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平成14年(行ケ)第452号 審決取消請求事件
平成15年4月10日判決言渡,平成15年3月27日口頭弁論終結
      判     決
 原     告   京セラ株式会社
 訴訟代理人弁理士  高橋昌久
 被     告   特許庁長官 太田信一郎
 指定代理人     石川昇治,水垣親房,林栄二,小曳満昭,梅岡信幸
      主     文
 原告の請求を棄却する。
 訴訟費用は原告の負担とする。
   事実及び理由
第1 原告の求めた裁判
 特許庁が不服2000-19755号事件について平成14年7月15日にした
審決を取り消す。
第2 事案の概要
 本件は,後記本願発明の出願人である原告が,特許拒絶査定を受け,これを不服
として審判請求をしたところ,特許庁が審判請求不成立の審決をしたため,同審決
の取消しを求めた事案である。
 1 前提となる事実等
 (1) 特許庁における手続の経緯
 (1-1) 本願発明
  出願人     京セラ株式会社(原告)
  発明の名称   「電子写真装置」
  出願番号    特願平9-362121号
  出願日     平成3年3月15日
(平成3年3月15日出願の実願平3-22459号を平成9年12月11日に特
許出願に変更したもの。)
 (1-2) 本件手続
  拒絶査定    平成12年11月14日(発送)
  審判請求    平成12年12月14日(不服2000-19755号)
  審決日     平成14年7月15日
  審決の結論   「本件審判の請求は,成り立たない。」
  審決謄本送達日 平成14年8月3日(原告に対し)
 (2) 本願発明の要旨(平成14年5月7日補正後のもの。以下,請求項1に係る
発明を「本願発明1」といい,請求項2及び同3に係る発明をそれぞれ「本願発明
2」及び「本願発明3」という。)
「【請求項1】 少なくとも上面に給紙ローラから記録材のレジスト及び転写位置
を経由して定着器入口側に至る記録材搬送路を有するとともに,装置本体から引き
出し可能な搬送ユニットを備えた電子写真装置において,
 前記搬送ユニットに,該搬送ユニット内底域のほぼ全面に亙って形成され,カセ
ットの給紙端側まで収納可能な給紙カセット収納部を設けるとともに,
 該搬送ユニットが感光体ドラム軸線とほぼ直交する方向に装置本体から少なくと
も途中位置まで引き出し可能であって,引き出し側の記録材給紙端側に給紙ローラ
と該給紙ローラより奥側の前記記録材搬送路上にレジストローラ対の少なくとも下
ローラがそれぞれ配置され,
 更に,該収納部内に,ユニット引き出し方向と同じ方向に単独で引き出し可能に
給紙カセットがカセット給紙端側まで収納配置され,
 該給紙カセットに載置された記録材を前記給紙ローラにより前記給紙端側で反転
給紙されながら前記レジストローラ対まで搬送されるように構成し,
 前記搬送ユニットを前記途中位置まで引き出し時に,前記給紙ローラからレジス
トローラ入口までの両ローラ間の記録材搬送路上方空間全域が露出されることを特
徴とする電子写真装置。
 【請求項2】 前記搬送ユニット側に設けるレジストローラが下ローラのみであ
り,該搬送ユニットを引き出した際に,前記レジスト下ローラが装置本体外に露出
した位置で前記搬送ユニットが停止可能な係止手段を設けた事を特徴とする請求項
1記載の電子写真装置。
 【請求項3】 定着器及び前記感光体ドラムは前記搬送ユニットの上部側の前記
装置本体に配置したことを特徴とする請求項1記載の電子写真装置。」
 (3) 審決の理由
 審決の理由は,【別紙】の「審決の理由」に記載のとおりである。要するに,本
願発明1は,刊行物1(特開昭57-190982号公報,甲5),刊行物2(特
開昭61-238620号公報,甲6)及び刊行物3(特開昭64-42662号
公報,甲7)記載の発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたもの
であり,特許法29条2項の規定により,特許を受けることができない,というも
のである。
 2 原告の主張(審決取消事由)の要点
 (1) 取消事由1(相違点(3)の判断の誤り)
 相違点(3)につき,審決が「搬送ユニットを途中位置まで引き出し時に,給紙ロ
ーラからレジストローラ入口までの両ローラ間の記録材搬送路上方空間全域を開放
されるように構成することは,当業者が容易に考えつくことができた構成の変更で
ある。」とした判断は,誤っている。
 刊行物1(甲5)のユニットは,給紙部より排紙部に至るユニットを2つに分割
して,定着ユニットと搬送ユニットに分割された構成であり,搬送ユニットの引き
出された搬送路の上部は,給紙ローラとレジストローラ間の記録材搬送路上方がガ
イド板によって隠蔽されており,上方空間全域が露出されていない。したがって,
ガイド板によって邪魔をされ,給紙側のジャム処理が容易にできない。
 また,刊行物3(甲7)においても,プロセスユニットには,給紙ローラからレ
ジストローラ入口までの両ローラ間の記録材搬送路上方空間にペーパーガイドが存
在し,両ローラ間の記録材搬送路上方空間全域が露出されているものとは明らかに
異なる。
 しかも,刊行物3は,プロセスユニットの複写機本体からの引き出し方向が,感
光体ドラム軸線とほぼ直交する方向ではなく,感光体ドラム軸線と同一方向である
ために,たとえペーパーガイドが存在しなくても,前記ユニットを途中位置まで引
き出したときに,前記両ローラ間の記録材搬送路上方空間全域が露出されることは
あり得ない。そのため,刊行物3では,前記ユニットを完全に引き出さなければジ
ャム処理ができず,操作面積が大幅に広くなってしまうので,本願発明1のよう
に,搬送ユニットを途中位置まで引き出すだけで,ジャム発生の多い場所が簡単に
開放され,給紙ローラからレジストローラ入口までの記録材搬送路上方空間全域が
露出されて,ジャム処理が容易であるという効果を達成し得ない。
 なお,給紙ローラからレジストローラ入口までの両ローラ間の記録材搬送路上で
用紙がジャムした場合に,刊行物3のような方式では,搬送路上方空間に用紙が凸
状にふくらんだ状態になるおそれがあり,プロセスユニットを感光体ドラム軸線方
向に引き出す操作をしたときに,ふくらんだ用紙を残置してしまうおそれがある。
よって,刊行物3では,ふくらみを防止するペーパーガイドの存在は必須であり,
また,プロセスユニットを途中位置まで引き出しても,前記両ローラ間の記録材搬
送路上方空間全域が露出されることはあり得ないことから,審決のように,「紙詰
まりの除去だけのことを考えるならば,搬送路上にガイドなどを設けずに,搬送ユ
ニット引き出し時に搬送路の上方が開放されることが好ましいことは当業者ならば
普通に考えつくことである。」と判断するのは失当である。
 よって,刊行物1と刊行物3に基づき,相違点(3)について,前記のように判断
することは誤りである。
 (2) 取消事由2(相違点(1)の判断の誤り)
 審決は,「搬送機構を搬送ユニットとして独立させ,複写機本体から引き出し可
能としたものではないが,搬送機構として本体内に挿入したカセット内に収納され
た用紙を,該カセット挿入方向の後端側から抽出した後に折り返して,すなわち反
転させてレジストローラ対まで搬送するものが記載されており,刊行物1記載の発
明において搬送ユニットの搬送機構を刊行物2記載の搬送機構に変えることに格別
の阻害要因もないから,この点は当業者が容易に考えつくことができた構成の変更
である。」と判断するが,誤っている。
 刊行物2(甲6)に記載された発明は,搬送ユニット引き出しの構成がなく,搬
送ユニットそのものが存在しない。また,刊行物2においては,給紙ローラが装置
本体側に存在し,かつ,上面に給紙ローラから記録材のレジスト及び転写位置を経
由して定着器入口側に至る記録材搬送路も装置本体側に存在している。刊行物2に
記載の発明は,本願発明1のようにユニット側で反転給紙をするものではなく,装
置本体側で反転給紙するものである。したがって,刊行物2記載のユニットでは,
給紙ローラからレジストローラ入り口までの両ローラ間の記録材搬送路上で用紙が
ジャムした場合に,用紙の後端が搬送ユニット側の給紙ローラに支持されるという
本願発明1の最も重要な機能を達成する余地がなく,刊行物2の場合には,用紙が
ジャムした場合に,用紙の後端を支持する給紙ローラが装置本体側に存在するため
に,用紙後端が装置本体側の給紙ローラに支持されて,搬送ユニットとともに引き
抜けるという作用を達成し得ない。
 以上によれば,刊行物1記載の発明において,装置本体から着脱自在に別異のも
のとして構成されている搬送ユニットの搬送機構を,刊行物2記載の装置本体側の
搬送機構に変えることに,格別の阻害要因もないとし,この点は当業者が容易に考
えつくことができた構成の変更であるとする審決の判断は誤りである。
 (3) 取消事由3(相違点(2-1)の判断の誤り)
 本願発明1では,装置本体内に挿入されるのは,給紙カセットが組み込まれた搬
送ユニットであって給紙カセット自体ではない。給紙カセット収納部は,搬送ユニ
ット側に位置している。
 一方,刊行物2記載の発明は,給紙カセットが装置本体に直接収納されたもの
で,搬送ユニットが介在しておらず,単に給紙カセットのほとんどを本体内に挿入
できるようにしたものであり,反転給紙機構である給紙ローラは装置本体側に存在
する技術である。
 刊行物1の「給紙部より排紙部に至るユニットを2つに分割してなる搬送ユニッ
ト」に,刊行物2の反転給紙機構が装置本体側に存在する給紙カセットのレイアウ
ト構成を適用することは,論理の飛躍である。よって,審決が,「給紙カセット収
納部を搬送ユニット内底域のほぼ全面に亙って形成され,カセットの給紙端側まで
収納可能と構成することは,搬送機構を反転給紙する機構に変更したことに伴っ
て,当業者が普通に考えつくことができたことである。」との判断は誤りである。
 (4) 取消事由4(手続上の違法)
 (4-1) 拒絶理由通知書では,本願発明2及び3について判断がなされているが,
審決では何ら言及していない。改訂審査基準(甲8)の精神に照らせば,拒絶理由
通知だけでなく,審決においても,すべての請求項,すなわち請求項2及び3(本
願発明2及び3)についても特許要件を満たすか否かの判断を示すべきであって,
この判断をしなかった審決は違法である(もっとも,特許出願において,複数の請
求項に係る発明のいずれか一つが特許の要件を欠く場合には,その特許出願全体に
ついて拒絶の査定がされるという特許庁の扱い自体を特に争うものではない。)。
 (4-2) 本願発明1の主要な構成である「両ローラ間の記録材搬送路上方空間全域
を開放されるように構成すること」につき,拒絶理由通知書(甲3)では一致点で
あると認めたが,審決では,これを相違点に変更したにもかかわらず,再度の拒絶
理由通知も出さず,出願人に再度の意見の機会を与えずに,当業者が容易に考えつ
くことができた構成の変更であると判断した。この点は,拒絶査定不服の審判にも
当然に適用すべき特許法50条の立法趣旨に照らして違法である。
 3 被告の主張の要点
 (1) 取消事由1(相違点(3)の判断の誤り)に対して
 相違点(3)についての審決の判断に原告主張の誤りはない。
 刊行物3(甲7)記載の発明は,①「用紙搬送機構を具えるプロセスユニットを
複写機本体から引き出すことによって紙詰まりを除去できるようにした複写機にお
いて,記録材搬送路上に設けたガイドが,紙詰まり除去に当たっては邪魔になる」
という知見を与えるものである。そして,②「ガイドを開放して給紙ローラからレ
ジストローラ入り口までの両ローラ間の記録材搬送路上方空間を露出すれば,紙詰
まり用紙を容易にかつ迅速に除去できる」という知見も同時に与えるものである。
 刊行物3記載の発明と刊行物1記載の発明とは,用紙搬送機構を具えるユニット
を複写機本体から引き出すことによって紙詰まりを除去できるようにした複写機で
ある点で共通した技術であり,刊行物1記載の「搬送ユニットを途中位置まで引き
出し時に,給紙ローラからレジストローラ入り口までの両ローラ間」が複写機本体
の外に露出される型式の複写機に,上記①,②の知見を適用することにつき,原告
主張のような具体的な構成上の違いが阻害要因となるものではない。
 刊行物3記載の発明においても,ペーパーガイドを必ずプロセスユニット側に設
けなければならないわけではないのであるから,刊行物3記載の発明にとってペー
パーガイドが必要な構成であることは,上記②の知見を与えるのに阻害要因とはな
らない。なお,本願発明1は,用紙を確実に搬送するとともにジャム時のふくらみ
を防止することなどを一切考慮することなく,ただ単に紙詰まり用紙の除去の容易
化だけを考慮して記録材搬送路上方空間全域が露出されるように構成するとしたも
のであって,本願発明1のように紙詰まり除去の容易化だけに注目する場合には,
刊行物3記載の発明にとってペーパガイドが必要な構成であることは,搬送ユニッ
トの搬送路上方にガイドを設けなければ,紙詰まりの除去が容易になるという知見
を与えるのに,阻害要因とはならない。
 (2) 取消事由2(相違点(1)の判断の誤り)に対して
 刊行物2には,「搬送ユニット」は開示されていない。しかし,審決は,本願発
明1と刊行物1記載の発明との一致点として,「上面に転写位置を経由して定着器
入口に至る記録材搬送路を有するとともに,装置本体から引き出し可能な搬送ユニ
ット」,「給紙ローラと該給紙ローラより奥側の前記搬送路上にレジストローラの
少なくとも下ローラがそれぞれ配置され」と認定し,原告は,この点を争わないの
であるから,上記の構成は,刊行物2を引用するまでもなく刊行物1に開示されて
いることである。
 原告は,刊行物1に関して,2分割ユニット構造であることの欠点を述べる。し
かし、本願発明1は定着器から排紙部に至る構成については何ら規定するものでは
ないから、刊行物1記載のユニットが2分割ユニット構造であるからといって,刊
行物1に「上面に給紙ローラから記録材のレジスト及び転写位置を経由して定着器
入り口に至る記録材搬送路を有する搬送ユニット」が記載されていないとの原告の
主張は失当であるし,前記のとおり,そもそもこの点は,刊行物1に記載されてい
るのである。
 刊行物2に記載された記録材を反転給紙するような搬送機構は,搬送機構を装置
本体に対して固定的に設置したものにしか採用できないような特有の搬送機構では
なく,このことは,刊行物3にあるように,装置本体から引き出し可能に構成され
た搬送機構を含むプロセスユニットにおいても反転給紙するような搬送機構を採用
しているものがあることから明らかである。
 以上のように,刊行物1記載の発明の搬送ユニットの搬送機構を刊行物2に記載
された反転給紙するような搬送機構に変えることに格別の阻害要因もないから,こ
の点は当業者が容易に考えつくことができる構成の変更であるとした審決に何ら違
法はない。
 (3) 取消事由3(相違点(2-1)の判断の誤り)に対して
 前記(2)で反論したように,刊行物1記載の発明が2分割ユニット構造であること
は本願発明1との相違点にはならないし,2分割ユニット構造であることにより,
給紙機構として刊行物2に記載の反転給紙機構を適用できないとする阻害要因もな
い。したがって,審決に違法はない。
 (4) 取消事由4(手続上の違法)に対して
 (4-1) 審決は,本願発明1につき特許法29条2項の規定により特許を受けるこ
とができないと判断し,これによって本件出願が全体として特許法49条2号に該
当し拒絶をすべきものとしたものであり,本願発明2及び本願発明3について判断
しないことは違法ではない。
 (4-2) 原告は,拒絶理由通知書に対して,拒絶理由通知では指摘されていない本
願発明1と刊行物1記載の発明との相違点を指摘し,意見を述べた。
 審決は,その意見を参酌して,原告が主張する点を相違点とするなど,拒絶の理
由の説明の仕方は変えたものの,補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明
(本願発明1)に対して,拒絶理由通知書の拒絶理由と同じく,刊行物1ないし3
を引用し,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとしたもの
である。
 審決は,拒絶理由通知においては相違点として挙げていなかった点を原告(審判
請求人)の意見を参酌して相違点としても,なお,拒絶理由通知で引用した証拠に
よって拒絶すべきと判断したものであり,特許法50条の規定の趣旨に沿った手続
を経たものであって,審決に違法はない。
第3 当裁判所の判断
 1 取消事由1(相違点(3)の判断の誤り)について
 (1) 刊行物3には,審決の理由中の「2.引用刊行物記載の発明」,「[刊行物
3:特開昭64-42662号公報]」の項における「a~c」のとおりの内容が記載され
ていることが認められる(甲7。この記載内容は原告も争わない。)。そして,上
記「c」の部分を詳しく引用すると,「A~Dの何れの箇所で用紙が停止した場合
にも,用紙はプロセスユニット24の何れかのローラに挟持されているか,或いはペ
ーパーガイドで抑え付けられた状態になるため,紙詰り発生によりプロセスユニッ
ト24を第2図に示すように外部に引き出すと,紙詰りした用紙が複写機本体1内に
残ることなく必らずプロセスユニット24と共に引き出される。ここで,紙詰り箇所
に対応するペーパーガイド28,29または上面カバー30を開放することによって紙詰
り用紙を容易に且つ迅速に除去できる。」というものである(甲7)。
 以上の記載によれば,刊行物3記載の発明において,詰まった用紙を,複写機本
体1から引き出したプロセスユニット24の上方から取り出そうとする場合に,記録
材(用紙)搬送路の上方に位置し,用紙を抑え付けているペーパーガイド29が取り
出しの邪魔になることは明らかであり,そのペーパーガイド29を開放すれば,紙詰
まり用紙を容易にかつ迅速に除去できることも明らかである。
 したがって,審決が,刊行物3の記載事項から「用紙搬送機構を具えるプロセス
ユニットを複写機本体から引き出すことによって紙詰まりを除去できるようにした
複写機において,…記録材搬送路上に設けたガイドが,紙詰まり除去に当たっては
邪魔になることが知られている。このことから紙詰まりの除去だけのことを考える
ならば,搬送路上にガイドなどを設けずに,搬送ユニット引き出し時に搬送路の上
方が開放されることが好ましいことは当業者ならば普通に考えつくことである。」
と判断したことに誤りはない。
 (2) 刊行物1(甲5)には,次のような記載がある。
 「本発明は…複写紙の搬送部を2つのユニットに分割し,それぞれのユニットを
その装着位置か機体外部に向けて,複写紙の搬送方向と平行に引き出し可能に装着
して,紙詰まりした複写紙の除去等の作業を簡単に行うことができる複写機を提供
しようとするものである」(1頁右下欄)
 「紙詰まりした複写紙(14)の除去等の作業においては,定着部に至るまでに,紙
詰まりした場合には,ユニット(A)をその装着位置から外部に向けて引き出し,紙
詰まりした複写紙(14)を取り除けばよい。そして,ユニット(A)は,機体(1)の引
き出し口(101)より,ユニット(A)が一段低くなっている箇所,たとえば,転写部付
近まで引き出せるように構成されている方がよい。これは,引き出し口(101)から操
作する手が入りやすく,操作がより簡単にできるからである。」(2頁左下欄~右
下欄)
 そして,第2図の記載からすれば,刊行物1記載の複写機においては,ユニット
Aを途中位置まで引き出した時に,給紙ローラ16からレジストローラ17入口までの
ガイド板で上方を覆われた両ローラ間の記録材搬送路が,機体1の外部に位置する
ことがあると認められる。
 以上によれば,刊行物1記載の発明において,ユニットAを引き出すのは,詰ま
った用紙の除去作業を簡単にするためであるので,刊行物3の記載事項から得られ
る「紙詰まりの除去だけのことを考えるならば,搬送路上にガイドなどを設けず
に,搬送ユニット引き出し時に搬送路の上方が開放されることが好ましい」という
知見に基づいて,詰まった用紙の取り出しを簡単にするために,詰まった紙を上方
から取り出すのに邪魔となる上記両ローラ間の記録材搬送路を覆うガイド板を省略
することは,当業者が容易に想到し得る程度の事項であると認められる。
 そして,上記のような刊行物1記載の発明において,上記ガイド板を省略すれ
ば,「搬送ユニットを途中位置まで引き出し時に,給紙ローラからレジストローラ
入口までの両ローラ間の記録材搬送路上方空間全域が開放(露出)される」ように
構成されることは明らかである。
 よって,相違点(3)に関する審決の判断に誤りがあるとはいえない。
 (3) 原告は,刊行物3記載のようなプロセスユニットを感光体ドラム軸線方向に
引き出す方式では,感光体ドラム軸線方向に引き出す操作をしたときに,ふくらん
だ用紙を残置してしまうおそれがあるので,刊行物3記載の発明ではふくらみを防
止するぺーパーガイドの存在は必須であり,また,たとえ,ぺーパーガイドが存在
しなくても,プロセスユニットを途中位置まで引き出したときに,給紙ローラとレ
ジストローラ間の記録材搬送路上方空間全域が露出されることはあり得ないので,
上記審決の認定判断は誤りである旨主張する。
 しかしながら,仮に,原告主張のとおり,ペーパーガイドが必須であり,給紙ロ
ーラとレジストローラ間の記録材搬送路の上方空間全域が露出されないとしても,
ペーパーガイド29が記録材搬送路の上方に位置し,詰まった用紙の取り出しを邪魔
することに変わりはなく,ペーパーガイド29を開放すれば,紙詰まり用紙を上方か
ら容易にかつ迅速に除去できることも明らかである。よって,紙詰まり用紙の除去
について,刊行物3に記載された事項から上記知見が得られることなどをいう審決
の判断を誤りであるということはできない。
 (4) 原告は,刊行物3記載の発明においては,前記(3)に指摘の点があることに
加え,刊行物1記載の発明においては,ユニットAを引き出しても給紙ローラとレ
ジストローラ間の記録材搬送路上方がガイド板によって隠蔽されており,上方空間
全域が露出されていないことなどを挙げて,相違点(3)についての審決の判断は,
誤っている旨主張する。
 原告が主張する刊行物1,3記載の発明の記録材搬送に係る構成は,給紙ローラ
からレジストローラ間の記録材搬送路上方空間全域が露出されていないことを裏付
けるものではある。しかし,この点は,刊行物1記載の発明も紙詰まりの除去作業
を簡単にするためのものであるので,紙詰まりの除去に関する限り,それを容易に
するための前記知見を刊行物1記載の複写機に適用することを妨げる理由にはなら
ないというべきである。したがって,相違点(3)についての審決の判断に誤りはな
い。
 (5) 原告主張の取消事由1は,理由がない。
 2 取消事由2(相違点(1)の判断の誤り)について
 (1) 原告は,刊行物2(甲6)に記載された発明においては,搬送ユニット引き
出しの構成がなく,搬送ユニットそのものが存在しないこと,本願発明1のように
給紙ローラが搬送ユニット側に支持されユニット側で反転給紙するのではなく,給
紙ローラが装置本体側に存在し,かつ,上面に給紙ローラから記録材のレジスト及
び転写位置を経由して定着器入口側に至る記録材搬送路も装置本体側に存在してい
ることを挙げ,用紙がジャムした場合に,用紙の後端を支持する給紙ローラが装置
本体側に存在するために,用紙後端が装置本体側の給紙ローラに支持されて,搬送
ユニットとともに引き抜けるという作用を達成しない旨主張し,刊行物1記載の発
明において搬送ユニットの搬送機構を刊行物2記載の搬送機構に変えることに格別
の阻害要因もなく,当業者が容易に考えつくことができた構成の変更であるとした
審決の判断が誤りであると主張する。
 (2) 念のため,まず,審決の説示の趣旨を検討しておく。
 審決は,本願発明1と刊行物1記載の発明との一致点を認定した上で,両者の相
違点(1)を認定し,相違点(1)の判断において,刊行物1記載の発明に刊行物2記
載の発明を適用することを検討している。したがって,審決は,刊行物1記載の発
明の構成のうち,上記の一致点として認定された構成が存在することを前提に,相
違点(1)の点に関して刊行物2記載の発明を適用するものであることは明らかであ
る。そうすると,審決は,本願発明1との一致点に含まれるものと解される,刊行
物1における給紙ローラが搬送ユニット側に支持されている構成や,給紙ローラと
レジストローラ間の記録材搬送路が搬送ユニット側に設けられているという構成
を,刊行物2のように装置本体側に存在するように変えるわけではなく,相違点で
ある反転給紙の構成について,刊行物2記載の発明を適用するとの趣旨であると解
される(相違点(1)の判断部分における「刊行物1記載の発明において搬送ユニッ
トの搬送機構を刊行物2の搬送機構に変えることに格別の阻害要因もないから…」
との審決の説示は,誤解を招きかねないが,上記の判断手法が採られていることに
加え,審決には,「搬送機構を反転給紙する機構に変更した…」,「刊行物2に記
載されているような反転給紙する機構に変更した場合,必然的に給紙ローラの位置
が引き出し側の記録材給紙端側に配置…」とも説示されており,審決全体の趣旨か
ら正確に理解すれば,上記の趣旨で記載されていることが明らかである。)。
 ちなみに,刊行物1記載の発明における搬送ユニット側に支持された給紙ローラ
は,給紙端側(引き出し側)とは反対側に配置されているのであるが,審決は,こ
の点を相違点(2-2)と認定した上(原告も争わない。),刊行物2記載の反転給
紙機構を適用する場合に,給紙端側に配置されることになることは,当業者が普通
に考えつくことのできたことであると判断している(原告はこの判断の誤りを審決
取消事由として主張するものではない。)。
 (3) 以上をふまえて,刊行物1記載の発明に刊行物2記載の発明を適用すること
の阻害要因,容易想到性について検討する。
 原告は,刊行物2記載の発明の搬送機構として,搬送ユニット引き出しの構成が
なく,搬送ユニットそのものが存在しないこと,給紙ローラが装置本体側に存在
し,かつ,上面に給紙ローラから記録材のレジスト及び転写位置を経由して定着器
入口側に至る記録材搬送路も装置本体側に存在していることを挙げるが,これらの
構成と,給紙カセット挿入方向の後端側(給紙端側)から用紙を抽出し給紙ローラ
により反転給紙する機構とは,不可分に結びついた構成ではなく,前者の構成でな
い搬送機構においても,上記反転給紙の機構を採用し得るものである。
 そして,刊行物1,2記載の発明は,ともに記録材を給紙ローラにより給紙する
点で共通するものである。
 そうすると,給紙カセット挿入方向の後端側(給紙端側)で給紙ローラにより反
転給紙する刊行物2記載の発明の搬送機構に係る構成を,刊行物1記載の搬送機構
に適用することを妨げる理由はないというべきである。
 また,給紙ローラによって反転給紙する際に,用紙は給紙ローラに巻き付けら
れ,この反転給紙途中で給紙が停止した場合,用紙の一部が給紙ローラにより支持
されることは自明である。
 以上によれば,刊行物1記載の発明に刊行物2記載の反転給紙の搬送機構を適用
した場合に,給紙ローラが装置本体側に存在するようになるわけではないので,用
紙がジャムした場合に用紙の後端を支持する給紙ローラが搬送ユニットとともに引
き抜けるという本願発明1の作用効果を達成し得ないものではないことはもとよ
り,その他の点を検討しても,審決が,「刊行物1記載の発明において搬送ユニッ
トの搬送機構を刊行物2記載の搬送機構に変えることに格別の阻害要因もないか
ら,この点は当業者が容易に考えつくことができた構成の変更である。」とした判
断に誤りがあるとはいえない。
 (4) 原告主張の取消事由2は,理由がない。
 3 取消事由3(相違点(2-1)の判断の誤り)について
 (1) 原告は,刊行物1記載の発明における「給紙部より排紙部に至るユニットを
2つに分割してなる搬送ユニット」に,刊行物2記載の反転給紙機構が装置本体側
に存在する給紙カセットのレイアウト構成を適用することは,論理の飛躍である旨
主張する。
 (2) 検討するに,刊行物2(甲6)には,従来技術の問題点として「カセット2
が本体1より外に突き出ている為,人がぶつかったりする危険を有している。」
(2頁)と指摘されていることからも明らかなように,カセットが複写機本体より
突き出ていれば上記のような不都合が生じることは,従来周知の課題であると認め
られる。
 そうすると,刊行物1記載の発明における搬送ユニットの搬送機構に,刊行物2
に記載されているような反転給紙する機構を採用した場合,上記周知の課題を考慮
して,カセットのほとんどを搬送ユニット本体内に挿入できるようにし,搬送ユニ
ットの給紙カセット収納部についての相違点(2-1)に係る構成とすることは,
当業者が適宜なし得る設計的事項であるというべきである。
 なお,原告は,刊行物1記載の発明においては搬送ユニットが2つに分割されて
いることを主張するが,そもそも本願発明1では記録材搬送路の奥行きが「…定着
器入口側に至る」としか規定されておらず,しかも刊行物1記載のユニットAは,
上記搬送路を有するものである。
 したがって,刊行物1記載の発明において,定着器から排紙部に至る搬送ユニッ
トが分割されるかどうかは,相違点(2-1)の判断を左右するものではない。
 また,原告は,刊行物2記載の発明においては反転給紙機構が装置本体側に存在
するとも主張しているが,給紙カセットのほとんどを搬送ユニット本体内に挿入で
きるようにする際に,反転給紙機構が装置本体側に存在するかどうかが,格別の阻
害要因になるとは認められない(なお,刊行物1記載の発明に刊行物2記載の反転
給紙の搬送機構を適用した場合に,給紙ローラが装置本体側に存在するようになる
わけではないことは前記のとおりである。)。
 以上によれば,「給紙カセット収納部を搬送ユニット内底域のほぼ全面に亙って
形成され,カセットの給紙端側まで収納可能と構成することは,搬送機構を反転給
紙する機構に変更したことに伴って,当業者が普通に考えつくことができたことで
ある。」とした審決の判断に誤りはない。
 原告主張の取消事由3は,理由がない。
 4 取消事由4(手続上の違法)について
 (1) 特許庁特許審査第二部調整課審査基準室作成の平成12年12月28日付け
「特許・実用新案審査基準の改訂について」(甲8)をみると,「5.2.3 最後の拒
絶理由通知についての留意事項」として,「(1)②全ての請求項に係る発明について
各請求項ごとに新規性・進歩性等の特許要件について判断をする(…)」との記載
がある。原告は,上記改訂審査基準の精神に照らせば,拒絶理由通知だけでなく,
審決においても,すべての請求項,すなわち請求項2及び3(本願発明2及び3)
についても特許要件を満たすか否かの判断を示すべきであって,この判断をしなか
った審決は違法であると主張する。
 審査における拒絶理由通知の制度は,出願人に意見を述べる機会を付与し,補正
等の手続に資するなどの趣旨があるものと解されるところ,上記審査基準は,審査
の経済等も考慮して(発見された拒絶理由の一部のみを通知し,出願人の意見書提
出又は補正手続等の結果,当該拒絶理由が解消した場合には,その余の拒絶理由の
通知に始まる上記同様のことを繰り返すことになり,手続上不経済である。),各
請求項について発見し得るすべての拒絶理由を一括して通知することとした趣旨で
あると解される。そうすると,上記基準が審査における拒絶理由通知に関するもの
で,審決の判断方法に関するものではないことに加え,上記の基準の趣旨に照らし
ても,上記基準が審決手続を拘束するものではなく,上記基準ないしはその精神を
根拠として審決に違法があるという原告の主張は,採用の限りではない。
 (2) 原告は,拒絶理由通知において一致点とした事項を審決において相違点に変
更したにもかかわらず,再度の拒絶理由通知も出さず,出願人に再度の意見の機会
を与えなかったのは,特許法50条の立法趣旨に照らして違法である旨主張する。
 証拠(甲1,3,4)及び弁論の全趣旨によれば,(ⅰ)被告は,原告に対し,平
成14年2月27日付け起案に係る拒絶理由通知書において,補正前の特許請求の
範囲の請求項1に係る発明に対して,刊行物1ないし3を引用し,特許法29条2
項の規定により特許を受けることができない旨の拒絶の理由を示したこと,(ⅱ)同
通知では,本願発明1の構成である「両ローラ間の記録材搬送路上方空間全域を開
放されるように構成すること」につき,一致点であるとしたこと,(ⅲ)これに対
し,原告は,平成14年5月7日付けで,手続補正書とともに意見書を提出し,刊
行物1記載の発明について「…搬送ユニットの引き出された搬送路の上部は,第2
図より明瞭なように,給紙ガイド18に隠蔽されており,前記給紙ローラ16からレジ
ストローラ17入口までの両ローラ間の記録材搬送路上方空間全域が露出されておら
ず,給紙ガイド18(または付番されていないガイド板)によって隠蔽されている。
従って給紙ガイド18によって前記両ローラ間の記録材搬送路上方空間の少なくとも
一部でも露出されていないために,給紙側のジャム処理が給紙ガイド18によって邪
魔をされ容易にできない。」などと,本願発明1と刊行物1記載の発明との相違点
として指摘し,意見を述べたこと,(ⅳ)審決では,前記のとおり,上記の点を相違
点(3)と認定した上,この点につき,「刊行物3…にあるように,…記録材搬送路
上に設けたガイドが,紙詰まり除去に当たっては邪魔になることが知られている。
このことから紙詰まりの除去だけのことを考えるならば,搬送路上にガイドなどを
設けずに,搬送ユニット引き出し時に搬送路の上方が開放されることが好ましいこ
とは当業者ならば普通に考えつくことである。そこで,紙詰まり除去に注目して,
給紙ローラから記録材のレジストまでの記録材搬送路も搬送ユニットの上面に設け
るとともに,搬送ユニットを途中位置まで引き出し時に,給紙ローラからレジスト
ローラ入口までの両ローラ間の記録材搬送路上方空間全域を開放されるように構成
することは,当業者が容易に考えつくことができた構成の変更である。」などと判
断したことが認められる。
 以上によれば,本件審決においては,相違点(3)の判断中に示された刊行物3
は,相違点の判断に際し,引用例として使用されたのではなく,一般的な知見を裏
付ける資料として言及されたものにすぎないのであり(審決の説示からも明らかで
ある。),刊行物3自体は,既に拒絶理由通知において原告に示されており,拒絶
理由通知で一致点とされたものを原告の主張に沿って相違点と認定し判断を加える
ことは,原告にとって予想外の事項が判断対象となったものではないし,そのよう
な扱いをすることは,原告にとって不利益なことではないものといえる。これら本
件の諸事情に照らせば,審判手続の上記措置は,特許法50条の趣旨に反するもの
ではないし,その他,審判手続に違法があるとすべき事由は見当たらない。
 (3) 原告主張の取消事由4の主張は,いずれも採用することができない。
 5 結論
 以上のとおり,原告主張の審決取消事由はいずれも理由がないので,原告の請求
は棄却されるべきである。
東京高等裁判所第18民事部
    裁判長裁判官   塚  原  朋  一
          裁判官   古  城  春  実
          裁判官   田  中  昌  利
【別紙】 審決の理由
不服2000-19755号事件,平成14年7月15日付け審決
(下記は,上記審決の理由部分について,文書の書式を変更したが,用字用語の点
を含め,その内容をそのまま掲載したものである。)
理 由
1.手続の経緯・本願発明
 本願は、出願日が平成3年3月15日である実願平3-22459号を平成9年12月11日に特
許出願に変更したものであって、その請求項1ないし3に係る発明は、平成12年8月
28日、平成13年1月15日および平成14年5月7日に提出された手続補正書によって補正
された明細書および図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし3
に記載されたとおりのものであり、特に請求項1には次のとおりの発明が記載され
ている。以下、「本願発明1」という。
「【請求項1】 少なくとも上面に給紙ローラから記録材のレジスト及び転写位置
を経由して定着器入口側に至る記録材搬送路を有するとともに、装置本体から引き
出し可能な搬送ユニットを備えた電子写真装置において、
 前記搬送ユニットに、該搬送ユニット内底域のほぼ全面に亙って形成され、カセ
ットの給紙端側まで収納可能な給紙カセット収納部を設けるとともに、
 該搬送ユニットが感光体ドラム軸線とほぼ直交する方向に装置本体から少なくと
も途中位置まで引き出し可能であって、引き出し側の記録材給紙端側に給紙ローラ
と該給紙ローラより奥側の前記記録材搬送路上にレジストローラ対の少なくとも下
ローラがそれぞれ配置され、
 更に、該収納部内に、ユニット引き出し方向と同じ方向に単独で引き出し可能に
給紙カセットがカセット給紙端側まで収納配置され、
 該給紙カセットに載置された記録材を前記給紙ローラにより前記給紙端側で反転
給紙されながら前記レジストローラ対まで搬送されるように構成し、
 前記搬送ユニットを前記途中位置まで引き出し時に、前記給紙ローラからレジス
トローラ入口までの両ローラ間の記録材搬送路上方空間全域が露出されることを特
徴とする電子写真装置。」
 
2.引用刊行物記載の発明
 当審における平成14年2月27日付けで通知した拒絶の理由に引用した刊行物1ない
し3には次のような発明が対応する図面とともに記載されている。
[刊行物1:特開昭57-190982号公報]
a.以上のような電子写真複写機において、本発明では、給紙端より、定着された
複写紙を排紙する排紙端に至るまでの複写紙搬送部を2つのユニットに分割し、そ
れぞれのユニットを、その装着位置から機体外部に向けて、複写紙の搬送方向と平
行に、それぞれが離反する方向に引き出し可能に装着したもので、一点鎖線で示す
ように、給紙カセット(15)、給紙ローラ(16)、レジスタローラ(17)、給紙ガ
イド(18)、転写用コロトロン(10)、分離用コロトロン(11)、搬送ベル
ト(20)を含む構造体をユニット(A)とし、定着装置(21)、排紙ローラ(26)
を含む定着部をユニット(B)としたものである。そして、ユニット(A)、ユニ
ット(B)は、それぞれ図示していないガイドレール上に摺動自在に装着されてお
り、図中矢印方向に移動可能に構成されている。(第2頁右上欄第18行~左下欄第
12行参照)
b.したがって、紙詰まりした複写紙(14)の除去等の作業においては、定着部に
至るまでに、紙詰まりした場合には、ユニット(A)をその装着位置から外部に向
けて引き出し、紙詰まりした複写紙(14)を取り除けばよい。そして、ユニット
(A)は、機体(1)の引き出し口(101)より、ユニット(A)が一段低くなって
いる箇所、たとえば、転写部付近まで引き出せるように構成されている方がよい。
これは、引き出し口(101)から操作する手が入りやすく、操作がより簡単にできる
からである。(第2頁左下欄第13行~右下欄第2行参照)
c.また、定着部で紙づまりした場合には、ユニット(B)をその装着位置から機
体(1)外部に向けて引き出し、紙詰まりした複写紙を取り除けば良い。(第2頁右
下欄第3行~同欄第5行参照)
 
 以上の記載を対比のためにまとめると、
ア)第1図及び第2図の記載からみて、ユニットAの上面に転写位置から定着装置
入口側に至る複写紙搬送路が設けられているとみることができ、
イ)給紙カセットについて具体的な説明がないが、複写紙の補給が必要なことは明
らかであり、そのためにはユニットA引き出し方向と同じ方向に単独で引き出し可
能であるということができ、
 以上のことから、刊行物1には次のような発明が図面とともに記載されている。
「上面に転写位置から定着装置入口側に至る複写紙搬送路を有するとともに、装置
本体から引き出し可能なユニットAを備えた電子写真複写機において、
 前記ユニットAに、該ユニットA内に形成され、カセットを収納可能な給紙カセ
ット収納部を設けるとともに、
 該ユニットAが感光ドラム軸線とほぼ直交する方向に装置本体から少なくとも途
中位置まで引き出し可能であって、記録材給紙端側に給紙ローラと該給紙ローラよ
り奥側の前記複写紙搬送路上にレジスタローラ対の少なくとも下ローラがそれぞれ
配置され、
 更に、該収納部内に、ユニットA引き出し方向と同じ方向に単独で引き出し可能
に給紙カセットが収納配置され、
 該給紙カセットに載置された複写紙を前記給紙ローラにより給紙されながら前記
レジスタローラ対まで搬送されるように構成し、
た電子写真複写機。」
 
[刊行物2:特開昭61-238620号公報]
a.この種の画像記録装置の従来技術を第6図、第7図を用いて説明する。第6図
において、カセット2は本体1に図示の矢印(X)方向より挿入してセットされる。
カセット2内の用紙(図示せず)は、ピックアップローラ3で一点鎖線で示す矢印方
向に抽出される。・・・この装置は、後でページの差し換えを必要としない利点が
ある。しかしこの構成の場合、装置の全長Aは、本体1の長さBとカセット2の長さ
の一部Cとの和となり、大きくなる欠点がある。・・・従来技術の別な方式として
第7図に示す構成の記録装置がある。第7図の装置はカセット2の大部分を本体1内
に収納している。カセット2内の用紙(図示せず)はピックアップローラ3により抽
出された後、反転折り返され、・・・トレー8’に排出される。この場合、装置の全
長Aは本体1の長さBとトレー8’の長さCとの和となり、大きくなる欠点がある。
(第1頁右下欄第6行~第2頁第14行参照)
b.本発明は、本体内に挿入したカセット内に収納された用紙を、該カセット挿入
方向の後端側から抽出した後に折り返して転写部に送紙し、更に折り返して本体上
面に排出するように構成することにより、カセットの殆んどを本体内に挿入できる
ようにしてカセットの突出を減じ、また排紙を本体上面とすることによって排紙ト
レイの突出を減ずるものである。(第2頁右上欄第12行~同欄第19行参照)
 以上の記載を対比のためにまとめると、刊行物2には次のような発明が図面とと
もに記載されている。
「装置本体内底域のほぼ全面に亙って形成され、カセットの給紙端側まで収納可能
な給紙カセット収納部を設けるとともに、該給紙カセットに載置された用紙を給紙
ローラにより給紙端側で反転給紙しながらレジストローラ対まで搬送するように構
成した画像記録装置。」
 
[刊行物3:特開昭64-42662号公報]
a.如何なる箇所で紙詰りが生じても、プロセスユニットを複写機本体から引き出
すことにより、紙詰り原因の用紙をプロセスユニットとともに取り出すことがで
き、この用紙を容易に且つ迅速に除去処理できる。(第2頁左下欄第4行~同欄第8行
参照)
b.そして、1点鎖線で囲った部分が複写機本体1に対し出入自在に装着されたプロ
セスユニット24であり、下部に用紙カセット25を内蔵しているとともに、前述の給
紙機構部12、転写チャージャ10からなる転写機構部、クリーナ機構部14、用紙搬送
機構部16、定着機構部17および排紙機構部20等を一体に備えている。第2図は第1
図のプロセスユニット24を複写機本体1から引き出した状態を示し、このプロセスユ
ニット24には、これを複写機本体1から引き出すための取手26が設けられ、用紙カセ
ット25にもこれをプロセスユニット24から引き出すための取手27が設けられてい
る。(第3頁左上欄第9行~右上欄第1行参照)
c.ここで、紙詰り箇所に対応するペーパーガイド28,29または上面カバー30を開
放することによって紙詰り用紙を容易に且つ迅速に除去できる。(第3頁左下欄第
8行~同欄第11行参照)
 
3.対比
 本願発明1を刊行物1記載の発明と対比すると、
a.刊行物1記載の発明において、ユニットAの複写紙搬送部は、レジスタローラ
によるレジスト及び転写用コロトロンによる転写位置から定着装置入口側に至る複
写紙搬送路を有しているし、
b.刊行物1記載の発明の「複写紙」、「定着装置」、「ユニットA」、「電子写
真複写機」、「感光ドラム」、「レジスタローラ」は、それぞれ本願発明1の「記
録材」、「定着器」、「搬送ユニット」、「電子写真装置」、「感光体ドラム」、
「レジストローラ」に相当し、
以上のことから両者間には次のような一致点、相違点がある。
(一致点)
 上面に転写位置を経由して定着器入口側に至る記録材搬送路を有するとともに、
装置本体から引き出し可能な搬送ユニットを備えた電子写真装置において、
 前記搬送ユニットに、該搬送ユニット内底域に形成され、カセットを収納可能な
給紙カセット収納部を設けるとともに、該搬送ユニットが感光体ドラム軸線とほぼ
直交する方向に装置本体から少なくとも途中位置まで引き出し可能であって、給紙
ローラと該給紙ローラより奥側の前記記録材搬送路上にレジストローラ対の少なく
とも下ローラがそれぞれ配置され、更に、該収納部内に、ユニット引き出し方向と
同じ方向に単独で引き出し可能に給紙カセットが収納配置され、
 該給紙カセットに載置された記録材を前記給紙ローラにより給紙されながら前記
レジストローラ対まで搬送されるように構成し、た電子写真装置。
(相違点)
(1)搬送ユニットにおける給紙カセットに載置された記録材を給紙ローラにより
レジストローラ対まで搬送する態様が、本願発明1は記録材を給紙ローラにより給
紙端側で反転給紙されながらレジストローラ対まで搬送するものであるのに対し
て、刊行物1記載の発明においては、給紙ローラにより給紙された記録材を反転さ
せずにそのままの姿勢でレジストローラ対まで搬送するものである点
(2)給紙カセットに載置された記録材を給紙ローラによりレジストローラ対まで
搬送する態様が相違点(1)であげたように相違することに関連して、
(2-1)搬送ユニットの給紙カセット収納部について、本願発明1は搬送ユニッ
ト内底域のほぼ全面に亙って形成され、カセットの給紙端側まで収納可能であるの
に対して、刊行物1記載の発明は、搬送ユニット内底壁の一部に形成され、カセッ
トの一部分が収納可能である点
(2-2)給紙ローラの位置が、本願発明1は引き出し側の記録材給紙端側に給紙
ローラが配置されているのに対して、刊行物1記載の発明では引き出し側とは反対
側の記録材給紙端側に配置されている点
(3)本願発明1は、搬送ユニットの上面に給紙ローラから記録材のレジストまで
の記録材搬送路も有するとともに、搬送ユニットを途中位置まで引き出し時に、給
紙ローラからレジストローラ入口までの両ローラ間の記録材搬送路上方空間全域が
露出されるのに対して、刊行物1記載の発明は給紙ローラから記録材のレジストま
での記録材搬送路の上方にはガイドが設けられていて、搬送ユニットを途中位置ま
で引き出し時に、給紙ローラとレジストローラ対の間の搬送路全域が露出されない

 
4.判断
 相違点(1)については、刊行物2には、搬送機構を搬送ユニットととして独立
させ、複写機本体から引き出し可能としたものではないが、搬送機構として本体内
に挿入したカセット内に収納された用紙を、該カセット挿入方向の後端側から抽出
した後に折り返して、すなわち反転させてレジストローラ対まで搬送するものが記
載されており、刊行物1記載の発明において搬送ユニットの搬送機構を刊行物2記
載の搬送機構に変えることに格別の阻害要因もないから、この点は当業者が容易に
考えつくことができた構成の変更である。
 相違点(2)の(2-1)については、搬送ユニットの搬送機構として刊行物2
に記載されているような反転給紙する機構に変更した場合、この搬送機構を採用す
る目的の一つが、カセットの殆どを本体内に挿入できるようにすることにあること
から、給紙カセット収納部を搬送ユニット内底域のほぼ全面に亙って形成され、カ
セットの給紙端側まで収納可能と構成することは、搬送機構を反転給紙する機構に
変更したことに伴って、当業者が普通に考えつくことができたことである。
 相違点(2-2)についても搬送ユニットの搬送機構として刊行物2に記載され
ているような反転給紙する機構に変更した場合、必然的に給紙ローラの位置が引き
出し側の記録材給紙端側に配置されることになり、この点も当業者が普通に考えつ
くことができたことである。
 相違点(3)について検討する。
 刊行物3には、上記刊行物3の摘記事項cにあるように、用紙搬送機構を具える
プロセスユニットを複写機本体から引き出すことによって紙詰まりを除去できるよ
うにした複写機において、紙詰まりがあった場合ガイドを開放することによって紙
詰まり用紙を取り出すとあり、記録材搬送路上に設けたガイドが、紙詰まり除去に
当たっては邪魔になることが知られている。
 このことから紙詰まりの除去だけのことを考えるならば、搬送路上にガイドなど
を設けずに、搬送ユニット引き出し時に搬送路の上方が開放されることが好ましい
ことは当業者ならば普通に考えつくことである。
 そこで、紙詰まり除去に注目して、給紙ローラから記録材のレジストまでの記録
材搬送路も搬送ユニットの上面に設けるとともに、搬送ユニットを途中位置まで引
き出し時に、給紙ローラからレジストローラ入口までの両ローラ間の記録材搬送路
上方空間全域を開放されるように構成することは、当業者が容易に考えつくことが
できた構成の変更である。
 そして、本願発明1は全体として従来技術から窺い知れないような格別の作用効
果を奏するものでもない。
 
5.むすび
 以上のことから、本願発明1は刊行物1ないし3記載の発明に基づいて、当業者
が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特
許を受けることができないものである。
 よって、結論のとおり審決する。
    平成14年 7月15日

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