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平成18年(行ケ)第10126号審決取消請求事件
平成19年2月22日判決言渡,平成18年12月13日口頭弁論終結
判決
原告長島鋳物株式会社
訴訟代理人弁理士鈴木秀雄
被告特許庁長官中嶋誠
指定代理人佐々木芳枝,田中秀夫,岡田孝博,田中敬規
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1原告の求めた裁判
「特許庁が訂正2005−39181号事件について平成18年2月9日にした
審決を取り消す」との判決。。
第2事案の概要
本件は,後記本件特許の特許権者である原告が,訂正審判の請求をしたところ,
請求は成り立たないとの審決がされたため,同審決の取消しを求めた事案である。
1特許庁における手続の経緯
()本件特許(甲第7号証)1
特許権者:長島鋳物株式会社(原告)
発明の名称:地下構造物用錠装置」「
特許出願日:平成12年2月25日(特願2000−49847号)
設定登録日:平成15年7月11日
特許番号:特許第3449608号
()本件手続2
審判請求日:平成17年10月12日(訂正2005−39181号(甲第9)
号証)
審決日:平成18年2月9日
審決の結論:本件審判の請求は,成り立たない」「。
審決謄本送達日:平成18年2月21日
2特許請求の範囲の記載
請求項の数は,訂正審判請求前のものが3個,訂正審判請求に係るものが3個で
ある。
()訂正審判請求前のもの1
「請求項1】地下構造物の枠体(11)の開口を閉じるための蓋体(12)がヒ【
(),()ンジ装置38によって枠体に開閉可能に繋ぎ止められておりその蓋体12
を施錠するために設けられた錠装置であって,開口を閉じることにより内外方向へ
移動して蓋体(12)を施錠状態とし,外部操作によって施錠状態を解除する状態
(),(),()となる鉤部材15を枠体側に設けその鉤部材15は上端に蓋体12
を閉じる動作に伴う内外方向への動きにより,蓋体(12)の周縁部内側に設けら
,()()()れている錠止部分27と係合可能な鉤部16を有する縦長の鉤杆17
を有し,かつ枠体の内側に設けられているガイド部(19)に案内される軸部(2
,),()142により上下方向へ移動可能に設けられており解錠のために蓋体12
が枠体(11)よりも上までガイド部(19)の範囲であげられ,その後蓋体(1
2)に加えられる内外方向への動きにより鉤部(16)から錠止部分(27)が外
れ施錠を解除可能に,枠体側に軸支されていることを特徴とする地下構造物用錠装
置。
【請求項2】鉤部材(15)は蓋体(12)を施錠状態とする方向へ弾性手段に
よって付勢されている請求項1記載の地下構造物用錠装置。
【請求項3】鉤部材(15)は上端に鉤部(16)を有する縦長の鉤杆(17)
を2個左右に並結した構造を有している請求項1又は2記載の地下構造物用錠装
置」。
()訂正審判請求書添付の訂正明細書のもの(甲第9号証。下線部が,後記訂2
正事項a.に係る訂正箇所である)。
「請求項1】地下構造物の枠体(11)の開口を閉じるための蓋体(12)がヒ【
(),()ンジ装置38によって枠体に開閉可能に繋ぎ止められておりその蓋体12
を施錠するために設けられた錠装置であって,開口を閉じることにより内外方向へ
移動して蓋体(12)を施錠状態とし,外部操作によって施錠状態を解除する状態
(),(),()となる鉤部材15を枠体側に設けその鉤部材15は上端に蓋体12
を閉じる動作に伴う内外方向への動きにより,蓋体(12)の周縁部内側に設けら
,()()()れている錠止部分27と係合可能な鉤部16を有する縦長の鉤杆17
を有し,かつ枠体の内側に設けられているガイド部(19)に案内されて軸部(2
,),()142により上下方向へ移動可能に設けられており解錠のために蓋体12
が枠体(11)よりも上までガイド部(19)の範囲であげられ,その後蓋体(1
2)に加えられる内外方向への動きにより鉤部(16)から錠止部分(27)が外
れ施錠を解除可能に,枠体側に軸支されていることを特徴とする地下構造物用錠装
置。
【請求項2】鉤部材(15)は蓋体(12)を施錠状態とする方向へ弾性手段に
よって付勢されている請求項1記載の地下構造物用錠装置。
【請求項3】鉤部材(15)は上端に鉤部(16)を有する縦長の鉤杆(17)
を2個左右に並結した構造を有している請求項1又は2記載の地下構造物用錠装
置」。
3審決の理由の要点
審決の理由は,要するに,本件訂正審判請求に係る訂正事項のうち,請求項1に
係る訂正事項a(以下,審決を引用する場合を含め「訂正事項a」と表記する。.,
また,本件訂正審判請求前の請求項1を「訂正前の請求項1」と,訂正事項aに係
る請求項1を「訂正後の請求項1」ということがある)は,実質上特許請求の範。
囲を拡張し,又は変更するものに該当し,特許法126条4項の規定に違反するも
のであるから,他の訂正事項及び他の訂正要件について検討するまでもなく,訂正
を認めることはできないとするものである。
審決の理由のうち,訂正事項aが,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更す
るものに該当するとの判断の部分は,以下のとおりである。
「訂正事項aは,請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である『鉤部材(1(
5)は)枠体の内側に設けられているガイド部(19)に案内される軸部(21,42)によ
り上下方向へ移動可能に設けられて』いることを『鉤部材(15)は)枠体の内側に設けら(
れているガイド部(19)に案内されて軸部(21,42)により上下方向へ移動可能に設け
られて』いることに訂正するものである。
そして,かかる訂正により,訂正前の請求項1に記載された『軸部』はガイド部に案内され
ることが必須の構成であったものが,訂正後の請求項1に記載された『軸部』はガイド部に案
内されないものも含むものとなっている。
したがって,上記訂正事項aは,請求項1に記載した事項について限定した内容を省く表現
にするものであり,特許請求の範囲を実質的に拡張・変更するものに該当し,平成15年改正
特許法第126条第4項の規定に違反するものである。
なお,請求人は,平成18年1月5日付け意見書の第9頁第28行∼第10頁第6行におい
て,上記訂正事項aは『鉤部材(15)がガイド部(19)に案内されて』の条件を明確に,
した誤記の訂正ないし不明瞭な記載の釈明をなすものであるから,当然に特許請求の範囲を実
質的に拡張・変更するものではない旨主張しているが,仮に,上記訂正事項aが誤記の訂正な
,,いし不明瞭な記載の釈明にあたるとしても特許請求の範囲を実質的に拡張・変更するものは
特許法第126条第4項の要件に違反するものであるから(平成15年改正法における無効審
判等の運用指針第103頁参照,かかる請求人の主張は認められない。)
また,請求人は,同意見書の第15頁第20∼26行において,訂正拒絶理由通知は『ガ,
イド部(19)に案内される軸部(21,42』の事項を合理的な理由もなく単に字義どお)
りの意味に解釈して誤って本件発明を特定するための必須の構成であるとなし,この誤った発
明の要旨認定を前提として本件訂正を特許請求の範囲を実質的に拡張・変更するものであると
判断したと主張しているが,請求項に係る発明の認定は,請求項の記載が明確である場合は,
請求項の記載どおり認定するべきであり(特許・実用新案審査基準第Ⅱ部第2章新規性・進
歩性1.5.1請求項に係る発明の認定(1)ないし(4)参照,訂正前の請求項1の)
記載に格別不明瞭なものはみあたらないから,請求項1の記載を字義どおりの意味に解釈する
ことに誤りはない。
さらに,同意見書の第18頁第1∼10行には『発明の詳細な説明においては『鉤部材1,,
5は,左右の側辺部を囲むように枠体の内側に設けられた左右のガイド部19,19によって
上下方向へ移動可能に設けられている(図5参照(0014『実施例2の錠装置10)。』【】),
もガイド部19によって上下方向へ移動可能に設けられている錠部材(鉤部材の誤記)15を
有する点,実施例1のもの等と共通するが(0021)と記載されており『鉤部材15,』【】,
がガイド部19に案内されて上下移動する点が構成表示として明記されているが軸部2』,『(
,)』。』142がガイド部19に案内されて上下移動するとの構成表示は一切なされていない
と記載されている。
しかしながら,発明の詳細な説明の【0021】の『実施例2の場合,ガイド部19に形成
されているガイド溝43に,鉤部材15の下端の軸部42を嵌めその溝内で上下方向へ移動可
能とされる』の記載及び図8,図9からみて,発明の詳細な説明及び図面に『ガイド部(1。
9)に案内される軸部(42』が記載されていることは明らかである。)
そして,発明の詳細な説明の実施例1及び実施例2がいずれも鉤部材がガイド部に案内され
るものであるとしても,実施例2は鉤部材の下端の軸部がガイド部に案内されるのに対し,実
施例1は軸部がガイド部に案内されるものではない。
そうすると,上記訂正事項aは,軸部がガイド部に案内される構成を含む実施例2に相当す
る請求項1に係る発明を,軸部がガイド部に案内される構成を必須の構成としない実施例1に
相当する発明に変更,または,実施例1及び実施例2の両者が含まれる発明に拡張しようとす
るものであるといえる」。
第3原告の主張(審決取消事由)の要点
1審決は,訂正事項aが実質的に特許請求の範囲を拡張・変更するものに該当す
ると誤って判断したものであるから,取り消されるべきである。
2取消事由(訂正事項aが実質的に特許請求の範囲を拡張・変更するものとした
判断の誤り)
()審決は,訂正事項aが実質的に特許請求の範囲を拡張・変更するものとし1
た理由として「かかる訂正により,訂正前の請求項1に記載された『軸部』はガ,
イド部に案内されることが必須の構成であったものが,訂正後の請求項1に記載さ
れた『軸部』はガイド部に案内されないものも含むものとなっている」ことを挙。
げている。
しかしながら,以下のとおり,訂正前の請求項1記載の発明において「軸部」,
がガイド部に案内されることが,必須の構成であったとすることは明らかに不合理
であり,当業者は,訂正前の請求項1の「ガイド部(19)に案内される軸部(2
1,42)により」との記載が,誤記又は不明瞭な記載であって,本来「ガイド,
部(19)に案内されて軸部(21,42)により」であると容易に理解するもの
である。
ア請求項1の「軸部(21,42)により」との記載が「軸部(21)又は,
軸部(42)により」の意味であることは明らかである。しかしながら,請求項1
記載の発明に係る実施例2の「軸部(42」は,ガイド部に案内されるもの(軸)「
部」が運動するもの)であるが,実施例1の「軸部(21」は,ガイド部に案内)
されないもの(軸部」が運動しないもの)ということができ,そうすると,この「
ように運動の有無という点に関して正反対である「軸部(21,42」を「ガイ),
ド部(19)に案内される」という「運動する物体」を形容の対象とする用語によ
って形容する表現形式は,不明瞭な記載というべきである。
イ請求項1には発明を特定するために必要な事項として・・・鉤部材1,,「(
5)を枠体側に設け」との鉤部材(15)を枠体側に設ける構成と「その鉤部材,,
(15)は・・・枠体側に軸支されている」との鉤部材(15)に関する具体的な
構成とが記載されている。そして,このうち,鉤部材(15)に関する具体的な構
成には,①「枠体の内側に設けられているガイド部(19)に案内される軸部(2
1,42)により上下方向へ移動可能に設けられており(以下「構成X1」とい,」
う及び②解錠のために蓋体12が枠体11よりも上までガイド部1。),「()()(
9)の範囲であげられ(以下「構成X2」という)との各構成が含まれるとこ,」。
ろ,構成X1及び構成X2の主語は,当然「鉤部材(15」である。)
そうすると,構成X1においては「鉤部材(15」が軸部(21,42)によ,)
り上下方向へ移動可能に設けられているものとなるが,仮に「ガイド部(19),
に案内される軸部2142の文言どおりにガイド部に案内されるのが軸(,)」,「
部(21,42」であるとすると,構成X1において「鉤部材(15」が何に),)
対して上下移動するのか,その上下移動の媒体が不明となる。
また,構成X2は「鉤部材(15」が「解錠のために蓋体(12)が枠体(1,)
1)よりも上までガイド部(19)の範囲であげられ」るものであるから「鉤部,
()()」。,材15がガイド部19に案内されることが前提となるものである他方
構成X1は,構成X2に係る「鉤部材(15」が「解錠のために蓋体(12)が,)
枠体(11)よりも上までガイド部(19)の範囲であげられ」るための具体的構
成を示しているものと解されるから,構成X1の構成中に,構成X2の前提となる
「鉤部材(15)がガイド部(19)に案内される」ことが示されていなければな
らない。しかるに,仮に「ガイド部(19)に案内される軸部(21,42」,)
の文言どおりに,ガイド部に案内されるのが「軸部(21,42」であるとする)
,,「()()と構成X1は示されていなければならない鉤部材15がガイド部19
に案内される」ことを示していない外観を呈することになる。
このように,訂正前の請求項1に係る「ガイド部(19)に案内される軸部(2
1,42)により」との記載は,請求項1の構成相互の関連性において,技術的に
不整合,不明確なものであり,不合理をもたらすものである。
ウなお,被告は,構成X2に係る「解錠のために蓋体(12)が枠体(11)
よりも上までガイド部(19)の範囲であげられ」の主語が「鉤部材(15」,,)
ではなく「蓋体(12」であると主張するが,被告の主張は,本件特許に係る無,)
効審判請求に対しガイド部19に案内されるのが鉤部材もしくは鉤,「()」「」「
部材と蓋体」であるとした審決(無効2004−80112号。乙第1号証,及)
び「ガイド部の範囲であげられ」るのが「鉤部材」であると認定した判定(判定2
006−60047号。甲第30号証)と矛盾するものである。鉤部材15は,ガ
イド部19の上端部と下端部との間で上下移動し,鉤部材15がガイド部19の上
端部又は下端部に達したとき軸部(21,42)によってその動きが止められるの
であり「ガイド部19に案内される」のは「軸部(21,42」ではなく「鉤部,)
材」である。
エ上記のとおり,訂正前の請求項1記載の発明において「軸部」がガイド部,
に案内されることが,必須の構成であったとすることは明らかに不合理であり,当
業者は,訂正前の請求項1に係る「ガイド部(19)に案内される軸部(21,4
2)により」との記載が,誤記又は不明瞭な記載であって,本来「ガイド部(1,
)(,)」。9に案内されて軸部2142によりであると容易に理解するものである
したがって「訂正前の請求項1に記載された『軸部』はガイド部に案内されるこ,
とが必須の構成であったものが,訂正後の請求項1に記載された『軸部』はガイド
部に案内されないものも含むものとなっている」ことを理由として,訂正事項aが
実質的に特許請求の範囲を拡張・変更するものとした審決の判断は誤りである。
()また,審決は「訂正事項aは,軸部がガイド部に案内される構成を含む実2,
施例2に相当する請求項1に係る発明を,軸部がガイド部に案内される構成を必須
の構成としない実施例1に相当する発明に変更,または,実施例1及び実施例2の
両者が含まれる発明に拡張しようとするものであるといえる」と判断するが,以。
下のとおり,誤りである。
すなわち,上記()のとおり,訂正前の請求項1の「ガイド部(19)に案内さ1
れる」との記載は「ガイド部(19)に案内されて」の誤記であって「軸部(2,,
1,42」は,ガイド部(19)に案内されるものに限定されているわけではな)
い。したがって「請求項1に係る発明は,軸部がガイド部に案内される構成を含,
む実施例2に相当する」とするのは誤りである。
,()【】【】,また本件明細書甲第7号証の発明の詳細な説明の段落∼00130015
同【,同【,同【】及び図1∼6(実施例1,図7∼9(実施例001600180021】】)
2)には,実施例1,2に共通する構成として「鉤部材(15)がガイド部(1,
9)に案内される」ことが示されており,請求項1には,この事項が,実施例1,
2に共通する必須の構成として記載されていなければならない。そして,請求項1
,()()()()には枠体11側に配設する軸部21により鉤部材15の枠体11
側への軸支とガイド部(19)に沿った上下移動の範囲の規制を行う実施例1の態
様と鉤部材15に一体形成する軸部42により鉤部材15の枠体1,()()()(
1)側への軸支とガイド部(19)に沿った上下移動の範囲の規制を行う実施例2
とが選択的に記載されているのである。訂正前の請求項1の「ガイド部(19)に
案内される軸部(21,42」との記載は,鉤部材(15)がガイド部(19))
「()(,)」に案内されることを意味するガイド部19に案内されて軸部2142
の誤記又は明瞭でない記載に該当するものである。実施例2の場合には,軸部(4
2)が鉤部材(15)の下端に一体に設けられており,ガイド部(19)に形成さ
れているガイド溝43に嵌合してその溝内を鉤部材15がガイド部1(),,()(
9)に沿って上下移動することに伴って上下移動するものであるから,この構造を
捉えて,軸部(42)がガイド部(19)に案内されるといえなくはないが,軸部
(42)がガイド溝(43)に嵌合して,その溝内を上下移動するのは,鉤部材の
上下移動の範囲をガイド部の範囲で規制するための一方の手段であるにすぎないの
であるから,この部分の構造を捉えて,請求項1が「軸部がガイド部に案内され,
る構成を含む実施例2に相当するもの」とすることはできない。
()審決は「請求項に係る発明の認定は,請求項の記載が明確である場合は,3,
請求項の記載どおり認定するべきであり(特許・実用新案審査基準第Ⅱ部第2章
..()()),新規性・進歩性151請求項に係る発明の認定1ないし4参照
訂正前の請求項1の記載に格別不明瞭なものはみあたらないから,請求項1の記載
を字義どおりの意味に解釈することに誤りはない」と判断する。。
,「()(,しかしながら訂正前の請求項1のガイド部19に案内される軸部21
42)により」との記載が不明確であることは,上記()のとおりであるから,上1
記判断は,その前提を誤るものである。
「特許・実用新案審査基準」の第Ⅱ部第2章「新規性・進歩性」の欄(甲第6号
証。以下,単に「審査基準」という)には「請求項の記載が明確である場合は,。,
請求項の記載どおりに請求項に係る発明を認定する」との記載があるが「請求項。,
の記載が明確でなく理解が困難であるが,明細書及び図面の記載並びに出願時の技
術常識を考慮して請求項中の用語を解釈すれば請求項の記載が明確にされる場合
は,その用語を解釈するにあたってこれらを考慮する」との記載もあって,訂正。
前の請求項1の「ガイド部(19)に案内される軸部(21,42)により」との
記載は,この場合に当たるのであり,それにもかかわらず,字義どおりに解釈して
本件発明の認定をした審決の判断は,審査基準に反するものである。
()審決は「請求人は・・・上記訂正事項aは『鉤部材(15)がガイド4,,,
部(19)に案内されて』の条件を明確にした誤記の訂正ないし不明瞭な記載の釈
明をなすものであるから,当然に特許請求の範囲を実質的に拡張・変更するもので
はない旨主張しているが,仮に,上記訂正事項aが誤記の訂正ないし不明瞭な記載
の釈明にあたるとしても,特許請求の範囲を実質的に拡張・変更するものは,特許
法第126条第4項の要件に違反するものであるから(平成15年改正法における
無効審判等の運用指針第103頁参照,かかる請求人の主張は認められない」)。
と判断した。
,「」(。しかしながら平成15年改正法における無効審判等の運用指針甲第5号証
以下,単に「運用指針」という)103頁が「不明瞭記載の釈明や誤記・誤訳の。,
訂正であっても,特許請求の範囲を実質的に拡張又は変更するものは,この要件に
。」,(),違反するとしているのは請求項に記載された発明特定事項必須の構成を
より広い範囲を示す表現と変更する場合を指しているものである。
しかるところ,訂正前の請求項1において,軸部(21,42)がガイド部(1
9)に案内されることが必須の構成であったことはなく,訂正事項aに係る「ガイ
ド部(19)に案内されて」との記載は,請求項1において,訂正前から実質的に
表示されていた事項を表示するものであることは上記のとおりであって,訂正の前
後で発明の範囲は同一である。したがって,訂正事項aは,運用指針の上記規定の
適用を受けるものではない。
なお,特許庁の審判便覧(甲第4号証。以下,単に「審判便覧」という)の5。
4−10「訂正の可否決定上の判断及び事例」の欄には「特許発明が当然備えて,
いるはずの条件を特許請求の範囲に加入することは,誤記の訂正又は明瞭でない記
載の釈明として・・・認められることがある(3頁29行∼4頁1行「誤記,。」),
の訂正とは,本来その意であることが,明細書又は図面の記載などから明らかな内
容の字句,語句に正すことをいい,訂正前の記載が当然に訂正後の記載と同一の意
味を表示するものと客観的に認められるものをいう(4頁12∼15行「特。」),
許請求の範囲の記載に関する限り,誤記の訂正は,訂正前の記載が当然に訂正後の
記載と同一の意味を表示するものと当業者その他一般第三者が理解する場合に限っ
て許され,発明の詳細な説明の項の記載は,この点の判断の資料となる限度におい
てのみ斟酌されねばならない(4頁23∼26行)との各記載があるところ,請。」
求項1の,訂正事項aに係る「ガイド部(19)に案内されて」との事項は,鉤部
材(15)が当然に備えているはずの条件に該当するものであり,訂正事項aは,
この条件が,特許請求の範囲において「ガイド部(19)に案内される」と,技,
術的に不明確に表示されていたのを「ガイド部(19)に案内されて」と,明確,
に表示したというだけのものであって,訂正前の記載と訂正後の記載とが同一の意
,。味を表示するものと当業者その他一般第三者が理解することができるものである
したがって,審決の判断は審判便覧の定める取扱いに違反するものである。
第4被告の反論の要点
1審決の認定判断に原告主張の誤りはなく,本件請求は理由がない。
2取消事由(訂正事項aが実質的に特許請求の範囲を拡張・変更するものとした
判断の誤り)に対し
()原告は,審決の「訂正前の請求項1に記載された『軸部』はガイド部に案1
,『』内されることが必須の構成であったものが訂正後の請求項1に記載された軸部
はガイド部に案内されないものも含むものとなっている」との判断,及び「訂正事
項aは,軸部がガイド部に案内される構成を含む実施例2に相当する請求項1に係
る発明を,軸部がガイド部に案内される構成を必須の構成としない実施例1に相当
する発明に変更,または,実施例1及び実施例2の両者が含まれる発明に拡張しよ
うとするものであるといえる」との判断が誤りであると主張する。。
しかしながら,以下のとおり,訂正前の請求項1の「ガイド部(19)に案内さ
れる軸部(21,42」との記載は,その記載自体及び請求項1の記載全体から)
みて明確であり,請求項1に係る発明は,軸部42がガイド部19に案内される実
施例2に対応するものであって,軸部21がガイド部19に案内されるものではな
い実施例1には対応していないものであるから,審決の上記判断に誤りはない。
ア原告は,まず「軸部(21,42」との記載が「軸部(21)又は軸部,),
42によりの意味であるとし運動の有無という点に関して正反対である軸()」,「
部(21,42」を「ガイド部(19)に案内される」という「運動する物体」),
を形容の対象とする用語によって形容する表現形式は,不明瞭な記載であると主張
する。
しかしながら,訂正前の請求項1の「鉤部材(15)は・・・かつ枠体の内側に
設けられているガイド部(19)に案内される軸部(21,42)により上下方向
へ移動可能に設けられており」との記載上「ガイド部(19)に案内される」の,
語句は「軸部(21,42」にかかるものと明瞭に理解でき,請求項1に係る発)
明は,軸部42がガイド部19に案内されるものである実施例2に対応するもので
あって,軸部21がガイド部19に案内されるものではない実施例1とは矛盾する
ものである。したがって,訂正前の請求項1に,原告主張の表現形式上,不明瞭な
記載はない。
あえて,訂正前の請求項1に不明瞭な点があるとすれば「軸部」の参照番号と,
して,実施例2における参照番号「42」のほか,実施例1における参照番号「2
1」が併記されている点であるが,一般に,請求項の記載において各構成要素に付
される図面上の符号は,請求項の記載の内容を理解するために付される補助的手段
にすぎず,特段の事情がない限り,符号の記載のみから,請求項に記載された内容
を限定する機能を有するものではないしたがって請求項1の記載において軸。,,「
部」について,実施例1に用いられる「21」が付されていたからといって,その
ことから,請求項1に係る発明が実施例1と実施例2を含むものであるとはいえな
い。
イ原告は,請求項1の「枠体の内側に設けられているガイド部(19)に案内
される軸部(21,42)により上下方向へ移動可能に設けられており」との構,
成(構成X1)及び「解錠のために蓋体(12)が枠体(11)よりも上までガイ
ド部(19)の範囲であげられ」との構成(構成X2)の主語がいずれも「鉤部,
材(15」であるとした上,ガイド部に案内されるのが「軸部(21,42」))
であるとすると,構成X1,構成X2が,技術的に不整合,不明確なものとなると
主張するが,以下のとおり失当である。
すなわち,まず,構成X1について,原告は,ガイド部に案内されるのが「軸部
(21,42」であるとすると,構成X1における「鉤部材(15」が何に対し))
て上下移動するのか,その上下移動の媒体が不明となると主張するが,請求項1の
記載全体を見れば「鉤部材(15」は「枠体(11」あるいは「枠体の内側に,))
設けられているガイド部(19」に対して上下移動するものであることは明らか)
である。
,,,「()」「()また原告は構成X2につき鉤部材15が解錠のために蓋体12
が枠体(11)よりも上までガイド部(19)の範囲であげられ」るものであるか
ら「鉤部材(15)がガイド部(19)に案内される」ことが前提となるもので,
あり,他方,構成X1は,構成X2に係る「鉤部材(15」が「解錠のために蓋,)
体(12)が枠体(11)よりも上までガイド部(19)の範囲であげられ」るた
めの具体的構成を示しているものと解されるから,構成X1の構成中に,構成X2
の前提となる「鉤部材(15)がガイド部(19)に案内される」ことが示されて
いなければならないが,ガイド部に案内されるのが「軸部(21,42」である)
とすると,構成X1は,示されていなければならない「鉤部材(15)がガイド部
(19)に案内される」ことを示していない外観を呈することになって不整合であ
ると主張する。しかしながら,請求項1の記載上,構成X2において「ガイド部,
の範囲であげられ」るのは「蓋体」であって,請求項1には「鉤部材(15」,)
が「ガイド部(19)の範囲であげられ」ることは記載されていない。原告の上記
,「()」。主張は構成X2の主語が鉤部材15であるとする前提自体が誤りである
そして,構成X2の「ガイド部の範囲」がどのような範囲であるかについては,
構成X2に係る具体的構成を示した構成X1の「鉤部材(15)は)枠体の内側(
に設けられているガイド部(19)に案内される軸部(21,42)により上下方
向へ移動可能に設けられており」との構成により「軸部がガイド部に案内される,,
範囲」であることが容易に理解されるところ,実施例2に対応する図8及び図9に
は,ガイド部19のガイド溝43に上端があり,軸部42がガイド部19の一部で
あるガイド溝43に案内されてその上端に到達するまでの範囲で,蓋体12があげ
られることが示されているから,実施例2は,請求項1の「ガイド部(19)の範
囲で」が「軸部(21,42)がガイド部(19)に案内される範囲で」という意
味であることと何ら矛盾しない。これに対し,実施例1は,図5(b)に,鉤杆1
7の側面がガイド部19の内面に沿うように係合されていることが示されている
が「ガイド部の範囲」がどのようなものであるかは不明であり,発明の詳細な説,
明の記載及び他の図面をみても,この点は明らかではない。すなわち,請求項1の
構成X2は,実施例2の構造との関係では明確であるが,実施例1の構造との関係
,,,では不明確でありこのことからも請求項1の記載は実施例2に対応しているが
実施例1には対応しているものとはいえない。
ウしたがって「訂正前の請求項1に記載された『軸部』はガイド部に案内さ,
れることが必須の構成であったものが,訂正後の請求項1に記載された『軸部』は
ガイド部に案内されないものも含むものとなっている」ことを理由として,訂正事
項aが実質的に特許請求の範囲を拡張・変更するものとした審決の判断に誤りはな
い。
()上記()以外の原告の主張は,請求項1に「軸部」がガイド部に案内され21,
るものではない実施例1の態様が含まれることを前提とするものであるが,その前
提自体が誤りであることは上記()のとおりである。1
第5当裁判所の判断
1取消事由(訂正事項aが実質的に特許請求の範囲を拡張・変更するものとした
判断の誤り)について
()訂正事項aは,特許請求の範囲の請求項1の「鉤部材(15)は・・・か1
つ枠体の内側に設けられているガイド部(19)に案内される軸部(21,42)
により上下方向へ移動可能に設けられており」との記載を「鉤部材(15)は・,,
・・かつ枠体の内側に設けられているガイド部(19)に案内されて軸部(21,
42)により上下方向へ移動可能に設けられており」との記載に訂正するという,
ものである。
,,「」そして訂正前の請求項1の記載によればその発明の構成においてガイド部
に案内されるものは「軸部」であることが明らかであり,また,訂正後の請求項1
の記載によればその発明の構成においてはガイド部に案内されるものは鉤,,「」「
部材」となることが明らかである。すなわち,①「軸部」は,訂正前の請求項1に
係る発明においては「ガイド部(19)に案内される」ことが必須の構成とされて
,「()」いたが訂正後の請求項1に係る発明においてはガイド部19に案内される
ことが必須の構成とはされず,また,②「鉤部材(15」は,訂正前の請求項1)
に係る発明においては「ガイド部(19)に案内」されることが必須の構成とされ
ていないものであったが,訂正後の請求項1に係る発明においては「ガイド部(1
9)に案内」されることが必須の構成とされるに至っているものである。
しかるところ,原告は,請求項1記載の発明において「軸部」がガイド部に案,
内されることが,必須の構成であったとすることが不合理であり,当業者は,請求
項1に係る「ガイド部(19)に案内される軸部(21,42)により」との記載
が誤記又は不明瞭な記載であって本来鉤部材15は・・・ガイド部1,,,「()(
9)に案内されて軸部(21,42)により」であると容易に理解するものである
と主張するが,以下のとおり,この主張を採用することはできない。
アすなわち,原告は,まず,請求項1の「軸部(21,42)により」との記
載は「軸部(21)又は軸部(42)により」の意味であるとした上,請求項1,
の記載の発明に係る実施例2の軸部42はガイド部に案内されるもの軸「()」,(「
部」が運動するもの)であるが,実施例1の「軸部(21」は,ガイド部に案内)
されないもの(軸部」が運動しないもの)であって,運動の有無という点に関し「
て正反対である「軸部(21,42」を「ガイド部(19)に案内される」とい),
う「運動する物体」を形容の対象とする用語によって形容する表現形式は,不明瞭
な記載であると主張する。
しかしながら,原告の上記主張は,要するに,特許請求の範囲の請求項1におい
て軸部の語に軸部がガイド部に案内されない態様である実施例1の符号2,「」,「
1」が付されていることを根拠とするものであるが,特許請求の範囲には「各請,
求項ごとに特許出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める
事項のすべてを記載しなければならない(特許法36条5項)のであり,ただ,」
「請求項の記載の内容を理解するため必要があるときは,当該願書に添付した図面
において使用した符号を括弧をして用いる(特許法施行規則様式29の2の[備」
考]14のロ)ことが許容されているにすぎない。そうすると,請求項の記載にお
いて,実施例に係る図面の符号が用いられたとしても,それは,単なる補助的な手
段であって,請求項記載の発明の構成が当該実施例に係る具体的構成に限定される
ものではなく,同様に,当該実施例に係る具体的構成によって,請求項記載の発明
の構成が特定されるものでもない。
したがって本件において請求項1のガイド部19に案内される軸部2,,「()(
1,42」との記載における「軸部」に付された符号「21」が,軸部がガイド)
部に案内されない態様である実施例1についてのものであったとしても,それがた
め,訂正前の請求項1に係る発明の構成において「ガイド部」に案内されるもの,
が「軸部」であることが,何ら不明瞭となるものではない。
イ次に原告は請求項1に係る枠体の内側に設けられているガイド部1,,,「(
)(,),」9に案内される軸部2142により上下方向へ移動可能に設けられており
との構成(構成X1)に関し,構成X1の主語は「鉤部材(15」であり「鉤部),
()」(,),材15が軸部2142により上下方向へ移動可能に設けられているが
ガイド部に案内されるのが「軸部(21,42」であるとすると,構成X1にお)
いて「鉤部材(15」が何に対して上下移動するのか,その上下移動の媒体が不,)
明となると主張する。
しかしながら,構成X1において,ガイド部に案内されるのが「軸部(21,4
)」,,「()」,2であっても構成X1を含む請求項1の記載全体から鉤部材15は
,「」(「」「」軸部により枠体に対して上下移動するものであることガイド部は枠体
の内側に設けられているのであるから「ガイド部』に対して上下移動する」とい,『
う言い方も可能であるが,もとより,この場合の「ガイド部」は「鉤部材」の上,
下移動に係る相対的位置関係にあるものを示すだけであって「鉤部材」が「ガイ,
ド部に案内される」という趣旨ではない)は明らかであり,ガイド部に案内され。
るのが「軸部(21,42」であるとしても,何ら不明瞭な点は存在しない。)
,,,「()()ウまた原告は上記構成X1と解錠のために蓋体12が枠体11
よりも上までガイド部(19)の範囲であげられ」との構成(構成X2)とに関,
,,「()」「()()して構成X2は鉤部材15が解錠のために蓋体12が枠体11
()」,「()よりも上までガイド部19の範囲であげられるものであり鉤部材15
がガイド部(19)に案内される」ことが前提となるものであるのに対し,構成X
1は構成X2に係る鉤部材15が解錠のために蓋体12が枠体1,,「()」「()(
1)よりも上までガイド部(19)の範囲であげられ」るための具体的構成を示し
ているものと解されるから,構成X1の構成中に,構成X2の前提となる「鉤部材
()()」,15がガイド部19に案内されることが示されていなければならないが
ガイド部に案内されるのが「軸部(21,42」であるとすると,構成X1は,)
示されていなければならない「鉤部材(15)がガイド部(19)に案内される」
ことを示していない外観を呈することになって不整合であると主張する。
しかしながら請求項1の構成X12を含む部分の記載はその鉤部材1,,,,「(
5は上端に蓋体12を閉じる動作に伴う内外方向への動きにより蓋体1),(),(
2)の周縁部内側に設けられている,錠止部分(27)と係合可能な鉤部(16)
を有する縦長の鉤杆17を有しかつ枠体の内側に設けられているガイド部1(),(
)(,),9に案内される軸部2142により上下方向へ移動可能に設けられており
解錠のために蓋体(12)が枠体(11)よりも上までガイド部(19)の範囲で
あげられ」というものであり,仮に,原告主張のように,構成X2の主語が「鉤,
部材15であるとするとすなわち枠体11よりも上までガイド部1()」(,「()(
9)の範囲であげられ」るのが「鉤部材(15」であるとすると,文脈上「蓋,)),
体(12)が」との部分がかかる語句が存在しなくなるから,構成X2の主語は,
「()」。,,蓋体12であるものといわざるを得ないそうすると原告の上記主張は
その前提を誤っているものであって,採用することはできない。
なお,原告は,構成X2の主語が「蓋体(12」であるとすることは,本件特)
許に係る無効審判請求に対する審決(無効2004−80112号)及び本件特許
(),,に係る判定判定2006−60047号の認定と矛盾すると主張するが仮に
そうであれば,上記無効審判請求に対する審決や判定の認定が誤りであって,構成
X2の主語が「蓋体(12」であるとすることが誤っているということはできな)
い。
エ上記のとおり,訂正前の請求項1記載の発明において「軸部」がガイド部,
に案内されることが,必須の構成であったとすることが不合理であり,当業者は,
請求項1に係る「ガイド部(19)に案内される軸部(21,42)により」との
記載が,誤記又は不明瞭な記載であって,本来「鉤部材(15)は・・・ガイド,
部(19)に案内されて軸部(21,42)により」であると容易に理解するもの
であるとの原告の主張は,採用することはできない。
原告は,上記主張に基づいて「かかる訂正により,訂正前の請求項1に記載さ,
れた『軸部』はガイド部に案内されることが必須の構成であったものが,訂正後の
請求項1に記載された『軸部』はガイド部に案内されないものも含むものとなって
いる」との審決の判断が誤りであると主張するが,上記のとおりであるから,失。
当である。
訂正前の請求項1は,その記載により「軸部」が「枠体の内側に設けられてい,
るガイド部」に案内され,その「軸部」により「鉤部材」が上下方向へ移動可能,
に設けられていることが,一義的に理解されるものであり,何ら不明瞭な点は存在
しない。したがって,訂正事項aは,①請求項1に係る発明においては「ガイド部
()」「(,)」,19に案内されることが必須の構成とされていた軸部2142を
「ガイド部(19)に案内される」ことが必須の構成とされなくするものであり,
また,②請求項1に係る発明においては「ガイド部(19)に案内」されることが
必須の構成とされていない「鉤部材(15」を「ガイド部(19)に案内」され),
ることが必須の構成とされるようにするものであって,①は実質上特許請求の範囲
を拡張するものに該当し,②は実質上特許請求の範囲を変更するものに該当するも
のというべきである。
()ア原告は「訂正事項aは,軸部がガイド部に案内される構成を含む実施例2,
2に相当する請求項1に係る発明を,軸部がガイド部に案内される構成を必須の構
成としない実施例1に相当する発明に変更,または,実施例1及び実施例2の両者
が含まれる発明に拡張しようとするものであるといえる」との判断が誤りである。
と主張する。
イしかしながら,本件明細書には,実施例1,2に関し,図面とともに,下記
記載がある。
(ア)実施例1に関し
「【】。実施例以下本発明の地下構造物用錠装置を図示の実施例を参照してより詳細に説明する
図1ないし図6に本発明装置10の実施例1を示す。各図において,11は円形マンホールを
構成する地下構造物の枠体,12はその開口13を閉じる蓋体を示す。その枠体11の立ち上
がり部14の内側に,鉤部材15が設けられる。
例示された鉤部材15は上端に鉤部16を有する縦長の鉤杆17を2個左右に並結した構造
を有している。鉤杆17の下部には縦長の軸受け部18が形成されており,そこに左右の鉤杆
17,17の間を通過可能な軸部材20の軸部21を軸承させて,鉤部材15と軸部材20と
を結合する。鉤部材15は,左右の側辺部を囲むように枠体11の内側に設けられた左右のガ
イド部19,19によって上下方向へ移動可能に設けられている(図5参照。軸部材20は)
,,枠体11への取り付けのための取り付け軸22を他方に有しており取り付け軸22の部分は
枠体11の立ち上がり部側に設けられる取り付け部24の方向へ向けて延びるアーム部23の
先に設けられている。
従って鉤部材15は,枠体側に軸部材20によって軸支された状態にあり,かつその状態で
縦長の軸受け部18の範囲にて上下方向へ移動可能となる。軸部材20は取り付け軸22を取
り付け部24に軸支した状態で,抜け止め25によって枠体側に組み付けられる。さらに鉤部
材15は,鉤部16が枠体内から外へ向かう方向,つまり蓋体12を施錠状態とする方向へ付
勢手段26としての弾性体によって付勢されている。例示された付勢手段26はねじりばねで
あり,その一端を鉤部材15に掛けて上記の方向のトルクを加えている(段落【】∼。」0013
【)0015】
(イ)実施例2に関し
「図7ないし図9は本発明に係る錠装置10の実施例2を示す。実施例2の錠装置10もガイ
ド部19によって上下方向へ移動可能に設けられている錠部材15を有する点,実施例1のも
の等と共通するが,軸部42は鉤部材15に設けられていて一体として上下方向へ移動可能で
ある点で相違している。実施例2の場合,ガイド部19に形成されているガイド溝43に,鉤
部材15の下端の軸部42を嵌めその溝内で上下方向へ移動可能とされる。鉤部材15やそれ
に作用する付勢手段26,その他の基本的構成は実施例1の場合と同様で良い。よって実施例
1の符号を図7ないし図9にも援用し,詳細な説明を省略する。なお実施例2の場合,ガイド
溝43は軸部42の抜け止めとなる下端部44を有する(段落【)。」】0021
ウ上記各記載によれば,上下方向の移動に関し,実施例1の具体的構成におい
ては,鉤部材15は,左右の側辺部を囲むように枠体11の内側に設けられた左右
のガイド部19によって上下方向へ移動可能に設けられ,また,鉤部材15は2個
左右に並結した構造の縦長の鉤杆17を有し,当該鉤杆17の下部に形成された縦
長の軸受け部18に,取付け軸22を枠体に軸支した軸部材20の軸部21を軸承
させることにより,その範囲で上下方向へ移動可能に設けられていること,すなわ
,,ち鉤部材15はガイド部19に案内されて上下方向に移動可能であるといえるが
軸部21はガイド部19に案内されず,そもそも,軸部材20の取付け軸22によ
り枠体に軸支されていることが示されており,他方,実施例2の具体的構成におい
ては,鉤部材15の下端に軸部42が設けられ,軸部42はガイド部19に形成さ
れているガイド溝43に嵌められ,ガイド溝43の範囲で上下方向に移動可能であ
ること,すなわち,軸部42はガイド部19に案内されて上下方向に移動可能であ
ることが示されている。
そして,訂正事項aは,①請求項1に係る発明においては「ガイド部(19)に
案内される」ことが必須の構成とされていた「軸部(21,42」を「ガイド部),
(19)に案内される」ことが必須の構成とされなくするものであり,また,②請
求項1に係る発明においては「ガイド部(19)に案内」されることが必須の構成
とされていない「鉤部材(15」を「ガイド部(19)に案内」されることが必),
,,須の構成とされるようにするものであることは上記()のエのとおりであるから1
「訂正事項aは,軸部がガイド部に案内される構成を含む実施例2に相当する請求
項1に係る発明を,軸部がガイド部に案内される構成を必須の構成としない実施例
1に相当する発明に変更,または,実施例1及び実施例2の両者が含まれる発明に
拡張しようとするものであるといえる」との審決の判断に何ら誤りはない。。
エ原告の上記主張は,訂正前の請求項1の「ガイド部(19)に案内される」
との記載は「ガイド部(19)に案内されて」の誤記であり,上記発明の詳細な,
説明及び図面に,実施例1,2に共通する構成として「鉤部材(15)がガイド,
部(19)に案内される」ことが示されており,請求項1には,この事項が,実施
例1,2に共通する必須の構成として記載されていなければならないとの主張を根
拠とするものである。
しかしながら,訂正前の請求項1は,その記載により「軸部」が「枠体の内側,
に設けられているガイド部」に案内され,その「軸部」により「鉤部材」が上下,
方向へ移動可能に設けられていることが,一義的に理解され,何ら不明瞭な点は存
在しないものであることも,上記()のエのとおりであり,また,上記イの各記載1
を含む本件明細書によれば,訂正前の請求項1に係る発明は,発明の詳細な説明に
実施例2として記載された発明に相当するものと認められ,請求項1の記載と発明
の詳細な説明との間に,何らかの齟齬があるということもできないから,原告の上
記主張は失当である。
もっとも,上記第2の2の()によれば,本件訂正審判請求前の特許請求の範囲1
には,請求項2,3を含め,発明の詳細な説明に実施例1として記載された発明に
相当する発明の記載がないことになるが,特許請求の範囲の記載は「特許を受け,
ようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること(特許法36条6。」
項1号)を要するものの,発明の詳細な説明に記載した発明の全部を,特許を受け
ようとする発明として,特許請求の範囲に記載することが要求されているわけでは
なく(同法29条の2は,このことを前提とするものである,現に,特許請求の。)
範囲に記載されていない発明が,発明の詳細な説明に記載されている例も,格別珍
しいものではないことは,当裁判所に顕著である。したがって,実施例1が特許請
求の範囲に記載されていないからといって,上記判断が左右されるものではない。
,「()(,()原告は訂正前の請求項1のガイド部19に案内される軸部213
42)により」との記載が不明確であるとの主張を前提として「請求項に係る発,
明の認定は,請求項の記載が明確である場合は,請求項の記載どおり認定するべき
であり(特許・実用新案審査基準第Ⅱ部第2章新規性・進歩性1.5.1請
求項に係る発明の認定(1)ないし(4)参照,訂正前の請求項1の記載に格別)
不明瞭なものはみあたらないから,請求項1の記載を字義どおりの意味に解釈する
ことに誤りはない」とした審決の判断が誤りであると主張し,また,同様の主張。
を前提として,審決の判断が審査基準に反するものであると主張するが,その前提
に係る主張を採用し得ないことは,上記のとおりである。
,,「()」,また原告は訂正事項aに係るガイド部19に案内されてとの記載は
請求項1において,訂正前から実質的に表示されていた事項を表示するものである
との主張を前提として「請求人は・・・上記訂正事項aは『鉤部材(15)が,,,
ガイド部(19)に案内されて』の条件を明確にした誤記の訂正ないし不明瞭な記
載の釈明をなすものであるから,当然に特許請求の範囲を実質的に拡張・変更する
ものではない旨主張しているが,仮に,上記訂正事項aが誤記の訂正ないし不明瞭
,,な記載の釈明にあたるとしても特許請求の範囲を実質的に拡張・変更するものは
特許法第126条第4項の要件に違反するものであるから(平成15年改正法にお
),。」ける無効審判等の運用指針第103頁参照かかる請求人の主張は認められない
とした審決の判断が誤りであると主張し,あるいは,訂正事項aに係る「ガイド部
(19)に案内されて」との記載は,鉤部材(15)が当然に備えているはずの条
件に該当するものであるとの主張を前提として,審決の判断が審判便覧の定める取
扱いに違反すると主張するが,これらの前提に係る主張を採用し得ないことは,上
記の認定説示より明らかであるところである。
2結論
以上によれば,原告の主張(審決取消事由)は理由がなく,原告の請求は棄却さ
れるべきである。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官
塚原朋一
裁判官
石原直樹
裁判官
高野輝久

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