弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各抗告を棄却する。
         理    由
 第一 抗告人A、同B、同C、同D、同E、同Fの各抗告について 本件抗告の
趣意は、抗告人ら代理人弁護士入江五郎、同下坂浩介共同作成の抗告状記載のとお
りであるから、ここにこれを引用する。
 第一点について
 所論は、要するに、刑事裁判に関する憲法上の諸原則の適用を排除し、被害者的
立場にある裁判所または裁判官が、直接刑罰類似の制裁を科することを認めた法廷
等の秩序維持に関する法律(以下本法と略称する。)は、憲法三一条に違反する、
というのである。しかし、本法による制裁が、制裁の対象となる行為を直接現認し
た裁判所または裁判官によつて科され、その際、刑事裁判に関する憲法上の諸原則
の適用がないからといつて、本法が憲法三一条に違反するものでないことは、累次
の最高裁判所の判例(最決昭三三・一〇・一五・刑集一二巻一四号・三二九一頁、
同昭三四・四・九刑集一三巻四号四四二頁、同昭三五・九・二一判例時報二三八号
七頁)の趣旨に徴し、明らかなところである。論旨は理由がない。
 第二点について
 所論は、本件監置処分は、証拠に基づかずに行なわれたものであつて、本法四条
三項に違反する、というの<要旨第一>である。しかし、本件監置処分は、裁判所の
面前で行なわれた明白な行為に対し、これを直接認識した裁判所により
科せられたものであるところ、かかる場合、裁判所は、その自ら現認したところに
基づいて裁判すれば足り、それ以上証拠調または事実調査の義務を負うものではな
い。したがつて、原裁判所が、本件制裁を科するに際し、特段の証拠調または事実
調査の手続を行なわなかつたからといつて、右制裁裁判の手続が、本法四条三項に
違反するものでないことは、明らかである。論旨は理由がない。
 第三点について
 所論は、本件監置処分が極端に重く、合理的な裁量の範囲を逸脱しているという
のである。しかし、右は、帰するところ原裁判の制裁の過重を論難するに止まり、
適法な抗告理由にあたらない。それゆえ、本件各抗告は、いずれも理由がなく棄却
を免れない。
 第二 抗告人「三十九号監置1号」の抗告について
 記録を調査するに、抗告人ら代理人入江五郎、同下坂浩介共同作成の抗告状に
は、抗告人の表示として「三十九号監置1号」という記載があるだけで、氏名の記
載はなく、また本件抗告代理人の選任届には、右代理人両名の署名押印のほか、
「三十九号監置1号」という記載とその下の指印および右指印が本人の指印であ<要
旨第二>ることを証明する旨の札刑看守部長Gの署名押印のある証明文言があるだけ
で、本人の署名はない。ところで法廷等の秩序維持に関する規則一三条
二項にいう代理人の選任届には原則として本人の署名を必要とすると解すべきであ
るから、氏名を記載することができない合理的な理由がない本件においては、本人
の署名のない選任届によつてした代理人の選任は無効であり、したがつて、かかる
代理人によつてなされた本件抗告は不適法であつて棄却を免れない。
 第三 その余の抗告人らの各抗告について
 <要旨第三>記録を調査するに、昭和四五年三月二五日午後一時五〇分、拘束一三
号こと氏名不詳の男、同一四号こと氏名不詳の男、同二二号こと氏名不
詳の男、同二四号こと氏名不詳の男、同二六号こと氏名不詳の女、同三三号こと氏
名不詳の男、同三五号こと氏名不詳の女の七名が、氏名の明らかな六名および「三
十九号監置1号」という者とともに、監置五日の制裁の裁判を受けたことが認めら
れる。他面、本件抗告状には、抗告人の表示として、右の氏名の明らかな者六名お
よび「三十九号監置1号」の合計七名のほか、H、I、J、K、L、M、Nの七名
の名が記載されている。しかし、提出された抗告代理人選任状その他記録上うかが
われるすべての資料を総合しても、右抗告状記載のH以下七名の者が、それぞれ前
記拘束番号何番の者と対応するのかはおろか、果たして、真実監置五日の制裁を受
けた者であるかどうかすら、明らかではない。このような特定性を欠く不明確な形
式による本件抗告の申立は、手続の明確性の見地から、不適法なものといわざるを
えないから、本件抗告は棄却を免れない。
 よつて、法廷等の秩序維持に関する規則一八条一項により本件各抗告を棄却する
こととして、主文のとおり決定する。
 (裁判長裁判官 原田一隆 裁判官 神田鉱三 裁判官 木谷明)

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