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平成15年(行ケ)第198号 特許取消決定取消請求事件
平成16年7月8日口頭弁論終結
    判    決
原      告大阪瓦斯株式会社
訴訟代理人弁理士青 山   葆
同  田 中 光 雄
同  矢 野 正 樹
同  川 原 英 昭
被      告特許庁長官 小川 洋
指定代理人      大 黒 浩 之
同  石 井 良 夫
同  金   公 彦
同  大 野 克 人
同  立 川   功
同  涌 井 幸 一
同  宮 下 正 之
     主    文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
    事実及び理由
第1 当事者の求める裁判
1 原告
(1) 特許庁が異議2000-74428号事件について平成15年3月26日
にした決定中「特許第3050850号の請求項1ないし3に係る特許を取り消
す。」との部分を取り消す。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
 主文同旨
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
(1) 原告は,発明の名称を「燃料電池発電システム」とする特許第30508
50号の特許(平成元年5月17日にした特願平1-123420号の出願(以下
「原出願」という。)の一部の分割出願として平成10年8月28日に特許出願
(以下「本件出願」という。),平成12年3月31日設定登録。以下「本件特
許」という。請求項の数は3である。)の特許権者である。
(2) 本件特許の請求項のすべてについて,特許異議の申立てがなされ,その申
立ては,異議2000-74428号事件として審理された。原告は,この審理の
過程で,本件出願の願書に添付した明細書の訂正(以下「本件訂正」といい,訂正
後の全文訂正明細書を,願書に添付した図面と併せて「本件明細書」という。)を
請求した。特許庁は,平成15年3月26日,「訂正を認める。特許第30508
50号の請求項1ないし3に係る特許を取り消す。」との決定をし,同年4月15
日,その謄本を原告に送達した。
2 特許請求の範囲
「【請求項1】原燃料を硫黄含有量1vol.ppb以下に脱硫し,この脱硫
燃料をS/Cが3.3以下で水素を主成分とするガスに改質し,この改質ガスを燃
料電池用燃料として使用する燃料電池の発電方法。」(以下「本件発明1」とい
う。)
「【請求項2】原燃料の硫黄含有量を0.1vol.ppb以下に脱硫する請
求項1に記載の方法。」(以下「本件発明2」という。)
「【請求項3】原燃料が気体燃料である請求項1または2いずれかに記載の方
法。」(以下「本件発明3」という。)
3 決定の理由
 別紙決定書の写しのとおりである。要するに,本件発明1ないし3は,いず
れも原出願の日である平成元年5月17日より前に日本国内で頒布された,「燃料
電池の技術と経済性」(R&DReport NO.63,㈱シーエムシー・19
85年3月5日発行,1~16頁)(以下,決定と同じく「刊行物1」とい
う。),特開昭61-163568号公報(以下,決定と同じく「刊行物2」とい
う。),「燃料協会誌」(第68巻第2号,社団法人燃料協会・平成元年2月20
日発行,124~129頁)(以下,決定と同じく「刊行物3」という。),「化
学装置」(第14巻第10号,㈱工業調査会・昭和47年10月1日発行,24~
31頁)(以下,決定と同じく「刊行物4」という。),特開平1-123627
号公報(以下,決定と同じく「刊行物5」という。)記載の各発明(以下,刊行物
1に記載された発明を「引用発明」という。)に基づいて当業者が容易に発明をす
ることができたものである,というものである。
 決定が上記結論を導くに当たり認定した本件発明1と引用発明との一致点及
び相違点は,次のとおりである。
(一致点)
 原燃料を脱硫し,この脱硫燃料をS/Cが3~3.3の範囲で水素を主成
分とするガスに改質し,この改質ガスを燃料電池用燃料として使用する燃料電池の
発電方法である点。
(相違点)
 本件発明1では,「原燃料を硫黄含有量1vol.ppb以下に脱硫」し
ているのに対し,引用発明では,「脱硫」しているものの,どの程度まで脱硫して
いるか明確でない点(以下「相違点」という。)。
第3 原告主張の決定取消事由の要点
 決定は,以下のとおり,本件発明1と引用発明との相違点に関する判断を誤
ったものであり,この誤りが各請求項についての結論に影響を及ぼすことは明らか
である。
1 決定は,「刊行物1~4の記載から燃料電池用燃料の脱硫はより低い硫黄含
有量とすることにより,より良い結果が得られることが知られていると云える。」
としている(決定書8頁36~37行)。しかし,この認定は誤りである。
(1) 刊行物1ないし4からは,せいぜい「燃料電池用燃料は改質前に脱硫しな
ければならない。その脱硫レベルは,0.1ppm以下にすべきである。」という
技術的事項が導かれるに過ぎないのであり,決定がいうように,「燃料電池用燃料
の脱硫はより低い硫黄含有量とすることにより,より良い結果が得られること」が
明らかにされているとはいえない。
 すなわち,相違点自体から明らかなように,刊行物1には,燃料電池用燃
料は改質前に脱硫しなければならないことが記載されているだけで,硫黄濃度をど
の程度まで脱硫すべきかの記載はないし,刊行物2は,必要な脱硫の程度は0.1
ppm以下でよいとしているに過ぎない。
 また,刊行物3及び4には,燃料電池用燃料に要求される改質前の脱硫レ
ベルの記載はないばかりか,そもそも刊行物3は,メタンを主成分とするガスを製
造する低温水蒸気改質に関する文献であり,水素を主成分とするガスを製造する高
温水蒸気改質に関する本件発明1の引用例にはならない。
 以上のように,「刊行物1~4から・・・・低い硫黄含有量とすることによ
り,より良い結果が得られることが知られていると云える」とする決定の認定は,
誤りである。
(2) 甲第52号証(図2など)には,触媒毒濃度を下げていくと,ある濃度以
下では性能の低下がなくなり,被毒が起こらなくなる現象が見られるとの実験例が
明らかにされている。また,甲第46号証には,水蒸気改質反応の実験において,
硫黄濃度が5vol.ppb以下になると炭素析出が劇的に変化することが示され
ている。このように,脱硫触媒の分野においては,濃度を変えると現象が飽和した
り,傾向の異なる現象が現れたりするため,予測が極めて難しいのである。したが
って,硫黄含有量を低くすれば,良い効果も比例して得られることにはならないの
である。
2 決定は,「脱硫対象ガスの点で本件発明1と刊行物5のものとは共通するガ
スを対象としているのであるから,刊行1発明(判決注・引用発明)の脱硫に刊行
物5に記載のものを用いて,その脱硫の程度を刊行物5に記載の程度にすることに
格別の阻害要因はない。」としている(決定書9頁8~11行)。しかし,この判
断は誤りである。
(1) 1ppbまで脱硫するには,0.1ppm(=100ppb)まで脱硫す
るよりも設備とコストがかかるのである。前記のように,原出願の当時,刊行物で
は改質前の脱硫は0.1ppm以下でよいとされていたのであり(刊行物2),そ
のような場合,燃料電池用の水素を1円でも安価に製造するように努める当業者
は,1ppbまで脱硫しようとはしない。
(2) 原出願日以降に発行された多くの特許公報(甲第9~第36号証)によれ
ば,原出願当時には,燃料電池用の水素を炭化水素から製造する場合,0.1pp
m以下の脱硫が必要とされていたが,その後約11~12年経過した後になって,
初めて一部の当業者が1~50ppbの脱硫が必要であることに気付き始めたこと
が認められるのである。
(3) 刊行物5には,炭化水素を0.1ppbまで脱硫した後に改質することが
記載されているけれども,この記載は,水素が主成分のコークス炉ガスをメタンに
改質するメタン化反応についてのものであって,本件発明1のような水素を製造す
る高温水蒸気改質反応についてのものではない。刊行物5には高温水蒸気改質によ
って製造された水素を燃料電池に使用する場合に要求される脱硫の程度について
は,記載も示唆もない。そもそも,メタン化反応の場合と,高温水蒸気改質反応の
場合とでは,触媒被毒の程度は異なるのであるから,刊行物5は引用例として適切
なものではない。
(4) 以上のように,引用発明の燃料電池において,刊行物5の脱硫の程度を組
み合わせてみようとする動機付けはないというべきであり,引用発明に刊行物5に
記載の発明を用いて本件発明1の「硫黄含有量を1ppb以下に脱硫」という構成
を見出すことは,当業者が容易に想到し得るものではない。
3 決定は,本件発明1の効果について「当業者が予測し得る範囲内であって,
格別のものとすることはできない。」と判断している(決定書9頁24~25
行)。
 しかしながら,本件発明1は,炭素析出を含む硫黄被毒について格別の効果
を生ずるものであり,その効果をもたらすための構成の採用には困難性がある。し
たがって,決定の上記判断は誤りである。
4 以上のとおり,決定は,本件発明1と引用発明との相違点の判断を誤って,
本件発明1の容易想到性の判断を誤ったものであり,この誤った判断に基づく本件
発明2及び3についての判断も誤りである。
第4 被告の反論の要点
1 原告の主張1について
 刊行物1ないし4の記載内容については,決定が認定しているとおりであ
り,その点については当事者間に争いがないのである。そして,これらの記載から
「燃料電池用の燃料の脱硫はより低い硫黄含有量とすることにより,より良い結果
が得られる。」といえることが明らかである。
2 原告の主張2について
(1) 原料中の硫黄含有量が多くなれば,被毒が増大し,触媒活性を低下させ,
触媒の劣化を早めることになるのであるから,「燃料電池用燃料の脱硫はより低い
硫黄含有量とすることにより,より良い結果が得られる」といえるのであり,当業
者であれば0.1ppm以下のより低いレベルまで脱硫し,触媒活性の低下を防止
し,触媒寿命の長期化を図ろうとすることは当然である。
(2) 硫黄が微量に含まれるだけで触媒被毒となり,触媒寿命に影響するのであ
るから,燃料電池の分野において高活性,長寿命化は普遍的な技術課題であって,
望ましくは硫黄が全くないのがよいのである。したがって,原告が主張するような
「脱硫の程度は0.1ppm以下でよい」などといえないことは明白である。原告
自身が出願した発明に係る特開昭60-238389公報によれば,原出願時の技
術常識として0.02ppmよりさらに高次の脱硫が求められていたことが認めら
れるのである。高活性の触媒や長時間の触媒寿命を図るためには,0.1ppm以
下のより低い脱硫レベルが求められるから,燃料電池発電において,1ppbまで
脱硫する装置があれば,これを用いようとする動機付けがあることは明らかであ
る。
3 原告の主張3について
 刊行物3の記載によれば,硫黄被毒の防止により,炭素析出も防止されるこ
とが分かるのであり,硫黄被毒の防止のために脱硫をするのであるから,原告主張
の効果は,当業者が予測し得る範囲内であって,格別のものとすることはできな
い。
4 原告の主張4について
 本件発明1に進歩性がないことは明らかであるから,本件発明2及び3にも
進歩性がないことはいうまでもない。
第5 当裁判所の判断
1 原告の主張1について
(1) 原告は,刊行物1ないし4から,「燃料電池用燃料の脱硫はより低い硫黄
含有量とすることにより,より良い結果が得られることが知られていると云え
る。」とした決定は誤りであり,これらの刊行物からは,「燃料電池用燃料は改質
前に脱硫しなければならない。その脱硫レベルは,0.1ppm以下にすべきであ
る。」という技術的事項が導かれるに過ぎないと主張する。
(2) そこで,各刊行物の記載を見るに,
ア 刊行物1(甲第4号証)には,「燃料改質装置は,天然ガス,ナフサあ
るいは石炭などからイオウ化合物を除く脱硫器,脱硫されたガスを水素と一酸化炭
素に改質するリフォーマ(改質器),・・・・から成る。原料中にイオウが含まれる
と,リフォーマの触媒および燃料電池電極の白金触媒に被毒物質として働くので,
これを除去しなければならない。」(15頁)と記載されていること,
イ 刊行物2(甲第5号証)には,「燃料電池発電プラントでは,原料ガス
(例えば,メタン,プロパン,ブタン,ナフサ等)の改質用触媒の被毒防止のた
め,原料ガス中の硫黄分を0.1ppm以下に低減するための脱硫装置が必要であ
る。」(1頁左下欄17行~右下欄1行)と記載されていること,
ウ 刊行物4(甲第7号証)には,「水素化脱硫触媒」に関して「アンモニ
ア・水素プラントに使用される炭化水素の種類は,天然ガス(メタン),ブタン,
ナフサ,エチレンプラントオフガス,製油所オフガス,アセチレンプラントオフガ
ス,その他多岐にわたっている。これら原料中には・・・・硫黄化合物たとえばH2
S,COSなどの無機硫黄,RSH,RSR,RSSR,チオフェンなどの有機硫
黄や窒素化合物も含まれている。これらの各成分はいずれもリフォーミング触媒の
活性を低下させカーボンの生成,ひいては触媒の崩壊を招くので・・・・硫黄化合物は
Sとして1ppm以下,実質的には0.5ppm以下に除去する必要がある。」
(25頁右欄2~23行)と記載されていること,
が認められる。
(3) 上記各刊行物の記載によれば,原料ガスを改質して燃料電池用燃料とする
際,原料ガス中に含まれる硫黄分が改質触媒を被毒し,触媒活性を低下させるた
め,硫黄分を一定濃度以下になるように除去する必要のあることが示されているも
のということができる。
 そして,触媒の被毒物質は「それが微量含まれているだけで触媒の活性を
低下させ,触媒を劣化させる,触媒にとって所謂『毒』となるもの」であるから
(乙第1,2号証),硫黄が触媒被毒の原因物質である以上,被毒による触媒活性
の低下等を防止するために,硫黄分を可能な限り少なくなるように除去すべきこと
は,当業者が当然に認識し得ることであり,上記各刊行物に接した当業者は,「燃
料電池用燃料の脱硫はより低い硫黄含有量とすることにより,より良い結果が得ら
れる」ことを当然に理解するものということができる。
(4) 原告は,甲第52号証,甲第46号証に基づき,脱硫触媒の分野では,濃
度を変えると現象が飽和したり,傾向の異なる現象が現れ,予測が難しいと主張す
る。
 しかしながら,甲第52号証,甲第46号証は,硫黄成分を一定の濃度以
下に低減することによって,予想外に触媒被毒防止効果が飽和したとか,かえって
悪化するということを示しているものではないことが明らかである。
 前記各刊行物の記載によれば,触媒被毒の原因物質である硫黄をできるだ
け除去すべきであることが知られていたのであり,硫黄含有量を低下させれば触媒
被毒が低減すると予想する方が自然である。そして,甲第52号証も甲第46号証
も,硫黄含有量を低下し過ぎると,触媒被毒の防止にとって好ましくない事態が現
われるとか,その可能性があるというようなことを示唆する内容を含むものではな
い。
(5) 以上のとおりであって,「燃料電池用燃料の脱硫はより低い硫黄含有量と
することにより,より良い結果が得られることが知られている」とした決定の認定
に誤りはなく,原告の主張1は理由がない。
2 原告の主張2について
(1) 刊行物5(甲第8号証)には,「本発明者は・・・・共沈法により製造した酸
化銅-酸化亜鉛混合物を水素還元することにより,各種のガス及び油中の硫黄含有
量を0.1ppb若しくはそれ以下のレベルにまで低下させることが出来ることを
見出した。」(1頁右下欄7~12行),「本発明による脱硫剤は,各種のガス中
及び油中の有機硫黄及び無機硫黄を0.1ppb又はそれ以下のレベルまで低下さ
せることが出来る。しかも,その性能は,長期にわたり持続する。」(2頁右下欄
1~4行)と記載され,実施例には,コークス炉ガス,LPG,ナフサをそれぞれ
0.1ppb以下のレベルまで脱硫した例が記載されている。
 以上によれば,刊行物5には,各種のガス及び油(実施例では,LPGや
ナフサ)中の硫黄含有量を0.1ppb若しくはそれ以下のレベルまで脱硫させる
ことが可能な触媒が開示されており,その対象となるLPG,ナフサは,本件明細
書(甲第3号証)の【0003】に例示されているように,燃料電池用の原燃料と
なるものである。
 そうすると,前記のとおり,燃料電池用燃料の脱硫に関し,被毒による触
媒活性の低下等を防止するために,原料に含まれる硫黄分を可能な限り低いレベル
まで脱硫しようとすることは,当業者が当然認識し得ることであるから,引用発明
に接した当業者が,低レベルまでの脱硫の実現という目的の下に,引用発明の燃料
電池用燃料の原燃料の脱硫に,刊行物5に記載された触媒を適用することは,容易
に想到し得るものということができる。
(2) 原告は,原出願当時の技術水準では,改質前の脱硫は0.1ppm以下で
よいとされていたから,1ppbまで脱硫しようという動機付けに欠ける旨主張す
る。
 確かに,刊行物2には,脱硫レベルの具体的数値として,「0.1ppm
以下」との記載があることは,前記のとおりである。しかし,既に述べたとおり,
硫黄が触媒被毒の原因物質である以上,被毒による触媒活性の低下等を防止するた
めには,硫黄分を可能な限り少なくなるよう除去すべきであることは,当業者が当
然に認識し得ることであるから,刊行物2に上記のような記載しかなかったからと
いって,当時,当業者にとって,さらに低いppbのレベルまで硫黄を除去しよう
とする動機付けがなかったということになるものではない。
(3) また,原告は,刊行物5は,コークス炉ガスをメタンに改質するメタン化
反応についてのものであって,引用例として適切なものではないとも主張する。
 しかし,刊行物5において触媒の被毒防止について言及する具体例がコー
クス炉ガスに関するものであるとしても,前記のとおり,刊行物5に記載された発
明は,燃料電池用燃料の原燃料であるLPG,ナフサなどを低レベルに脱硫すると
いう点で,引用発明と同じ目的を有しているのであるから,引用発明に刊行物5記
載の発明を組み合わせることに特段の困難はないというべきであり,原告の主張は
失当である。
(4) 以上からすると,「刊行1発明(判決注・引用発明)の脱硫に刊行物5に
記載のものを用いて,その脱硫の程度を刊行物5に記載の程度にすることに格別の
阻害要因はない。」とした決定の判断に誤りはなく,したがって,「・・・・本件発明
1の「硫黄含有量を1ppb以下に脱硫」という構成を見出すことは,当業者が容
易に為し得るものと云える。」とした決定の判断にも誤りがない。
3 原告の主張3について
(1) 原告は,本件発明には炭素析出を含む硫黄被毒について格別の効果がある
旨を主張する。しかし,本件の原出願の出願当初の明細書(乙第5号証)には,炭
素析出防止については何ら記載されていない。炭素析出防止効果は,本件出願時
(分割時)に加入されたものであるが,これは炭素析出防止効果が硫黄被毒防止効
果に付随する自明の効果であるとの前提があったからであることが明らかである。
そうであるにもかかわらず,炭素析出防止効果が当業者の予測を超える格別な効果
であると主張することは,本件明細書に記載されていない効果を主張することとな
り,許されない。
(2) 硫黄が触媒被毒の原因物質であることが知られている以上,硫黄濃度を低
くすれば,硫黄被毒による触媒活性の低下や触媒の劣化を防止することができるこ
とは当業者が当然に予測し得ることであり,また,本件明細書を検討しても,原燃
料中の硫黄含有量を1ppb以下という数値範囲にすることによって,当業者の予
測を超えるような顕著な効果があるものとは認められない。
4 原告の主張4について
 本件発明1について進歩性を否定した決定の判断に誤りがないことは,前記
のとおりであるから,本件発明1についての決定の認定判断の誤りを前提とする原
告の主張4は,その前提を欠き,理由がない。
5 結論
 以上のとおりであるから,原告主張の取消事由は理由がなく,その他,決定
には,これを取り消すべき誤りは見当たらない。
 よって,原告の本訴請求は理由がないから,これを棄却することとし,訴訟
費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文の
とおり判決する。
東京高等裁判所知的財産第3部
    裁判長裁判官  佐 藤 久 夫
   裁判官  設 樂 隆 一
   裁判官  若 林 辰 繁

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