弁護士法人ITJ法律事務所

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主    文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は1審原告の負担とする。
事実及び理由
(以下,略語は原判決に準ずる。)
第1 当事者の求めた裁判
1 1審原告
(1) 原判決を次のとおり変更する。
(2) 1審被告は,1審原告に対し,204万5865円及びこれに対する平成12年3
月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 訴訟費用は第1,2審とも1審被告の負担とする。
2 1審被告
主文同旨
第2 事案の概要
1 本件は,1審原告が,1審被告に対し,同人が飼育する本件犬(バーニーズマウン
テンドッグ,名はラックス)に右手を咬まれて傷害を負った本件事故につき,民法7
18条1項本文の不法行為に基づき,1審原告の被った損害の一部及び遅延損害
金(不法行為の日から年5分)の支払を求めたのに対し,1審被告が同項但書の免
責(相当な注意をもって保管したこと)及び過失相殺を主張し,損害を争った事案で
ある。
原審は,1審被告主張の免責を認めなかったが,1審原告主張の損害のうち後
遺障害等を認めず,1審原告に2割の過失を認めて過失相殺をし,その請求の一
部を認容するに止めたので,1審原告が主に過失相殺の判断に不服があるとして
控訴し,原審で認容されなかった部分のうち後遺障害に基づく損害等にかかる主
張を撤回して同部分の訴えを取り下げ,不服の範囲を上記第1の1(2)の限度とし
た。
なお,原審以来の1審原告主張の損害額,同請求額及び同認容額等は別紙「1
審原告主張等の損害額の推移」のとおりである。
2 争いのない事実等及び争点は,次のとおり改めるほかは,原判決「事実及び理
由」の「第2 事案の概要」の1及び2のとおりであるからこれを引用する。
原判決2頁2行目の「午前11時50分ころ,」の次に「愛知県海部郡立田村大字
立田無番地所在国営木曽三川公園内において,」を加え,3頁24行目から4頁4
行目までを削り,5行目の「キ」を「カ」と,同行と6行目の各「40万円」をいずれも「2
0万円」とそれぞれ改め,13行目及び14行目を削る。
第3 争点に対する当裁判所の判断
1 当裁判所も,1審被告が主張する民法718条1項但書の免責は認められず,1審
原告の損害は原審が認容する範囲で認められ,同人に2割の過失相殺をするの
が相当であると判断する。その理由は,当審での主張を踏まえて次のとおり改め,
当審での過失相殺に関する主張に対する判断を次項に加えるほかは,原判決「事
実及び理由」の「第3 判断」のとおりであるからこれを引用する。
(1) 原判決5頁15行目の「書面」を「書面(甲8)」と,6頁17行目から18行目にか
けての「原告は,自宅から持参したフランスパンを渡して挨拶をしていたところ,」
を「1審原告は,フランスパン(長さ約25センチメートルのもの約20本)を白い袋
3つに入れて持参し,これを知り合いの人達へあいさつ代わりに配って歩いてい
たところ,」と,7頁11行目の「半径約3メートルの円」を「半径約2メートルの円」
と,15行目の「原告には」から16行目までを次のとおり,それぞれ改める。
「大型のパンを多量に携行してこれを配っていた1審原告としては,犬の興味を惹
きやすい行動を取っていることを自覚し,犬の行動範囲に入らず,入る場合は細
心の注意を払うべきであったのにこれを怠ったものといわねばならないから,同
人には本件事故発生につき2割の過失があると認めるのが相当である。」
(2) 原判決7頁26行目から8頁1行目にかけての「この費用と本件事故との間に
は相当因果関係があるものとは認められないが,」を削り,3行目の「被告は,」
から4行目までを「同事実を考慮すれば,上記子犬の預け費用も本件事故と相
当因果関係のある損害と認めることができる。」と改める。
(3) 原判決8頁18行目から19行目にかけての「かつその間の収入が減少してい
ることは前記のとおりであって,」を「前記のとおり,本件事故の年の所得が前年
の所得に比べ101万円減少していること等も踏まえると,」と改め,24行目から
9頁21行目までを削り,22行目の「(7)」を「(6)」と,同行の「なるところ,」を「な
る。」と,10頁1行目の「(8)」を「(7)」とそれぞれ改める。
2 過失相殺について
(1) 1審原告は,当審において,①本件犬には咬み癖があったから,1審被告は本
件犬をゲージに入れるか,口輪をはめるなどして管理すべきであったのに,それ
を怠ったこと,②1審被告は本件犬が人に咬みつかないよう十分に訓練すること
を怠っていたこと,③1審被告は,咬み癖のある大型の本件犬を2メートル近いリ
ード線に繋いで直径4メートルの範囲で行動できる自由を与えていたのだから,
本件犬の行動に十分な注意を払うべきであったのに,本件犬がAの子供の衣服
を咬んで脱がせ,Bの軍手に咬みつこうとしたことに気付いていなかったもので
あり,本件犬の行動に注意を払っていなかったこと,④1審原告は,1審被告宅
を訪問して本件犬の行動圏内へ入ったのではなく,公衆が自由に往来できる公
園内を歩いていたに過ぎないこと等に鑑みると,1審原告に2割の過失があると
した原審の判断は不当であると主張する。
(2) しかし,上記①ないし③については,本件犬が人の着衣に咬みついたことはあ
ったが,本件事故以前に人を咬んで傷害を与えた事実を認める証拠はなく,1審
被告において,本件犬をゲージに入れて管理すべき義務まであったとはいえな
い。また,上記④については,1審原告において,公衆が自由に往来できる公園
内を歩いていたとはいえ,当日は公園内で犬のマラソン大会が開かれ,本件犬
の周囲には犬を連れた参加者や見物人らが20人ほども集っていたのであり,1
審原告自身も本件犬と同種の犬を飼う愛犬家として同好会の仲間と共に大会の
見物に来ていたのであるから,1審原告は,本件事故時の公園内の多数の犬の
状況を認識していたはずであり,単に公園内を散策する公衆とは異なる立場に
あったというべきであるし,しかも大型のパンをたくさん入れた白い袋を持ち,パ
ンの匂いを立たせるなどして犬の注意を惹く状況となっていたのであるから,本
件犬の行動圏内へ入るには十分注意すべきであったのにそれを怠ったものとい
わざるを得ない。
1審被告の本件犬に対する訓練が不十分であったことは本件事故の結果か
ら推認されるところであり,本件犬が着衣に咬みつく癖のある大型犬であったこ
とに鑑みると,1審被告としては,本件犬に口輪をはめておくなり,常時その行動
に注意を払っておくなりすべきであったのに,これを怠ったものということができ
るところ,1審被告のこの過失と対比すると,1審原告の上記過失が2割を占め
るとするのはやむを得ないものといえる。したがって,この点に関する1審原告
の主張は採用できない。
第4 結論
よって,原判決のうち1審原告の請求を棄却した部分(当審で取り下げられた部
分を除く。原判決中の同部分は同取下げにより失効した。)は相当であり,1審原
告の本件控訴は理由がないからこれを棄却し,控訴費用を1審原告に負担させる
こととして,主文のとおり判決する。
名古屋高等裁判所民事第1部
裁判長裁判官      田   村   洋   三
裁判官      小   林   克   美
裁判官      佐   藤   真   弘

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