弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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平成16年11月16日宣告
平成16年(わ)第1641号 背任被告事件
            主     文
     被告人を懲役1年6月に処する。
     未決勾留日数中10日をその刑に算入する。
            理     由
(罪となるべき事実)
 被告人は,千葉市内に住所を有する者で,同市が賦課した平成3年度市県民税普
通徴収第4期分3034万4000円(以下「本件徴収金」という。)を滞納して
いたものであるが,同市の徴税吏員に本件徴収金の徴収事務を殊更懈怠させ,本件
徴収金の徴収を不正に免れようと企て,同市財政局税務部納税管理課長として市県
民税に係る徴収及び滞納処分等の同課所掌事務を掌理市県民税に係る滞納者に対し
ては滞納処分を執るなどして誠実に徴収事務を処理すべき任務を有していたA及び
同課特別滞納整理室長として本件徴収金の徴収事務に従事し,上記A同様の任務を
有していたBと共謀の上,被告人の利益を図り,かつ,同市及び千葉県に損害を加
える目的で,上記A及びBにおいて,上記任務に背き,平成14年4月ころから,
本件徴収金の徴収事務を殊更懈怠し,同年6月17日ころ,同市中央区千葉港a番
b号所在の上記納税管理課において,真実は,被告人につき滞納処分の執行を停止
する要件がなく,かつ,専決者である同市財政局税務部長の承認を受けていなかっ
たにもかかわらず,同市の税務オンラインシステム上,本件徴収金に関して滞納処
分の執行を停止した旨の不正な処理をした上,同年9月29日の経過により,同市
の税務オンラインシステム上,本件徴収金に関する同市の徴収権の消滅時効を完成
させ,本件徴収金を徴収不能の危険に陥らせ,もって同市及び同県に対して同額の
財産上の損害を加えたものである。
 なお,被告人は,公判廷において,判示事実につき争わない旨の供述をしている
一方,Aに市県民税の免除等を要求した際,合法的に市県民税の免除等を受けられ
るとの認識があったなどと,その違法性につき認識がなかった旨の供述(以下「本
件供述」という。)をしているので,この点に関して付言する。まず,本件供述
は,それ自体からも被告人の供述態度からも不自然かつ不合理なものというほかな
い。そして,被告人の公判廷供述及び各供述調書並びに当裁判所に顕著な事実によ
れば,① 被告人は,平成16年7月21日に逮捕された後,捜査官に対し,本件
供述と同様の供述をして判示事実を否認していたが,同年8月6日,自白に転じ,
その後,捜査官に対し,それまで判示事実を否認していた理由,本件の事実経過,
相続税の納税猶予を受けるなどした際の経験に照らしてその違法性につき認識があ
ったこと等を具体的に供述していること,② 被告人及び弁護人らは,公判廷にお
いて,被告人の各供述調書の任意性及び信用性を何ら争っていないことが認めら
れ,これらの事情によれば,被告人の捜査官に対する自白は信用性が高いといえ
る。そうすると,本件供述は,信用性が著しく乏しいものといえ,判示認定を何ら
左右するものではない。
(法令の適用)
 1 罰条 刑法65条1項,60条,247条
 2 刑種の選択 懲役刑
 3 未決勾留日数の本刑算入 刑法21条
(量刑の理由)
 本件は,被告人が,市県民税である本件徴収金の徴収を不正に免れるため,その
徴収を担当していた千葉市職員らと共謀の上,この職員らにおいて,本件徴収金の
徴収を殊更懈怠した上,滞納処分執行停止の法定要件及び内部的決裁手続の各欠如
にもかかわらず,同市の税務オンラインシステム上,本件徴収金に関して滞納処分
執行停止の不正処理をし,そのまま本件徴収金に関する同市の徴収権の消滅時効を
完成させ,同市及び千葉県に対して経済的損害を加えたという背任の事案である。
 判示犯行は,実行行為としては,千葉市において市県民税に係る徴収等の事務を
所掌する同市財政局税務部納税管理課の掌理者である同課長及び同課内で高額滞納
案件に係る徴収等の事務を所掌する同課特別滞納整理室の責任者で,本件徴収金の
徴収事務に従事していた同室長が,公平かつ厳格に遂行すべき市県民税に係る徴収
等の任務に上記態様で違背し,同市及び千葉県に対して3000万円を超える経済
的損害を加えたというものであり,任務違背者の地位,違背した任務の内容及び損
害額のいずれからも,それ自体極めて悪質なものである。
 しかし,本件の悪質性は,これにとどまるものではない。被告人は,本件当時も
現在も現職の千葉県議会議員で,これまで同議会議長を務めるなどした有力者であ
るが,平成11年夏ころ,大病を患ったため財産保全を第一に考えるようになり,
同議会有力議員としての権勢から千葉市職員らが被告人の意向に直ちに逆らうこと
が困難であることを利用し,それまで数年間にわたって滞納していた本件徴収金を
含む平成3年度市県民税残額の徴収を不正に免れることを決意し,同年9月ころ以
降,当時は同市花見川区役所納税課長であった上記納税管理課長に上記市県民税残
額の免除等を要求し,同課長に関係者間を奔走させ,平成12年7月ころ,このよ
うな事情を知らないまま本件徴収金の徴収に着手しようとした当時の同課特別滞納
整理室長を恫喝するなどした上,平成14年4月,同課長が同課長職に就任する
と,それまでの経緯から同課長及び同課特別滞納整理室長に判示犯行の敢行を余儀
なくさせ,平成15年12月,本件が発覚すると,口裏合わせをして同課長に刑事
責任を押し付けようとしたというのである。すなわち,判示犯行は,全体として
は,同市民として地方税に関する納税の義務を誠実に履行すべきはもちろん,更に
同県民を代表する地位にあって同県民に対して高度に誠実であるべき被告人が,同
県議会有力議員としての権勢に溺れ,私的利益のためには同市及び同県に損害を加
えることなど一顧だにしない極めて利欲的かつ独善的で,酌量の余地など全くない
動機に基づき,被告人の意向に直ちに逆らうことが困難な同課長及び同課特別滞納
整理室長をいわば手足とし,主体的かつ積極的に敢行した悪質この上ないものであ
り,犯行後の情状も極めて悪質である。これにもかかわらず,被告人は,公判廷に
おいて,判示犯行を実質的に否認する趣旨の供述や,引き続き同県議会議員として
活動していきたい旨の供述をしており,このような被告人には,十分な反省の態度
をうかがうことはできず,本件の悪質性につき認識がないのではないかとさえ疑わ
れる。
 以上によれば,被告人の刑事責任は重い。
 ところで,弁護人らは,本件における被告人にとって酌むべき事情として,千葉
市が平成16年1月に本件徴収金に関する徴収権の消滅時効起算日の解釈変更を
し,その消滅時効が完成していないものとして取り扱われることとなった経過等を
指摘し,判示犯行は実質的には未遂にとどまるというべきとの主張をしている。し
かし,弁護人らの上記主張は,経済的観点から考察されるべき背任罪における財産
上の損害を法的観点から考察することを実質的前提とし,当時の同市の解釈によれ
ば本件徴収金に関する徴収権の消滅時効が完成したこととなった平成14年9月か
ら1年3か月以上経過し,かつ,本件が発覚した後に可能であることが偶然判明し
た上記解釈変更を殊更強調するものといえ,これを採用することはできない。ま
た,弁護人らは,同様に,同市職員らの対応上の問題点や同市の制度上の問題点を
十分に考慮すべきとの主張をしている。確かに,同市職員らの対応や同市の制度に
は不適切なものがあったことを否定することはできない。しかし,被告人は,それ
まで国税につき適宜納付するなどしていたにもかかわらず,多数件の地方税につき
数年間にわたって滞納するなどしていたこと等から明らかなように,千葉県議会有
力議員としての権勢から同市職員らが被告人の意向に直ちに逆らうことが困難であ
ることを十分に認識した上,これを積極的に利用し,本件を決意するなどしたもの
である一方,同市職員らは,基本的には被告人の意向に直ちに逆らうことが困難で
あったため,その任務等との狭間で苦慮しつつ判示犯行を敢行するなどしたものと
認められるところ,このような事情によれば,弁護人らが指摘する問題点を過度に
考慮することはできない。さらに,弁護人らは,同様に,所得税法違反事案等にお
ける刑事処分や刑事責任が更に重いというべき共犯者である同市職員らに対する刑
事処分との権衡を十分に考慮すべきとの主張をしている。しかし,弁護人らの上記
主張は,本件の罪質及び本件において被告人が果たした役割等によれば,その前提
において失当というほかなく,これを採用することはできない。
 もっとも,本件においては,被告人にとって酌むべき事情として,本件が発覚
し,千葉市が本件徴収金に関する徴収権の消滅時効起算日の解釈変更をした結果と
はいえ,被告人は,平成16年1月,本件徴収金を納付し,その後同年10月まで
に,合計1億5000万円を超える平成3年度市県民税の延滞金の全部及びその他
地方税の延滞金の多くを納付し,判示犯行による同市及び千葉県の財産的損害は,
延滞金も併せ,既に回復されていること,被告人は,これまで長年月にわたって同
県議会議員を務めるなどし,公私にわたって多大な社会的貢献をしてきたことがう
かがわれること,被告人は,本件によって2か月間身柄拘束を受けるなどして反省
の機会を得たとも考えられ,公判廷において一応の反省悔悟の言葉を供述している
こと,被告人の養子が公判廷において今後は家族が被告人を監督していく旨の供述
をしていること,被告人は,現在68歳であり,その健康状態が必ずしも芳しいも
のではないこと等が認められる。
 しかし,これらの事情を併せて考慮しても,被告人の刑事責任はなお重いという
ほかなく,被告人に対しては,執行猶予の言渡しをすることなく,主文の実刑を科
すのが相当である。
(求刑 懲役2年)
   平成16年11月16日
    千葉地方裁判所刑事第2部
             裁判官    鈴   木   尚   久

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