弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

主文
1 本件控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は各自の負担とする。
事実及び理由
(以下,略語は原判決に準ずる。)
第1 当事者の求めた裁判
 1 1審原告
 (1) 原判決中1審原告敗訴部分を取り消す。
 (2) 1審被告は,1審原告に対し,8190万円及びこれに対する平成10年11月19
日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
(3) 上記(1)で取消しに係る部分の1審被告の請求を棄却する。
(4) 1審被告の本件控訴を棄却する。
 (5) 訴訟費用は,第1,2審とも,1審被告の負担とする。
 (6) 仮執行宣言
2 1審被告
(1) 原判決中1審被告敗訴部分を取り消す。
 (2) 1審原告は,1審被告に対し,8026万4746円及びこれに対する平成11年4
月18日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
(3) 1審原告の本件控訴を棄却する。
 (4) 訴訟費用は,第1,2審とも,1審原告の負担とする。
 (5) 仮執行宣言
第2 事案の概要
 1 本件の第1事件は,昭和53年から平成10年11月4日まで1審被告の取締役であ
った1審原告が,1審被告に対し,①1審被告においては親会社であるB木材(株
式会社)の役員退職慰労金規定に準じて退職慰労金を支払う慣行が存在するこ
と,②1審被告の80%の株式を保有するB木材(代表者は1審被告と同じA)が1
審原告に対し退職慰労金支払義務を認めたこと,又は③株主総会決議の不存在
を理由に退職慰労金の支払を拒絶することが信義則・禁反言により許されないこと
により退職慰労金請求権が発生したとして,退職慰労金8190万円及び遅延損害
金(支払催告後の平成10年11月19日から年6分)の支払を求めたのに対し,1審
被告が,上記①ないし③を否認して争った事案である。
   本件の第2事件は,1審被告が,1審原告に対し,④不当利得に基づく仮払金120
万円の返還と遅延損害金(第2事件訴状送達日の翌日から年6分)の支払,及び
⑤1審原告の支出,工事受注及び債権管理等により1審被告が8026万円余の損
害を被ったとして,取締役の善管注意義務違反・忠実義務違反に基づく損害賠償
と遅延損害金(前同)の支払を求めたのに対し,1審原告が,1審被告による第2事
件の提訴は第1事件の請求を免れる目的で提起したもので訴権の濫用に当たると
して訴えの却下を求め,主に⑤の善管注意義務違反・忠実義務違反及び損害の
発生を否認して争った事案である。
 原審は,第1事件につき,1審原告主張の①,②は認められず,③は退職金請求
の根拠となり得ないとして,その請求を全部棄却し,第2事件につき,④を認容した
が,⑤については1審被告主張の損害の発生を認めるに足りないとして,その請求
を棄却したので,双方がこれを不服として控訴した。
2 争いのない事実等及び争点は,原判決「事実及び理由」の「第2 事案の概要」の
1,2のとおりであるからこれを引用する(ただし,原判決4頁6行目の「その返還義
務がある。」を「不当利得に基づき返還すべき義務がある。」と改める。また,当審
での主張については,争点に対する判断の中で摘示し,あるいは主張を踏まえた
判断を示すこととする。)。
第3 争点に対する判断
1 当裁判所も,第1事件については,1審原告につき退職慰労金の発生(上記①な
いし③)を認められず,その請求は理由がなく,第2事件については,不当利得12
0万円の返還とこれに対する遅延損害金請求(上記④)は理由があるが,損害賠
償請求(上記⑤)は理由がないと判断する。その理由は,双方の当審における主張
を踏まえて,2,3項のとおり改めるほかは,原判決「事実及び理由」の「第3 争点
に対する判断」のとおりであるからこれを引用する。
2 第1事件関係
(1) 原判決23頁2行目の「原告が」から4行目までを次のとおり改める。
「そのような事実についての主張,立証はない。なお,1審原告は,(80%の株式を
保有する)B木材が(20%の株式を保有する)1審原告に対して退職慰労金支
払義務を認めた旨を主張するところ,同事実を認めることのできないことは後記
(原判示)のとおりである。」
(2) 原判決23頁8行目の「そもそも,」から10行目の「上記慣行の存否について
も,」までを次のとおり改める。
「その趣旨は必ずしも明らかでないところ,その主張を善解すれば,①1審原告主
張の慣行が事実たる慣習として存在したのでそれによるべきである,或いは②1
審原告主張の慣行により同慣行どおりに退職慰労金を支払うとの株主総会の
決議があったものと同視できる等の趣旨であると解する余地がある。まず,上記
①については,商法269条の上記立法趣旨(原判示)を勘案すれば,同条は公
の秩序に関する規定であると考えられるから,上記慣行が事実たる慣習として
存在していたとしてもこれによることはできない。また,上記②については,1審
原告主張のような前例があったとしても,これにより株主総会の決議があったも
のと同視できるということも困難である。その他1審原告の上記主張のように,過
去に株主総会の決議なくして退職慰労金を支払ってきた慣行があることのみを
理由として,退職慰労金の支払には株主総会の決議を要しないものとすること
は,商法269条の上記趣旨(原判示)に照らして是認することができない。
 なお,1審原告主張の慣行の存否自体についても,」
(3) 原判決23頁14行目から15行目にかけての「株主総会議事録が作成されて
いることからすれば(乙16,17,19),」を削り,19行目の「B木材及び原告と
上記3名との間で,」から21行目までを次のとおり改める。
「1審被告の全株主であるB木材及び1審原告の両名が,退職慰労金を支払うこと
について,少なくとも黙示に合意したものと見られるのであるから,それぞれの
支払につき株主総会の決議があったものと同視できる場合に当たるということが
できるのであって,株主総会の決議なしに退職慰労金を支払う慣行が存在した
ことの根拠となるものではなく,同慣行の存在も認めることができない。」
(4) 原判決23頁24行目から24頁1行目までを次のとおり改める。
「上記のように,1審原告主張の慣行により退職慰労金請求権の発生することを認
めることはできず,同事実は主要事実ではなく,重要な間接事実にも当たらない
から,これについて自白の拘束力を問題とする余地はない。」
(5) 原判決24頁5行目から6行目にかけての「本件通知書は,結論として,被告
が,退職慰労金の支払を拒否する意思を表明したものであると認められる」を次
のとおり改める。
「本件通知書は,B木材の役員退職慰労金規定によった場合の1審原告の退職慰
労金を2730万円と試算したうえで,1審被告が第2事件で主張している1審原
告に関する取締役の善管注意義務違反等の事実(C邸の工事代金の件を除き,
外の1件を加える。),及び過去5年の経営実績が赤字基調であって,平成10年
9月期決算では1億5800万円の債務超過になる見込みであることを示し,これ
らを総合して1審被告としては1審原告に対し退職慰労金を支払わない旨を通
告した文書であると認められる」
(6) 原判決24頁7行目の末尾に次を加える。
「1審原告は,1審被告が第2事件で主張する1審原告の善管注意義務違反等又
はこれによる損害発生の事実が否定されれば,本件通知書は,1審原告の退職
慰労金を2730万円とすることを承認した文書といえると主張するもののようで
あるが,本件通知書は,1審原告へ退職慰労金を支払わない理由として,1審原
告の善管注意義務違反等による損害発生の事実だけを指摘しているものでは
ないから,1審原告の上記主張は肯認できないものである。」
(7) 原判決24頁17行目の末尾に次を加える。
「1審原告は,信義則・禁反言を根拠として,株主総会決議の不存在を理由とする
退職慰労金の支払拒絶を許されないものとした裁判例(東京高裁平成7年5月2
5日判決等)を指摘するが,これらの裁判例も,退職慰労金についての株主総会
の決議の存在と同視できる事情を認定したうえで,株主総会決議不存在の主張
を排斥する理由として信義則・禁反言を用いているに過ぎないのであり,信義
則・禁反言が権利発生要件となることを認めたものではない。
 なお,1審原告は,取締役の退職慰労金には賃金の後払い要素が含まれると
も主張するが,約21年間代表取締役の地位にあった1審原告の報酬について,
賃金部分が含まれるとは解することができない。」
3 第2事件関係
(1) 原判決26頁2行目の末尾に改行して次を加える。
「 1審被告は,1審原告による本件(ア)ないし(ウ)の架空支払につき,代表取締役
といえども単独で決裁しないで他の役員と協議するという1審被告の社内申し合
わせに反していると主張するが,そのような申し合わせに反する事実があったと
しても,上記事実によれば,1審被告に損害が発生したということはできない。」
(2) 原判決30頁7行目から8行目にかけての「これらについてCに支払義務がな
かったと認めるに足りる証拠はない。」を次のとおり改める。
「1審原告が1審被告を代表してCとの間で,追加変更工事代金を発生させない合
意をした,あるいは発生した追加変更工事代金を放棄あるいは免除した等上記
債権の発生障害又は消滅に関する事実についての主張,立証はない。」
(3) 原判決31頁17行目の「他方で,」から20行目の「推認でき」までを次のとおり
改める。
「他方で,その後1審被告内において,これらの回収不能に関する1審原告の責任
が問題とはされなかったうえに(1審被告は,1審原告がその事実を隠したから
であると主張するが,上記債権の回収不能をいつわって記載した会計帳簿類が
存在する等というものではなく,1審被告の上記主張は採用できない。),回収不
能工事の元請との取引がその後も継続したことからすると,1審原告の主張する
ように,他の工事の受注により埋合せがされたものと考えられ」
第4 結論
よって,第1事件の1審原告の請求を全部棄却し,第2事件の1審被告の請求に
ついては,不当利得返還と遅延損害金の請求を認容し,その余を棄却した原判決
は相当であって,本件各控訴はいずれも理由がないからこれを棄却し,控訴費用
は各自に負担させることとして,主文のとおり判決する。
 名古屋高等裁判所民事第1部
裁判長裁判官     田村洋三
裁判官     小林克美
裁判官     佐藤真弘

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛