弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人水野祐一、同渡辺辰治郎の上告理由一ないし三について。
 被上告人に対する本件青色申告書提出承認の取消処分は、生野税務署長が同人に
つき旧法人税法(昭和二二年法律第二八号、以下単に法と称する。)二五条八項三
号該当の事実を認めて、これを理由として行なつたものであり、上告人がその審査
請求手続において、右取消処分を相当として支持する決定をしたのは、被上告人に
つき同項一号該当の事実のあることを理由としたものである。論旨は、法二五条八
項各号のいずれを理由としても、その承認取消が処分の主体、相手方、手続、効果、
目的をすべて同一にする以上、つねに同一の処分であつて、同項各号別にそれぞれ
別個の取消処分が成立するものではないと論じ、同項三号該当を理由とした本件承
認取消を上告人が同項一号該当を理由として支持したとしても、上告人において別
個の新たな取消処分をしたものと認むべきではなく、その処分の同一性は失なわれ
ない旨を主張する。
 しかし、法二五条八項一号は、備付帳簿書類の種類、その記載項目、記載方法等
の瑕疵、いわば外観的にその帳簿書類が青色申告の基礎として適応性を欠くことを
理由として右申告書提出承認を取り消す場合であり、同項三号は、備付帳簿書類の
記載事項の全体についてその真実性を疑うに足りる不実記載の存在、いわば内容的
にその帳簿書類が同様の適応性を欠くことを理由として右申告書提出承認を取り消
す場合である。その帳簿書類によつては正確な所得算出が不可能であるため、青色
申告書提出の承認が取り消されることは両者同様であるとしても、右一号と三号と
では、処分庁においてその承認取消を相当とするかどうかを認定判断すべき事項を
異にすること明らかであるから、両者それぞれ別個の取消処分を構成するものと解
すべきであつて、このことは、同条九項が、右承認取消を通告するにあたつて、そ
の取消の基因となつた事実が八項各号のいずれに該当するものであるかを附記すべ
きことを特に定めていることからも窺うことができる。従つて、これと趣旨を同じ
くする原判決の判断は、相当といわなければならない。
 論旨は、法三五条(昭和三七年法律第六七号による削除前)による審査の請求の
手続においては、審査庁は、審査の請求の目的となつた処分の処分理由を変更して
これを維持することも許されるものとし、また右手続においていわゆる違法行為の
転換の理論も適用あるものと主張する。
 しかし、法三五条による審査の請求の手続において、請求に理由がないとして棄
却決定がなされるのは、その審査の請求の目的となつた処分に違法不当と認むべき
瑕疵がなく、その処分自体をそのまま維持するのを相当とする場合でなければなら
ない。このことは、右手続において、審査の請求の全部または一部について審査庁
において理由あると認めるときは、単に審査の請求の目的となつた処分の全部また
は一部を取り消すべき旨の決定をなすべきものとし、審査庁に自らこれに代るべき
相当な処分を決定することを認めていない同条の規定からいつても、疑いない。従
つて、また法二五条八項三号による処分に対する審査の請求の手続において、いわ
ゆる違法処分の転換の法理を適用し、新たに同項一号該当の事実の存在を認定し、
これを生野税務署長のした右一号該当処分として維持できるものとすることは肯認
しがたく、その引用する当裁判所判例も、本件について適切ではない。
 論旨はいずれも採用できない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文の
とおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    奥   野   健   一
            裁判官    城   戸   芳   彦
            裁判官    石   田   和   外
            裁判官    色   川   幸 太 郎

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