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平成16年(行ケ)第178号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 平成16年6月22日
判          決
原      告      太洋開発株式会社
訴訟代理人弁護士      飯塚孝
同             荒木理江
訴訟代理人弁理士      若林擴
被      告      特許庁長官 小川洋
指定代理人         高野義三
同             涌井幸一
主           文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
(1)特許庁が,平成11年審判第14054号事件について平成16年3月9
日にした審決を取り消す。
(2)訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
 主文と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯等
  原告は,「情報マネジメント」の文字を横書きして成る商標(別紙参照),
以下「本願商標」という。指定役務は第35類「広告,トレーディングスタンプの
発行,経営の診断及び指導,市場調査,商品の販売に関する情報の提供,ホテルの
事業の管理,職業のあっせん,競売の運営,輸出入に関する事務の代理又は代行,
新聞の予約購読の取次ぎ,書類の複製,速記,筆耕,電子計算機・タイプライタ
ー・テレックス又はこれらに準ずる事務用機器の操作,文書又は磁気テープのファ
イリング,建築物における来訪者の受付及び案内,広告用具の貸与,タイプライタ
ー・複写機及びワードプロセッサの貸与」であり,これは,平成11年6月10日
付け手続補正書をもって補正されたものである。)につき,平成10年2月10
日,商標登録の出願をし,平成11年8月6日,拒絶査定を受けた。
  原告は,同月30日,これに対する不服の審判を請求した。
  特許庁は,これを平成11年審判第14054号事件として審理した。そし
て,平成15年12月11日付で拒絶理由を通知した上で,平成16年3月9日,
「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本を,同月29日原
告に送達した。
2 審決の理由
  審決の理由は,別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本願商標は,
一体として,「情報の管理ないし運用」の意味で,実際の取引において普通に用い
られるものであり,これを,その指定役務について使用しても,需要者が,何人か
の業務に係る役務であることを認識できないものであるから,商標法3条1項6号
に該当する,というものである。
第3 原告の主張の要点
  審決は,本願商標の自他役務の識別力の有無についての認定判断を誤り,本
願商標が商標法3条1項6号に該当する,と判断したものであるから,取り消され
るべきである。
1 本願商標の創造性
(1)原告の代表取締役であるAは,発明の名称を「支払情報の流通市場システ
ムの構築方法」とする特許を出願している(特願2000-96611号,以下
「本願特許」という。)。
  原告は,本願特許に付随するものとして,情報の債権化・債務化をマネジ
メントすること,すなわち,情報を金銭的な価値あるもの(無形の商品)と見立
て,単位を決めて効率よく取引の対象としてマネジメントするという技術思想を表
象するものとして,「情報マネジメント」という標章(以下「本件標章」とい
う。)に係る本願商標を創造したものである。
(2)本願特許の出願に付随するものとして創造された本願商標に,自他役務の
識別力があることは明らかである。
2 本件標章の使用実態
  審決は,インターネット上において,「情報マネジメント」を検索した結
果,2003年12月4日時点において多数のサイト情報が認められることを理由
に,本願商標に自他役務の識別能力がない,としている。
  しかし,これらのインターネットによる検索結果は,いずれも本件出願後の
ものであり,本件出願時における本件標章の使用実態を証明するものではない。
3 特許庁の審査の不統一性
  原告は,本件標章を採用し,かつ,指定商品ないし役務を異にする商標の登
録を出願し,登録を受けている(甲第4号証ないし第7号証)。
  本願商標のみ,登録が認められないのは,判断の統一性を欠く。しかるに,
審決は,「これらの各登録商標の存在は,本願商標の自他役務の識別性の有無につ
いての判断を左右するものではないから,その主張は採用できない。」(審決書7
頁第2段)と説示するだけで,原告が指摘した特許庁の審査に齟齬があり,判断の
統一性を欠いていることについて,何ら判断をしていない。
第4 被告の主張の要点
1 原告の主張1(本願商標の創造性)に対して
  本件標章は,「情報」と「マネジメント」という,いずれも一般的な語の組
み合わせからなるものである。本願商標が,原告の主張するように,本願特許に付
随するものとして出願されたものであるとしても,原告が創造した語であるとはい
えない。
  本願商標を思いついた経緯や,原告の意図は,自他識別力の有無の判断に影
響するものではない。
2 原告の主張2(本件標章の使用実態)に対して
(1)本件標章は,様々な企業において営業戦略等として掲げられており,本件
標章を標榜する研修も実施されている。
  本件標章を名称とする授業を実施している高校,大学が存在し,あるい
は,本件標章をその内容の説明として用いて,他企業の有する情報の運用・管理を
業として行う企業も存在する。
  地方公共団体である横須賀市では,本件標章を含む基本方針,規則を定め
ており,その基本方針及び規則は,本件標章を,情報の適正な管理及び円滑な運用
を行うこと,との意味で用いている。
(2)以上のとおり,本件標章は,取引社会において多くの企業等が経営戦略等
の一つに掲げている一般的な用語であって,これを商標としてその指定役務に使用
しても,自他役務の識別力がないというべきである。
  なお,出願商標の登録要件を定めた商標法3条1項各号に該当するかどう
か,すなわち,自他役務識別標識として機能し得るか否かの判断時期は,査定又は
審決時であって,出願時ではない。
3 原告の主張3(特許庁の審査の不統一性)について
  商標が,自他商品・役務の識別力を有するか否かの審理は,個別具体的にな
されるものである。本件標章を採用した,指定商品・役務を異にする商標の登録に
ついての判断は,本願商標の登録の可否についての審理の対象となるものではな
く,また,上記登録例に関する判断に拘束力はない。
第5 当裁判所の判断
1 原告の主張1(本願商標の創造性)に対して
(1)原告は,本願商標は,本願特許に付随して創造されたものであり,自他役
務の識別力を有する,と主張する。
(2)情報とは,「あることがらについてのしらせ。判断を下したり行動を起し
たりするために必要な,種々の媒体を介しての知識」(広辞苑第5版・乙第9号
証)のことであり,マネジメントとは,「管理,処理,経営」(同号証)のことで
ある。いずれも極めて一般的な,日常よく用いられる言葉であることは明らかであ
る。
  また,情報を,必要に応じて,消失を防ぎ,利用(運用)し易くするため
に管理することは当然のことであるから,「情報」及び「マネジメント」の組み合
わせも,格別特異性のない,ごく自然なものであると認められる。現実に,後記の
とおり,これら両者を組み合わせた本件標章,すなわち「情報マネジメント」の複
合語も,情報の管理運用といった意味で,本件審判手続における拒絶理由通知当時
には,既に広く用いられていた,と認められる。
  したがって,本件標章が,原告により創造された言葉であるとか,造語性
の高い言葉であると認めることはできない(なお,商標法3条1項各号に該当する
かどうかの判断時期は,査定又は審決時であって,出願時ではない。)。
(3)商標の自他役務又は自他商品の識別力の有無は,当該商標の構成自体から
判断されるべきことは当然である。原告が,本願特許に付随し,その技術思想をよ
く表現するものとして,本件標章を思いついたとしても,そのような経緯・動機・
意味づけは,取引者・需要者の窺い知ることのできない事情であって,取引者・需
要者にとっての,原告の提供する役務の自他識別性を根拠付けるものとすることは
できない。
2 原告の主張2(本件標章の使用実態)について
(1)乙第1号証,第2号証,第10号証,第11号証,第12号証の1ないし
3,第13号証の1ないし5,第14号証の2,3からは,本件標章は,本件審判
手続における拒絶理由通知当時において,広く一般的に用いられていた,と優に認
めることができる。
  例えば,朝日新聞社は,平成8年6月15日の記事として,神戸市教育委
員会が平成10年に普通科高校を新設する予定であることと,その新設校のカリキ
ュラムの具体的な内容として「新高校には社会科学,芸術,情報マネジメントなど
七コースを設け,「学級」とは別に生徒が教室を移動する講義形式にする。」と報
道し,また,平成9年11月14日付けの記事として,弘前大学の学科改組につい
て,「人間文化,情報マネジメント,社会システムの3課程制に改組し,・・・」
と報道している(乙第13号証の1,2)。
(2)本件標章を全て日本語に訳したものに対応する「情報管理」の語の派生語
(複合語)である「情報管理システム」は,
 「情報管理システム(じょうほうかんりシステム)
  informationmanagementsystem,IMS
  抽象的・観念的であった経営管理に対し,経営の最高意志の決定のため
に,各種経営情報を体系的に処理および管理するためのしかた,ならびにシステム
のこと。」(情報処理用語大辞典第1版(平成4年11月発行)・乙第10号証)
 の意味を持つものとされ,また,本件標章は,
 「「職場内での情報の共有化を!!」~情報マネジメント研修を実施」,
「11月25日,職種横断研修「情報マネジメント(第2回)~情報連絡の重要性
~」が・・・行われた。」(東京都健康局総務部総務課広報係発行の「健康局NE
WS けんこうTOKYO」・乙第12号証の3),
 「セキュリオン24・・・は,・・・統合・情報マネジメント事業に乗り
出す。書類や磁気テープ類の保管,輸・配送サービスおよび光ファイリングシステ
ムなどの利用による「オフィスなどからの遠隔操作によるオンライン情報検索シス
テム」の提供がその主要業務となる。」(平成元年9月13日付の日刊工業新聞社
の報道・乙第2号証),
 「唯一の「総合情報マネジメント企業」として更なる情報管理の可能性を
追求しつづける。」,「ワンビシアーカイブズ総合情報マネジメント部門
は,・・・オフィス情報管理の合理化を目指して,・・・情報管理分野における様
々な事業を開拓してまいりました。」,「情報の発生段階から機密抹消処理ま
で,・・・企業情報の一元管理を実現する「総合情報マネジメント企業」とし
て,・・・付加価値の高い情報管理サービスを提供しています。」(「株式会社ワ
ンビシアーカイブズのホームページ・乙第14号証の2),
 との文脈で用いられている。
(3)以上からは,本件標章は,一般に,経営等に関する情報の管理運用等の意
味を持つものと理解され,広く用いられていた,と優に認めることができる。
  この点についての審決の判断に,結論として誤りはない。
3 原告の主張3(特許庁の審査の不統一性)について
  原告は,本件標章を採用し,かつ指定商品・役務を異にする商標が登録され
ている事実を挙げ(甲第4号証ないし第7号証),審決には判断の不統一がある,
と主張する。
  商標の自他商品・役務の識別性は,その指定商品・役務との関係で考慮され
るべきものである(商標法3条1項1号ないし3号等参照)。
  そして,例えば,登録番号第4308641号の「情報マネジメント」の商
標は,その指定商品が第16類「雑誌,新聞」であり,この種商品に,本件標章が
付された場合,その態様によっては,取引者・需要者は,それを雑誌名・新聞名で
あると認識し,それにより自他商品の識別力が高い蓋然性をもって生じ得る。
  あるいは,登録番号4289380号の「情報マネジメント」の商標につい
ては,その指定役務のうち,例えば「自転車の修理」は,情報の管理運用そのもの
ではなく,それと密接な関連を有するものでもないから,それに付された本件標章
に接した取引者・需要者は,本件標章の一般的な意味である情報の管理運用を想起
せず,本件標章に別の意味,すなわち自他役務の識別標識としての意味,があると
認識し得る。
  それらの登録を認めたのは,上記のような理由からであると推認することが
できる。いずれにしろ,指定商品・役務が異なる以上,本件の判断の参考になるも
のではない。
  「自他商品識別標識の機能を果たすものとは把握しないものとみるのが相当
である。」(審決書4頁4行目~5行目)との判断は相当であり,審決が原告の指
摘した点について判断をしていないというわけでもない。
4 以上のとおり,本件標章は,格別造語性のない,一般的な語であり,情報の
管理運用といった意味で広く用いられている語であって,それが,本願商標の指定
役務に関して用いられるときは,取引者・需要者は,その役務の内容そのものを簡
略に説明するものと認識し,自他役務を識別する標章とは認識しない,と認めるこ
とができる。
  本願商標が,その指定役務との関係で自他役務の識別力を有しない,とした
審決の判断は,正当である。
5 結論
  以上によれば,審決の取消しを求める原告の本訴請求には,理由がない。
  よって,原告の請求を棄却することとし,訴訟費用の負担について,行政事
件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所知的財産第3部
 裁判長裁判官      佐  藤  久  夫
 裁判官      設  樂  隆  一
 裁判官      高  瀬  順  久
(別紙)
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