弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告人の上告理由について
 民事執行法一二二条にいう動産執行による金銭債権についての消滅時効の中断の
効力は、債権者が執行官に対し当該金銭債権について動産執行の申立てをした時に
生ずるものと解するのが相当である。けだし、民法一四七条一号、二号が請求、差
押え等を時効中断の事由として定めているのは、いずれもそれにより権利者が権利
の行使をしたといえることにあり、したがつて、時効中断の効力が生ずる時期は、
権利者が法定の手続に基づく権利の行使にあたる行為に出たと認められる時期、す
なわち、裁判上の請求については権利者が裁判所に対し訴状を提出した時、支払命
令を申し立てた時等であると解すべきであり(訴えの提起の場合につき最高裁昭和
三六年(オ)第八五五号同三八年二月一日第二小法廷判決・裁判集民事六四号三六
一頁参照)、差押えについては債権者が執行機関である裁判所又は執行官に対し金
銭債権について執行の申立てをした時であると解すべきであるからである(不動産
執行の場合につき大審院昭和一三年(ク)第二一九号同年六月二七日決定・民集一
七巻一四号一三二四頁)。なお、不動産執行と動産執行とでは、手続を主宰する執
行機関の点に差異はあるものの、執行手続としての基本的な目的・性格、手続上の
原理等において格別異なるところはなく、特に申立てがあると、その後の手続は、
いずれも、職権をもつて進行され、原則として債権者の関与しないものであるから、
不動産執行と動産執行とによつて時効中断の効力が生ずる時期を別異に解すべき理
由はない。もつとも、動産執行の場合、その申立ての時に時効中断の効力が生ずる
ものと解すべきであるといつても、民法一四七条の規定の趣旨・目的から同条にい
う差押えを債権者として権利の行使にあたる行為に出たと認められる申立てをも含
めた手続の意義に解釈するにすぎず、現実に差押えがされることを要することはい
うまでもないのであるから、当該申立てが取り下げられ若しくは却下されたことに
より、又は債務者の所在不明のため執行が不能になつたことにより、結局差押えが
されなかつた場合には、動産執行の申立てによつていつたん生じた時効中断の効力
は、遡及して消滅することになるものと解すべきである(最高裁昭和四二年(オ)
第一四一一号同四三年三月二九日第二小法廷判決・民集二二巻三号七二五頁参照)。
以上の見解と異なる大審院の判例(大正一二年(オ)第九九一号同一三年五月二〇
日判決・民集三巻五号二〇三頁)は、変更されるべきである。
 これを本件についてみるに、原審の適法に確定した事実関係は、(1) 長野地方
裁判所上田支部は、昭和四五年(ワ)第二三号貸金請求事件につき、昭和四六年七
月二一日、被上告人が上告人に対し金四五万〇三七〇円及び内金二三万七九五九円
に対する昭和四五年二月一日から、内金二一万二四一一円に対する昭和四四年一一
月三〇日から各支払ずみまで年三割六分の割合による金員の支払を求める債権を有
するとし、上告人に対し、右金員の支払を命ずる旨の判決をし、右判決は昭和四六
年八月七日確定した、(2) 被上告人は、上告人を債務者として、昭和五六年八月
五日、浦和地方裁判所の執行官に対し、右確定判決を債務名義として動産執行の申
立てをした、(3) 執行官は、同年同月一九日右申立てに基づき上告人の動産を差
し押さえた、というのであるから、右事実関係のもとにおいては、被上告人がした
動産執行の申立ては本件債権の消滅時効期間の満了前にされたものであることが明
らかであるから、被上告人の消滅時効中断の抗弁を理由があるとした原審の判断は、
正当として是認することができる。論旨は、右と異なる見解に立つて原判決を論難
するものであつて、採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主
文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    横   井   大   三
            裁判官    伊   藤   正   己
            裁判官    木 戸 口   久   治
            裁判官    安   岡   滿   彦

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