弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人弁護士岩沢誠の上告理由は別紙記載のとおりである。
 右上告理由第一点について、
 訴訟当事者と身分上その他の密接な関係がある者の証言よりも、そのような関係
のない者の証言が、常に一層信用できるという条理若くは実験則は存在しない。そ
れ故右いずれを信用するかは、事実審裁判所が自由な心証に従つて決すべきところ
である。
 されば、原審が論旨摘録のように、証人D、Eの各証言を排斥し、被上告人の実
母F、伯父Gの各証言を採用して事実を認定しても、所論のような違法はなく、論
旨は理由がない。
 同第二点について、
 現行民事訴訟法二九四条が一種の交互尋問制を採用したものであること及び交互
尋問制の長所は挙証者の相手方に与えられたいわゆる反対尋問権の行使により、証
言の信憑力が十分吟味される点にあることは、いずれも所論のとおりである。
 しかし、証拠を、原則として右のような反対尋問を経たものだけに限り、実質的
にこれを経ていない、いわゆる伝聞証言その他の伝聞証拠の証拠能力を制限するか、
或はこれ等の証拠能力に制限を加えることなく、その証明力如何の判断を、専ら裁
判官の自由な心証に委せるかば、反対尋問権の行使につきどの程度まで実質的な保
障を与えるかという立法政策の問題であつて、交互尋問制のもとにおいては必ず伝
聞証拠の証拠能力を否定しなければならない論理的な必要があるわけではない。そ
れ故わが現行民事訴訟法は、私人間の紛争解決を目的とする民事訴訟法においては、
伝聞証言その他の伝聞証拠の採否は、裁判官の自由な心証による判断に委せて差支
えないという見解のもとに、この他の証拠能力制限の規定を設けなかつたものと解
するのが相当である。
 されば原審が所論証人D同Eの証言を排斥し却つて所論証人Gの伝聞による証言
を採つて所論の事実認定の資料としても、何等採証の法則に違背するものではなく、
論旨は結局、原審が適法にした証拠の取捨判断を攻撃するに帰するから、採用し得
ない。
 よつて民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとお
り決定する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    谷   村   唯 一 郎

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