弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主         文
 1 本件控訴に基づき,原判決を次のとおり変更する。
  (1) 控訴人(附帯被控訴人)が,被控訴人(附帯控訴人)ら及び選定者らに対して,
平成13年9月19日付けでした原判決別紙2記載の公文書一部非公開決定(平
成14年11月7日付け原判決別紙3の書面により一部変更した後のもの)のう
ち,処分説明書及び訓告書中にある団体に係る情報の非公開決定部分を取り
消す。
  (2) 被控訴人(附帯控訴人)らのその余の請求を棄却する。
 2 本件附帯控訴を棄却する。
 3 訴訟費用は,第1,2審ともこれを10分し,その1を控訴人(附帯被控訴人)の負担
とし,その余を被控訴人(附帯控訴人)らの負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 当事者の求めた裁判
 1 控訴人(附帯被控訴人,以下「控訴人」という。)
  (1) 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。
  (2) 上記取消しにかかる被控訴人・附帯控訴人(以下「被控訴人」という。)らの請求
を棄却する。
  (3) 本件附帯控訴を棄却する。
  (4) 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人らの負担とする。
 2 被控訴人ら
  (1) 本件控訴を棄却する。
  (2) 原判決中被控訴人ら敗訴部分を取り消す。
  (3) 控訴人が,被控訴人ら及び選定者らに対して,平成13年9月19日付けでした
原判決別紙1の1,2記載の公文書非公開決定のうち,公職選挙法違反事件等
に関する聞き取り調査票中にある事情聴取内容の非公開決定部分を取り消す。
  (4) 訴訟費用は,第1,2審とも控訴人の負担とする。
第2 事案の概要
 1 本件は,被控訴人ら及び選定者らが,控訴人に対し,岐阜市情報公開条例(以下
「本件条例」という。)に基づき,①平成13年1月28日施行の岐阜市長選挙におけ
る選挙違反(以下「本件市長選挙違反」という。)に関する調査について作成した文
書等,及び②本件市長選挙違反に関与した職員の懲戒及び任意処分の通知書類
等の公文書等の開示を請求したところ,控訴人が,①につき原判決別紙1の1,2
記載の全部非公開処分(以下「本件処分1」という。)をし,②につき原判決別紙2記
載の一部非公開処分(ただし,原判決別紙3の書面により一部変更されている。以
下「本件処分2」という。)をしたので,被控訴人らがこれらの処分(ただし,本件処
分1のうち,原判決別紙1の2のNo1ないし4の人事記録の全部非公開処分を除
く。)の取消しを求めた事案である。
 原審は,本件処分1については,公職選挙法違反事件等に関する聞き取り調査
票中にある所属,職名,氏名の非公開決定処分を取り消し,本件処分2について
は全部取り消したところ,控訴人が請求の全部棄却を求めて控訴し,被控訴人らが
請求の全部認容を求めて附帯控訴したものである。
 2 争いのない事実,争点及び争点についての当事者の主張は,以下に当審主張を
付加するほか,原判決の「第2 事案の概要等」の各該当欄に記載のとおりである
から,これを引用する。
 ただし,原判決8頁19行目の「処理事務について」を「処理事務は」と改める。
 3 控訴人の当審主張
  (1) 本件処分1について
    原判決は,調査票中の「所属,職名,氏名」を開示しても,「事実関係を的確に把
握し,適切な懲戒処分等の処分をすることができなくなるおそれ」がない旨判示
するが,明らかに誤りである。
 これらが開示された場合,以下のことが明らかになる。
   ア 氏名を公開された者が,人事当局から事情を聴取されたことが明らかとなり,
疑惑があるから調査された,との評価がなされる可能性が大きい(調査対象
者は,全職員4329名中240名である。甲31)。仮にインターネット等で「事情
聴取を受けた者の氏名」という形で氏名等が公開された場合を想像すれば,
私人のスクープではなく公権力により公開されたと同様であるから,開示され
た者のダメージはより甚大である。このようなダメージを考えれば,今後この種
の任意調査に協力する者はいなくなり,また人事当局者としても,このような
調査を避けるようになり,行政の自浄作用は低下する。
   イ 仮に,氏名を開示された者の関係者(上司,同僚,部下など)が処分を受けてい
た場合,その者の供述のせいでその処分がなされたという合理的な推測が成
り立つ。そうなると,被処分者と供述者との人間関係が悪化することが懸念さ
れるのみならず,供述者は調査者に不信を抱くに至ることは明白である。すな
わち,今後,この種の任意調査に協力をする者はいなくなり,また人事当局者
としてもこのような調査を避けるようになり,行政の自浄作用は低下する。
   ウ 原判決の判断による限り,強制捜査権を持たない人事当局者は,今後処分の
ための調査が不可能となり,人事管理は深刻な事態となる。すなわち,従来
から何の疑問もなく実施してきた人事管理の手法の重要な一つがこの裁判に
より奪われ,そのことにより職員の不正の糾明が著しく困難となるのである。
 また,この裁判では,ことの性質上,氏名等を開示される者の防御権につい
ては何等の配慮もなされていない。開示によりもたらされる社会的利益と,開
示により失われる社会的利益を比較考量してみれば,どちらが選択されるべ
きかは明白である。
 よって,原判決は取り消されるべきである。
  (2) 本件処分2について
    原判決は,懲戒処分及び任意処分は「その職務の遂行に係る情報」(条例6条1
項2号ただし書ハ)に該当し,「氏名,職名,所属,処理事務にかかる情報」は,
開示しなければならないという。
 その論拠とするところは,「訓告書等は,一般的に,直ちに職務の遂行に係る
情報に該当するとはいえないが,その対象となった行為が職務の遂行に係る行
為であれば,これに該当する。本件においては,職務上の指揮監督権を利用し,
勤務時間内に職場内で行われた行為が処分の対象であったことから,少なくとも
公務に付随して行われたものといえるので,これに該当する」ということに要約で
きる。
 しかし,本件訓告文書等のうち,地方公務員法上の懲戒処分に係る処分説明
書に記載されている公職選挙法違反行為は,職務命令によるものではないし,
職務ではないのはもちろん,職務に関連する行為でもなく,単なる犯罪行為であ
る。
 また,地方公務員法上の懲戒処分ではなく,任意の処分として行われた訓告
等に係わる文書に記載されている行為も上記と同様に職務に関連する行為では
ないことはもちろん,行為の内容としても,犯罪行為よりも軽微な不適切な行為と
されているものである。さらにいえば,訓告等を地方公務員法上の懲戒処分と同
様にみなして公開を認めている点も,公平,比例原則に照らして問題があるとい
わざるを得ない。
 以上,これらの情報は,いずれも「その職務の遂行に係る情報(条例第6条1項
2号ただし書ハ)」ということはできない。
 なお,処分すること自体は処分者の職務であることから,これらの文書の情報
は,職務の遂行に係る情報に該当すると考えられなくはないが,被処分者の側
から見れば,処分されることは職務ではないことは明らかであり,職務の遂行に
係る情報に該当するとはいえず,個人のプライバシーとして保護されるべき情報
であるといわざるを得ない。
 したがって,仮に原判決のいうように,これらの文書が条例6条1項2号ただし
書ハに該当すると評価したとしても,被処分者が処分を受けたことが判明するこ
とのない限りにおいて公開が認められるものであって,その範囲は,結局,既に
公開されている処分者の氏名,職名,処分内容等の処理事務に係る情報となる
ものである。
 よって,原判決は誤りがあるから,取り消されるべきである。
 4 控訴人の当審主張に対する被控訴人らの応答
  (1) 控訴人の当審主張(1)について
   ア 控訴人の当審主張(1)のアは争う。実際の調査が,疑惑があるから調査された
のであれば控訴人のいうような評価がなされることは受容すべきことであり,
実際の調査が,疑惑に関係なく調査したにもかかわらず,その懸念があるとい
う主張であるなら,調査方法を明らかにすれば誰も誤解しない。
   イ 同イは争う。一般的に人事において「誰かがこういった」ということをもって職員
を処分することはしない。処分をする場合は,いくつもの情報を得て総合的に
なされるものであるから,特定の人物の処分に関して特定の誰かの供述のせ
いで処分がなされたといえるものではない。したがって,控訴人の「その者の
供述のせいで処分がなされたという合理的な推測が成り立つ」との主張は誤
りである。
   ウ 同ウは争う。本件事案は,特殊な行為についての処分であって,組織ぐるみの
行為に関しての処分であるから,関係文書の公開によって今後の問題が生ず
るというより,関係文書の市民への公開によって事件の調査解明,そして再発
防止が一層進むというべきである。
  (2) 控訴人の当審主張(2)について
    控訴人の当審主張(2)は争う。犯罪行為であるから職務に関連がないというもの
ではなく,本件事案は,職制を利用してなされているものであり,控訴人において
監督義務に反したものとして上司を処分していることは,控訴人において本件行
為が職務に関するものであるとの認識があるからである。
 また,控訴人は,懲戒処分と同様にみなして公開を認めている点も公平,比例
原則に照らし問題がある旨主張するが,地方公務員法は,処分関係書類の公
開を定めている訳ではないし,そもそも公平,比例原則による評価と本件条例の
非公開事由該当性の判断とは別個のものである。
 さらに,控訴人は,処分されることは職務ではない旨主張するが,処分すること
自体は職務の遂行であり,本件文書も控訴人が市長の職務として作成したもの
であるから,市長の職務に関する文書であるのは明白である。
 5 被控訴人らの当審主張
  (1) 当審における新主張
    本件条例8条2項は「公開をしない理由」を通知することを定め,本件条例施行規
則第3条で決定通知書の様式を定め,解釈運用規定においても「非公開の理由
は,具体的にどのような理由によるのか記載し,複数の理由に該当する場合は
その全てを記載する」としている。
 本件条例が,このように公文書公開請求決定通知にその理由を付記すべきも
のとしているのは,本件条例に基づく公文書の公開請求制度が,市政に対する
市民の理解と信頼を深め,地方自治の本旨である市民による一層公正な市政
の実現に寄与することを目的とするものであって(本件条例1条),実施機関は,
市民の知る権利が十分に尊重されるよう運用すべきものとされていること(本件
条例3条)に鑑み,非公開理由の有無について実施機関の判断の慎重と公正妥
当を担保してその恣意を抑制するとともに,非公開の理由を公開請求者に知ら
せることによって,その不服申立に便宜を与える趣旨にあるのは明白である。
 本件条例におけるこのような理由付記制度の趣旨に鑑みれば,公文書公開請
求決定通知書に付記すべき理由としては,公開請求者において,本件条例6条
各号所定の非公開事由のどれに該当するのかをその根拠とともに了知しうるも
のでなければならず,単に非公開の根拠規定を示すだけでは本件条例8条2項
の要求する理由付記としては不十分である。
 本件処分における非公開理由の明示は,条例の文言をそのまま記載しただけ
で,公開しない旨を通知したものであるところ,原判決別紙1の1記載の付記理
由によっては,いかなる根拠により同号所定の非公開事由のどれに該当すると
して本件非公開決定がされたのかを,請求人において知ることができないものと
いわざるを得ない。
 実際,本件提訴時点において,被控訴人らは推量によってしか主張し得なかっ
た。しかも,控訴人も原審において非公開事由の追加をするなど,本件非公開
処分自体が極めてずさんであったというしかない。
 このように単に本件条例6条の各号の規定の文言の記載のみが付記されたに
すぎない本件非公開決定の通知書は,本件条例8条2項の要求する理由付記
の要件を欠くものというほかない。
 なお,公文書公開決定通知書に理由付記を命じた規定の趣旨が前記のとおり
であることからすれば,これに記載することを要する非公開理由の程度は,相手
方の知,不知にかかわりがないものというべきであるし(最高裁昭和49年4月2
5日判決民集28巻3号405頁),また,本件において,訴訟の中で,実施機関側
によって,非公開理由の補足や追加がなされたとしても,それによって,付記理
由不備の瑕疵が治癒されたものということはできない。
  (2) 本件処分1について
   ア 非公開事由該当性は,それぞれの情報について個別,具体的に検討して判断
すべきである。
 岐阜市職員4329人のうち,事情聴取を受けて本件調査票の当事者となっ
たのは240人であるが,240人の関与はさまざまな形態である。また,調査
票の4の各号の欄に全部「犯罪」といえる行為を記録している者もごく一部あ
ると考えられるが,逆に,一切,犯罪に関与してないことが明白となる者もある
はずである。
 このように,個別の職員の関与状況や背景を考えれば,1件ずつの文書の
さらに個々の事項について非公開事由該当性の判断をしなければ審理は尽く
されない。
 したがって,本件調査票は,それぞれ事情や,背景,関与が異なる240人に
関しての240件の文書として存在しているにもかかわらず,聴取内容(職氏名
以外を除く)の情報について,これを一律に非公開事由に該当すると即断した
原判決は,誤っている。
   イ 本件調査票の「2 日時」及び「3 場所」についての判示は不明であるが,公開
することによる支障は見いだせないから,非公開事由に該当しないのは明白
であり,公開されるべきである。
 したがって,上記部分について公開を命じなかった原判決には誤りがある。
   ウ 原判決は,職員に「他の目的に使用しない旨を告知して聴取した」ことを前提
に,公開されれば約束違反になって,同種の聴取ができなくなるおそれがある
とともに,多数から円滑かつ効果的に実施することができなくなるおそれがあ
るとする。
 しかし,「他の目的に使用しない旨を告知」とは当該聴取内容の利用の仕方
についてのものであり,「情報の公開」は条例に従って岐阜市の所有する文書
を市民に公開することであるから,告知の存在をもって「公開することが約束
違反となる」として非公開事由該当性を認定した原判決には誤りがある。
   エ 原判決は本件調査票を公開すると今後の同種調査をする場合,調査内容が公
開されることを職員が嫌がるであろうという点を主旨として,非公開事由に該
当すると判断している。
 しかし,職員が嫌がることが正当であるといえる場合であるのかどうか,仮に
正当であるとしてもそれが非公開事由に該当するのか検討されなければなら
ない。
 本件のような場合において,当該非違行為をした職員あるいは関係した職
員が,そのことを外部に知れることを嫌がることがあり得ることであっても,そ
の願望が実現されることが正当であるとは到底いえない。
 したがって,原判決には誤りがある。
   オ 職員の非違行為に関する調査の記録であるからといって,直ちに市政執行に
支障を及ぼすと断定することは本件条例の解釈を誤っている。
 仮に,一般的に,何か問題があった際における職員からの聴取・調査におい
て,職名,氏名や内容が公開されたとき本件条例6条1項4号ロ(1)あるいは(4
)のおそれの懸念があるとしても,本件の場合は,市役所全体の問題というべ
きほどの特殊な事例の調査であるから,一般論における調査記録等の公開で
本件条例6条1項4号ロ(1)あるいは(4)が懸念されるという判断をした原判決
は誤っている。
   カ 地方公務員法1条には,「地方公共団体の行政の民主的且つ能率的な運営」と
ある。本件はその行政機関職員が組織的に違反したというのだから,単に職
員個人の問題とするのではなく,住民や自治体に利害や関心が高い問題であ
るとの観点が不可欠である。
 本件事案の解明と,再発防止策の徹底は,岐阜市のその後の市政の運営
に不可欠であるからこそ,控訴人が自ら要綱を定め,控訴人が外部の委員を
特別に任命してまで委員会を作り,そこに諮るための調査をしたものである。
 このような場合の調査においては,関係した職員は調査に応じる義務があ
る。本件のような事案は他に例はないのだから,仮に本件文書を公開したとき
の影響に関して多少の支障や懸念があるとしても,この事案についての懸念
が他の一般的な人事に影響するとか,今後の調査に影響するとまではいえな
い。
 本件条例は,市政に対する市民の理解と信頼を深め,地方自治の本旨であ
る市民による一層公正な市政の実現に寄与することを目的とするものである
(本件条例1条)から,本件事案の特殊性に鑑みれば,本件調査票は,裁量に
より公開すべきである。
 よって,原判決は誤っているから,取り消されなければならない。
 6 被控訴人らの当審主張(1)に対する控訴人の応答
   被控訴人らの当審主張(1)は争う。本件条例は,実施機関に対し,8条2項の規定
により,非公開処分の場合に理由の提示義務を課している。この規定の趣旨は,
非公開事由の有無について実施機関の判断の慎重と公正妥当を担保してその恣
意を抑制するとともに,非公開の事由を公開請求権者に知らせることによって,そ
の不服申立てに便宜を与えるというものである。
 本件処分1については,原判決別紙1の1及び同1の2に記載されている公文書
の名称から,情報の内容は当然に推認でき,原判決別紙1の1の非公開理由の欄
に記載された記述と合わせれば,その理由が十分に了知できるものである。なお,
本件公文書は,調査票という性質から全部を非公開とする処分を行う必要があり,
限定的な記述とならざるを得ないという事情もある。
 また,本件処分2については,原判決別紙2及び同3に記載されている公文書の
名称によりその内容が推認できるとともに,公開しない部分の記述及び根拠となる
条文が示され,かつ,現実に一部非公開とされた公文書の写しが被控訴人らに交
付されており,これらを総合してみれば,非公開事由の該当性及び根拠は当然に
了知しうるものである。
第3 当裁判所の判断
   当裁判所は,被控訴人らの請求は,本件処分2のうち,本件訓告書等にある「団体
に係る情報」の非公開決定部分の取り消しを求める部分は理由があり,その余は
理由がないものと判断するが,その理由は,以下のとおり原判決を訂正し,被控訴
人らの当審主張に対する判断を付加するほか,原判決の「第3 当裁判所の判断」
のとおりであるから,これを引用する。
 1 原判決の訂正
  (1) 原判決11頁26行目の「公務員」から「一種であり」までを,次のとおり改める。
   「公務員の非違行為又は職務上の義務違反に対し,職務履行の改善,向上等の
目的のための注意又は指導としての性質を有する監督上の措置の一種であり」
  (2) 原判決13頁13行目の「同情報」を「本件調査票に記載されている情報」と改め
る。
  (3) 原判決13頁14行目の「当該公務員」から同17行目の「とおりである」までを「公
開を拒むことはできない」と改める。
  (4) 原判決13頁26行目から14頁1行目にかけての「これらにいう「事務」には,本
件の」を,「「人事管理」とは,職員の任免,懲戒,給与,研修その他職員の身分
や能力等に関する事務を意味し,また,「事務」には,当該」と改める。
  (5) 原判決14頁10行目冒頭から15頁1行目末尾までを,次のとおり改める。
   「そして,このような事情聴取は,これを受ける職員が任意に供述してくれることに
よって,はじめて所期の目的を達することができるものである。しかし,非違行為
をした当該職員にとって事情聴取の内容は個人の権利利益に直接かかわるも
のであり,このような記載内容が事後に公になるとすれば,当該職員から任意の
供述を得ることが困難となるおそれがあるばかりではなく,今後の調査において
も同様のおそれがあることは否定できない。そして,事情聴取によって正確な情
報を得ることができなければ,事案の実態に即した適正な懲戒処分等を行うこと
の妨げとなり,ひいては控訴人に対する信頼が損なわれて処分の効果が減殺さ
れることにもなりかねない。
 また,非違行為の相手方となった職員が事情聴取に応ずることは,処分決定
前の過程における一つの情報を提供するにすぎないが,非違行為に関する調査
の端緒となる情報,もしくは非違行為に関する裏付けともなるべき情報であるか
ら,できるかぎり正確な情報を幅広く率直に提供してもらうことが必要である。そ
のためには,情報提供者の氏名及び提供した情報の内容を聴取目的以外に利
用することはなく,外部に公開しないことを事情聴取を受ける職員に納得させ,
協力を得ることが不可欠である。したがって,このような情報が公になることがあ
れば,率直な情報の提供が妨げられるおそれがあり,また控訴人に対する信頼
が損なわれて今後の情報提供への協力を得ることが困難となり,事案の実態・
真実を的確に把握できないおそれがあることは否定できない。」
  (6) 原判決15頁7行目冒頭から14行目末尾までを削除する。
  (7) 原判決15頁19行目「本件調査票」から24行目末尾までを次のとおり改める。
   「本件条例6条1項4号ロ(1)の「監査,検査,取締り又は試験に係る事務」とは,法
令の規定等により控訴人が行うべき又は行うことができるとされている監査,検
査,取締り又は試験に係る事務と解すべきである。
 そして,懲戒処分もしくは監督上の措置という人事管理の事務を遂行するため
の調査事務は,人事に係る事務に関するものであり,本件条例6条1項4号ロ(4
)において非公開事由とされているから,本件条例6条1項4号ロ(1)に定める事
務からは除かれ,これに該当しないと解される。
 よって,本件調査票に記載されている情報が,本件条例6条1項4号ロ(1)に該
当するとの控訴人の主張は理由がない。」
  (8) 原判決16頁2行目冒頭から同8行目末尾までを,次のとおり改める。
   「しかし,本件条例6条の2に定める「公益上必要」があると認められる場合とは,本
件手引によれば,不特定又は多数の者の人権を保護する必要がある場合であ
ると解される。そうすると,本件調査票中の事情聴取の内容を公開することによ
り,行政の透明性の確保,公正性の担保,市民の理解と信頼の確保及び同種
事犯の再発防止等が図られるが,不特定又は多数の者の生命,身体,財産等
の安全性等に直接にかかわるものではないことを考慮すると,本件調査票を公
開することの公益上の必要性は必ずしも高いとはいえないので,本件調査票を
公開しないとした措置が裁量権を逸脱する不合理なものであったということはで
きない。」
  (9) 原判決16頁11行目及び13行目の「中の事情聴取内容」をいずれも削除する。
  (10) 原判決16頁16行目の「以上によれば」から同18行目の「ことになる」までを,
「以上のとおり,本件調査票を非公開とした本件処分1は適法である」と改める。
  (11) 原判決18頁23行目の「本件訓告書」から20頁15行目末尾までを,次のとお
り改める。
   「本件訓告書等には,上記(引用にかかる原判決,訂正後のもの)のとおり,懲戒処
分及び訓告処分を受けた公務員の氏名や処分事由が記載されているところ,本
件は,本件市長選挙に際し,被処分者が職務上の指揮監督権を利用して,勤務
時間中に市庁舎内で部下に対し紹介者カードを配布するなどして選挙運動を行
ったという事案であり,勤務時間中に選挙運動を行ったということ自体は職員の
職務の遂行に係る情報であるが,職務の遂行における非違行為により職員が処
分されたという情報は,処分された職員の職務の遂行に係る情報であると認め
ることはできない。
 被控訴人らは,原審において,本件訓告書等の非公開部分は,職務の遂行に
関する情報である旨主張するが,上記のとおり採用できない。
 したがって,本件訓告書等の非公開部分に記載された情報は,本件条例6条1
項2号ただし書ハには該当しない。」
  (12) 原判決21頁26行目の「本件訓告書」から22頁4行目末尾までを,次のとおり
改める。
   「本件訓告書等のうち,「団体に係る情報」については本件条例6条1項2号本文,
3号本文のいずれにも該当しないから,これを非公開とした処分は違法である
が,その余の情報については,本件条例6条1項2号本文に該当し,同号ただし
書ハに該当しないから,これを非公開とした処分は適法である。」
 2 被控訴人らの当審主張について
  (1) 当審主張(1)について
    被控訴人らは,本件処分における非公開理由の明示は,条例の文言をそのまま
記載しただけで,公開しない旨を通知したものであるところ,原判決別紙1の1記
載の付記理由では,いかなる根拠により同号所定の非公開事由のどれに該当
するとして本件非公開決定がされたのかを,請求人において知ることができない
ものといわざるを得ないから,付記理由不備の違法がある旨主張する。
 本件処分1についての非公開の理由は,上記(引用にかかる原判決,訂正後
のもの)のとおり,「個人に関する情報で,特定の個人が識別され,又は識別され
得るもののうち,通常他人に知られたくないと認められるもの及び人事管理に係
る事務に関し,公正な人事の確保に支障を及ぼすおそれがあるものに該当する
ため」とされていたことが認められる。
 このように上記非公開理由は,条文をそのまま引用しているが,本件調査票
は,非違行為に関する調査文書であるから「通常他人に知られたくない」情報で
あることは,当該文書の種類,性質等とあいまって開示請求者がそれらを当然
知りうるものであると認められ,また,条文の根拠を示さなくとも,上記記載内容
から本件条例6条1項2号と4号ロ(4)に該当するということは容易に判明すると
認められる。
 また,本件処分2の非公開の理由は,上記(引用にかかる原判決,訂正後のも
の)のとおり,「条例第6条1項2号に該当するため」とされていたことが認められ
る。
 上記非公開理由は,条文の根拠を示すにとどまるが,訓告等にかかる文書で
あるから,「通常他人に知られたくない」情報であることは,当該文書の種類,性
質等とあいまって開示請求者がそれらを当然知りうるものであると認められる。
 以上によれば,控訴人の非公開理由について,理由付記の要件を欠くもので
あったとはいえない。
 したがって,被控訴人らの主張は理由がない。
  (2) 当審主張(2)のアについて
    被控訴人らは,本件調査票は,それぞれ事情や,背景,関与が異なる240人に
関しての240件の文書として存在しているから,聴取内容(職氏名以外を除く)
の情報について,これを一律に非公開事由に該当することはできない旨主張す
る。
 しかし,上記(引用にかかる原判決,訂正後のもの)のとおり,本件調査票は,
非違行為をした当該職員及びその相手方となった職員を対象に行われたもの
で,これを公開すると公正な人事の確保に著しい支障を及ぼすおそれがあると
認められるのであるから,本件調査票ごとにその内容を個別に検討して,非公
開事由の有無について判断する必要はない。
 したがって,被控訴人らの主張は理由がない。
  (3) 当審主張(2)のイについて
    被控訴人らは,本件調査票のうち,「日時」及び「場所」については,非公開事由
に該当しないことは明らかであり,公開されるべきである旨主張する。
 本件条例6条2項には,公開を拒むことができない部分を合理的に分離できる
ときは,当該部分について公開しなければならないとされている。そして,本件手
引によれば,「合理的に分離できる」とは,非公開部分を分離しても当該公文書
の内容を推知しうる場合であり,非公開部分を分離した結果,公開部分のみで
は当該公文書の内容が明らかに不明となり,意味をなさないような場合には,当
該公文書全体を非公開とすることができるとされている。
 そうすると,「日時」及び「場所」は,本件調査票においては,調査の日時と場所
のみを明らかにする情報にすぎず,非公開部分を分離すると,もはや本件調査
票の対象となった事項・内容を推知することは困難である。
 したがって,本件条例6条2項の合理的に分離できるときに該当しないから,
「日時」及び「場所」のみでも公開しなければならないとはいえない。
 よって,被控訴人らの主張は理由がない。
  (4) 当審主張(2)のウについて
    被控訴人らは,職員に他の目的に使用しない旨を約束して聴取したとしても,他
の目的に使用しない旨の約束とは,当該聴取内容の利用の仕方についてのも
のであり,情報公開条例に従って岐阜市の所有する文書を市民に公開する場合
には,公開することが約束違反となるとはいえないから,本件調査票を公開して
も,今後の調査に支障を及ぼすおそれはない旨主張する。
 本件調査票に記載された情報が,本件条例の非公開事由のいずれにも該当
せず,公開すべきものであるならば,控訴人は職員に対し公開しない旨を約束し
ていたことをもって公開を拒否することはできない。
 しかし,本件調査票については,上記(引用にかかる原判決,訂正後のもの)
のとおり,調査の対象者や聴取の内容が明らかになると,今後の調査に支障を
及ぼし,公正な人事の確保を損なうおそれがあると認められる。
 したがって,被控訴人らの主張は理由がない。
  (5) 当審主張(2)のエについて
    被控訴人らは,本件のような場合において,当該非違行為をした職員あるいは関
係した職員が,そのことを外部に知れることを嫌がることがあり得ることであって
も,その願望は正当なものではないから,それを理由に本件調査票の開示を拒
否することはできない旨主張する。
 しかし,本件条例6条1項4号ロ(4)により保護されるべき法益は,控訴人の公
正な人事の確保である。そして,上記のとおり,非違行為を行った当該職員及び
その相手方となった職員に対する調査の内容が,調査後に明らかになるので
は,事案の実態等の的確な把握が困難となるおそれがあるから,本件調査票を
調査の対象となった職員の所属,職名及び氏名を含めこれを非公開とすること
は,公正な人事の確保の観点からすると,必要性及び合理性があると認められ
る。
 よって,被控訴人らの主張は理由がない。
  (6) 当審主張(2)のオについて
    被控訴人らは,職員の非違行為に関する調査の記録であるからといって,直ちに
市政執行に支障を及ぼすと断定することは本件条例の解釈を誤っているし,仮
に,一般的に,何か問題があった際における職員からの聴取・調査において,職
名,氏名や内容が公開されたときには本件条例6条1項4号ロ(1)あるいは(4)の
おそれの懸念があるとしても,本件の場合は,市役所全体の問題というべきほど
の特殊な事例の調査であるから,一般論における調査記録等の公開で本件条
例6条1項4号ロ(1)あるいは(4)が懸念されるということを理由に公開を拒否する
ことはできない旨主張する。
 しかし,上記(引用にかかる原判決,訂正後のもの)のとおり,本件調査票を公
開すると,控訴人の公正な人事の確保に支障を及ぼすおそれがあると認めら
れ,本件市長選挙違反が岐阜市政を揺るがす大問題であったことは,上記結論
を左右するものではない。
 したがって,被控訴人らの主張は理由がない。
  (7) 当審主張(2)のカについて
    被控訴人らは,本件事案の解明と,再発防止策の徹底は,岐阜市のその後の市
政の運営に不可欠であり,そのために調査を行ったものであるから,仮に本件調
査票を公開したときの影響に関して多少の支障や懸念があるとしても,この事案
についての懸念が他の一般的な人事に影響するとか,今後の調査に影響すると
まではいえないから,裁量により公開すべきであった旨主張する。
 しかし,上記(引用にかかる原判決,訂正後のもの)のとおり,本件調査票を非
公開としたことが控訴人の裁量権の逸脱に該当するということはできない。
 したがって,被控訴人らの主張は理由がない。
  (8) その他
    被控訴人らは,原審及び当審において本件処分1,2は取り消されるべきである
旨るる主張するが,いずれも採用できない。
第4 結論
   よって,以上と異なる原判決を変更し,被控訴人らの附帯控訴は理由がないから棄
却し,主文のとおり判決する。
    名古屋高等裁判所民事第3部
        裁判長裁判官   青   山   邦   夫
           裁判官   藤   田       敏
           裁判官   田   邊   浩   典

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