弁護士法人ITJ法律事務所

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          主     文
      本件控訴を棄却する。
          理     由
 本件控訴の趣意は,弁護人光廣龍夫が提出した控訴趣意書に,これに対する答弁
は,検察官石橋基耀が提出した答弁書に,それぞれ記載されているとおりであるから,
これらを引用する。
第1 事実誤認の論旨について
Ⅰ 原判決認定の罪となるべき事実の要旨 
(1) 被告人は,A及びBことCと共謀の上,DことE(当時32歳。)及びFことG(当時33
歳。)の両名を殺害して,Eが経営し,Gが店長を務めるSMクラブ「H」及びその系列店
店内で同人らが所有又は管理する財物を強取しようと企て,
① 平成7年12月21日午前10時30分ころ,前記「H」事務所である東京都品川区内
の本件マンション907号室において,被告人及びAが,Gに対し,その頭部を斧やハン
マーで殴打し,その胸部をバタフライナイフで突き刺すなどし,その場で同人を胸部刺創
による心損傷により死亡させて殺害したが,その財物を強取するには至らなかった。
② 同日午後5時過ぎころ,被告人が,Eを電話で前記907号室に呼び出した上,同所
において,同人の頭部をハンマーで殴打し,その背部をバタフライナイフで突き刺し,そ
の頸部に紐を巻いて絞めつけ,この間CがEの体を押さえ付けるなどして,その場でEを
背部刺創による肺損傷により死亡させて殺害した上,同人所有の現金約20万円在中
の財布1個,普通乗用自動車の鍵等を強取した。
(2) 被告人は,A及びCと共謀の上,E及びGの各死体を遺棄することを企て,同日,C
及び被告人が,布団袋に入れたGの死体を本件マンション907号室から902号室に運
び,翌22日,A及び被告人が,布団袋に入れたEの死体を907号室から902号室に運
び込み,その後,被告人がIらに各死体の処分を依頼するなどして,C及び被告人のほ
か4名と順次共謀の上,各死体をコンクリート詰めにした上,平成8年1月21日,茨城県
鹿島郡内の海岸まで運搬して,岸壁から海中に投棄し,もって,各死体を遺棄した。
(3) 被告人は,J及びKと共謀の上,平成7年12月25日ころ,東京都渋谷区内のE方
において,定期預金通帳等在中の耐火金庫1個を窃取した。
(4) 被告人は,Iと共謀の上,(3)の窃取にかかるE名義の定期預金通帳等を使用して,
預金解約名下に現金等を騙取しようと企て,平成8年1月5日から同月9日までの間に,
前後3回にわたり,銀行等に対しE名義の定期預金払戻請求書等を偽造して提出し,現
金合計2502万7548円及び額面500万円の小切手3通を騙取した。
(5) 被告人は,Aと共謀の上,同年8月29日,A方において,回転弾倉式けん銃1丁を
これに適合する実包23発と共に保管して所持した。
Ⅱ 所論と検討
 所論は,要旨,次のように主張する。
ⅰ 前記Ⅰ(1)①掲記の犯行については,被告人に財物奪取の目的はなかったから, 
単純殺人罪が成立するにとどまり,強盗殺人罪は構成しない。
ⅱ 前記Ⅰ(3)掲記の犯行は,Eの死亡時から既に4日経過した後に,殺害場所か ら離
れた場所で行われたから,占有離脱物横領罪が成立するにとどまり,窃盗罪 は成立し
ない。
ⅲ 原判決は,被告人に完全責任能力を認めているが,被告人は,本件各犯行当時, 
心身耗弱の状態にあった。
 そこで,以下,検討する。
1 関係各証拠によれば,以下の事実が認められる。
(1) 被害者Eは,平成5年ころから,Dと名乗って,男性客に女性従業員相手にいわゆる
SMプレイをさせるクラブ「H」を経営し,平成7年12月当時には,本件マンションの90
2,907,602号室などを含む,東京都品川区a所在及び港区b所在のマンション数か
所の部屋を賃借して,「H」のほか,「L」「M」などの店名を付けた系列店も抱えてて,手
広く営業していた(以下,特に断らない限り,系列店も含めて「H」という。)。
(2) 被告人は,平成6年10月ころ,新聞の求人広告に応募して,「H」の従業員となり,
Nと名乗って働くようになったが,当時は,従業員が少なかったこともあり,同店の経営
は,主にEと被告人の二人だけで行っており,Eから,「売上げが伸びたら,それに応じた
歩合を付けるし,新店舗ができたらその店を任せる。」などと言われていた。
 そこで,被告人は,店の売上げを伸ばすための努力を重ね,その結果,従前,月額60
0万円ないし800万円程度であった店の売上げは,平成6年12月には1000万円を超
えるようになったが,Eの前記の約束を履行してもらうことはできなかった。
 また,平成7年初めころ,被告人は,Eから,「H」の1日の利益が一定の基準額を超え
たら日当を5000円増額する旨の約束を得たものの,実際には,余り増額してもらえな
かった。
 そのうち,Eは,被告人を店長に昇格させないまま,同年2月ころ,それまで「H」に客と
して出入りしていたGを同店の店長として雇い入れ,同人は,Fと名乗って,被告人の上
司として働くようになった。
 その後も,被告人は,Eに対し,再三にわたり,給料の増額等を申し入れたが聞き入れ
てもらえず,不満を募らせた。
 被告人は,Eに対するこのような不満等から,同年8月ころ,同僚従業員であるKらと
語らって,強盗に奪われたと偽って,同店の売上金約90万円をくすねたこともあった。
(3) また,被告人は,Gに対しても,後から入っていながら自分より地位が上で,高給を
得ていることや従業員らに対する態度が悪いこと,女性従業員に,店で禁止されている
売春をさせてその客から別料金を取るなどしていたことに強い反発心を抱いていた。そ
して,このようなGの問題行動をEに告げたこともあったが,相手にされなかった。
(4) そのような中で,同年8月,被告人と双生児である兄Aが,被告人の勧めで,「H」に
従業員として入り,Oと名乗って働くようになり,同年9月ころには,Cが,新聞の求人広
告に応募して,「H」でBと名乗って働くようになった。
(5) 被告人は,Eの前記のような態度を不満として,同年9月ころ,独立して自らSMクラ
ブを経営したいと考えるようになり,この考えをA,C及びKに持ちかけ,共同してSMクラ
ブを新規開業する構想を話し合うなどしたが,資金の調達が困難であったことや,仮に
開業できても,Eの営業妨害に遭うのではないかなどと考え,断念するに至った。
 そして,同年11月ころ,被告人が,Eに対し,再び,報酬等に関する前記の約束の件
を持ち出したところ,同人から「文句があったら辞めてもよい。」旨,冷淡に突っぱねられ
たため,これまで鬱積していた不満を一気に募らせた。
 被告人は,以上のように,独立の計画が頓挫したことやEに対し待遇や経営上の不満
を募らせたこと,Gに対する反発などから,この上はEとGを殺害して「H」を乗っ取ること
を考えるようになり,間もなくAにこの話を持ちかけた。これに対して,Aも,Gの女性従業
員に対する扱いの悪さを見るなどして,同人に悪感情を抱くようになっており,また,被
告人から,Eとの間の前記やりとりを聞くにつけ,同人に対しても良い感情を持てなくなっ
ていたこともあり,これに同調した。
(6) しかし,被告人は,A共々,比較的小柄であることから,自分たち兄弟だけでは,体
格に優り,格闘技の心得のあるEや,巨漢のGを殺害することは困難と考え,同年12月
に入ってから,先に独立の話を持ちかけたことのあるCに協力を求め,その応諾を得
た。
(7) 当初,被告人は,殺害の凶器としてけん銃を使用しようとして,後に死体の遺棄を請
け負わせた前記Iに入手のあっせんを依頼したが不調に終わったので,Aと共に,凶器と
して斧やハンマー,死体遺棄用の布団袋等を買い揃えるなどして準備を整え,実行の機
会を窺っていた。
(8) 同年12月21日午前10時30分ころ,被告人が,「H」907号室に出向いた際,偶
々,遅番の勤務を明けたGが,同室の待合室にあるソファーで熟睡しているのを目にし
て,この状況で襲えば,Aと二人だけで殺害を実行できると考え,当時,602号室で「H」
の系列店「L」の受付をしていたAを呼び寄せて,準備しておいた前掲凶器を持ち出し,
最初にAが,横臥しているGの頭部を斧で殴り付け,次いで被告人が,ハンマーで頭部
を殴り付け,続けてAが,上半身をバタフライナイフで突き刺し,被告人が,紐で首を締
めるなどしてGをその場で殺害した。そして,Aは,一旦602号室に引き上げて,「L」の
受付の仕事に戻った。
(9) 被告人は,同日午前11時30分ころに907号室に出勤してきたCと共に,Gの死体
を布団袋に入れて「H」の事務所のある902号室に運び込み,さらに,Aも交えた3人
で,同死体を同室のユニットバス内に運び入れた。
(10) その後,Aは,再度602号室に戻り,被告人は,Cと共に907号室に引き返し,同
人と一緒に,同室内のソファーやカーペット等に付いたG殺害時の血を拭き取るなどの
後始末をしたが,被告人は,急にGがいなくなると,Eをはじめ周囲に不審を抱かれるこ
とを懸念し,Gを殺害したからには,できるだけ早くEも殺害する必要があると考え,同日
中に実行することに決めた。そこで,Eに電話をかけ,「H」にSM嬢になろうとする可愛
い女性が面接に来ているなどと嘘を言って,同人をおびき寄せるとともに,602号室の
Aに対し,「これからEが来るから,同人の殺害を手伝ってくれ。」とその殺害の実行に加
担するよう申し向けたが,Gの殺害で精神的に疲弊しきったAからは「勘弁してくれ。」な
どと言われたため,Cと二人だけでE殺害を実行することを決意した。
 そして,被告人は,Cの面前でハンマーの素振りをするなど,犯行の予行演習をしなが
ら,Eの到着を待ち,同日午後5時ころ907号室にやって来たEを,面接に来た女性が
奥の待合室にいるように装っておびき入れ,被告人がその背後から後頭部をハンマー
で殴り付け,CがもがくEの身体を押さえ付ける間に,更に被告人がバタフライナイフで
多数回背中を突き刺し,紐で頸部を絞め,最後に斧で殴るなどの攻撃を加えて同人をそ
の場で殺害した上,同人所携の20万円在中の財布,乗用車の鍵,同人の居宅マンショ
ンの鍵などを奪った。
(11) 被告人は,E殺害後,その後始末ができないうちに907号室に「H」の顧客が来店
することを懸念して,Aに対し,一時閉店の張り紙を出しておくように指示した。被告人
は,その後,907号室の犯跡を消すため掃除などをし,翌朝,Aと共にEの死体を902
号室に運び込んだ。
(12) 被告人らは,907号室での営業を翌22日だけ休むこととし,その他の部屋での営
業は,そのまま平常どおり行い,いずれも「H」の従前の備品類や従業員をほとんどその
まま使って,平成8年8月下旬に被告人らが逮捕されるまで経営を続けた。
(13) 被告人は,Eが「H」の経営に関わっていた痕跡をなくして犯跡を隠蔽しようと考え
て,同年12月24日深夜,東京都渋谷区内のマンションのEの住居に,同人殺害時に奪
った鍵を使って入り込み,H関係の書類等を運び出し,さらに,翌25日,死体遺棄を依
頼したIらに報酬として支払う資金を得るため,同所を物色して耐火金庫を発見したが,
重過ぎて運び出せずに一旦引き上げ,同日午後9時ころ,「H」の従業員のJに依頼し
て,同金庫を運び出させた。被告人は,この金庫を本件マンション707号室で破壊して,
在中の本件定期預金通帳等を取り出し,以後,これらを使用して,銀行等から3回にわ
たり,現金合計2502万7548円及び額面500万円の小切手3通を騙取した。
 以上の事実が明らかであり,これらの事実については,被告人も基本的に争っていな
い。
2 所論について
ⅰ 強盗殺人の財物奪取目的について
 所論は,被告人がGを殺害したのは,同人に対する怒りと嫉妬心や,「H」の経営を乗
っ取るためであって,財物を強取する意図はなかったと主張する。
 そこで按ずるに,前記1掲記の認定事実によれば,E及びGを殺害するについて,被告
人らの主たる目的は,Eの経営する「H」の乗っ取りにあったことは明らかであるところ,
これは,E,Gの両名を殺害して,同店の名称や顧客,従業員等を引き継ぐことはもちろ
んのこと,それだけではなく,同店の営業用備品,保管金等も利用しようとしたと見るの
が自然かつ合理的であって,現に,被告人らは,殺害の犯行後,引き続きこれらの金品
をそのまま自分たちのもののように使って「H」を営業していたのである。したがって,両
名を殺害して「H」を乗っ取ろうと謀議する段階において,被告人らには,EやGの所有な
いし管理に関わる店の備品や保管金等を奪取する意図があったものと認められる。
 また,盛業中の「H」を乗っ取るという経済的利得を目的にE,Gの両名を殺害しようとし
た被告人らが,殺害時に,個人の携帯所持する金銭等をあえて強取の対象から除外す
るような特段の事情やその意思の表れは何ら見当たらないのであり,しかも,被告人
は,当審公判において,犯行の計画段階で,Eの個人財産も奪うことを予め考えていた
旨供述しているのであって,現に,G殺害の約6時間半後に行われたE殺害の際には,
同人の所持していた現金約20万円在中の財布,乗用車の鍵,マンション居室の鍵を同
人から奪取しているのである。このようないきさつに照らしても,被告人には,G,E殺害
時に,同人らが金品を携帯所持していた場合には,これをも奪う意図があったと認めて
誤りない。
 以上によれば,被告人には,EだけでなくGについても,原判示のとおり,店内で同人
が所有ないし管理する金品を,その身に付けているものも含め,奪取する目的があった
と認めるのが相当であって,原判決に事実の誤認は認められない。
ⅱ Eの居室における窃盗について
 所論は,被告人がE名義の定期預金通帳等在中の耐火金庫を同人の居室で取得した
時点では,その所有者であるEは既に死亡しており,他に占有者も存在しなかったので
あるから,占有離脱物横領罪が成立するにとどまり,窃盗罪は成立しない旨主張する。
 検討するに,前記認定のとおり,被告人は,平成7年12月21日午後5時過ぎ,東京
都品川区a所在の本件マンション907号室内でEを殺害後,同人が「H」に関わっていた
痕跡をなくして,犯跡を隠蔽しようと考えて,殺害から3日目の同月24日深夜,都内渋
谷区cd丁目e番f号所在のg106号室のEの居室に殺害時に奪った居室ドアの鍵を使っ
て入り込み,物色して「H」関係の書類等を運び出し,翌25日には,前記居室内を物色
して本件金庫を発見し,同日午後9時ころ,共犯者に指示して同所からこの金庫を運び
出している。
 このように,被告人は,新たな犯意に基づいて,E殺害から3日目に,共犯者と共謀の
上,品川区内の殺害場所から直線距離で数キロメートルの渋谷区内のEの居室のドア
を,同人から奪った鍵で開けて入り込み,前記書類を持ち出し,その翌日には本件金庫
を持ち出したものである。
 当時,Eは,前記居室に独りで生活していたのであり,その内部は,被告人が入り込ん
で物色するまで,生前とほとんど変わりのない状態にあったこと,被告人は,Eを殺害し
て奪取した鍵を用いてその居室内に入り込み,本件金庫を持ち出したこと,Eの殺害行
為と金庫の持ち出し行為の時間的,場所的懸隔が前記の程度に止まることなどの事情
にかんがみると,本件金庫の持ち出し当時,Eの居室内の財物は,未だその占有下に
あるものとして,刑法上保護されるべきであり,したがって,その持ち出し行為は,原判
決認定のとおり,窃盗罪を構成すると解するのが相当である。
ⅲ 責任能力について
 所論は,被告人は,頭部に形態的異常があり,子供のころ父親から受けた虐待,母と
祖母による過保護等の家庭環境の影響などから,境界性人格障害,解離性障害等の
精神障害を持つに至り,本件各犯行当時は,精神的に躁状態にあり,心神耗弱の状態
にあった旨主張する。
 そこで,検討する。
 被告人の本件各犯行に至る経緯は,前記のとおり,「H」の従業員であった被告人の
独立計画の挫折や経営者Eに対する待遇上の不満,店長Gに対する反感などを背景
に,「H」の経営乗っ取りを企て,そのために被害者両名を殺害したというものであって,
犯意形成の過程にはそれなりの合理性が認められ,十分に理解可能なものである。
 そして,犯行とその前後の被告人の具体的行動について検討するに,①準備段階に
おいては,Aと共に,適当な凶器を吟味・選択し,あらかじめ死体遺棄に用いる布団袋等
も準備するなど,周到かつ合理的な行動を積み重ね,②犯行時においても,G殺害時に
は,仮眠中の同人を目の前にして,何度も斧を振り上げては躊躇し,結局,Aに代わっ
てもらったいきさつがあり,また,その後のGに対する攻撃態様もそれなりに合理的なも
ので,行動に破綻はなく,③Gを殺害した以上は,犯行発覚を防ぐ必要から,その日のう
ちにEも殺害することを決め,これに用いる凶器は,既にG殺害時に使用して血液が付
着し,滑り易くなっていたため,洗浄するなどして,冷静に準備を整え,④その後,前記
のとおり,Eに対し,可愛い女性がSM嬢の採用面接に来ているなどと,言葉巧みに欺
いて,入口には,来訪した女性のものに見立てて女物の靴を置いておくなど,周到に偽
装工作を施して,Eをおびき寄せ,⑤また,G殺害時には,同人が仮眠中であったため斧
を用いたのに対し,おびき寄せたEに対しては,攻撃を仕掛けるに当たって,斧に比して
目立ち難いハンマーとナイフを用いることにするなど,凶器の使い分けを行い,⑥E殺害
後,遅番の従業員が来る時間が近付いていることに気付くと,その従業員に電話して,
出勤を差し止め,室内の犯跡を隠蔽するために,部屋の掃除を入念に行い,⑦顧客が
907号室を訪れることを懸念して,Aに対し,同室の入口に,本日閉店の張り紙を出す
ように指示するなどしていることが,関係証拠により認められる。
 このようにE,Gを殺害した当時の被告人の行動は,その前後も含め,いずれも目的に
適った合理的なもので,意識に混濁は認められず,事態の記憶も清明である。
 そして,その後,被害者両名の死体の処理をIに依頼し,共犯者にE方で窃盗を行わ
せ,窃取した定期預金通帳等を用いて,Eの預金等を引き出させ,けん銃等を購入して
保管するなどした経緯についても,その動機,行動において,およそ不可解な点は見ら
れず,その経過についても,被告人は詳細に記憶し,これを供述している。
 所論は,父親からしばしば体罰を伴う厳しい扱いを受けたことなどによる精神障害を主
張するが,被告人の当審における供述等によっても,父親からの体罰等は,これが直ち
に精神の病的な異常につながるようなものとは考え難い上,被告人は,精神疾患の診
断歴もなく(なお,親族にも精神病罹患者は見当たらない。),被告人の本件当時までの
経歴に特段精神的異常性を窺われる点もないのであって,被告人に重い精神障害等の
徴候は認められない。
 以上によれば,被告人は,本件各犯行当時,行為の是非を弁別し,これに従って行動
する能力が著しく減弱してはいなかったことが明らかであり,被告人に完全責任能力を
認めた原判決に事実の誤認はない。 
 その他,所論に照らし,関係証拠を子細に検討しても,原判決に所論指摘の事実の誤
認は認められない。
 論旨は理由がない。
第2 量刑不当の論旨について
 論旨は,要するに,被告人を死刑に処した原判決の量刑は,重過ぎて不当である,と
いうのである。
 そこで,検討する。
1 本件犯行の内容は,前記第1のⅠ掲記のとおりであるが,被告人は,昭和45年9月
に,山口県下松市において,兄Aと共に一卵性双生児として出生し,地元の高校を卒業
し,在京の私立大学商学部に進学したが,間もなく中途退学して,インテリアデザイン関
係の専門学校に入り,同校を平成4年3月に卒業後,平成5年1月に,更に勉強を続け
るため,米国に留学したものの,犯罪に加担するなどして志を遂げることができず,平成
6年9月ころ帰国した。その後,同年10月に,新聞の求人広告に応募して,「H」で働くこ
とになり,その後,前記第1のⅡの1掲記の経緯で,本件各犯行に及んだものである。
2 被告人らは,本件強殺の犯行の数週間前から,E,G両名の殺害計画を練り,当初
は,凶器にけん銃を使用しようとして前記Iと交渉したが,入手できなかったため,鈍器を
用いることにして,その種類や大きさを吟味・検討してハンマーや斧を買い揃え,死体運
搬用の布団袋,ビニールシート,ガムテープ,手袋なども購入するなど,事前に,周到な
準備を遂げている(なお,けん銃は,強殺の犯行前には入手できなかったが,結局,前
記(1)ないし(4)の犯行後に,Iから適合実包と共に購入することになり,これらをAと共謀
して,同人宅に保管させておいた。これが前記(5)の犯行である。)。
 そして,本件殺害の当日,偶々907号室で仮眠しているGを見た被告人は,殺害の好
機と判断し,Aを別室から呼び寄せ,Aが斧の峰で,被告人がハンマーで,ソファーに横
臥しているGの頭部をそれぞれ強打し,Aがバタフライナイフでその胸部を刺して心臓に
達する傷を含む多数の刺創を負わせ,さらに,被告人が紐をその頸部に巻いて強く絞め
付けるなど,残忍な攻撃を執拗に加えて殺害し,更に,被告人は,Eもその日のうちに殺
害する必要があると決意し,同人を907号室におびき寄せた上,背後から,いきなりハ
ンマーでその頭部を強打し,Cが身体を押さえ付けている間に,更にハンマーで頭部を
激しく殴り付け,バタフライナイフで同人の前胸部及び背部を数十回突き刺し,その頸部
に紐を巻いて絞め付け,最後のとどめに,斧の峰でその頭部を強打するなど,Gに対す
るのと同様,誠に残忍な攻撃を執拗に加えて殺害した上,同人が所持していた現金約2
0万円在中の財布のほか,Eのマンション居宅の鍵等を強取したものである。
 その後,被告人らは,被害者両名の死体を,一旦,本件マンション内に隠した後,被告
人が,Iらに交渉して,金品総額1000万円相当の報酬を支払って遺棄の処理を委ね,
コンクリート詰めにして,茨城県内の海中に沈めている。
 また,被告人は,E殺害時に奪った同人の居宅の鍵を使って,そこから金庫を窃取し,
在中の預金通帳を用いて,銀行等から,前後3回にわたり現金合計2502万7548円
及び額面500万円の小切手3通を騙取し,前記Iらへの報酬支払いの資金はこれから
捻出している。
 そして,被告人らは,Eは税務署の査察を逃れて国外へ逃亡し,Gは店の金を持ち逃
げして,いずれも行方が分からないなどと周囲に言い繕い,当初の計画どおり「H」をそ
っくり乗っ取り,本件が発覚する平成8年8月までの間,平然として営業を続け,これによ
り多額の収益を上げていたのである。
3 以上のように,本件は,周到に計画された,極めて残忍かつ冷酷非道な犯行であり,
結果も誠に重大である。
 都心のマンションの1室で,このような凄惨な犯行が行われ,死体は運び出されてコン
クリート詰めにされ,無惨にも海中に遺棄された事件として,広く報道され,周辺の居住
者,事務所,商店等の従業者や利用者などに大きな不安を与え,社会に強い衝撃をも
たらしたことも軽視できない。
 被告人は,前記第1のⅡの1(2)(3)に見るように,E,Gの両名に対して不満と反感を抱
いていたのであり,被告人の立場で考えると,その心情も理解できないではない。しかし
ながら,この両名を亡き者にして,「H」を乗っ取ろうとした本件強殺の犯行は,余りに身
勝手というべきであって,その動機は,つまるところ財産的欲望の達成にあったのであ
り,目的のためには手段を選ばない本件犯行に,酌量の余地は全くないといわなけれ
ばならない。
4 Eは,都内の有名私大の経済学部を卒業後,大手不動産会社に就職した後,転職を
繰り返し,本件当時はSMクラブを経営していたが,事件の直前ころには,これを他に譲
って手を引く考えを周囲に漏らしており,同人の年齢,経歴からすれば,まともな職業に
就いても活躍できる可能性は,十分にあったものと考えられ,Gは,関西の有名私大の
経済学部を卒業後,東京都内の広告会社に勤務し,家業の会社を継ぐ予定で,平成6
年12月に退職したが,平成7年初頭の阪神大震災で実家が大きな損害を受けたため,
その予定を一時変えて,本件SMクラブで働いていたもので,間もなく実家に戻ることに
なっていた。このように,被害者両名がそれぞれ大学を出て普通の就職をしていなが
ら,なぜ自ら裏稼業に入ったのか,その理由は詳らかではないが,近々に足を洗うつも
りであり,前途に大きな希望を抱いていたと察せられるところ,いずれも三十代前半の若
さで,予想だにせぬ本件凶行に遭い,事態ものみ込めないまま,苦悶のうちに非業の死
を遂げたのであり,盛業していた「H」は,理不尽にも被告人らに乗っ取られた上,両名
は,コンクリート詰めにされて海中に投棄され,半年以上経って,変わり果てた姿で引き
上げられたのであって,その受けた苦痛や恐怖,無念の思いは察するに余りある。ま
た,被害者らの両親同胞等遺族の悲嘆は大きく,当然のことながら被告人らに対する感
情には極めて厳しいものがある。
5 被告人は,これまでの検討の結果から明らかなように,本件各犯行全てについて,
冷静に事態に対処し,共犯者らに対して終始主導的な立場にあったと認められる。この
点につき,被告人は,当審において従前の供述を翻し,Aとの関係では自分が主導して
いたわけではなく,同人とは対等の立場であった旨,その上申書及び公判供述で主張
するが,①本件犯行計画を最初に考え,Aに提案したのは被告人であること,②被告人
が当初凶器としてけん銃を用いることを考え,これを調達しようとしたが叶わず,これに
代えて,Aに指示して斧,ハンマーなどを準備させたこと,③被告人とAの二人でG殺害
後,Aは精神的にショックを受けて,E殺害の実行には加わらなかったが,被告人はCを
手伝わせて,E殺害の実行行為も主導し,完遂させていること,④被害者両名の死体遺
棄については,被告人が独りでIらと交渉して,これを請け負わしたこと,⑤その後,被告
人は,Aを関与させずに,Eの居室から預金通帳など在中の金庫を盗みだし預金を引き
出すなどしており,⑥乗っ取り後の「H」の経営の実権も,被告人が独りで掌握していた
ことなどの事実に照らして,本件各犯行は,被告人が首謀者として敢行したものであり,
Aと対等の関係にはなかったことが明らかである。被告人の当審における前記の言い分
は,容れることができない。
 被告人が,率先して計画を押し進め,共犯者を指示して被害者両名の殺害と死体遺
棄,「H」の乗っ取りを完遂したことは,先にみたとおりであって,その冷酷な所業には戦
慄を禁じ得ない。
 以上の次第で,被告人の刑事責任は,重大極まりないというべきである。
 これは,Eが「H」で多大な収益をあげるのを見るにつけ,従業員であることに満足でき
なくなり,欲望の赴くままに行動した結果であるが,事件発覚後は,各犯行を大筋で認
めて反省し,遺族に対し謝罪文を書き送り,被告人の母親も謝罪のために遺族らのもと
を度々訪れていること,逮捕された当時に保有していた5040万円(その大半は,乗っ
取り後の「H」の営業収益と見られる。)を遺族側に引き渡し,さらに,当審段階におい
て,母親が金策をして,Aの弁護人が開設した遺族のための預り口座に,各被害者当た
り800万円ずつを入金したこと,被告人は,本件犯行時25歳と若年であり,前科がない
こと,社会貢献の方途として臓器提供の意思表示を行ったことなど,被告人のために酌
むべき事情も認められる。
 しかしながら,これまで検討した本件の罪質,動機,犯行態様,事後の行動,社会への
影響,遺族の心情などの諸事情にかんがみると,本件における被告人の刑事責任は余
りにも重大であり,被告人のために斟酌すべき叙上の事情を考慮し,死刑は究極の刑
罰であって,真にやむを得ない場合にのみこれを選択すべきことを念頭に熟慮し,検討
を重ねても,被告人を死刑に処した原判決の量刑が重過ぎて不当であるとは認められ
ない。
 論旨は理由がない。
 よって,刑訴法396条により本件控訴を棄却することとし,当審における訴訟費用を被
告人に負担させないことにつき同法181条1項ただし書を適用して,主文のとおり判決
する。
  平成13年9月11日
    東京高等裁判所第4刑事部
        裁判長裁判官   高  木  俊  夫
             裁判官   高  麗  邦  彦
             裁判官   芦  澤  政  治

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