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平成28年9月28日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成27年(ネ)第10016号特許権侵害差止等請求控訴事件
(原審・東京地方裁判所平成24年(ワ)第6547号)
口頭弁論終結日平成28年8月3日
判決
控訴人大王製紙株式会社
同訴訟代理人弁護士小池豊
櫻井彰人
同弁理士永井義久
加藤和孝
被控訴人日本製紙クレシア株式会社
同訴訟代理人弁護士水谷直樹
曽我部高志
同弁理士赤尾謙一郎
主文
1本件控訴を棄却する。
2控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2被控訴人は,原判決別紙被告設備目録(原告)記載のティシュペーパーの製
造設備を設置し,使用してはならない。
3被控訴人は,原判決別紙被告方法目録(原告)記載の方法を使用してティシ
ュペーパーを製造し,当該ティシュペーパーを販売し,輸出し,又は譲渡の申出を
してはならない。
4被控訴人は,「クリネックスAQUAVeil」との商品名のティシュペ
ーパーを製造し,販売し,輸出し,又は譲渡の申出をしてはならない。
5被控訴人は,第2項の製造設備,第3項の方法を使用して製造したティシュ
ペーパー及び前項のティシュペーパーを廃棄せよ。
6被控訴人は,控訴人に対し,1550万7000円及びこれに対する平成2
4年3月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
7訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
8この判決は,仮に執行することができる。
第2事案の概要
1訴訟の概要(略称は,特に断らない限り,原判決に従う。)
⑴本件は,控訴人が,被控訴人に対し,被控訴人は,原判決別紙被告設備目録
(原告)記載のティシュペーパーの製造設備を設置・使用し,原判決別紙被告方法
目録(原告)記載の方法によって「クリネックスAQUAVeil」との商品
名のティシュペーパー(被告製品)及びその他のティシュペーパー(被告製品等)
を製造することにより,控訴人の特許第4676564号に係る特許権(本件特許
権1)を侵害しており,被告製品を製造・販売することにより,控訴人の特許第4
868622号に係る特許権(本件特許権2)を侵害しているとして,特許法10
0条1項,2項に基づき,上記製造設備の設置・使用等の差止め及び上記製造設備
等の廃棄を求めるとともに,不法行為(民法709条)に基づき,平成23年10
月から訴え提起時(平成24年3月7日)までの特許法102条2項による損害の
賠償の支払を求めた事案である。
⑵原判決は,①被控訴人が自社工場内に設置・使用しているティシュペーパー
製品の製造設備(被告設備)は,本件特許1の特許請求の範囲請求項1に係る発明
(本件発明1-1)の技術的範囲に属するとは認められない,②被告設備によって
ティシュペーパー製品を製造する方法(被告方法)は,本件特許1の特許請求の範
囲請求項5に係る発明(本件発明1-2)の技術的範囲に属するとは認められない,
③被告製品は,本件特許2の特許請求の範囲請求項1に係る発明(本件発明2)の
技術的範囲に属するとは認められないとして,控訴人の請求をいずれも棄却した。
控訴人は,原判決を不服として,控訴を提起した。
2前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲証拠及び弁論の全趣旨によ
り認められる事実を含む。)
⑴当事者
控訴人は,紙類・パルプ類及びその副産物の製造加工並びに売買等を業とする株
式会社である。
被控訴人は,ティシュペーパー,紙及び紙製品の製造,加工,販売及び輸出入等
を業とする株式会社である。
⑵本件特許1
ア出願経過
控訴人は,平成22年4月16日,発明の名称を「ティシュペーパー製品の製造
方法及び製造設備」とする特許出願(特願2010-95133号)をし,平成2
3年2月4日,設定の登録を受けた(特許第4676564号。請求項の数6。甲
2)。
イ特許請求の範囲の記載
特許請求の範囲請求項1及び5の記載は,次のとおりである(甲2)。なお,文中
の「/」は,原文の改行箇所を示す(以下同じ。)。本件特許1の明細書(甲2)を
「本件第1明細書」という。
【請求項1】薬液が塗布されたティシュペーパー製品の製造設備であって,/抄紙
設備により抄造され巻き取られた一次原反ロールから連続的にティシュペーパー製
品用の二次原反ロールを製造するプライマシンに;/複数の一次原反ロールから繰
り出される一次連続シートをその連続方向に沿って積層して積層連続シートとする
積層手段と,/積層連続シートに対して薬液を塗布する薬液塗布手段と,/積層連
続シートをティシュペーパー製品の製品幅又はその複数倍幅となるようにスリット
するスリット手段と,/スリットされた各積層連続シートを同軸で巻取ってティシ
ュペーパー製品の製品幅又はその複数倍幅の二次原反ロールを形成する巻取り手段
と,がシートの流れ方向に順に組み込まれており;/前記プライマシンにより得ら
れた,薬液が塗布された二次原反ロールが,マルチスタンド式インターフォルダの
折畳機構部に対応して多数セットされ,各二次原反ロールからの二次連続シートが
前記折畳機構部にそれぞれ送り込まれ,二次連続シートが折り畳まれ各二次連続シ
ートの側端部が掛け合わせされながら積み重ねられた積層帯が得られ,/その後に
流れ方向に所定の間隔をおいて裁断されてティシュペーパー束とされ,そのティシ
ュペーパー束が収納箱に収納されてティシュペーパー製品とされる,/ことを特徴
とする,薬液が塗布されたティシュペーパー製品の製造設備。
【請求項5】薬液が塗布されたティシュペーパー製品の製造方法であって,/抄紙
設備により抄造され巻き取られた一次原反ロールから連続的にティシュペーパー製
品用の二次原反ロールを製造するプライマシンとして;/複数の一次原反ロールか
ら繰り出される一次連続シートをその連続方向に沿って積層して積層連続シートと
する積層手段と,/積層連続シートに対して薬液を塗布する薬液塗布手段と,/積
層連続シートをティシュペーパー製品の製品幅又はその複数倍幅となるようにスリ
ットするスリット手段と,/スリットされた各積層連続シートを同軸で巻取ってテ
ィシュペーパー製品の製品幅又はその複数倍幅の二次原反ロールを形成する巻取り
手段と,をシートの流れ方向に順に組み込んだものを用い;/前記プライマシンに
より得られた,薬液が塗布された二次原反ロールを,マルチスタンド式インターフ
ォルダの折畳機構部に対応して多数セットし,前記マルチスタンド式インターフォ
ルダにおいて,各二次原反ロールからの二次連続シートを前記折畳機構部にそれぞ
れ送り込み,二次連続シートを折り畳み各二次連続シートの側端部を掛け合わせし
ながら積み重ねられた積層帯を得て,/その後に流れ方向に所定の間隔をおいて裁
断してティシュペーパー束とし,そのティシュペーパー束を収納箱に収納してティ
シュペーパー製品を得る,/ことを特徴とする,薬液が塗布されたティシュペーパ
ー製品の製造方法。
ウ本件発明1-1及び1-2の分説
本件発明1-1及び1-2は,それぞれ以下の各構成要件に分説される。
本件発明1-1
a薬液が塗布されたティシュペーパー製品の製造設備であって,
b抄紙設備により抄造され巻き取られた一次原反ロールから連続的にティシュ
ペーパー製品用の二次原反ロールを製造するプライマシンに;
c複数の一次原反ロールから繰り出される一次連続シートをその連続方向に沿
って積層して積層連続シートとする積層手段と,
d積層連続シートに対して薬液を塗布する薬液塗布手段と,
e積層連続シートをティシュペーパー製品の製品幅又はその複数倍幅となるよ
うにスリットするスリット手段と,
fスリットされた各積層連続シートを同軸で巻取ってティシュペーパー製品の
製品幅又はその複数倍幅の二次原反ロールを形成する巻取り手段と,
gがシートの流れ方向に順に組み込まれており;
h前記プライマシンにより得られた,薬液が塗布された二次原反ロールが,マ
ルチスタンド式インターフォルダの折畳機構部に対応して多数セットされ,各二次
原反ロールからの二次連続シートが前記折畳機構部にそれぞれ送り込まれ,二次連
続シートが折り畳まれ各二次連続シートの側端部が掛け合わせされながら積み重ね
られた積層帯が得られ,
iその後に流れ方向に所定の間隔をおいて裁断されてティシュペーパー束とさ
れ,そのティシュペーパー束が収納箱に収納されてティシュペーパー製品とされる,
jことを特徴とする,薬液が塗布されたティシュペーパー製品の製造設備。
本件発明1-2
k薬液が塗布されたティシュペーパー製品の製造方法であって,
l抄紙設備により抄造され巻き取られた一次原反ロールから連続的にティシュ
ペーパー製品用の二次原反ロールを製造するプライマシンとして;
m複数の一次原反ロールから繰り出される一次連続シートをその連続方向に沿
って積層して積層連続シートとする積層手段と,
n積層連続シートに対して薬液を塗布する薬液塗布手段と,
o積層連続シートをティシュペーパー製品の製品幅又はその複数倍幅となるよ
うにスリットするスリット手段と,
pスリットされた各積層連続シートを同軸で巻取ってティシュペーパー製品の
製品幅又はその複数倍幅の二次原反ロールを形成する巻取り手段と,
qをシートの流れ方向に順に組み込んだものを用い;
r前記プライマシンにより得られた,薬液が塗布された二次原反ロールを,マ
ルチスタンド式インターフォルダの折畳機構部に対応して多数セットし,前記マル
チスタンド式インターフォルダにおいて,各二次原反ロールからの二次連続シート
を前記折畳機構部にそれぞれ送り込み,二次連続シートを折り畳み各二次連続シー
トの側端部を掛け合わせしながら積み重ねられた積層帯を得て,
sその後に流れ方向に所定の間隔をおいて裁断してティシュペーパー束とし,
そのティシュペーパー束を収納箱に収納してティシュペーパー製品を得る,
tことを特徴とする,薬液が塗布されたティシュペーパー製品の製造方法。
⑶本件特許2
ア出願経過
控訴人は,平成22年6月30日,発明の名称を「ティシュペーパー及びティシ
ュペーパーの製造方法」とする特許出願をし(特願2010-149655号。甲
4),同年11月30日,上記出願を原出願とする分割出願をして(特願2010-
266174号),平成23年11月25日,設定の登録を受けた(特許第4868
622号。請求項の数7。甲25)。
イ特許請求の範囲の記載
特許請求の範囲請求項1の記載は,次のとおりである(甲25)。本件特許2の明
細書を「本件第2明細書」という。
【請求項1】表面に薬液が塗布された2プライのティシュペーパーであって,/薬
液は2プライの片面にのみ塗布され,薬剤含有量が両面で2.0~5.5g/m2
であり,/2プライを構成するシートの1層あたりの坪量が10~25g/m2

あり,/2プライの紙厚が100~140μmであり,/下記(A)~(D)の手
順により測定される静摩擦係数が0.50~0.65である,ことを特徴とするテ
ィシュペーパー。
(A)ティシュペーパーを1プライにはがし,2プライ時にティシュペーパーの外
面にあった面が外側となるようしてアクリル板に張り付ける。
(B)前記ティシュペーパーとは別のティシュペーパーを2プライのまま100g
の分銅に巻きつけ,前記アクリル板上のティシュペーパー上に乗せる。
(C)前記アクリル板を傾け,おもりが滑り落ちる角度を測定する。
(D)前記角度の測定を,ティシュペーパーのMD方向同士,ティシュペーパーの
CD方向同士で行うこととし,各4回ずつの計8回測定して平均角度を算出して,
そのタンジェント値を静摩擦係数とする。
ウ本件発明2の分説
本件発明2は,以下の各構成要件に分説される。
u表面に薬液が塗布された2プライのティシュペーパーであって,
v1薬液は2プライの片面にのみ塗布され,
v2薬剤含有量が両面で2.0~5.5g/m2
であり,
w2プライを構成するシートの1層あたりの坪量が10~25g/m2
であり,
x2プライの紙厚が100~140μmであり,
y下記(A)~(D)の手順により測定される静摩擦係数が0.50~0.6
5である,
(A)ティシュペーパーを1プライにはがし,2プライ時にティシュペーパーの外
面にあった面が外側となるようしてアクリル板に張り付ける。
(B)前記ティシュペーパーとは別のティシュペーパーを2プライのまま100g
の分銅に巻きつけ,前記アクリル板上のティシュペーパー上に乗せる。
(C)前記アクリル板を傾け,おもりが滑り落ちる角度を測定する。
(D)前記角度の測定を,ティシュペーパーのMD方向同士,ティシュペーパーの
CD方向同士で行うこととし,各4回ずつの計8回測定して平均角度を算出して,
そのタンジェント値を静摩擦係数とする。
zことを特徴とするティシュペーパー。
⑷被告設備,被告方法及び被告製品について
被告設備は,薬液が塗布されたティシュペーパー製品の製造設備であるから,本
件発明1-1の構成要件a及びjを充足する。
被告方法は,薬液が塗布されたティシュペーパー製品の製造方法であるから,本
件発明1-2の構成要件k及びtを充足する。
被告製品は,表面に薬液が塗布された2プライのティシュペーパーであって,薬
液は2プライの片面にのみ塗布され,薬剤含有量は3.34g/m2
であり,2プ
ライを構成するシートの1層あたりの坪量が14.3g/m2
であることを特徴と
するティシュペーパーであるから,本件発明2の構成要件u,v1,w及びzを充
足する。
⑸被控訴人の行為
被控訴人は,遅くとも平成23年7月から,被告設備を設置・使用し,被告方法
によって被告製品等を製造・販売している。
3争点
⑴本件発明1-1
ア被告設備に係る侵害の成否
文言侵害の成否
a構成要件bの充足性について
b構成要件cからgの充足性について
c構成要件h及びiの充足性について
均等侵害の成否(予備的主張に係るもの)
a均等の第1要件から第3要件
b均等の第4要件及び第5要件
イ本件発明1-1に係る特許の無効理由の有無
進歩性の欠如(特許法29条2項)
明確性要件(同法36条6項2号)違反
⑵本件発明1-2
ア被告方法に係る侵害の成否
文言侵害の成否
a構成要件lの充足性について
b構成要件mからqの充足性について
c構成要件r及びsの充足性について
均等侵害の成否(予備的主張に係るもの)
イ本件発明1-2に係る特許の無効理由の有無
進歩性の欠如(特許法29条2項)
明確性要件(同法36条6項2号)違反
⑶本件発明2
ア被告製品に係る侵害の成否
構成要件v2の充足性
構成要件xの充足性
構成要件yの充足性
イ本件特許2の無効理由の有無
明確性要件(特許法36条6項2号)違反
実施可能要件(同条4項1号)違反
新規性欠如(同法29条1項2号)
⑷損害の有無及びその額
第3当事者の主張
1本件発明1-1
⑴争点⑴ア(被告設備に係る侵害の成否〔文言侵害の成否〕)について
〔控訴人の主張〕
ア構成要件bの充足性について
構成要件bの「プライマシン」の意義
構成要件bの「プライマシン」が,抄紙設備により製造された一次原反ロールか
ら,マルチスタンド式インターフォルダにセットされる二次原反ロールを製造する
ものであることは,本件特許1の特許請求の範囲請求項1の記載から明らかであり,
この点は,本件第1明細書の【0015】及び【0022】の記載によっても裏付
けられている。また,特開2002-347146号公報(甲89),特開2011
-121764号公報(甲90)及び特開2013-132439号公報(甲91)
の記載によれば,プライマシンの意義を上記のように解することは,本件特許1の
特許出願当時の技術常識であったということができる。
被告設備の構成要件bの充足性について
被告設備は,原判決別紙被告設備目録(原告)記載のティシュペーパーの製造設
備である。そして,前記によれば,被告設備においても,プライマシンが一次原
反ロールからマルチスタンド式インターフォルダにセットされる二次原反ロールを
製造するものを指すことは明らかであり,そのプライマシンの範囲には,構成要件
cの積層手段に相当するシート合わせロール10,構成要件dの薬液塗布手段に相
当する薬液塗布装置11,構成要件eのスリット手段に相当するスリッター12及
び構成要件fの巻取り手段に相当する巻取り装置132が,構成要件gと同様にシ
ートの流れ方向に順に組み込まれているのであるから,被告設備におけるプライマ
シンは,構成要件bの要件を全て備えているということができる。
原判決について
a原判決は,被告設備のプライマシンにおいては,一次原反ロールから二次原
反ロールを形成するまでの間,薬液塗布設備の前で原反ロールを形成し,改めてこ
れを移動していること,すなわち,薬液塗布装置11の前でいったん原反ロール(中
間ロール)にしていることをもって,一次原反ロールから連続的に二次原反ロール
を製造しているということはできないとして,被告設備が構成要件bを充足しない
と判断した。
bしかし,以下のとおり,構成要件bの「プライマシン」は,いったん中間ロ
ール化することを排除するものではない。
⒜すなわち,「連続」という言葉が,広い概念を有し,対象,時間,場所などあ
らゆるケースにおいて使用される言葉であることに加え,「的」という言葉が,「名
詞や句に添えて,その性質を帯びる,その状態をなす意を表す。」との語意を有する
ことに鑑みると,「連続的」は,多様性のある表現である。構成要件bは,①ティシ
ュペーパーが製造工程の段階では連続シートの形態を有しており,一般に枚葉紙(平
判)といわれる一定寸法の角形に仕上げた紙の状態で製造されるものではないこと,
②構成要件cからd記載の積層手段,薬液塗布手段,スリット手段及び巻取り手段
がこの順に組み込まれていることから,「連続的に」と称しており,特開2011-
121764号公報(甲90)の【0063】及び【0064】の記載にも鑑みれ
ば,この「連続的に」は,二次原反ロールの製造が時間的に長い間隔をおくことな
く順次行われていることを明らかにするものであり,各手段の配置・配列形態を示
すものではない。そして,被告設備において,前記のとおり中間ロール化した後に
これを別の場所に移動しても,同所における薬液塗布と中間ロールの製造を同時期
に行うことは可能であるから,二次原反ロールの製造が時間的に長い間隔をおくこ
となく順次行われているということができる。
⒝本件発明1-1の課題は,「プライマシンやマルチスタンド式インターフォル
ダとは別に薬液塗布工程を設けると,原反の移送の手間や多大な設備コストがかか
ってしまう」(【0007】)というものであり,これは特開2013-132439
号公報(甲91)【0019】記載の設備スペースの必要及び製品歩留まりの低下と
同趣旨である。本件発明1-1は,マルチスタンド式インターフォルダにセットす
る前のプライマシン内に薬液塗布装置を設けて上記課題を解決したものであり,こ
れは,被告設備においても同様である。
なお,本件第1明細書の実施例には,被告設備のようにいったん中間ロールとす
る構成は記載されていないが,それは,中間ロール化の技術的意義が全くないこと
によるものである。被告設備においては,工場のレイアウトの関係でそのように中
間的な状態を作出しているにすぎない。したがって,本件第1明細書の実施例に中
間ロール化する態様が記載されていないことは,同態様の製造設備が本件発明1-
1の技術的範囲に属しないことを意味するものではない。
以上によれば,被告設備は構成要件bを充足する。
イ構成要件cからgの充足性について
原判決7頁24行目から8頁4行目の記載のとおりである。
ウ構成要件h及びiの充足性について
原判決8頁6行目から16行目の記載のとおりである。
〔被控訴人の主張〕
ア構成要件bの充足性について
構成要件bの「プライマシン」の意義
従来技術に係るプライマシンとは,基本的には,1枚重ねの原反ロール(原紙)
を解いて連続シートとした上で,必要な枚数を重ね合わせて任意の幅でスリットす
ることによって,複数枚の原紙が重ね合わせられた任意の幅の原反ロールを製造す
ることを内容とする装置である。そして,構成要件bの「一次原反ロールから連続
的にティシュペーパー製品用の二次原反ロールを製造する」は,本件第1明細書【0
110】及び【図11】の開示を前提とすると,積層,薬液塗布,スリット及び巻
取りの各工程をプライマシンにおける連続ライン上で行うことを意味する。以上に
鑑みると,構成要件bの「プライマシン」は,前記の従来技術に係るプライマシン
内の連続ライン上に薬液塗布手段(構成要件d)を付加した構成のものである。
本件第1明細書には,プライマシンで製造された二次原反ロールがマルチスタン
ド式インターフォルダにセットされる旨の記載はあるが,抄紙設備とマルチスタン
ド式インターフォルダとの間の工程に設けられている全ての装置がプライマシンに
含まれる旨の記載はなく,また,そのような技術常識も存在しない。
被告設備の構成要件bの充足性について
被告設備は,原判決別紙被告設備目録(被告)記載のティシュペーパー製品の製
造設備である。同設備においては,従来技術に係るプライマシンであるペーパーマ
シンワインダーにおいて原反ロールを形成してこれを保管・移送し,独立(オフラ
イン)の薬液塗布装置によって薬液を塗布しているのであるから,従来技術に係る
プライマシン内の連続ライン上に薬液塗布手段を付加した構成を有する構成要件b
の「プライマシン」を備えていないことは,明らかである。
控訴人の主張について
構成要件bの「連続的に」の意義を控訴人の主張のとおり解し,構成要件bの「プ
ライマシン」がいったん中間ロール化することを排除しないと解することは,誤り
である。中間ロール化,すなわち,ペーパーマシンワインダーとは独立して設けた
薬液塗布装置を使用するために,工程の途中で連続シートをいったん巻き取って原
反ロールとすることは,原反の移送の手間や多大な設備コストが掛かるという本件
発明1-1の課題を解決できなくなり,また,プライマシンやマルチスタンド式イ
ンターフォルダとは別に薬液塗布工程を設ける場合と比較して,設備コストを低く
抑えることができるという本件発明1-1の作用効果も奏し得ないことになる。
構成要件bの「連続的に」の意義を控訴人の主張のとおり解することは,構成要
件g「シートの流れ方向に順に組み込まれており」とも整合せず,また,控訴人自
身,本件特許1の出願経過において,従来技術に係るプライマシンから独立したオ
フラインの関係にある薬液塗布装置により薬液を塗布する構成は,上記プライマシ
ン上で薬液を塗布する本件発明1-1とは全く異なる旨を述べていた。
いったん中間ロール化する構成が本件第1明細書の実施例に記載されていないの
は,上記構成が本件特許1の出願当時において公知の技術であったからにほかなら
ない。
イ構成要件cからgの充足性について
被告設備のペーパーマシンワインダーは,薬液塗布装置を備えていないことから,
構成要件dを充足せず,上記ペーパーマシンワインダーのスリッターは,既に薬液
が塗布された連続シートを切断するものではないから,構成要件eを充足しない。
また,構成要件fの「巻取り手段」は,連続シートをティシュペーパー製品の製
品幅で巻き取るものと解するのが相当であるが,上記ペーパーマシンワインダーの
巻取り装置は,連続シートをティシュペーパー製品の製品幅の複数倍幅で巻き取る
ものであるから,構成要件fを充足しない。
そして,上記のとおり,被告設備は,構成要件dの薬液塗布手段,構成要件eの
スリット手段及び構成要件fの巻取り手段のいずれも備えていないことから,構成
要件gも充足しない。
ウ構成要件h及びiの充足性について
前記イのとおり,構成要件fの「巻取り手段」は,連続シートをティシュペーパ
ー製品の製品幅で巻き取るものであるから,構成要件hの「マルチスタンド式イン
ターフォルダ」にセットされる二次原反ロールは,製品幅のものであるのに対し,
被告設備のペーパーマシンワインダーの巻取り装置は,連続シートをティシュペー
パー製品の複数倍幅で巻き取るものであることから,マルチスタンド式インターフ
ォルダにセットされるのは,製品幅の複数倍幅のものであり,よって,構成要件h
を充足しない。
また,前記ア及びイのとおり,被告設備は,構成要件b及びdからhを充足して
いないから,構成要件iも充足しない。
⑵争点⑴ア(被告設備に係る侵害の成否〔均等侵害の成否〕)について
〔控訴人の主張〕
ア均等の第1要件から第3要件について
仮に,被告設備が,一次原反ロールから薬液が塗布された二次原反ロールに至る
過程において,薬液塗布の前にいったんロール102(中間ロール)を形成してい
るために「一次原反ロールから連続的にティシュペーパー製品用の二次原反ロール
を製造するプライマシン」を備えているということはできず,構成要件bを充足し
ないものとして文言侵害が認められないとしても,本件においては,以下のとおり
均等侵害が成立する。
均等の第1要件(非本質的部分)について
本件発明1-1の特徴は,薬液を塗布したティシュペーパー製品を,折り畳み設
備としてマルチスタンド式インターフォルダを用いて製造することであり,より具
体的には,プライマシンに積層手段,薬液塗布手段,スリット手段及び巻取り手段
を組み込んだことである。したがって,本件発明1-1の本質的部分は,プライマ
シンに積層手段,薬液塗布手段,スリット手段及び巻取り手段を組み込んだことに
あり,積層の後,薬液塗布の前に中間ロール化することは,技術的意義もなく,本
質的部分に当たらない。よって,被告設備は,均等の第1要件を充足する。
均等の第2要件(置換可能性)について
被告設備においても,本件発明1-1と同様に,マルチスタンド式インターフォ
ルダを用いて薬液を塗布したティシュペーパー製品を製造しており,その製造工程
の流れの中でいったん中間ロール化することの技術的意義はない。したがって,積
層連続シートを中間ロール化してから改めて解きほぐして薬液塗布工程に移行させ
ることとしても,薬液が塗布されたティシュペーパー製品の製造という本件発明1
-1と同一の作用効果を奏するものである。よって,被告設備は,均等の第2要件
を充足する。
均等の第3要件(置換容易性)について
中間ロール化の技術的意義はなく,本件発明1-1がマルチスタンド式インター
フォルダに至るまで製造工程の流れを止めることがないものであっても,途中で中
間ロールのような仕掛品の状態を作出することは一般的なことである。したがって,
当業者は,被告設備の製造等の時点において中間ロール化を容易に想到することが
できたものであるから,被告設備は,均等の第3要件を充足する。
イ均等の第4要件及び第5要件について
均等の第4要件(対象製品の容易推考性)について
前記⑴〔控訴人の主張〕アのとおり,被告設備においても,本件発明1-1と同
様に,プライマシンは,一次原反ロールからマルチスタンド式インターフォルダに
セットされる二次原反ロールを製造するものを指し,したがって,プライマシンの
中に薬液塗布装置が設けられているのであるから,その点において本件発明1-1
と同じであり,本件特許1の出願時における公知技術と同一のものでもなく,当業
者がこれから容易に推考できたものでもない。
均等の第5要件(特段の事情)について
る薬液塗布装置により薬液を塗布する構成を備えるものではないから,控訴人が本
件特許1の出願経過において被告設備が備える構成を意識的に除外していたという
ことはできない。
〔被控訴人の主張〕
ア均等の第1要件から第3要件について
均等の第1要件(非本質的部分)について
本件発明1-1は,薬液を塗布したティシュペーパー製品の製造に折り畳み設備
としてマルチスタンド式インターフォルダを用いることを前提とした上で,製造工
程において薬液塗布装置が配置される段階ないし場所につき,プライマシンやマル
チスタンド式インターフォルダから独立した関係ではなく,かつ,マルチスタンド
式インターフォルダ内を除くという条件を満たす構成,すなわち,薬液塗布装置を
「一次原反ロールから連続的にティシュペーパー製品用の二次原反ロールを製造す
るプライマシン」(構成要件b)内に配置する構成を本質的部分とするものである。
そして,本件発明1-1は,上記構成によってその課題である原反の移送の手間を
解決するものであるから,積層手段,薬液塗布手段,スリット手段及び巻取り手段
の各手段が連続ライン上に組み込まれていることが,本件発明1-1の本質的部分
に当たることは,明らかである。したがって,積層の後,薬液塗布の前に中間ロー
ル化するという被告設備と本件発明1-1との相違点である構成要件bの「プライ
マシン」は,本件発明1-1の本質的部分にほかならない。よって,被告設備は,
均等の第1要件を欠く。
均等の第2要件(置換可能性)について
本件発明1-1の「プライマシン」につき,被告設備のように,プライマシンや
マルチスタンド式インターフォルダとは別に,独立した薬液塗布装置を配置する構
成に置き換えると,原反の移送の手間や多大な設備コストが掛かるという本件発明
1-1の課題を解決することができず,また,プライマシンやマルチスタンド式イ
ンターフォルダとは別に薬液塗布工程を設ける場合と比較して,設備コストを安く
抑えることができるという本件発明1-1の作用効果を奏することができない。よ
って,均等の第2要件も満たさない。
均等の第3要件(置換容易性)について
発明1-1において,独立した薬液塗布装置を配置すると
いう置換えをすると,本件発明1―1の作用効果を消滅させることになるから,当
業者が同置換を容易に想到することができるものとは言い難い。よって,均等の第
3要件も満たさない。
イ均等の第4要件及び第5要件について
均等の第4要件(対象製品の容易推考性)について
被告設備のように,従来技術に係るプライマシンと独立した薬液塗布装置を配置
することは,本件特許1の出願当時,公知の技術であり,本件発明1-1の課題を
内包する先行技術であるから,均等の第4要件も満たさない。
均等の第5要件(特段の事情)について
前記⑴〔被控訴人の主張〕アのとおり,控訴人自身,本件特許1の出願経過にお
いて,従来技術に係るプライマシンから独立したオフラインの関係にある薬液塗布
装置により薬液を塗布する構成は,上記プライマシン上で薬液を塗布する本件発明
1-1とは全く異なる旨を述べていたのであるから,被告設備が備える上記構成を
意識的に除外していたものということができる。したがって,均等の第5要件も満
たさない。
⑶争点⑴イ(本件発明1-1に係る特許の無効理由の有無)について
原判決9頁11行目から11頁4行目の記載のとおりである。
2本件発明1-2
⑴方法に係る侵害の成否〔文言侵害の成否〕)について
〔控訴人の主張〕
ア構成要件lの充足性について
前記1⑴〔控訴人の主張〕アと同様の理由により,被告方法は,構成要件lを充
足する。
イ構成要件mからqの充足性について
原判決11頁23行目から12頁3行目の記載のとおりである。
ウ構成要件r及びsの充足性について
原判決12頁5行目から15行目の記載のとおりである。
〔被控訴人の主張〕
ア構成要件lの充足性について
前記1⑴〔被控訴人の主張〕アと同様の理由により,被告方法は,構成要件lを
充足しない。
イ構成要件mからqの充足性について
前記1⑴〔被控訴人の主張〕イと同様の理由により,被告方法は,構成要件mか
らqを充足しない。
ウ構成要件r及びsの充足性について
前記1⑴〔被控訴人の主張〕ウと同様の理由により,被告方法は,構成要件r及
びsを充足しない。
⑵について
〔控訴人の主張〕
前記1⑵〔控訴人の主張〕アと同様の理由により,被告方法は,均等の第1要件
から第3要件を充足し,同イと同様の理由により,被告方法は,均等の第4要件及
び第5要件を充足する。
〔被控訴人の主張〕
前記1⑵〔被控訴人の主張〕アと同様の理由により,被告方法は,均等の第1要
件から第3要件を充足せず,同イと同様の理由により,被告方法は,均等の第4要
件及び第5要件を充足しない。
⑶争点⑵イ(本件発明1-2に係る特許の無効理由の有無)について
原判決13頁10行目から14頁20行目の記載のとおりである。
3本件発明2
⑴争点⑶ア(被告製品に係る侵害の成否)について
〔控訴人の主張〕
ア構成要件v2の充足性について
被告製品の薬剤含有量は,3.34g/m2
であるから,被告製品は,構成要件v
2を充足する。
イ構成要件xの充足性について
被告製品の2プライの紙厚は125.5μmであるから,被告製品は,構成要件
xを充足する。
ウ構成要件yの充足性について
構成要件yの意義ー使用するおもり及びアクリル板に張り付けられるティシ
ュペーパーに関して
以下のとおり,構成要件yが規定する静摩擦係数の測定方法において,使用する
おもり及びアクリル板に張り付けられるティシュペーパーに関し,不明確な点はな
い。
a使用するおもりに関して
⒜おもりの水平時底面に掛かる圧力
構成要件yが規定する100gの分銅をおもりとして使用する場合,おもりの水
平時底面に掛かる圧力は,静摩擦係数の測定結果に影響を及ぼさないから,規定す
る必要はない。
アモントン-クーロンの法則(以下「アモントンの法則」という。)という経験則
上,水平時底面に掛かる圧力が過度に低い領域においては静摩擦係数にばらつきが
生じるものの,上記圧力がある程度以上に高くなると静摩擦係数がほぼ一定になる。
現に,甲第31号証において,水平時の圧力が0.5kPaから0.6kPaのと
きは静摩擦係数が略一定の値になることが示されており,また,甲第33号証には,
100gの分銅の水平時底面に掛かる圧力が相違しても静摩擦係数の測定値に影響
を及ぼさないことが示されている。
⒝おもりの形状
構成要件yには,100gの分銅と規定されており,「紙及び板紙の摩擦係数試験
方法JISP8147-1994(2006確認)」(乙1。以下「JIS規
格」という。)によれば,使用する分銅の形状を特定することができる。
⒞ティシュペーパーの巻きつけ方
当業者は,構成要件yの(B)の記載及びJIS規格の記載から,分銅の表面に
2プライのティシュペーパーを密着して巻きつけることを容易に理解することがで
き,具体的な巻きつけ方は,当業者が適宜選択する事項にすぎない。
bアクリル板に張り付けられるティシュペーパーに関して
⒜ティシュペーパーを張り付ける際に掛ける張力
ティシュペーパーに張力を掛けると静摩擦係数が変化することは,当業者の技術
常識であるから,ティシュペーパーをアクリル板に固定するに当たって張力を掛け
ないことは,自明のことである。
⒝ティシュペーパーの固定方法
JIS規格に,「本体用試験片を本体傾斜板に,おもり用試験片をおもりに,それ
ぞれ測定面を外側にして密着させる」と規定されているのであるから,本件のよう
なティシュペーパーの場合は,しわやたるみなく傾斜板(アクリル板)に張り付け
る必要があり,そのためにはセロハンテープ等で四方を固定することになる。
なお,ティシュペーパーの上端のみをアクリル板に固定する上方固定の方法及び
アクリル板とティシュペーパーの間に両面テープを挿入する後記〔被控訴人の主張〕
ウbの全面固定の方法は,試験片であるティシュペーパーを傾斜板に密着させる
ことができないから,JIS規格に反するものである。加えて,全面固定の方法に
ついては,ティシュペーパーを両面テープ表面にしわやたるみなく均一に張り付け
ることは困難であり,仮にそれができたとしても,両面テープの表面凹凸の影響や
その表面凹凸とティシュペーパーとの間に生じるすき間によってティシュペーパー
の表面が変化し,静摩擦係数に影響を及ぼすという問題もある。
⒞ティシュペーパーのサイズ・形状
ティシュペーパーのサイズ・形状については,JIS規格の「試験片の寸法は,
本体用については,その幅は,おもり用より約25mm広くし,その長さは,固定
部分も考慮して傾斜板に合うようにする」との記載に従えば足り,その余の点は,
当業者が適宜選択すべき事項である。
構成要件yの意義ー「おもりが滑り落ちる角度」に関して
a傾斜方法によって測定した静摩擦係数値は,傾斜板上のおもりが滑り始めた
ときの傾斜角のタンジェント値で示されることは,物理学の基本であるとともに技
術常識でもあり,JIS規格にも沿っている。したがって,「おもりが滑り落ちる角
度」とは,おもりが滑り落ち始める角度を意味するものというべきである。このこ
とは,被控訴人自身の出願に係る特開2013-188291号公報において,本
件発明2と同様に傾斜方法によって保湿性のあるティシュペーパーの静摩擦係数を
測定する際,接触子が滑り落ち始めたときの傾斜角の平均角度のタンジェント値を
求める旨が記載されていることからも,裏付けられる。
b被控訴人は,おもりがいったん滑り始め,そのまま停止することなく,傾斜
板下まで滑り落ちる際の滑り始め時の傾斜角をもって「おもりが滑り落ちる角度」
とすべきである旨主張する。
しかし,そもそも,おもりが滑り始めた時点においては,おもりがそのまま傾斜
板下まで滑り落ちていくか否かは不明であるから,上記の傾斜角を測定することは,
不可能である。また,100gの分銅を使用して傾斜角と分銅の動きを検証した実
験によれば,分銅は,傾斜板の傾斜角が27°~33°のときにわずかに滑り始め
た後に停止し,その後,細かく連続した滑りと停止を繰り返しながら滑り落ち,さ
らに,傾斜角が37°~43°のときに,斜面下まで滑り落ちるという動きを示し
た。このように,分銅は,ティシュペーパー上を少しずつ滑り落ちているのである
から,なぜ,滑り始めてから徐々に滑り落ちている時点の傾斜角を測定せず,最終
的に傾斜板下まで滑り落ちる時の滑り始め時の傾斜角を測定するのか不明である。
「おもりが滑り落ちる角度」は,おもりが停止せずに傾斜板下まで滑り落ちたか否
かにかかわらず,単におもりが動き始めたときの角度を意味するものと解するべき
である。
静摩擦係数測定の手段について
おもりの滑り始めを,目視及びセンサーのいずれによって読み取るかは,当業者
が静摩擦係数の測定に当たって適宜選択し得る事項である。現に,特開2013-
188291号公報においては,センサーを使用して測定することが記載されてお
り,また,センサー機能を搭載した静摩擦係数測定機は,数多く存在する。
被告製品の充足性
甲第9,33,39,81及び88号証等の実験において測定された被告製品の
静摩擦係数は,いずれも構成要件yが規定する数値範囲内のものである。したがっ
て,被告製品は,構成要件yを充足する。
被控訴人による実験の不合理性について
被控訴人による実験には,以下のとおり不合理な点がある。
a乙第53,103,104及び121号証の実験においては,被告製品の全
面を両面テープでアクリル板上に固定しており,このような全面
固定の方法は,JIS規格に反し,また,ティシュペーパー表面の摩擦力を変化さ
せる不合理な方法である。
b乙第53,64,99,102から104及び121号証の目視による確認
を行った実験においては,目視によっておもりの滑り始めを確認するに当たり,お
もりがいったん滑り始め,そのまま停止することなく,傾斜板下まで滑り落ちる際
の滑り始め時を確認対象としているが,前記構
成要件yが規定する「おもりが滑り落ちる角度」ではない。
c乙第53,64及び121号証のセンサーによる確認を行った実験において
は,センサーが,おもりが傾斜板下まで滑り落ちるか否かにかかわらず,最初にお
もりの動きを検知したときのアクリル板の角度を読み取っており,目視によってお
もりの滑り始めを確認する実験と,確認対象とする傾斜角が異なるが,両実験によ
る測定結果は,略同一となっており,それ自体,不合理である。
d上記cの実験並びに乙第72及び73号証の実験においては,センサーによ
る測定開始時に分銅を浮かせた状態にしている。
e乙第64及び72号証の実験において測定対象とされている4cm四方の被
告製品は,JIS規格に沿わないサイズのものである。
このように小さいサイズのティシュペーパーを使用すると,その中央に分銅を置
いた場合,ティシュペーパーの周囲四方を固定したセロハンテープと分銅との距離
が,直径28mmの分銅で1mmなど非常に短いものとなる。したがって,傾斜実
験を行うと,分銅がティシュペーパー上を滑る距離がほとんどないばかりか,分銅
が滑り始めようとするときに,分銅前端とセロハンテープの間のティシュペーパー
が盛り上がって滑りを妨害する壁を作ったり,分銅が斜めに滑ると,分銅側壁が両
側のセロハンテープに当たるなど,分銅の滑りがセロハンテープによって妨害され,
分銅の滑り始める傾斜角を大きくし,センサーによる反応のタイミングを遅めるこ
とに寄与する。
f乙第72,73及び99号証には,実験そのものが23℃,50%RHの環
境に設定された恒温恒湿室で行われたことは記載されていないことから,これらの
実験は,恒温恒湿の上記環境下で行われなかった可能性が高い。
〔被控訴人の主張〕
ア構成要件v2の充足性について
原判決15頁24行目から16頁6行目の記載のとおりである。
イ構成要件xの充足性について
原判決16頁8行目から14行目の記載のとおりである。
ウ構成要件yの充足性について
構成要件yの意義ー使用するおもり及びアクリル板に張り付けられるティシ
ュペーパーに関して
構成要件yが規定する静摩擦係数の測定方法には,使用するおもり及びアクリル
板に張り付けられるティシュペーパーに関し,一意の測定値を得るという観点から
は,不明確なところがあり,その条件次第によって測定結果が異なってくる。そし
て,不明確な点のうち,おもりの水平時底面に掛かる圧力,おもりの形状及びティ
シュペーパーをアクリル板に固定する方法については,以下のとおり解すべきであ
る。
a使用するおもりに関して
構成要件yには,①おもりの水平時底面に掛かる圧力,②おもりの形状及び③テ
ィシュペーパーの巻きつけ方が規定されていない。
⒜おもりの水平時底面に掛かる圧力
特にティシュペーパーのように柔らかく,変形しやすい素材においては,おもり
の水平時底面に掛かる圧力の数値が異なれば,静摩擦係数の測定結果も異なるもの
になることは,技術常識である。現に,乙第64号証の実験において,水平時底面
に掛かる圧力が異なる3種類の100gの分銅を用いて静摩擦係数を測定したとこ
ろ,有意に異なる測定結果が得られた。なお,ティシュペーパーにおいては,アモ
ントンの法則は適用されない。
おもりの水平時底面に掛かる圧力は,JIS規格にも明記されており,本件にお
いてもこれに準じて解するべきである。
⒝おもりの形状
構成要件yには,おもりとして100gの分銅を使用する旨が規定されているも
のの,分銅の具体的形状については規定されていない。
分銅には,円柱形状のものと直方体形状のものがある。このうち,円柱形状の分
銅を使用すると,重心位置が高いことから,傾斜板(アクリル板)を傾けた際に,
分銅が傾斜面下向き方向に傾いたり微小な回転をしたりする現象が生じ,これがお
もりの滑り始めと誤認されることにより,静摩擦係数の測定結果に影響を及ぼす。
また,構成要件yが規定するおもりは,100gの分銅にティシュペーパーを巻き
つけるものであるが,円柱形状の分銅を使用すると,底面が円形状であることから,
必然的に底面の周囲にしわが形成され,これも静摩擦係数の測定結果に影響を及ぼ
すものである。
JIS規格においても,直方体形状のおもりが使用されているのであるから,本
来は,直方体形状の分銅を使用すべきである。
⒞ティシュペーパーの巻きつけ方
ティシュペーパーを分銅に巻きつける際の張力の大小は,分銅底面側のティシュ
ペーパーの表面性に影響を与え,結果として,静摩擦係数の測定結果に影響を及ぼ
す。
bアクリル板に張り付けられるティシュペーパーに関して
構成要件yには,①ティシュペーパーを張り付ける際に掛ける張力,②ティシュ
ペーパーの固定方法及び③ティシュペーパーのサイズ・形状が規定されていない。
⒜ティシュペーパーを張り付ける際に掛ける張力
ティシュペーパーは,薄く伸びやすい性質を有しており,自然の状態では,しわ
やたるみがある上,製造時に,柔軟性を付与するためのしわ付け加工(クレープ加
工)が施されており,うねり(クレープ)が不可避的に存在するものである。した
がって,ティシュペーパーをしわやたるみなくアクリル板に張り付けようとする場
合には,ティシュペーパーを四方に広げるように張力を掛ける必要があるが,この
張力の大小によりティシュペーパーの表面性が変化し,結果として,静摩擦係数の
測定結果に影響を与えることになる。
⒝ティシュペーパーの固定方法
ティシュペーパーをアクリル板に張り付ける方法としては,①ティシュペーパー
の各辺のいずれか1つ又は複数の辺をテープ等で固定する方法(部分固定)や,②
ティシュペーパーがアクリル板に接する全面にわたり両面テープや微弱なスプレー
のり等で固定する方法(全面固定)が考えられ,いずれの固定方法を採用するかに
よって,アクリル板にティシュペーパーの一部が固定されるか,全面が固定される
かという差が生じる。
部分固定の方法については,以下の問題点があり,静摩擦係数を正確に測定する
ことができなくなるおそれがある。すなわち,ティシュペーパーは,他の紙類と比
較して圧倒的に伸びやすいので,部分固定の方法によりアクリル板に固定した場合,
アクリル板の傾斜角の上昇に伴い,おもりの荷重の傾斜面下向き方向の分力がティ
シュペーパーとアクリル板との間の最大静止摩擦力を超えると,ティシュペーパー
とアクリル板との接触面において滑りが生じ,その際に,アクリル板上のティシュ
ペーパーに対して,傾斜面下向き方向に伸長させようとする力(おもりの荷重の傾
斜面下向き方向の分力から,アクリル板上のティシュペーパーに働く動摩擦力を引
いた力)が加わり,この結果,おもりよりも後方(上方)部分のティシュペーパー
が伸長し,この伸長に伴って,おもりが当該ティシュペーパーと一体となってわず
かに動いたように見える現象,すなわち,微動が生じる。このとき,実際にはおも
りはティシュペーパー上を滑っていないにもかかわらず,おもりが滑り始めたと誤
認されやすい。
また,仮にティシュペーパーを四方に広げるように掛ける張力を一定にすること
ができたとしても,張り付けられた後のティシュペーパーの張力は,固定されてい
ない箇所がたるむことなどによって異なってくることになり,このことが,ティシ
ュペーパーの表面性に影響を与え,ひいては静摩擦係数の測定結果にも影響を及ぼ
す。
したがって,上記のような問題がない全面固定の方法を採用するべきである。
⒞ティシュペーパーのサイズ・形状
ティシュペーパーは,柔らかく伸び縮みしやすい性質を有するので,アクリル板
上に張り付ける際に四方に広げるように掛ける張力を,仮に一定にすることができ
たとしても,ティシュペーパーのサイズ・形状によって,張り付けられた後のティ
シュペーパーのたるみ(応力緩和)の程度は一定ではなく,残存する張力は異なる
ことになり,このことが,ティシュペーパーの表面性に影響を与え,静摩擦係数の
測定結果に影響を及ぼす。
さらに,前記⒝のとおり,部分固定の方法を採用している場合,測定中のティシ
ュペーパーの伸長は避けられないが,この伸長の程度も,ティシュペーパーのサイ
ズ・形状によって異なるものとなる。
構成要件yの意義ー「おもりが滑り落ちる角度」に関して
a構成要件yには,どのようなおもりの挙動をもって「滑り落ちる」と判断す
べきかについては,規定されていない。
以下によれば,おもりがいったん滑り始め,そのまま停止することなく,傾斜板
下まで滑り落ちる際の挙動をもって「滑り落ちる」と判断し,その際の滑り始め時
の傾斜角をもって「おもりが滑り落ちる角度」とすべきである。
本件第2明細書には,静摩擦係数の測定方法につき,JIS規格に準じた方法で
測定する旨が記載されているにとどまり,JIS規格においては,傾斜方法によっ
て紙の静摩擦係数を測定する際には,おもりがいったん滑り始め,そのまま停止す
ることなく,傾斜板下まで滑り落ちる際の滑り始め時の傾斜角が,紙の静摩擦係数
に対応するものであり,このことは,技術常識である。
現に,一般的な紙類を代表するものということができる新聞用紙,塗工紙,コピ
ー用紙及び板紙の4種類の紙類につき,JIS規格のとおりの傾斜方法により静摩
擦係数を測定した実験及び構成要件yが規定する測定方法により静摩擦係数を測定
した実験のいずれにおいても,前記滑り始め時の傾斜角が当該紙の静摩擦係数に対
応するものであることが確認された。
b控訴人の主張は,前記〔控訴人の主張〕ウbのとおり,アクリル板上のテ
ィシュペーパーが傾斜面下向き方向にわずかに伸長することに伴い,おもりが同伸
長に沿って変位する微動が生じたときも,「おもりが滑り落ちた」と解するものであ
るが,このとき実際にはおもりはティシュペーパー上を滑っていない。
また,「おもりが滑り落ちる角度」について控訴人が主張する意義は,本件第2明
細書に記載されていないことからも,同主張のとおり解することはできない。
静摩擦係数測定の手段について
おもりの滑り始めを目視で確認し,そのときの傾斜角を測定して静摩擦係数を算
出すべきである。
aJIS規格においては,おもりの滑り始めを目視で確認することが前提とさ
れており,目視による確認が困難なほどの微小な動きを滑り始めとすることは,想
定されていない。
b控訴人及び被控訴人が静摩擦係数の測定に使用している静摩擦係数測定機
「HEiDONTYPE:10」は,傾斜板上のおもりの動きを検知するための
センサーを備えているが,その仕組みは,専用のおもりに分離不能な状態で固定さ
れた専用の遮光ポールをセンサーの凹部に差し込んで固定し,この遮光ポールの動
きをセンサーで検知するというものである。したがって,センサーは,おもりが傾
斜板上にセットされた測定対象物(試験片)上を滑っているか否かまでは判別する
ことができない。
したがって,センサーを使用する場合は,①測定対象物(試験片)が測定中に伸
長せず,かつ,②おもりが測定中に傾いたり,回転するなどの不安定な動きをする
ことがないという条件が満たされない限り,正確な測定結果を得ることができない。
前記のとおり,ティシュペーパーを部分固定の方法によってアクリル板に固
定すると,おもりが実際にはティシュペーパー上を滑っていないのに,ティシュペ
ーパーの伸長に沿って変位する微動が生じ,センサーは,この微動にも反応してし
まうので正確な測定結果を得ることができない。また,前記のとおり,おもり
に円柱形状の分銅を用いた場合には,測定中に傾いたり,回転するなどの不安定な
動きをすることから,センサーの誤作動を招く。このように,構成要件yが規定す
る測定方法においては,静摩擦係数測定機のセンサーを適切に使用することができ
る測定条件が整っていない。
被告製品の充足性
乙第53,64,72,73,99,102から104及び121号証等の実験
において測定された被告製品の静摩擦係数は,いずれも構成要件yが規定する数値
範囲外のものである。したがって,被告製品は,構成要件yを充足しない。
控訴人による実験の不合理性について
前記のとおり,ティシュペーパーをアクリル板に固定する方法としては,全面
固定の方法が誤りの生じない方法であるにもかかわらず,控訴人による実験は,い
ずれも全面固定の方法を採用していない。
また,控訴人は,おもりが停止せずに傾斜板下まで滑り落ちたか否かにかかわら
ず,単におもりが動き始めたときの角度をもって「おもりが滑り落ちる角度」とし
て静摩擦係数を測定しているところ,前記
る。
さらに,前記
数測定機のセンサーを適切に使用することのできる測定条件が整っていないにもか
かわらず,甲第39,81及び88号証の実験においては,センサーを備えた静摩
擦係数測定機を使用している。
これらに加えて,以下のとおり不合理な点を指摘することができる。
a甲第9号証の実験について
実験報告書に,①100gの分銅の形状及び水平時底面に掛かる圧力,②分銅へ
のティシュペーパーの巻きつけ方,③アクリル板に張り付けられたティシュペーパ
ーのサイズ及び固定方法並びに④おもりの滑り始めの確認手段及びおもりの滑り落
ちの判定方法が記載されておらず,具体的な測定条件が明らかにされていない。し
たがって,甲第9号証の実験結果は,客観的に再現することが不可能である。
なお,控訴人の釈明によれば,実験においては,底面の直径が25mmである1
00gの円柱形状の分銅が使用されたとのことであるが,この分銅の水平時底面に
掛かる圧力は,2.0kPaであり,これは,JIS規格の規定する1.64±0.
24kPaの範囲を逸脱するものである。
b甲第33号証の実験について
⒜実験報告書において,使用した100gの分銅の底面の直径は記載されてい
るが,その余の測定条件,すなわち,アクリル板に張り付けるティシュペーパーの
サイズ,固定方法,ティシュペーパーに加える張力の強度等は明らかにされていな
い。したがって,甲第33号証の実験結果は,客観的に再現することが不可能であ
る。
⒝実験に使用された分銅のうち,分銅1から3は,水平時底面に掛かる圧力が
2.00kPaから2.58kPaのものであり,JIS規格が規定する範囲から
大きく逸脱している。
⒞甲第33号証の実験は,甲第32号証の実験と測定者が同一であり,実験報
告書の作成日も近接していることから,両実験の測定方法は同一であると考えられ
るところ,甲第32号証の実験報告書には,①おもりが滑り始めたとき,②①の直
後におもりが前方に形成されたティシュペーパー上のしわに動きを阻止されて停止
したとき,③さらにアクリル板の傾斜角が大きくされ,おもりが上記しわを乗り越
えて滑り落ちていくときの傾斜角が同一であるなどの疑問点がある。
c甲第39号証の実験について
実験報告書において,ティシュペーパーのサイズ,円柱形状の分銅の直径等の具
体的な測定条件が明らかにされていないことから,甲第39号証の実験結果は,客
観的に再現することが不可能である。
d甲第81号証の実験について
実験報告書に掲載されている写真に写っている遮光板の左側端部に,明らかな凹
凸部分が見られる。この部分は,センサー凹部にセットされる部分であるから,セ
ンサー検知の前提となる光の遮光性,すなわち,いずれの傾斜角で遮光板による光
の遮光が遮断されるかが上記凹凸により影響を受けることになり,測定の正確性に
疑問が生じる。また,前記写真からは,遮光板が,正確に垂直を保っておもりに取
り付けられているか,傾斜板がおもりに対してぐらつかないよう固定されているか
も,疑わしい。
⑵争点⑶イ(本件特許2の無効理由の有無)について
原判決17頁4行目から18頁22行目の記載のとおりである。
4争点⑷(損害の有無及びその額)について
〔控訴人の主張〕
控訴人は,被控訴人による被告製品の販売によって本件特許権2を侵害されたも
のであるから,被控訴人に対し,上記侵害による損害賠償を請求することができる。
被告製品の平成23年10月から訴え提起時(平成24年3月7日)までの売上
高は,少なくとも1億5507万4000円であり,その利益額は1550万70
00円を下らない。したがって,特許法102条2項による損害の額は,1550
万7000円である。
〔被控訴人の主張〕
いずれも争う。
第4当裁判所の判断
1本件発明1-1及び1-2について
⑴本件発明1-1及び1-2に係る特許請求の範囲は,それぞれ前記第2の2
⑵イ【請求項1】及び【請求項5】のとおりであるところ,本件第1明細書の発明
の詳細な説明には,おおむね,次の記載がある(甲2。下記記載中に引用する図面
については,別紙1参照)。
ア技術分野
本発明は,マルチスタンド式インターフォルダによってティシュペーパー製品を
製造する方法及び製造設備に関するものである(【0001】)。
イ背景技術
ティシュペーパーの箱詰め製品は,一般的に,インターフォルダ(折り畳み
設備)によって複数の連続するティシュペーパーを折り畳みながら積み重ね,所定
の長さに切断するなどしてティシュペーパー束とし,このティシュペーパー束を収
納箱(ティシュカートン)内に収納することによって製造される(【0002】)。イ
ンターフォルダの例としては,マルチスタンド式インターフォルダやロータリー式
インターフォルダなどが知られている(【0003】)。
マルチスタンド式インターフォルダを用いた製造方法の従来例としては,次
のようなものがある。すなわち,①抄紙設備において薄葉紙を抄造して巻き取るこ
とで一次原反ロールを製造し,②この一次原反ロールをプライマシンにセットして,
複数の一次原反ロールから繰り出した一次連続シートを重ね合わせて巻き取るとと
もにスリット(幅方向にティシュペーパー製品の製品幅又はその複数倍幅に分割)
し,複数のプライから成る二次原反ロールを製造する。③二次原反ロールをプライ
マシンから取り出して必要な数だけマルチスタンド式インターフォルダにセットし,
二次原反ロールから二次連続シートを繰り出して折畳機構部へ送り込み,折り畳み
ながら積み重ねる。④その後,所定の長さに切断してティシュペーパー束とし,収
納箱内に収納する。
このようなマルチスタンド式インターフォルダを用いた製造方法は,他の折り畳
み設備を用いた製造方法に比べて,多数(通常80~100基)の折り畳み機構を
有しているので生産性が高いという利点を有している(【0004】)。
近年,保湿剤や香料などの薬液を塗布したティシュペーパー製品に対する需
要が拡大しており,そのようなティシュペーパー製品は,主にロータリー式インタ
ーフォルダで製造されるのが一般的であったが,同インターフォルダには,加工方
向に対して垂直方向の折り畳みと裁断を同時に行うので生産性が低いという欠点が
あった(【0005】)。
ウ発明が解決しようとする課題
そこで,本発明者等は,薬液が塗布されたティシュペーパー製品を,ロータリー
式インターフォルダに比して生産性の高いマルチスタンド式インターフォルダを用
いた製造方法で製造することを考えたものの,同製造方法で製造する場合,プライ
マシンやマルチスタンド式インターフォルダとは別に薬液塗布工程を設けると,原
反の移送の手間や多大な設備コストが掛かるという問題があった。また,薬液塗布
工程をマルチスタンド式インターフォルダに設けると,薬液を塗布するティシュペ
ーパー製品を製造するラインと,薬液を塗布しないティシュペーパー製品を製造す
るラインとを分ける必要があった(【0007】)。
本発明の主たる課題は,マルチスタンド式インターフォルダを利用するティシュ
ペーパー製品の製造方法及び製造設備であって,低コストで薬液塗布を行うことが
でき,かつ,薬液塗布の有無を容易に切替え可能であるティシュペーパー製品の製
造方法及び製造設備を提供することにある(【0008】)。
エ課題を解決するための手段
前記ウの課題を解決するための手段は,特許請求の範囲請求項1及び5の記載の
とおりである(【0009】,【0013】)。
オ発明の効果
本発明に係る製造設備におけるスリット手段でティシュペーパー製品の製品幅又
はその複数倍幅となるよう製造されたティシュペーパー製品用二次原反ロールを,
マルチスタンド式インターフォルダに多数セットする。次に,これらの二次原反ロ
ールから二次連続シートを繰り出して折畳機構部へ送り込み,ここで折り畳みなが
ら積み重ね,その後,所定の長さに切断してティシュペーパー束とし,収納箱内に
収納する。
本発明においては,ティシュペーパー製品用二次原反ロールの製造設備における
積層連続シートに対して薬液を塗布するようになっているので,プライマシンやマ
ルチスタンド式インターフォルダとは別に薬液塗布手段を設ける場合と比較して,
設備コストを低く抑えることができる。また,薬液を塗布しないティシュペーパー
製品を製造する場合は,ティシュペーパー製品用二次原反ロールの製造手段から薬
液塗布手段を省略するだけで足りるので,設備の切替えも容易にできる(【001
5】)。
本発明に係るティシュペーパー製品用二次原反ロールの製造設備においては,薬
液塗布手段は,積層手段の後であって,かつ,スリット手段の前であることが好ま
しい。薬液塗布手段が積層手段の前であると,それぞれの一次連続シートに対して
薬液を塗布するための設備を設けなければならず,他方,スリット手段の後である
と,スリット手段によって複数に分割された積層連続シートに対して薬液を塗布す
るのでスリットから薬液が漏れてしまい,ロール汚れや断紙の原因となる。薬液塗
布手段が積層手段とスリット手段との間に設けられていれば,スリット手段によっ
て分割される前の積層連続シートに薬液を塗布するための設備を用意すればよいの
で,薬液のロスが少ないとともに,断紙も少ないので,操業が安定する(【0016】)。
カ実施例
一次原反ロールの製造方法
【図1】に示すとおり,ワイヤーパートを経た湿紙Wがボトムフェルト111に
載せられて移送され,搾水される。搾水された湿紙Wは,ヤンキードライヤー11
5によって乾燥された後,一次原反ロールJRとされる(【0021】)。
ティシュペーパー製品用二次原反ロールの製造設備
【図11】に示すとおり,本発明に係るティシュペーパー製品用二次原反ロール
の製造設備X1(プライマシンX1)は,前記の製造方法などで製造された一次
原反ロールJRを,少なくとも2つ以上セット可能とされており,これらの一次原
反ロールJRから繰り出した一次連続シート(図示例ではS11,S12)を,そ
の連続方向に沿って積層して積層連続シートS2とするプライ手段51を有する
(【0022】)。
プライ手段51の後段には,プライ手段51から流れてくる積層連続シートS2
に対して薬液を塗布する一対の薬液塗布手段53が設けられており,これらの薬液
塗布手段53の後段には,並設された複数のカッターから成り,薬液塗布手段53
から移送されてきた積層連続シートS2をティシュペーパー製品の製品幅又はその
複数倍幅となるようにスリットするスリット手段55が配置されている。そして,
スリット手段55の後段には,スリット手段55によってスリットされた積層連続
シートS2を同軸で巻き取ってティシュペーパー製品の製品幅又はその複数倍幅の
複数の二次原反ロールRを形成する巻取り手段56が設けられている。ここで,こ
の巻取り手段56は,スリットされた各積層連続シートS2を二次原反ロールRに
案内するための2つのワインディングドラム56Aを有していて,これら2つのワ
インディングドラム56Aが二次原反ロールRの外周面に接して積層連続シートS
2を案内している(【0023】)。
ティシュペーパー製品用二次原反ロールの製造方法
【図11】に示すとおり,本発明に係るティシュペーパー製品用二次原反ロール
の製造方法においては,プライ手段51で複数の一次原反ロールから繰り出される
一次連続シート(図示例ではS11,S12)をその連続方向に沿って積層して積
層連続シートS2とし(積層工程),この積層連続シートS2に対して一対の薬液塗
布手段53で薬液を塗布し(薬液塗布工程),スリット手段55によって積層連続シ
ートS2をティシュペーパー製品の製品幅又はその複数倍幅となるようにスリット
し(スリット工程),次に,スリット工程でスリットされた積層連続シートS2を同
軸で巻き取ってティシュペーパー製品の製品幅又はその複数倍幅の複数の二次原反
ロールRを,巻取り手段56によって形成する(【0110】)。
マルチスタンド式インターフォルダ
前記及びのティシュペーパー製品用二次原反ロールの製造設備及び製造方法
で製造された二次原反ロールRを,マルチスタンド式インターフォルダに多数セッ
トし,それらの二次原反ロールRから二次連続シートを繰り出して折り畳むととも
に積層することによってティシュペーパー束が製造される(【0113】)。
二次原反ロールRは,必要数が【図2】の水平方向に,横並びの状態で二次原反
ロール支持部にセットされている。二次原反ロールRから巻き出された連続する帯
状の二次連続シート3A及び3Bは,ガイドローラG1等のガイド手段に案内され
て折畳機構部20へ送り込まれる。折畳機構部20には,【図4】に示すように,折
板Pが必要数並設された折板群21が備えられており,各折板Pに対しては,一対
の連続する二次連続シート3A又は3Bを案内するガイドローラG2やガイド丸棒
部材G3が,それぞれ適所に備えられている。さらに,折板Pの下方には,折り畳
みながら積み重ねられた積層帯30を受けて搬送するコンベア22が備えられてい
る。折畳機構部20は,各連続する二次連続シート3A,3Bを,Z字状に折り畳
みながら,かつ,隣接する連続する二次連続シート3A,3Bの側端部相互を掛け
合わせながら,積み重ねる(【0114】~【0116】)。
マルチスタンド式インターフォルダ1で得られた積層帯30は,【図2】に示すよ
うに,後段の切断手段41において流れ方向FLに所定の間隔をおいて裁断(切断)
されてティシュペーパー束30aとされ,このティシュペーパー束30aは,さら
に後段の設備において収納箱Bに収納される(【0119】)。
⑵本件発明1-1及び1-2の特徴
ア技術分野
本件発明1-1は,マルチスタンド式インターフォルダによってティシュペーパ
ー製品の製造設備に関するものであり,本件発明1-2は,同製品の製造方法に関
するものである(【0001】)。
イ背景技術
ティシュペーパーの箱詰め製品は,一般的に,インターフォルダ(折り畳み設備)
によって複数の連続するティシュペーパーを折り畳みながら積み重ねるなどして製
造されるものであり,マルチスタンド式インターフォルダを用いた製造方法の従来
例として,①抄紙設備において一次原反ロールを製造し,②この一次原反ロールを
プライマシンにセットして,複数の一次原反ロールから繰り出した一次連続シート
を重ね合わせて巻き取るとともにスリットし,複数のプライから成る二次原反ロー
ルを製造した上で,③二次原反ロールをプライマシンから取り出して必要な数だけ
マルチスタンド式インターフォルダにセットし,二次原反ロールから二次連続シー
トを繰り出して折畳機構部へ送り込み,折り畳みながら積み重ねるなどするという
ものがある。
このようなマルチスタンド式インターフォルダを用いた製造方法は,他の折り畳
み設備を用いた製造方法に比べて,多数の折り畳み機構を有しているので生産性が
高いという利点を有している(【0002】~【0004】)。
近年,保湿剤等の薬液を塗布したティシュペーパー製品に対する需要が拡大して
おり,そのようなティシュペーパー製品は,主にロータリー式インターフォルダで
製造されるのが一般的であったが,同インターフォルダには,加工方向に対して垂
直方向の折り畳みと裁断を同時に行うので生産性が低いという欠点があった(【00
05】)。
ウ解決課題
ロータリー式インターフォルダよりも生産性の高いマルチスタンド式インターフ
ォルダを用いて薬液が塗布されたティシュペーパー製品を製造することについては,
プライマシンやマルチスタンド式インターフォルダとは別に薬液塗布工程を設ける
と,原反の移送の手間や多大な設備コストが掛かるという問題があり,また,薬液
塗布工程をマルチスタンド式インターフォルダに設けると,薬液を塗布するものを
製造するラインと,薬液を塗布しないものを製造するラインとを分ける必要があっ
た(【0007】)。
本件発明1-1の主たる課題は,マルチスタンド式インターフォルダを利用する
ティシュペーパー製品の製造設備であって,①低コストで薬液塗布を行うことがで
き,かつ,②薬液塗布の有無を容易に切替え可能であるものを提供することにあり,
本件発明1-2の主たる課題は,上記製造設備と同様の製造方法を提供することに
ある(【0008】)。
エ課題解決の手段
前記ウの課題を解決するための手段は,特許請求の範囲請求項1及び5の記載の
とおりである(【0009】,【0013】)。
オ発明の効果
本件発明1-1及び1-2は,ティシュペーパー製品用二次原反ロールを製造す
るプライマシンにおいて積層連続シートに薬液を塗布するようにされているので,
プライマシンやマルチスタンド式インターフォルダとは別に薬液塗布手段を設ける
場合と比較して,設備コストを低く抑えることができる。また,薬液を塗布しない
ティシュペーパー製品を製造する場合は,プライマシンから薬液塗布手段を省略す
るだけで足りるので,設備の切替えも容易にできる(【0015】)。
プライマシンにおいては,薬液塗布手段は,積層手段の後であって,かつ,スリ
ット手段の前であることが好ましい。薬液塗布手段が積層手段の前であると,それ
ぞれの一次連続シートに対して薬液を塗布するための設備を設けなければならず,
他方,スリット手段の後であると,複数に分割された積層連続シートに対して薬液
を塗布するのでスリットから薬液が漏れてしまい,ロール汚れや断紙の原因となる。
薬液塗布手段が積層手段とスリット手段との間に設けられていれば,スリット手段
によって分割される前の積層連続シートに薬液を塗布するための設備を用意すれば
よいので,薬液のロスが少ないとともに,断紙も少ないので,操業が安定する(【0
016】)。

⑴被告設備について
証拠(乙4,22,24,27)及び弁論の全趣旨によれば,被告設備において
は,以下のとおりの手順によって,薬液が塗布されたティシュペーパー製品が製造
されるものと認められる。
ア別紙2【図1】のとおり,抄紙設備1によって原材料のパルプから抄造され
て巻き取られた複数の一次原反ロールJRから繰り出される一次連続シートS1,
S2を,シート合わせロール10によって,その連続方向に沿って積層し,積層連
続シートSとする。
スリッター101により,積層連続シートSを,ティシュペーパー製品の製品幅
の複数倍幅となるようにスリットする。
巻取り装置131により,スリットされた積層連続シートSを巻き取り,ロール
102とする。
ティシュペーパー製品となるべきシート(一次連続シートS1,S2及び積層連
続シートS)は,抄紙設備1からシート合わせロール10及びスリッター101を
経て巻取り装置131においてロール102とされるまで,間断なく流れている。
イ薬液塗布装置11は,前記アの抄紙設備1から巻取り装置131に至る製造
ラインとは別に設けられている。
前記アのロール102を,上記製造ラインから薬液塗布装置11に移送し,ロー
ル102から繰り出される積層連続シートSに,薬液塗布装置11によって薬液を
塗布する。
巻取り装置132により,薬液が塗布された積層連続シートSを同軸で巻き取り,
ティシュペーパー製品の製品幅の複数倍幅の二次原反ロールRとする。
ウ別紙2【図2】のとおり,二次原反ロールRを,マルチスタンド式インター
フォルダYの折畳機構部20に対応して多数セットする。
スリッター103により,二次原反ロールRからの薬液が塗布された積層連続シ
ートSをティシュペーパー製品の製品幅にスリットし,折畳機構部20に送り込む。
折畳機構部20において,積層連続シートSが折り畳まれて各積層連続シートの
側端部を掛け合わせながら積み重ねて積層帯30とする。
切断装置24により,流れ方向に所定の間隔をおいて積層帯30を裁断してティ
シュペーパー束31とし,これを収納箱Bに収納してティシュペーパー製品とする。
なお,控訴人は,原判決別紙被告設備目録(原告)のとおり,薬液塗布装置11
と巻取り装置132との間にスリッター12が設けられている旨主張するが,同ス
リッターの存在は,認めるに足りない。
⑵構成要件bの「プライマシン」の意義について
ア特許請求の範囲の記載
特許請求の範囲における「抄紙設備により抄造され巻き取られた一次原反ロール
から連続的にティシュペーパー製品用の二次原反ロールを製造するプライマシン」
(構成要件b)及び「前記プライマシンにより得られた,薬液が塗布された二次原
反ロールが,マルチスタンド式インターフォルダの折畳機構部に対応して多数セッ
トされ,」(構成要件h)との記載によれば,「プライマシン」が,「抄紙設備により
抄造され巻き取られた一次原反ロール」から「マルチスタンド式インターフォルダ
の折畳機構部にセット」する「薬液が塗布された二次原反ロール」を製造するもの
であることは,明らかである。
さらに,①構成要件bにおいて,「プライマシン」は,一次原反ロールから二次原
反ロールを「連続的に」製造するものであると記載されていること,②構成要件c
からgにおいて,「プライマシン」には,「積層手段」,「薬液塗布手段」,「スリット
手段」及び「巻取り手段」が「シートの流れ方向に順に組み込まれて」いると記載
されていることに鑑みれば,「プライマシン」においては,一次原反ロールから薬液
が塗布された二次原反ロールに至るまでの積層手段,薬液塗布手段,スリット手段
及び巻取り手段が順に連続した1つの製造ラインに組み込まれ,同製造ライン上を
シートが上記各手段を経ながら間断なく流れるものとみるのが自然である。
イ本件第1明細書の記載
本件第1明細書の記載についてみると,前記1のとおり,マルチスタンド式
インターフォルダを用いた製造方法の従来例は,①抄紙設備において一次原反ロー
ルを製造し,②この一次原反ロールをプライマシンにセットして,複数の一次原反
ロールから繰り出した一次連続シートを重ね合わせて(積層)巻き取るとともにス
リットし,複数のプライから成る二次原反ロールを製造した上で,③二次原反ロー
ルをプライマシンから取り出して必要な数だけマルチスタンド式インターフォルダ
にセットし,二次原反ロールから二次連続シートを繰り出して折畳機構部へ送り込
むというものである(【0004】)。
そして,マルチスタンド式インターフォルダを使用する前記従来例において薬液
が塗布されたティシュペーパー製品を製造するに当たり,従前の積層,巻取り及び
スリットの各工程に加えて新たに必要となる薬液塗布工程をどのように設けるかに
つき,同工程をプライマシンやマルチスタンド式インターフォルダとは別に設ける
ことについては,薬液塗布のために原反を移送する手間や多大な設備コストが掛か
るという問題がある。この問題の発生を避けるためには,プライマシン又はマルチ
スタンド式インターフォルダのいずれかに薬液塗布工程を設けることが考えられる
ものの,マルチスタンド式インターフォルダに設けると,薬液を塗布する製品の製
造ラインと塗布しない製品の製造ラインを分ける必要が出てくる(【0007】)。
そこで,本件発明1-1は,①薬液塗布工程をプライマシンやマルチスタンド式
インターフォルダとは別に設ける構成を採用した場合に起きる前記問題の発生を回
避し,同構成よりも低コストで薬液塗布を行うことができ,かつ,薬液塗布の有無
を容易に切替え可能である製造設備の提供を主たる課題とし(【0008】),②同課
題を解決するために,プライマシンに薬液塗布工程を設けることとして,前記アの
とおり,「プライマシン」に,「積層手段」,「薬液塗布手段」,「スリット手段」及び
「巻取り手段」が「シートの流れ方向に順に組み込まれ」た特許請求の範囲請求項
1の構成を採用したものである(【0009】)。同構成の採用によって,薬液塗布手
段をプライマシンやマルチスタンド式インターフォルダとは別に設ける場合と比較
して,その場合に起きる前記問題の発生を回避できるので,設備コストをより低く
抑えることができ,また,薬液を塗布しない製品を製造する場合は,プライマシン
から薬液塗布手段を省略すれば足りるので,薬液塗布の有無を容易に切り替えるこ
とができるという効果を奏する(【0015】)。
「プライマシン」に薬液塗布手段を設けるに当たり,本件第1明細書には,
前記1のとおり,積層手段の前であると,それぞれの一次連続シートに対して薬液
を塗布するための設備を設けなければならず,他方,スリット手段の後であると,
複数に分割された積層連続シートに薬液を塗布するのでスリットから薬液が漏れて
しまうことから,薬液塗布手段は,積層手段の後であって,かつ,スリット手段の
前であることが望ましいとの記載がある(【0016】)。この記載は,その内容自体
から,「プライマシン」において,積層手段,薬液塗布手段及びスリット手段がいず
れも同一の製造ライン上にあり,シートがこれらの各工程を間断なく流れることを
想定しているものと解される。
また,本件第1明細書中,二次原反ロールの製造設備ないし製造方法を図示した
もの(【図11】,【図12】,【図19】~【図23】,【図28】)のいずれにおいて
も,積層手段,薬液塗布手段,スリット手段及び巻取り手段の全てが連続した1つ
の製造ラインを成して途切れることなく続いており,他方,本件第1明細書中,上
記各手段が分断されて複数の製造ラインに分かれた構成に係る記載は,見られない。
前記及びに鑑みると,本件発明1-1の主要な特徴は,薬液が塗布され
たティシュペーパー製品の製造に不可欠な薬液塗布手段を,一次原反ロールから積
層,巻取り及びスリットにより二次原反ロールを製造する設備であるプライマシン
に設け,一次原反ロールから薬液が塗布された二次原反ロールを製造するまでに要
する工程に係る積層手段,薬液塗布手段,スリット手段及び巻取り手段の全てを順
に連続した1つの製造ラインに組み込み,同製造ライン上をシートが上記各手段を
経ながら間断なく流れるよう構成することによって,薬液塗布工程をプライマシン
やマルチスタンド式インターフォルダとは別に設けた場合と比較して,その場合に
起きる薬液塗布のために原反を移送する手間や多大な設備コストが掛かるという問
題の発生を回避することにより,設備コストをより低く抑えることができ,また,
薬液塗布の有無を容易に切り替えることができるという効果を奏する点にあるもの
と認められる。
ウ「プライマシン」の意義
以上によれば,構成要件bの「プライマシン」は,一次原反ロールから連続的に
薬液が塗布された二次原反ロールを製造する設備,すなわち,一次原反ロールから
薬液が塗布された二次原反ロールに至るまでの積層手段,薬液塗布手段,スリット
手段及び巻取り手段が順に連続した1つの製造ラインに組み込まれ,同製造ライン
上をシートが上記各手段を経ながら間断なく流れるように構成された二次原反ロー
ルの製造設備であり,上記各手段が分断されて複数の製造ラインに分かれた二次原
反ロールの製造設備を含まないものと解するのが相当である。
⑶被告設備に係る構成要件bの充足性について
前記⑴のとおり,被告設備においては,一次原反ロールから薬液が塗布された二
次原反ロールに至るまでの間,①一次原反ロールJRから繰り出される一次連続シ
ートS1,S2を積層して積層連続シートSとする積層手段であるシート合わせロ
ール10,積層連続シートSをティシュペーパー製品の製品幅の複数倍幅となるよ
うにスリットするスリット手段であるスリッター101及びスリットされた積層連
続シートSを巻き取ってロール102とする巻取り手段である巻取り装置131か
ら成る製造ラインと,②上記製造ラインとは別に設けられた薬液塗布手段であり,
同製造ラインから移送されたロール102から繰り出される積層連続シートSに薬
液を塗布する薬液塗布装置11及び薬液が塗布された積層連続シートSを再度巻き
取って二次原反ロールRとする巻取り手段である巻取り装置132から成る製造ラ
インに分かれている。
したがって,被告設備は,構成要件bの「プライマシン」を備えておらず,同構
成要件を充足するものではない。
⑷控訴人の主張について
ア控訴人は,構成要件bの「連続的に」は,二次原反ロールの製造が時間的に
長い間隔をおくことなく順次行われていることを明らかにするものであり,各手段
の配置・配列形態を示すものではなく,また,本件発明1-1は,設備スペースの
必要及び製品歩留まりの低下という課題を,プライマシン内に薬液塗布装置を設け
て解決したものであり,これは被告設備においても同様であるとして,構成要件b
の「プライマシン」は,被告設備のようにいったん中間ロール化することを排除す
るものではない旨主張する。
イしかし,特許請求の範囲の記載に加え,本件第1明細書の内容を考慮しても,
「連続的に」の意義につき,必ずしも控訴人の主張のとおり解することはできず,
そのように解する技術常識の存在も認めるに足りない。この点に関し,控訴人は,
特開2011-121764号公報(甲90)の【0063】及び【0064】の
記載を挙げるが,同記載は,衛生用紙の折り畳み加工装置において,積層した折り
畳み衛生用紙をカッターが連続的に切断するというものであり,一次原反ロールか
ら二次原反ロールの製造工程について用いられている構成要件bの「連続的に」の
解釈に当たり,参照すべきものということはできない。
ウ本件発明1-1の課題が,前記⑵のとおり,薬液塗布工程をプライマシンや
マルチ式インターフォルダとは別に設ける構成を採用した場合に起きる,薬液塗布
のために原反を移送する手間や多大な設備コストが掛かるという問題の発生を回避
し,同構成よりも低コストで薬液塗布を行うことができ,かつ,薬液塗布の有無を
容易に切替え可能である製造設備の提供であることは,本件第1明細書の記載から
明らかである。そして,前記⑶のとおり,被告設備においては,一次原反ロールか
ら薬液が塗布された二次原反ロールに至るまでの間,一次原反ロールからロール1
02を形成する製造ラインと,これとは別に設けられた薬液塗布装置11を含む製
造ラインに分かれている。
したがって,被告設備において,一次原反ロールから薬液が塗布された二次原反
ロールに至るまでの工程をプライマシンとし,その中に薬液塗布装置11が設けら
れているとしても,上記のとおりプライマシンが2つの製造ラインに分かれており,
ロール102を形成する製造ラインから,原反(ロール102)を薬液塗布のため
に薬液塗布装置11に移送することを要するから,少なくとも前記課題のうち,原
反を移送する手間については,解決することができなくなる。
エ以上によれば,控訴人の前記主張は,採用することができない。
⑸小括
以上のとおり,被告設備は,少なくとも構成要件bを充足せず,その余の点につ
いて判断するまでもなく,本件発明1-1の文言侵害は,成立しない。
3争点⑴ア(被告設備に係る侵害の成否〔均等侵害の成否〕)について
⑴控訴人は,仮に,被告設備が,一次原反ロールから薬液が塗布された二次原
反ロールに至る過程において,薬液塗布の前にいったんロール102(中間ロール)
を形成しているために「一次原反ロールから連続的にティシュペーパー製品用の二
次原反ロールを製造するプライマシン」を備えているということはできず,構成要
件bを充足しないものとして文言侵害が認められないとしても,本件においては,
均等侵害が成立する旨主張する。
⑵均等の要件
特許請求の範囲に記載された構成中に,相手方が製造等をする製品又は用いる方
法(以下「対象製品等」という。)と異なる部分が存する場合であっても,①同部分
が特許発明の本質的部分ではなく,②同部分を対象製品等におけるものと置き換え
ても,特許発明の目的を達することができ,同一の作用効果を奏するものであって,
③上記のように置き換えることに,当該発明の属する技術の分野における通常の知
識を有する者(当業者)が,対象製品等の製造等の時点において容易に想到するこ
とができたものであり,④対象製品等が,特許発明の特許出願時における公知技術
と同一又は当業者がこれから当該出願時に容易に推考できたものではなく,かつ,
⑤対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外
されたものに当たるなどの特段の事情もないときは,同対象製品等は,特許請求の
範囲に記載された構成と均等なものとして,特許発明の技術的範囲に属するものと
解するのが相当である(最高裁平成6年(オ)第1083号同10年2月24日第
三小法廷判決・民集52巻1号113頁参照)。
⑶均等の第2要件について
ア前記2のとおり,①本件発明1-1は,一次原反ロールから薬液が塗布され
た二次原反ロールに至るまでの積層手段,薬液塗布手段,スリット手段及び巻取り
手段が順に連続した1つの製造ラインに組み込まれ,同製造ライン上をシートが上
記各手段を経ながら間断なく流れるように構成された二次原反ロールの製造設備で
あるプライマシンを備えているのに対し,②被告設備は,一次原反ロールから薬液
が塗布された二次原反ロールに至るまでの間,一次原反ロールRから積層連続シー
トSを形成する積層手段であるシート合わせロール10,積層連続シートSをスリ
ットするスリット手段であるスリッター101及びスリットされた積層連続シート
Sを巻き取ってロール102とする巻取り手段である巻取り装置131から成る製
造ラインと,上記製造ラインとは別に設けられた薬液塗布手段であり,同製造ライ
ンから移送されたロール102から繰り出される積層連続シートSに薬液を塗布す
る薬液塗布装置11及び薬液が塗布された積層連続シートSを再度巻き取って二次
原反ロールRとする巻取り手段である巻取り装置132から成る製造ラインに分か
れている。
そこで,本件発明1-1において一次原反ロールから薬液が塗布された二次原反
ロールを製造するプライマシンを,被告設備における上記2つの製造ラインと置き
換えても,本件発明1-1の目的を達成することができ,同一の作用効果を奏する
かについて検討する。
イ前記1のとおり,本件発明1-1の課題は,薬液塗布工程をプライマシンや
マルチスタンド式インターフォルダとは別に設ける構成を採用した場合に起きる,
薬液塗布のために原反を移送する手間や多大な設備コストが掛かるという問題の発
生を回避し,同構成よりも低コストで薬液塗布を行うことができ,かつ,薬液塗布
の有無を容易に切替え可能である製造設備を提供することであり,その解決手段は,
一次原反ロールから薬液が塗布された二次原反ロールに至るまでの積層手段,薬液
塗布手段,スリット手段及び巻取り手段が順に連続した1つの製造ラインに組み込
まれ,同製造ライン上をシートが上記各手段を経ながら間断なく流れるように構成
されたプライマシンを備える構成とすることである。同構成の採用によって,薬液
塗布手段をプライマシンやマルチスタンド式インターフォルダとは別に設ける場合
と比較して,その場合に起きる,薬液塗布のために原反を移送する手間や多大な設
備コストが掛かるという問題の発生を回避し,設備コストをより低く抑えることが
でき,また,薬液を塗布しない製品を製造する場合は,プライマシンから薬液塗布
手段を省略すれば足りるので,薬液塗布の有無を容易に切り替えることができると
いう効果を奏する。
ウそして,被告設備は,前記アのとおり,一次原反ロールから薬液が塗布され
た二次原反ロールに至るまでの間,一次原反ロールRからロール102を形成する
製造ラインとは別に,薬液塗布装置11が設けられており,上記製造ラインから原
反(ロール102)を薬液塗布のために薬液塗布装置11に移送するというもので
ある。したがって,本件発明1-1において一次原反ロールから薬液が塗布された
二次原反ロールを製造するプライマシンを,被告設備における2つの製造ラインと
置き換えれば,少なくとも,本件発明1-1の目的のうち,薬液塗布工程をプライ
マシンやインターフォルダとは別に設ける構成を採用した場合に起きる薬液塗布の
ために原反を移送する手間が掛かるという問題の発生を回避し,同構成よりも低コ
ストで薬液塗布を行うことができる製造設備を提供するという目的を達成すること
ができず,薬液塗布手段をプライマシンやマルチスタンド式インターフォルダとは
別に設ける場合と比較して,その場合に起きる薬液塗布のために原反を移送する手
間が掛かるという問題の発生を回避し,設備コストをより低く抑えることができる
という効果を奏しなくなることは,明らかである。
エ以上のとおり,被告設備は,均等の第2要件を満たすものではない。
⑷控訴人の主張について
控訴人は,積層連続シートを中間ロール化してから改めて解きほぐして薬液塗布
工程に移行させることとしても,薬液が塗布されたティシュペーパー製品の製造と
いう本件発明1-1と同一の作用効果を奏するものである旨主張する。
しかし,本件発明1-1の作用効果は,単に薬液が塗布されたティシュペーパー
製品を製造することではなく,前記⑶のとおり,同製造に当たり,薬液塗布工程を
プライマシンやマルチスタンド式インターフォルダとは別に設ける構成を採用した
場合に起きる問題の発生の回避等の課題を解決するというものであるから,控訴人
の主張は,本件発明1-1の作用効果について誤りがあり,採用できない。
⑸小括
以上のとおり,被告設備は,均等の第2要件を満たすものではないから,その余
の点について判断するまでもなく,本件発明1-1の均等侵害は,成立しない。
4争点⑵ア(被告方法に係る侵害の成否)について
前記2と同様の理由により,被告方法は,構成要件lの「プライマシン」を欠き,
同構成要件を充足しないから,本件発明1-2の文言侵害は,成立せず,前記3と
同様の理由により,均等侵害も,成立しない。
5本件発明2について
⑴本件発明2に係る特許請求の範囲は,前記第2の2⑶イのとおりであるとこ
ろ,本件第2明細書の発明の詳細な説明には,おおむね,次の記載がある(甲25)。
ア技術分野
本発明は,ティシュペーパーに関するものである(【0001】)。
イ背景技術
国内市場のティシュペーパーは,ティシュー原紙に保湿剤を塗布しない一般的な
ティシューである非保湿ティシューと,抄紙されたティシュー原紙にグリセリン等
の保湿剤を塗布して生産されたティシューである保湿ティシューとに大別される。
ティシュペーパーの用途は,フェイシャル用を中心とした対人用途であり,保湿テ
ィシューは,鼻かみ用に特化した製品仕様とされている。
従来,ティシュペーパーは,鼻かみ用途を中心としたフェイシャル用途で使用さ
れてきたことから,肌触りの良さを追求するため,これまで数多くの試みがなされ,
品質改良を重ねてきた(【0002】)。
しかし,更なる品質向上のためには非保湿ティシューでは技術的な限界があるこ
と,花粉症やアレルギー性鼻炎のり患者の増加等が要因となって,保湿ティシュー
が開発され,現在ティシュー市場の一部を占めている。
花粉症やアレルギー性鼻炎のり患者等のヘビーユーザーは,日に数十回以上も鼻
をかむことから,鼻及びその周辺がティシューとの摩擦により軽い炎症を起こし,
赤くなってヒリヒリとした痛みを感じやすい。そのため,このようなユーザーには,
ティシュー表面の摩擦の小さなもの,つまり,滑らかさを有するものが好ましく使
用される。保湿ティシューは,グリセリン等の吸湿性のある保湿剤を含む水系ロー
ション薬液を,衛生薄葉紙の基紙に対し塗布したものである。グリセリンは,化粧
品にも使われており,肌への刺激性が少なく,吸湿してティシューをしっとり,柔
らかくするとともにティシューの表面に薄い皮膜を形成することから,グリセリン
を塗布した保湿ティシューは,一般の非保湿ティシューに比して,明らかに柔らか
で,滑らかな肌触りを有する差別化した商品として認知されている(【0003】)。
このように,保湿ティシューは,認知され,その消費量も増加しているが,ヘビ
ーユーザーの中には,鼻をかんだ後,肌に保湿剤が残ってベタつき感があることを
嫌う者が存在する。この点に関しては,薬剤組成の変更によってベタつき感を改善
する方法が知られている。
しかし,従来の保湿ティシューは,その本来の特性として,しっとり感,柔らか
さ及び滑らかさを有するものであるが,その吸湿性のために厚みに比して紙力が強
くないことから,強く鼻をかむ際や肌に付着した粘着性の鼻水などをふき取る際に
破れやすい,という問題があった。そして,従来の保湿ティシューには,上記の特
性の代償として生じるベタつき感を軽減するとともに,この破れやすさを十分に解
決した製品は見られなかった(【0004】)。
ウ発明が解決しようとする課題
本発明の課題は,従来の保湿ティシュペーパーと同等以上の柔らかさ,滑らかさ,
及びしっとり感を有し,かつ,使用時のベタつき感と破れやすさとを軽減したティ
シュペーパーを提供することである(【0006】)。
エ課題を解決するための手段
前記ウの課題を解決するための手段は,特許請求の範囲請求項1記載のとおりで
ある(【0007】)。
オ発明の効果
2プライのティシュペーパーを構成するシートに規定量の水分を含む薬液を塗布
して浸透させることにより,シートのクレープ構造が伸長し,表面の滑らかなティ
シュペーパーが形成される。また,上記伸長により紙厚が低くなるとともに繊維密
度が高くなるので,繊維間強度が増加し,CD方向の引張強度,特に湿潤引張強度
の高いティシュペーパーとすることができる。
従来の保湿ティシューが,厚みのある基紙にローション薬液を塗布してティシュ
ー表面に皮膜を作り,滑らかさを使用者に与えているのに対し,本発明は,厚みと
薬液塗布量を抑え,クレープ構造を伸長させて表面を滑らかにするものであり,こ
れによって,従来の保湿ティシュー以上の滑らかさを与えるものである。ティシュ
ー表面のローション薬液の皮膜を,滑らかさを感じさせる最小限の量としてベタつ
き感を軽減したものである。このことから,本発明のティシュペーパーは,乾燥状
態における薬剤含有量が従来のローションタイプのティシュペーパーよりも低く,
使用時のベタつき感が生じにくいにもかかわらず,その効果を奏するのに十分な量
の薬剤が含有されていることから,十分なしっとり感,保湿性を有する。さらに,
本発明のティシュペーパーは,紙厚が薄いことにより,薬剤含有量に比して柔らか
い使用感を有する。
以上のように,本発明は,従来の保湿ティシューと同等以上に柔らかく滑らかな
風合いを有するとともに,従来の保湿ティシューよりもベタつき感がなく,かつC
D方向の引張強度の高いティシュペーパーを提供するものである(【0014】)。
カ発明を実施するための形態
薬剤含有量について
本発明のティシュペーパーは,薬剤を両面合わせて2.0~5.5g/m2
,よ
り好ましくは3.0~5.0g/m2
含有する。薬剤含有量が2.0g/m2
未満で
あれば薬剤の効果が発揮されず,他方,5.5g/m2
を超えるとティシュペーパ
ーにベタつき感が生じ,また,湿潤紙力が低下する(【0023】)。
2プライを構成するシートの1層あたりの坪量について
本発明に係るティシュペーパーのシート1層あたりの米坪は,10~25g/m

,より好ましくは11~16g/m2
とする。米坪が10g/m2
未満では,柔ら
かさの向上の観点からは好ましいものの,使用に耐え得る十分な強度を適正に確保
することが困難となり,他方,25g/m2
を超えると紙全体が硬くなるとともに,
ごわつき感が生じてしまい,肌触りが悪くなる。なお,米坪は,JISP812
4(1998)の米坪測定方法による(【0021】)。
紙厚について
本発明に係るティシュペーパーの紙厚は,2プライの状態で100~140μm,
より好ましくは120~140μmとする。紙厚が100μm未満では,柔らかさ
の向上の観点からは好ましいものの,ティシュペーパーとしての強度を適正に確保
することが困難となる。また,140μm超では,ティシュペーパーの肌触りが悪
化するとともに,使用時にごわつき感が生じるようになる(【0034】)。
静摩擦係数について
本発明のティシュペーパーは,静摩擦係数が0.50~0.65,より好ましく
は0.55~0.60であるのが望ましい。ここでの静摩擦係数は,JISP8
147(1994〔判決注:原文の1998は,明白な誤記である。〕)に準じた,
下記の方法で測定する。
1プライにはがしたティシュペーパーを,ティシュペーパーの外側の面が外側に
来るようにアクリル板に張り付ける。2プライのまま100gの分銅にティシュペ
ーパーを巻きつけ,アクリル板上のティシューに乗せる。アクリル板を傾け,おも
りが滑り落ちる角度を測定する。角度測定はMD方向同士で4回,CD方向同士で
4回の計8回実施し,平均角度を算出し,そのタンジェント値を静摩擦係数とする
(【0042】)。
⑵本件発明2の特徴
本件発明2は,ティシュペーパーに関するものである(【0001】)。
国内市場のティシュペーパーは,一般的な非保湿ティシューと保湿ティシューに
大別される。花粉症やアレルギー性鼻炎のり患者等のヘビーユーザーには,滑らか
さを有するティシューが好ましく使用されるところ,グリセリンを塗布した保湿テ
ィシューは,一般の非保湿ティシューに比して,明らかに柔らかで,滑らかな肌触
りを有する差別化した商品として認知されている。
しかし,従来の保湿ティシューは,その本来の特性として,しっとり感,柔らか
さ及び滑らかさを有するものであるが,その吸湿性のために厚みに比して紙力が強
くないことから,強く鼻をかむ際や肌に付着した粘着性の鼻水などをふき取る際に
破れやすい,という問題があった。また,ヘビーユーザの中には,鼻をかんだ後,
肌に保湿剤が残ってベタつき感があることを嫌う者が存在し,このベタつき感を改
善する方法も公知であったが,従来の保湿ティシューには,ベタつき感を軽減する
とともに,上記の破れやすさを十分に解決した製品は見られなかった(【0002】
~【0004】)。
そこで,本件発明2は,従来の保湿ティシュペーパーと同等以上の柔らかさ,滑
らかさ,及びしっとり感を有し,かつ,使用時のベタつき感と破れやすさとを軽減
したティシュペーパーを提供することを課題とし,同課題を解決するための手段と
して,特許請求の範囲請求項1記載のとおりの構成を採用した(【0006】,【00
07】)。
本件発明2のティシュペーパーは,2プライのティシュペーパーを構成するシー
トに規定量の水分を含む薬液を塗布して浸透させることによって,シートのクレー
プ構造が伸長し,これにより,表面が滑らかになり,また,紙厚が低くなるととも
に繊維密度が高くなって繊維間強度が増加し,CD方向の引張強度,特に湿潤引張
強度が高くなっている。
従来の保湿ティシューが,厚みのある基紙にローション薬液を塗布してティシュ
ー表面に皮膜を作り,滑らかさを使用者に与えているのに対し,本件発明2のティ
シュペーパーは,厚みと薬液塗布量を抑え,クレープ構造を伸長させて表面を滑ら
かにするものであり,これによって,従来の保湿ティシュー以上の滑らかさを与え
るものである。また,ティシュー表面のローション薬液の皮膜を,滑らかさを感じ
させる最小限の量としてベタつき感を軽減したものである。このように,本件発明
2のティシュペーパーは,乾燥状態における薬剤含有量が従来のローションタイプ
のティシュペーパーよりも低く,使用時のベタつき感が生じにくいにもかかわらず,
その効果を奏するのに十分な量の薬剤が含有されていることから,十分なしっとり
感,保湿性を有する。さらに,本件発明2のティシュペーパーは,紙厚が薄いので,
薬剤含有量に比して柔らかい使用感を有する。
以上のとおり,本件発明2は,従来の保湿ティシューと同等以上に柔らかく滑ら
かな風合いを有するとともに,従来の保湿ティシューよりもベタつき感がなく,か
つCD方向の引張強度の高いティシュペーパーを提供するものである(【0014】)。
6争点⑶ア(被告製品に係る侵害の成否)について
事案の性質に鑑み,構成要件yの充足性から判断する。
⑴静摩擦係数の測定方法について
ア特許請求の範囲及び本件第2明細書の記載
特許請求の範囲の記載
特許請求の範囲(構成要件y)には,以下のとおり記載されている。
下記(A)~(D)の手順により測定される静摩擦係数が0.50~0.65で
ある,
(A)ティシュペーパーを1プライにはがし,2プライ時にティシュペーパーの外
面にあった面が外側となるようしてアクリル板に張り付ける。
(B)前記ティシュペーパーとは別のティシュペーパーを2プライのまま100g
の分銅に巻きつけ,前記アクリル板上のティシュペーパー上に乗せる。
(C)前記アクリル板を傾け,おもりが滑り落ちる角度を測定する。
(D)前記角度の測定を,ティシュペーパーのMD方向同士,ティシュペーパーの
CD方向同士で行うこととし,各4回ずつの計8回測定して平均角度を算出して,
そのタンジェント値を静摩擦係数とする。
本件第2明細書の記載
静摩擦係数の測定方法につき,本件第2明細書には,以下のとおり記載されてい
る。
本発明のティシュペーパーは,静摩擦係数が0.50~0.65,より好ましく
は0.55~0.60であるのが望ましい。ここでの静摩擦係数は,JISP8
147(1994)に準じた,下記の方法で測定する。
1プライにはがしたティシュペーパーを,ティシュペーパーの外側の面が外側に
来るようにアクリル板に張り付ける。2プライのまま100gの分銅にティシュペ
ーパーを巻きつけ,アクリル板上のティシューに乗せる。アクリル板を傾け,おも
りが滑り落ちる角度を測定する。角度測定はMD方向同士で4回,CD方向同士で
4回の計8回実施し,平均角度を算出し,そのタンジェント値を静摩擦係数とする
(【0042】)。
前記のとおり,本件第2明細書には,静摩擦係数をJIS規格に準じた方
法で測定する旨明記されているのであるから,構成要件yが規定する静摩擦係数の
測定方法に関し,特許請求の範囲及び本件第2明細書のいずれにも記載されていな
い事項については,原則としてJIS規格に準じて測定すべきである。
JIS規格には,紙の摩擦係数試験方法として水平方法と傾斜方法がある旨記載
されているところ(乙1),前記及びは,その内容自体から傾斜方法を採用して
いることが明らかである。よって,構成要件yが規定する静摩擦係数の測定方法に
関し,特許請求の範囲及び本件第2明細書のいずれにも記載されていない事項につ
いては,基本的に傾斜方法に係るJIS規格に準じて測定するのが相当である。
他方,特許請求の範囲,本件第2明細書及びJIS規格のいずれにも記載さ
れていない事項は,構成要件yの静摩擦係数の測定方法において規定されていない
というべきであり,そのような事項については,技術常識を参酌し,異なる測定方
法が複数あり得る場合には,いずれの方法を採用した場合であっても構成要件yの
数値範囲内にあるときでなければ,構成要件yを充足するとはいえない。なぜなら,
当業者において,構成要件yの静摩擦係数の測定方法において規定されている事項
については,同規定に従い,上記測定方法において規定されていない事項について
は,あり得る複数の測定方法から適宜に1つを選択して静摩擦係数を測定した結果,
構成要件yの数値範囲外であったにもかかわらず,上記複数の測定方法のうち別の
ものを選択して測定すれば,構成要件yの数値範囲内にある静摩擦係数を得られた
として,構成要件yの充足性を認め,特許権侵害を肯定することは,第三者に不測
の利益を負担させることになるからである。しかも,このような事態は,特許権者
において,静摩擦係数の測定値に影響を及ぼす測定条件を特許請求の範囲又は明細
書において明らかにしなかったことから生じたものということができる。
そうすると,上記の不測の不利益を第三者に負担させることは相当ではないから,
構成要件yの静摩擦係数の測定方法に規定されている事項につき,同規定に従って
測定している限り,上記測定方法に規定されていない事項についてあり得る複数の
測定方法のうちいずれの方法を採用した場合であっても,静摩擦係数が構成要件y
の数値範囲内にあるときでなければ,構成要件yを充足するということはできない。
イ使用するおもりについて
被控訴人は,構成要件yが規定する静摩擦係数の測定方法には,使用するおもり
に関し,一意の測定値を得るという観点からは,不明確なところがある旨主張する
ので,以下,検討する。
おもりの水平時底面に掛かる圧力について
aおもりの水平時底面に掛かる圧力については,前記アのとおり,特許請求の
範囲及び本件第2明細書のいずれにも記載されていない。
JIS規格には,おもりについて,「水平時底面にかかる圧力は,1.64±0.
24kPa{16.7±2.5gf/cm2
}とする。」と記載されている(乙1)。
そして,水平時底面に掛かる圧力について,JIS規格の解説には,水平方法の項
において,「おもりの項では,摩擦係数は原理的にはおもりの寸法や質量にはよらな
いが,紙の場合圧縮性等の影響が考えられるので,底面にかかる圧力で規定した。
ただ,測定を行うに際して一応の目安が必要と考えられるので,おもりの寸法や質
量は最も一般的に用いられている値を備考で例示した。」との記載があり,傾斜方法
の項において,「おもりの項では,水平方法のときと同様におもりの寸法と質量は一
つの目安として備考で示すにとどめ,本文中では水平時に底面にかかる圧力を規定
した。」との記載がある。これらの記載によれば,JIS規格は,水平方法及び傾斜
方法のいずれにおいても,おもりの水平時底面に掛かる圧力を摩擦係数に影響する
ものと捉えて規定しているものと解される。
したがって,構成要件yの静摩擦係数の測定方法において,おもりの水平時底面
に掛かる圧力は,JIS規格と同じく1.64±0.24kPa{16.7±2.
5gf/cm2
}に設定する旨規定されているものと解すべきである。
b控訴人は,構成要件yが規定する100gの分銅をおもりとして使用する場
合,おもりの水平時底面に掛かる圧力は,静摩擦係数の測定結果に影響を及ぼさな
いから,規定する必要はない旨主張する。
しかし,前記アのとおり,本件第2明細書には,静摩擦係数をJIS規格に準じ
た方法で測定する旨明記されているのであるから,構成要件yが規定する静摩擦係
数の測定方法の解釈としては,特許請求の範囲及び本件第2明細書のいずれにも記
載されていない事項については,原則としてJIS規格に準じるべきである。そし
て,前記aのとおり,JIS規格は,おもりの水平時底面に掛かる圧力を摩擦係数
に影響するものと捉えて具体的な数値を規定しているのであるから,構成要件yの
静摩擦係数の測定方法についても,上記規定に従うのが相当である。
甲第31号証において,静摩擦係数が略一定の値になることが示されているのは,
水平時の圧力が0.5kPaから0.6kPaという限られた範囲内にある場合に
すぎない。また,確かに,甲第33号証の実験においては,水平時底面に掛かる圧
力を異にする円柱形状の100gの分銅につき,水平時底面に掛かる圧力が2.1
7kPa,2.00kPa及び1.59kPaのものの静摩擦係数が,それぞれ0.
57,0.55及び0.57であり,差はほぼなかったことが示されているものの,
乙第8号証の実験においては,水平時底面に掛かる圧力を異にする直方体形状の1
00gのおもりにつき,水平時底面に掛かる圧力が1.37kPa,1.66kP
a,1.81kPa及び1.99kPaのものの静摩擦係数が,それぞれ1.09,
1.02,0.99及び0.94であり,明らかな差が生じた。なお,後記のと
おり,分銅には,直方体形状のものも存在する。さらに,2ロット(製造番号17
111263,06121262)の被告製品を用いた乙第13号証の実験におい
ても,円柱形状の100gの分銅につき,水平時底面に掛かる圧力が1.59kP
a,1.39kPa,1.22kPa及び1.08kPaのものの静摩擦係数が,
一方のロットは,0.92,1.00,1.04,1.11,他方のロットは,0.
89,0.98,1.04,1.07であり,明らかな差が生じている。
加えて,おもりの重さ,すなわち,見掛けの接触圧力については,アモントンの
法則に従って,ある範囲であれば摩擦係数は圧力の増減に依存しないという見解が
ある一方で,圧縮性の高い紙等では圧力の増加に従って摩擦係数が顕著に減少する
ことが確認されたという見解もある(乙11)。
JIS規格に加え,これらの点に鑑みると,100gの分銅をおもりとして使用
する場合,おもりの水平時底面に掛かる圧力が静摩擦係数の測定結果に影響を及ぼ
さないとは必ずしもいうことができない。
おもりの形状について
aおもりの形状については,前記アのとおり,特許請求の範囲及び本件第2明
細書には,「100gの分銅」と記載されているにとどまり,具体的な形態等は記載
されていない。
JIS規格には,おもりにつき,「長方形の平らな底面をもつ金属製ブロック」と
記載されているが,その理由については,解説にも記載されていない。また,「備考
おもりの寸法と質量は,例えば幅60mm,長さ100mm,質量1000gのも
のが使用されるが,寸法,質量とも厳密である必要がない。」と記載されているとこ
ろ,同記載に関しては,前記のとおり,解説に「摩擦係数は原理的にはおもりの
寸法や質量にはよらない」,「おもりの寸法と質量は一つの目安として備考で示すに
とどめ,本文中では水平時に底面にかかる圧力を規定した。」との記載がある。
b分銅には,円柱形状や直方体形状など様々なものが存在する(乙14,15)。
「分銅JISB7609:2008」(甲30)には,「1gから50kgま
での分銅」につき,「1gから20kgまでの円筒形分銅の形状」,「1kgから50
kgまでの分銅は,円筒形の形状に加えて,直方体又は取扱いに適した形状にして
もよい。」との記載がある。また,「附属書A(参考)分銅の形状及び寸法」には,
円筒形分銅につき,公称値1gから20kgまでのものの代表的な寸法が表示され
ており,その中には100gも含まれているのに対し,直方体分銅については,公
称値1kgから5000kgまでのものの代表的な寸法が表示されており,100
gは公称値として挙げられていない。これらの点に鑑みると,100gの分銅は,
円筒形の形状,すなわち円柱形状のものが,一般的なものであるということができ
る。
c前記aのとおり,JIS規格には,おもりに「長方形の平らな底面をもつ金
属製ブロック」を用いることの理由は示されていない。また,JIS規格は,前記
aのとおり,おもりについては,水平時底面に掛かる圧力を摩擦係数に影響するも
のと捉え,同圧力を許容範囲も含めて明確に規定しているのに対し,寸法と質量は,
原理的には摩擦係数を決するものではないとして,厳密である必要がないという前
提の下,一つの目安として一定の数値を示しているにとどまる。
以上に鑑みれば,JIS規格は,おもりについては,摩擦係数に影響する水平時
底面に掛かる圧力を重視して所定の値を設定し,寸法や質量といったその余の特性
は,摩擦係数に大きな影響を及ぼすものではないことから,一応の目安を例示して
いるものと解される。形状についても寸法や質量と同様に解することができ,「長方
形の平らな底面をもつ金属製ブロック」に限定する趣旨ではないものと考えられる。
以上に加え,おもりの形状を特定する技術常識の存在も認めるに足りないことか
らすれば,構成要件yが規定する静摩擦係数の測定方法において,おもりの形状に
つき,100gの分銅として一般的な円柱形状のもの又はJIS規格に示された直
方体形状のもののいずれかに限定されているわけではないと解すべきである。
d控訴人は,JIS規格によって分銅の形状を特定することができる旨主張す
るが,前記cのとおり,JIS規格は,おもりの形状を同規格が示す「長方形の平
らな底面をもつ金属製ブロック」に限定する趣旨ではない。
e被控訴人は,円柱形状の分銅を使用すると,重心位置が高いことから,傾斜
板(アクリル板)を傾けた際に,分銅が傾斜面下向き方向に傾くなどの現象が生じ,
これがおもりの滑り始めと誤認されることにより,静摩擦係数の測定結果に影響を
及ぼす旨主張する。
しかし,被控訴人において行った実験(乙52,53,55,64等)において
も円柱形状の分銅が使用されており,直方体形状の分銅を使用した実験(乙8,9,
16)と比較しても,分銅が円柱形状であること自体によって,被控訴人が主張す
るような問題が生じたことは,認めるに足りない。
f被控訴人は,円柱形状の分銅に構成要件yが規定するとおりティシュペーパ
ーを巻きつけると,分銅の底面が円形状であることから,必然的に底面の周囲にし
わが形成され,静摩擦係数の測定結果に影響を及ぼす旨主張する。
しかし,円柱形状の分銅の底面にしわやたるみがないようティシュペーパーを巻
きつけることは可能であり,傾斜面と接触する同底面部分のティシュペーパーにし
わやたるみがなければ,同底面の周囲にしわが形成されたとしても,静摩擦係数の
測定結果に有意な影響を及ぼすことは考え難い。
ティシュペーパーの巻きつけ方について
ティシュペーパーの巻きつけ方については,前記アのとおり,特許請求の範囲及
び本件第2明細書のいずれにも記載されていない。
JIS規格には,傾斜方法の項において,「試験片には,傷やしわがあってはなら
ない。測定部分に触れて,手の脂を付けたり鉛筆で印を付けたりして,測定結果に
影響を与えないように注意する必要がある。」と記載されている。また,水平方法の
項において,「おもり用の試験片は,おもりに密着させて滑り面にしわやたるみが生
じないように,両端を粘着テープでおもりの前後の側面にはりつける。」との記載が
あり,これは,傾斜方法においても同様のことが求められるものと解される。これ
らの記載によれば,JIS規格は,試験片のしわやたるみは,静摩擦係数の測定結
果に影響を及ぼすものと捉えて,そのようなしわやたるみが生じないようにするこ
とを規定しているものということができる。
以上によれば,構成要件yの静摩擦係数の測定方法において,ティシュペーパー
の巻きつけ方については,JIS規格と同様に,滑り面,すなわち,傾斜面と接す
る底面にしわやたるみが生じないように巻きつけるよう規定されているものと解す
べきである。
なお,ティシュペーパーを分銅に巻きつける際の張力の強度は,特許請求の範囲,
本件第2明細書及びJIS規格のいずれにも記載されておらず,上記強度に係る技
術常識も認めるに足りないから,構成要件yの静摩擦係数の測定方法においては特
定されていないものと解される。
ウアクリル板に張り付けられるティシュペーパーについて
被控訴人は,構成要件yが規定する静摩擦係数の測定方法には,アクリル板に張
り付けられるティシュペーパーに関し,一意の測定値を得るという観点からは,不
明確なところがある旨主張するので,以下,検討する。
ティシュペーパーを張り付ける際に掛ける張力について
aティシュペーパーを張り付ける際に掛ける張力については,前記アのとおり,
特許請求の範囲及び本件第2明細書のいずれにも記載されておらず,また,JIS
規格にも記載されていない。
しかし,ティシュペーパーをアクリル板に張り付ける際,人為的に左右に3%の
張力を掛けた場合,そのような張力を掛けない場合に比して,MD方向及びCD方
向の引張試験のいずれにおいても,ティシュペーパーの伸長割合が約10分の1に
なったことが,実験において確認されている(乙54)。したがって,ティシュペー
パーをアクリル板に張り付ける際に掛ける張力の大小は,静摩擦係数に影響を及ぼ
すものということができる。控訴人も,ティシュペーパーに張力を掛けると静摩擦
係数が変化することは,技術常識である旨を述べているところである。
以上によれば,構成要件yの静摩擦係数の測定方法において,ティシュペーパー
をしわやたるみが生じないようにアクリル板に張り付けることは規定されているも
のの,上記張付けの際に掛ける張力の強度については規定されていないということ
ができる。
b控訴人は,ティシュペーパーに張力を掛けると静摩擦係数が変化することは,
当業者の技術常識であるから,ティシュペーパーをアクリル板に固定するに当たっ
て張力を掛けないことは,自明のことである旨主張する。
しかし,ティシュペーパーは,細かいクレープ(目視困難な細かい縮みじわ)が
形成されており,普通紙に比べて柔らかいことから,しわやたるみが生じないよう
にアクリル板に張り付ける際,若干の張力を掛けることは,事実上,不可避という
ことができる。現に,前記実験において,人為的に張力を掛けることなくティシュ
ペーパーをアクリル板に張り付けた場合も,アクリル板に張り付けないティシュペ
ーパーに比べると,特にCD方向の引張試験で測定したティシュペーパーの伸長割
合が有意に減少しており(7gfの荷重による伸び量がCD方向で1.5%から1.
20%に減少した。),これは,上記張付けの際,特にCD方向に張力が掛かったこ
とを示すものである(乙54)。よって,控訴人の上記主張を採用することはできな
い。
ティシュペーパーの固定方法について
aティシュペーパーの固定方法については,前記アのとおり,特許請求の範囲
及び本件第2明細書のいずれにおいても,ティシュペーパーを1プライにはがし,
2プライ時にティシュペーパーの外側にあった面が外側になるようにしてアクリル
板に張り付けるとの記載にとどまり,どのようにティシュペーパーをアクリル板に
固定するかについては,記載されていない。
JIS規格には,傾斜板の上端には試験片を固定するつかみが取り付けてあるこ
と及び本体用試験片を本体傾斜板に測定面を外側にして密着させることが記載され
ており,同記載は,試験片の上端を傾斜板に固定する上方固定の方法を意味するも
のと解される。もっとも,JIS規格には,試験片を傾斜板に固定する方法として,
上方固定の方法によるべきという趣旨の記載も,他の方法を禁ずる旨の記載もなく,
上方固定の方法のみに限定する趣旨とは必ずしも解されない。
bティシュペーパーをしわやたるみが生じないようにアクリル板に張り付ける
方法としては,ティシュペーパーのアクリル板側上端に加えて,下端,左端及び右
端のいずれか一端又は複数の端をテープ等で固定する方法及びティシュペーパーが
アクリル板に接する面の一部又は全面を両面テープや微弱なスプレーのり等で固定
する方法が考えられる(乙105)。現に,被告製品の静摩擦係数を測定する実験に
おいて,被告製品の四方をテープでアクリル板に固定する四方固定の方法及び全面
固定の方法のいずれによっても,被告製品をしわやたるみが生じないようにアクリ
ル板に張り付けており(甲81~88,乙53,64,72,99,102~10
4,121等),少なくとも,四方固定の方法及び全面固定の方法によれば,ティシ
ュペーパーをしわやたるみが生じないようにアクリル板に張り付けることができる
ことは,明らかである。
しかし,前記aのとおり,特許請求の範囲及び本件第2明細書のいずれにも,テ
ィシュペーパーの具体的な固定方法は何ら記載されていない。JIS規格には,上
方固定の方法が記載されているものの,それのみに限定する趣旨とは解されず,ま
た,他の固定方法については何ら記載されていない。
以上によれば,構成要件yの静摩擦係数の測定方法において,ティシュペーパー
をアクリル板に固定する具体的方法としていずれの固定方法を使用すべきかは,規
定されていないものと解するのが相当である。
c控訴人は,JIS規格に,本体用試験片を本体傾斜板に測定面を外側にして
密着させる旨が規定されているのであるから,ティシュペーパーの場合は,しわや
たるみなく傾斜板(アクリル板)に張り付ける必要があり,そのためにはセロハン
テープ等で四方を固定することになる旨主張する。
しかし,JIS規格には,四方固定の方法については何ら言及されていない。さ
らに,前記bのとおり,被告製品の静摩擦係数を測定する実験から,四方固定の方
法のほか,全面固定の方法についても,ティシュペーパーをしわやたるみが生じな
いようにアクリル板に張り付けることができることは,明らかである。したがって,
四方固定の方法が,ティシュペーパーをしわやたるみなくアクリル板に張り付ける
方法として唯一のものであるということはできない。
d控訴人は,アクリル板とティシュペーパーの間に両面テープを挿入する全面
固定の方法は,試験片であるティシュペーパーを傾斜板であるアクリル板に密着さ
せることができないから,JIS規格に反するものである旨主張する。
JIS規格には,「本体用試験片を本体傾斜板に,おもり用試験片をおもりに,そ
れぞれ測定面を外側にして密着させる。」と記載されているところ,おもりにつき,
「試験片を取り付ける面(底面及び側面)は,3mm以上の厚さのゴムシートで覆
ってもよい。」との記載があり,これは,「おもりの角に丸みをもたせることにより,
板紙のように厚い試験片のときに折れたりすることのないようにするためのもので
ある。」とされている。したがって,JIS規格において「密着」は,間に他の物を
全く介在させないことまでは意味しないものと解される。よって,全面固定の方法
が,アクリル板とティシュペーパーの間に両面テープ等の接着手段を介在させるこ
とのみをもって,直ちにアクリル板とティシュペーパーとを「密着」させないとし
て,JIS規格に反するということはできない。
e控訴人は,全面固定の方法について,ティシュペーパーを両面テープ表面に
しわやたるみなく均一に張り付けることは困難であり,仮にそれができたとしても,
両面テープの表面凹凸の影響やその表面凹凸とティシュペーパーとの間に生じるす
き間によってティシュペーパーの表面が変化し,静摩擦係数に影響を及ぼすという
問題もある旨主張する。
しかし,前記bのとおり,被告製品の静摩擦係数を測定する実験から,四方固定
の方法のほか,全面固定の方法についても,ティシュペーパーをしわやたるみが生
じないようにアクリル板に張り付けることができることは,明らかである。また,
両面テープの表面凹凸についても,ティシュペーパーとの接着部分に凹凸がない両
面テープを使用することによって,控訴人が指摘する問題を回避することも考えら
れる。
f被控訴人は,部分固定の方法については,①アクリル板の傾斜角の上昇に伴
い,おもりの荷重の傾斜面下向き方向の分力がティシュペーパーとアクリル板との
間の最大静止摩擦力を超えると,ティシュペーパーとアクリル板との接触面におい
て滑りが生じ,その際に,おもりよりも後方(上方)部分のティシュペーパーが伸
長し,この伸長に伴って,おもりが実際にはティシュペーパー上を滑っていないに
もかかわらず,ティシュペーパーと一体となってわずかに動いたように見える微動
が生じ,おもりが滑り始めたと誤認されやすい,②ティシュペーパーを四方に広げ
るように掛ける張力を一定にすることができたとしても,張り付けられた後のティ
シュペーパーの張力は,固定されていない箇所がたるむことなどによって異なって
くることになり,このことが,ティシュペーパーの表面性に影響を与え,ひいては
静摩擦係数の測定結果にも影響を及ぼすという問題があり,静摩擦係数を正確に測
定することができなくなるおそれがあることから,全面固定の方法を採用するべき
である旨主張する。
しかし,前記aのとおり,特許請求の範囲,本件第2明細書及びJIS規格のい
ずれにも,全面固定の方法については言及されていない。また,被控訴人が指摘す
る①及び②の問題については,全面固定の方法を採用しても,ティシュペーパーと
アクリル板との接着の度合い等によっては生じ得るものと考えられ,同方法におい
ては上記の問題がおよそ生じないということはできない。他方,部分固定の方法を
採用しても,例えば四方を強固に固定することなどによって①及び②の問題を回避
することも考えられ,同方法が上記問題を必然的に伴うものということもできない。
ティシュペーパーの形状・サイズについて
aティシュペーパーの形状・サイズについては,前記アのとおり,特許請求の
範囲及び本件第2明細書のいずれにも記載されていない。
JIS規格には,「備考試験片の寸法は,本体用については,その幅は,おもり
用より約25mm広くし,その長さは,固定部分も考慮して傾斜板に合うようにす
る(例:幅約85mm,長さ約250mm)。おもり用については,その幅は,おも
り幅と同じにし,その長さは,おもりに取り付けられる程度とする(例:幅約60
mm,長さ約120mm)。」と記載されており,同記載については,「試験片の寸法
の具体的な数値は,一つの例として備考で示した。一つの目安であるので±は付け
なかった。」と説明されている(乙1)。
b上記aのとおり,JIS規格には,試験片の寸法(サイズ)について具体的
な数値が記載されているものの,これは例示にすぎず,試験片の寸法を特定するも
のではないと解される。
以上によれば,構成要件yの静摩擦係数の測定方法において,ティシュペーパー
の形状・サイズは,特に規定されていないものと解される。
エ「おもりが滑り落ちる角度」について
前記アのとおり,特許請求の範囲及び本件第2明細書には,「おもりが滑り落
ちる角度」に関し,おもりをアクリル板に固定したティシュペーパーに載せた上で
アクリル板を傾けておもりが滑り落ちる角度を測定し,同測定をティシュペーパー
のMD方向同士,CD方向同士で各4回ずつ合計8回行い,平均角度を算出してそ
のタンジェント値を静摩擦係数とする旨記載されている。
JIS規格には,「静摩擦係数紙の最初の動きを阻止しようとする摩擦力と紙に
垂直に加わる力の比をいう。傾斜方法では,そのおもりが滑り始めたときの角度の
正接(tanθ)で表す。」,「一定の速度で傾斜板の傾斜角度を上げ,おもりが滑り
始めたときの傾斜角を読み取る。」,「滑り出し開始の角度の正接(tanθ)を静摩
擦係数として,その平均値をJISZ8401によって小数点以下2けたに丸
めて報告する。」と記載されている。
以上によれば,「おもりが滑り落ちる角度」とは,「おもりが滑り始めたときの角
度」を意味することは,明らかである。
「おもりが滑り始めたときの角度」の意義につき,控訴人は,「おもりが停止
せずに傾斜板下まで滑り落ちたか否かにかかわらず,単におもりが動き始めたとき
の傾斜角」をいうと主張するのに対し,被控訴人は,「おもりがいったん滑り始め,
そのまま停止することなく,傾斜板下まで滑り落ちる際の滑り始め時の傾斜角」を
いうと主張している。
この点に関し,どのようなおもりの動きをもって「おもりが滑り始めた」とする
かについては,特許請求の範囲,本件第2明細書及びJIS規格のいずれにも記載
されていない。また,控訴人及び被控訴人の各主張は,いずれも「おもりが滑り始
めた」という文言の語義の解釈として,明らかに不合理とまではいい難い。本件証
拠上,同解釈に関する確立した技術常識の存在も,認めるに足りない。
以上によれば,構成要件yの静摩擦係数の測定方法において,「おもりが滑り落ち
る角度」は,「おもりが滑り始めたときの角度」を意味するが,どのようなおもりの
動きをもって「おもりが滑り始めた」とするかについては,規定されていないとい
わざるを得ない。
オ静摩擦係数測定の手段について
静摩擦係数測定の手段として,おもりの滑り始めを目視で確認するかセンサ
ーによって検知するかについては,前記アのとおり,特許請求の範囲及び本件第2
明細書のいずれにも記載されていない。JIS規格にも,静摩擦係数測定の手段は
明記されておらず,例示された傾斜方法の図面は,おもりの滑り始めを目視で確認
することを想定したものと解されるが,それをもって,静摩擦係数測定の手段を目
視による確認に限定した趣旨と直ちに解することはできない。
また,控訴人及び被控訴人に加え,第三者機関が被告製品の静摩擦係数を測定し
た実験においても,センサーを備えた静摩擦係数測定機が使用されている(甲39,
81,乙53,64,72,121等)。さらに,被控訴人自身が出願した名称を「テ
ィシュペーパー」とする発明の公開特許公報(甲57)においては,本件発明2と
同様に,傾斜方法によってティシュペーパーの静摩擦係数を測定するに当たり,セ
ンサーを備えた摩擦計を使用し,「接触子10が滑り落ちるタイミングはセンサー2
3にて感知して,そのときのタンジェント値は自動計算して表示される。」と記載さ
れている(【0019】~【0021】)。
以上によれば,静摩擦係測定の手段としては,おもりの滑り始めの目視による確
認及びセンサーによる検知のいずれも可能であり,構成要件yの静摩擦係数の測定
方法において,いずれの手段によるべきかは規定されておらず,当業者が適宜選択
するものということができる。
被控訴人は,①ティシュペーパーを部分固定の方法によってアクリル板に固
定すると,おもりが実際にはティシュペーパー上を滑っていないのに,ティシュペ
ーパーの伸長に沿って変位する微動が生じ,センサーは,この微動にも反応してし
まうので正確な測定結果を得ることができない,②おもりに円柱形状の分銅を用い
た場合には,測定中に傾いたり,回転するなどの不安定な動きをすることから,セ
ンサーの誤作動を招くとして,構成要件yが規定する測定方法においては,静摩擦
係数測定機のセンサーを適切に使用することができる測定条件が整っていない旨主
張する。
しかし,①の点については,前記fのとおり,部分固定の方法を採用しても,
例えば四方を強固に固定することなどによって上記微動の発生を防ぐことも考えら
れ,上記固定方法が上記微動に係る問題を必然的に伴うものということはできない。
②の点については,前記イのとおり,円柱形状の分銅を使用して被告製品の
静摩擦係数を測定した実験が行われており,直方体形状の分銅を使用して被告製品
の静摩擦係数を測定した実験と比較しても,分銅が円柱形状であること自体によっ
て,被控訴人が主張するような問題が生じたことは,認めるに足りない。
カ小括
以上のとおり,構成要件yの静摩擦係数の測定方法としては,①おもりの水
平時底面に掛かる圧力は,JIS規格と同じく1.64±0.24kPa{16.
7±2.5gf/cm2
}に設定すること,②ティシュペーパーの巻きつけ方につ
いては,JIS規格と同様に,滑り面,すなわち,傾斜面と接する底面にしわやた
るみが生じないように巻きつけること及び③ティシュペーパーをしわやたるみが生
じないようにアクリル板に張り付けることが規定されている。
他方,おもりの形状については,100gの分銅として一般的な円柱形状の
もの又はJIS規格に示された直方体形状のもののいずれかに限定されているわけ
ではない。また,ティシュペーパーを分銅に巻きつける際の張力の強度,ティシュ
ペーパーをアクリル板に張り付ける際に掛ける張力の強度及びティシュペーパーの
形状・サイズは,規定されていない。
ティシュペーパーをアクリル板に固定する具体的方法については,四方固定の方
法,全面固定の方法など複数あり得るものの,いずれの固定方法を使用すべきかは,
規定されていない。
「おもりが滑り落ちる角度」は,「おもりが滑り始めたときの角度」を意味するが,
どのようなおもりの動きをもって「おもりが滑り始めた」とするかについては,規
定されていない。
静摩擦係数の測定手段については,おもりの滑り始めの目視による確認及びセン
サーによる検知のいずれも可能であり,いずれの測定手段によるべきかは規定され
ておらず,当業者が適宜選択するものということができる。
そして,これらの条件については,いずれの方法を採用した場合であっても静摩
擦係数が構成要件yの数値範囲内にあるのでなければ,これを充足するとはいえな
い。
⑵被告製品の構成要件yの充足性について
ア被控訴人は,乙53,64,72,73,99,102から104及び12
1号証等の実験において測定された被告製品の静摩擦係数は,いずれも構成要件y
が規定する数値範囲外のものであるから,被告製品は構成要件yを充足しない旨主
張する。
被控訴人が掲げる上記実験中,少なくとも目視によっておもりの滑り始めを
確認したものにおいては,「おもりが滑り落ちる角度」については,被控訴人の主張
に沿って,「おもりがいったん滑り始め,そのまま停止することなく,傾斜板下まで
滑り落ちる際の滑り始め時の傾斜角」を計測したものと推認される。
乙第53号証の実験について
乙第53号証の実験においては,直径28mm,高さ32mm,水平時底面に掛
かる圧力1.59kPaの100gの円柱形状の分銅をおもりとして使用した。1
0cm四方の被告製品の全面を両面テープでアクリル板に張り付けた(全面固定)
場合の静摩擦係数を,目視及びセンサー検知によって測定し,被告製品の四方の各
辺をセロハンテープでアクリル板に張り付けた(四方固定)場合の静摩擦係数を目
視により測定した。静摩擦係数は,全面固定の場合のセンサー検知による値が0.
88,目視による値が0.90,四方固定の場合の目視による値が0.90であり,
いずれも構成要件yの数値範囲外のものであった。
乙第64号証の実験について
乙第64号証の実験は,①直径28mm,高さ32mm,水平時底面に掛かる圧
力1.59kPaの100gの円柱形状の分銅,②直径29mm,高さ28mm,
水平時底面に掛かる圧力1.49kPaの100gの円柱形状の分銅及び③直径3
0mm,高さ28mm,水平時底面に掛かる圧力1.39kPaの100gの円柱
形状の分銅の3種類の分銅をおもりとして使用した。被告製品は,4cm四方のも
の及び10cm四方のものを使用し,それぞれの各辺をセロハンテープでアクリル
板に張り付けた(四方固定)。静摩擦係数の測定は,目視及びセンサー検知によった。
静摩擦係数は,以下のとおり,いずれも構成要件yの数値範囲外のものであった。
上記①については,4cm四方の被告製品を使用したときの静摩擦係数が,セン
サー検知による値が0.79,目視による値が0.90であり,10cm四方の被
告製品を使用したときの静摩擦係数が,センサー検知による値が0.74,目視に
よる値が0.89であった。
上記②については,4cm四方の被告製品を使用したときの静摩擦係数が,セン
サー検知による値が0.95,目視による値が1.01であり,10cm四方の被
告製品を使用したときの静摩擦係数が,センサー検知による値が0.90,目視に
よる値が0.99であった。
上記③については,4cm四方の被告製品を使用したときの静摩擦係数が,セン
サー検知による値が0.96,目視による値が1.03であり,10cm四方の被
告製品を使用したときの静摩擦係数が,センサー検知による値が0.93,目視に
よる値が1.03であった。
乙第72号証の実験について
乙第72号証の実験は,直径28mm,高さ32mm,水平時底面に掛かる圧力
1.59kPaの100gの円柱形状の分銅をおもりとして使用した。4cm四方
の被告製品の各辺をテープでアクリル板に張り付けた(四方固定)。静摩擦係数の測
定は,センサー検知によった。静摩擦係数は,0.78であり,構成要件yの数値
範囲外のものであった。
乙第73号証の実験について
乙第73号証の実験は,直径28mm,高さ32mm,水平時底面に掛かる圧力
1.59kPaの100gの円柱形状の分銅をおもりとして使用した。10cm四
方の被告製品の各辺をテープでアクリル板に張り付けた(四方固定)。静摩擦係数の
測定は,センサー検知によった。静摩擦係数は,0.70であり,構成要件yの数
値範囲外のものであった。
乙第99号証の実験について
乙第99号証の実験は,直径28mm,高さ32mm,水平時底面に掛かる圧力
1.59kPaの100gの円柱形状の分銅をおもりとして使用した。10cm四
方の被告製品の各辺をテープでアクリル板に張り付けた(四方固定)。静摩擦係数の
測定は,目視によった。静摩擦係数は,0.95であり,構成要件yの数値範囲外
のものであった。
乙第102号証の実験について
乙第102号証の実験は,直径が28mmである100gの円柱形状の分銅をお
もりとして使用した。おもりの水平時底面に掛かる圧力は,記載されていないもの
の,上記直径及び重量から,1.59kPaと推認される。10cm四方の被告製
品の各辺をセロハンテープでアクリル板に張り付けた(四方固定)。静摩擦係数の測
定は,目視によった。静摩擦係数は,0.95であり,構成要件yの数値範囲外の
ものであった。
乙第103号証の実験について
乙第103号証の実験は,直径28mm,高さ32mm,水平時底面に掛かる圧
力1.59kPaの100gの円柱形状の分銅をおもりとして使用した。10cm
四方の被告製品の全面にわたり両面テープでアクリル板に張り付けた(全面固定)。
静摩擦係数の測定は,目視によった。静摩擦係数は,0.93であり,構成要件y
の数値範囲外のものであった。
乙第104号証の実験について
乙第104号証の実験は,直径が28mmである100gの円柱形状の分銅をお
もりとして使用した。おもりの水平時底面に掛かる圧力は,記載されていないもの
の,上記直径及び重量から,1.59kPaと推認される。10cm四方の被告製
品の全面にわたり両面テープでアクリル板に張り付けた(全面固定)。静摩擦係数の
測定は,目視によった。静摩擦係数は,0.94であり,構成要件yの数値範囲外
のものであった。
乙第121号証の実験について
乙第121号証の実験は,直径28mm,高さ32mm,水平時底面に掛かる圧
力が1.59kPaである100gの円柱形状の分銅をおもりとして使用した。1
0cm四方の被告製品を,各辺をセロハンテープで張り付ける方法(四方固定),ア
クリル板上側の一辺のみをセロハンテープで張り付ける方法(上方固定)及び全面
にわたり両面テープで張り付ける方法(全面固定)により,アクリル板に張り付け
た。静摩擦係数の測定は,目視及びセンサー検知によった。静摩擦係数は,四方固
定の場合の目視による値が0.93,センサー検知による値が0.73,全面固定
の場合の目視による値が0.94,センサー検知による値が0.88であり,いず
れも構成要件yの数値範囲外のものであった。なお,被告製品を上方固定し,目視
で測定した実験においては,CD方向同士の測定中,アクリル板に張り付けられた
被告製品のおもりの底面直下付近の部分に破断が生じた。また,被告製品を上方固
定し,センサーで静摩擦係数を測定した実験においては,0.44という測定値が
得られたものの,①上記のとおり他の測定値が0.7台から0.9台であったこと,
②コピー用紙,塗工紙,新聞用紙及び板紙について同様の条件で静摩擦係数を測定
したところ,いずれにおいても,固定方法ごと及び滑り始めの確認手段ごとの静摩
擦係数の相違が0.04以下の僅差にとどまったことに鑑みると,0.44という
測定値は,明らかに不自然な値といわざるを得ない。
小括
以上によれば,被控訴人が挙げるこれらの実験において,構成要件yの静摩擦係
数の測定方法に規定されている事項につき,同規定に従って被告製品の静摩擦係数
を測定した結果,構成要件yの数値範囲外の測定値が得られたことは,明らかであ
る。
イ控訴人の主張について
控訴人は,乙第53,103,104及び121号証の実験においては,被
告製品の全面を両面テープでアクリル板上に固定しており,このような全面固定の
方法は,JIS規格に反し,また,ティシュペーパー表面の摩擦力を変化させる不
合理な方法である旨主張する。
アクリル板とティシュペーパ
ーとを「密着」させないとして,JIS規格に反するということはできない。また,
ティシュペーパーとの接着部分に凹凸がない両面テープを使用することなどによっ
て,控訴人が指摘するティシュペーパー表面の摩擦力の変化を防止することも考え
られる。
控訴人は,乙第53,64,99,102から104及び121号証の実験
においては,目視によっておもりの滑り始めを確認するに当たり,おもりがいった
ん滑り始め,そのまま停止することなく,傾斜板下まで滑り落ちる際の滑り始め時
を確認対象としているが,そのときの傾斜角は,構成要件yが規定する「おもりが
滑り落ちる角度」ではない旨主張する。
しかし,前記⑴エのとおり,構成要件yの静摩擦係数の測定方法において,「おも
りが滑り落ちる角度」は,「おもりが滑り始めたときの角度」を意味するが,どのよ
うなおもりの動きをもって「おもりが滑り始めた」とするかについては,規定され
ていない。そして,おもりがいったん滑り始め,そのまま停止することなく,傾斜
板下まで滑り落ちる際の滑り始めをもって「おもりが滑り始めた」と解することも,
同文言の語義の解釈として不合理とまではいい難い。したがって,上記実験におい
て確認対象とした傾斜角は,構成要件yが規定する「おもりが滑り落ちる角度」に
該当する。
控訴人は,乙第53,64及び121号証の実験においては,センサーが,
おもりが傾斜板下まで滑り落ちるか否かにかかわらず,最初におもりの動きを検知
したときのアクリル板の角度を読み取っており,目視によっておもりの滑り始めを
確認する実験と,確認対象とする傾斜角が異なるが,両実験による測定結果は,略
同一となっており,それ自体,不合理である旨主張する。
しかし,センサー検知と目視による確認が,常に確認対象を異にするとは限らな
い。すなわち,センサー検知においても,どの程度のおもりの動きに反応するかと
いうセンサーの感度の調整等により,目視による確認と同様に,おもりがいったん
滑り始め,そのまま停止することなく,傾斜板下まで滑り落ちる際の滑り始めの傾
斜角を捉えることができるものと考えられる。
控訴人は,上記の実験並びに乙第72及び73号証の実験においては,セ
ンサーによる測定開始時に分銅を浮かせた状態にしている旨主張するが,証拠上,
そのような事実を認めるに足りない。
控訴人は,乙第64及び72号証の実験において測定対象とされている4c
m四方の被告製品は,JIS規格に沿わないサイズのものであり,また,そのよう
に小さいサイズのティシュペーパーを使用すれば,ティシュペーパーの周囲四方を
固定したセロハンテープと分銅との距離が,直径28mmの分銅で1mmなど非常
に短いものとなり,センサーによる反応のタイミングを遅めることに寄与する旨主
張する。
しかし,前記⑴ウのとおり,JIS規格に記載されている試験片の具体的寸法
は,1つの例示にすぎず,使用する試験片の寸法を定めたものではないから,4c
m四方のサイズがJIS規格に反するということはできない。また,そのようなサ
イズのティシュペーパーを使用する場合であっても,水平時底面に掛かる圧力が1.
64±0.24kPa{16.7±2.5gf/cm2
}を外れない範囲内におい
て直径が小さい,すなわち,底面積が小さい分銅を使用すれば,ティシュペーパー
の周囲四方を固定したセロハンテープと分銅との間に一定の距離を確保することが
できるから,上記ティシュペーパーを使用すると必然的にセンサーによる反応のタ
イミングが遅くなるとはいい難い。
控訴人は,乙第72,73及び99号証には,実験そのものが23℃,50%
RHの環境に設定された恒温恒湿室で行われたことは記載されていないことから,
これらの実験は,恒温恒湿の上記環境下で行われなかった可能性が高い旨主張する。
しかし,実験環境については,「紙,板紙及びパルプ-調湿及び試験のための標準
状態JISP8111:1998(2008確認)(2012確認)」(乙94)
において,試験のための標準状態は,23℃±1℃,(50±2)%r.h.とする
旨が定められていることから,通常,特に断りのない場合には,同規定に従って試
験を行うものといえ,したがって,乙第72,73及び99号証の実験も,上記規
定に従って行われたものと推認することができる。加えて,試験のための標準状態
は,試験の報告の記録項目とされていないこと(乙94)から,乙第72,73及
び99号証に実験時の室温及び湿度が記載されていないことをもって,直ちに実験
時の標準状態が上記規定に従って行われなかったということはできない。
控訴人は,甲第9,33,39,81及び88号証等の実験において測定さ
れた被告製品の静摩擦係数は,いずれも構成要件yが規定する数値範囲内のもので
あるから,被告製品は構成要件yを充足する旨主張する。
しかし,甲第9及び39号証には,おもりの水平時底面に掛かる圧力が記載され
ておらず,また,おもりの直径が記載されていないので,上記圧力を推認すること
もできないことから,その実験結果を採用することはできない。
また,甲第33号証の実験のうち,直径28mm,高さ32mm,水平時底面に
掛かる圧力1.59kPaの分銅を使用したもの,甲第81号証の実験のうち,ア
クリル板を人為的にセンサー側へ押し込むことなく静摩擦係数を測定したもの及び
甲第88号証の実験のうち,縦横に張力を掛けずしわやたるみがない状態で行った
ものは,構成要件yの静摩擦係数の測定方法に反しないものであり,これらの実験
の静摩擦係数(ただし,甲第88号証については,「滑り始め」に係るもの)は,構
成要件yの数値範囲内であるが,前記⑴アのとおり,構成要件yの静摩擦係数の測
定方法に規定されていない事項については,あり得る複数の測定方法のうちいずれ
の測定方法を採用した場合であっても上記数値範囲内といえなければ,充足とはい
えない。
ウ小括
以上によれば,被告製品は,構成要件yを充足しないというべきである。
⑶よって,被告製品が本件発明2の技術的範囲に属するものと認めることはで
きない。
7結論
以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,控訴人の請求は,いず
れも理由がないから,これらを棄却した原判決は,結論において正当である。
よって,本件控訴を棄却することとし,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官髙部眞規子
裁判官古河謙一
裁判官鈴木わかな
(別紙1)本件第1明細書(甲2)に掲載されている図面
【図1】一次原反ロールの製造設備及び製造方法を示す概略図
【図2】【図4】マルチスタンド式インターフォルダの一例を正面から見た状態の概
略図(矢印HDは水平方向を,矢印LDは上下方向を示す。)
【図11】二次原反ロールの製造設備及び製造方法を示す概略図
【図1】
【図2】
【図4】
【図11】
別紙2
【図1】
【図2】

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