径が一定の円筒状であるか),b嵌合部材の形状と構成(下端部
の外面に嵌合するリング状の嵌合部材により乾麺の袋を固定する構成
であるか,下端部の内側の外周面に設けられたねじ山に嵌合する本体
部と略同径の円筒状の嵌合部材をはめ込むことによって乾麺の袋を固
定する構成であるか),c本体部と嵌合部材の色(両者の色が同色
か否か)の点で相違する。
ウ以上によれば,原告各商品と被告各商品の形態は,基本的な部分(上
記イに丸付き数字で摘示した部分)に共通点があるものの,これらの点
は,電子レンジで半熟卵を作る,レモンを搾るなどの機能を果たすため
にそのような形態が選択されたとみることができる。他方,両商品には,
例えば,原告商品1と被告商品1であれば蓋部材の形状や底面側の脚部
の有無,原告商品2と被告商品2であれば半円形がキノコ形かという側
面側から観察した形状,原告商品3と被告商品3であれば平面体の形状
及び指サックの有無など,具体的な形態において一見して識別すること
のできる明らかな相違点が複数ある。そして,これらの相違点は全体的
形態に与える変化が乏しいささいな相違にとどまるとは到底いえないも
のであるから,両者の形態が類似するとはいえないと判断するのが相当
である。
したがって,被告各商品が原告各商品の形態を模倣した商品であると
いうことはできない。
エこれに対し,原告は,被告各商品の販売を許容することは新商品の開
発者を保護するという不正競争防止法2条1項3号の趣旨に照らし許さ
れないと主張するが,同号は商品の具体的形態を保護するものであって
商品の機能やアイデアを保護するものではないから,具体的形態に大き
な相違点があると認められる本件において,同号の不正競争行為を認め
ることはできない。
(2)よって,その余の点を判断するまでもなく,不正競争防止法2条1項3
号に基づく原告の請求は理由がない。
3争点3(法的保護に値する営業活動上の利益の侵害の有無)について
(1)原告は,被告各商品の販売は,原告各商品の形状及び色合いのほか,シ
リーズ商品の組合せ,シリーズ商品としての包装及び展示等の販売方法並
びに説明書を模倣し,開発コストをかけずに安価な価格でされたもので,
原告の法的保護に値する営業活動上の利益を侵害し,一般不法行為に当た
ると主張する。
そこで検討すると,先行商品の形態に依拠して後発商品を作り出し,こ
れを先行商品より安価で販売することは,意匠法及び不正競争防止法を含
む法令に反しない限り通常は事業者の正当な経済活動の一環であるから,
公正な競争として社会的に許容される限度を超えるような事情がない限り,
一般不法行為に当たらないというべきである。
これを本件についてみると,被告各商品それぞれの形態につき不正競争
防止法所定の周知の商品等表示の使用や形態の模倣が認められないことは
前記1及び2のとおりである。そして,シリーズ商品としてみた場合でも,
シリーズを構成する商品の種類や機能が共通しているものの,原告が原告
商品1~5及び7を「TATSUYAIDEAKITCHEN」と名
付け,有名シェフの顔写真を包装に付して販売しているのに対し,被告各
商品においてはこれに類する名称や包装を用いてはいないから(甲1~6,
22),全体としてみれば,被告らが原告の販売方法を模倣したとみるこ
とはできない。また,個別に販売される商品を一連のシリーズ商品として
包装し集合的に展示するのはありふれた販売方法であって,本件における
被告の展示方法(甲8)に違法性は認められない。さらに,説明書につい
てみても,原告各商品と被告各商品の各包装の裏面の記載内容を比較する
と,商品の取扱方法及び使用上の注意事項として同一ないし類似する記載
があるということができるが,これは両製品の用途及び素材が共通するこ
とによるものと解される。むしろ,被告各商品には使用方法として原告各
商品と異なるイラストが描かれており,説明文の相当部分の表現が異なっ
ていることからすれば,被告らが原告の説明書を模倣したということはで
きない。
以上によれば,原告の主張する点を勘案しても,被告各商品の販売につ
き,公正な競争として社会的に許容される限度を超える違法性があるとは
認められない。
(2)よって,その余の点を判断するまでもなく,一般不法行為に基づく原告
の請求には理由がない。
4以上のとおり,原告の請求はいずれも理由がないから,これを棄却するこ
ととし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官長谷川浩二
裁判官清野正彦
裁判官髙橋彩
(別紙)
被告商品目録
1半熟卵ボウル
2柔らかレモン絞り
3野菜ブラシ
4ガーリッククラッシャー
5オムレツパン
6パスタキャップ
7おろし付きまな板
(別紙)
原告商品目録
1レンジで半熟卵ボウル
2シリコンレモン絞り
3ベジタブルブラシ
4ガーリッククラッシャー
5クイックオムレツ
6パスタキャップ
7おろし付きカッティングボード

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