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平成16年11月29日判決言渡
平成16年(ワ)第477号 損害賠償請求事件
判決
主文
1 被告は,原告に対し,金18万円及びこれに対する平成15年6月27日から
支払済みまで年5分の割合による金員を支払  え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを2分し,その1を原告の負担とし,その余は被告の負担と
する。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
  被告は,原告に対し,金59万4500円及びこれに対する平成15年6月2
7日から支払済みまで年5分の割合による金員 を支払え。
第2 事案の概要
  本件は,窃盗被疑事件で逮捕・勾留された原告が,千葉県警察の警察官によっ
てなされた緊急逮捕前の有形力の行使が警察官 職務執行法2条1項で許容される
限度を超えた違法なものであると主張して,国家賠償法1条1項に基づき,慰謝料
等を請求し た事案である。
1 争いのない事実等
 (1) 原告は,平成15年6月27日午後4時15分ころ,千葉県甲町所在の乙店
において,同店店長A管理に係る弁当1個ほ  か26点(販売価格合計9310
円)を窃取し,「土浦59ら○○○○」の車両で逃走した。
  上記窃盗事件が起こったことは,同店の店員において覚知され,直ちに警察に
通報された。
 (2) 千葉県大原警察署警部補B(以下「B警部補」という。)及び同警察署巡査
C(以下「C巡査」という。)は,同日午後  4時20分ころ,警ら用無線自動
車(以下「本件パトカー」という。)で警ら活動をしていたところ,千葉県警察本
部から,  「乙店において万引きマル被逃走事案が発生。マル被は男1名。買い
物かごに商品を入れたまま逃走。逃走車両は土浦56,  ひらがな不明の○○○
○。白色マークⅡ,逃走方向はJR太東駅方向」との無線を傍受したので,逃走車
両の検索を実施し   た。
 (3) B警部補らは,同日午後4時40分ころ,「逃走した車両の完全ナンバーが
土浦59ら○○○○,白のマークⅡ,逃走方  向がJR太東駅方向,被疑者の年
齢が50歳くらい,服装は上下グレー又はグリーンの作業服」との無線を傍受し,
さらに逃  走車両の検索を実施した。
 (4) B警部補らは,同日午後5時10分ころ,千葉県丙町先の高台において,逃
走車両と同一ナンバーの「土浦59ら○○○  ○」の白色トヨタマークⅡ(以下
「本件車両」という。)が,先頭部分を西側に向けて駐車してあるのを発見した。
 (5) 前記高台は,三方(東・南・北)を崖で囲まれており,B警部補らは,本件
パトカーを高台の唯一の出入口である西側の  道路から進入し,同道路を塞ぐ形
で,本件車両の前方付近に先頭部分を東側に向けて停車させた。(乙1,4)
 (6) B警部補らが同所に到着したとき,原告は,本件車両の後方トランク部分に
立っており,その服装は,上着が白色丸首シ  ャツで,ズボンが緑色の作業ズボ
ンであった。なお,本件車両はエンジンがかかっておらず,かぎ穴にもエンジンキ
ーはつい  ていなかった。また,本件車両は4ドアの車両であるが,前方のドア
の窓ガラスは左右とも全開であった。
 (7) B警部補は,原告に対して,職務質問を開始し,人定事項を確認するため,
運転免許証の呈示を求めた。
 (8) 原告は,本件車両に乗り込み,運転席に座った後,ドアを閉めて,かぎ穴に
エンジンキーを入れようとした。
 (9) B警部補らは,原告がエンジンキーを操作するのを制止し,運転席側窓から
原告の体を車外に引き出した。なお,B警部  補は,原告を車外に引き出す直前
に,原告からエンジンキーを取り上げた。
 (10) その後,原告は,本件犯行を自供し,本件犯行現場である乙店まで案内し
たため,同日午後6時25分,前記乙店前路上  において,窃盗被疑事件の被疑
者として緊急逮捕された。
 (11) 原告は,同日午後6時46分,大原警察署司法警察員に引致され,大原警
察署の警察官は,同日午後10時15分,千葉  簡易裁判所裁判官から緊急逮捕
状の発付を受け,同月29日午前8時30分,原告を千葉地方検察庁に送致する手
続をした。 (乙3,4)
 (12) 原告は,逮捕当日である同月27日,丁クリニックにて受診し,前額・左
肘・右前腕擦過創と診断された。(乙64)
 (13) 原告は,本件窃盗被告事件のほか2件の覚せい剤取締法違反被告事件につ
いて起訴され,これらが併合して審理され,平  成16年3月2日,当庁におい
て,懲役2年10月の実刑判決を受けた。(甲1)
2 争点
  本件における争点は,①緊急逮捕前の警察官の行為が有形力の行使として許容
される限度を超えた違法なものであったか否  か,②損害額,の2点である。
3 争点に関する当事者の主張
 (1) 争点1(警察官の行為の違法性)について
  (原告の主張)
  ア 原告は,逃走しようとして,エンジンキーをかぎ穴に差し込もうとしたと
ころ,B警部補にその手をつかまれ,抵抗した   ものの,エンジンキーを取り
上げられ,その直後,B警部補及びC巡査に,窓から引き上げられて車外に出さ
れ,B警部補   にうつぶせの状態のまま3分間ほどにわたって押さえつけられ
たものである。
  イ エンジンキーを取り上げれば本件車両を発進させることは不可能になるの
であるから,原告を窓から引き上げて,車外に   出す必要まではなく,その直
後,原告をうつぶせ状態のまま押さえつけたのも,行き過ぎであって,やむを得な
いものとは   認め難いから,上記一連の行為は職務質問に伴う有形力の行使と
しては違法であり,実質的逮捕に当たるというべきであ    る。
  (被告の主張)
  ア(ア) B警部補は,原告がエンジンキーを取り出してかぎ穴にそれを差し
    込み,エンジンを掛けようとしたので,「ちょっと待て。危ないからエン
ジンを掛けるな。車から降りろ。」と申し向け    るとともに,開いていた運
転席側の窓から車内に右手を入れ,エンジンキーを回そうとしている原告の右手首
付近をつか    んだ。
   (イ) B警部補は,原告がなおも右手でエンジンを掛けようとしたため,つ
かんでいた原告の右手首を引いて,かぎ穴から    エンジンキーを抜くと,原
告が手にしていたエンジンキーを取り上げようとしたが,原告はエンジンキーを握
りしめ,上    下左右に腕を動かすなどして激しく抵抗したため,B警部補は
エンジンキーを取り上げることができなかった。
   (ウ) B警部補らは,ドアロックの場所を手探りで探したが見つからなかっ
たため,本件車両の発進を防止するためには,    原告を運転席側窓から引き
出すほかないと考え,B警部補が原告の右手を,C巡査が原告の左手をつかみ,運
転席側窓か    ら原告の体を引き出した。
     なお,原告が運転席側窓から引き出される際,エンジンキーを握ってい
た右手の力が一瞬緩んだため,B警部補は,原    告を車外に引き出す直前に
原告からエンジンキーを取り上げることができた。
   (エ) B警部補らは,原告が地面にうつぶせで倒れ込む形になったため,
    原告に立ち上がるように促したところ,原告は立ち上がり,本件車両後方
(東側)に向かって歩き出そうとしたため,原    告の両脇からそれぞれ原告
の両手を持ち,本件車両運転席付近まで連れ戻した。
   (オ) B警部補は,原告に対し,何度も「ここに座っていろ。」と申し向
け,原告の左腕及び右肩をつかんでいる手に少し    力を入れて座るように促
したが,原告は,B警部補に肩をつかまれたままの状態で無理矢理その場を立ち去
ろうとしたた    め,自らバランスを崩し,その場に両腕と両膝をつき,四つ
んばいの形で倒れ込み,原告の右肩と左腕をつかんでいたB    警部補もその
脇に一緒に膝をついて倒れ込む形になった。
   (カ) 原告は,しばらくの間,B警部補に右肩及び左腕付け根辺りをつかま
れたままの状態で抵抗していたが,やがて逃走    するのをあきらめ,B警部
補の言うことを聞き入れて抵抗することをやめ,その場にあぐらをかいて座り込ん
だ。
  イ B警部補らによる上記各行為は,いずれも①本件車両が本件パトカーに衝
突,接触することによる公務執行妨害罪及び器    物損壊罪の発生防止,②原
告の本件高台からの転落防止,③職務質問の実施,を目的として行われた必要かつ
相当な行為    であり,警察法2条,警察官職務執行法2条1項,同法5条に
基づく適法な職務行為である。
 (2) 争点2(損害額)について
  (原告の主張)
  ア 慰謝料 50万円
  イ 弁護士費用 9万4500円(含消費税分)
  (被告の主張)
   争う。
第3 争点に対する判断
1 争点1(警察官の行為の違法性)について
 (1) 前記争いのない事実等,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の各事
実が認められる。
  ア 原告は,平成15年6月27日午後4時15分ころ,千葉県甲町所在の乙
店において,同店店長A管理に係る弁当1個ほ   か26点(販売価格合計93
10円)を窃取し,本件車両で逃走した。
  イ B警部補及びC巡査は,本件窃盗事件についての無線を傍受し,逃走車両
の検索を実施し,同日午後5時10分ころ,千   葉県丙町先の高台において,
逃走車両と思われる本件車両が,先頭部分を西側に向けて駐車してあるのを発見し
た。
  ウ 原告は,そのころ,乙店で窃取した「仲良し弁当」及び「酢豚」を食べ終
え,さらに「雪の宿」というせんべいを食べよ   うと考え,本件車両のトラン
ク後方にいた。B警部補は,原告が乙店で発生した窃盗被疑事件の犯人である可能
性が高いと   判断し,原告に対して,職務質問を開始し,人定事項を確認する
ため,運転免許証の呈示を求めた。(乙4,42,43,   62,67)
  エ 原告は,運転免許証は,本件車両内にある旨答えたものの,窃盗事件で検
挙されることを恐れるとともに,別件である覚   せい剤取締法違反被疑事件で
原告の逮捕状が発付されたことを知っていたことから,その場から逃走することを
決意し,本   件車両の運転席に乗り込み,ドアを閉めて,かぎ穴にエンジンキ
ーを入れようとしたところ,B警部補が,原告の逃走を防   止するため,開い
ていた運転席側の窓から車内に右手を入れ,エンジンキーを持っていた原告の右手
首付近をつかんだた    め,エンジンキーを差し込むことができなかった。
(乙4,62,67)
  オ 原告は,なおも,逃走を図って,エンジンキーをかぎ穴に入れようと抵抗
したが,B警部補が原告の右手を,C巡査が原   告の左手をつかみ,運転席側
窓から原告の体を車外に引き出そうとしたため,原告は,エンジンキーをかぎ穴に
入れること   ができず,原告の頭が運転席側窓から出るか出ないかのところ
で,B警部補に,エンジンキーを取り上げられた。原告は,   そのまま,窓か
ら引き出され,その勢いで,本件車両運転席脇の地面にうつぶせで倒れ込んだ。
(乙4,62)
  カ B警部補は,そのまま,原告の右手をつかみ,左肩付近に回して,自己の
半身で原告に乗りかかるようにして押さえ付け   た。原告は,3分程度,体を
動かして暴れたが,B警部補に押さえ付けられていたため,ほとんど動くことがで
きず,体力   もなくなってきたため,暴れるのをやめ,座らせてくれるように
頼んだところ,B警部補は,原告を座らせたうえ,背後か   ら原告の肩の辺り
に手を置いて,応援の警察官が来るのを待った。(乙62)
 (2)
  ア 警察官職務執行法(以下「警職法」という。)2条1項について
    警察官が警職法2条1項により同項に該当すると認められる者に対し,職
務質問をするに当たっては,職務質問の必要    性・相当性に照らし,相手方
の意思に反する場合であっても,それが強制手段にわたらない限り,社会通念上相
当な範囲内   で有形力を行使することも許されるものと解するのが相当であ
る。これを本件についてみると,前記争いのない事実等及び   認定事実によれ
ば,本件車両が逃走車両と同一の車種及びナンバーであり,原告の年齢(当時50
歳)・着衣が被疑者の年   齢・着衣と近似していたのであって,B警部補らに
おいて,原告に対し職務質問を実施・継続する必要性があったことが認   めら
れるから,運転免許証の呈示を求めるや,本件車両に乗り込み逃走を図った原告に
対し,有形力を行使してエンジンキ   ーを取り上げること自体は許容されると
いうべきである。
    しかしながら,前記認定事実によれば,B警部補らは,原告を本件車両か
ら車外に出す直前に,エンジンキーを取り上げ   ていることが認められ,原告
からエンジンキーを取り上げれば,本件車両を発進させることは不可能になり,そ
の場で警職   法2条1項に基づく職務質問を実施することが可能であるから,
原告を窓から引き上げて,車外に出すまでの必要性・相当   性はなく,さら
に,その直後に,原告をうつぶせ状態のまま押さえ付けたことについては,職務質
問を実施するための有形   力の行使として社会通念上是認し得るものではな
く,上記B警部補らの各行為は,職務質問に伴う有形力の行使として許容   さ
れる限界を逸脱した違法な有形力の行使に該当するというべきである。
  イ 警職法5条について
    警察官は,犯罪がまさに行われようとするのを認めたときは,もしその行
為により人の生命若しくは身体に危険が及び,   又は財産に重大な損害を受け
る虞があって,急を要する場合においては,その行為を制止することができる(警
職法5     条)。
    しかしながら,上記ア同様に,原告からエンジンキーを取り上げれば,本
件車両を発進させることは不可能になるのであ   るから,本件高台が三方を崖
で囲まれており,唯一の出口を本件パトカーが塞いでいたとしても,被告の主張す
る公務執行   妨害罪ないし器物損壊罪発生の危険性は,相当低くなっていたと
いうべきであり,同時に,原告の本件高台からの転落の危   険性も低くなって
いたというべきであるから,警職法5条に基づく制止行為としても,B警部補らが
エンジンキーを取り上   げた後の上記各行為について,その必要性・相当性が
認められるものではなく,その許容される限度を超えていたというべ   きであ
る。
  ウ 警察法2条について
    警察官が警察法2条を根拠として行うことができる行為は,国民の権利義
務を規制しない事実上の行為であって,しか    も,相手方の意思に反しない
程度の任意の手段にとどまるというべきであるところ,B警部補らの上記各行為
は,原告の意   思に反するものであることが明らかであり,本件において,B
警部補らの上記各行為が警察法2条を根拠に適法であったと   いうことはでき
ない。
 (3)
  ア これに対し,被告は,B警部補が原告からエンジンキーを取り上げた行為
は,原告を車外に引き出す前に,車外に引き出   す行為とは別個の行為として
行われたのではなく,原告を車外に引き出す行為が開始され,その後の一連の経過
の中で行わ   れたものであり,原告を車外に引き出した後については,B警部
補が原告をうつぶせにしたまま,押さえ付けたことはない   旨主張し,B警部
補の速記録写し(本件窃盗被告事件の公判廷における供述,乙4)及び陳述書(乙
67)にも同旨の供述   記載があるので,以下,これについて検討する。
  イ エンジンキーを取り上げた行為について
    B警部補の供述記載(乙4)によれば,原告をC巡査とともに窓から引き
上げて,頭が出ようかというところ,具体的に   は,頭は完全には出ておら
ず,おしりが少し持ち上がった段階で,エンジンキーを取り上げたというのであり
(乙4・34   頁),しかも,B警部補がエンジンキーを取り上げるために,
原告の右手をつかんでいた手を左手に持ち替えて,その状態   を保ったままエ
ンジンキーを取り上げたというのであるから(同34頁,35頁),原告を窓から
引き出す行為は,開始さ   れたばかりであったといえ,B警部補がエンジンキ
ーを取り上げた時点で,一旦停止していたのであり,原告を車外に引き   出す
行為を中止することは十分可能であったというべきであって,原告を車外に引き出
す行為は,一連の経過の中で行われ   たものであるとする
   被告の主張は,これを採用することができない(B警部補がエンジンキーを
取り上げた時点で,原告の頭と身体が窓から出   掛かっていたという陳述書の
供述記載(乙67・5頁)は,刑事公判廷におけるB警部補の上記供述記載に反
し,信用する   ことができない。)。
  ウ 原告を車外に引き出した後の行為について
    B警部補の供述記載(乙4)によれば,原告を車外に引き出した後は,原
告は,当初,落ち着きのない様子でうろうろし   ており,何度も言葉で注意し
たものの,崖の方へ行こうとするので,座らせようと思い,原告の左手と右肩を持
って,下に   押したところ,原告はバランスを崩して,ひざと腕をついて前か
ら倒れ込んだというのであるが,原告が本件窃盗被疑事件   の被疑者である可
能性が極めて高く,エンジンキーを取り上げた上で,さらに,原告を窓から車外に
引き出しているよう    に,窃盗事件の被疑者である可能性が極めて高い者に
対し,職務質問を継続しようとする切迫した状況であることからすれ   ば,原
告を窓から車外に引き出した直後に,B警部補らが,言葉で注意して原告の行動を
制止しようとしているのみで,原   告がうろうろするのに対し,何ら有形力を
行使することなく,自由にさせたとは考え難いこと,陳述書には,言葉で注意す 
  るとともに,C巡査と二人で原告の両脇からそれぞれ両腕を持ったとの供述記
載(乙67・6頁)があるが,当該陳述書が   刑事事件の判決後,本件訴訟の
提起後に作成されたものであることからすれば,B警部補の供述の変遷は,自己に
都合の良   いように変遷させたものである可能性が高いといわざるを得ず,B
警部補の供述記載はいずれも採用することができない。   他方,原告の,窓か
ら車外に引き出された直後に,そのまま,B警部補に右手をつかまれ,左肩付近に
回された上,B警部   補にその半身で乗りかかるようにして押さえ付けられ,
3分程度,体を動かして暴れたが,B警部補に押さえ付けられてい   たため,
ほとんど動くことができず,体力もなくなってきたため,暴れるのをやめ,座らせ
てくれるように頼んだところ,   B警部補は,原告を座らせてくれたとする供
述記載(乙62)は,本件車両の窓から車外に引き出された後の出来事とし   
 て,自然な経過であり,原告に前額・左肘・右前腕擦過創が生じていることにも
矛盾せず,十分信用できるというべきであ   る。
    したがって,この点に関する被告の主張も採用することはできない。
 (4) 以上によれば,B警部補らによる原告を本件車両の窓から車外に引き出し,
うつぶせのまま押さえ付けた行為は,警察法  2条,警職法2条1項,同法5条
によって許容される限度を超えた違法なものであって,上記各行為は,公権力の行
使にあた  る公務員が,その職務執行中に,少なくとも過失によってした違法行
為であるから,被告には,国家賠償法1条1項に基づ   き,原告の被った下記
損害を賠償すべき義務がある。
2 争点2(損害額)について
  上記認定事実によれば,遅くともB警部補らが原告を本件車両の窓から外に出
そうとした時点において,緊急逮捕の理由と必 要性が存在したといえ,原告がそ
の約1時間後には緊急逮捕されていること,6月27日午後10時15分には緊急
逮捕状の発 付を得ていること,同月29日午前8時30分,原告を検察庁に送致
する手続をしており,B警部補らが原告を本件車両の窓か ら外に出した時点から
起算しても,検察官への送致手続は法令に定められた制限時間を超えていないこと
などからすれば,上記 各行為が重大な違法行為であるとまではいえない。以上の
事情に,原告は,B警部補らによる違法な行為によって,前額・左  肘・右前腕
擦過創の傷害を受けていること,B警部補らの上記各行為が重大な違法行為でない
としても,適正手続の保障に反す
 るものであって,刑事司法に対する国民の信頼をも損ないかねないものであり,
これを軽視することはできないことなど本件に おける諸般の事情を考慮すると,
本件の慰謝料額は,15万円とするのが相当であり,本件認容額のほか,本件事案
の内容,本 件審理経過を考慮すると,本件と因果関係のある弁護士費用は,税込
みで3万円と認めるのが相当である。
第4 結論
 よって,原告の請求は,被告に対し,18万円及びこれに対する平成15年6月
27日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める
限度で理由があるから,その限度でこれを認容し,原告のその余の請求はいずれも
理由がないから,これを棄却することとし,訴訟費用の負担につき民訴法61条,
64条本文を,仮執行の宣言につき,同法259条1項を,それぞれ適用したう
え,その免脱宣言については,相当でないからこれを付さないこととし,主文のと
おり判決する。
千葉地方裁判所民事第2部
裁判長裁判官小 磯 武 男
裁判官     見 米   正
裁判官     国 分 貴 之

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