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平成21年9月25日判決言渡同日原本交付裁判所書記官
平成20年(ワ)第947号更新料返還等請求事件(第1事件・本訴)
平成20年(ワ)第1287号更新料反訴請求事件(第2事件・反訴)
平成20年(ワ)第1285号保証債務履行請求事件(第3事件)
主文
1被告会社は,原告に対し,34万8000円及び内金22万8000円
に対する平成20年3月6日から,内金12万円に対する平成20年7月
2日からいずれも支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2本件確認の訴え(後記第1の1(2))を却下する。
3被告会社の第2事件及び第3事件についての各請求をいずれも棄却する。
4訴訟費用は,全事件を通じて被告会社の負担とする。
5この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
1第1事件(本訴)
(1)主文1項同旨
(2)原告と被告会社との間で,両者間の平成15年4月1日付け賃貸借契約に
基づく,原告の被告会社に対する平成19年4月1日付け契約更新に係る更
新料7万6000円の支払債務が存在しないことを確認する。
2第2事件(反訴)
原告は,被告会社に対し,7万6000円及びこれに対する平成19年9月
19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3第3事件
被告Aは,被告会社に対し,7万6000円及びこれに対する平成19年9
月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,①被告会社からマンションの一室を賃借した原告が,その賃貸借契
約中の,原告が更新料を支払う旨の条項(以下「本件更新料条項」という。)
及び原告が定額補修分担金を支払う旨の条項(以下「本件定額補修分担金条
項」という。)はいずれも消費者契約法10条により無効であるとして,被告
会社に対し,不当利得返還請求権に基づき,既払の更新料及び定額補修分担金
の合計34万8000円及びこれに対する訴状又は訴え変更申立書送達日の翌
日からの民法所定の遅延損害金の支払を求めるとともに,未払の更新料7万6
000円の支払債務が不存在であることの確認を求めた(第1事件(本訴)。
前記第1の1)ところ,②被告会社が,本件更新料条項は有効であるとして,
原告に対し,反訴請求として,その未払更新料7万6000円及びこれに対す
る催告期間満了日の翌日からの民法所定の遅延損害金の支払を求めた(第2事
件(反訴)。前記第1の2)上,③上記賃貸借契約における原告の連帯保証人
である被告Aに対しても,その未払更新料7万6000円及びこれに対する催
告期間満了日の翌日からの民法所定の遅延損害金の支払を求めた(第3事件。
前記第1の3),という事案である。
1前提事実(争いのない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨によって容易
に認められる事実)
(1)当事者等
ア被告会社は,不動産管理業,不動産の仲介及び売買,不動産賃貸業等を
目的とする株式会社である。
被告会社は,昭和61年11月15日に建築された京都市a区b町c−d
所在の建物(以下「本件建物」という。)を,平成12年3月24日競売
により取得し(甲13,乙11),これを賃貸物件とするために建物内の
部屋(48室)に改装を施し,建物名を「Bハイツ」とした上,これらの
部屋を賃貸していた。
イ原告は,熊本県の出身であり,C大学D学部に進学するに際し,京都市
内に居住する必要が生じたため,後記のとおり,被告会社から本件建物の
一室を賃借し,平成15年4月からそこに居住していた。
(2)賃貸借契約等の締結(乙1)
ア原告と被告会社は,平成15年4月1日,以下の内容の賃貸借契約(以
下「本件賃貸借契約」という。)を締結し,同日,被告会社は,原告に対
し,本件賃貸借契約に基づき,以下の物件を引き渡した。
物件本件建物311号室(以下「本件居室」という。)
期間平成15年4月1日から平成16年3月31日まで
賃料月額3万8000円
イ同日,被告会社と被告Aは,被告Aが本件賃貸借契約における原告の債
務を連帯保証する旨の契約を締結した。
(3)本件賃貸借契約等に関するその他の定め
ア本件賃貸借契約の契約書では,各種の条項(以下「本件賃貸借契約条
項」という。)が定められており,その中には別紙のような規定がある。
(乙1)
イ以上のほか,本件賃貸借契約の内容として,原告と被告会社は,共益費
及びRCV料(ケーブルテレビ使用料)を月ごとに一定額支払うことにつ
いても合意した。(乙1)
(4)本件賃貸借契約等に関するその他の事実
ア重要事項説明
原告は,仲介人であるE株式会社から,平成15年3月14日,同日付
けの重要事項説明書により,「借賃及び借賃以外に授受される金銭」とし
て,賃料の2か月分の更新料があること,12万円の定額補修分担金があ
ることの説明を受けた。(乙9)
イ定額補修分担金の支払等
原告は,本件賃貸借契約の締結に際し,契約書中の「私は,本契約締結
にあたり以上の説明を受け,上記事項を熟読の上,ここに定額補修分担金
の支払いを了承し,その支払いに合意致します。」との記載の後に署名,
押印し(乙1),被告会社に12万円の定額補修分担金を支払った。
ウ本件賃貸借契約の更新
(ア)原告と被告会社は,①平成16年2月27日,②平成17年2月2
8日及び③平成18年2月28日の3回,それぞれ,原告が被告会社に
更新料として賃料の2か月分に当たる7万6000円を支払って,期間
を①については平成16年4月1日から平成17年3月31日まで,②
については平成17年4月1日から平成18年3月31日まで,③につ
いては平成18年4月1日から平成19年3月31日までとして,本件
賃貸借契約を合意更新した。(甲1,2,乙2)
(イ)原告は,上記最終の合意更新による賃貸借期間満了後の平成19年
4月1日以降も,本件居室の使用を継続し,よって,本件賃貸借契約は
同日から法定更新された。原告は,この法定更新時に,被告会社に対し
て更新料を支払っていない。(甲3,乙3)
(5)関係する法律の定め
ア消費者契約法10条
民法,商法(明治32年法律第48号)その他の法律の公の秩序に関し
ない規定の適用による場合に比し,消費者の権利を制限し,又は消費者の
義務を加重する消費者契約の条項であって,民法第1条第2項に規定する
基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは,無効とする。
(以下,「条項であって」までの部分を「前段要件」,その後の部分を
「後段要件」という。)。
イ借地借家法
(ア)26条1項
建物の賃貸借について期間の定めがある場合において,当事者が期間
の満了の1年前から6月前までの間に相手方に対して更新をしない旨の
通知又は条件を変更しなければ更新をしない旨の通知をしなかったとき
は,従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなす。ただし,
その期間は,定めがないものとする。
(イ)28条
建物の賃貸人による第26条1項の通知又は建物の賃貸借の解約の申
入れは,建物の賃貸人及び賃借人・・・が建物の使用を必要とする事情
のほか,建物の賃貸借に関する従前の経過,建物の利用状況及び建物の
現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡し
と引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場
合におけるその申出を考慮して,正当の事由があると認められる場合で
なければ,することができない。
2争点及び争点に関する当事者の主張
(1)本件更新料条項の有効性
(原告及び被告Aの主張)
本件更新料条項は,消費者契約法10条により無効である。
ア本件更新料条項の法的性質
被告会社は,本件更新料条項は,①賃料の補充,②更新拒絶権放棄の対
価,③賃借権強化の対価としての性質があって,更新料の支払には合理性
があると主張するが,以下のとおり,更新料の支払には合理性がない。
(ア)賃料の補充
賃貸借期間が長期で設定され,かつその期間中賃料相場が増額してい
くといった社会事情がある場合には,将来生じる賃料の不足分をあらか
じめ更新料という形で補っておくことに合理性がないわけではない。し
かし,現在の不動産価格の状況からはそのような社会事情があるとはい
えないし,アパートやマンション等の建物賃貸借においては,賃貸借期
間は1年や2年と短期であるから,賃料の不足分が生じるとは考えられ
ない。また,賃料の不足分を補うとしても,賃貸借期間を考慮すること
なく一定の金額で算定することには合理性がない。
また,更新料に賃料補充という性質があるのならば,その分月額賃料
が低額になっていること,中途解約の場合の精算が定められていること,
更新料が賃料の補充・前払いであることが賃借人に告知されていること
が必須であるが,本件賃貸借契約では,月額賃料が低額になっていると
は認められないし,中途解約の場合の精算条項はなく,むしろ更新料の
返還には一切応じないとされており,使用収益期間と更新料は対応して
いない上,更新料が賃料の補充である旨の表示も一切ない。重要事項説
明や契約締結の際にも,更新料が何の対価なのかの説明は一切なく,賃
料の補充であるという説明もなかったし,更新料の事前告知も一切され
ていない。
以上によれば,賃料の補充であるとの考え方に合理性はない。
(イ)更新拒絶権放棄の対価
賃貸借契約の更新に関する賃貸人の更新拒絶権は,期間満了の6か月
前までに行使しなければならないところ(借地借家法26条1項),通
常,合意更新がされる契約期間満了のころには,既に賃貸人による更新
拒絶権行使の期間が徒過しており,更新拒絶権が発生しないことが確定
している場合がほとんどである。したがって,このような場合には,も
はや更新拒絶権の放棄とか,更新拒絶権行使に伴う紛争回避ということ
が問題となる余地はなく,更新拒絶権放棄や更新拒絶権行使に伴う紛争
回避の対価として更新料の性質を説明することはできない。
また,賃貸人が期間満了の6か月前までに更新拒絶権を行使した場合,
その後賃借人が更新料の支払を申し出たからといって,賃貸人が更新拒
絶権を放棄して合意更新に応じるとは通常考えられない。
いずれにせよ,更新拒絶権が発生するか否かにかかわらず一律に合意
更新の場合に更新料が徴収されていることの説明はつかない。
加えて,本件賃貸借契約は,収益目的の居住用賃貸物件の建物賃貸借
契約であるが,このような場合に正当事由が認められることは考えられ
ず,究極的なケースを想定しても,立退料の支払もないまま正当事由が
認められることはない。そうすると,賃借人が,立退料分を受領せず,
逆に月額賃料の2か月分の更新料を支払わなければならないという本件
更新料条項は,その料金に相応するサービスの提供がなく,更新拒絶権
放棄との対価性をもたない。
(ウ)賃借権強化の対価
法定更新の場合には,期間の定めのない賃貸借となり(借地借家法2
6条1項ただし書),賃貸人は,解約の申入れをすることができ,解約
申入れから6か月を経過すると賃貸借契約は終了するが(同法27条1
項),解約申入れにも,更新拒絶の場合と同様に,正当事由があること
が要件となる(同法28条)。しかし,マンションやアパートのように,
当初から他人に賃貸する目的で建築された物件の場合,賃貸人の自己使
用の必要性は極めて希薄であるから,賃貸人に同法28条所定の解約申
入れにおける正当事由が認められることは考えられず,更新料を支払っ
て合意更新をしても賃借権の強化にはならない。
また,本件更新料条項は,法定更新においても更新料が発生するとし
ており,この点において,そもそも本件では賃借権強化の対価という理
屈は成り立ち得ない。
(エ)以上のように,被告会社の主張する本件更新料条項の法的性質は,
いずれも当事者の意思に反し合理性がない。
更新料は,賃借人から賃貸人に対して単に慣行的に支払われてきた贈
与又は謝礼としか説明ができないものであるが,現在では賃貸物件数に
比べ需要が少なくなっており,賃借人が一方的に贈与や謝礼をする根拠
が欠けている。結局,更新料とは,賃貸人が,情報力や交渉力の格差を
利用し,賃借人に十分な法的知識がないことを奇貨として,半ば強制的
に徴収している金銭である。
イ前段要件該当性
本件更新料条項は,賃借人である原告にのみ一方的な負担を強いる不合
理なものであって,民法601条の賃料支払義務に加えて賃借人の義務を
加重するものであるから,前段要件該当性がある。
被告会社は,本件更新料条項は契約の中心条項であるとして,消費者契
約法10条の適用がないと主張するが,中心条項と付随条項を判然と区別
するのは不可能であるし,中心条項に同条の適用がないという見解そのも
のも誤りである。
ウ後段要件該当性
更新料には何らの合理性,対価性はなく,賃借人は合理性,対価性のな
い金銭の支払という重大な不利益を受けるのに対し,賃貸人には何らの不
利益も発生しない。受領済みの更新料を返還しなければならないのは,本
件更新料条項が無効になる以上,法が初めから予定している当然の法律効
果であって,賃貸人の不利益ではない。
賃貸人と賃借人との間に情報力,交渉力の格差があり,更新料支払条項
を契約条件に入れるか否かの選択の自由,交渉が賃借人に保障されていな
いことからも,賃借人の受ける上記不利益が大きいことは明らかである。
被告会社は,賃借人が賃貸物件情報を手に入れやすいと主張するが,これ
は単に情報が量的に入手しやすいというだけであり,問題となる条項がい
かなる計算なり趣旨で設定されているかという情報の質の面では賃貸人と
賃借人との間には大きな格差がある。また,インターネット上の賃貸情報
でも,更新料の事前告知は一切されておらず,いざ契約の時点になって初
めて更新料という名目の負担を聞かされるというのが実態であり,重要事
項説明や契約締結の際に,更新料が何の対価なのかの説明も一切ない。
また,被告会社は,更新料が社会的に承認されているなどと主張してい
るが,社会で広く行われていても無効となることはあるのだから,これは
更新料条項が有効であることの根拠にはならない。
以上によれば,本件更新料条項は,信義則に反して,一方的に,正当な
理由なく賃借人である原告の利益を害するものであり,後段要件に該当す
る。
エ借地借家法30条との関係
借地借家法30条は,「この節の規定に反する特約で建物の賃借人に不
利なものは,無効とする。」としているところ,同節の規定である同法2
6条1項,2項は,更新料の支払を条件としない法定更新を認めているか
ら,本件更新料条項のように,法定更新に際して賃借人に更新料支払義務
が発生するという内容の条項は,借地借家法30条によって無効となる。
(被告会社の主張)
本件更新料条項は有効である。
ア本件更新料条項の法的性質
(ア)賃料の補充
更新料は,賃料の補充・前払いとしての性質を有する。
a更新料で賃料を補充することの合理性
賃貸人は,権利金,礼金,更新料なども含めた全体の収支計算を行
った上で毎月の賃料額を設定するのが当然であって,その結果生じる
設定賃料と本来受けるべき経済賃料との差額について,更新料により
補充することは十分合理性を有する。現在では,全国的に賃貸物件は
10パーセント以上余っており,京都においても,全賃貸物件のうち
20パーセント,場所によっては30パーセントもの空き室が生じて
おり,借り手市場となっていて,他の物件より不利な条件設定をすれ
ば,競争力を失い,空き室に苦しむことになる。一方,賃借人は,更
新料の存在によって,契約当初から更新時までは低く設定された賃料
で借りることができ,月額賃料を基準に設定される仲介手数料や敷金
の支払も少なくて済み,入居しやすいという利点があるし,一般的に
更新料の定めのある物件は,更新料の定めのない物件に比べ賃料は割
安に設定されており,賃借人は更新料のある物件にするか否かを選択
することができる。
b当事者の合理的意思
賃借人は,仲介業者から,複数の物件の紹介を受けて,物件の所在,
設備,広さ等とともに,更新料を含む経済的な出捐(礼金,敷金,賃
料及び更新料)を比較対照した上で,物件を選択しており,個別的な
契約締結の場面においても,更新料が契約更新時に発生する旨重要事
項として説明されるなどしているので,更新料を,更新の際に負担す
る金銭であり,自己の支出となり,賃貸人の収入となり,返還されな
い金銭であることを理解している。
したがって,賃借人は,更新料を契約更新時に支払うことが必要で
あり,賃借する物件を使用収益するのに必要となる経済的負担として
把握しているのであり,そのことから更に進めて,賃借人が,更新料
を,賃借する物件を使用収益するのに必要な対価として把握している
と意思解釈することは正当である。賃借人は物件の使用の対価として,
賃料が毎月発生する経済的負担であり,更新料は更新時に発生する経
済的負担という認識を有しているのである。
また,更新料は広く利用され,社会的承認を受けてきたものである
から,使用収益の対価であるといえる。そうすると,当事者間で更新
料の支払に関する合意がされている以上,その合理的解釈として,使
用収益の対価の支払に関する合意がされているものと評価できる。
c原告及び被告Aの主張に対する反論
原告及び被告Aは,本件更新料条項には中途解約の場合の精算条項
がなく,更新料が使用収益期間に対応していないと主張する。
しかし,建物賃貸借における賃料の支払を月ごとと定めた民法61
4条は任意規定であり,それと異なる賃料前払いや年払いの合意をす
ることも可能であって,契約更新時に賃借人に補充賃料を支払っても
らうことも自由である。契約期間内に中途解約などによって契約が終
了した場合と期間満了の場合とで差はあるが,これについては,中途
解約の際は賃借人が更新料の支払により受けるべき利益を自ら放棄し
たものであるとか,中途解約に伴う違約金条項としての側面が表れた
ものであるとか,更新料が賃料の補充のみではない複合的な性質を有
しているから差が生じたものである,などと説明することができる。
また,そもそも賃貸借契約は継続的な使用の対価として賃料を設定す
るため,契約上厳密に使用収益の期間と賃料額を対応させること自体
困難であって,そのような完全な対価性を有していないことをもって,
不合理であるとはいえない。
そして,本件の更新料は,1年間の更新期間ごとに支払うものであ
り,更新しなければ支払う必要がないから,この点で,まさに使用収
益の期間に対応して支払うことが予定されているといえる。さらに,
賃借人が更新料を含めて賃貸期間に応じて支払う金銭の合計は,ほぼ
賃貸期間に比例している上,賃貸人たる被告会社においてはこれを収
入の予定として,賃借人たる原告においては支出の予定として,あら
かじめ契約締結時に互いに納得していたのであるから,本件居室の使
用収益の対価としては,毎月支払われる賃料と1年ごとに支払われる
更新料の2本立てになっていた,すなわち,本件の更新料は賃料の補
充ないし賃料の前払いとしての性質を有していたと解するのが,当事
者の合理的意思に合致する。
(イ)更新拒絶権放棄の対価
更新料が授受されて賃貸借契約の合意更新が行われる場合,賃貸人は,
正当事由があるときでも,正当事由が存在しないことが明らかではない
ときでも,更新拒絶をしないで契約を合意更新することになるから,そ
の意味で,更新料は,賃貸人が更新拒絶権を放棄し,その結果賃借人が
更新拒絶権行使に伴う紛争を回避することができることの対価としての
性質を有する。
賃借人も,更新料にはこのような性質があると思えばこそ,更新時に
更新料を支払うのであるから,更新拒絶権放棄の対価としての性質も有
していたと解するのが当事者の合理的意思に合致する。
原告及び被告Aは,更新拒絶権の行使可能時期の点を問題とするが,
賃貸人は,契約期間満了6か月前までに更新拒絶権放棄をいわば先履行
し,契約更新時に,賃借人からその対価としての更新料の支払を受ける
というように説明することは十分に可能である。
また,原告及び被告Aは,更新拒絶の正当事由が認められることは考
えられないと主張するが,正当事由の有無を明確に判断できない場合も
少なくなく,そのような場合に,賃貸人が更新拒絶権を放棄して紛争を
回避することも多い。
(ウ)賃借権強化の対価
更新料を支払って賃貸借契約が合意更新され,契約期間中は賃貸人か
ら一切解約申入れがされない賃借人の立場と,法定更新となって,いつ
正当事由に基づく解約申入れがされるか分からない賃借人の立場には差
異があるから,この意味で,更新料の支払により賃借権は強化されるし,
そのように解するのが当事者の合理的意思に合致する。
イ前段要件該当性
契約の要素と主たる給付の対価に関する条項のことを中心条項といい,
これを付随条項と区別すべきであるが,消費者契約法10条前段は,「民
法,商法その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比
し」という文言で規定されているところ,契約の要素や価格のように,あ
らかじめ与えられた法的基準ではなく,専ら当事者の自由意思や,市場経
済システムに基づく需要と供給によって決定される事項に関しては,「比
べる」適切な法的基準が存在せず,同条による司法的内容審査には服さな
いとの趣旨と解すべきであるから,中心条項には同条は適用されない。
そして,中心条項と付随条項の区別は,市場メカニズムが一定程度機能
しているか,当事者の主観的意思が関与しているかによって行うべきであ
る。本件更新料条項は,その法的性質からは,賃料の補充という意味で主
たる給付の対価である上,その契約書や重要事項説明書の記載上主たる給
付の価格条項たる賃料と並べて記載されており,賃借人の意思決定の考慮
要素となっているから,市場メカニズムが機能し,当事者の主観的意思も
関与しているといえる。したがって,本件更新料条項は,中心条項であり,
消費者契約法10条前段は適用されない。
ウ後段要件該当性
(ア)判断基準
後段要件は,その条項を無効にすることによって事業者が受ける不利
益と,その条項が有効であることによって消費者が受ける不利益とを総
合的に衡量し,消費者の受ける不利益が信義則に反し均衡を失するとい
えるほど一方的に大きい場合に,該当性が認められる。
また,契約の核心的合意部分については,契約当事者の関心が強く,
市場メカニズムが機能することが期待できるため,後段要件該当性の判
断については更に謙抑的な基準が適用されるべきであり,消費者の受け
る不利益が一方的に害されかつその程度が格段に大きい場合に限り,後
段要件該当性が認められると考えるべきである。
本件更新料条項は,前記イのとおり中心条項であり,上記の核心的合
意部分である。
(イ)本件更新料条項の合理性等
本件更新料条項は,前記アのような性質を有する合理的なものである
し,更新料の金額も,本件居室の状況に加え,契約期間や月額賃料の金
額等の事情に照らせば,過大なものではない。
また,建物賃貸借契約における更新料の約定は,40年以上にわたり
全国的に広範囲に使用されており,社会的に慣行として承認されている。
企業の中には,賃貸物件について更新料の補助制度が設けられていると
ころもあり,行政においても,生活保護では更新料の扶助が行われてい
るし,裁判所においても,調停条項や和解条項等で更新料の定めが認め
られている。このような社会的承認があることは,更新料条項が合理性
を有することの証左である。
さらに,借地借家法においても,更新料は何ら規制がされていない。
(ウ)情報力,交渉力の格差
近年の居住用建物賃貸借契約は借り手市場であり,賃貸人には零細な
事業者が多いが,賃借人は,賃貸物件情報を,インターネット,情報誌,
広告等の媒体により,容易に大量に入手することができるところ,物件
の広告などにおいて,更新料という用語は広く用いられているし,更新
料は賃貸物件の条件提示において明示されており,契約書にも明確な文
章で記載されている。更新料は,「約定の契約期間満了後も契約継続す
る場合にその対価として支払うものである。」という意味においては一
般に広く理解されている。
本件においても,賃借人である原告は,数ある賃借物件から,賃貸条
件を比較対照して自由に選択できる立場にあった。また,本件更新料条
項は,更新料の金額,支払条件が明確である上,原告は,このような更
新料の約定の存在やその金額について,仲介業者から説明を受けた上で,
本件居室を選定したと考えられ,原告は,その後再び仲介業者から重要
事項説明の中で更新料について説明を受けている。
このように,原告と被告会社に情報力,交渉力の格差はほとんどない
し,本件更新料条項は,原告に不測の損害あるいは不利益をもたらすも
のではない。
(エ)被告会社の不利益
賃貸人は,更新料が社会的に承認されてきたことなどから,更新料を
設定して初期の賃料を低くするなどして,更新料を含めた全体の収支を
計算し,月額賃料を設定している。本件更新料条項が無効になれば,他
の物件の賃貸借関係にも波及し,被告会社は,消費者契約法施行後に締
結された全ての賃貸借契約について,受領した更新料を返還しなければ
ならなくなるという不利益を受けることになる。また,実際に原告から
支払われた更新料は,被告の収入となり,税務申告をして税金を支払い,
賃貸経営の諸経費,生活費などにすでに使用している。本件更新料条項
が有効であることに対する被告会社の期待は合理的で,十分法的保護に
値するものである。
(オ)原告の不利益
更新料が設定されている物件は賃料のみの物件よりも月額賃料が低く
設定されているのが通例で,原告は,更新時まで低い賃料で借り,仲介
手数料や敷金等の初期費用も少なくて済むなどの点で有利であるし,更
新料を支払うことで,更新拒絶権の放棄,賃借権強化という利益を得て
いる。また,更新料は社会的に承認され,多くの賃借人が更新料を支払
っており,この点から,更新料を支払っていることの不利益は小さいと
いえる。さらに,原告は,本件賃貸借契約締結に際し,本件更新料条項
について仲介業者から説明を受けた上で契約し,現実に約定更新料を支
払ってきたのであり,更新料の厳密な法的性質は認識していなかったと
しても,更新料が賃料の補充,更新できることの対価であることを明示
的,黙示的に認識して,主体的に,本件更新料条項を含む本件賃貸借契
約を締結したということができ,原告は,更新料及び月額賃料といった
経済的負担に合理性があると判断していたはずであり,本件更新料条項
が原告に不測の損害あるいは不利益を及ぼすことはないし,むしろ,原
告は,目的物件の使用収益,契約期間の保護という利益を既に享受して
いる。原告の主張する不利益は,いったん納得して支払った更新料が返
還されないというに過ぎない。
(カ)原告及び被告Aの主張に対する反論
原告及び被告Aは,更新料には何らの合理性,対価性がないから重大
な不利益を受けており,本件更新料条項は無効であるという旨の主張を
するが,上記(ア)の後段要件該当性の判断基準に照らせば,客観的な対
価性を欠けば直ちに無効となるとの解釈には無理がある。また,複合的
性質を有する更新料につき,各個別の性質からすべてを合理的に説明で
きないことをもって,更新料に合理性がないと批判するのも失当である。
(キ)以上によれば,本件更新料条項は,信義則に反して消費者の利益を
一方的に害するものとはいえないから,後段要件を満たさない。
(2)本件定額補修分担金条項の有効性
(原告の主張)
本件定額補修分担金条項は消費者契約法10条により無効である。
ア前段要件該当性
本件定額補修分担金条項は,賃借人の通常の使用によって生じる損耗・
経年変化の回復費用を賃借人負担とするものである。建物賃貸借契約にお
いては,賃料と通常使用に伴う損耗等とが対価関係に立ち,通常損耗等の
発生が当然に予定されているところ,本件定額補修分担金条項は通常損耗
等の回復費用につき,賃借人に二重の負担を課すものであって,民法60
1条に比して,消費者の義務を加重するものである。
イ後段要件該当性
本件定額補修分担金条項では,賃借人の故意又は重過失による損傷の回
復費用は,定額補修分担金とは別に賃貸人が賃借人に請求できることにな
っている一方で,軽過失による損耗は定額補修分担金の中に含まれるとし
ている。しかし,実際の軽過失損耗の有無にかかわらず賃借人に費用を負
担させる点で明らかに不当であり,また,実際に軽過失損耗があったとし
ても,本来は負担対象範囲の限定や経過年数を考慮した上で賃借人の負担
割合が決定されるのに,本件の定額補修分担金条項はそのような負担割合
を一切無視するものであり,不当である。結局のところ,本件定額補修分
担金条項は,賃借人の過失損耗を超えて通常損耗等の回復費用を賃借人に
負わせようとするものである。また,故意又は重過失による損耗の回復費
用については,補修費用の二重取りができる状態となっている。このよう
に,本件定額補修分担金条項は,賃借人である原告と賃貸人である被告会
社がリスクと利益を分け合う交換条件的な内容にはなっていない。したが
って,本件定額補修分担金条項は,信義則に反して消費者の利益を一方的
に害するものといえる。
(被告会社の主張)
本件定額補修分担金条項は有効である。
ア前段要件該当性
本件定額補修分担金条項は,賃借人の軽過失による原状回復費用が定額
補修分担金を超える場合には,その原状回復費用を賃貸人の負担とする点
において賃借人の義務を軽減するものであるし,また,原状回復費用につ
いてあらかじめ賃借人の負担部分を定めることによって,契約終了時の紛
争を回避し,賃借人と賃貸人がリスクと利益を分け合う交換条件的な内容
を定めたものである。
そうすると,本件定額補修分担金条項は,民法等の規定に比し,消費者
の権利を制限し,又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項とはいえ
ない。
イ後段要件該当性
本件定額補修分担金条項により,賃借人である原告は,軽過失は免責さ
れるので,通常の生活を営む限り,原状回復費用のことを気にかけること
なく安心して物件に居住することができる。また,損害額をあらかじめ定
額化することにより,退去時における紛争のリスクも格段に減少する。こ
れらのメリットによれば,本件定額補修分担金条項が一方的に消費者に不
利益であるとはいえない。
第3争点に対する判断
1争点(1)について
(1)本件更新料条項の法的性質の検討
ア検討の前提
本件更新料条項は,法律上の根拠に基づくものではなく,本件賃貸借契
約の一内容として,原告と被告会社との間で定められたものである。した
がって,本件更新料条項の法的性質の内容は,当事者である原告と被告会
社の契約時における合理的意思の解釈によって判断することとなる。そし
て,この合理的意思解釈に際しては,本件賃貸借契約条項の文言,契約締
結経緯等の客観的事情や,当事者の当時の認識等の主観的事情等がその判
断資料となる。
以上を前提に,以下,本件更新料条項の法的性質につき検討する。
イ賃料の補充としての性質
(ア)賃料の意義
賃貸借契約は,賃借人による目的物の使用とその対価としての賃料の
支払を内容とする契約であるから(民法601条),賃料とは,目的物
の使用収益の対価たる金銭である。そして,賃料以外の金銭,すなわち,
目的物の使用収益と対価関係に立たない金銭の支払を負担することは,
賃貸借契約の基本的内容には含まれない。
(イ)本件賃貸借契約条項の定め
a本件の更新料は,本件賃貸借契約条項上,名目は「賃料」ではない
し,「賃料」とは別個に定められている。したがって,この点からは,
本件の更新料は,賃料以外の,賃貸借契約の基本的内容に含まれない
金銭と考えるのが自然である。
bしかし,名目は「更新料」であっても,当事者が,目的物の使用収
益の対価の一部として定めたのであれば,名目はともかく,法的には
賃料の一部であると評価しうる余地はある。
cそこで,更に本件賃貸借契約条項をみると,更新料が賃料の補充又
は一部であると定めた規定はないほか,一度支払った更新料は返還さ
れない旨の規定があり,たとえ中途解約がされても,それまでの使用
収益期間に応じて返還されることはない(別紙2条3項)。
(ウ)被告会社の主張の検討
a被告会社は,①本件の更新料が1年の更新期間ごとに支払われ,更
新しない場合には授受が予定されていないこと(別紙2条4項),②
原告が更新料を含めて賃貸期間に応じて支払う金銭の合計は賃貸期間
に比例しており,当事者もこれを納得していることなどから,本件の
更新料は使用収益の対価たる賃料の補充・前払いとして定められてい
たと解するのが当事者の合理的意思に合致する旨主張している。
bまず,この主張を,賃貸人たる被告会社の意思に関して検討すると,
弁論の全趣旨によれば,被告会社は,本件賃貸借契約締結当時,「目
的物の使用収益の対価」,すなわち賃料として更新料を設定する意思
であった可能性が高いと認められる。
ただし,被告会社は,「権利金,礼金,更新料なども含めた全体の
収支計算を行った上で毎月の賃料額を設定する」旨の主張もしている
ほか,「本来受けるべき経済賃料額」として考える額を定めて,そこ
から一定額を更新料という名目に移し替えるという作業をしたように
も窺われないから,本件賃貸借契約締結当時,法的意味での賃料すな
わち「目的物の使用収益の対価」という観点を十分に認識していなか
った可能性がある。そして,これらの事情によると,被告会社は,更
新料を,賃料すなわち「目的物の使用収益の対価」の一部という狭い
意味ではなく,「本件賃貸借契約に係る全体の収益の一部」という広
い意味において考慮し設定した可能性もあるといえる。
c次に,上記a①,②の主張を賃借人たる原告の意思に関して検討す
ると,被告会社の主張するとおり,原告が,更新料を含めた賃貸借契
約に伴う全体の収支や経済合理性を検討した上で本件居室を賃借する
と決め,更新料についても,更新の際に負担する金銭で,自己の支出
となり,賃貸人たる被告会社の収入となり,返還されない金銭である
ことを理解していたことは十分に窺われるし,原告が更新料を含めて
賃貸期間に応じて支払う金銭の合計が,ほぼ賃貸期間に比例している
ことも理解し得たことが窺われる。
被告会社は,このことから,原告が,更新料を,本件居室を「使用
収益」するのに必要な対価として把握していると意思解釈できる旨主
張しているものである。
しかし,例えば敷金や共益費・RCV料など,本件賃貸借契約の
「目的物」である本件居室の「使用収益の対価」ではないが,賃貸借
契約に付随して授受される金銭というものもあるから,賃借人の側と
しては,賃貸借契約に伴う費用であるからといって,それはすべから
く「使用収益の対価」であると考えるとは必ずしもいえない。更新料
についても,例えば,更新に対する謝礼であるとか,合意更新をして
もらうことの対価であるなどと賃借人が考えることは,十分にあり得
ることである。現に,被告会社も,「賃借人は更新拒絶権放棄(紛争
回避)の性質があると思えばこそ更新時に更新料を支払う」旨の主張
をしており(前記第2の2(1)(被告会社の主張)ア(イ)),実際のと
ころ,賃借人がそのように考えて更新料を支払う可能性も十分に認め
られるものである。
そうすると,原告に上記のような認識,理解があったからといって,
直ちに,原告が更新料を「目的物の使用収益の対価」と認識していた
ということにはならない。
(エ)その他の事情
本件賃貸借契約締結時,原告と被告会社が,更新料が「目的物の使用
収益の対価」たる賃料の補充又は一部である旨合意していたとか,原告
が更新料につき賃料の補充又は一部である旨の説明を受けたとか,原告
が更新料を賃料の補充又は一部として支払ったと認めるに足りる証拠は
ない。
(オ)当事者の合理的意思解釈のまとめ
以上のような,賃料の意義((ア)),本件賃貸借契約条項の定め
((イ)),被告会社の主張の検討結果((ウ)),その他の事情((エ))
を総合すれば,本件において,当事者である原告及び被告会社の合理的
意思を検討しても,両者が,本件更新料条項を「目的物の使用収益の対
価」たる賃料の補充又は一部として定めていたと解することはできない。
そして,以上の検討結果によれば,明確に認定することはできないも
のの,実際のところは,被告会社としては,本件の更新料を「使用収益
の対価」たる賃料の一部であると考えていたが,原告は,そうは考えず,
更新料を,「更新に対する謝礼」であるとか,「更新拒絶権放棄の対
価」等として考えるなどしていたため,更新料についての当事者の意思
が,「賃貸借契約に関する全体の収支」というレベルでは合致していた
ものの,「使用収益の対価」というレベルでは一致していなかったとい
う可能性が高いものと考えられる。
(カ)以上のとおりであるから,本件更新料条項に,賃料の補充又は一部
という性質があるとは認められない。
ウ更新拒絶権放棄の対価としての性質
(ア)賃貸人である被告会社が,更新拒絶の正当事由が存在するか,ある
いは存在するか否かが判然としないにもかかわらず,更新時に本件更新
料条項に基づく更新料の支払が受けられることを期待し,これと引換え
に更新拒絶権をあらかじめ放棄することにより,賃貸人と賃借人との間
の紛争が避けられることもあり得るから,この意味で,更新料が更新拒
絶権放棄と一定の対応関係を有し,賃借人である原告に利益をもたらす
面があることは否定できない。
なお,原告及び被告Aは,更新料の支払われるころには,既に賃貸人
による更新拒絶権行使の期間(期間満了の6か月前まで)が徒過してい
て更新拒絶権が発生しないことが確定しているのが通常であり,更新料
の支払によって更新拒絶権が放棄され紛争が回避されるとはいえない旨
主張しているが,上記のように,賃貸人は,更新時に更新料の支払が受
けられることを「期待して」あらかじめ更新拒絶権を行使しないことも
考えられるから,この主張は失当である。
(イ)しかし,借地借家法28条の規定等によれば,更新拒絶の正当事由
の判断に際しては,当事者双方の建物使用の必要性が基本的な判断要素
となり,建物の賃貸借に関する従前の経過及び建物の利用状況,立退料
その他の財産上の給付の提供・支払は,補完的要素であって,建物使用
の必要性の有無のみでは判断し難い場合に,初めてこれが考慮されるも
のと解される。
このような正当事由の判断方法に照らすと,収益目的の居住用賃貸物
件の建物賃貸借契約においては,当初から他人に賃貸する目的であるか
ら,正当事由が認められる場合は少ないと考えられる。
そして,本件においても,本件建物は被告会社がその事業のために賃
貸用に改装して賃貸している物件であり,本件居室はその一室である以
上,正当事由が認められる場合は少ないということができる。
(ウ)また,本件においては,更新時に更新料の支払が受けられることを
期待して被告会社が更新拒絶権をあらかじめ放棄するといっても,それ
までに原告から更新の申出(別紙2条2項。申出の期限は期間満了の6
0日前である。)がされていない限り,期間満了の6か月前までは,被
告会社が更新拒絶権を放棄するかしないかを自由に選択できる。したが
って,本件更新料条項の存在により,必ず賃貸人である被告会社の更新
拒絶権放棄がもたらされるわけではない。
(エ)このように,本件において,更新料が更新拒絶権放棄と一定の対応
関係を有するとしても,そのような関係は,解約申入れに正当事由があ
るか,又はあるか否か判然としない場合であり,かつ,賃貸人である被
告会社が,その自由な選択の下,解約よりも更新料の支払を受ける方を
選択したという限られた場合に認められるもので,これにより賃借人が
受ける紛争回避の利益は,それほど大きく評価すべきものではない。
加えて,本件における更新料額は,1年ごとに月額賃料の2か月分,
すなわち7万6000円と,かなり高額である。
その他,本件において,原告と被告会社が,特に更新料を更新拒絶権
放棄の対価としての性質があるものと合意したとの事情を認めるに足り
る証拠はない。
(オ)以上を総合すると,本件において,更新拒絶権放棄は,そもそも本
件の更新料の対価となっているとまではいえないか,あるいは,対価と
しての性質は認められるとしてもその意義は希薄で,更新料の金額とは
均衡していないというべきである。
エ賃借権強化の対価としての性質
(ア)被告会社は,賃貸借契約が合意更新された場合,更新後も期間の定
めのある賃貸借となるので,賃借人は,契約期間の満了までは明渡しを
求められることはないが,法定更新の場合には,更新後の賃貸借契約は
期間の定めのないものとなるので(借地借家法26条1項ただし書),
賃貸人は,いつでも解約を申し入れることができるから,賃借人の立場
は不安定なものとなるので,更新料は,合意更新をする対価であると主
張する。
(イ)しかし,そもそも本件更新料条項においては,法定更新の場合にも
更新料を支払う旨定められているから(別紙2条3項,4項),更新料
を支払ったことによって賃借人の地位の安定すなわち賃借権の強化がも
たらされることはない。つまり,上記のような合意更新と法定更新の違
いを前提とする説明は,このどちらの場合にも支払うこととしている本
件更新料条項の性質の説明としては,およそ成り立ち得ない。
なお,仮に本件で法定更新の場合に更新料を支払う旨の定めがなかっ
たとしても,法定更新の場合の解約申入れにも正当事由の存在が要件と
されており(借地借家法28条),前記ウ(イ)で検討したように,本件
では正当事由が認められる場合が少ないと考えられることからすると,
法定更新後の賃借人の立場と合意更新後の賃借人の立場の安定性の差異
はわずかにすぎず,賃借権がそれによって強化されたと評価するのも困
難である。
(ウ)その他,原告と被告会社が,本件更新料条項に賃借権強化の対価の
性質があると特に合意したとの事情を認めるに足りる証拠はない。
(エ)以上によれば,本件更新料条項には,賃借権強化の対価としての性
質はない。
オ以上検討したとおり,本件更新料条項には,賃料の補充又は一部として
の性質,賃借権強化の対価の性質はいずれも認められない。また,更新拒
絶権放棄の対価の性質も,そのようにはいえないか,あるいは,かなり希
薄なものとしてしか認められず,本件における更新料の金額とは均衡して
いない。
そうすると,本件更新料条項は,極めて乏しい対価しかなく,単に更新
の際に賃借人が賃貸人に対して支払う金銭という意味合いが強い,趣旨不
明瞭な部分の大きいものであって,一種の贈与的な性格を有すると評価す
ることもできる。
(2)消費者契約法10条該当性の検討
ア消費者契約法の適用
原告は,事業として又は事業のために本件賃貸借契約の当事者となった
ものではない個人であるから,消費者契約法2条1項の「消費者」に該当
する。また,被告は,不動産賃貸業等を事業とする株式会社であるから,
同条2項の「事業者」に該当する。
したがって,本件賃貸借契約は同条3項の「消費者契約」に該当し,同
法10条の規制対象たりうる。
イ前段要件該当性
(ア)消費者契約法10条は,その前段において,適用の対象となる条項
を「民法,商法その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場
合に比し,消費者の権利を制限し,又は消費者の義務を加重する消費者
契約の条項」と規定している。
そして,前記(1)オのように,本件更新料条項は,極めて乏しい対価し
かなく,単に更新の際に賃借人が賃貸人に対して支払う金銭という意味
合いが強い,趣旨不明瞭な部分の大きいものであって,一種の贈与的な
性格を有するとも評価できるものであり,賃料の補充又は一部という性
質は有していない。
したがって,本件更新料条項は,賃借人に対し,民法601条に定め
られた賃貸借契約における基本的債務たる賃料以外に,金銭の支払義務
を課すものであり,民法の規定に比して賃借人の義務を加重しているか
ら,前段要件を充足する。
(イ)なお,被告会社の主張にかんがみ検討すると,賃借人である原告が,
本件更新料条項を,本件賃貸借契約を締結する際の意思決定の考慮要素
としていることは認められるから,この点において,本件更新料条項が,
被告会社のいうところの中心条項の要件である,市場メカニズムによっ
て機能し,当事者の主観的意思が関与しているものということは不可能
ではない。そうすると,被告会社の主張に従えば,本件更新料条項が中
心条項に当たることになって,消費者契約法10条が適用されないとい
うことになってしまう。
しかし,そもそも被告会社のいう中心条項が消費者契約法10条前段
要件を満たさないのは,中心条項といわれる契約の要素や価格について
の定めは,「民法,商法その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用
による」とそもそも当事者の自由に委ねられ,依るべき法的基準が与え
られていないので,これに「比し」て「消費者の権利を制限し,又は消
費者の義務を加重」している場合が考えられないからであると解される。
このように,同条は,依るべき法的基準がない,すなわち私的自治が強
く尊重されている事項については,その司法的内容審査に服させないこ
ととしているものと解されるのである。
本件更新料条項は,必ず賃貸借契約に付随して定められるものであり,
しかも,それ自身の対価がほとんど想定できないことからすれば,上記
(ア)のように,賃貸借契約における賃借人の債務に関する民法601条
の規定を,消費者契約法10条の「民法,商法その他の法律の公の秩序
に関しない規定」,すなわち,与えられた法的基準として考えることが
できるのであり,つまり,本件更新料条項は,当事者の全くの自由には
委ねられていないと考えられるものである。したがって,本件更新料条
項が,仮に市場メカニズムによって機能し,当事者の主観的意思が関与
している条項であるといえたとしても,この点は同条前段の適用に関し
障害とならないといえる。
ウ後段要件該当性
(ア)検討の前提
消費者契約法10条は,その後段において,同条により無効となる条
項を,「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を
一方的に害するもの」と規定している。
この「消費者の利益を一方的に害する」とは,消費者契約法の目的
(同法1条)等に照らせば,消費者と事業者との間の情報の質及び量,
交渉力の格差を背景として,消費者が誤認又は困惑するような状況に置
かれるなどして,消費者の法的に保護されている利益を,信義則に反す
る程度に,両当事者の衡平を損なう形で侵害することをいうものと解さ
れる。
(イ)次に,掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められ
る。
a国土交通省が,平成19年3月,財団法人日本賃貸住宅管理協会の
会員である賃貸住宅管理会社を対象に行った民間賃貸住宅に係る実態
調査の結果(乙19)によると,更新料の徴収は全国的に行われてい
るが,大阪府,兵庫県のように,全く更新料の支払がされていない地
域もあり,京都府においては,平成17年4月から平成18年3月の
間にされた居住用住宅の賃貸借契約のうち更新料が徴収されている物
件は,55.1パーセントである。
b更新料に関する情報
インターネットや情報誌等の賃貸情報では,更新料が記載されてい
るものも,記載されていないものも見受けられる上,同じ物件であっ
ても,インターネットのサイトによって,更新料が記載されたりされ
なかったりしている場合もあるほか,被告会社自身のホームページ上
でも,更新料についての記載がない場合がある(甲14∼24,28,
乙20,29∼50)。このように,更新料の情報についての状況は
一様ではない。
(ウ)検討
a情報及び交渉力の格差
被告会社の主張するとおり,賃借人は,賃貸物件の情報を,インタ
ーネットや情報誌等の賃貸物件情報により,容易に大量に入手できる
ことは明らかである。そして,上記(イ)bによれば,更新料の有無や
金額につき,選択した物件について必ず情報があるとは限らないもの
の,一定程度は,インターネットや情報誌等で情報を得ることができ
る状況にある。
そうすると,少なくとも更新料に関する情報の量の点では,原告と
被告会社には大きな格差は存在しないということができる。
しかしながら,通常,一般の賃借人は,賃貸借契約上の個々の条項
について,なぜそのような条項が定められているのか,なぜそのよう
な金額になっているのかの理由については知らないことも多く,この
ような情報の質の観点からは,賃貸人との間に格差が存在することも
あり得る。そして,通常,一般の賃借人が,前記(1)で検討したような
更新料の法的性質というものについて認識しているとは考えられない
し,現に,本件更新料条項の性質については,原告と被告会社の間で
認識が一致していたとは認められず,一致していなかった可能性も高
いことは,既に前記(1)イ,ウ,エで検討したとおりである。
そうすると,本件更新料条項に関する情報の質の点では,原告と被
告会社との間に格差があったと認められる。
また,証拠(乙1,9,10)及び弁論の全趣旨によれば,本件に
おいて,更新料を徴収すること及びその額については,賃貸人である
被告会社の方であらかじめ決定しており,原告には交渉の余地はなく,
仮にこれが不満であれば本件居室を賃借することを断念せざるを得な
かったものと認められ,この意味において,本件更新料条項に関し,
原告と被告会社との間には,交渉力の格差があったと認められる。
被告会社は,情報力と交渉力に格差がない旨主張しているが,以上
の検討結果に照らし,採用できない。
b原告の受けた不利益等
前記(1)で検討したとおり,本件更新料条項は,極めて乏しい対価し
かなく,単に更新の際に賃借人が賃貸人に対して支払う金銭という意
味合いが強い,趣旨不明瞭な部分の大きいものであって,一種の贈与
的な性格を有するとも評価できるものである。そうすると,通常,賃
借人たる原告は,このような性質を知っていれば,更新料は支払いた
くないと考えるはずである。そして,原告がこのような本件更新料条
項の性質について認識していたと認めるに足りる証拠はない。
また,原告は,更新料を含め,本件賃貸借契約に伴う全体の収支や
経済合理性を検討した上で本件居室を賃借すると決めたものと窺われ
るが,仮に,本件更新料条項の上記のような性質を認識していれば,
本件居室を賃借しようと判断しなかった可能性もあり,その意味で,
原告は,一種の誤認状態に置かれていたものと評価することができる。
以上によると,原告は,本件更新料条項の性質について一種の誤認
状態に置かれた上で,本件更新料条項について合意し,対価性の乏し
い贈与的金銭(金額は更新1回当たり月額賃料の2か月分である7万
6000円)の支払を約束し,実際に支払を行うことになり,法的に
保護された利益を害されたということができる。
c被告会社の受ける不利益等
本件更新料条項が無効となると,被告会社は既に受領している更新
料を原告に返還することになる。しかし,これは,上記bの原告の受
けた不利益に対応する利益がなくなるというだけのことであるから,
この点は,ここでの検討において考慮すべき被告会社の不利益には当
たらない。
また,被告会社は,本件更新料条項が無効になれば,他の賃貸借関
係にも波及し,既に受領した更新料を返還すべきこととなって,多大
な不利益を受けるなどと主張しているが,これはそもそも本件更新料
条項の効力の有無そのものによって受ける本件賃貸借契約に関する不
利益ではない。更新料条項それぞれの規定内容,それぞれの契約締結
前後の事情等によって,更新料条項の有効性の判断が事例ごとに異な
ることは当然にあり得るのであって,他の賃貸借契約への影響は,単
なる事実上の問題にすぎない。したがって,被告会社の主張する被告
会社の不利益は,ここでの検討に際し,考慮の対象とはならない。
d被告会社の主張の検討等
被告会社は,その主張の中で,更新料が社会的に承認されているこ
とを強調している。しかし,仮に更新料一般が社会的に承認されてい
るからといって,本件更新料条項の対価性が乏しいことが克服される
わけではないし,これが原告の受ける不利益の大小に関係することも
ない。また,被告会社が主張する社会的承認の内容に関して検討して
も,上記(イ)aのように,全国一律に更新料の慣習があるというわけ
でもないから,本件更新料条項の有効無効の判断に関係する事情とは
いえない。
eまとめ
以上によると,本件更新料条項は,原告と被告会社との間の本件更
新料条項に関する情報の質及び交渉力の格差を背景に,その性質につ
いて原告が一種の誤認状態に置かれた状況で,原告に,対価性の乏し
い相当額の金銭の支払の約束と実際の支払をさせるという重大な不利
益を与え,一方で,賃貸人たる被告会社には何らの不利益も与えてい
ないものであるということができ,信義則に反する程度に,衡平を損
なう形で一方的に原告の利益を損なったものということができるから,
後段要件を充足する。
(3)まとめ
以上の検討によれば,本件更新料条項は,消費者契約法10条に該当する
ことが明らかであり,同条により無効である。
2争点(2)について
(1)前段要件該当性
ア民法の規定(601条,616条,598条等)によれば,賃借人は,
賃貸借契約が終了した場合には,賃借物件を原状に回復して賃貸人に返還
する義務を負うが,賃貸借契約は,賃借人による賃借物件の使用とその対
価としての賃料の支払を内容とするものであり,賃借物件の損耗の発生は,
賃貸借契約の本質上当然に予定されている。したがって,建物の賃貸借契
約において,賃借人が社会通念上通常の使用をした場合に生じる賃借物件
の劣化又は価値の減少である通常損耗の補修に関する費用は,使用収益の
対価たる賃料の中に含まれているものと解される。
よって,民法の規定によれば,賃借人には,通常損耗についての原状回
復費用を負担すべき義務はない。
イ本件では,賃貸借開始時の新装状態への回復費用の一部負担金として定
額補修分担金を支払うものとされており(別紙5条1項),ほかに通常損
耗の原状回復費用が定額補修分担金に含まれないとの条項もないから,本
件定額補修分担金条項は,通常損耗分の原状回復費用も含んでいるものと
解される。また,故意又は重過失による損傷,改造の回復費用については,
被告会社は別途原告に請求できる旨が定められている(別紙5条柱書,4
項ただし書)。したがって,本件定額補修分担金条項による補填の対象と
なっているのは,前記アの通常損耗に関する原状回復費用と,原告の軽過
失による損耗部分の原状回復費用ということになる。
以上に加え,原告はいったん支払った定額補修分担金の返還を請求でき
ないとされていること(別紙5条2項,3項)からすると,原告の軽過失
による損耗部分の原状回復費用が,支払った定額補修分担金の額(12万
円)に満たない場合には,原告は,本来賃料に含まれているはずの通常損
耗分の原状回復費用についてまで負担させられることになる。
そうすると,この点において,本件定額補修分担金条項は,前記アの民
法の規定に比して,消費者たる原告の義務を加重する条項であるというこ
とができる。したがって,本件定額補修分担金条項は,前段要件を充足す
る。
(2)後段要件該当性
ア原告の受けた不利益
まず,本件定額補修分担金条項が原告の義務を加重している程度につい
て検討すると,支払済みの定額補修分担金は一切返還されず(別紙5条2
項,3項),故意又は重過失による損耗の原状回復費用は別途請求できる
ものとされている(別紙5条柱書,4項ただし書)から,民法の規定と比
べると,①軽過失による損耗についての原状回復費用が12万円以上であ
れば,原告は通常損耗分の原状回復費用を負担しないことになり,原告に
不利益はないが,②軽過失による損耗分の費用が12万円に満たない場合
には,原告の義務は加重されていることになる。
本件の場合,月額賃料は3万8000円であるのに対し,定額補修分担
金はその3倍以上である12万円であるところ,軽過失による損耗の原状
回復費用がこのような額になることは考えにくく,賃借人が民法の規定よ
りも加重された義務を負う場合が多くなるから,本件定額補修分担金条項
は,賃借人たる原告にのみ大きい不利益を与えるものであるということが
できる。
イ情報及び交渉力の格差
証拠(乙1,9,10,55)及び弁論の全趣旨からは,本件定額補修
分担金条項自体及びその額は,被告会社が一方的に定めたものであり,原
告には,同条項を定めるか否かや,その額について交渉する可能性はなか
ったものと認められるほか,原告に対し,定額補修分担金の有利不利を判
断するために必要な情報(前記ア①,②の説明)が与えられたことはなく,
原告がこのような情報を認識していなかったことが窺われる。
このように,原告と被告会社には,本件定額補修分担金条項に関し,情
報及び交渉力の格差があったものということができる。
ウ被告会社の主張の検討
被告会社は,本件定額補修分担金条項は,軽過失による損耗の原状回復
費用が定額補修分担金の額を超える場合には賃貸人の負担とする点におい
て賃借人の義務を軽減しているとか,原状回復費用についてあらかじめ賃
借人の負担を定めることによって紛争を回避し,リスクと利益を分け合う
交換条件的な内容を定めたものであるなどと主張しているが,前記アのよ
うに,軽過失による損耗による原状回復費用が本件の定額補修分担金の額
である12万円(月額賃料の3倍以上)を超えることは通常ほとんど考え
難いことからすると,賃借人たる原告に,被告会社の主張するような利益
があるとはいえず,本件定額補修分担金条項が交換条件的な内容であると
いうことはできないから,被告会社の主張は失当である。
エまとめ
以上によれば,原告は,本件定額補修分担金条項についての情報及び交
渉力について被告会社と格差のある状況の下,自分にとって不利益である
ことを認識しないまま,本件定額補修分担金条項によって,信義則に反し,
一方的に不利益を受けたものということができる。
したがって,本件定額補修分担金条項は,後段要件を充足する。
(3)まとめ
以上によれば,本件定額補修分担金条項は,消費者契約法10条に該当し,
無効である。
3不当利得
本件更新料条項及び本件定額補修分担金条項はいずれも無効であるから,こ
れら条項に基づき原告が被告会社に支払った22万8000円及び12万円の
合計34万8000円は,いずれも法律上の原因がない利益に当たるというこ
とができる。
4結論
以上のとおりであるから,原告の第1事件に係る金銭請求はいずれも理由が
あるから認容し,被告会社の第2事件及び第3事件に係る請求はいずれも理由
がないから棄却する。なお,原告の第1事件に係る確認の訴えは,第2事件に
係る金銭請求と訴訟物が同一であり,確認の利益がないから却下する。
京都地方裁判所第3民事部
裁判長裁判官瀧華聡之
裁判官佐野義孝
裁判官梶山太郎
別紙
以下の条項中「甲」とあるのは賃貸人である被告会社を,「乙」とあるのは賃借
人である原告を意味する。
2条契約の更新
2項乙は,契約期間の満了する60日前までに申し出れば,契約更新をする
ことができる。但し乙に家賃滞納等の契約違反がみられるとき,甲は契約
更新を拒めるものとし,乙は契約の更新を主張できないものとする。
3項乙は,契約を更新するときは,契約期間満了までに更新書類(中略)提
出とともに,頭書(2)の更新料の支払いを済ませなければならない。又,法
定更新された場合も同様(乙は更新料を甲に支払わなければならない)と
する。尚,契約更新後の入居期間に拘わらず更新料の返還(月割り精算等
の返還措置)は一切応じない。(「頭書(2)の更新料」とは,賃料の2か月
分相当額を指す。)
4項乙は甲に対し,法定更新・合意更新を問わず,契約開始日から1年経過
する毎に更新料を支払わなければならない。
5条定額補修分担金
本物件は,快適な住生活を送る上で必要と思われる室内改装をしておりま
す。そのために掛かる費用を分担し(頭書記載の定額補修分担金)賃借人に
負担して頂いております。尚,乙の故意又は重過失による損傷の補修・改造
の場合を除き,退去時に追加費用を頂くことはありません。(「頭書記載の
定額補修分担金」の額は,12万円である。)
1項乙は,本契約締結時に本件退去後の賃貸借開始時の新装状態への回復費
用の一部負担金として,頭書(2)に記載する定額補修分担金を甲に支払うも
のとする。」(「頭書(2)に記載する定額補修分担金」は,上記のとおり1
2万円である。)
2項乙は,定額補修分担金は敷金ではないということを理解し,その返還を
求めることができないものとする。
3項乙は,定額補修分担金を入居期間内に関わらず,返還を求めることはで
きないものとする。
4項甲は乙に対して,定額補修分担金以外に本物件の修理・回復費用の負担
を求めることはできないものとする。但し,乙の故意又は重過失による本
物件の損傷・改造を除きます。
5項乙は,定額補修分担金をもって,賃料等の債務を相殺することはできな
いものとする。
12条連帯保証人
1項連帯保証人は,乙と連帯して,本契約から生じる乙の一切の債務を負担
するものとする。本契約が合意更新又は法定更新されたときも同様とする。

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