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裁判例


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       主   文
一 原告らの請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告らの負担とする。
       事実及び理由
第一 当事者の求める裁判
一 請求の趣旨
1 衆議院小選挙区である東京都第四区について平成一〇年三月二九日に施行され
た衆議院議員補欠選挙を無効とする。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二 事案の概要
一 当事者等(争いのない事実等)
1 平成一〇年三月二九日、衆議院小選挙区(東京都第四区)について、衆議院議
員補欠選挙(以下「本件選挙」という。)が施行された。
2 原告Aは本件選挙の候補者であり、原告Bは右選挙区の選挙人である。
3 被告は、本件選挙に関する事務を管理した東京都選挙管理委員会である。
4 本件選挙においては、後記の候補者届出政党の届出による候補者、本人等の届
出による候補者がそれぞれ三人ずつ立候補したが、そのうちの候補者届出政党の届
出による候補者一人が当選した。
5 原告らは、本件選挙の効力に異議があるとして本件選挙を無効と決定すること
を求めている。
二 衆議院議員の選挙制度の概要
1 本件選挙は、公職選挙法の一部を改正する法律の一部を改正する法律(平成六
年法律第一〇号、第一〇四号)による改正後の公職選挙法の一部を改正する法律
(平成六年法律第二号)により改正された公職選挙法(昭和二五年法律第一〇〇
号。以下「公選法」といい、引用する条文は、特に断らない限り、同法のものを指
す。)により施行された。
2(一) 公選法における衆議院議員の選挙制度は小選挙区比例代表並立制であ
り、衆議院議員の定数は五〇〇人とされており、そのうち三〇〇人が小選挙区選出
議員、二〇〇人が比例代表選出議員である(四条)。
(二) 小選挙区選出議員は、公選法別表第一で定められた各選挙区において選挙
し、各選挙区において選挙すべき議員の数は、一人である(一二条一項、一三条一
項、別表第一)。
(三) 比例代表選出議員は、全都道府県の区域を一一に分けた各選挙区において
選挙し、その選挙区及び各選挙区において選挙すべき議員の数は、公選法別表第二
において定められている(一二条一項、一三条二項、別表第二)。
3 小選挙区選出議員の選挙(以下「小選挙区選挙」ともいう。)における候補者
の届出は、次のようにしてされる。
(一) 政党による届出
次の(1)(2)のいずれかに該当する政党その他の政治団体は、当該政党その他
の政治団体に所属する者を候補者としようとするときは、当該選挙の期日の公示又
は告示のあった日に、郵便によることなく、文書でその旨を当該選挙長に届け出る
(八六条一項)。
(1) 当該政党その他の政治団体に所属する衆議院議員又は参議院議員を五人以
上有すること。
(2) 直近において行われた衆議院議員の総選挙における小選挙区選出議員の選
挙若しくは比例代表選出議員の選挙又は参議院議員の通常選挙における比例代表選
出議員の選挙若しくは選挙区選出議員の選挙における当該政党その他の政治団体の
得票総数が当該選挙における有効投票の総数の一〇〇分の二以上であること。
(以下、右の方法により候補者の届出をした政党その他の政治団体を「候補者届出
政党」、その届出による候補者を「候補者届出政党の届出による候補者」、(1)
(2)の要件を「候補者届出政党の政党要件」という。)
(二) 本人届出・推薦届出
 本人届出は、候補者となろうとする者本人が立候補の届出をし、推薦届出は、選
挙人名簿に登録された者が本人の承諾を得て推薦の届出をするものであり、この場
合の届出は、当該選挙の期日の公示又は告示があった日に、郵便によることなく、
文書をもって、当該選挙長に対して行う(八六条二項、三項)。
(以下、右の各届出による候補者を「本人等の届出による候補者」という。)
4 比例代表選出議員の選挙(以下「比例代表選挙」ともいう。)における候補者
の届出は、次のようにしてされる。
(一) 次の(1)ないし(3)のいずれかに該当する政党その他の政治団体は、
当該政党その他の政治団体の名称並びにその所属する者の氏名及びそれらの者の間
における当選人となるべき順位を記載した文書(以下「衆議院名簿」という。)を
当該選挙長に届け出ることにより、その衆議院名簿に記載されている者(以下「衆
議院名簿登載者」という。)を当該選挙における候補者とすることができる(八六
条の二第一項)。
(1) 当該政党その他の政治団体に所属する衆議院議員又は参議院議員を五人以
上有すること。
(2) 直近において行われた衆議院議員の総選挙における小選挙区選出議員の選
挙若しくは比例代表選出議員の選挙又は参議院議員の通常選挙における比例代表選
出議員の選挙若しくは選挙区選出議員の選挙における当該政党その他の政治団体の
得票総数が当該選挙における有効投票の総数の一〇〇分の二以上であること。
(3) 当該選挙において当該衆議院名簿の届出をすることにより候補者となる衆
議院名簿登載者の数が当該選挙区における議員の定数の一〇分の二以上であるこ
と。
(以下、右の方法により衆議院名簿の届出をした政党その他の政治団体を「名簿届
出政党」、(1)ないし(3)の要件を「名簿届出政党の政党要件」という。)
(二) 右政党要件(1)又は(2)に該当する政党その他の政治団体は、八七条
一項の規定(重複立候補の禁止)にかかわらず、当該比例代表選挙と同時に当該比
例区の区域内で行われる小選挙区選挙において当該政党その他の政治団体の届出に
係る候補者を当該比例代表選挙の衆議院名簿登載者とすることができる(八六条の
二第四項)。
5 公選法上、小選挙区選挙において候補者届出政党及び各候補者に認められてい
る選挙運動の概要は、別表記載のとおりである。
第三 当事者の主張(争点)
一 原告の主張
1 政党要件及び重複立候補制度の違憲性
 公選法の採用している小選挙区比例代表並立制の下では、選挙の回を重ねるごと
に候補者届出政党の政党要件(八六条一項一号、二号)を充たす政党その他の政治
団体は幾何級数的に減少する。そして、この政党要件を充たさない新党、少数党、
無所属の候補者は、本人等の届出による候補者として立候補しても小選挙区で当選
することはほとんど不可能になっている。
 他方、比例代表選挙における名簿届出政党については、候補者となる衆議院名簿
登載者の数が当該選挙区における議員の定数の一〇分の二以上であればその政党要
件を充たすものとされている(八六条の二第一項三号)が、その場合には供託物の
価額(九二条二項)が高額となって政党要件の取得が事実上制約され、また、その
ようにして名簿届出政党としての政党要件を取得しても、候補者届出政党としての
政党要件を充たさないので小選挙区において重複して立候補することは認められて
いない(八六条の二第四項、八七条)。
 その結果、新党、少数党、無所属の候補者は、衆議院議員の選挙に立候補するこ
と自体が事実上不可能な状態に追い込まれている。
 およそ、国民が個人の単位で自由に立候補する権利を有することは民主主義の基
本であり、当然に憲法の保障するところである。しかるに、右のように、政党要件
は、国民が個人の単位で自由に立候補することを事実上不可能とするものであり、
憲法の保障する国民が個人の単位で自由に立候補する権利を侵害している。
 また、公選法の重複立候補の規定は、候補者届出政党としての政党要件を充たす
既成政党に甚だしく有利な規定であって、小選挙区における本人等の届出による候
補者は、その所属する政党その他の政治団体が八六条の二第一項三号の要件を充た
して比例区において衆議院名簿による候補者の届出をしたとしても、小選挙区と比
例区の双方においていわゆる重複立候補をすることはできないから、その点におい
て、候補者届出政党の届出による候補者と不当に差別されており、平等原則に反し
ている。
 したがって、公選法中右の政党要件を定める規定及び重複立候補を認める規定
は、国民の立候補の自由を不当に制限するとともに選挙における平等原則に反して
おり、憲法に違反している。
2 選挙運動の差別の違憲性
(一) 法制上の不平等
 公選法上、選挙事務所の数、自動車、ポスター、通常葉書、ビラについては、別
表記載のとおり、候補者届出政党の届出による候補者に対しては実質的には候補者
届出政党分と候補者本人分とを合わせたものが認められているが、本人等の届出に
よる候補者に認められているものと比較すると、候補者届出政党の届出による候補
者が圧倒的に優位な立場にあることは明らかである。
 そのほか、候補者届出政党の届出による候補者については、候補者届出政党の政
治活動用とされる自動車を無制限に利用でき、拡声器も右の自動車により無制限に
使用が許されているのに対し、本人等の届出による候補者は一そろいの拡声器しか
使用を認められていない。
 また、トランジットメガホンは、候補者届出政党の届出による候補者については
無制限に使用が認められているが、本人等の届出による候補者については使用が禁
止されている。
 なお、公選法が選挙運動について本人等の届出による候補者を右のように差別し
ているのは、公選法が、供託物の価額を一般市民において通常支払うことができな
い額にまで引き上げた上、候補者届出政党の届出による候補者と本人等の届出によ
る候補者とを区別しないで同額の供託物の供託を義務づけていることと矛盾する。
(二) 選挙運動の実態から見た不平等
(1) 政見放送の不平等
 公選法上、テレビジョン、ラジオによる政見放送は、比例代表選挙について名簿
届出政党に対して認められているものであって、補欠選挙であるため比例代表選挙
が同時に行われなかった本件選挙においては実施することが許されないものであっ
た。
 しかるに、本件選挙においては、候補者届出政党の届出による候補者には政見放
送(テレビジョン二回、ラジオ二回、それぞれ九分ずつ)が認められ、本人等の届
出による候補者には全く認められなかった。
 しかも、実際に行われた政見放送は、各候補者届出政党の政策等の宣伝ではな
く、候補者届出政党の届出による候補者の個人的な宣伝に終始している。
 狭い選挙区で特定の候補者のみにテレビジョン、ラジオの政見放送が許されるこ
との影響は計り知れない。
 その結果、候補者届出政党の届出による候補者と本人等の届出による候補者との
間に選挙運動につき著しい不平等が生じた。
(2) ポスターの不平等
 本件選挙において各候補者に認められたポスターの数は、公用掲示板の数に相当
する四四一枚であるが、候補者届出政党には別表記載のとおりの大判ポスター一〇
〇〇枚が認められた。その結果、大田区の一部である本件小選挙区において各候補
者届出政党の届出による候補者の実物大の顔写真入り大判ポスターが街中に所狭し
と並ぶ状態となり、その宣伝効果は絶大であった。
 この大判ポスターは、本来、比例代表選挙について名簿届出政党に対しその宣伝
用として認められたものであるが、本件選挙においては、候補者届出政党の届出に
よる候補者個人の宣伝用に用いられた。そして、候補者届出政党の届出による候補
者に右のようにして大判ポスターを用いることを認めた結果、これを用いることが
できなかった本人等の届出による候補者との間に選挙運動につき著しい不平等が生
じた。
(3) その他の不平等
 以上のような不平等は、政見放送及びポスターに限られず、通常葉書、ビラ、自
動車、選挙事務所についても当てはまるものであり、本来、政党のためにその政策
等の宣伝用として認められたものが、実際には、候補者届出政党の届出による候補
者個人の宣伝のために用いられ、その結果、候補者届出政党の届出による候補者と
本人等の届出による候補者との間に選挙運動につき著しい不平等が生じた。
(4) 右(一)の法制上の差別の結果、報道機関は、候補者届出政党の届出によ
る候補者とこれを支援する候補者届出政党の代表者の言動のみを報道し、本人等の
届出による候補者の活動を無視することになった。原告Aの事務所において「社の
方針として、政党の公認推薦を受けていない候補者は『泡沫候補』として扱いま
す」と述べた記者もいる。また、一部報道機関は、法制上このような差別があるこ
とを知悉していなかった。
 このような実情は、各候補者の得票結果に甚大な影響を与えたものといわなけれ
ばならない。
(三) 候補者届出政党に選挙運動を認めることにより、適法に立候補した候補者
間で、法制上、選挙運動について以上のような量的質的な差別を設けている公選法
は、国民が平等な条件で立候補する権利を侵害するとともに選挙運動の公平の原則
にも反しており、憲法一四条一項、一五条一項に違反している。
 また、右のようにして選挙運動について差別を設けることにより政党に所属しな
い者の立候補を困難にすることは、「支持政党無し」という有権者が過半数を占め
る今日の政治状況下において、「支持政党を持たない」者の立候補の自由を奪うこ
とにほかならず、そのようにして過半数の有権者が支持するであろう無所属候補者
を締め出すことは、憲法の定める平等原則に反する。
 なお、仮に、公選法が候補者自身に認めている選挙運動と候補者届出政党に認め
ている選挙運動とを区別しているとしても、候補者届出政党に認められているもの
は、選挙事務所、自動車、ポスター、ビラなどであって、これらは候補者個人に認
められているものと事実上区別することができない。そして、公選法がそのように
区別できない状態を許容しているとすれば、公選法は、不平等を是認するものであ
って憲法一四条一項、一五条一項に違反する。
 そうではなく、公選法が候補者届出政党の選挙運動と候補者本人の選挙運動とを
事実上も区別できるものとした上、これを区別すべきものとしているとすれば、本
件選挙における選挙運動の実態は、そのような公選法に違反し選挙の公正を著しく
害するものであるとともに憲法一四条一項、一五条一項に違反するものである。特
に、比例代表選挙のために政党に認められているテレビジョン、ラジオによる政見
放送や大判ポスターが小選挙区選挙において候補者届出政党の届出による候補者の
個人的宣伝に用いられたことは、差別の重大さとその選挙結果に対する影響の重大
さを示すものであり、憲法一四条一項、一五条一項に違反し、本人等の届出による
候補者にそれらによる政見等の公表を認めなかったことは憲法二一条にも違反す
る。
3 総括
 被告は、以上のような公選法の違憲性を見過ごし、候補者届出政党の届出による
候補者と本人等の届出による候補者との間の法制上の黙視しがたい差別を許したま
ま本件選挙に関する事務を管理執行したものであり、しかも、本件選挙が補欠選挙
であることから本来許してはならない政見放送等を候補者届出政党の届出による候
補者に対してのみ認めるなど錯誤に陥って違法に選挙事務を管理執行したものであ
る。また、本件選挙における選挙運動の実態からしても、本件選挙においては、選
挙における自由と公正が著しく損なわれたというべきである。
 そして、右の選挙に関する規定の違反が本件選挙の結果に異動を及ぼす虞がある
ことは明らかである。
 よって、原告らは、本件選挙を無効とすることを求める。
二 被告の主張
1 政党要件及び重複立候補の違憲性について
 公選法上、小選挙区選挙における立候補の届出に関し、候補者届出政党の届出に
よる候補者と比較して、本人等の届出による候補者の立候補をより制限する規定は
存在しないから、国民の立候補の自由が制約されているとの原告らの主張はその前
提を欠くものである。
 また、仮に、小選挙区選挙において本人等の届出による候補者の当選が事実上困
難であったとしても、それは、当該選挙区において本人等の届出による候補者より
も候補者届出政党の届出による候補者を支持する有権者が多数であったからにほか
ならず、公選法が本人等の届出による候補者の立候補自体を事実上制限しているこ
とにはならない。
 さらに、重複立候補制度の存在ゆえに小選挙区選挙において本人等の届出による
候補者として立候補することが制限されるものではない。そして、小選挙区選挙と
比例代表選挙とは別個の選挙であるから、仮に重複立候補制度が不合理な制度であ
るとしても、そのことは比例代表選挙が不合理であることの根拠とはなり得ても小
選挙区選挙が不合理であることの根拠とはならないし、小選挙区の補欠選挙である
本件選挙の無効事由となり得るものではない。
 したがって、公選法の政党要件及び重複立候補の制度が、国民が個人として自由
に立候補する権利を侵害し、あるいは平等原則に反するとの原告らの主張は失当で
ある。
2 選挙運動における法制上の差別について
(一) 小選挙区選挙において公選法上候補者自身に認められた選挙運動は別表記
載のとおりであり、候補者届出政党の届出による候補者と本人等の届出による候補
者との間で選挙運動につき制度上何ら差別は存在しない。
 したがって、公選法が、選挙運動につき候補者届出政党の届出による候補者と本
人等の届出による候補者とを差別していることが憲法一四条一項、一五条一項に違
反する旨の原告らの主張は、その立論の前提に誤りがあり理由がない。
(二) もっとも、公選法は、小選挙区選挙において候補者届出政党に選挙運動を
行うことを認めており、その点においては、候補者届出政党の届出による候補者と
本人等の届出による候補者との間で差異がある。
 しかし、以下の理由により、右の差異があることをもって、公選法が小選挙区選
挙において候補者届出政党に選挙運動を認めていることが憲法に違反するとするこ
とはできない。
(1) 憲法四七条は、「選挙区、投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する
事項は、法律でこれを定める」と規定しているので、選挙運動の主体や選挙運動の
内容といった事項については合理的な立法政策にゆだねていると解される。
 そして、政党は議会制民主主義を支える不可欠の要素であり、憲法は単に政党の
存在を容認しているばかりでなく、議会制民主主義を支える担い手として、政党に
積極的かつ健全な活動を期待しているものといえるから、政党に選挙運動を許容す
ることは憲法が期待しこそすれ、これに反するものではない。
 また、政党に対しどの範囲の選挙運動を許容すべきかということも、右の立法政
策の問題であり、政党の選挙運動を許容した範囲が国会として通常考慮すべき要素
を斟酌してもなお明らかに不合理といえない限り、当不当の問題が生じるにすぎな
い。
(2) 公選法は、衆議院議員選挙において、政策本位・政党本位の選挙制度とし
て小選挙区比例代表並立制を採用したが、これは、政策本位・政党本位の選挙と
し、政権交代の可能性を高め、かつ、それが円滑に行われるようにし、政権が選挙
の結果に端的に示される国民の意思によって直接に選択されるようにするととも
に、多様な民意を選挙において国政に適正に反映し得るようにする趣旨で採用され
たものであって、このような政策本位・政党本位の選挙制度を実効あらしめるため
には、小選挙区選挙において候補者届出政党にも選挙運動を認め、各政党の政策を
国民に訴える機会を十分に保障することが不可欠である。したがって、小選挙区選
挙において、各候補者の選挙運動に加えて、候補者届出政党にも一定の選挙運動を
行うことを認めたことは、政策本位・政党本位の選挙制度によって政党を通じて国
民の意思の統合を図り国民の意思の集約を実現しようとするものであって、議会制
民主主義の下における選挙制度として不合理であるとはいえない。
(3) 前記(一)のとおり、候補者が主体として行う選挙運動については、候補
者届出政党の届出による候補者のものも、本人等の届出による候補者のものも異な
るところはないのであるから、原告ら主張の不平等とは、結局、公選法が候補者届
出政党に選挙運動を認めた結果、候補者届出政党の届出による候補者は候補者届出
政党の選挙運動によって利益を受けるのに対し、本人等の届出による候補者はこの
ような利益を受けられないという不均衡を指すものと考えられる。
 しかし、前記のとおり、選挙に際し、政党に選挙運動を許容するか否か、その許
容する程度はどの程度かという問題はまさに選挙の公正の観点や選挙による国民意
思の反映の観点からする立法政策の問題であるから、政党の選挙運動を制限し、あ
るいは広範に許容することで、候補者届出政党に所属しない立候補者が選挙運動に
関して受ける利益又は不利益は、結局、政党に所属しないことによって生ずる事実
上の利益又は不利益にとどまり、そのような利益又は不利益が生じても、法の下の
平等に反するとはいえない。
 また、公選法の下においても、被選挙権を有する者が候補者届出政党所属のメン
バーとして立候補するか、あるいは、それに所属しない者として立候補するかは各
人の自由であり、原告らが主張する選挙運動の差別というのも、候補者の自由にゆ
だねられた政党への加入あるいは政党の選択によって生じる政治的色彩の濃い「差
異」であって、憲法がそのような「差異」を設けることを一切容認していないとす
る見解は、国会の立法裁量を著しく制約するものであって妥当でない。
(4)したがって、候補者届出政党に選挙運動を許容する公選法の規定は、国会と
して通常考慮すべき事情を斟酌しても明らかに不合理な立法とはいえず、憲法一四
条一項、一五条一項に違反するものではない。
3 選挙運動の実態から見た不平等について
(一)小選挙区選挙における候補者届出政党と比例代表選挙における名簿届出政党
にはそれぞれ別個独立の選挙運動が認められており、本件選挙における各候補者届
出政党が公選法上候補者届出政党として小選挙区選挙について認められている政見
放送・ポスターの貼付を行ったことは、何ら違憲・違法の謗りを受けるものではな
い。
 なお、小選挙区選挙においては、政見放送は候補者届出政党にのみ認められてお
り、候補者個人には一切認められていない。
 このように、候補者個人に政見放送を認めないこととしたのは、①政策本位・政
党本位の選挙を実現するためには、政党がその政策を広く有権者に伝達することが
できるような手段を十分保障することが必要不可欠であり、広域メディアである政
見放送は、政党が行うにふさわしい選挙運動手段であると考えられること、②政党
に加え、候補者個人に改正前の制度と同様の形で政見放送を行わせることは、選挙
区数の増加に伴う候補者数の増加を考えると、必要な収録時間、放送時間を確保す
ることが難しいことなどによるものであり、右制限は合理的なものというべきであ
る。
(二) また、小選挙区選挙において候補者届出政党に認められる選挙運動の概要
は別表記載のとおりであり、かつ、候補者届出政党の行う選挙運動については公選
法上の制限のほかは刑罰法規に触れたり著作権等を侵害してはならないとの制限が
あるだけで、それ以外の制限は特段規定されていない。
 これは、公選法が政策本位・政党本位の政治を実現すべく改正され、右公選法上
の制限の範囲内であればいかなる選挙運動を行うかは政策の担い手である政党の自
主的判断にゆだねることにしたからであって、公選法が候補者届出政党の行うべき
選挙運動の内容について特段の法的規制をしなかったとしても、「選挙区、投票の
方法その他両議院の選挙に関する事項は、法律でこれを定める。」と規定する憲法
四七条の趣旨に反し国会の裁量権行使の範囲を明らかに逸脱した不合理なものとい
うことはできない。
 したがって、候補者届出政党がその届出による候補者を強く推薦する内容の選挙
運動をしたとしても何ら違憲・違法の問題が生じるものではない。
(三) さらに、候補者届出政党が、その掲げる政策を実現するために、衆議院議
員としてその活動が必要と考える者を当該政党から当選させるべく、ポスター、ビ
ラ、さらには政見放送などにおいて当該候補者個人を強く推薦する内容の選挙運動
を行った結果、本人等の届出による候補者の選挙運動と比較して、候補者届出政党
の届出による候補者の選挙運動に候補者届出政党の選挙運動が加算され、結果的に
両者間に選挙運動に関して受ける利益又は不利益に差異が生じたとしても、本人等
の届出による候補者が選挙運動に関して受けるこのような利益又は不利益は、結
局、当該候補者が政党に所属しないことによって生じる事実上の利益又は不利益に
とどまり、そのような利益又は不利益が生じても法の下の平等に反するものではな
い。
(四) なお、仮に、本件選挙において候補者届出政党が行った選挙運動が公選法
等の規定に違反するものであったとしても、そのような選挙運動を行った者が公選
法等の刑罰法規に触れれば刑事責任を問われることになることは格別、そのことに
よって公選法の規定が憲法に反することになるものではなく、本件選挙に「選挙に
関する規定の違反」があるということになるものでもない。
 したがって、本件選挙において候補者届出政党が行った選挙運動の態様を理由と
して本件選挙の無効を主張する原告らの主張は、そもそも主張自体失当というべき
である。
第四 証拠
 証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、こ
れを引用する。
第五 争点に対する当裁判所の判断
一 政党要件及び重複立候補制度の違憲性について
1 公選法は、小選挙区選挙について、政党その他の政治団体がその所属者を候補
者として届け出るための要件(政党要件)を定めているが(八六条一項)、国民が
これとは関係なく、個人としてみずからを候補者として届け出ること(本人届出。
同条二項)、あるいは国民が本人の同意を得た上特定の個人を推薦し候補者として
届け出ること(推薦届出。同条三項)も認めており、届出方法以外に候補者届出政
党の届出による候補者と本人等の届出による候補者との間に立候補の要件について
差異を設けてはいないから、公選法は、候補者届出政党としての政党要件を設ける
ことにより国民が個人として自由に立候補する権利を法的に制約しているとはいえ
ない。
 また、小選挙区においては当選人が一人であるため、事実上、大政党の届け出た
候補者しか当選できず、その結果として、新党若しくは少数党の所属者又は無所属
者が小選挙区においては当選を見込めないとして当初から立候補を断念するという
事態が生じたとしても、それはそれらの者に投票する選挙人が少ないということか
ら生じたものにほかならないから、その点をもって、公選法が、国民が個人として
自由に立候補する権利を侵害し、あるいは、立候補に関し大政党所属者と新党若し
くは少数党の所属者又は無所属者とを事実上不当に差別しているとすることはでき
ない。
2 次に、公選法は、小選挙区の候補者のうち候補者届出政党の届出による候補者
に対しては比例区において重複立候補をすることを認め、本人等の届出による候補
者に対しては比例区での重複立候補を認めていない(八六条の二第四項、八七
条)。しかし、重複立候補の制度は、小選挙区において立候補した者が比例区にお
いても重複して立候補できるとする制度であるから(八六条の二第四項)、候補者
届出政党の届出による候補者に重複立候補を認めながら本人等の届出による候補者
に対して重複立候補を認めないことに合理的理由がないとしても、その点は、本人
等の届出による候補者に重複立候補を認めなかった比例区についてその選挙の効力
を判断する上で考慮すべきものであり、比例代表選挙とは別個の選挙である小選挙
区選挙の効力に影響を及ぼすものではない。特に、本件選挙は小選挙区の補欠選挙
であって、比例代表選挙は行われていないから、重複立候補制度の当否が国民の立
候補の自由や選挙における平等という観点から本件選挙の効力に影響を及ぼすこと
はないというべきである(比例代表選挙における供託物の価額の当否についても同
様である。)。
3 したがって、政党要件及び重複立候補の制度が、国民が個人の単位で自由に立
候補する権利を侵害し、あるいは憲法の保障する平等原則に反しているとの原告ら
の主張は採用できない。
二 選挙運動の差別の違憲性について
1 小選挙区選挙における選挙運動に関する公選法上の規制の概要は、別表記載の
とおりであり、公選法上、候補者届出政党の届出による候補者と本人等の届出によ
る候補者との間には候補者本人の行う選挙運動について全く差異は設けられていな
い。
2 もっとも、別表記載のとおり、公選法上、候補者届出政党には候補者本人に認
められた選挙運動とは別枠で独自の選挙運動が認められている。
 そして、候補者届出政党に認められている右の選挙運動は、その性質上、当該候
補者届出政党の届け出た候補者を当選させるために行われるものであるから、候補
者届出政党の届出による候補者については、自己の選挙運動に当該候補者届出政党
の選挙運動が加わり、実質的に見ると、それだけ質的量的に選挙運動の範囲が広く
なる。これに対し、本人等の届出による候補者は、政党その他の政治団体に所属し
ている場合であっても、公選法上、そのような団体による選挙運動は認められてい
ないから、そのような団体の選挙運動による支援は期待できず、その点において、
法制上、候補者届出政党の届出による候補者と本人等の届出による候補者との間で
選挙運動につき不均衡が生じることになる。
(なお、原告らは、右の選挙運動のうち政見放送及び大判ポスターについては、公
選法上比例代表選挙の名簿届出政党に対して認められたものであり小選挙区選挙の
候補者届出政党に対しては認められていない旨主張するが、政見放送については一
五〇条一項により、大判ポスターについては一四四条一項一号により、いずれも、
小選挙区選挙における候補者届出政党に対して認められている。また、原告らは、
候補者届出政党は、政党の政治活動用とされる自動車を無制限に利用でき、それに
よって拡声器の使用も無制限に許されている旨主張するが、別表記載のとおり候補
者届出政党に対して認められている自動車は一台、拡声器は一そろいであり無制限
ではない。さらに、原告らの主張するトランジットメガホンが公選法上の拡声器に
該当するかどうかは明らかではないが、これが拡声器に該当するとすれば、右のと
おり規制されているし、該当しないとすれば、候補者届出政党の届出による候補者
と本人等の届出による候補者との間で公選法上その使用に関し差異を設けた規定は
存在しない。)
3 そこで、次に、公選法上生じる右の不均衡と憲法一四条一項との関係について
検討する。
(1) まず、憲法四七条は、「選挙区、投票の方法その他両議院の議員の選挙に
関する事項は、法律でこれを定める」と規定して、選挙運動の主体や選挙運動の内
容といった事項を含め、どのような選挙制度が国民の利害や意見を公正かつ効果的
に国政に反映させることになるかの決定を国会の広い裁量にゆだねている。そうす
ると、憲法は、選挙運動の平等を選挙制度の仕組みの決定における絶対の基準とし
ているわけではないと考えられるのであって、選挙運動の平等は、原則として、国
会が正当に考慮することができる他の政策的目的ないし理由との関連において調和
的に実現されるべきものである。したがって、国会が具体的に定めたところがその
裁量権の行使として合理性を是認することができる限り、それによって選挙運動の
許容される範囲にある程度の不均衡が生じても、やむを得ないものと解すべきであ
る。
(2) そこで、右の観点から検討するに、公選法は、衆議院議員選挙について小
選挙区比例代表並立制を採用しているが、それは、衆議院議員選挙を政策本位・政
党本位の選挙とすること、政権交代の可能性を高め、かつ、それが円滑に行われる
ようにすること、責任ある政治を行うために政権が安定するようにすること、政権
が選挙の結果に端的に示される国民の意思によって直接に選択されるようにするこ
と、多様な民意を選挙において国政に適正に反映させるようにすることなどが要請
されているとの理解の下に、政策中心、政党中心の選挙制度をめざし、民意の集
約、政治における意思決定と責任の帰属の明確化及び政権交代の可能性を重視すべ
きであること、少数意見の国政への反映にも配慮する必要があること、制度として
できるだけわかりやすいものが望ましいことなどが考慮されたことによる。
 そして、公選法は、そのような政策本位・政党本位の選挙制度を実効あらしめる
ためには、小選挙区選挙において、政党にも独自の選挙運動を認め、各政党の政策
を国民に訴える機会を十分に保障することが不可欠であるとの考え方に基づき、各
候補者のほかに、候補者届出政党に対しても別表記載のとおりの選挙運動を認めた
ものと解される。
 ところで、政党は議会制民主主義を支える不可欠の要素であり、憲法は、単に政
党の存在を容認しているばかりでなく、議会制民主主義を支える担い手として、政
党に対し積極的かつ健全な活動を期待しているものといえるから、憲法が右のよう
に法律により政党に選挙運動を認めることを許容していることは明らかである。
 また、公選法が、小選挙区選挙において、各候補者の選挙運動に加えて、候補者
届出政党にも一定の選挙運動を行うことを認めることは、政策本位・政党本位の選
挙制度によって政党を通じて国民の意思が統合されるようにし、それによって国民
意思の集約を実現しようとするものであり、議会制民主主義の下における選挙制度
として合理的な制度といえる。
 さらに、公選法は、小選挙区選挙について、候補者届出政党以外の政党その他の
政治団体に対しては選挙運動を認めていないが、これは、小選挙区選挙を争う主体
となるべき政党は、真に政策を掲げて選挙を争うにふさわしいものに限るべきであ
り、国民の政治的意思を集約するための組織を有し継続的に相当な活動を行い国民
の支持を受けていると認められるものでなければならないと考えられたからであ
り、政策本位・政党本位の選挙制度の一つの在り方として一応首肯できる。
 そして、候補者届出政党及び各候補者に認められている選挙運動の概要は別表記
載のとおりであり、その内容は候補者本人に認められている選挙運動と比較して著
しく均衡を失しているとはいえない。
 公選法は、政見放送を候補者届出政党にのみ認め、候補者本人に認めないことに
しているが、それは、①政策本位・政党本位の選挙を実現するためには、政党がそ
の政策を広く有権者に伝達することができるような手段を十分保障することが必要
不可欠であり、広域に及ぶ通信媒体であるテレビジョン、ラジオを利用した政見放
送は、政党が行うにふさわしい選挙運動手段であると考えられること、②政党に加
え、候補者個人に改正前の制度と同様の形で政見放送を行わせることは、選挙区数
の増加に伴う候補者数の増加を考えると、必要な収録時間、放送時間を確保するこ
とが難しいことなどによるものであり、特に不合理であるとはいえない(補欠選挙
については、通常、特定の小選挙区でのみ実施されるから、右②の理由はないこと
が多いと考えられるが、総選挙の場合と補欠選挙の場合とを区別して規律していな
いことをもって、立法裁量の範囲を逸脱しているということはできない。)。
(3) 他方、現行憲法の下では、政党への加入及び加入すべき政党の選択は各人
の自由とされているから、特定の政党その他の政治団体に所属していない者も、選
挙に際し政党要件を充たす政党その他の政治団体に新たに所属することによりその
政党その他の政治団体所属の候補者として立候補する途が開かれている。また、候
補者となろうとする者が既存の政党に満足できないときは、その者の政治的力量次
第で同志を募って新たに政党その他の政治団体を結成することも可能であり、公選
法上、そのようにして新たに結成した政党その他の政治団体についても国政選挙を
経て政党要件を充たすことにより、将来、候補者届出政党となる途も開かれてい
る。
 そうすると、候補者届出政党に選挙運動を行うことを認めた結果、本人等の届出
による候補者がそのような候補者届出政党の選挙運動による支援を受けられないと
いう点において候補者間に不均衡が生じるといっても、それは、源をたどれば、候
補者の自由意思、政治的力量等による政党への加入・不加入あるいは政党の選択の
結果など極めて政治的色彩の濃い事情によって生じるものといえる。
(4) 以上検討したところによると、公選法が衆議院議員選挙を政策本位・政党
本位の選挙制度とする目的で候補者届出政党に選挙運動を認めたことには十分合理
性があるから、それとの関係で候補者間に選挙運動について不均衡が生じるとして
も、各候補者に対してはそれぞれ必要な選挙運動が認められていること、右の不均
衡が候補者の自由意思、政治的力量等による政党への加入・不加入あるいは政党の
選択の結果など極めて政治的色彩の濃い事情によって生じるものであることを考慮
すると、候補者届出政党に選挙運動を認めている公選法の各規定は国会の裁量権の
行使として合理性を是認し得るというべきであり、候補者届出政党に選挙運動を認
めることにより、小選挙区の候補者間で選挙運動につき不均衡が生じても、やむを
得ないというべきである。
 したがって、右のような不均衡が生じることをもって公選法が憲法一四条一項に
違反するということはできない。また、支持政党を持たない者の立候補の自由を侵
害しているとはいえないし、選挙権に関する憲法一五条や、両議院の選挙制度を法
律により定めるべきものとしている憲法四七条に違反するということもできない。
 さらに、候補者にどのような選挙運動を認めるかは、憲法四七条により国会に認
められた立法裁量事項であって、国会がその裁量により法律をもって候補者本人に
対し大判ポスターの掲示、政見放送を認めなかったとしても、そのことから直ちに
憲法二一条に違反することになるものではない。 なお、公選法は、小選挙区選挙
における供託物の価額を候補者一人につき三〇〇万円と定めているが(九二条一項
一号)、制度の趣旨が異なるから、そのことを根拠として、候補者間で選挙運動に
つき右のような不均衡が生じることが不合理であるとすることはできない。
4 選挙運動の実態について
(一) 前示のとおり、公選法が候補者届出政党に対して選挙運動を認めたのは、
政策本位・政党本位の選挙制度を実効あらしめるためには、小選挙区選挙におい
て、政党にも独自の選挙運動を認め、各政党の政策を国民に訴える機会を十分に保
障することが不可欠であるとの考え方に基づくものであるから、公選法は、候補者
届出政党において、主として、当該政党の政策、実績等を選挙民に普及宣伝するた
めに選挙運動を行うことを予定しているというべきである(届け出た候補者を当選
させることを目的とする選挙運動であるから、従として当該候補者の紹介等をする
ことはできる。)。そのことは、公選法が、候補者届出政党の行う選挙運動につい
て、選挙事務所(一三一条一項)を除き、小選挙区単位ではなく都道府県単位で規
制をし(一四一条二項、一四二条二項、一四四条一項、一四九条一項、一五〇条四
項、一六一条一項など)、候補者個人の選挙運動とは異なる取扱いをしているこ
と、公選法が、「候補者届出政党は、ラジオ放送又はテレビジョン放送の放送設備
により、公益のため、その政見(当該候補者届出政党が届け出た候補者の紹介を含
む。)を無料で放送することができる」旨規定し(一五〇条)、政見放送の対象と
なる政見を候補者個人の政見ではなく当該候補者届出政党の政見であるとした上、
その政見放送の中に候補者の紹介を含めることができることを特に明記しているこ
とからも認められるところである。
 また、前示のとおり、公選法が候補者届出政党の届出による候補者であるか本人
等の届出による候補者であるかを区別せず、各候補者に同等の選挙運動を認めた
上、これとは別枠で候補者届出政党に選挙運動を認めていることからして、公選法
は、各候補者の選挙運動と候補者届出政党による選挙運動とがその主体と内容にお
いて区別して行われることを当然の前提としているというべきであって、そのこと
は、公選法が候補者届出政党のビラ、ポスターに候補者届出政党の名称を記載しな
ければならないものとしていること(一四二条一〇項、一四四条五項)からも窺え
る。
 もっとも、公選法は、候補者届出政党の使用する普通葉書、ビラ、ポスターにつ
いては、右の点を除き、その記載内容について候補者本人のものとの区別という観
点から特に規制をしておらず(したがって、明示はされていないが、政党の政見等
のほかに、従として候補者の氏名等を記載して候補者を紹介することはでき
る。)、また、政見放送についても、右に判示した点以上に政見の内容について規
制をしていないが、それは、立法者が、候補者届出政党の選挙運動にその性質上右
に判示したような制約があることを当然の前提とした上で、政策本位・政党本位の
政治を実現するためには本来自由であるべき選挙運動の具体的内容の決定は候補者
届出政党の自主的判断にゆだねるのが相当であると考えたことによるものと解され
るのであって、そのようにして公選法が選挙運動の具体的内容の決定を候補者届出
政党の自主的な判断にゆだねたことをもって、両議院の選挙に関する事項は法律に
より定める旨規定している憲法四七条の趣旨に反し、国会の裁量権の範囲を逸脱し
ているとすることはできない。
(二) 次に、証拠(甲一の一ないし二三、乙八、原告A本人)と弁論の全趣旨に
よると、本件選挙において各候補者届出政党が使用した大判ポスターには当該候補
者届出政党の候補者の実物大の顔写真が用いられ、かつ、その氏名又は氏が大書さ
れていたこと、また、テレビジョンにより候補者届出政党の政見として放送された
ものの中には、候補者本人が登場して個人の経歴、政見等を宣伝することが主体と
なり政党自体の政見等がほとんど含まれていないものもあったことが認められるの
で、各大判ポスター及びテレビジョンによる政見放送の一部においては、公選法が
候補者届出政党に選挙運動を認めた趣旨を逸脱し、候補者届出政党の政策等の普及
宣伝ではなく候補者個人の宣伝を主体とした利用(主従の逆転した利用)がされた
ものと認められる。
 ところで、右に判示したように、本件選挙において使用された大判ポスターは、
いずれも、候補者本人の実物大の写真が用いられ、かつ、その氏名又は氏が大書さ
れているので、それより小さな文字で候補者届出政党の名称等が記載されていて
も、実質的には候補者個人のポスターとしての性格が強いものであり、しかも、大
判ポスターは、公用掲示板に掲示する必要はなく、適宜の場所に掲示することがで
きる上、その大きさは候補者個人に認められたポスターの約三倍であり、その枚数
も、候補者本人のポスターが四四一枚であった(被告において明らかに争わな
い。)のに対し、各候補者届出政党に対しそれぞれ一〇〇〇枚とされていたので、
大判ポスターの利用が認められない本人等の届出による候補者との間で宣伝力にお
いてかなりの差異が生じたものと認められる。また、政見放送は、候補者本人には
認められていないものであって、テレビジョンによる政見放送が実質的に政党の政
見放送としてではなく候補者個人の経歴や政見の放送としてされた場合には、政見
放送の認められていない本人等の届出による候補者との間で宣伝力においてかなり
の差異が生じたものと認められる。
 そして、右に判示した大判ポスター及びテレビジョンによる政見放送の利用(主
従逆転の利用)の実状と証拠(原告A本人)及び弁論の全趣旨によると、ラジオに
よる政見放送、普通葉書・ビラの頒布等、候補者届出政党に認められたその他の選
挙運動についても、多かれ少なかれ同様の状況が生じた可能性が強いといわざるを
得ない。
 しかしながら、右のような事態は、公選法が候補者届出政党の自主的な判断にゆ
だねた部分において生じたものであるから、右のような事実があっても、被告にお
いて公選法の規定に反し違法に本件選挙に関する事務を管理執行したということに
なるものではない(原告らは、本件選挙は、小選挙区の補欠選挙であるから、本来
比例代表選挙についてのみ認められている大判ポスターの掲示や政見放送は許され
るべきではなかったと主張するが、公選法上、候補者届出政党の選挙運動として小
選挙区選挙において大判ポスターの掲示及び政見放送ができることは前示のとおり
である。)。
 また、前示のとおり、公選法上、候補者届出政党は選挙運動を認められており、
その選挙運動の中で党の政策等の宣伝をするとともに候補者の紹介をすることは許
されているから、その範囲では、政党の選挙運動による支援を受けられない本人等
の届出による候補者も不均衡を甘受すべきものである。そして、政党の標榜する政
策は専ら政党に所属する議員の議会における活動によって実現されるのが本来であ
るから、政策の伝達・宣伝と候補者の紹介とは切っても切れない関係にあり、政策
の実現の主体となる候補者を紹介することが政党としての政策の実行力を誇示・宣
伝する一面を有することを否定できず、しかも政党のする選挙運動も当該候補者の
当選を目標とするものであることからすると、政党としての政策の伝達・宣伝に伴
って候補者の紹介がされる場合に、それが候補者の選挙運動としての色彩を帯びる
ことになるのはある程度避けられない。したがって、どこまでが本来の政党の選挙
運動でどこからが候補者の紹介であるかということは、具体的場面においてはその
限界が必ずしも明らかでない。政党のする選挙運動の具体的内容の決定が政党の自
主的判断にゆだねられていると解されるのは右のような事情にもよると考えられ
る。
 本件選挙においては、さきに見た選挙運動の実態からすれば、候補者届出政党が
行った選挙運動の中には公選法が候補者届出政党に選挙運動を認めた趣旨を逸脱し
たものがあったということはできるが、前示のように本人等の届出による候補者は
一定の範囲において選挙運動の不均衡を甘受すべきであると解されること、及びそ
の範囲を超えたかどうかについては事柄の性質上もともと一律に決定することが困
難であることを考慮すると、その逸脱した範囲・程度からして直ちに本件選挙の自
由公正が著しく害されたとまで認めることはできない。このことは、候補者本人に
も演説会(一六一条一項)、街頭演説(一六四条の五第一項)その他の必要な選挙
運動(別表参照)が認められており、また、選挙公報の発行(一六七条一項)、投
票記載所の氏名等の掲示(一七五条一項、二項)などが行われ各候補者の行う選挙
運動とは別に候補者及びその政見を周知させるための措置がとられることからして
も首肯することができる。
三 以上のとおり、本件選挙については、公選法二〇五条一項に規定する「選挙の
規定に違反することがある」とは認められないから、これを無効とすべき事由があ
るとすることはできない。
第六 結論
 よって、原告らの本件請求は、いずれも理由がないから、これを棄却することと
し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条、六五条一項本
文を適用して、主文のとおり判決する。
(平成一〇年七月三一日口頭弁論終結)
東京高等裁判所第一七民事部
裁判長裁判官 新村正人
裁判官 生田瑞穂
裁判官 岡久幸治

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