弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴はこれを棄却する。
     当審の未決勾留日数中百四十日を被告人が言渡された本刑に算入する。
     当審の訴訟費用は被告人の負担とする。
         理    由
 本件控訴の趣意は末尾に添附してある弁護人小山胖の控訴趣意書と題する書而記
載の通りである。これに対し当裁判所は左の如く判断する。
 弁護人の論旨第一点について。
 本件記録によると起訴状には「被告人は云々A方において同人所有の冬オーバー
外十二点の衣類を窃取した」とあるが原判決には「被告人は云々A力で同人所有の
冬オーバー外十二点の衣類等を窃取しようとしたが家人に発見せられてその犯行を
遂げなかつたものである」と認定しているが、その間何等起訴状の訂正の<要旨>な
かつたことは論旨指摘の通りである。よつて右原審の措置の適否を審案する。起訴
の効力は起訴にかかる事実と同一性を有する事実の全体に及び同一事実であ
る限り起訴状記載以外の事実についても公訴提起の効力があるものである。例えば
窃盗として起評せられても賍物罪として審判することが認められ、なお公訴事実と
一所為数法又は牽連犯の関係あるような法律上一罪を構成する他の事実についても
起訴の効力が及ぶのである。
 しかしながら専ら起訴状記載の事実について防禦方法を構じて来た被告人に対し
右の如き措置は不意打であつて、著しくその防禦権を侵害することになるから何等
かの方法によつて新たに認めんとする訴因についても予め防禦の機会を与えなけれ
ばならない。それで刑事訴訟法第三百十二条は右防禦の機会を与えるに最も適当な
方法として斯ような場合には予め訴因の変更又は追加をなさしめたのである。検察
官において自ら又は裁判所の命により訴因の変更又は追加の手続をしない以上裁判
所において不意打的に判決でこれを変更し又は追加することはできないものと解す
べきである。しかし右第三百十二条の趣旨は右のように主として被告人の利益を保
護する点に存するから公訴事実の同一性が保持せられる限り且つ被告人の防禦権を
侵害しない場合には訴因の変更又は追加の手続がなくても裁判所は起訴状に記載さ
れた事実と異なる事実を認定しても差支ない。とれは事件毎に具体的の事情により
決すべき問題であるが、訴因の日時、場所若しくは目的物の数量又は犯罪の段階的
類型、方法的類型等については或る場合には例えば数量の認定が起訴のそれと僅少
の差である場合、既遂の起訴を未遂と認定する場合、若しくは正犯としての起訴を
従犯と認定するような場合には訴因又は追加の手続がなくても裁判所において自由
にこれを変更又は追加することが許されるものと解すべきである。本件公訴事実と
原判示事実とは同一性を有し、しかも公訴が既遂としたものを未遂と認定しても被
告人の防禦権を侵害したものとは解されない。原判決には所論のような違法はな
い。
 (裁判長判事 吉田常次郎 判事 保持道信 判事 鈴木勇)

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