弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人両名を各罰金一〇万円に処する。
     被告人両名において右罰金を完納することのできないときは、金一、〇
〇〇円を一日に換算した期間当該被告人を労役場に留置する。
     当審訴訟費用は被告人両名の連帯負担とする。
         理    由
 本件控訴の趣意は、被告人両名の弁護人星正夫、同野切賢一および被告人両名各
作成の控訴趣意書ならびに右弁護人星正夫作成の控訴趣意補充書に記載のとおりで
あるから、これを引用する。
 弁護人星正夫、同野切賢一および被告人Aの各控訴趣意中、原判示ハンカチおよ
びマツチがわいせつの図画に当らないとの点について
 論旨は、原判示ハンカチを折り合わせて顕現される男性性器と女性性器は多分に
戯画されたもので、しかも露骨詳細な描写とは断じ得ず、また性器の戯画の他に男
女の人物が描写されているとか男女の姿勢が形成されているものでもないから、今
日の社会通念上わいせつ性を備えているとは評価し得ず、また原判示マツチには浮
世絵に模した女性が画かれているが、それだけでは到底わいせつ性ある図画とはい
えず、二個(二種類)の組み合わせにより男女両性の性器らしきものが顕現される
とはいえ、それは必ずしも判然としたものでなく、説明を受けて始めてそれと思う
程度のものであるとともに、前記ハンカチの場合と大同小異の戯画にすぎず、これ
また現代社会の情感水準に照らし、特に羞恥嫌悪の情を抱かせるものとはいい得な
いのに、原判決が特段の理由も付さず、右ハンカチおよびマツチをわいせつの図画
と認定したのは理由不備ないし法令適用の誤り又は事実誤認を冒したものであると
いうのである。
 刑法一七五条にいうわいせつの図画とは、その内容がいたずらに性欲を興奮又は
刺激させ、かつ普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反する図
画をいう。そして、問題となる図画が右にいらわいせつの図画に当るかどうかは、
所論もいうように、一般社会に行なわれている良識すなわち社会通念に従つてこれ
を判断すべきものである。
 <要旨>以上の観点から、原判示ハンカチおよびマツチをみるに、まずハンカチに
は、上部に黒色および赤色の鬼面が画かれているとともに、下部には黄褐色
の衣を着けた僧侶の図があり、一見何らのわい雑な感情をも抱かせるものではない
けれども、原判示のように、その中央部を折り合わせると、右鬼面および僧侶の図
は一変してそれぞれ女性および男性の性器を具現し、かつそこに具現される男女両
性の性器は、多少戯画化、抽象化されているとはいえ、通常人をして容易にそれと
分らせる形状を呈するものであるから、右ハンカチは、前述したわいせつの図画の
要件を備えていることは明らかである。所論は、右ハンカチが中央部を折り合わせ
ることによつてはじめて男女両性の性器を具現させることをもつて、そのわいせつ
性を争うもののようであるが、右ハンカチは、いわゆる成人映画の宣伝の一手段と
して頒布ないし販売されているうえに、その右端には「ある色魔の告白」「色欲の
果て」という、また左端には「女」「襲」等という文字がそれぞれ表示されてお
り、これらの男女関係を示し又は匂わす文字を念頭におきつつ前記鬼面および僧侶
の図をみると、それは一見右の文字と何らのつながりも持たないだけにことさら意
味ありげな印象を与えることを否定できないことおよび右ハンカチにおいて男女両
性の性器を具現させる方法である中央部を折り合わせるということはきわめてあり
ふれたものであり、日常市販されている遊戯ないし娯楽品中にもこの種の手法を用
いているものが見受けられることからすれば、右ハンカチの頒布ないし販売を受け
た相手方としては、それほど労を要しないでそのからくりを察知し得ると認めら
れ、このような場合においては、きわめて特殊かつ困難な手法をとつてはじめてそ
のからくりが判明する場合と異なり、当該図面のわいせつ性は否定されるものでは
ないと解するのが相当である。したがつて、この点の所論はにわかに採用し難い。
次に、マツチについては、「艶説明治邪教伝」「女浮世風呂」という各題名の入つ
た二種類のマツチとも、その図柄としてはいずれも浮世絵に模した女性が画かれて
いるにすぎず、これまた一見何らのわい雑な感情をも抱かせるものでないけれど
も、右二種類のマツチの各一個を組み合わせることによつて男女両性の性器が具現
し、かつ右男女両性の性器は図柄が小さいこともあつて、前記ハンカチに比べその
具体性の程度は多少劣るとはいえ、通常人をしてそれと悟らせるのにそれほど困難
を伴わない程度の形状を備えているものであるから、右マツチもまた、前述したわ
いせつの図画に当ると解するのが相当である。
 所論は、右マツチについても、それが二個組合わされることによつて始めて男女
両性の性器を具現することをもつてそのわいせつ性を争うもののようであるが、右
マツチも、前記ハンカチと同様にいわゆる成人映画の宣伝の一手段として頒布ない
し販売されているうえに、それは相手方に一個ずつ頒布ないし販売されたというの
ではなく、原判示のように、同一の相手方に二種類のものが少なくとも二〇〇個は
頒布ないし販売されていることおよび各マツチの性器を顕現させる部分はマツチの
図柄にとつては全く不要なものでいかにも意味ありげな印象を与えるとともに、性
器を具現ざせる組合せの方法は単に二個のマツチを並べるというきわめてありふれ
たものであることからすれば、右マツチの頒布又は販売を受けた相手方としては、
それほど労を要しないでそのからくりを察知し得ると認められるから、右マツチは
二種類のもの各一個という二個単位て、前記ハンカチと同様にわいせつ図画となる
と解するのが相当であり、この点の所論も採るを得ない。なお、当審において弁護
人が市販物件であるとして提出した文書図画中Bと題する絵冊子(札幌高等裁判所
昭和四四年押第二八号の二六)は、わが国と社会事情および国民性の異なるアメリ
カにおいて市販されているものと認められるから本件ハンカチおよびマツチのわい
せつ性の判断に当つては直接参考とならないものというべく、またダルマ絵付タオ
ル(前同押号の三二)は、本件ハンカチと同種のわいせつの図画と解する余地があ
るが、当審における被告人Cの供述によつても、その入手先、入手経路は必ずしも
明らかでなく公然と市販されているものと断定し得ないのみならず、それが市販さ
れているとしても、そのことは本件の情状に関する資料とはなるとしても、本件ハ
ンカチおよびマツチのわいせつ性の判断に影響を及ぼすものとは認められず、その
余のものはいずれも本件ハンカチおよびマツチと性格を異にするから、それらが一
般に市販され不問に付されている事実から、本件ハンカチおよびマツチのわいせつ
性が否定されるとは考えられない。
 以上を要するに、原判示ハンカチおよびマツチをわいせつの図画と認めた原判決
の判断は正鵠を得たものというべく、右判断には何ら所論のいうような理由不備な
いし法令適用の誤り又は事実誤認は存しない。論旨は理由がない。
 弁護人星正夫および被告人両名の各控訴趣意中、犯意の存在を否認する点につい

 論旨は、被告人両名はいずれも本件ハンカチおよびマツチがわいせつの図画に非
ずと信じていたものであるから、犯意がないというべきであるというのである。
 しかし、記録によれば、被告人両名とも、本件ハンカチおよびマツチの図柄とそ
れが、前述したように折り合わせ又は他のマツチとの組み合わせによつて男女両性
器を具現することを十分知り、かつその頒布ないし販売が現今の善良の風俗に照し
多少はばかるところのあることをも意識しつつ、あえて原判示所為に出たことが明
らかであり、被告人両名においてこのような認識内容を有していた以上、本件わい
せつ図画頒布、同販売の犯意に欠けるところはないというべきである。論旨は理由
がない。
 被告人Cの控訴趣意中、被告人Aとの共謀を否認する点について
 論旨は、被告人Cは、本件わいせつ図画の頒布および販売につき、被告人Aとの
間に共謀といえるほどの具体的な意思連絡を遂げていないというのである。
 しかし、原判決挙示の証拠によれば、被告人Cは本件当時D株式会社E支社長の
職にあつたところ、同支社宣伝課長で部下に当る被告人Aから、本件ハンカチおよ
びマツチの頒布および販売がなされる前に、その現物又は図柄の案を示されて頒布
等の許可を求められ、これに承認を与えていること、およびその際被告人Cとして
は頒布等の相手の階層および数量についてもおおよそ認識していたことが認められ
るから、同被告人は被告人Aとの間に本件ハンカチおよびマツチの頒布および販売
につき共謀を遂げていたものというべきである。論旨は理由がない。
 弁護人星正夫の控訴趣意中、本件ハンカチおよびマツチの配布が頒布又は販売に
当らないとの点について
 論旨は、本件ハンカチおよびマツチ配布の相手方はいずれもD直営館支配人、同
契約館主等の被告人らと同格者であるから、被告人らの配布行為は、いまだ頒布な
いし販売の準備行為にすぎなく、構成要件に該当しないというのである。
 しかし、本件ハンカチおよびマツチの配布の相手方が所論のいうようにD直営館
支配人、同契約館主等であつたとしても、同人らは本件犯罪の計画に何ら加担して
いないのであるから、同人らに対する配付が犯罪主体以外の第三者に対するものと
して頒布又は販売罪を構成することは疑いのないところであり、これを犯罪共同主
体間の内部的な準備行為と同視し得ないことはいうまでもない。論旨は独自の見解
にすぎず、理由がない。
 弁護人星正夫、被告人C、同Aの控訴趣意中、量刑不当を主張する点について
 論旨はいずれも原判決の刑の量定が不当であるといらのである。そこで、考える
に、被告人両名はいずれもD株式会社というわが国における有数の映画会社の相当
な地位にありながら、計画的に本件のような世のひんしゆくを買らハンカチおよび
マツチを大量に製作配布したものであり、その責任は決して軽くはない。しかし、
他方、被告人両名とも、前述したように本件ハンカチおよびマツチが現今の善良の
風俗に照らし多少はばかるところのあることを意識しつつも、反面それが刑法上わ
いせつ物としての取締を受けるとの確たる認識までも抱いていなかつたと認めら
れ、その行為の軽卒さは責められるにせよ、必ずしもこれを悪質かつ破れんちな動
機に出たものと断ずることはできない。また本件ハンカチおよびマツチはわいせつ
物としての評価を受けることはやむを得ないとしても、それは発想の奇抜さもあつ
て、必ずしも露骨かつ具体的な描写を含むものではなく、かつ当審事実調の結果に
よれば、これと性質上かなり類似しているものが土産品店等に出まわり市販されて
いる事実も窺える。その他、被告人両名にこれまで前科のないことやその会社にお
ける地位および平素における勤務態度、さらには本件が仕事熱心が度を越した行為
とみる余地もあること等記録に現われた諸般の事情を考慮すると、被告人両名に対
し各懲役刑を選択した原判決の量刑は重きに失するものといわなければならない。
論旨は理由があり、原判決はこの点において破棄を免れない。
 よつて、刑事訴訟法三九七条一項、三八一条により原判決を破棄し、同法四〇〇
条但書に則り直ちに当裁判所において自判すべきものと認め、さらに次のとおり判
決する。
 原判決が適法に認定した事実に原判決挙示の法条(ただし、罰金刑を選択し、刑
法二五条一項を除く。)および刑法一八条、刑事訴訟法一八一条一項本文、一八二
条を各適用して主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 深谷真也 裁判官 小林充 裁判官 木谷明)

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